インスタグラムのパクリ暴露アカウントの正体 実は”ブランド”をリスペクトしていた?

――ブランドのパクリをズバズバと指摘していくインスタグラムの人気アカウントが存在する。しかし、ファッション業界は恐れおののくばかりではなく、奇妙な関係も生まれていた。

 前記事でも触れた通り、グッチの袖が膨らんだファージャケットと、ダッパー・ダンがデザインしたジャケットがそっくりだと指摘したインスタグラムのアカウント「Diet Prada」。2014年12月に開設されて以来、さまざまなブランドのアイテムに対して、過去のデザインとの類似点を皮肉たっぷりのコメントと共に容赦なく暴露してきたため、ファッション業界関係者から恐れられているのだ。運営しているのは、自らも業界関係者であるトニー・リューとリンゼイ・スカイラーの2人。フォロワーは1300万人を誇る(5月初旬時点)。

 ほかに暴露の例を挙げると、18年、韓国のブランドであるブラインドネスのアイテムがシャネルの1991年秋冬コレクションのものとそっくりであることを指摘。あるいは19年、アメリカのインフルエンサーが販売するバッグがヴァレンティノのパクリであることを投稿した。

 さらに、パクリの暴露だけにとどまらない。18年、ドルチェ&ガッバーナがインスタで公開した、アジア系モデルが箸で苦戦しながらイタリア料理を食べるという動画が、人種差別的だと指摘。それによって大炎上し、予定されていた上海でのドルガバのショーが中止に追い込まれたのだった。

 こうした指摘に有名ブランドの多くは戦々恐々としているが、グッチはあえてそれを逆手にとり、18年春夏シーズンに「Diet Prada」をショーに招待したこともある。そして、同ブランドのインスタの公式アカウントにおける情報発信を任せる、というユニークな試みを行い、話題となった。

 また、「Diet Prada」と趣はちょっと異なるが、インスタには「Supreme Copies」なるアカウントもある。ここでは、シュプリームが1994年に創業した当時から現在に至るまで、デザインの“参考”や“オマージュ”したと思われるものが、ネットやフォロワーからの情報を元に掲載されているのだ。例えば2016年の投稿では、シュプリームが14年秋冬に発表したチェリー柄のセーターが、ブルース・リーが主演し、1973年にアメリカで公開された映画『ドラゴンへの道』の通行人が着ているセーターの柄と似ていると指摘した。

 そんな「Supreme Copies」のフォロワーは9万5300人(同時点)。17年にはフォロワー数が5万人に到達したことを記念して、それまでの投稿をベースに、法的な理由でインスタにアップできなかったアイテムの写真も加えて収録した書籍『Supreme Copies』を欧米で刊行した。

 ただし、このアカウントは単にシュプリームの“あら探し”をしているわけではないのかもしれない。アカウント主は、過去にインタビューで「ストリートブランドの服には、常に“オリジナルじゃない”要素が入っているもの」「どんどんブランドのことをディープに知っていくと、まるで歴史の授業を受けているみたいに感じる」と語っているのだ。要は、ストリート・カルチャーはさまざまなコンテクストが織り込まれたものであって、それを体現するブランドとしてシュプリームをリスペクトしている、と投稿を通して伝えたいのではないか。(月刊サイゾー6月号『令和時代の(新)タブー』より)

GUCCIが偽ブランド品をサンプリング! “ブート・クチュール”の複雑化する最尖端

――ブランドのロゴを勝手に使い、自己流にアレンジした“ブート・クチュール”と呼ばれるアイテムが、最近ファッション界でイケてるという。しかし、“偽ブランド品”とは何が違うのか? ファッションと法律の両観点から、その最新状況と是非を整理してみたい。

 “ブート”とは、“Bootleg(ブートレグ)=海賊版、密造品”のこと。それらを自分流に解釈して仕立てる(=クチュール)ことを指した“ブート・クチュール”なる言葉がある。“オート(=高級)クチュール”とは真逆といえるものだが、近年、ファッション界でこのブート・クチュールが注目を集めている。しかも、悪い意味ではなく“良い意味”において、である。

