放送開始直前に嵐・二宮和也と伊藤綾子アナウンサーとの熱愛継続報道が出るなど、盛り上がってるのか、はたまた水を差されたのか、よくわからない感じで始まった日曜劇場『ブラックペアン』(TBS系)。初回の視聴率は13.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、そこそこでした。
昨年放送された、同じく“福澤組”による日曜劇場の『陸王』初回が14.7%だったので、TBS的にはちょっと物足りない数字かもしれません。とりあえずの目標は、最終回までに20%の大台に届くかどうか、というところでしょう。張り切ってレビューしてまいります。
■スタート3分で臓物ドーン!
聞けばこの『ブラックペアン』は、『陸王』と比べるとカット数が3倍にも上るんだそうです。なるほど冒頭からカチャカチャと画面が切り替わり、緊迫した雰囲気で始まりました。
そして、開始3分で早くも手術開始。グロい臓物ドーン! これは、「『ブラックペアン』は臓物見せていきますよ」というドラマからのメッセージです。
「苦手な人は早々にドロップアウトしてくださいね、“本格医療ドラマ”ですので」ということですね。「グロすぎ!」「お食事時に見られない」などといった批判はお門違いだということです。
冒頭で、舞台となる東城大学医学部附属病院の佐伯教授(内野聖陽)が“神の手”を持つ世界一の心臓外科医であることが語られ、その直後に主人公・渡海(二宮和也)が、その佐伯教授より優れた手技を見せる。キャラクターたちの背景がどうだ、人間関係がどうだ、という説明より先に、とりあえず「強いヤツ」と「俺より強いヤツ」を見せてしまうというのは、アクション作品の手法ですが、この作品にはよく合っていたと思います。手術シーンも複数出てきますが、先に述べたカットの多さもあって、まるで殺陣を見ているよう。ニノの手さばきも様になってると、素人目には映りました。
■描写は“本格”でも、物語は……
このドラマの原作は、現役医師でもある海堂尊さんが2007年に発売した『ブラックペアン1988』(講談社)の新装版。数々の映像化作品が生まれた『チーム・バチスタの栄光』シリーズのスピンオフ作品で、同シリーズで活躍していた田口公平や速水センター長も、研修医(原作では医学生)として登場します。要するに「バチスタの20年前を描いた時代劇」としての『1988』なわけですが、「20年前」という設定は、ドラマではバッサリなくなっています。なので、タイトルは『ブラックペアン』だけ。
“福澤組”で原作モノといえば、とにかく「勧善懲悪」を際だたせるのが特徴です。悪そうなヤツ、主人公を邪魔しそうなヤツをデフォルメして、視聴者に「嫌なヤツだなー」というイメージを強く刷り込んだ上で、正論でブッ叩く。そこに爽快感やカタルシスを生むのがメソッドとなっています。
しかし、こと『ブラックペアン』においては、その図式に少しのネジレが生じていました。
主人公の渡海が天才的な手技を持つ外科医であり、出世に興味がなく、物言いや人使いが乱雑で、「腕のない外科医に価値はない」という考え方を持っていることは原作通りですが、ドラマ版ではその“悪たれ”ぶりがさらにデフォルメされています。
象徴的だったのが、劇中、渡海にとって初の手術となるシーン。同僚のミスをリカバリーすることになった渡海は「1,000万円でもみ消してやろうか?」「お前の退職金で払え」と、開腹したまま出血し続ける患者の横で、ミスした医師に迫ります。そして手術に入り、見事にやり終えると、その同僚は本当に1,000万円をふんだくられてしまう。常識的に考えて、いくら腕がよかろうと許されることではありませんし、たぶん法にも触れる行為でしょう。少なくとも、渡海はこの収入を申告せずに脱税するでしょうし、申告しているとすれば、それはそれで東城大学附属病院という組織にとって致命傷になる。半年後に日本総合外科学会の理事長選を控える佐伯教授にとって、部下が院内でこんな不適切な金銭のやり取りをしてるのは、バカでかい爆弾になる。
このへん、まさに「マンガやん!」な改編です。マンガの悪役──もっといえば、日本中の視聴者に『ブラックジャック』を思い起こさせるためのシーンでしょう。大学病院の勤務医である渡海に「闇医者」のイメージを、これでもかと刷り込んでいきます。
図式のネジレというのは、ここにあります。これまで「悪を、より悪に」描くことで、それらの悪が打倒される展開を重ねてきた“福澤組”が、例えば『陸王』では一流メーカーの従業員を演じたピエール瀧や小藪千豊に施したような「悪のデフォルメ」を主人公・渡海に与えている。周到に、悪いエピソードを積み重ねている。
ところが、渡海は印象として、そんなに悪そうに見えません。小藪ほど憎たらしくありません。なぜか。ニノだからです。
■デフォルメされたのは内面だけではない?
