1月2日から30日まで計5回にわたって、『ありがとうSTUDIO COASTフリースタイルモンスター』(AbemaTV)が配信された。1月31日をもって閉館した“聖地”新木場STUDIO COASTを舞台に行われたMCバトル番組である。
前編の記事では5人のチャレンジャー…
1月2日から30日まで計5回にわたって、『ありがとうSTUDIO COASTフリースタイルモンスター』(AbemaTV)が配信された。1月31日をもって閉館した“聖地”新木場STUDIO COASTを舞台に行われたMCバトル番組である。
前編の記事では5人のチャレンジャー…
1月2日から30日まで計5回にわたって、『ありがとうSTUDIO COASTフリースタイルモンスター』(AbemaTV)が配信された。1月31日をもって閉館した“聖地”新木場STUDIO COASTを舞台に行われたMCバトル番組である。
オーガナイザーはZEEBRAで、司会進…
――十数年前、練マザファッカーのボスとしてダウンタウンのバラエティ番組『リンカーン』(TBS系)に出演し、“ディスる”という言葉を一般化させたラッパー、D.O。2018年初夏、大麻とコカインの所持・使用容疑で逮捕されたと報じられたが、実は今秋より服役することになっている。そして、このタイミングでなんと自伝『悪党の詩』(彩図社)を出版した。何かと“自粛”を求められる今、これは前代未聞である。収監直前の本人を、ベストセラー『ルポ 川崎』(小社刊)で知られる音楽ライターの磯部涼氏が直撃した。
東京都練馬区・石神井公園内にある茶屋、豊島屋は大正時代より営業を続けているという。
昼間からここでおでんをつまみにビールを飲みつつ、100年前もたいして変わらないだろう景色を眺めていると、果たして今がいつなのかわからなくなってくる。
しかし、前に座っているD.Oにとっては貴重な時間なのだ。しっかりと話を聞かなくてはならない。公園最寄りの西武鉄道池袋線・石神井公園駅の隣にあたる大泉学園駅がフッド(地元)の彼は、子どもの頃からここに足を運び、今は自分の子どもと頻繁に訪れているそうだ。
一方で、家族を愛する良き父は日本を代表するギャングスタ・ラッパーであり、現在、大麻取締法、麻薬及び向精神薬取締法違反によって懲役3年の収監直前である。
また、彼はこのタイミングで自伝『悪党の詩』(彩図社)を刊行した。彼が歩んできた紆余曲折は同書に詳しいが、自身で解説する口調は明るかった。それはD.Oの人生が、ほかでもないこの国の未来を切り開いていく確信があるからだろう。“悪党”、大いに語る。
――“自伝”というものは人生の何かしらの節目で出すものだと思うのですが、今D.Oさんが置かれている状況はある意味では節目だし、ある意味では渦中だし……。
「なんて言うか……恵まれてるんですかね(笑)」
――ラッパーの自伝を出すタイミングとしてはバッチリだと。
「そうなんですよ。あと、この本の最後のほうに母親ががんで闘病しているという話を書きましたけど、8月に逝きまして。おふくろには『3年いなくなるけど、ちょっと待っててよ』って伝えていたものの、余命宣告もされていたし、正直、難しいかなと思っていました。それが収監前に看取ることができたんです」
――そうだったんですね……。お悔やみ申し上げます。
「だから、期せずして追悼本にもなったわけで、本当に運命的なタイミングで出たなと」
――では、そもそものところから伺います。制作には3年以上かかっているということですが、自伝を出そうと考えたのはなぜだったのでしょうか?
「そこはやっぱり、漢(a.k.a. GAMI/ラッパーで、D.Oが所属するレーベル〈9SARI GROUP〉のオーナー)の影響が強いと思うんですよね」
――漢さんの自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)は2015年6月の刊行以来、ロングセラーとなっていますよね。
「漢から『D.Oもやってみなよ』みたいに勧められたことが、実際に制作に入るきっかけになっているんですけど、その前からやってみたかったし、『オレならこうしたい』『ああしたい』というアイデアもあって」
――『悪党の詩』では、もともと「僕がメイクしてきたヒップホップと漢がやってきたヒップホップは別物だと認識していた」と書かれています。それが、14年に〈9SARI GROUP〉に所属することになるわけですが、“自伝”というフォーマットにしても漢さんとはまた違ったアプローチをしようと考えた?