 2018年夏、グッチは30年前のブート品をサンプリングした「グッチ〔ダッパー・ダン〕コレクション」(84ページ写真上)を発売した。ダッパー・ダンとは、1980年代から90年代初めにかけてカルト的人気を誇った、ニューヨーク・マンハッタン出身の黒人テイラーだ。独学で服づくりを学び、ハーレムにショップを開くと、グッチ、フェンディ、ルイ・ヴィトンなどハイブランドのモノグラムを全面にプリントしたファブリックやレザーを密造。およそそのブランドの製品とは思えない独自のスタイルを生み出し、ブルゾンやスーツなどをオーダーメードで仕立てた。もちろんブランド側には許可を取っていない違法ビジネスだったが、黒人のヒップホップ・スターやアスリートたちにとって彼のアイテムを着用することがある種のステータスになっていた。

 ところが88年、彼の顧客だったプロボクサー、マイク・タイソンとライバルのミッチ・グリーンがダッパー・ダンの店で暴行事件を起こす。この事件はテレビや新聞で大きく報道され、ダッパー・ダンの存在やブート・クチュールも世間に露呈してしまう。これが原因でブランド側がこぞって彼を訴え、92年、ダッパー・ダンの店は閉店に追い込まれた。

 ヒップホップのクラシック(名盤)のひとつとされている、エリック・B&ラキムのアルバム『Paid in Full』(1987年)。このジャケットで2人が身にまとっていたのも、ダッパー・ダンが手がけたブート・クチュールだった。
 ファッションジャーナリストのA氏は、ダッパー・ダンについてこう評する。

「単にブランド名をプリントしただけのコピー品は、アジアを中心に世界で流通していますが、自身のテイラーの技術を駆使したクリエイティブなブートという意味で、彼は異質でした。サンプリングの仕方にしてもひねりが効いていて、同時代のヒップホップ文化と完璧にリンクしていたといえます」

 そこに注目したのが、2015年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレだ。17年6月に発表した18年クルーズコレクションには、袖が大きく膨らんだファージャケットが登場。これが、ダッパー・ダンがかつてデザインしたジャケットに似ているとインスタグラムのアカウント「Diet Prada」(87ページのコラム参照)で指摘されて、話題となった。ほどなくアレッサンドロ・ミケーレは、このジャケットはダッパー・ダンへの“オマージュ”とソーシャルメディアで説明。その後、同年9月にはダッパー・ダンを17年秋冬シーズンのメンズのテーラリングキャンペーンモデルに起用し、18年にはオーダーメードでメンズウェアを仕立てるダッパー・ダンのアトリエをオープンした。そして、18年秋冬コレクションではダッパー・ダンとコラボレーションした先述の「グッチ〔ダッパー・ダン〕コレクション」を発表するに至ったわけだ。すなわち、本家がニセモノをリスペクトした上にフィーチャーするという、複雑な事態が起きたのである。

■ストリートにすり寄るハイブランドの魂胆

 似たような動きはほかのブランドでもないことはない。ニューヨークで1994年に創業した、ストリートブランドのシュプリームは、2000年にルイ・ヴィトンのモノグラムを全面に配したスケートボードデッキを販売したが、ルイ・ヴィトン側からクレームを受け、発売から約2週間で販売中止となってしまった。ところが17年、シュプリームはルイ・ヴィトンと正式にタッグを組み、ウェアやバッグ、財布、iPhoneケースなど限定コラボ商品を販売した。

 とはいえ、今や世界的な人気を誇るシュプリームと、30年前に密造屋の烙印を押されて表舞台から姿を消したダッパー・ダンとでは、衝撃度が大きく違う。

「当時のダッパーはニューヨークのハーレム限定のスターデザイナーであり、欧米のファッション業界ではほとんど知られていなかったはずです。でも、2010年代に入ってから、70~80年代のヒップホップをディグる動きが顕著になって、当時のヒップホップのファッションの重要人物として、注目を集めるようになりました。Netflixがドラマ『ゲットダウン』やドキュメンタリー『ヒップホップ・エボリューション』といった70年代の黎明期から90年代の黄金期までヒップホップの変遷をたどる番組を配信したのも、大きく影響していると思います」(A氏)

