先月30日に放送されたドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)の第8話、視聴率は8.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と再びダウン。ロマンティックなビッグ・ラブを求める層からは完全に見放されたようです。
何しろ、6話から登場した小池徹平の存在が重いし、ウザいのよね。特に、ステキな恋愛劇に没頭してニヨニヨしようと真剣に見ていた方面からすると、もうジャマでジャマでしょうがないと思う。急にサイコホラーですからね。
けっこう珍しいな、と思うんです。難病を扱うフィクションで、その患者さんを「迷惑な存在」「主人公たちに危害を加える存在」として描く作品というのは。
たいてい物語の中で病人や精神障害者というのは、不幸な境遇と引き換えに「でも心は美しい」とか「純粋なんだよ」みたいな感じで登場するのが定番ですが、今回、主人公の尚ちゃん(戸田恵梨香)と同じMCI(軽度認知障害)患者として登場した松尾(小池)は、それこそ視聴者離れを起こすほどに嫌な、不快で邪魔な存在として描かれました。
今回はそんな松尾が尚ちゃんと真司くん(ムロツヨシ)夫婦をひっかき回し、ドラマから一時退場するまでが描かれました。振り返りましょう。
(前回までのレビューはこちらから)
■おぅ、なかなか破壊力のあるセリフを……
真司くんとの子どもを作る決心をした尚ちゃん。食卓には特大肝入りの肝吸いを添えた鰻重を並べ、基礎体温チェックにも余念なし。さすが、産科医だけあって“子作り”に関しては知識も情熱も常人並みではありません。
ベッドの方でも情熱的なようで、事後には「今日、密度濃かったから……」と、なかなかに破壊力(エロ方面)のあるセリフを聞かせてくれます。もちろん、真司くんもデレデレです。
一方、MCIからアルツハイマー病になった尚ちゃんの病状は、進行の一途をたどっています。部屋中に物忘れ防止用の付箋が貼り付けられ、梅干しおにぎりを作ったつもりも梅干しを入れ忘れ、もちろんベッドでの真司くんとのピロートークも、翌朝になればキレイさっぱり忘れています。
そんな尚ちゃんの心のスキに付け込もうとしているのが、自称“唯一のMCI理解者”松尾です。いつの間にか尚ちゃんを「尚」とか呼び出すし、「僕らは健康な人と対等じゃいられないんだよね……」など、遠い目で共感を求めてきたり。あげく「死ねば、永遠にきれいなままでいられるんだ……」と無理心中まで示唆してきます。
ここまで、松尾の目的は、いかにも不明瞭でした。同じ病気の尚ちゃんと出会って、驚かせて失神させて、尚ちゃんの病気が進行したら喜んで、意識のない尚ちゃんにキスしたり、旦那である真司を無駄に煽ったりしていましたが、「で、何がしたいねん」の部分はよくわからなかった。それが松尾という人物の不快な印象に拍車をかけていたわけですが、今回、はっきりと語られました。
一緒に死にたかったんですね。死ねば永遠だから、美しいままでいられるから、同じ病気の人と死にたい。
そんな松尾に対し、すでに真司くんや尚ちゃんママ(草刈民代)、主治医・井原先生(松岡昌宏)は“危険人物”として警戒を強めていますが、尚ちゃん本人はいたって無防備。それどころか、松尾の「対等じゃない」という言葉がやけに心に残ってしまい、それが原因で真司とケンカになったりします。そんなこと言われたの、忘れちゃえばいいのに、いろいろ大切なことは忘れても、こういうのは憶えてるところが病気の難儀で。
家を飛び出した尚ちゃん、夜の街をひとり見下ろしながらポロポロと涙を流していると、クルマで尾行してきた松尾が睡眠薬をしこたま溶かしたコーヒーを手渡し、車内に誘います。
真司くんは姿を消した尚ちゃんに電話をかけますが、尚ちゃんのスマホはなぜか冷蔵庫の中で呼び出し音を鳴らすばかり。それを手に取って夜の街に駆け出すと、2人の思い出の橋に差し掛かったころに「松尾さん」からコールが。
「ははははははは真司だー」
今日一番のサイコっぷりを見せた松尾。真司くんを呼び出すと、
「尚は別の世界に行ったよ(逝ったよ)」
「あんたにとって尚ちゃんは小説の道具だろ」
「あんたは尚を利用して自己実現してるだけだよ」
「観察すればいい、僕たちの純愛を書けよ美しく永遠になっていく結末まで、あんたが書けよ、書けよ!」
