【校正待ち】錦戸亮『トレース~科捜研の男~』視聴率11.5%で有終の美、粗もなく完成度の高い“月9”作品に!

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 3月18日(月)放映のトレース最終話。

 良い意味でも悪い意味でも「救いのない話だった」「壇(千原ジュニア)が怖過ぎる」といった意見が目立った。それでも視聴率は前回より0.9%上昇の11.5%。それだけ最終話に釘付けになった視聴者が多かったのだろう。次章より感想を交えつつ、最終話の内容を振り返りたい。

■千原ジュニア演じる壇の狂気

 最終話は、真野礼二(錦戸亮)が家族を失った25年前の武蔵野一家殺人事件の真相までたどり着く回。

 誰が家族を刺殺したのかは書かないでおくが、事件に密接に絡んでくるのは刑事部長である壇(千原)。彼のDNAと姉のお腹の子のDNAが一致せず、壇が家族を刺殺していない事が明らかとなり、物語は大きなうねりを見せる。事態は、礼二が壇にナイフを突きつける中、壇が25年前の真実を告げる局面にまで発展する。

 ここからは私の感想となるが、壇という男は物語のラスボスとして相応しい存在だった。

 ボタボタ血が流れるまでDNA検査キットで口内をこすったり、礼二の歪む顔が見たくて真実に辿り着かせようとしたり、そういった猟奇的な部分も魅力ではある。だがそれ以上に、【主観と臆測を嫌い、真実こそが人を前に進ませる】というポリシーを持つ礼二から主観を引きずり出し、残酷な真実を突きつけるというポジションが悪役として本懐を成していた。

 科捜研の男として働く礼二に唯一許された主観は、「家族が優しかった」という想い出。

 壇は、礼二に、姉が武蔵野一家殺人事件の起きた一因となっていたと語る。姉はとある復讐を遂げるため「お兄ちゃんはどうでもいい」と、兄をイジメていた壇を頼る。そして、復讐しようとした相手が家族を刺殺する結果を招いてしまった。

 さらに、家族を殺したという兄の汚名をそそごうとしていた礼二に対して、壇は「『弟を殺されたくなければ家族殺しの汚名を被って自殺しろ』と言った」と真実を告げる。兄は優しいがゆえに弟・礼二を守るために死を選んだ。そんな立ち直れないほどの真実を突きつけた上で、壇は礼二に「(復讐を果たすためには)俺を殺すしかない」と銃を渡す。

 礼二は壇を殺すことができず、「俺は前に進みたいだけなんだ」と悲痛に叫び、壇や実行犯の命を泣く泣く助ける事になってしまう。

 

■錦戸と船越のラブストーリー、初志貫徹でハッピーエンド

 救いのない真実を突きつけられた礼二が立ち直り、一歩前に進めたのは、虎丸(船越英一郎)やノンナ(新木優子)が本気で心配してくれたから。

 虎丸は懲戒免職を覚悟で壇の別荘に不法侵入し礼二を助けようとする。ラストで礼二が「(そこまでするのは)気持ち悪いですね」と言うも、「でも来てくれて嬉しかった」と本作で初めて、心からの笑顔を見せる。9話では礼二の怒り、10話では涙を見せ、ラストは笑顔で締めるはからいは視聴者への最高のファンサービスだったと感じる。

 以前、メインキャストが対談する企画で、「これは礼二と虎丸のラブストーリーなんです」と、プロデューサーから言われたエピソードを船越が明かしていた。それは反発し合う礼二と虎丸が互いを認め合っていくというコンセプトを分かりやすく説明するための例え話。

 その言葉どおり礼二と虎丸の衝突に始まり、2人の和解の握手で物語は幕を閉じた。連ドラは評判やスケジュールなどで当初の目論見からズレが生じる事はザラにある。それでも、初志貫徹できるコンセプトを置くことができたプロデューサーは優秀だと感じた。