 加えて、それ以前にハイブランドがストリートブランドにすり寄ってきたことも背景にある。例えば2008年、リカルド・ティッシ(現バーバリーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー)がジバンシィのメンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任し、数シーズンにわたってストリートスタイルに大きな影響を受けたコレクションを発表。また同時期、世界的ラッパーのカニエ・ウェストは、従来のストリートスタイルにハイブランドをミックスしたスタイルを好むように。そして09年、ルイ・ヴィトンがそんなカニエのデザインによるスニーカーを発売。以降、さまざまなハイブランドが、ストリート・カルチャーにインスパイアされたコレクションを発表したり、ストリートブランドとのコラボを盛んに行ったりするようになった。顧客とのタッチポイントの多様化、購買ニーズの多様化が進む時代、各ブランドはこうして顧客の若返りを目指したのである。その試みが功を奏し、2010年代半ばになると、ハイブランドとストリート色の強いアイテムを組み合わせる“ラグジュアリーストリート(ラグスト)”が大流行した。

 こうした流れの一要素として、ブート・クチュールもとらえられるだろう。実例としては、16年にデビューし、新世代のポップ・アイコンとして注目されるLA在住の17歳の歌姫ビリー・アイリッシュは、しばしばアーティストのTsuwoopによるルイ・ヴィトンのモノグラムを使ったブート・クチュールを着て公の場に登場(85ページ写真)。なおTsuwoopは、ルイ・ヴィトンだけでなくグッチやシャネル、フェンディのロゴやモノグラムを勝手に派手な色使いにアレンジして仕立てたストリートウェアやスニーカーを次々と発表。それらの画像はインスタグラムの自身のアカウントでアップしているが、それらを公式に販売しているかどうかは明らかになっていない。

「アメリカではそうしたブートのファッションが非常に盛り上がっています。お金で買えないもの、自分だけの一点ものを求める傾向が世界的に強まっていることも、一要因としてあるでしょう」(同)

■シュプリームのロゴをバグらせて刺繍する

 ブートとは文脈が異なるが、日本のファッション業界では“サンプリング”や“オマージュ”の動きが盛ん。過去の銘品を参照して別の物を生みだしたり、別の方法で作り変えたりする手法である。

「2018年度のLVMHプライズを受賞したダブレットの井野将之は、過去の銘品をサンプリングして新しいものに作り変える発想と技術力が、世界から高く評価されています。オマージュという手法では、東京・浅草をベースに活動する革製品のブランド、エンダースキーマのオマージュラインが代表例。誰もが知るスポーツブランドの名作スニーカーを、ヌメ革で手工業的なアプローチで製作していて、こちらも高い評価を受けています。17年からは“公式二次創造物”と銘打ち、アディダスと正式にコラボレーションを実現させました。これは、本当に画期的なことだと思います。洋服やシューズのデザインはある程度出尽くしているので、こうしたリスペクトのあるサンプリングやオマージュの手法は、今後ますます盛んになっていくでしょう」(同)

 また、スタイリストの小山田孝司氏は、日本におけるある種のブート・クチュールの発展形について、こう話す。

「ファッション・デザイナー/アーティスト、Nukeme(ヌケメ)のグリッチ刺繍シリーズは、コンピュータミシンに読み込ませる刺繍データを意図的に破損させて刺繍することで作品化しています。14年にはサンリオとコラボレーションし、キャラクターをグリッチ刺繍の手法で制作したTシャツを伊勢丹新宿店で販売しました。キャラクターの取り扱いに非常に敏感といわれるサンリオが、わざとキャラクターの形を崩したりしている商品にOKを出したのは画期的でしたね」

 そんなNukemeは17年、GraphersRock名義でも活動するアートディレクター岩屋民穂との合作展「Dear Supreme, Dear PLAY」を開催。2人が特に思い入れが強いシュプリームのボックスロゴとコム デ ギャルソンの「PLAY」ラインのハートロゴを、グリッチ刺繍した作品を展示した。いずれも、正規店で購入した“本物”の上から、グリッチ刺繍したロゴを叩きつける、という手法で制作。つまり、単なるブートではなく、オリジナルを用いたカスタムなのだ(画像1枚目)。

「さらに、ブランド品以外の模刻まで行われることもあります。例えば、ジュエリーブランドのDO NOT DOは、硬貨を模したペンダントやリングを制作していますね(86ページ写真上)」(小山田氏)

 もっとも、通貨偽造罪は無期懲役または3年以上の懲役(20年以下)と重罰に処されるが、「ペンダントの場合、本物の硬貨とデザインは同じでありながら、安価な素材から高価な素材へ変更し、図柄自体も反転させている」(同)という。

■ZARAパクリ事件がもたらしたインパクト

 通貨偽造罪はともかく、「例えばブランドのロゴを商標権者の許可なく使って商品を販売すれば、日本法では商標権侵害となる」と弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士は話す。

