歌舞伎町の人魚伝説事件――ホストのラストイベントから、消えた「女」と「1000万円」

 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

 歌舞伎町で日夜ホストに執心していると、急に知人が音信不通・行方不明になる、ということがままにある。

 突然、非通知で「○○を知らないか」などと、不穏さしかない電話がかかってきたことも何度かあった。そういうときは迷わず「知らない」と答えるようにしている。だいたい、金か、異性か――あるいは、その両方か、だ。首を突っ込んでもなにひとつ、いいことがない。くわばらくわばら。

 一方で、歌舞伎町を10年ほどフラフラしていて、ある気づきを得た。それは、一時は「消えた」人々も、だいたい、1~2年もすればまた歌舞伎町で見かけるようになる、ということだ。そして、過去の蒸発について、歌舞伎町の住人たちも、たいして詮索しない。なんとなく、許して、受け入れる(私含め、多くの人は自分のことで精一杯で、もしかしたら他人の事情なんて酒のアテほどしか興味がないのかもしれない)。

 キビシイ掟があるかと思えば、同時に寛容さも持ち合わせている。不思議なものである。あるいは、それもまた、歌舞伎町の底なしの魅力の一つなのかもしれない。

 さて、今日はそんな「消えた」友人・ミク(仮名)の話をしてみたい。

 ミクは私より4つか5つ年上で、当時の職場であるSMクラブの先輩だった。そして、ホスト遊びの先輩でもあった。私がどっぷりホストにハマっていたときのこと。ミクはSMクラブとソープを掛け持ちして、7年間ずっと同じ担当にお金を使い続けていると話していた。

 7年である。小学校に入学した子が、もうぼちぼち「15の夜」を迎えようとしているという年月だ。その後、私も一人のホストに5年近くお金を注ぎ込むことを思えば、そんなこと言えた義理ではないが、少なくとも、その当時は衝撃だった。

 7年間一人のホストの売り上げを支え続けたミク。先に結果からお伝えする――彼女は歌舞伎町から消えて、帰って来なかった。しかも1000万円か、それ以上のお金と一緒に消えてしまったのだ。泡のように。シャンパンの話でも、人魚姫の伝説でもない。しかし、彼女は、泡姫(ソープ嬢)ではあった。

 なんだか安いサスペンス染みてきたが、これは空想ではない。まごうことなき、ノンフィクションである。後に、「歌舞伎町人魚伝説事件」と語り継がれることになる……もとい、私が語り継ぐその日は、彼女の担当のラスト・イベントだった。

 ラスト・イベントとは、ホストがその店を辞めるときに行われる行事である。簡単に言えば、卒業式だ。ラスト・イベントには2種類ある。

・店を辞める
・ホスト自体を辞める

である。そのどちらかで、意味合いが大きく変わってくる。ミクの担当ホストは後者であった。7年間貢いでいる、ということは、ホストもそれなりの年齢になっているだけに、この稼業から足を洗うことを選択したという。

 もしこれが前者――すなわち、「お店を辞める」だけであれば、さほど珍しい話でもない。お客は次の店へ同じように通うだけだ。女の子はお店にではなく、ホストについている。納得しやすい論理だと思う。

 しかし、「担当がホストを辞める」。これはある意味、残酷な話だ。今までは、よほどのことがない限り、少なくとも「お金さえ持って店に行けば」会えた存在。関係が悪化しようが、こちらの金策が尽きようが、ホストと接続する回路は温存されていた。少なくとも、いつでも、回路を復活させることはできた。

 しかし、ホストを辞めてしまうことは、その貴重な回路を喪失することを意味する。芥川の例で言えば、釈迦が垂らした「蜘蛛の糸」は、ぷっつりと切断されてしまって、復活することはない。そういう哀しきカンダダの話は、歌舞伎町のいたるところで見聞きする。

 だからこそだ。「ホストがホストを辞める」という意味での卒業式において、純粋に「今までありがとう」という気持ちだけで、ホス狂いが数百万を払うことはなかなかに難しい。先の見返りにそこまでの期待はできない、蜘蛛の糸が間もなく断たれることが、わかりきっているからだ。ならば、新しい担当を見つけて投資した方が有意義だろう。堅気に戻るホストには、新しい門出を祝ってシャンパン数本、が一般的なのではないか。

 だが、ミクは違った。一般論が長くなってしまった。取り急ぎ、この物語を語りきってしまおう。

 彼女は、数カ月後に開催される担当のラストイベントに、1000万円を使うのだ、と私に豪語していた。そのために今はお金を貯めている、とも。勘違いしてはならない。ミクはエースだったので、もちろん毎月100万円以上を使いながら軍資金を貯めていた。とんでもない努力である。

