『Iターン』長すぎた膠着がようやく大爆発! ”覚悟”と”誤植”で救世主になったムロツヨシ

 9月13日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第10話。これまでの2カ月強、ほとんどストーリーに進展のなかったこのドラマの溜めが一気に爆発した第10話だった。待たされ続けただけにカタルシスは大きいが、いくらなんでも膠着が長い!

第10話あらすじ 「覚悟って、もともとあるのではなく自分で作るものよ」

 岩切組に警察のガサ入れが入る。しかし、事務所から拳銃は見つからなかった。竜崎剣司(田中圭)は狛江光雄(ムロツヨシ)に「エス(スパイ)を続けてチャカの隠し場所を探れ」と命じる。狛江は抵抗したが「お前がスパイだとバラしてもいいのか?」と脅され、泣く泣くスパイを続けることに。

 宣告社の阿修羅支店でうなだれている狛江。心配した柳直樹(渡辺大知)と吉村美月(鈴木愛理)が話しかけると、狛江はいきなり頭を下げ、1カ月後の阿修羅支店閉鎖が決まった旨を発表した。

 その夜、スナック「来夢来都」を訪れた狛江を、ママの麗香(黒木瞳)が占った。狛江が引いたのは「戦車」のカード。これは「行動力」を意味している。

「うだうだ考えるより動いちゃえってこと! 覚悟ってさ、もともとあるんじゃなくて自分で作るものよ」(麗香)

 麗華の言葉で覚悟を決めた狛江は、岩切組の事務所に直行。桜井勇一(毎熊克哉)の救出に向かおうとする西尾誠次(塚原大助)に「僕も行きます。このままじゃ、堅気に戻れないです」と訴えた。チワワの昌三さんを抱えた狛江は、西尾たちの後を追った。

 街外れの倉庫にたどり着いた西尾たち。でも、この中のどこに桜井がいるかわからない。すると、昌三さんが嗅覚を頼りに桜井の居場所を突き止める。あとは突入して桜井を救い出すだけ。

 このとき、狛江は留置所にいる岩切猛(古田新太)のことがよぎった。桜井の身を案じる岩切が自白する前に、桜井の無事を岩切に伝える必要がある。狛江が思い付いたのは、翌日の新聞広告を修正して、岩切だけがわかるメッセージを掲載するという策だった。土沼印刷に急いだ狛江は「季節外れの桜が無事入荷しました! 1階 岩切生花店」という広告を作り、岩切に桜井の無事を伝えた。

 メッセージに気付いた岩切は自供せずに取り調べを乗り切り、留置所から釈放される。組長を出迎える岩切組の組員たち。ここで狛江は裏切ってしまったことを岩切に詫びようとするが、岩切は「何も言わんでええ。お前はわしの舎弟やないか」と一言。狛江がエスとして動いていたことを、岩切はお見通しだったのだ。岩切は「カチコミに行くぞ!」と舎弟たちに呼びかけ、全員で竜崎組の事務所に向かった。

 今回のテーマは「覚悟」だ。弱腰の姿勢ゆえ周囲に振り回され続けてきたムロが、いよいよ覚醒する。

 序盤のムロは情けない顔をしていた。古田が逮捕されたのに、まだスパイ行為を命じてくる田中にムロは質問する。

ムロ「なぜ、僕だけこんなひどい目に遭わなきゃいけないんでしょうか!?」

田中「お前には覚悟がねえからさ。身内を売るくらいなら死ぬっていう覚悟だ。そういう奴は骨の髄までしゃぶられるんだ」

 サラリーマンと極道、2足のわらじを履くムロ。サラリーマン稼業のほうも絶不調で、上司の高峰博之(相島一之)から阿修羅支店の閉鎖を言い渡された。その夜、ムロは黒木に占ってもらう。

「うだうだ考えるより動いちゃえってこと! 覚悟ってさ、もともとあるんじゃなくて自分で作るものよ」(黒木)

 ムロの周囲には覚悟を持つ者が大勢いる。竜崎組に捕らわれた毎熊は折檻を受けながら「オヤジの邪魔になるくらいだったら、死んだほうがマシじゃあ!」と言い放った。塚原は自身の命と引換えに毎熊を救い出そうと決意し、ムロに対しては「叔父貴には堅気に戻ってほしいです」と諭した。

 ムロもいよいよ覚悟を決めた。目つきと顔つきがあからさまに変わっている。

「僕も何かできることがしたいんです。このままじゃ堅気に戻れないです」(ムロ)