「商標は、商標となるロゴやマークなどと、その用途となる商品やサービスである指定商品・指定役務がセットで登録されています。例えば、あるブランドが『衣料品にこのロゴを使用する』と登録した場合、別の事業者が衣料品やこれに類する商品に勝手に同じロゴを使用することは商標権侵害に。この場合、権利者は当該侵害行為を行う者に、商標の使用差止めや損害賠償を求めることができます。また、こうした商標権侵害が組織的・営利的に行われるなど悪質なケースであれば、民事とは別に刑事事件として立件されることも。仮に刑事事件で起訴されて有罪となれば、その行為類型にもよりますが、もっとも重い場合は10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金刑、またはその併科となる可能性があります(法人が併せて処罰される場合の罰金額は、最大3億円とされています)。このような商標権侵害については、販売行為だけでなく、販売目的で所持・譲渡する場合も取り扱いは同様」(梅澤氏)

 また、ロゴを改変した場合には、著作権侵害に当たる可能性もあるという。

「個人的な趣味の範囲内で著作物であるロゴにアレンジを加える程度であれば、これが権利侵害となるかは別として、ことさら責任追及を受ける可能性は高くないかもしれません。しかし、企業側はブランド価値の維持のために、ロゴやマークの権利にある程度のコストをかけているのが通常。そのため、『単なるオマージュだから』と気軽にタダ乗りして販売利益を得ることを是認すると、企業はそうしたコストをかけることに躊躇し、登録を前提とする商標制度自体が崩壊するかもしれません。そのため、“オマージュ”という理由は権利侵害を正当化する理由にはなり得ないでしょう。なお、インターネットが発達した現代では、グレーゾーンと思える事象も。例えばブート・クチュールを着た姿をSNSに投稿することなどがあり得ます。こうした行為が商標の使用、そのほか商標権侵害行為となるかは慎重な判断を要すると思われます。他方で、ブート・クチュールを着た投稿で“オシャレな人”として知名度を得た上で、別の営利行為につなげるケースも考えられるので、これを規制の対象外と言い切るのもどうかと思います」(同)

 なお、日本では18年7月、アメリカで買い付けたグッチやシャネルなどの古着のブート品59点を、販売目的で所持していた古着店の店主ら2人が逮捕されている。警視庁によると、約3年前から古着店においてブート品の販売が目立つようになったという。とはいえ、ブランド側はパクられるばかりでなく、パクることもある。

「もともと、ファッション業界は引用に対して寛容でした。アートや建築からの引用は一般的な商法ですし、近年は“文化の盗用”という言葉で批判されることも多くなっていますが、少数部族の民族衣装を取り入れることも多かった。また、業界内では“抜く”という隠語で、優れたブランドの洋服のパターン(設計図)をそのままパクるということも公然と行われていました。18年に日本のブランドのザ・リラクスが、同社が販売するモッズコートをZARAが模倣して販売したとしてザラ・ジャパンを提訴し、ザラが敗訴することがありましたが、この事例は“抜く”という行為が違法であることを認めた画期的な判決だったと思います」(同氏)

 ただ、ファッションにおいて偽物、ブート、オマージュ、サンプリング……といった分類の境界線はやはり見えづらいところがある。また、ここまで見てきたように、オリジナルがブート(的表現)をさらにサンプリングしたりする複雑な状況にもなっている。その上、個人レベルの創作物もSNSで簡単に発信できる今、新たなグレーゾーンが生じ、問題は一層ややこしくなっているため、この先、ブート・クチュールの定義と意義がまた変化していくのかもしれない。(月刊サイゾー6月号『令和時代の(新)タブー』より

(写真:1枚目、5枚目/小濱晴美)

(スタイリング:画像1枚目のキャップ、5枚目のジュエリー/小山田孝司)

GUCCIが偽ブランド品をサンプリング! “ブート・クチュール”の複雑化する最尖端

――ブランドのロゴを勝手に使い、自己流にアレンジした“ブート・クチュール”と呼ばれるアイテムが、最近ファッション界でイケてるという。しかし、“偽ブランド品”とは何が違うのか? ファッションと法律の両観点から、その最新状況と是非を整理してみたい。