肝心の尚ちゃんは松尾カーの助手席で気を失っていたようでしたが、実はコーヒーを飲んでおらず、正気でした。「死にたい」とか言ってた松尾を、それなりに警戒していたようです。
思わぬ“裏切り”にショックを受ける松尾を、なんかわりと正論ぽい言葉で諭した尚ちゃん。松尾もなんかわりとあっさり納得して、どこかへ行ってしまいました。
そんなわけで、その日も子作りに励む真司くんと尚ちゃんでした。今夜放送の第9話では、いよいよ出産するようです。
■“本質”は描き切れたか
先日、戸田さんが番組のインスタライブで、「7・8話あたりを見ないとアルツハイマーの本質は見えないし、最終回が成り立たない」といった発言をしていました。最終回にも松尾は登場しますので、松尾の存在こそがこの作品の本質ということのようです。
展開そのままに解釈すれば、その本質とは「記憶を失うことがつらい」ではなく「病気により周囲の理解を失う」「孤独になる」ことのほうがつらいのだということでしょう。
実際、松尾の振る舞いはほとんど理解不能でしたし、自ら理解を拒み、孤独を志向する様子がありました。病人という立場からの「病人は小説の道具だろうが」という正論は真司くんを打ちのめしましたし、何をやっても「ボク、病気なんで憶えてないです」と病気を利用する姑息さも描かれました。
例えば、渡辺謙がアルツハイマー患者を演じた映画『明日の記憶』(2006)では、ほとんど記憶を失った主人公の周囲に「それでも寄り添ってくれる家族がいる」という事実が救いとして語られています。一方で今回の松尾には、どうにも救いがなさそうで、その救いのなさこそがドラマに得も言われぬスリルを生み出していたんですが、なんだかヌルッと退場させたな、というのが素直な印象でした。「MCIだかWaTだか知らんが地獄に堕ちろクズが!」と視聴者に思わせる展開を作ったわりに、さほど説得力を感じない説得によって、松尾は尚ちゃんのことをあきらめちゃった。
このへん、最終回に向けての伏線もあるのでしょうけれど、松尾メインで見ていただけに物足りなく感じたのが正直なところです。
■それにしても脂の乗り切ったムロ&戸田コンビ
ムロさんと戸田さんの演技合戦は、あいかわらず充実しています。たぶん、演出部の要求以上のことをしていると思う。今回印象に残ったのは、真司くんの小説『脳みそとアップルパイ』の続編のタイトルについてのやりとりです。
真司くんは、続編のタイトルについて「決まったら最初に尚ちゃんに相談する」と約束していました。そしてベッドの上で、「『もう一度第1章から』って、どう思う?」と、約束通り尋ねました。
「すごくいいと思う!」
大喜びの尚ちゃん。真司くんが「ホント?」と聞き直すと、もちろん「うん」と。
でも、この「うん」の発声が、ちょっとボヤけてるんです。ちょっとだけ引っかかる程度にボヤけてる。見逃してもいいくらいのボヤけ。
その後、尚ちゃんはそのことを忘れてしまい、2人はケンカになります。ここで「ホント?」「うん」のちょいボヤけが、完全に伏線として機能しました。あー計算してた! みたいな。
「続編のタイトルだって、最初にあたしに教えてほしかったのに!」
「言ったよ!」
「聞いてない!」
癇癪を起した尚ちゃん。ここでの真司くんの一瞬の表情がすごかったんだ。
「言ったじゃねえかよバカ野郎! なんで憶えてねえんだよ!(ブチ切れ)」→「憶えてねえのか、そうか、病気か、病気だった(思い出し)」→「だからって、こんな大切なことまで忘れることねえだろ!(蒸し返し)」→「しかも自分が忘れてるくせに人のせいにしやがって!(激昂)」→「でも病気なんだ、しょうがないんだ(思い直し)」→「なんで尚ちゃんにだけ、自分たちにだけこんな悲劇がのしかかるんだ(悲しみ)」→「それでも生きていこう。2人で。俺がしっかりしなきゃ(決意)」
くらいの感情の流れを1拍の中に納めてからの「言ったって……」という返し。まあそこまで具体的じゃないけど、そういうことを表現したこのときのムロツヨシの顔面動作は、すさまじかったです。ちょっと見てて泣いちゃうくらい。何しろ2人のお芝居が達者なので、単純に楽しいです。
あと、今のところどう機能していくのかまったくわからない松岡昌宏と草刈民代のベッタベタな『黄昏流星群』的関係も、行く末が楽しみです。はい。今日を含めて、あと2話だって。
(文=どらまっ子AKIちゃん)