
(これまでのお話はこちらから)
働きたくないながら、彼女の圧力がいよいよ凄いことになってきたヒモ男。そんな私に、新たな危機が迫っていた。
働かないヒモ男は、当然ヒマを持て余している。そんなヒモ男の頼れる味方が、プレステだ。某アイドルがCMをやっている、「〇〇ないと!」なシューティングゲームをやりまくる日々。このゲームは無料ダウンロードできるので、貧しいヒモでも心置きなく遊び倒せるのだ。
彼女の部屋で、彼女のテレビにつないだ、彼女のプレステのコントローラーをガッチャガッチャ鳴らして遊んでいる私に、彼女が言い放った。
「ゲームしすぎ。明日、会社にコントローラー持っていくから」
絶望した。「やだやだやだやだ」とじたばた抵抗するも、拳で鎮圧された。
こうして、教育ママの如くコントローラーを彼女が没収し、私はヒマつぶしの手段を失ったのであった。
早急にコントローラーを買い直さなければならない。奪われることのない、自分のコントローラーを手に入れる必要がある。
そのためにはお金が必要で、哀しいかな、お金を得るためには働かなければいけないのだ。
しかし、働きたくないし、ここで素直に働く人間ならコントローラーを没収されていない。
苦悩する私の頭に、天啓が降りた。
そうだ。パチンコで勝てば、働かずにお金が入るし、ヒマつぶしにもなって一石二鳥。
ここで焦ってパチンコを打ちに行くのは、三流のヒモである。二流のヒモは、どうすれば勝てるのかを、入念にシミュレートする。なお、一流のヒモは彼女にコントローラーを取り上げられたりはしない。
まず、基本的なパチンコの仕組みを考える。
お金を入れる。玉が貸し出される。その玉をガラガラ打つと、何発かが機体の真ん中にある穴に入る。穴に玉が入った数だけ、スロットが回る。このスロットが揃うと、玉が増える。
このスロットの当たりやすさと、当たったときに増える玉の多さを表すのが、スペックというデータである。
細かい話をすっ飛ばし、ザックリ説明すると、次のようになる。
データを入念に読み解くと。1,000円で真ん中に20発以上入るなら、期待値はプラスで、打ち続ければいつか儲かる。という感じの、機種を見つけることができる。
必勝法と言えるだろう。
意気揚々と近所のパチンコ屋に出向いた。そして、その日のうちに7,000円ほど勝ってパチンコ屋を後にした。
タバコを吸いながら、ハンドルに指を引っ掛けて固定して、スマホを眺めているだけで、7,000円である。
私は思った。私は天才なのではないかと。これならパチンコを打っているだけで生きていけると確信した。
翌日、有り金の全てを握りしめ、朝イチで同じ店に入った。
狙い通り、前日と同じ台をゲットした。
ガラスに鼻の皮脂がつくほどベッタリ密着し、釘が変わっていないか一本一本チェックした。周囲の客が怯え、離れていく気配を感じながら、気が済むまで念入りに確認。釘は変わっていなかった。
一日中、その台を打ち続け、収支2万円ほど勝利を収めた。玉満載の箱が背後に積み上げられていくたびに、鼻の穴が膨らむのを感じた。
コントローラーを取り上げたのに、平然としている私を不思議そうに見ている彼女の様子に、笑いをこらえるので必死だった。
翌日も、朝イチで同じ台を確保。親の顔より見た釘だ。変わっていないと、確信を持って言える。
順調に玉は機体の真ん中に入っていき、スロットは回っていく。しかし、ここで異変があった。
抽選を平均300回すれば大当たりになるはずなのに、500回を超えても一向に当たる気配がない。
しかし、ここまで回したのだから、じきに当たる。むしろ、ここで台を移動して他の人にカッさらわれる方がもったいない。
執念で回し続け、なんとか当たりを引く。が、ぶち込んだ金額に対して、戻ってくる玉はあまりに少ない。
そこで引いては、負けで帰ることになる。許容できなかった。
期待値はプラスなのだ。一時的にヘコむことがあっても、回し続ければ勝てる。
そう信じ、打ち続けること半日。威勢よくガラガラ鳴っていたパチンコ台は、スカンッスカンッスカンッと虚しい空打ちの音を響かせていた。
残金、700円。持ち玉、0発。
いつの間にか、全てを失っていた。期待値はプラスだったはずなのに。なぜか、圧倒的大敗北を喫していたのだ。
これは、遠隔操作をされたに違いない。私は店の天井を睨みつけた。が、蛍光灯がまぶしくて、目がチカチカしたのですぐにやめた。
遠隔操作とは、パチンコ界隈の都市伝説で、勝っている客がいると、店員がバックヤードから操作して、当たり確率を下げるというものだ。ありそうだ。いかにもありそうだ。
私は脳内で激怒した。必ず、かの邪智暴虐なパチンコ屋の企みを除かんと。鼻息荒く家に帰ると、彼女に宣言した。
「俺、バイトする」
そのパチンコ屋でバイトをし、内側から遠隔操作の真実を暴くのだ。
こうして、私はとうとう働くことになったのである。
(文=窪田ショウ/第5話へつづく)
●窪田ショウ
勤労意欲は、タバコと一緒に燃やしてしまった現役のヒモ。楽をしようとすればするほど、妙に大変なことに巻き込まれるのはなぜだろう。