 これには、ある理由があった。ミクは「ホストを辞めた後は、担当と同棲する予定」とうれしそうに話していた。当時、ミクと担当ホストは“週に数日はお泊まりする仲”だった。「ラストのお給料は今後の同棲資金になる」「風俗も辞めて、二人で昼間の仕事をする」。7年間も一途にお金を使い続ければ、そんな夢のようなこともあるのか。当時はそう感心したのを覚えている。

 あのときのミクより年上になった今の私であれば、「普通の恋人同士になるのに、最後にホストクラブでそんなに使う必要があるのだろうか」とも思うかもしれな……いや、やめておこう。100人のホス狂いがいれば100の事情がある。野暮な話はしない。

 その後しばらく、ミクはお金を貯めるために連日連夜働いていた。私自身、彼女と会う機会は減っていた。

 次にミクの名前を聞いたのは、件のラストイベントが終わった後のことである。情報提供者は、知り合いの、これまたホストからだった。歌舞伎町は狭い。ミクは、大量の諭吉様が詰まった小さなキャリーケースを持って、ラストイベントに現れた。そういえば、「銀行には入れられないから、キャリーケースに貯金している」と、ミクは私に写真を見せてくれたことがある。

 キャリーケースには両手を体の後ろへ隠して微笑む、ピンク色の某ウサギキャラクターが描かれていた。きっとそのキャリーケースだろう。キャラクター自体は愛らしいが、想像してみると、なかなかにエグみのある絵である。

 余談だが、歌舞伎町のホス狂いたちは、なぜかこのキャラクターを愛好する者が多かった。今でこそ少なくなったが、数年前まではこのピンクウサギがホス狂いの目印のようになっていた。歌舞伎町で石を投げればウサギにあたる。冗談でもなく、そんなトレンドだった。

 1000万円のシャンパンタワー。ホストとして、有終の美を飾るにふさわしい、さぞかし立派なものだったことだろう。そして最後の営業時間も終わりに近づき、いざお会計となったときだ。

 ミクは姿を消していた。

 ミクの座っていた卓にはピンクのキャリーケースだけが置いてあり、中身は空っぽだった。キャリーケースの中身が一瞬で消失するというトリックであろうか。もしや、そのなかから、ミクがマジシャンさながら大脱出を決める……。しかし、残念ながら、そんなことはなかった。ミクも金も、きれいさっぱり消えてしまっていたのである。1000万円相当のシャンパンタワーは履行されている。担当は有終の美を飾るラスト・イベントで、1000万円の借金を背負うこととなった。

 こういったことが起きないよう、超高額のお会計は、事前に半分程度を入金するのが普通だ。しかし、ミクは7年もの間担当を支え続け、実際にお金も貯めていた。その強固な信頼関係で、事前の入金は行われなかったのだろう。ホスト生活最後の日に多大な借金を背負う羽目になった担当ホストの話は、少しの間ホスト界隈を騒がせたという。

 ミクは、その後職場にも現れず、音信不通になった。どうして、ミクはそんなことをしたのだろうか。ここからは私の勝手な推測である。思うに、ミクは「担当がホストを辞めたら一緒になれる」なんて、はなから信じていなかったのではないだろうか。なんせ、7年も付き合いを続けていたのだ。それくらいの嘘は見抜けそうなものである。というか、本当に一緒に住むのなら、ホストを辞めなくても一緒に住むことはできる。

 彼女は全てを承知していた。だからこそ、最後の夜に復讐する。それだけのために大金を作ってきたのだ。蜘蛛の糸が空虚な強度しか持たないことを、ミクは知っていた。だったら、自分から引きちぎってやる。ミクの最後の行動は、そういう意味があったのかもしれない。

 ミクの担当ホストはしばらくの時をおいて、またホストを始めていた。今現在もご活躍中である。私が知らないだけで、もしかしたらミクも歌舞伎町で、違うホストにハマっているのかもしれない。いつか、会うことがあったらあの時のことを聞いてみたいな、と思う。酒のアテ程度に。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
Twitter

【バックナンバー】
第1回:歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
第2回:担当ホストに月200万円……OLから風俗嬢になった女が駆け上がった「ホス狂い」の階段
第3回:容姿や年齢より「使った金額」! ホス狂いたちが繰り広げる、担当ホストのエースをめぐる闘争
第4回:Twitterで「担当ホストの本命彼女」を暴露!! ホス狂い界隈を絶望させた“ある女の復讐劇”
第5回:ホストに月200万円使う女は、どんな接客を受けるのか? 究極の接客「本営」の実態
第6回:ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」
第7回:テレビが取り上げない「毎日ホストに通う女」の実態……シャンパンコールの裏にある光景
第8回:ホストで「一晩1000万円」使った女――担当も驚いた「紙袋に詰まった万札」の出所とは?
第9回:ホストクラブ「300万円偽札事件」勃発――歌舞伎町を震撼させた“未解決事件”に思うこと

