くりぃむしちゅーの有田哲平と上田晋也が出会ったのは高校時代。上田がプロレスファンだと知った有田が「アントニオ猪木と前田日明、どっちが強いと思う?」と話しかけ、「猪木かな」と返答する上田に「俺は前田だと思う」と有田が主張したやりとりが、2人の関係の始まりだった。
■UWFのキックを漫才のツッコミになぞらえ例える有田
Amazonプライム・ビデオで配信中の『有田と週刊プロレスと』は、毎回1冊の週刊プロレスをテーマに有田が語り、プロレスから学ぶべき人生の教訓を伝授するという趣旨の番組である。
12月12日配信回が取り上げたのは、№170(1986年11月4日号)の週プロだ。表紙に写るのは前田日明で、前田の右横には「10.9前田は時代を変えた」のコピーが踊る。
表紙を見たゲストのビビる大木は「この番組、本当にUWFが好きですよね(笑)」と感想を漏らしたが、仕方がない。若き日の有田のプロレスファンとしての嗜好を知っていれば、さもありなん。そういえば、有田がレギュラーを務める『くりぃむクイズ ミラクル9』(テレビ朝日系)や『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)に、あまりにも唐突なタイミングで前田がキャスティングされたことがあったが、あれは有田からの希望だったのだろうか。
旧来の純プロレスとUWFのスタイルの違いを、有田はお笑いを引き合いに出して例えた。
有田「(手を前にプッシュしながら)こういうキックですよ、プロレスは。それが(手の甲を下げてしならせながら)こういうキックになったわけですね。“パチーン!”っていう。そうなりますと……こう言いますと誤解もされますけど、痛いですわねえ(笑)」
大木「結構、勇気のある発言ですねえ、有田さん(苦笑)」
有田「お笑いのツッコミなんかで“バカヤロウ!”って叩かれると“痛いなあ”くらいかもしれないですけど、“それじゃあツッコミになってないから”ってグーでバン! と殴るみたいな。バットでやるみたいな。入院したりケガするかもしれない。相手を倒さなきゃいけないプロレスなんだけど、だけど本当に潰してしまったらダメ。闘いを通じてお客さんに感動とか喜びを与えたいということですから」
プロレスの二重構造をオブラートに包んで伝えながら、同時に本質も説明しようとする有田。新日本プロレスとUの間にあった摩擦もうまく説明している。当時、Uの迎撃部隊として頻繁に駆り出された越中詩郎は、かつてを振り返ってこんな感想を述べている。
「高田(延彦)とか山崎(一夫)とか、強烈だったですね、うん。あのね、目がついていかないんですよ。ああいう蹴り、食らった事ないですからね」(『プロレス狂宣言~涙と歓びのリングベル』/ビー・エヌ・エヌより)
■前田日明の語り部と化す有田
1986年10月9日に、猪木のレスラー生活25周年を記念したイベント『INOKI 闘魂 LIVE PART I』が開催された。メインイベントは猪木による異種格闘技戦。相手は、元ボクシングヘビー級チャンピオンのレオン・スピンクス。そのアンダーカードとして組まれたのが「前田日明vsドン・ナカヤ・ニールセン」の一戦だ。
荒れた少年時代や新日との軋轢を振り返る際、“セルフ語り部”となり、発信する自己プロデュース力を前田は持っている。ニールセン戦での新日の対応について、前田は不信感をあらわにした。
「ニールセン戦が決定したのが2週間前で、そんで新日本側にニールセンっていうのがどんな試合やってっか聞いてもわからない。負けるわけにはいかないから資料をくれって言ったらプロマイドが送られてきて(苦笑)」(「週刊プロレススペシャル6 プロレスVS格闘技大戦争!」/ベースボールマガジン社より)
有田が「柴俊夫さんに似てる」と評したニールセンだが、資料が不足していた前田は相手の顔さえ把握し切れていなかった。