『Iターン』も今回が10話である。2カ月以上経過したが、今までほとんどストーリーは進まなかった。はっきり言って、つらそうなムロを見続けた記憶しかない。

 物語は、ここにきていきなり動きだす。わかりやすく言うと、伏線がドンドン回収されていったのだ。毎熊が大事にしていた折り鶴を懐に入れていたムロに昌三さんは近づき、折り鶴から毎熊の体臭を確認。嗅覚で毎熊の居場所を突き止めた。となれば、毎熊の無事を留置所の古田に伝えなければならない。警察は拳銃の隠し場所の自白を、毎熊解放との交換条件に提示しているからだ。ムロが思い付いたのは、新聞広告をわざと誤植して毎熊の無事を古田に伝えるという策だった。

 ムロがヤクザに付け込まれたきっかけは広告の誤植である。そして、今度は誤植でヤクザを窮地から救おうとしている。「ムロは広告屋」→「誤植の経験がある」→「毎朝、古田はくまなく新聞を読む」という伏線が10話で一気に回収された。(長い溜めだった……)

 阿修羅支店閉鎖を告げる際、ムロは今までの人生を部下に語った。

「僕は45年間、いろんなことを諦めてきた。一流の大学をあきらめ、一流の企業をあきらめ、この会社の出世もあきらめた。僕の人生、あきらめてばかりだ」(ムロ)

 しかし今回、ムロは諦めなかった。だからこそ、古田の奪還に成功したのだ。

 留置場から出てきた古田にムロは詫びようとする。

「何も言わんでええ。お前はわしの舎弟やないか」(古田)

 エスをやめようとするムロに、田中は「バラしてもいいのか?」という脅しを入れた。でも、そんなの無駄だった。古田はとっくに気付いていたのだから。

 ラストシーンは岩切組全員の後ろ姿。少し遅れてムロが追いかけると、「叔父貴、どうぞ!」と言わんばかりに毎熊がムロを古田の隣に誘導する。「堅気に戻ってほしい」と言われたムロが覚悟を認められ、本当の意味で同じ組員と認められた。そういえば初回、阿修羅支店に転勤するムロの見送りに来る同僚は皆無だった。

 停滞していたストーリーは10話で一気に動き出した。長すぎた膠着の後のカタルシスは大きい。このドラマで、まさか感動するとは……。原作小説の内容を参考にすると、さらにここから大きな盛り上がりがあるはずだ。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』第9話、ムロツヨシと黒木瞳が体現する社畜と自営業の悲哀

 9月6日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第9話。今回、狛江光雄(ムロツヨシ)が体現したのは社畜のつらさ、麗香(黒木瞳)が表現したのはひとりで生きる者(自営業者)のつらさだったように思う。

第9話あらすじ 田中圭と黒木瞳の罠にはまるムロツヨシ

 岩切猛(古田新太)の強引な手段で、青葉銀行の広告をすべて受注することになった狛江。しかし、脅迫という非合法な手段で獲得した仕事なだけに、狛江は喜べずにいた。

 その後、狛江が岩切組に向かうと、岩切(古田新太)らは中国人との取引に向かう模様。狛江は罪悪感に苛まれながら竜崎組の竜崎剣司(田中圭)に電話し、今夜取引が行われると報告した。

 岩切組事務所で、内職の折り鶴を作りながら狛江が当番をしていると、スナック来夢来都のママ・麗香から「店で酔った客が暴れているからすぐ来てほしい」と連絡が入った。狛江と桜井勇一(毎熊克哉)は店に直行。到着すると、店内にはフリーランスを名乗る見覚えのない男がひとり立っていた。さらに振り返ると、竜崎組の神野晃(般若)が拳銃をこちらに向けている。呼び出しは竜崎組と麗華が結託した罠だったのだ。

 隙を見て桜井は神野に飛びつき、狛江を除く3人が揉み合いに。そんな中、拳銃が暴発し、フリーランスの男が腹部からおびただしい血を流して悶え出した。桜井は神野を足止めしながら、狛江に岩切へ連絡するよう指示。岩切が店に駆けつけると、そこに桜井はおらず、竜崎が岩切を待ち構えていた。竜崎は「桜井を返してほしければ、警察に中国人との取引について自供しろ」と迫る。岩切は店の外に待機していた刑事の城島豊(河原雅彦)に自首をした。

 翌日、宣告社の阿修羅支店で、上司の高峰博之(相島一之)と狛江らによるテレビ会議が行われる。そこで高峰は、阿修羅支店の社員らには残業代もボーナスも支払われないことを通告。狛江の部下・柳直樹(渡辺大知)と吉村美月(鈴木愛理)は絶望した。