ホストクラブ「300万円偽札事件」勃発――歌舞伎町を震撼させた“未解決事件”に思うこと

 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

「歌舞伎町のホストクラブで偽札が出たらしいよ」

 ある日、ホス狂いの友達からこんなLINEが送られてきた。友人いわく、「会計で偽札を使われた」とホスト自身がTwitterで告発したそうだ。使用された偽札の総額は、300万円。そして、ホストはこうも語っていたという。

「偽札で発生した不足分はお前が払え、とお店に言われた」
「お店に尽くしてきたのに、裏切られた気持ちだ」

 ここからは、事件の全容を私の視点でレポートした記述である。どうか、週刊誌の特集記事のページをめくるような気持ちで、読み進めてほしい。

 そもそも偽札事件が起きたのは、4月の月初め。月初めと言えば、ホストの世界では、たいていは「入金日」(前月分に売り掛けをしていたお客が入金する日)を意味する。入金に間に合わなくて偽札を使ったのかな? 一瞬そう思い、すぐに考え直した。偽札を入手する方がよほど大変そうだ。

 もしそのお客が風俗嬢だったとして、風俗で連日出勤して売り掛け分を稼ぐことと、偽札を手配することの難易度を、私は天秤にかけた。天秤は一瞬で傾いた。もちろん、偽札手配へ、である。偽札を作ったり入手したりする方がよっぽど難易度が高い。子ども銀行券でも使ったのだろうか。子ども銀行券1000兆円みたいな。いや、さすがにそれはふざけすぎだろう。

 そう思いながらTwitterを開いた。もちろん、アクセスするのは、ホスト遊びのために作った裏アカウントだ。そのタイムラインは、偽札の話題で持ちきりだった。私が知る限り、ホストクラブで偽札を使う事態が表沙汰になったことなぞ、ただの一度もない。初の事例と言っていいだろう。

 ゆえに、ホストおよびホス狂いへ与えたインパクトは大きい。激震、といって差し支えない。歌舞伎町の「チ-37号事件」である(知らない人は検索してみてほしい)。結論を先取りするようだが、本件もまた未解決事件として闇に葬られたので、あながち的外れなたとえでもないはずだ。

 そんなこんなで、タイムラインを過去へ過去へとさかのぼり、「偽札事件」の流れをようやく把握した。

 以下、サマリーを報告する。

 情報の震源地は、被害を受けたホスト本人による告発ツイートだった。それが冒頭に引用した文章である。要点を再度まとめておくと、

・客に偽札を使われたこと
・しかし、店により、ホストの負担として処理されたこと

以上、2点を訴えていた。そして、後者に対しての不満をぶちまけていたのである。

 もっともな主張だと思いつつ、疑問もあった。被害を訴えている暇があるなら、SNSで油を売っていないで、警察でもなんでも駆け込めばいい。しかし、文章を見る限り、ただ泣き寝入りをしているようにも見えた。

 どうなることやら。ことの推移を注視していた私だが、事件は意外な形で終幕を迎えた。翌日、かのホストが、新たなツイートを投下したのだ。

「不信感を抱いてしまった方々に深くお詫び申し上げます」

 謝罪から始まった文章には、偽札騒動についての詳細な顛末が綴られていた。唐突な幕切れである。視界を覆う厚い幕は、しかし、ボロボロであった。これでは、向こう側が丸見えだ。

 ひとまず、ホストのツイートの要点をまとめる。

・最初に300万円を見せられたが、手に取ろうとしたら取り上げられた。その時点で偽物とは疑わなかった。
・高額なボトルを注文、そしていざ会計、となると女の子がお金を払おうとしなかった。
・お店の外で女の子と話した後、上司と女の子が話し合うこととなった。
・上司が“札束 ”を確認したところ、一番上の1枚以外はメモ紙だった。
・自分は「偽札」という言葉を使ってしまったが、ただの紙なので「偽札」ではない。だから、上司は警察を呼ばなかった。
・300万円は無事に女の子の売り掛けとなり、今後、お支払いいただくことになった。

 なんと、偽札とは「ただのメモ帳を切ったもの」だったというのだ。日ごろから数百万円の札束を見慣れている有名ホストでも、一瞬であれば白紙の束を札束と見間違えてしまう。とでも言うのだろうか。

 よくネットで「ホストクラブの闇」などというフレーズを目にするが、やはり暗闇では、札束と紙切れを見間違えてしまうのか。それとも、日常的に札束とフレンドリーな関係にあるホストにとって、それはもはや、紙切れも同然なのだろうか。とすれば、高度な資本主義批評である。

 ……そんなわけない。店とホストと客の三者が裏で話をつけ、警察を介入させないようにしたんじゃ……。そうツッコミを入れたくなった読者のみなさま。どうかその気持ちは胸のうちにしまっておいてほしい。なぜなら、私もそのナイフを懐深くにしまったからだ。