 “ブート”とは、“Bootleg(ブートレグ)=海賊版、密造品”のこと。それらを自分流に解釈して仕立てる(=クチュール)ことを指した“ブート・クチュール”なる言葉がある。“オート(=高級)クチュール”とは真逆といえるものだが、近年、ファッション界でこのブート・クチュールが注目を集めている。しかも、悪い意味ではなく“良い意味”において、である。

 2018年夏、グッチは30年前のブート品をサンプリングした「グッチ〔ダッパー・ダン〕コレクション」(84ページ写真上)を発売した。ダッパー・ダンとは、1980年代から90年代初めにかけてカルト的人気を誇った、ニューヨーク・マンハッタン出身の黒人テイラーだ。独学で服づくりを学び、ハーレムにショップを開くと、グッチ、フェンディ、ルイ・ヴィトンなどハイブランドのモノグラムを全面にプリントしたファブリックやレザーを密造。およそそのブランドの製品とは思えない独自のスタイルを生み出し、ブルゾンやスーツなどをオーダーメードで仕立てた。もちろんブランド側には許可を取っていない違法ビジネスだったが、黒人のヒップホップ・スターやアスリートたちにとって彼のアイテムを着用することがある種のステータスになっていた。

 ところが88年、彼の顧客だったプロボクサー、マイク・タイソンとライバルのミッチ・グリーンがダッパー・ダンの店で暴行事件を起こす。この事件はテレビや新聞で大きく報道され、ダッパー・ダンの存在やブート・クチュールも世間に露呈してしまう。これが原因でブランド側がこぞって彼を訴え、92年、ダッパー・ダンの店は閉店に追い込まれた。

 ヒップホップのクラシック(名盤)のひとつとされている、エリック・B&ラキムのアルバム『Paid in Full』(1987年)。このジャケットで2人が身にまとっていたのも、ダッパー・ダンが手がけたブート・クチュールだった。
 ファッションジャーナリストのA氏は、ダッパー・ダンについてこう評する。

「単にブランド名をプリントしただけのコピー品は、アジアを中心に世界で流通していますが、自身のテイラーの技術を駆使したクリエイティブなブートという意味で、彼は異質でした。サンプリングの仕方にしてもひねりが効いていて、同時代のヒップホップ文化と完璧にリンクしていたといえます」

 そこに注目したのが、2015年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレだ。17年6月に発表した18年クルーズコレクションには、袖が大きく膨らんだファージャケットが登場。これが、ダッパー・ダンがかつてデザインしたジャケットに似ているとインスタグラムのアカウント「Diet Prada」(87ページのコラム参照)で指摘されて、話題となった。ほどなくアレッサンドロ・ミケーレは、このジャケットはダッパー・ダンへの“オマージュ”とソーシャルメディアで説明。その後、同年9月にはダッパー・ダンを17年秋冬シーズンのメンズのテーラリングキャンペーンモデルに起用し、18年にはオーダーメードでメンズウェアを仕立てるダッパー・ダンのアトリエをオープンした。そして、18年秋冬コレクションではダッパー・ダンとコラボレーションした先述の「グッチ〔ダッパー・ダン〕コレクション」を発表するに至ったわけだ。すなわち、本家がニセモノをリスペクトした上にフィーチャーするという、複雑な事態が起きたのである。

■ストリートにすり寄るハイブランドの魂胆

 似たような動きはほかのブランドでもないことはない。ニューヨークで1994年に創業した、ストリートブランドのシュプリームは、2000年にルイ・ヴィトンのモノグラムを全面に配したスケートボードデッキを販売したが、ルイ・ヴィトン側からクレームを受け、発売から約2週間で販売中止となってしまった。ところが17年、シュプリームはルイ・ヴィトンと正式にタッグを組み、ウェアやバッグ、財布、iPhoneケースなど限定コラボ商品を販売した。

 とはいえ、今や世界的な人気を誇るシュプリームと、30年前に密造屋の烙印を押されて表舞台から姿を消したダッパー・ダンとでは、衝撃度が大きく違う。

「当時のダッパーはニューヨークのハーレム限定のスターデザイナーであり、欧米のファッション業界ではほとんど知られていなかったはずです。でも、2010年代に入ってから、70~80年代のヒップホップをディグる動きが顕著になって、当時のヒップホップのファッションの重要人物として、注目を集めるようになりました。Netflixがドラマ『ゲットダウン』やドキュメンタリー『ヒップホップ・エボリューション』といった70年代の黎明期から90年代の黄金期までヒップホップの変遷をたどる番組を配信したのも、大きく影響していると思います」(A氏)