ドラマ発表前、原作読者の中で「渡海=二宮和也」をイメージした人はひとりもいなかったはずです。同じ30代の俳優でも、たとえば綾野剛、山田孝之、松田龍平、瑛太、玉山鉄二……同じジャニーズでもTOKIOの長瀬智也のほうが似合いそうですし、同じ嵐でも松本潤の方が似合いそう。いわゆる「汚れ」のイメージがないニノは、渡海の対極にあるように思えるんです。
ですが、この「悪たれ」ぶりがデフォルメされた渡海を、上記のような俳優たちが演じるシーンを思い浮かべてみると、ちょっと笑えないというか「マンガやん!」なんて気安くツッコめる気がしません。松田龍平が、あの冷たい視線で「死ね」とか「邪魔」とか言ってたらホントに怖いし近寄りたくないし、綾野剛が「1,000万円でもみ消してやるよ」とか脅してたら、もう手術室じゃなくて歌舞伎町の路地裏になってしまう。
でも、ニノだと、なんか平気で馴染んでしまっているように見える。
つまりこれは、「カネにまみれた闇医者」という悪役のデフォルメとして、立ち姿までもが画面の中で成立してしまっているのではないか、と感じるんです。ニノ演じる渡海は、綾野剛や長瀬智也の頭身を下げたヤツなんじゃないか。SDガンダムならぬSD渡海、今風にいえば、渡海ねんどろいど。手のひらサイズの、ゆるキャラとしての渡海征四郎なのです。だから怖くないし、憎めないし、楽しめる。この渡海は、愛せる。これ、ニノの低身長、低頭身を貶めてるわけではないですよ、念のため。この可愛げが、主人公としての存在感を強めていると言いたいのです。
■ストーリーもオリジナル成分が多くなりそう
渡海のデフォルメ以外にも、多くの改変部分が見られます。渡海のライバルになりそうな帝華大(東大みたいなの)からやってきたスマートガイ・高階講師(小泉孝太郎)は、原作では終始スマートガイでしたが、ドラマでは1話目から出血にビビってペアンも握れないという醜態をさらしました。
原作は渡海、高階、佐伯教授の3人を中心にした群像劇&ミステリーでしたが、ドラマではまず高階がひとつ“格の低い”人物になったということです。基本的には、縦軸である渡海と佐伯教授の関係と、佐伯教授だけが使える「ブラックペアン」をめぐる過去の因縁を追いかけつつ、患者入れ替わりの1話完結に近い形を取りそうな気がします。医療ドラマは、どんなお話であれ、少なからず患者に共感できるものですし、本作の語り手である研修医・世良(竹内涼真)の性根がよさそうなので、気持ちよく追いかけることができそうです。
あと、原作では製薬会社のプロパーが渡海たちに貢物や豪華接待を繰り広げていましたが、ドラマでは治験コーディネーターの香織(加藤綾子)が一手に引き受けるみたい。余談なんですが、このカトパン、なんか妙にエロかった気がします。妙に。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)