 この記事の目的は、ホストクラブの闇を暴き立てることにはない。だから私も、ことの真偽には踏み込まない。もちろん、資本主義の茶番をおちょくるつもりもない。

 くだんのホストは当初、「頑張ったのに、お店に裏切られた」とお店を辞めることをTwitter上でほのめかしていた。この行動は、以前に紹介したホス狂いによる「暴露」とよく似ている。担当ホストに不満を溜めたホス狂いが、関係を切ろうとする際、二人の交際歴やベッド写真などをばら撒く「暴露」と同一の構造を有していると申し上げていいだろう。「客とホスト」の間には境界があるように見えて、実は二人は同じ立場にいる。そう、どちらも、ホスト業界においては「お客様」という立場だ。

 しつこく資本主義の比喩で説明すると、ホストも客も「労働者」にすぎず、真に資本家の位置にいるのは、「店」だけなのである。

 ということで、ついひと月ほど前までは、ホス狂いたちの間では、「偽札事件」はホットなトピックだった。しかし歌舞伎町では、ショッキングなニュースが日夜、製造されている。

 1カ月前のことなど、大過去である。その証拠に、つい最近も、筆者の家の近所でホストがお客に刺されていた。彼らはともに、歌舞伎町の住人である。もはや、偽札事件の話をしているホス狂いは一人もいない。いや、一人いた。私である。

 私にとって、痴話喧嘩の果ての「刃傷」沙汰より、偽札を使ってまで担当に会いたいと思った「人情」に惹かれる。ちなみに、どちらも読み方は、「にんじょう」だ。

 ただの紙で作った札束で会計ができるわけがない。それが通じるのは、おままごとか、子ども銀行の世界だけだ。

 そんなことは、きっと女の子だってわかっている――。それでも見たかった夢があったのだろう。もしかすると彼女には、本当に諭吉の大群に見えていたのかもしれない。真相はわからない。わかる必要もない。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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第8回:ホストで「一晩1000万円」使った女――担当も驚いた「紙袋に詰まった万札」の出所とは?

ホストで「一晩1000万円」使った女――担当も驚いた「紙袋に詰まった万札」の出所とは?

 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

 以前、月200万円をホストに使う女の話を書き、その金銭感覚に驚いた人もいるかもしれないが、新宿・歌舞伎町は、一晩で1000万円を使う女も存在する街である。今回は、そんなホス狂いの話をしてみたい。

 ユイさん(仮名)は、歌舞伎町のメンズ・バーで仲良くなった女性だ。年齢は40歳前後で、夫と夜一緒にいたくないから遊んでいるのだそうだ。そしてユイさんは、自分はとある有名ホストのエースなのだ、と私に教えてくれた。

 次にユイさんとバーで飲んだとき、彼女は高いお酒をバンバン注文し、最終的に「高いシャンパンをおろすから貸し切りにして」と言って、実際その通りにしてしまった。その頃の私は、“ホス狂い中級”くらいだったので、正直なところかなりビビった。ホスト漫画に出てくるような人だ。とんでもないお金持ちなのだろうか。そう思った。

 私の驚きを察して、ユイさんは金策の秘密を開示してくれた。

「もうすぐ親族の土地を売ったお金が数千万入ってくる」

 彼女は自慢げにそう言って、担当ホストにも伝えてある、と豪語していた。

 歌舞伎町には、あるのかないのかよくわからない大金の話をする人が掃いて捨てるほどいる。お酒の場でのよくある話、と私も話半分で聞いていた。その後、ユイさんと再会することはなかった。

 しかし、1年後くらいだろうか。ユイさんのことも忘れかけていた頃、彼女の担当ホストと話す機会があった。

「ユイはすごかったよ」

 ホストはユイさんのことをよく覚えていた。まるで、抗争の凶弾に倒れた伝説のヤクザについて語る、下町の老人のような口調であった。
ここから先は、そんな老人――もとい、ホストから聞いた話だ。ユイさんは普段から、毎月200万円以上を使う正真正銘の「エース」だった。しかもツケはせず、毎回ニコニコ現金払いの超優良顧客である。

 ユイさんが結婚していることも彼は知っていた。しかも、相手は指名していた元ホストだと言うから驚きである。担当ホストと結婚する――それは、ホス狂いとしてのゴールと思われがちだが、それでもユイさんは満たされなかった。その後の隠しダンジョンが、ユイさんを待ち受けていたのであろう。もちろん、その「隠しダンジョン」とは、若く、新しいホストのことである。

 ユイさんがどうやってお金を作ってくるのか。担当ホストは、それを知らなかったし、聞こうともしなかった。いや、聞いてはいけないような気がしていたという。このとき、金策の方法を問いただしていたら、二人の関係は終わっていたかもしれない。踏み込まないという信頼関係の形も、この世界には存在しているように思うのだ。

