森達也監督の劇映画デビュー作『福田村事件』 正義に染まった集団が過ちを犯すメカニズム

 1923年9月1日、相模湾北西部を震源地とする首都圏直下地震「関東大震災」が発生した。マグニチュード7.9と推測される大地震は、建物の崩壊や広範囲にわたる火災を招き、死者・行方不明者は10万人以上という未曾有の大災害となった。

 パニック状態に陥った首都圏をさらに襲ったのが、流言飛語だった。「富士山が爆発する」「大津波がきた」という噂に続き、「朝鮮人が襲ってくる」「朝鮮人が井…

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インターン制度を悪用した企業犯罪を映画化 ペ・ドゥナが慟哭する『あしたの少女』

 インターンシップといえば、学生が就業体験できる貴重な制度として知られている。日本でも就職活動の一環として活用されていることが多い。だが、そうしたインターン生たちが、入ったばかりの職場で過酷な労働を強いられ、死に至るケースが韓国では相次いだ。インターン生が危険な業務に配属され、重傷を負った事故も報告されている。

 これらのインターン生をめぐる事件をベースにしたのが、ぺ・ドゥナ主…

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音楽ドキュメント『シーナ&ロケッツ 鮎川誠』 愛することがロックだったマコとシーナの伝説

 ロックは世間の常識にあらがうための武器だと、ずっとそう思ってきた。でも、ロックはもっと大きくて、ずっと深いものらしい。そう教えてくれたのは、福岡出身のロックバンド「シーナ&ロケッツ」の鮎川誠とシーナだった。2人の生涯を追ったドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』を観て、ロックにはつまらない常識を否定する力以上に、生きることを肯定する強く、深い力があることを知…

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“変態詩人”クローネンバーグの集大成『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

 人体解剖のマエストロ、愛と狂気に満ちたインナーワールドを描くアーティストといえば、カナダ在住の巨匠、デヴィッド・クローネンバーグ監督に他ならない。人間の頭部が炸裂する『スキャナーズ』(81)、人間とビデオが融合する『ビデオドローム』(83)、カークラッシュマニアたちの危険な楽しみを描いた『クラッシュ』(96)など、数々の名作・傑作を生み出してきた。ヴィゴ・モーテンセン主演の『イースタン・プ…

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カルト教団が題材のアニメ『オオカミの家』、アリ・アスター製作総指揮『骨』と同時併映

 南米チリに実在した「コロニア・ディグニダ」は、アドルフ・ヒトラーを崇拝したドイツ人パウル・シェーファーが設立したカルト系コミュニティとして知られている。入植家族や地元の子どもたちをシェーファーは巧みにマインドコントロールし、1960年代から40年以上にわたり、彼らの労働力を搾取し、児童への性的虐待を重ねた。

 この「コロニア・ディグニダ」を題材にしたストップモーションアニメが…

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Netflix配信『ルーシー・ブラックマン事件』 日本社会の闇に消えた元英国客室乗務員

 ブロンドヘアにブルーアイズ、身長は175cm。六本木にある外国人バーでホステスとして働いていたルーシー・ブラックマンさん(当時21歳)が行方不明になる事件が、2000年7月に起きた。ルーシーさんは来日して、まだ2カ月足らずだった。シドニー五輪を9月に控え、ルーシーさんの消息を求めるポスターが都内各地に張り出されたことを覚えている人は多いのではないだろうか。

 ルーシーさんは日…

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東映ビデオが放つ非キラキラ系青春映画『神回』『17歳は止まらない』

 安藤サクラが体を張ってボクシングに挑戦した『百円の恋』(14)、池松壮亮と門脇麦が地下風俗で出逢う『愛の渦』(14)、兄弟間の近親憎悪を描いた窪田正孝主演の『犬猿』(18)……。東映の子会社である東映ビデオは、メジャーな配給会社が手を出さないひと癖もふた癖もある作品をこれまで手掛けてきた。その東映ビデオが、新人監督たちのオリジナル企画の映画をこの夏に2本続けて劇場公開する。

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吉岡里帆主演、“理想の街”をデザインした新感覚ムービー『アイスクリームフィーバー』

 映画製作をデザインする。そんなユニークなコンセプトから生まれたのが、映画『アイスクリームフィーバー』だ。芥川賞作家・川上未映子の短編小説「アイスクリーム熱」を原案に、吉岡里帆、モトーラ世理奈、松本まりか、詩羽(水曜日のカンパネラ)といった旬のキャストを迎え、ノンジャンルな映画として完成した。

 本作を企画したのは、広告、企業ブランディング、CDジャケット、装丁、テレビドラマな…

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“浅草キッド”の世界は実在する! 芸で結ばれた表現者たち『絶唱浪曲ストーリー』

 ビートたけし原作、劇団ひとり監督によるNetflix映画『浅草キッド』(22)は、寄席の世界で生きる師匠と弟子の濃密な関係を描いた実録ドラマとして人気を博した。同じく浅草にある古い演芸場を舞台にしたドキュメンタリー映画が、川上アチカ監督の『絶唱浪曲ストーリー』だ。知る人ぞ知る大ベテラン浪曲師・港家小柳(五代目)に弟子入りした港家小そめの視点から、浪曲という大衆芸能の世界が魅力的に描かれてい…

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山田杏奈、森山未來が“山人”を演じた『山女』 日本人のアイデンティティに迫る異色作

 岩手県遠野地方は四方を山々に囲まれ、さまざまな不思議な伝説が言い伝えられている。民俗学者の柳田國男がこれらの逸話を編纂したのが『遠野物語』だ。遠野で暮らす人々が自然と共存し、神々を崇め、そして恐れながら生きてきたことが分かる。

 明治時代末期に刊行された『遠野物語』に着想を得て映画化したのが、山田杏奈、森山未來、永瀬正敏、三浦透子らが出演した『山女』だ。米国での生活が長かった…

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