2018年に放送された池松壮亮主演ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)の最終回を観て、視聴者の多くは「えっ、これで終わり?」と戸惑ったのではないだろうか。漫画家・新井英樹がバブル時代の1990年~94年に連載した原作コミックの前半部分にあたる“サラリーマン奮闘編”しかドラマは描いていなかったからだ。ドラマの終わりに「劇場版『宮本から君へ』の公開決定!」という告知があるのではとエンディングまで見届けたものの、それもなかった。原作のあの怒濤のクライマックスはどうなるのだ、というモヤモヤ感が残った最終回だった。
バイオレンス青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で日本映画界に殴り込んだ新鋭・真利子哲也監督でも、『宮本から君へ』後半パートの映像化は無理だったか……。あれだけ過剰なエピソードが満載なら仕方ないよなと諦めていた矢先、物分かりのよくなった自分を揺さぶるようなニュースが伝わってきた。『宮本から君へ』はまだ終わっていない。劇場映画の製作が進行していると。やってくれるじゃないか、宮本浩! そして池松壮亮&真利子監督! テレビでは不可能だった大胆な性描写や過激なバイオレンスシーンを盛り込んだ映画『宮本から君へ』がようやく公開される。もちろん、原作連載時に物議を醸したクライマックスまでを描いた完全版としてだ。
本作の主人公・宮本浩(池松)は飯田橋にある小さな文房具会社に勤める平凡なサラリーマンだが、映画では宮本が働く姿はほぼ描かれない。職場の先輩・神保(松山ケンイチ)に誘われた飲み会で出会った年上のOL・中野靖子(蒼井優)と鋭い刃物で斬り結ぶかのような激しい恋愛ドラマ、いや愛憎劇となっている。とにもかくにも池松と蒼井の放つ熱量がハンパない。
テレビシリーズ(全12話)の終了から1年3カ月を経ての公開となった、劇場映画『宮本から君へ』。テレビシリーズ終了後に制作体制が変わるなど、劇場版までの道のりは尋常ではなく大変だったようだ。だが、そんな舞台裏の苦労をまるで感じさせないほど、池松はドラマを遥かに上回る狂気性をはらんだ熱気を放ち、そして蒼井ががっちりとその熱さを受け止めてみせる。この2人が主演したからこそ成立した映画だと言っていい。
原作を読んでいる人なら「よくR15で映画化できたな」と思うだろう。映画の序盤、靖子の元彼・裕二(井浦新)を部屋から追い出し、ようやく結ばれる靖子と宮本。だが、恋人として過ごす時間は束の間だった。2人の前には、あまりにも大きな試練が待ち構えていた。宮本の取引き先の会社の真淵敬三(ピエール瀧)との飲み会で、宮本は痛飲。飲み会に参加していた靖子と一緒に宮本は、敬三の息子で大学ラグビーのスター選手だった拓馬(一ノ瀬ワタル)にアパートまで送ってもらう。事件はその夜に起きた。宮本が泥酔して眠っている間、靖子は拓馬から暴行を受ける。翌朝、目が覚めた宮本は地獄に突き落とされた気分だった。いや、靖子は宮本とは比べものにならない苦痛を強いられていた。
最高の理解者と巡り合えた喜びを噛み締めていた宮本と靖子だったが、この事件以降は顔を合わせる度に傷つけ合うことになる。しかも、靖子は妊娠していることが分かる。この後の展開をストーリーだけを追っていくと、自分の愛する女を、そして男のプライドを踏みにじられたら宮本が体格で圧倒的に上回る拓馬へのリベンジを挑む――という流れとなる。だが、リベンジを果たせば、靖子の心の傷は癒やせるのか。2人は元の関係に戻れるのか。現実的にそれは絶対にありえない。映画『宮本から君へ』が描こうとしているのは、決して復讐の物語ではない。その先にあるものを宮本と靖子は掴もうとする。
テレビシリーズに続き、宮本の上司・小田課長役でほっしゃんこと星田英利が出演している。出番は少ないが、映画のキーワードを小田課長は宮本に向かって口にする。
「みんな敵や思うたらええやんか。千人でも万人でも敵に回したれや。カッコ家族も含むカッコ閉じるや」
家族も恋人も100%の味方ではない。むしろ、大きな障害となることが多々ある。それでも、宮本は腹を括る。『宮本から君へ』は新しい家族をつくる上で宮本が、そして靖子が腹を括って、覚悟を決めるまでの葛藤を描いた物語だ。映画のクライマックスにおける池松と蒼井の熱い演技に触れることで、原作者・新井英樹が25年前に描こうとした物語の真意に気づかせられる。
平成生まれの池松は平成の終わりに本作に主演し、蒼井は独身時代の終わりを本作で飾ることになった。映画『宮本から君に』は新しい時代を迎えるための、どでかい打ち上げ花火のような作品だ。平成時代によくあった人気テレビドラマの劇場版でしょ? そう思った人がこの映画にうかつに近寄ると、確実に火傷をするだろう。バブルという時代の風潮にうまく馴染めずにいた男・宮本浩が令和という新しい時代になって帰ってきた。サラリーマンとしての評価は相変わらずダメダメな宮本だが、男としての度量は遥かに大きくなって帰ってきた!
(文=長野辰次)

『宮本から君へ』
原作/新井英樹 脚本/真利子哲也、港岳彦
主題歌/宮本浩 監督/真利子哲也
出演/池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、星田英利、古舘寛治、佐藤二朗、ピエール瀧、松山ケンイチ
配給/スターサンズ、KADOKAWA R15+ 9月27日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
(c)2019「宮本から君へ」フィルムパートナーズ
『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!