「土地を売って数千万つくれそうだ」

 彼女がそう嬉々として語っていたときも、彼は特別な反応はしなかったそうだ。「目の前にないお金に興味はない」と言っていたが、カッコつけていただけかもしれない。私がもしホストだったら、数千万と聞けば、狸の皮算用を始めてしまう。それがたとえ、話半分にしか過ぎない言葉だったとしても。

 真偽はともかく、土地を売ると聞いてからしばらくたった頃だ。あるとき、ユイさんは「行きたい場所がある」とホストの彼を誘った。行先は、北関東の某県某地方。彼は「観光地でもない場所になんの用事があるのか?」と、疑問を感じながらも同行したそうだ。もともと、毎月のお礼に旅行くらいはリターンするので、大した違和感はなかったという。

「ちょっとここで待っていて」

 彼女に連れられるがまま、たどり着いた先はお寺だった。そういえば、親戚がお寺をやっていると聞いたこともあるような気がする……。しばらすると、彼女が境内から出てきた。両手には紙袋。紙袋には、いっぱいの万札が詰まっていた。

 質素な紙袋のなかにたたずむ大量の福沢諭吉様。さすがに彼はその場では受け取らなかったというが、その偉容(異様)は、ユイさんの決意表明としては、十分だった。その後、同じ月のイベントでのことだ。

 ユイさんは一晩で1000万を使った。さぞかし豪勢なシャンパンタワーだったことだろう。そして残りの紙袋資金はホストへ預け、こう言った。

「しばらくは自分の会計はその中から払うように、毎月の使用金額はあなたに任せる」

 すさまじい、言い値システムである。男前、いや、女前である。ユイさんが渡したお金。それが本当に土地を売った結果、捻出された現金だったのかどうか、ホストは確かめなかったという。確かに、そんな詮索に意味はないだろう。私の勝手な感想ではあるが、ユイさんとホストには、「エースと担当」という強固な信頼関係があったように思うのだ。

 ちなみに、今回の後日談。ユイさんは、最後は夫と関係を修復し、歌舞伎町から去った。「たまに連絡を入れるが、返事はない」と、彼は言っていた。ほんの少し寂しそうに見えたのは、私の願望の現れだろうか。

 ユイさんがホストに使った総額は、1億円近く。それでも、歌舞伎町のホストは彼女にとってひとつの止まり木だったのかもしれない。痛んだ羽を休めて、無事に空へ飛べたなら、それは実りある支出だっただろう。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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第4回:Twitterで「担当ホストの本命彼女」を暴露!! ホス狂い界隈を絶望させた“ある女の復讐劇”
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第6回:ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」
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テレビが取り上げない「毎日ホストに通う女」の実態……シャンパンコールの裏にある光景

 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

 ホストクラブには、表面にあるキラキラした魅力のほかに、陰の部分がある。なんてことは世に出ているホストマンガ・ドラマで散々描かれている。「光り輝くホストより、女の闇は深い」とウシジマくんも言っていた。「光が強ければ闇もまた濃い」とは大文豪ゲーテの言葉だ。

 新宿を歩けば、ひっきりなしにイケメンホストのトラックが走る。それを追いかけるように、「高収入! 高収入!」と歌うトラックが走る。それもまた、光と闇と言えるだろうか。

 今回、私が書くエピソードが果たしてホストクラブの「闇」なのか、それは受け取り方次第である。しかし、今回は一般的なイメージに則って、キラキラした店内や、シャンパンコールを「光」だと仮定する。そして、その反対側の「闇」について話したい。最終的に、それが本当に「闇」なのかは、このテキストを読んだ後に、読者一人ひとりに判断してもらいたい。願わくば、そのガイドになれるといい。

 ということで、私が実際に経験したエピソードより話を始めようと思う。数年前――簡単にいえば、私がホストクラブに毎日通い始めた頃のことだ。ある一つの光景に驚いたことがある。端っこのテーブルにいた女の子が、担当ホストではなくヘルプとずっとゲームをしていたのだ。テーブルの上にはコーラ。お酒は置かれていない。

 担当ホストはたまに現れ、スマホを触りながら女の子と少し話し、去っていく。関係性を知らない第三者から見れば、選挙期間中に繁華街で手当たりしだい有権者と握手をするおじさん候補者よりはるかに、適当な対応のように見える。選挙なら落ちてる。間違いなく。

 実際ホストクラブに通うまで、そこはお金を払ってイケメンとキラキラしたひと時を過ごす――まるで、夢を買うような場所だと思っていた。テレビやマンガで出てくるホストクラブは、なんかまあ、そういう感じだったのだ。だから、初めて見たときは「想像していたホストクラブと違う」と驚いて、その光景をじっと観察してしまった。