■キャストもスタッフも素晴らしい『トレース~科捜研の男~』

 本レビューも最終回なので、トレースという作品の感想を交えつつ、僭越ながら記事を書いた上での想いを綴りたい。

『トレース』は機能美に優れたドラマだと考えていたし、それは全話見終わった今でも変わらない。完成度が高い作品である故に、「ここが良い」「ここが悪い」と指摘するのが難しかった。粗は見つけづらいし、「凄い作品だろ?」と言わんばかりの押し付けがましさもない。だからこそ、この作品の良さを伝えたくて、スタッフの過去の作品や、テレビドラマの制作現場の実状を調べたりもした。勉強するほど、この作品の良さに気づかされていった。

 今になって思うのは、本当に素晴らしいモノほど魅力に気づきにくいということ。毎日当たり前に使う食器や家具。機能美が優れるものほど、感想を抱かずに日常に溶け込んでしまう。

『トレース』はそんな作品だったように思える。メインキャストの3人も、作品のコンセプトやテイストから逸れないよう、互いを見て演技の押し引きをする奥ゆかしさを感じた。

 レビューを書く立場上、さまざまなドラマを見なければならず、演技を上手いと思わせようとする役者や、社会的意義や斬新さを押し付けて来る作品の歪んだ承認欲求に食あたり気味だった。そんな中、分かりやすくて面白いというエンターテインメントの姿勢を貫いた『トレース』のレビューを書けて本当によかった。

『トレース』の続編だけでなく、全ての役者やスタッフの方々の次回作を楽しみにしています。

(海女デウス)

『トレース~科捜研の男~』主演・錦戸亮が本気(?)の男泣き! 礼二の涙に“うるキュン”する第10話

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 3月11日放映の『トレース~科捜研の男』(フジテレビ系)第10話。まずはあらすじから綴る。

 礼二(錦戸亮)は、家族を失った25年前の事件の真相を追い続けていた。亡くなった兄の元教師・早川(萩原聖人)から、兄をイジメた主犯格の一人・倉本を見つけたと言われる。

 現在、倉本は佐保優作(袴田吉彦)と名前を変え、テニスの実業団チームのオーナーをしている。そのチームで起きた選手の不審死の謎を追求しながら、佐保について調べる礼二。ノンナ(新木優子)と虎丸(船越英一郎)の協力で、事故とされていた選手の死因が他殺と判明。さらに佐保が実行犯に指示していた事まで分かる。だが、証言があるにも関わらず警察は佐保の逮捕に踏み切らない。礼二は佐保に直接会おうとするも、佐保は爆発事故に巻き込まれてしまう。

 以上が第10話のザックリとした流れである。今回は内容もさることながら、役者陣の演技が光る回であった。今回は物語の詳細に触れつつ、役者陣の演技にスポットを当てたい。

■“ゲスキャラ”の演技がスパイスの第10話

 今回はラスト10分で最終話に繋がるストーリーを展開するため、メインで扱う事件は普段よりも短縮されて描かれていた。それでも見応えがあったのはゲストキャラの演技の力が大きい。佐保にドーピングした事を隠すよう言われたテニス選手・春日部を演じた征木玲弥の翻弄される様子。春日部のドーピングの罪を被った上に殺害された選手・原田に、孤高のオーラを付け足した上杉柊平。2人の若手俳優の熱演がドラマを盛り上げていた。特に上杉演じる原田は、ドーピングでの引退後に道楽を貪る軽薄なゲス男と、選手としての復帰を目指し続けるストイックな男、二つの側面を見せねばならなかった。上杉が演じ分けできていたからこそ、事件のターニングポイントが明確に提示できていた。

 また、金目当てで原田を毒殺しようとした新田清美(奥田恵梨華)が、殺害現場にイヤリングを落とした事に気づいた場面も芸が細かい。左耳についてない事に気づき、最初からつけていたのか、右耳に触れて確認をする。そこは演出家か脚本家のアイデアかもしれないが、殺し達成の喜びから証拠を残した焦りへの心情変化は、奥田恵梨香の表情の切り替えが見事だったため痛快だった。

 そして今回のゲストキャラとして外せないのが、清美に原田の殺害を依頼した佐保を演じた袴田吉彦。最近ではアパ不倫の報道を逆手にとったゲス男を演じる機会が増えた。『ブラック・スキャンダル』(2018年・日本テレビ系)では女優に枕営業を迫るプロデューサー役が話題を呼んだ。本作の佐保もそうなのだが、袴田吉彦が演じるゲス男は、保身や怯えを帯びながら冷酷な事をするため、どこか人間味を感じられる。また、自分の身を切りながらゲス男に挑戦しているためか、悪役を演じる際の凄みが増してるようにも思える。

 ゲスな男女たちを演じた俳優たちの役者魂やテクニックが、面白さの根幹を担っていた回であった。

■主演・錦戸亮の涙に好評の声が続出!!