「もちろん、『ヒップホップ・ドリーム』はお手本にさせてもらいました。でも、やっぱり違いはある。僕は漢に“フリースタイルのチャンピオン”というイメージを持っていて。自然体でヒップホップをメイクしていくスタイルですね。一方、僕は時間をかけてつくり込んでいくスタイル。当然、違うから面白いし、だからこそ2人並んだときに映えるっていう。その違いを本でもちゃんと表現できた自負はありますね」
――そのようにつくり込んだため3年以上かかったのでしょうが、制作期間中の18年5月に逮捕されるというトラブルも起こりました。同年秋に始まった裁判の展開によっては、さらに刊行のタイミングが延びた可能性もあったわけですよね。
「当初は『獄中出版になるのかな』なんて話をしていたんですけど、裁判に時間がかかったのでこっちにいる間に出せることになって、こうやってインタビューも受けられて。でも、本来、こんな案件で最高裁まで持っていくなんて、マジで図々しいんですよ(笑)」
――図々しいというか、あまり前例がなさそうですね。
「僕としても勝てるとは思っていたわけではなくて、控訴したのはその時間を使って、闘病しているおふくろとなるべく一緒にいたい、できることなら看取りたいと考えたからなんです。これまで何もしてこれなかったですからね、親孝行は。心配ばっかりかけてきました。でも、これが普通に活動している時期だったら仕事で地方に行ったり海外に行ったりしなければならないんで、毎日、病院に通うなんてことはできなかったと思うんですよ。だから、逮捕がむしろ親孝行の機会をつくってくれたようなところもあって、それも運命的だなぁって」
――ちなみに、逮捕から収監の間に発表したものは『悪党の詩』以外にもあって、勾留中の18年7月にはミックスCD『悪党 THE MIX』が、その後も漢さんとつくった楽曲「スタンド・バイ・ミー」「7 days war 2 4」といった新曲が出ています。薬物事犯で裁判中のアーティストがこれだけ精力的に活動することも日本では前例がないですし、そのこと自体、今の社会に対するメッセージにもなっていると思うんですよね。音楽家や俳優が捕まると、すぐに作品の公開を止めたり商品を回収する風潮があるわけじゃないですか。それに対して、D.Oさんや電気グルーヴのピエール瀧さんの相方、石野卓球さんが構わず活動を続けることによって、世間の雰囲気は変わりつつあるのかなとも思うんですが。
「電気グルーヴもカッコよかったですよね。でも、根本的に間違ってとらえている人たちばっかりで。何があっても活動を続けることはプレイヤーとして当たり前じゃん、と。もともと、僕は逮捕されると『辞めます』『許してください』みたいな流れになることはおかしいと思っていました」
――ラッパーが捕まることも多いですけど、その騒動の中でイメージが変わってしまう人もいるじゃないですか。
「たくさんいますよね」
――対して、D.Oさんは普段、ラップしていること、話していることと筋が通った態度でいたい。
「そうですね。そこにはこだわりたくて。例えば、最近『全裸監督』(Netflix)がキテるじゃないですか。あれ、この間、全部観たんですよ。何が一番良かったかといったら、やっぱりブレないっていうか。自分の信念、やりたいことを、何が起きても貫くっていうか。逃げない。もちろん、僕もこれまでいろいろなことから学んできたわけですけど、『全裸監督』を観て、改めて目の前の現実から逃げないことが重要だなと」
――『全裸監督』にもエピソードとして出てきますが、村西とおるさんはアメリカで懲役370年を求刑されているし、いまだに前科があることを堂々と語っていますからね。
「すごいなぁ。超リスペクトですよ、あの人。面白い」
――D.Oさんの場合、前回、09年2月の逮捕はエイベックスからいわゆるメジャー・デビュー作『JUST BALLIN’ NOW』がリリースされる直前のタイミングで、結局、同作は発売中止になってしまいました。僕はあのアルバム、日本のラップ・ミュージックのベスト10に入るような名作だと思っているのですが。
「あざーす(笑)」
――あのアルバムではメジャー・レーベルにおける歌詞の規制をむしろお題のように受け取って、上手くかわしたり、あるいはそれまでにはなかった少年の視点で歌った曲を入れたりしていますよね。後者は新曲の「スタンド・バイ・ミー」につながりますが、D.Oさんがギャングスタ・ラップのステレオタイプとは違った、普遍的な才能を持っていることの証左です。
「そこはガキの頃に好きだった音楽への恩返しというか。ブルーハーツだったり尾崎豊だったりにパワーをもらって、その後の人生にもすごい影響を受けて。僕もそういうプレイヤーになりたいし、そういう役目があると思って作ったんですよね」
――自伝で描かれたD.Oさんの少年時代のような、不良と呼ばれ、疎まれてしまう子どもに届けたいという気持ちがあったのでしょうか?