 しかも、行く日も来る日もホストクラブへ通う内に、そんな女の子は一人二人ではなく、相当数いるということがわかってきた。たとえるなら、教室の隅っこのようなシーンがずらりと並んでいるとでもいえばいいだろうか。いずれにせよ、率直に、すごい絵面である。

 「シャンパンコールでワイワイ」というイメージをホストに抱いている人たちには、もしかしたら、その事実は想像しづらいかもしれない。その空間に実際に足を踏み入れなければ、きっとピンと来ない。はずだ。

 しつこく、比喩を用いて説明を試みる。そうだな…………祭りの中心と教室の隅っこが奇妙に同居する空間。それがホストクラブである。とでも言おうか。どうだろうか? 余計にわからなくなった気がしないでもないが、とにもかくにも、「ホストクラブ」というだんじりの上では、さまざまな人種のサラダボウルが展開されているのだ。男も女も。究極の多様性である。ギャグだと思うかもしれないが、なかば本気で言っている。

 毎日来店しては売れないヘルプと来る日も来る日もポケモンをプレイしている――私のホスト狂い友達の中にも、そんな女の子は何人もいた。仕事終わりに「今日は○○くんがレアなポケモンを交換してくれるんだ」とホストクラブへ向かっていったサキ(仮名)もその一人だ。
強調しておきたいことは、サキはかまってくれない担当への当てつけとして、そんな時間を「仕方なく」過ごしていたわけではない。むしろ、逆だ。彼女はそんな緩い時間を「進んで」選択していたのだ。

 もちろんホストクラブの楽しみ方は人それぞれ。本気の疑似恋愛を楽しむ人もいれば、割り切ったストレス発散でお酒を飲み騒ぐ人もいる。それと同じように、にぎやかな光景の片隅でゲームや読書に励む人もいるということだ。これが正解、なんてものはない。あえていえば、そのどれもが正解なのである。

 ちなみに余談ではあるが、私が通っていたホストクラブでは「ゲーム禁止令」が発令されたことがあった。ゲームに夢中になるあまり、女の子、ホストともに飲み物を注文しなくなる、という事態が発生したのである。本末転倒だ。また、店の売れっ子ホストも同ゲームにのめり込んで成績を落とした。彼は、成績が戻るまでゲーム機を没収、店の金庫へ封印されてしまったそうだ。余談終わり。

 ここまでの話を聞いて、読者のみなさんはある体験を思い出したかもしれない。みんなで騒いでいる陽キャラと、隅っこで一人の時間を享受する陰キャラ。そんな本来、相容れない人たちが一つの狭い空間に押し込まれる。そう、学校の教室である。しかも、さまざまな家庭環境や属性、ときには人種さえ混ざり合う公立の学校。

 ホストクラブは、教室と非常によく似ている。いや、もっといえば、居心地のいい「部室」なのかもしれない。ホストクラブで過ごす時間は「放課後」なのだ。少なくとも、その延長線上にある。違うところと言えば、「自分以外は全員異性」というところだろうか(なんだか少し乙女ゲームを想起させる)。

 授業を終えると、何はなくても、とりあえず向かう場所。きっといつもの仲間が今日も今日とてワイワイとやっているに違いない。少なくとも、見知った人間(ホスト)も、一人くらいはいるだろう。

 そこで、仕事やプライベートのグチをホストたちに報告する。今日はどうしてたのと、日常を報告し合う。それが当たり前になる。いつしかホストクラブに通うこと自体が「日常」になっている。サキも初めは担当目当てに店に通っていたはずだが、そうなったときには、コーラ片手にポケモンゲットだぜ、という楽しみ方をするようになっていたわけだ。彼女のポケモン図鑑は、恐らく埋まったことだろう。

 こうやって講釈をタレているが、いまだに私もそんな「教室」の一員である。最近はゲームではなく原稿を書いている。遅れてきた青春の沼から、かれこれ5年以上、抜け出していない。いや、それはフェアな表現ではないだろう。私は、遅れてきた青春のなかに、肩からどっぷりと浸かっている。そろそろのぼせてもよさそうなものだが、いかんせんぬるま湯であるので、いまだにそんな予感すらない。

 歌舞伎町の雑居ビル。財布の諭吉を数えてから、扉を開ける。部活動にしては、やや高くつく。今日も今日とて見知った顔が並び、「おはよう」と声をかける。時間が何時でも、だ。ホストクラブは夢を買う場所だと思っていた、と冒頭の方に書いたが、お金を払う限りは永遠に終わらない平和な放課後も、夢を買っていると言って差し支えないのかもしれない。