 一方、竜崎組の事務所には外国人極道の姿が。この男は竜崎に「これでこの街は俺たち2人のものだ、兄弟」と言葉を掛けた。その頃、岩切は鉄格子の中で隅から隅まで新聞に目を通していた。

 今回描かれたのは働く者の悲哀だ。青葉銀行の広告受注が取れ、売上を大幅に伸ばした阿修羅支店の面々に対し、相島はボーナスを出さないと通告した。その理由は、本社の業績が芳しくないから。

 渡辺はこれに反抗する。

「本社の業績が悪いのは、部長たち、お偉いさんたちのせいでしょ!? その責任を末端の俺らに押し付けて、トカゲの尻尾切りですか!」

「サラリーマンって、どんなに理不尽でも我慢しなきゃいけないんですね」

 そもそもの話、阿修羅市のような場所に支店を出した本社の読みが甘すぎる。あんなに無気力だった渡辺もやる気を出して成長したというのに……。

ムロ「どうすることもできないんです……。これが社畜です、すみません」

 岩切組を1つの会社と捉えれば、極道なのに和気あいあいと内職に励む組員らは愛社精神にあふれている。久しぶりに鶴がうまく折れたと喜ぶ毎熊は特にだ。そんな毎熊が竜崎組に捕らえられた。古田は毎熊を救うため、警察に自首した。

古田「桜井はワシの子や。このまま見殺しにできるかい」

 岩切組には、上司と部下の間に理想的な縦関係がある。入る会社によって上司に憎しみを覚える場合もあれば、身を粉にして自らを捧げるケースもあるのだ。

 毎熊と般若が揉み合う中、発砲事件が起きた。そういえば、8話では青葉銀行支店長・瀬戸川達郎(手塚とおる)を脅すため、一芝居打った偽の発砲事件が起こっている。あれは、岩切組が全員一丸になってやり切ったミッションだ。

 働く者には、会社員もいるし個人事業主もいる。8話で田中は般若にこんな指示を出していた。

「死んでもいい兵隊をひとり用意しろ」

 今回、来夢来都にはひとりの見知らぬ男が待っていた。

毎熊「あんた、どこの身内?」

男「俺はどこの身内でもねえよ。フリーランスだよ」

 揉み合いの中で撃たれたのはこの男である。田中は始めから誰かひとりが撃たれると計算していた。その役割として、フリーランスの男が雇われたということ。

 黒木はクラブ「来夢来都」を営む自営業者である。彼女は岩切組を裏切った。四面楚歌のムロが黒木に裏切られたショックは大きい。でも、黒木は黒木で田中の要求を飲まないと店が立ち退きに遭うつらい立場にいた。

田中「あんたが岩切裏切るなんてな」

黒木「なんとでも言わんね。男だけが守るもの持ってると思ったら、大間違いよ」

 ムロはムロで、竜崎組のスパイとして古田に不義理をしている。働く者の悲哀は誰にだってある。ムロも黒木も自分を守るために人を裏切った。社畜もフリーランスも、どちらもつらい。

 今回、チワワの昌三さんの出番が多かった気がする。大きな目をウルウルさせる昌三さんはかわいい。自分の立場に絶望するムロと昌三さんは目の潤み方が同じなのに、両者から受ける印象はあまりにも違った。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』ヤクザらしくない古田新太の真っ当な訓示で、ムロツヨシが覚醒?

8月30日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第8話。古田新太がムロツヨシに言い放った「もっと死ぬ気で人生生きたらんかい!」の檄は、ヤクザらしからぬ真っ当なメッセージではなかっただろうか。

 

第8話あらすじ 「だから、社畜は甘いんや!」

 スナック来夢来都のママ・麗香(黒木瞳)から酒に薬を盛られた狛江光雄(ムロツヨシ)は、岩切組の桜井勇一(毎熊克哉)と西尾誠次(塚原大助)に車へ乗せられ、埠頭に移送される。そこには、岩切猛(古田新太)と中国マフィアの陳が待ち受けていた。岩切は「体で金を返してもらう」と、海に落ちれば3分で凍え死ぬベーリング海峡行きのカニ漁船に乗るよう狛江に脅しをかけてきた。狛江は青葉銀行の仕事が取れたから、今よりもキックバックが増えると岩切を説得。狛江は開放された。しかし翌日、青葉銀行支店長の瀬戸川達郎(手塚とおる)が発注してきたのは、無料配布のポケットティッシュ広告だった。