「めちゃくちゃありましたね。それがなければダメだとすら思っていて。やっぱりラップってガキのものだと思うんですよ。だから、僕がガキの頃に衝撃を受けたロックンロールのようなことをラップでやりたい。それは恩返しでありつつ、自分のカルマの洗浄でもあったんですけど」
――ただ、結局、逮捕に伴うレコード会社の自粛によって世に出ず、自伝にはさまざまな事情で今後も発売は難しいと書かれています。
「でも、出ていないから名作だと言ってもらえるようなところもあると思うんですよね。あのアルバムは発売停止になったことまで含めて、ひとつの表現になっているっていうか」
――なるほど。まぁ、普通に出てほしいですけどね。
「『そんぐらい狂ってるんだよ、ヒップホップは!』みたいな。ひとつの悪いお手本にしてもらうのもいいんじゃないかと」
――「名盤といわれてるけど聴けないじゃん」と。
「そうそう(笑)。そのへん、なんか僕らしくもあるなと」
――そもそも、アメリカのヒップホップは背景に貧困があるので犯罪が身近です。同国では近年も若いラッパーが次々に捕まっていますが、ただ、それによって作品が回収されるという話は聞きません。
「アメリカと日本ではシステムも違うからまた転がり方も違って、日本は日本で面白いと思うんですけどね。あと、アメリカに関しては悪影響もあると思います。例えば6ix9ine(破天荒なキャラクターで注目を集めるが、強盗や殺人などにかかわった罪で逮捕された23歳のラッパー)とか、もっとうまくやれたのにって」
――6ix9ineの場合、悪そうなイメージをつけるためにギャングと付き合って、犯罪に巻き込まれていったという話もありますよね。ラップ・ミュージックのステレオタイプが犯罪を再生産するケース。
「一方で、2パック(多くのアーティストに影響を与え続けている伝説的なラッパー)も死ぬまでに確か何十回も逮捕されているんですよ。でも、ブレるなんてこととはかけ離れた感じで。『オレ、これ(音楽)に命かけてっからさ』みたいな姿勢が見える。どの世界にも共通することですけど、そういう姿勢のプレイヤーでなければ頭ひとつ抜けることはできない。本物として認められない。僕もそのひとりでありたいし、そのひとりでなければいけない責任があると思っていて。だから今の状況は、むしろ勉強させてもらっているつもりなんですよね」
――さらに一方では、ジェイ・Zなんかはドラッグ・ディーラーからラッパー、さらにアメリカを代表する実業家になっているわけじゃないですか。その点、D.Oさんは09年の逮捕の後でライフスタイルを変えようと思わなかったのか。もしくは……自伝には逮捕後、イメージを気にするマスメディアでは仕事がしにくくなったというエピソードが出てきますが、つまり逮捕によってライフスタイルを変えられなくなったようなところがあるのか。
「うーん、そうですね……。変えるつもりはなかったのかな。かといって、犯罪を肯定するわけではなくて。ラッパーとしては、ということです。もちろん、生活に関しては変わったところもあると思いますよ」
――ご家族ができたり。
「ええ。ですけど、先ほども言ったようにラッパーとして変えちゃいけない部分というか、貫かなきゃいけない部分があって。それは永遠のテーマかもしれないですね」
――『悪党の詩』には、今回の裁判について「僕は須藤/君塚慈容としてではなく、D.Oというラッパーとして判決を受け止めた。死ぬまでD.Oを貫くつもりだ。取調室でも、法廷でも、獄中でも、シャバに戻ってからも、ラッパーとしての責任をすべて背負って立ち回らないといけない」「その意味では、子どもたちに『“仕事”でいなくなる』と言ったのも、あながち嘘ではない」とありますが、D.Oさんにとって生きることとラッパーであることが不可分だとわかります。だからこそ、収監中も活動休止には当たらない。