 さて、ここで冒頭に話は戻ってくる。果たして、ホストクラブの端っこでゲームをしている客は、キラキラのシャンパンコールを浴びる客にとっての「陰」だろうか。お金で買う放課後は、ホストクラブの「闇」だろうか。私は判断しない。そもそも、陰は、突然生まれ落ちるものではないと思う。時間や状況によって、陰は向きを大きく変える。それは結局、太陽の位置次第だ。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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【バックナンバー】
第1回:歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
第2回:担当ホストに月200万円……OLから風俗嬢になった女が駆け上がった「ホス狂い」の階段
第3回:容姿や年齢より「使った金額」! ホス狂いたちが繰り広げる、担当ホストのエースをめぐる闘争
第4回:Twitterで「担当ホストの本命彼女」を暴露!! ホス狂い界隈を絶望させた“ある女の復讐劇”
第5回:ホストに月200万円使う女は、どんな接客を受けるのか? 究極の接客「本営」の実態
第6回:ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」

ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」

 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

「ホストに行っていなかったら、私死んでいたと思う」

 元ホス狂いの友達ユカ(仮名)は、たまにそんなことを言う。

 ユカはもともと、「ホストに行かなかったら家が建っていた」レベルの重課金プレイヤーであった。このように、「ホストにハマらなかったらそのお金で、あれやこれやができたのではないか」と考える読者は多いと思う。実際に、ホストにお金を使ったことを人に話すと、そういった反応をされることが多々あった。
しかし私が見てきた限り、その実「ホストに行っていなかったら、そもそもそこまで働くことはなかった」という女の子がほとんどなのだ。この齟齬を解消するため、ここで一つの回り道をしてみたい。

 前回、ホストクラブでお金を使って得られる「体験」について話した。私たちはブランドバックそのものではなく、「ブランドバックを好きな人からプレゼントされる体験」がほしいのだ、と。そういった疑似恋愛的な体験を買えるという魅力は、「ホストクラブ」「ホスト」そして「ホス狂い」で構成された「システム」を回転させる一要素――それも極めて華やかな一つにすぎない。そして、擬似恋愛的体験の魅力だけがホストの全てだと思うと、私たちは大いなる勘違いにハマることになる。

 水面に見える綺麗な白鳥は、水の下では一生懸命、ばた足をしている。それと同じことだ。華やかなホスト・システムの水の下――つまり今回は、それを支えるホス狂いの日常について、語ってみたいのだ。具体的に言えば、「ホストクラブに行かなかったら死んでいた」とまで言う彼女が、「なぜホストクラブに生かされてたのか」それについて書こうと思う。

 ユカは普通のOLだった。初めてホストクラブに行ったのは大学4年生、就職が決まった後の夏休みのことだ。取得すべき単位もあとわずか、残すは卒論と卒業のみというときに、ユカは初めて歌舞伎町のホストクラブを訪れた。初回でいくつかの店を体験し、その中からお気に入りの担当を見つけて、何回か飲みに行ったという。就職するまでのモラトリアムの一環――ちょっとした遊びのつもりだった。

 そして、そのときは遊びのままで終わっていた。いや、火遊び程度で済んだと言っていいのかもしれない。就職をしてからしばらくは、ホストはおろか歌舞伎町へ行くこともなかったという。

 そんな彼女が次にホストクラブを訪れた日のことを、私は深く知らない。なぜなら、私はユカがすでにホス狂いアウトバーンを爆走しているさなかに、知り合ったからだ。SM風俗店の同僚として。すでに賢明なる読者諸兄はお気づきかもしれない。そう、愉快で愛おしいホス狂いの友人たちとは、ほとんどくだんのSM店で出会っている。

 この店は、東京で最大規模のSMチェーン店だった。3年前くらいまでは、店は「ホス狂いの登竜門」と呼ばれていた。鯉もこの店で働けば竜になる、と。当然、ホストたちも存在を認知していて、店名を言うと初回の待遇が少し良くなる、とまで言われていたのだ。

 私やホス狂いの友人たちが所属していたのは新宿支店。事務所は、歌舞伎町のホテル街の最奥。仕事が終わったら最短3分後にはホストクラブにピットインできる。フェラーリもびっくりの早業である。つまり、ホス狂い的には最高の立地だ。なんなら、仕事の待機時間にもホストクラブへ行ける。歌舞伎町で稼いだお金をすぐ近くのホストクラブで使って一文無しで帰宅、なんて子も珍しくなかった。地産地消である。毎日がゼロからのスタートだ。

 そう書くと、いいことのように耳に響くが、もちろんそんなことはない。「まずはお金を無事家に持って帰るところから始めよう」とは、SM店長の言葉だが、よく言ったものである。この店の話も機会があれば書きたい。

