コミカライズが物議の『ヒプノシスマイク』、同人イベントはお通夜か、はたまた大盛況だったのか?

 オタクコンテンツは「ちょっとしたブーム」という言葉では収まりきらない、一時代を牽引する「覇権コンテンツ」がたまに生まれる。女性向けコンテンツにおいて今、覇権に近い位置にいるのが男性声優によるラッププロジェクト『ヒプノシスマイク(以下ヒプマイ)』だろう。2017年9月のサービス開始からおよそ1年、それまでラップとドラマが収録されたCDとライブだけという絞った供給でオタクの妄想を掻き立てて続けてきたが、一転、18年12月より3誌でコミカライズ展開といういきなりの超供給に舵を切った。しかし、その肝心のコミカライズの内容は物議を醸している。コミカライズでヒプマイは詰んでしまったのか、レポートしたい。

■「ヒプマイはコミカライズで終わった」とググれば、
  同じ考えの人しか引っかからない

 まず、個人的にはヒプマイのコミカライズにはがっかりしており、百瀬祐一郎氏(ヒプマイシナリオ担当)は私の中で「買い換えたばかりのスマホを紛失して欲しい人ランキング」上位にいるほどだ。

 ネットを使えばコミカライズにがっかりした人の声や、大きくバズった批評ブログも簡単に見つけられる。こういったものを見て「そうそう、やっぱり百瀬氏は買い換えたばかりのスマホを紛失すべきだし、スマホカバーに買ったばかりの六カ月定期もはさんでて欲しいよね」と自分の意見を強化させるのはネットの楽しさでもあるが、ネットの短所でもあり恐ろしさでもある。

 ネットは検索で同じ意見の人を見つけやすく、そのため、自説により固執してしまいがちだ。しかしそれはあくまで自分の検索で作り出した仮想世界であり、実態から乖離しているかもしれないのだ。

 それでは実態はどうなのか。著者は物議のコミカライズから約1カ月後の19年1月27日に、全国の都市部で各種同人イベントを主催する赤ブーブー通信社が主催のヒプノシスマイク同人イベント『Crazy Lyric Battle 2』に参加した。

 こちらは同日、多くの他ジャンルの同人イベントも併催される同人誌即売会だ。赤ブーブー通信社の発表によると、当日の参加サークルは14,201、そのうちヒプマイでの参加サークルは1,556と、二次創作において最多だった。

 ただし『Crazy Lyric Battle 2』のサークル申し込み締め切りはコミカライズ発表前だった。それからコミカライズが発表され、ガッカリして筆を折ったサークルもいるかもしれないし、欠席した人だっているかもしれない。

 当日、実際にイベントの様子を見てみたが、感想は「ヒプマイ、限りなく覇権」だった。著者はいくつかの同人ジャンルで同人誌を買ったり、また、同人誌を出す側になることもある。しかしこれだけ人でごった返したイベントは初めて見た。少なくともイベントの雰囲気で見る限り「コミカライズでお通夜」どころか、大盛況だったのだ。

 

■若者が多いジャンルは短命なのか?

 また『Crazy Lyric Battle 2』における来場者や、同人サークルの大多数が20代に見え、若々しかった。

 ファンが若者中心のジャンルは廃れやすいとも言われる。しかしこれも本当だろうか。若者は移り気だからというのがこういった意見の根拠で挙げられるが、飽きっぽい中年もいる(ソースは自分)。ただ、加齢に伴い腰が重くなるため中高年は一途に見えがちな傾向はあるとは思うが。

 むしろ「若者が多いジャンル」ならでは利点もあるだろう(当原稿において、若者とは「新社会人~アラサーまで(30ちょいすぎ)」とする)。まずメリットとして、この世代は、中年よりも確実に金を落とすと思う。

 これが「学生」まで若くなると、西野カナばりに震えるほど金がなく、東京ビッグサイトに行くまでのりんかい線やゆりかもめの、あの微妙に高い運賃でもうライフが削られてしまうだろうが、働き出し、かつ親元で暮らすなど低コストだったり、勤務先の給料がよければ、財布は一気に火を吹くことができる。

 収入が増えること以外にも、そもそも若者は中高年より消費に意欲的だ。自分が20代のころを思い出しても、学生時代から使えるお金が増えたことでの消費へのピュアな喜びがあったと思う。