「やっぱり、僕のヒップホップはストリート、現実と連動しているものなので。こんなスタイルでずっとやってきたから、檻の中にいるようなヤツらはヘタな有名人なんかよりも、僕のことを知ってるんですよ。護送車に乗ったときも、先にいた全員が『あれ!? あれあれ!?』ってざわついちゃう感じで。テレビに出たりメジャーな仕事もしてきたけど、『結局届いてたのはここか!』みたいな(笑)。でも、そうすると中に入っても悪いことばっかりじゃないんですよね。特別枠みたいな感じでやれる」
――実際のセールスからは見えてこない、局所的な影響力があるんですね。
「紅白に出た歌手がすごいんだとか、武道館で、東京ドームで公演したアーティストがすごいんだとか、そういう風潮っていまだにあるじゃないですか。でもそれって超クソなことで。そんなところ、なんでもないヤツだって仕込み方によってはいくらでも出られて。一方、そういう嘘くさい、詐欺商法みたいなものじゃあストリートで支持は得られない」
――その道のりが楽なものでなかったことは、『悪党の詩』を読むとよくわかります。
「これでもだいぶ抑えているんですよ(笑)。10を語って、1を使わせてもらってる感じ。『さすがに出せないでしょ!』という話ばっかりで。それを削っても十分面白いぐらい激動の半生だったことは間違いないですね。ただ、その上で展開されたプレイヤーの姿こそを見せたいというか。『全裸監督』も2パックもそうでしたよね。誰にだって思い通りにいかないことはあって、そのときにどう立ち振る舞うかっていう美学。そういう意味では、今の状況もまた見せ場なんですよ」
――しかし、自伝のほかにもう一冊、ビジネス書を書けるくらいポジティブ・シンキングですよね。
「ははは! 収監直前ってもうちょっとしょげてるもんですよね。でも、そのへんもヒップホップから学んだことで。大変だけど楽しませてもらおうか、みたいな。まぁ、『悪党の詩』以外にもいろいろと仕込んであるんで、みなさんも楽しみに待っていてください」
D.O(でぃー・おー)
1978年、練馬区出身。練マザファッカーを率いるラッパー。KAMINARI-KAZOKU.のメンバーとして活動を始め、2006年に1stソロ・アルバム『JUST HUSTLIN’ NOW』を発表した。ほかの作品に『ネリル&JO』『THE CITY OF DOGG』などがある。以前のヘア・スタイルは三つ編みを特徴としていたが、現在は坊主頭である。

2015年に出版され、ラッパー自伝のクラシックとなった漢 a.k.a. GAMIの「ヒップホップ・ドリーム」(河出書房新社)。去る7月、同書が文庫化されたが、今回の目玉は増補された『ヒップホップ・ドリーム』の“その後”。晋平太とのビーフ、かつての所属レーベル〈LIBRA〉との法廷闘争、主宰する〈9SARI GROUP)のレーベルメイト・D.Oが大麻取締法違反等で逮捕された事件などなど、さまざまな“リアル・ヒップホップ事情”が赤裸々に語られている。
一方、漢の相棒としてMSCという新宿発のラップ・クルーを率いてきたTABOO1も初のマンガ『イルブロス』(彩図社)を6月に上梓。ドラッグやバイオレンスであふれたアンダーグラウンドな世界でグラフィティを描きながら生きる青年をコミカルに描いた。このマンガの特筆すべき点は、イリーガルな存在であるグラフィティ・ライターの日常に焦点を当てたことだろう。
これらの書籍を発表した2人が、お互いについてがっつり語り合う!
■ダントツで売れたラッパーの自伝
TABOO1 『ヒップホップ・ドリーム』が文庫本になったんだ?