 役者の熱演という意味で外せないのが、礼二を演じる錦戸亮が涙を流す場面だ。

 涙を流すのは、姉のお腹に居た胎児の父親に当たる人物が、家族を殺害した可能性が高いと明らかになるシーン。「涙を溜めてから流す演技が素晴らしい」「声を震わせて泣くから、見てるこっちも切なくなる」など、ネット上の投降でも好評の声が多かった。

 もちろん錦戸亮の演技も素晴らしいのだけれど、礼二が感情を露わにする“トリガー”が共感値を高めている。9話では濡れ衣を着せられた逃亡犯を救うために怒りを剥き出しにするし、今回も姉を不憫に思って涙を流していた。また、ノンナに対して「(25年前の事件は)お前には関係ない」と冷たく言い放つのも、彼女を巻き添えにしないため。偏屈でありながら、『誰かのために』が行動原理の礼二は、愛されるキャラクターだと思う。各話の事件関係者の悲しみにスポットが当たる作品だったが、連続ドラマとして毎週ついていけたのは、錦戸亮演じる真野礼二が主役の作品だったからだと素直に思う。

■90分SPでの最終回。25年前の武蔵野一家殺人事件とは?

 来週は最終回。25年前の事件の真相と犯人が明らかになる回であるため、今まで提示されている情報を一覧にしてみた。

・表向きには、礼二の兄が家族を殺害して自殺したとされている

・兄はイジメを受けて不登校ではあったが、人生に絶望はしていなかった

 (つまり、家族を殺す動機が見当たらない)

・姉は殺害された時、妊娠3カ月であった

・姉のお腹の子の父親が真犯人である可能性が高い

・海塚(小雪)が事件後の鑑定に関わっていた

・兄のイジメに加担した人物が関わる事件の真相隠しの際には、警察上層部・壇(千原ジュニア)の姿が見え隠れする

・兄の教師だった早川(萩原聖人)は礼二に協力。事あるごとに「警察に相談しよう」と言う。

 事件の真相も楽しみではあるが、礼二が何を感じ、犯人や自身の葛藤とどうケリをつけるのかにも注目したい。本日放送の『トレース~科捜研の男~』最終回も心待ちにしている。

(海女デウス)

『トレース~科捜研の男~』最終回目前、錦戸亮が感情爆発! 主役の魅力が際立つ第9話!

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 3月4日放映の第9話。『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ・2004年)で凛ちゃんを演じていた美山加恋が冒頭から死体として登場する、その衝撃の内容から。

 仮出所した富樫康太(和田正人)は元恋人・胡桃沢綾乃(美山加恋)の自宅で彼女の遺体を発見する。慌てて逃げ出した富樫は、容疑者として警察から追われることに。7年前に富樫を逮捕した虎丸(船越英一郎)は、彼の犯行ではないと信じるも、それが仇となり捜査から外されてしまう。虎丸は礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)に富樫の無実を証明してほしいと頼む。正規の捜査でない真相の解明に、礼二ら科捜研の面々は挑むのであった。

 以上が第9話のあらすじだ。次章より、その内容を振り返りつつ、感想を綴りたい。

■「そうそうこれが見たかった!」感情爆発させた錦戸演じる真野礼二の活躍!