 私は本来ドケチで、家でネットしながらビール飲めれば何もいらないし、オタクのわりに収集癖もコンプ欲もまったくない。そんなドケチでも20代はお金を使える喜びで結構あれこれ買っていた。デパートの一階で化粧品を買うなど、お金を使うことで世界が広がっていくことが嬉しかったのだ。

 ただ、これがさらに年を取りアラサーを超えると「子どもなど、オタ活より優先順位の高い課金対象ができる」など社会的事情でオタ活への課金を抑えざるを得ない人も出てくる。

 また、そういった事情がなくても、あれだけ熱狂的にものを買っていた「消費だんじり祭」のテンションは年とともに薄れていく。化粧品はドラッグストアで十分だ、など、それぞれが自分の好みやこだわりに応じ、出費のオンオフのスイッチを調整できるようになっていく。「熱狂」を失う代わりに「分別」がついてくるのだ。

 もちろん大人でも分別をつけられない人もおり、多重債務者からのウシジマ君コースになれる才能があるともいえる。しかしそんな、いくつになっても金をパカパカ楽しそうに使う人は、消費への熱狂を失っていないのだ。気持ちが若いとも言え、生まれてこの方ドケチの私からしてみれば皮肉でなくまぶしくも思う。

 話を戻すと、ヒプマイは『Crazy Lyric Battle 2』で見る限り、「消費だんじり祭」真っ最中で山車が曲がり切れず民家を破壊するような元気がハツラツすぎる世代が支えているのだ。金を出すことに意欲的なファンが多い、というのは公式にとってこれ以上ない追い風だろう。覇権は目前だ。

 さらに若い世代は中年世代と違い、体力という天からの期間限定ギフトがある。公式が放っておいても、やれ公式のあのグッズを買った、コラボグッズを買った、コラボカフェ行っただのハイカロリーでつぶやいて、勝手に公式の広報担当もしてくれるのだ。

 ヒプマイが供給を絞っていたころ「ソシャゲはイベントとか日課とか、追うのが大変だから、ヒプマイの供給の少なさって楽でいい(※ただしヒプマイは19年にソシャゲ化も発表している)」という意見があり頷いていた。

 しかし、ヒプマイは一転して過剰供給に舵を切った。最初のスタンスから随分違うが、もしこの転向の理由が「特にそこまで考えてなかったでーす」なら私は泣いてしまうだろうから、まだ「もともとこうするつもりだった。ついてこれん奴は置いていく」という理由であってほしい。

 今のヒプマイのような「若者が支えるジャンル」のパワーと瞬発力は最強と言える。ただ、息の長い老舗ジャンルを見ると、やはり世代にしっかりと幅がある印象だ。「若者も若くない人もいて、新規さんもいつでもウェルカム」というジャンルと、そんなジャンルで楽しそうにしているオタクを見ると本当に幸せな気持ちになるので、同人誌即売会のときは用もないのにいい感じのジャンルのスペースをうろうろ歩いたりしている。ヒプマイは「覇権」から「老舗」に移れるだろうか?

 

■ヒプマイが覇権に近いのは、対抗馬がいないから?

 ヒプマイは『Crazy Lyric Battle 2』を見る限り、豊臣秀吉で言うなら「もうすぐ小田原攻め」くらい覇権は間近だと言える。コミカライズにケチをつけてた勢は傍流だったのかもしれないが、しかし「そもそも、今ヒプマイの対抗馬がいない」という現状も忘れてはいけない。

「ヒプマイのコミカライズの内容が残念だったから、私はオタクをもう引退します」とステージにマイクを置きカタギに戻る気骨のあるオタクはそうは見かけず、たいていあるジャンルに失望したオタクは、別のジャンルに流れていく。オタク趣味はシャブみたいなもので、効き目があり過ぎてほかのもので埋めることができず、簡単に辞められないのだ。

 今のところヒプマイの対抗馬になりうるジャンルは見た限りなく、また、既存の他ジャンルが急に大化けすることも考えにくい。『名探偵コナン』も次の映画に安室さんは出ないようだ。

 3カ月ごとに新アニメは出るものの、アニメの人気は水モノな傾向もあり、第一、3カ月たてば終わってしまう。その点プロジェクトであり、供給タイミングを調整できるヒプマイのやり方はうまい。

 ただ、何もオタク界隈に限らず、ライバル不在の一強状態は胡坐をかきがちになってしまうため、望ましくない。個人的にはこのコミカライズを続けていたらファン層をごっそり持っていかれるとヒプマイ公式が青ざめ、テコ入れに乗り出してくれるような「とんでもないライバル」の爆誕を願わずにはいられない。

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])

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