漢 俺としては自分のヒップホップ哲学について語っただけで、あとは単純に面白い本になればいいなと思ってたんだよ。とはいえ、河出書房新社の人間から「ラッパーの自伝としてはダントツの売り上げです」と言われてるんで、その言葉は毎日噛み締めて生きてる(笑)。
TABOO1 よくよく考えると、『ヒップホップ・ドリーム」は普通に実名が出てくるし、内容的にかなり踏み込んでるよな。
漢 そこらへんは編集にうまいこと言いくるめられたのかも(笑)。俺、本当に本を読まないから、自伝ってこういうもんだと思ってたんだよ。でも、赤裸々だからこそ、いろんな人が興味を持ってくれたというのもあると思う。それに、この本を出したことでトラブルになったこともないし。レスポンスは概ねポジティブだね。
TABOO1 文庫版は単行本で出した後に起きたことも追加で書かれてるんだ。
漢 『ヒップホップ・ドリーム』を書いた段階では決着がついてなかったことを中心に追加してる。LIBRAとの裁判結果とか、『フリースタイルダンジョン』で晋平太とバトルしたときの真相とかね。俺としては単なる事後報告。そういえば、TABOO1も前にLIBRAから出したソロ・アルバム『LIFE STYLE MASTA』(2010年)の件で諸々“問い合わせ”してるらしいじゃん。次はそれをマンガに描けばいいんじゃない?
TABOO1 いやぁ、その話は描いてて楽しくなさそうだからな……。
漢 まぁ、楽しいことは大事だよな。『ヒップホップ・ドリーム』も基本的には楽しんで読んでもらいたいし。俺としては、読者はあの本から自分にとってプラスになることだけを吸収してもらえれば、うれしいね。
■違法なグラフィティ界の事情をマンガに描けた理由
漢 TABOO1がマンガを描いたというと、ヘッズ(ヒップホップ・ファン)の中には突拍子もなく感じる人もいるだろうけど、こいつはラップを始める前から絵を描いてた。だから俺からすれば、『イルブロス』はすごく自然な作品。
TABOO1 うん。俺は昔から絵を描くのが大好きだったから。グラフィティもその流れで始めたし。ただ、グラフィティはいつでもどこでも自由に描けるもんじゃない。だから、自分の表現方法としてマンガを描けるようになりたかった。でも完全に独学だったから、マンガを描くために必要な最低限の技法を習得するのにものすごく時間がかかってしまった。ようやく形になったって感じ。
漢 これってストーリーは編集の人の意見も入ってるの?
TABOO1 基本的には俺が考えてるけど、起承転結の作り方は結構アドバイスしてもらった。まとめ方というか。最初はもっといろんな小話があったんだよね。けど、それだと散漫になって読みづらいから、グラフィティ・ライターの“TAM”とラッパーの“KONG”の話にフォーカスを当てたほうがいいとか、そういうことを教えてもらった。
漢 グラフィティってみんな街で何気なく見てると思うけど、普通の人はどういう人間が描いてるかはほとんど知らないはず。『イルブロス』には、そのへんが描かれてるのが面白い。ちなみに、俺はグラフィティ界隈の事情はよく知らないけど、こういうのって描いちゃってもいいものなの?
TABOO1 まぁ、このマンガはフィクションだからね。具体的な名前も場所も出てこないし。
漢 だけど、オープニングとか超生々しいじゃん。セフレっぽい女が帰るまで寝たふりするのとか、完全にお前の日常だろ?
TABOO1 なんか勘違いしてるようだけど(笑)、主人公のTAMは俺自身じゃないよ。
漢 そうなんだ? 俺は普通にお前だと思って読んでたわ。俺から見たお前は、こういう感じ。セフレが帰った途端に起きて、「あの女……、片付けくらいしとけっつーの」ってセリフとか超お前っぽいし。あと、ウケるのはTABOO1のヒーロー願望がちょいちょい垣間見られること。TAMが女の子をかばって刺されるとか。お前との付き合いは相当長いけど、これまでのお前にヒーロー的な要素を感じたことは一度もない。
TABOO1 フィクションだから(笑)。全体的に自分が好きな映画やマンガの影響が出てると思う。7話目の「Looking for job and …」に関しては、ソロ・アルバム『LIFE STYLE MASTA』に入ってる曲「ILL BROS feat. MC漢」のPV(12年)からの流れもあるんだよ。
漢 あのPVのアニメはTABOO1が描いたもんな。確かに、4話目の「Behind the Shinjuku city」に出てくる警官もPVに出てた。『イルブロス』を読むと、あのPVの前後のストーリーもわかるってわけね。じゃあ極端な話、PVを作ってた当時の段階から今回のマンガのイメージが頭のどこかにあった?