 また余談が長くなってしまった。速やかにユカの話に戻ろう。ユカがホストクラブの扉を再び叩いたきっかけは、ざっくり2つだ。一つは、会社でうまくやっていけなくなったこと。もう一つは、彼氏と別れたこと。付き合っているはずが、相手はセフレだと思っていたそうだ。よくある認識の齟齬である。しかし、全てのいさかいはどうってことない行き違いから勃発するものであると、私たちは歴史から学んでいる。

 ともあれ、ユカはしばらく家から出られなくなったそうだ。しばらくの戦略的撤退として会社を辞めた後、彼女は風俗で働き始め、ホストクラブに通うようになった。ユカは、きっちりと週に6日、昼の12時から夜9時頃まで働き、その後はホストクラブへ足を運ぶ。自ら定めた休日は、ホストクラブの定休日と同じだった。

 ホストクラブには、ルーティンがある。たいていのホストクラブは毎週の定休日が決まっている。その定休日の前日、月に2回は、なんらかのイベントがある。誰それの誕生日やら、幹部昇格祭やら、その名目はさまざまだ。夏になれば浴衣営業の日があり、クリスマスや正月には還元と銘打って、ビンゴ大会が催されたりする。ホストクラブには四季があるのだ(ちなみに今の我が家のテレビは2年前にホストクラブのビンゴ大会で当たったものだ。現役大活躍中である)。そして、イベントが終われば月末の締め日、月が変わって月初に、前月の売り掛け(ツケ)の入金日がある。

 何が言いたいか。つまり、こういうことである。ホストクラブは極めて強固なルーティンでもって回転している。そして、このホストクラブのルーティンに沿って、ホス狂いの生活のリズムが決まっていくのだ。

 ユカは、風俗で働き始めた当初、半ば引きこもり状態で、月に何度かお金が必要なときだけ風俗に出勤していたという。冒頭の「いつ死んでもおかしくなかった」というフレーズは、このときのユカの心情だったそうだ。しかし前述の通り、私が知り合ったときのユカは、ホストクラブへ行くことを生活の軸として、規則正しく生活し、働いていた。OLのときと、同じように。学生のときと、同じように。

 こう書くと、驚く読者もいるだろう。むしろ、ホストクラブのメインカスタマーである風俗嬢たちは、だらしない人種だと思っているかもしれない。自己管理能力のなさ故に、毎朝起きて決まった時間に出社することができない。だからこそ、風俗で働かざるを得なかった、と。

 そのイメージは、半分正解で、半分間違っている。いや、確かに実際問題、風俗の世界に飛び込む人間にはそういうタイプが多いのは事実だ。私だってそうだ。決まった時間に起きられない。毎日繰り返し同じことができない。忘れ物や失くしものは日常茶飯事だ。

 しかし、ホストクラブに行くことで、風俗嬢たちのだらしなさは大幅に改善される。なぜなら、先ほど説明したホストの強固なマンスリールーティンに突入するからだ。毎月のイベントによってスケジュールを組む。入金日に向けて、労働力をうまく調整する。今月は厳しそうだから、多めに「残業」しておくかなんて思ったりする。

 これはなにかに似ていないだろうか。そう、普通の人間と会社の関係そのものなのだ。ホストに毎日足を運ぶ彼女たちは、確かに会社組織にはうまく適応できなったかもしれない。やや抽象的な表現を弄するならば、会社というコミュニティのリズムに順応できなかったのだ。しかし、ホストというコミュニティに接続することには成功した。ホストが先か、風俗で働くのが先かは大した問題ではない。

 ただし、ホスト・コミュニティが一般社会のコミュニティと決定的な違いが一つある。望めば即日参加できて、いつ去ってもいい。本名を名乗る必要もない。そんな参加と脱退のハードルの低さが、ホスト・コミュニティの魅力である。

 だからこそ、普通のコミュニティに属するのはやや難易度が高いという女の子たちを受け入れたり、一時的にそこから切断された女の子たちのシェルターとなり得る。まさに、コミュニティのセーフティネットだ。よくわからないけど、カッコいいので、こういう表現にしてみた。

 そこで女の子たちはリハビリする。ある人は一般社会に戻っていき、ある人はそのままホスト・コミュニティを終の棲家とする。もしかしたら、ホス狂いだけでなくホストたちもそうなのかもしれない。ユカの場合は前者だった。彼女は、風俗を辞め、再び昼の仕事を始めた。たまに思い出したように歌舞伎町へ遊びにくる、普通のOLになった。私はいまこうしてホストについて書いているように、後者の位置にいる。この原稿を書き終えたら、ホストクラブへ向かう予定だ。

 歌舞伎町から靖国通りを挟んだ新宿通りがやたらと遠く感じるように、私にとってユカは、もはや違う国の住人になってしまった。どちらが幸せかどうか。なんてことを語るのは無粋というものだろう。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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第1回:歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
第2回:担当ホストに月200万円……OLから風俗嬢になった女が駆け上がった「ホス狂い」の階段
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