観る人によっては、この世の楽園のように感じられる。だが、別の人が観れば、そこは底の割れた地獄の一丁目のようにも感じられる。粂田剛(くめた・つよし)監督が撮った劇場デビュー作『なれのはて』は、観る人によってまったく異なる印象を与えるドキュメンタリー映画となっている。本作のテーマは「困窮邦人」。海外での生活に困窮し、日本に帰国することができなくなった日本人のことを指している。フィリピンのスラム…
「パンドラ映画館」カテゴリーアーカイブ
伝説の“美少年”を追った残酷なドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』に見るアイドルの苦悩
アイドル(idol)とは「偶像」のことであり、日本では今も昔も、お気に入りのアイドルを崇拝する人たちが多い。アイドルを崇めている間は、世知辛い現実世界のことを忘れることができるからだ。しかし、「アイドル」が生きた人間、特に思春期の若者の場合、多くの人たちから崇拝の対象として扱われることは、本人としてはどんな心境なのだろうか。スウェーデン製作のドキュメンタリー映画『世界で一番美しい少年』(英…
ロンドンという街が若者の夢を搾取する恐怖 『ラストナイト・イン・ソーホー』
音楽もファッションもキラキラと輝き、まぶしく感じられた1960年代。若者たちを中心にしたポップカルチャーが花開いた時代だった。タイムトラベルできるのなら、誰しも一度は覗いてみたいと思う時代だろう。だが、憧れの人と間近に接すると、その人の意外な影の一面に気づいてしまうもの。憧れの時代も同じだった。エドガー・ライト監督の新作映画『ラストナイト・イン・ソーホー』は、「スウィンギング・ロンドン」と…
ネット時代の“仁義なき戦い”を描いた野心作! 名簿ビジネスをめぐる和製ノワール『JOINT』
映画は時代を映す鏡だと言われているが、なかでも犯罪映画は現代社会をひときわ鮮明に映し出すジャンルとなっている。暴排条例が全国的に施行された2011年以降、目立った活動ができなくなった暴力団に代わり、“半グレ”が跋扈するようになった。ヤクザでもなく、カタギでもない、どちらにも属さない“半グレ”男の生き様をクローズアップしたのが、小島央大(こじま・おうだい)監督のデビュー作『JOINT』だ。拳…
田中みな実『ずっと独身でいるつもり?』 相手の価値観に合わせて生きることの息苦しさ
写真集『Sincerely yours…』(宝島社)が60万部を超えるベストセラーとなった、元TBSアナウンサーの田中みな実。「美のカリスマ」として、また「あざとかわいさ」で同性からの支持を集めるようになった田中みな実の、女優としての初主演映画『ずっと独身でいるつもり?』が11月19日(金)より公開される。30代半ばとなり、周囲から結婚をせかさせる独身女性の生きづらさをテーマに…
『ドーナツキング』はアメリカンドリームの味? スイーツに隠された虐殺とアジア難民の歴史
ドーナツほど、カジュアルでありながら深みを感じさせるスイーツは他にはないだろう。おやつにも軽食にもなり、その甘さは食べた人に祝祭感を与えてくれる。また、環状の形は数字の「0」を思わせ、世界の始まりと終わりを暗示しているかのようだ。法廷時代劇『最後の決闘裁判』が公開中のリドリー・スコット監督が製作総指揮したドキュメンタリー映画『ドーナツキング』(原題『The Donut King』)は、年々…
男はなぜ“危険な女”に手が伸びてしまうのか? 万田邦敏監督が描く恋愛奇談『愛のまなざしを』
映画という虚構世界では、“狂った女”はとても美しい存在としてスクリーンに映し出される。万田邦敏監督の恋愛サスペンス『接吻』(08)は、狂気によって研ぎ澄まされた小池栄子の美しさが脳裏に焼き付く映画だった。同じく万田監督が撮り、仲村トオル、杉野希妃、斎藤工が共演した『愛のまなざしを』も、常軌を逸した恋愛の行末が描かれている。
万田監督の待望の新作『愛のまなざしを』は、小さな精…
不気味すぎる実写映画『ほんとうのピノッキオ』 大人たちに搾取される社会的弱者を描いた寓話
嘘をつくと鼻がぐんぐん伸びる木彫り人形を主人公にした児童文学『ピノッキオの冒険』は、誰もが子どもの頃に絵本やアニメーションなどで親しんだ作品だろう。とりわけディズニーアニメ『ピノキオ』(40)は有名だが、ストーリーもキャラクターもディズニー作品らしくソフィスティケイトされたものとなっていた。19世紀のイタリアで書かれた原作のピノッキオはもっと欲望の赴くままに動く悪童であり、残酷描写も少なく…
森山未來と伊藤沙莉が「ロスジェネ」の恋人たちを演じる映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
ゆっくりと沈みゆくタイタニック号の中で、主人公は懸命にあがき続ける。生き延びるためではなく、自分が何者であるかを確かめるためだった。森山未來と伊藤沙莉が共演した映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、バブル崩壊後の1990年代後半から、コロナ禍によって東京五輪の開催延期が決まった2020年までの25年間、いわゆる「失われた時代」を振り返った物語だ。結婚に踏み切れずにいる恋人たちを主人…
非ゾンビ映画も怖い! ジョージ・A・ロメロ監督の“高齢者虐待”映画『アミューズメント・パーク』
ジョージ・A・ロメロ監督といえば、「ゾンビ映画の父」と呼ばれるカルト映画の巨匠だ。ロメロ監督が撮った『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)、『ゾンビ』(78)、『死霊のえじき』(85)の初期三部作はゾンビ映画の聖典としてゾンビマニアたちから愛されている。ロメロ監督は2017年に亡くなったものの、彼が生み出したゾンビたちは、映画やドラマの世界でますます増殖を続けている。
…