 その後、青葉銀行との件がダメだったと岩切に報告した狛江は、再び拉致られてしまう。すると、その車中にはすでに縛られた瀬戸川支店長が乗せられていた。車が山奥に到着すると、その場所には人が入るくらいの大きな穴が2つ掘られていた。岩切はまず、「おどれ、スパイやろ? 裏切りもんが、ブチ殺したる!」と狛江に銃口を向ける。すると、狛江のうしろにいた西尾が「許してください!」と土下座。岩切が迫っていたのは狛江ではなく西尾で、命乞いも聞かずに岩切は発砲。西尾は即死した。

 続いて、岩切は「ワシの舎弟に仕事やる言うてシカトしたそうじゃのう」と瀬戸川を責める。穴に落とされた瀬戸川は、命乞いしながら青葉銀行の広告をすべて狛江に回すことを約束。最後に岩切は狛江に「だから社畜は甘いんや! もっと死ぬ気で生きたらんかい!!」と言葉を掛けた。

 岩切組で目覚めた狛江は、みんなで食事をとった。すると、隣には死んだはずの西尾が。先ほどの銃殺は、瀬戸川を脅すために血のりを使って一芝居打ったものだったのだ。

 一方、竜崎剣司(田中圭)は青葉銀行の資金が岩切組に流れていると報告を受ける。竜崎は麗香に電話し協力を仰ぐも、麗香は「私はどっちにも加担しない」と拒否。すると、竜崎は駅前再開発で来夢来都に立ち退きをかけることをチラつかせ、「あの店をどうするかはアンタ次第だ」と、あらためて麗香に決断を迫った。

 最近、古田を慕い始めているムロ。黒木はそんなムロの認識を否定する。

ムロ「岩切組長は確かに怖い。怖いんですけど、ある意味人間的な感じがします」

黒木「人間的? 極道が!? ハァ~ッ。馬鹿言っちゃダメよ」

 その通り。今回のムロは極道の流儀の餌食になってヒィーヒィー言わされた。今どき蟹工船に乗せられそうになり、しかもムロの命は300万円っぽちに設定されたのだ。しかも、中国マフィアから「高すぎる!」と言われる始末……。

 さらに拉致られ、山奥に連れて行かれたムロ。「人間を埋める目安は赤土1メートル、黒土2メートル」という知りたくない情報を教示され、土葬寸前まで追い詰められた。

 恐怖のあまり、手塚は完全降伏。すべての広告をムロに回すことを約束し、青葉銀行の資金は岩切組に流れる形となった。思惑通り事を運んだ古田は、説き伏せるようにムロに言った。

「よう覚えよけ。適者生存。ワシらの世界は強い者が勝つんじゃのうて、勝った者が強いんや。だから社畜は甘いんや! もっと死ぬ気で人生生きたらんかい!!」

 古田の言っていること、実は至極真っ当だったりする。古田が訴えているのは「いつ死んでも後悔しないよう、人生を生きろ」ということ。何事にも逃げ腰で前を向けないムロを叱咤し、檄を飛ばす古田。当初はムロも恐怖するだけだったが、いつしか古田からの訓示によって変わっているのが面白い。例えば、刑事の城島豊(河原雅彦)から岩切組の情報を聞かれたとき、ムロはこう返した。

ムロ「陳という中国人と接触してまして」

河原「中国人? チャイニーズマフィアか」

ムロ「ああ……すごく凶暴な顔をしてて、ベーリング海峡の噺をしてました」

河原「ルートはベーリング海峡か。ロシアンマフィアも一枚噛んどるかいのう」

 そんな事実はない。ムロは単に蟹工船に乗せられそうになっただけ。なぜ、阿修羅市にとどまるローカルなヤクザが、国際的なコネクションを有しているというのか? 社畜とバカにされながら、密かに一筋縄ではいかない男に変貌していたムロ。図太くなり、そして人間的魅力が増している。全身会社人間の手塚とのコントラストはあまりにも鮮明だ。

 一方の田中は、再開発によるバーの立ち退きをチラつかせて黒木に協力を迫った。現在上映中の映画『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』にて、不動産会社勤務の春田創一(田中)は商店街再開発構想に関わっている。竜崎剣司(Iターン)と春田創一(おっさんずラブ)の立ち位置は真逆。あまりに対称的すぎて、逆に因縁を感じる。これは、果たして狙いなのだろうか?

『Iターン』での田中は、映画『仁義なき戦い』で小林旭が演じた武田明にどこか容姿が似ており、いい雰囲気を漂わせていると思う。

(文=寺西ジャジューカ)