「最初、顔さえわかんなかったから“ドンな顔やニールセン”って言ってたんだけどね」
「ほんで試合のビデオもって言うんだけど全然くれないんだよ。(海外から試合のビデオを取り寄せて)見てみたら(キックボクシングの)現役のチャンピオンで、いま旬の選手だと。それで一番の武器はなんですかって聞いたら左のストレートだって。そこでやっとサウスポーってわかった」
この時の前田と新日のせめぎ合いについて、できるだけニュートラルな立場で有田は解説しようとする。
「異種格闘技戦をやる以上、相手がどんな選手なのかビデオを見て研究だとか、トレーナーを付けて……っていうことをやらなきゃいけないんです。いつものプロレスじゃないですから。猪木さんは当然始めてます。でも、前田さんには来ないんですよ、資料が。これについて、前田さんは思うんです。“新日本プロレスのやり方だ”と」
「あくまで、裏読みですよ? 猪木さんはヘビー級のレオン・スピンクスに勝って、前田さんは苦戦して負けたりなんかしちゃって。そしたら、今は“前田スゲーな”となってるんだけど“やっぱ猪木だな!”と。だから、あえて比較するように異種格闘技戦を2本並べてるわけです。相手(の資料)も、あえて出さない」
前田も、その意図については理解していた。
「ああ、これは俺へのあてつけで、差を見せてやろうっていうのがわかったから、負けられないなと思って」
■有田によるUWFの掘り起こし作業
前田 vs ニールセン戦の試合内容について語る有田。この試合は何度も見たと、彼は胸を張る。
1ラウンド開始早々、ニールセンの左ストレートが前田の顔面を捉えた。
「前田さん、実はそこから記憶がないらしいです。そこからは本能で闘ってたらしいです。まあ、ニールセンがいいですもんね。かませ犬じゃないです。ニールセンって強いんです。なんとか関節技に持ち込もうと足を取ろうとしてもバーンって外して、パンチ、キックを放ってくる」
結果、この試合は5ラウンド2分26秒に、逆片エビ固めで前田が勝利を収めた。
「“スゲーな、前田!”って話になって。しかも、試合が面白いの。異種格闘技戦にありがちな膠着試合じゃないの。投げもあるし、キックもあるし」
一方のメインイベント、猪木vsスピンクスはどうだったか?
「まず、スピンクスがすごい太ってました。動きも鈍いんですよね。ダラダラと8ラウンドまで行って、まさかの体固めで猪木が勝ったという。僕も覚えてないんです、それくらいひどい試合だったんですよ。もう一回見ようって気がないから、見たのはこの一回だけだったと思う」
有田の感想は、当時のプロレスファンの総意だ。前田との対戦を猪木が避けたために猪木vs前田は実現しなかったが、週プロは緊急増刊号(86年10月25日増刊号)の表紙コピーで「前田、猪木に勝つ!」とストレートに断言。この一文に対して、当時の新日本から編集部へクレームが寄せられたそうだが、ファンとしては週プロの英断を評価するべきだろう。
「どうなりましたか、もくろみは? こっち(猪木の試合)が盛り上がり、こっち(前田の試合)がシラケちゃうのか。真逆です。“猪木はもう終わったな。前田はスゲエな”。その時に付いた称号が“新格闘王”。言っときますけど、猪木さんをバカにしてるわけじゃなくて、猪木さんの全盛期を越えた後だから、こういうことが起きてるわけですけども」
プロレスの過去の名勝負を今のファンが見ても、おそらくピンとこないケースも多いはずだ。当時を生き、当時の時代性の中で生きた人が語り部となり、思い入れを盛って語ってこそ、ようやく帳尻が合うというか。
昨年以降、掘り起こし作業が頻繁に行われるUWFだが、前田に思い入れを持つファンとしての立場から有田がUを掘り起こした回顧回であった。
(文=寺西ジャジューカ)