 加えて、それ以前にハイブランドがストリートブランドにすり寄ってきたことも背景にある。例えば2008年、リカルド・ティッシ(現バーバリーのチーフ・クリエイティブ・オフィサー)がジバンシィのメンズ・クリエイティブ・ディレクターに就任し、数シーズンにわたってストリートスタイルに大きな影響を受けたコレクションを発表。また同時期、世界的ラッパーのカニエ・ウェストは、従来のストリートスタイルにハイブランドをミックスしたスタイルを好むように。そして09年、ルイ・ヴィトンがそんなカニエのデザインによるスニーカーを発売。以降、さまざまなハイブランドが、ストリート・カルチャーにインスパイアされたコレクションを発表したり、ストリートブランドとのコラボを盛んに行ったりするようになった。顧客とのタッチポイントの多様化、購買ニーズの多様化が進む時代、各ブランドはこうして顧客の若返りを目指したのである。その試みが功を奏し、2010年代半ばになると、ハイブランドとストリート色の強いアイテムを組み合わせる“ラグジュアリーストリート(ラグスト)”が大流行した。

 こうした流れの一要素として、ブート・クチュールもとらえられるだろう。実例としては、16年にデビューし、新世代のポップ・アイコンとして注目されるLA在住の17歳の歌姫ビリー・アイリッシュは、しばしばアーティストのTsuwoopによるルイ・ヴィトンのモノグラムを使ったブート・クチュールを着て公の場に登場(85ページ写真)。なおTsuwoopは、ルイ・ヴィトンだけでなくグッチやシャネル、フェンディのロゴやモノグラムを勝手に派手な色使いにアレンジして仕立てたストリートウェアやスニーカーを次々と発表。それらの画像はインスタグラムの自身のアカウントでアップしているが、それらを公式に販売しているかどうかは明らかになっていない。

「アメリカではそうしたブートのファッションが非常に盛り上がっています。お金で買えないもの、自分だけの一点ものを求める傾向が世界的に強まっていることも、一要因としてあるでしょう」(同)

■シュプリームのロゴをバグらせて刺繍する

 ブートとは文脈が異なるが、日本のファッション業界では“サンプリング”や“オマージュ”の動きが盛ん。過去の銘品を参照して別の物を生みだしたり、別の方法で作り変えたりする手法である。

「2018年度のLVMHプライズを受賞したダブレットの井野将之は、過去の銘品をサンプリングして新しいものに作り変える発想と技術力が、世界から高く評価されています。オマージュという手法では、東京・浅草をベースに活動する革製品のブランド、エンダースキーマのオマージュラインが代表例。誰もが知るスポーツブランドの名作スニーカーを、ヌメ革で手工業的なアプローチで製作していて、こちらも高い評価を受けています。17年からは“公式二次創造物”と銘打ち、アディダスと正式にコラボレーションを実現させました。これは、本当に画期的なことだと思います。洋服やシューズのデザインはある程度出尽くしているので、こうしたリスペクトのあるサンプリングやオマージュの手法は、今後ますます盛んになっていくでしょう」(同)

 また、スタイリストの小山田孝司氏は、日本におけるある種のブート・クチュールの発展形について、こう話す。

「ファッション・デザイナー/アーティスト、Nukeme(ヌケメ)のグリッチ刺繍シリーズは、コンピュータミシンに読み込ませる刺繍データを意図的に破損させて刺繍することで作品化しています。14年にはサンリオとコラボレーションし、キャラクターをグリッチ刺繍の手法で制作したTシャツを伊勢丹新宿店で販売しました。キャラクターの取り扱いに非常に敏感といわれるサンリオが、わざとキャラクターの形を崩したりしている商品にOKを出したのは画期的でしたね」

 そんなNukemeは17年、GraphersRock名義でも活動するアートディレクター岩屋民穂との合作展「Dear Supreme, Dear PLAY」を開催。2人が特に思い入れが強いシュプリームのボックスロゴとコム デ ギャルソンの「PLAY」ラインのハートロゴを、グリッチ刺繍した作品を展示した。いずれも、正規店で購入した“本物”の上から、グリッチ刺繍したロゴを叩きつける、という手法で制作。つまり、単なるブートではなく、オリジナルを用いたカスタムなのだ(画像1枚目)。

