7月12日より、ドラマ『Iターン』(テレビ東京系)がスタートした。事前に公開されたイメージショットに写るは、主役のムロツヨシ、そして古田新太と田中圭だ。昨年は『大恋愛』(TBS系)で精神的イケメンを演じていたムロ、6月まで女装姿で「おつかレインボー!」と言っていた古田、そしてハイスペックなおっさんたちにモテまくっていた田中が、今までとまったく違う顔を見せてくれる今作。前クールの同じ枠で放送されていた『きのう何食べた?』(テレビ東京系)に続き、ムチャクチャ豪華な出演者たちである。
第1話あらすじ 広告マンなのに極道になるムロツヨシ
広告代理店の営業マン・狛江光雄(ムロツヨシ)は、自分の悪口を言ったという理由で部長から最果ての阿修羅支店へ左遷を命じられる。狛江はその話を断れず、妻と娘を残し単身赴任することに。
支店を立て直そうと、部下と取引先を回る狛江。すると、早々にドラゴンファイナンスという会社からチラシ制作の依頼が舞い込んだ。翌日、土沼印刷を訪ねた狛江は会社の様子を見て「私の求めるクオリティは期待できない」と、同社に今回が最後の仕事だと通告した。
しばらくしてドラゴンファイナンスから呼び出された狛江は、社長の竜崎剣司(田中圭)からチラシの電話番号の誤植で店の売上が落ちたと責められ、500万円の賠償金を要求された。ドラゴンファイナンスとは表向きの顔で、正体は竜崎が組長を務める暴力団・竜崎組だった。誤植は、仕事を切られた腹いせに土沼建設の社長・土沼昭吉(笹野高史)がわざと行ったものだった。
そこに、岩切組の組長・岩切猛(古田新太)が怒鳴り込んできた。誤植でチラシに載せられた電話番号は、岩切組が経営するテリヘル店の番号だった。竜崎に捕まる狛江に岩切は無理やり酒を飲ませ、「兄弟盃を交わした。こいつはワシの舎弟や」と狛江を連れ去った。
岩切組に拉致された狛江は2階の窓から逆さ吊りにされ、迷惑料500万円と上納金月々5万円を約束させられる。こうしてサラリーマンでありながら、岩切組の組員になったのだった。
『Iターン』は2010年に福澤徹三が発表した同名小説が原作。今回のドラマ化に際し、アレンジを加えているところもあれば、元の設定をそのまま生かしている箇所もある。
まず、阿修羅市行きの飛行機内で起こった出来事。身なりの良いビジネスマンを見て、みすぼらしい自分の靴を隠すなど、ムロは萎縮する。このビジネスマンが隣の席に座るや、2人の間で肘掛けの取り合いが勃発した。結果、あっさり敗北するムロからは腰の弱さが窺える。阿修羅市に到着すると、すれ違うのは危なそうな通行人ばかり。そんな人たちから話しかけられても、目も合わせず足早にムロは通り過ぎる。
そんな彼の態度が一変したのは、道端でシンナーを吸っている女性2人組を見た時だ。うんこ座りする彼女たちを凝視し、説教しようとさえする。「こっち来いよ!」と挑発されたら、言われた通りに接近し始める強気ぶり。阿修羅支店では、有能に思われようと部下に虚勢を張り続ける。下手に出る印刷会社には、あっさり三行半を突き付けた。
狛江はそういう奴なのだ。人によって態度を変える。強い者の前ではおとなしく、弱い立場の人間には威圧的。この男の弱さとずるさを表すためには、実は伏線でもなんでもない肘掛けのくだりを原作通り忠実に再現する必要があった。
この物語は、ムロが古田と田中の板挟みに合う形で展開する。両者ともにヤクザだ。だから、この先ずっとムロは及び腰である。だが、いつの間にかサラリーマンらしからぬ大胆さが芽生え、緩やかなキャラ変が行われていくから期待してほしい(原作通りに進むならば)。そういえば、このドラマのエンディングはムロと古田が海岸で仲良く犬の散歩をしている映像だった。
ところどころ、他局のヒットドラマのオマージュをぶっ込んでいるのが面白い。
ドラゴンファイナンスに初めて訪問した際、ムロは部下の渡辺大知と一緒だった。ムロが建物に入ろうとすると、渡辺は「定時なんで」と自分だけ仕事を上がった。完全に、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)を意識した流れである。
また、岩切組に連れ去られたムロは、カメラ目線で視聴者にこんなことを訴えた。
「皆さん、違うんですよ! このハードなドラマの展開、違うんですよ! これは、僕が中年の危機を乗り越える感動の物語なんですよー!」
ムロの長ゼリフは、TBS日曜21時台でおなじみの池井戸潤作品のコンセプトそのままだ。あの世界観をパロディするムロ。この構図って、まさしく『LIFE!~人生に捧げるコント~』(NHK)だろう。内村光良と『集団左遷!!』(TBS系)のコントを演じるムロを、本人がオマージュしているみたいである。
あと、田中がムロに言った「俺は優しいほうだぞ?」のセリフ。原作通りのキャラ設定なら、この男が優しくないのは明らかだ。「優しいほうだぞ?」に間髪入れず、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)ばりに「んなわけねえだろっつうの」と突っ込みたくなってしまった。
これらの気になるフックを散りばめつつ、初回の内容は様子見といったところだった。実写版『Iターン』についての評価は次回以降に持ち越しだ。
(文=寺西ジャジューカ)