TABOO1 そうね。ちなみに、TAMが刺されるシーンは、さっき漢が話したオープニングとつながってるんだよ。つまり、セフレにヒドい態度をとった因果応報っていうかさ。そのTAMがホレた女も実は……。
漢 あの流れは、新宿区ならではのボーイズ・トークって感じだった。
■漢に無断でILL BROSのフィギュアが作られた!?
漢 『イルブロス』は内容的に『ヒップホップ・ドリーム』とちょいちょい被ってるところもあるけど、これは便乗商法を狙ってるという認識でOKなのかな?
TABOO1 ……全然狙ってないから! 『イルブロス』はフィクションだけど、俺の自伝的要素もあるから、似た話が出てくるのは当然でしょ。でも、俺は漢みたいに赤裸々には描けないよ。KONGがテレビに出て活躍してるのをTAMが見てるシーンとかさ。文章だと生々しいというか、エモすぎちゃうというか。ああいうのはフィクションだから成立したと思う。
漢 確かにTABOO1のタッチで、いろんなことがかなりマイルドになってるよな。あのシーンは俺も読んで「こんなふうに感じてたんだ」と思ったし。それと、3話目の「wanna be a rapstar!」は懐かしかったね。TAMがラップにのめり込んでいくスピード感は、当時のTABOO1の雰囲気そのものだった。マンガの後半で「TAM」がアートの世界に興味を示していく流れとかも。
TABOO1 そうだね。漢がラップでがんばってるとき、俺はフィギュア作りの勉強してたから。工場に発注するんじゃくて、ゼロから自分で作るにはどうしたらいいか……みたいな試行錯誤をしてた。
漢 ラッパーとしてのTABOO1しか知らない人は、近年は全然活動してないように見えたかもしれないけど、実はこいつは音楽以外で自分の方向に進んでたってわけ。そういえば、何年か前にTABOO1の家に遊びに行ったとき、フィギュア作りの機材と格闘してたよな。で、せっかく遊びに来た俺への対応が、ものすごく雑だったのをよく覚えてる。「なんて意地悪なヤツなんだ」と思って……。
TABOO1 あぁ、あのときは確かにものすごく機嫌が悪かった。ヤフオクで機械を買ったら、不良品が届いたんだよ。普通に買うと30万円くらいするヤツが6万円で出品されてて、それでも高いけどフィギュア作りに必要なので落札したら、30キロくらいのヘンな鉛の塊が送られてきて……。漢が来たのは、まさにその鉛の塊を見て途方に暮れてたとき。「何やってんだ?」とか言われた覚えがある(笑)。とにかく、ここ数年はずっとそういう感じだった。基本的に部屋に閉じこもって、フィギュア作りとかマンガの作業とかをしてたね。髪もボサボサに伸びて、いろんなことが収拾つかなくなってた。
漢 本当に自分を見失ってるんじゃないかと思ったもん。俺らっていつも事後報告だよな。お互い、形になるまで言わないことが多い。あのときもTABOO1が何やってるか知らなかった。マンガの作業が済んでからは、いつもの坊主頭に戻って優しくなったけど(笑)。
TABOO1 最近の俺はほとんど職人だね。『イルブロス』の表紙は、覆面を被ったTAMとKONGだけど、あれは俺が昔から描いてる“ILL BROS”というキャラでもある。去年は手作りでILL BROSのフィギュアを400個作った。着色も一個ずつ全部自分でやってね。俺はおもちゃ作りとかマンガとかサブカルチャーが大好きだから、こっちの道で生きていきたいんだ。
漢 でも、せっかくこのマンガが出たから、俺とお前とのユニットであるILL BROS名義の曲を出さないと。制作がストップしてたものがあるから、今2人で取りかかってる最中だよな。遅くとも年内には出したい。
TABOO1 あと、俺は表紙に出てる“ILL DOG”のフィギュアを作る予定。
漢 しかし冷静に考えてみると、ILL BROSのKONGのモデルは俺だろ? 俺になんの断りもなく商売しやがって……。今後はちゃんと権利を主張していくからな!
TABOO1 別に“漢 a.k.a. GAMI”のキャラクターを作ってるわけじゃないから! KONGは俺の創作であって……。
漢 本当に巧妙なやり口だ(笑)。それはともかく、俺らはいつもこんな感じ。MSCを結成したのはもう20年近く前だけど、あの頃、こういう形でヒップホップを続けてるとは思ってもみなかったな。
※撮影/西村満
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