「さらに、ブランド品以外の模刻まで行われることもあります。例えば、ジュエリーブランドのDO NOT DOは、硬貨を模したペンダントやリングを制作していますね(86ページ写真上)」(小山田氏)

 もっとも、通貨偽造罪は無期懲役または3年以上の懲役(20年以下)と重罰に処されるが、「ペンダントの場合、本物の硬貨とデザインは同じでありながら、安価な素材から高価な素材へ変更し、図柄自体も反転させている」(同)という。

■ZARAパクリ事件がもたらしたインパクト

 通貨偽造罪はともかく、「例えばブランドのロゴを商標権者の許可なく使って商品を販売すれば、日本法では商標権侵害となる」と弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士は話す。

「商標は、商標となるロゴやマークなどと、その用途となる商品やサービスである指定商品・指定役務がセットで登録されています。例えば、あるブランドが『衣料品にこのロゴを使用する』と登録した場合、別の事業者が衣料品やこれに類する商品に勝手に同じロゴを使用することは商標権侵害に。この場合、権利者は当該侵害行為を行う者に、商標の使用差止めや損害賠償を求めることができます。また、こうした商標権侵害が組織的・営利的に行われるなど悪質なケースであれば、民事とは別に刑事事件として立件されることも。仮に刑事事件で起訴されて有罪となれば、その行為類型にもよりますが、もっとも重い場合は10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金刑、またはその併科となる可能性があります(法人が併せて処罰される場合の罰金額は、最大3億円とされています)。このような商標権侵害については、販売行為だけでなく、販売目的で所持・譲渡する場合も取り扱いは同様」(梅澤氏)

 また、ロゴを改変した場合には、著作権侵害に当たる可能性もあるという。

「個人的な趣味の範囲内で著作物であるロゴにアレンジを加える程度であれば、これが権利侵害となるかは別として、ことさら責任追及を受ける可能性は高くないかもしれません。しかし、企業側はブランド価値の維持のために、ロゴやマークの権利にある程度のコストをかけているのが通常。そのため、『単なるオマージュだから』と気軽にタダ乗りして販売利益を得ることを是認すると、企業はそうしたコストをかけることに躊躇し、登録を前提とする商標制度自体が崩壊するかもしれません。そのため、“オマージュ”という理由は権利侵害を正当化する理由にはなり得ないでしょう。なお、インターネットが発達した現代では、グレーゾーンと思える事象も。例えばブート・クチュールを着た姿をSNSに投稿することなどがあり得ます。こうした行為が商標の使用、そのほか商標権侵害行為となるかは慎重な判断を要すると思われます。他方で、ブート・クチュールを着た投稿で“オシャレな人”として知名度を得た上で、別の営利行為につなげるケースも考えられるので、これを規制の対象外と言い切るのもどうかと思います」(同)

 なお、日本では18年7月、アメリカで買い付けたグッチやシャネルなどの古着のブート品59点を、販売目的で所持していた古着店の店主ら2人が逮捕されている。警視庁によると、約3年前から古着店においてブート品の販売が目立つようになったという。とはいえ、ブランド側はパクられるばかりでなく、パクることもある。

「もともと、ファッション業界は引用に対して寛容でした。アートや建築からの引用は一般的な商法ですし、近年は“文化の盗用”という言葉で批判されることも多くなっていますが、少数部族の民族衣装を取り入れることも多かった。また、業界内では“抜く”という隠語で、優れたブランドの洋服のパターン(設計図)をそのままパクるということも公然と行われていました。18年に日本のブランドのザ・リラクスが、同社が販売するモッズコートをZARAが模倣して販売したとしてザラ・ジャパンを提訴し、ザラが敗訴することがありましたが、この事例は“抜く”という行為が違法であることを認めた画期的な判決だったと思います」(同氏)

 ただ、ファッションにおいて偽物、ブート、オマージュ、サンプリング……といった分類の境界線はやはり見えづらいところがある。また、ここまで見てきたように、オリジナルがブート(的表現)をさらにサンプリングしたりする複雑な状況にもなっている。その上、個人レベルの創作物もSNSで簡単に発信できる今、新たなグレーゾーンが生じ、問題は一層ややこしくなっているため、この先、ブート・クチュールの定義と意義がまた変化していくのかもしれない。(月刊サイゾー6月号『令和時代の(新)タブー』より

(写真:1枚目、5枚目/小濱晴美)

(スタイリング:画像1枚目のキャップ、5枚目のジュエリー/小山田孝司)