 第9話は、バランスのとれた良質な回だった。

 事件の内容・キャラクターの心情・最終話への伏線。すべて過不足なく描かれており、見易いと同時に、主人公・礼二たちの目線で富樫が助かってほしいと願えた。

 シンプルな物ほど、作り手の頭はフル回転になる。特に第9話は、礼二が家族を失った25年前の事件の振り返りと、メインの富樫の事件の起承転結を描かなければならず、情報量が多かった。

 それでもスルッと見れたのは、脚本の段階から情報の圧縮と連結が見事だったからだろう。

 今までは俯瞰して事件と向き合っていた主人公・礼二が、感情移入して事件に寄り添い、真実を導き出す。それ故に25年前の事件の情報提示を最小限にとどめる事ができていた。

 礼二が正規の依頼でないにもかかわらず、富樫の無実の証明を引き受けたのは、25年前家族殺しのレッテルを貼られた兄を想っての事だろう。虎丸が富樫への「俺だけが(殺してないと)信じてやらなきゃいけない」といった想いを聞き、口には出さないが、「兄にもそう言ってくれる人がいてくれたら」と礼二は感じたに違いない。

 また、富樫が元恋人・綾乃を殺した疑いの強い人間に報復しようとした際、礼二が感情を露わにして食い止める場面は珠玉のシーンだった。

 前提として富樫という男は、父親が犯罪者だったせいで白い目で見られる人生を送ってきた。唯一自分を信頼してくれた元恋人まで失い、自分が加害者として疑われている。「恵まれて生きてきたお前(礼二)には俺の気持ちはわからない」と言う富樫に対し、「俺も同じだ」と家族を失った過去を語る礼二。虎丸とノンナ(新木優子)を前にし、他人に知られたくない過去を持ち出してでも富樫を止めようとする自己犠牲には、胸が熱くなった。

 しかも、主観でなく根拠に基づいて捜査する礼二のキャラを損ねなかったのが素晴らしい。富樫に対して、「根拠がないまま疑う相手を狙うのは、犯罪者の息子だから罪を犯すと言ってくる連中と同じ」という旨を語る。バックグラウンドから誘発される感情の昂りと、性格に由来する説得の仕方……見逃し配信でいうと23分目からの5分間だけでもいいので、多くの人に見てほしいと感じる。

 先の回で必要な要素を組み上げながら名場面にしてしまうメイン脚本の相沢友子氏の腕は一級品であった。

■作中で描かれない関係性まで伝わる演出

 第9話の監督である三橋利行氏の演出も冴えていた。

 昨年4月期の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』(同)でも、三橋氏の演出は、台本の良さを引き立てていた。台詞は聞き取りやすく、見せるべき画は見せるという基本を大切にする。無駄なオカズは挟まないため、話についていけなくなることはない。

 本作第9話においては、足し引きの塩梅が絶妙だった。タイトル前、礼二と虎丸が別々の方向を歩き出すだけの場面を濃く見せる事で「今回はこの二人が主軸の物語」とわかった。逆に、科捜研メンバーがノンナの恋心をイジる場面は、シリアスさが崩壊しないようアッサリと終わらせていた。

 またクライマックスで、逃亡する富樫を捜索する際、礼二の同僚たちが協力する場面がある。最終回に向けて特に描かなければならないのは礼二と彼らとの関係値だ。

 市原浩(遠山俊也)は、富樫との通話中の音声を解析するプロフェッショナルな側面で協力的な姿勢を提示できる。ここまでは台本領域であるが、相良一臣(山崎樹範)は捜索開始の際、礼二の肩をポンと叩いたのは演出と演技の領域の可能性が高い。相楽の兄の死の真相を解き明かす4話以来、あまり描かれなかった礼二と相楽との関係の進展が垣間見えた。

 富樫捜索の場面で、いつもエンディングで流れる主題歌を使った編集も、最終回直前だからこそできるニクい演出だった。

 連ドラ後半は、撮影スケジュールがカツカツとなる事が多く、本作も例外ではないと思う。そんな中でも、可能な範囲で出来る限りの事をしようとする姿勢が作品と同様に好感が持てた。

■最終回のセットアップとしても良質な回

 今回は同僚たちだけでなく、虎丸・ノンナと礼二との関係が深まる回だった。虎丸は礼二を素直に頼れるようになっており、ノンナも礼二への恋心を素直に認め、彼を救いたいという想いが明確となった。

 そんな温かい気持ちで繋がる仲間たちであるが、礼二自身は25年前の真相の解明を「復讐」と捉えている節がある。今回、富樫の救出を通して感情を爆発させたからこそ、真犯人と向き合ったときの礼二の行動が楽しみとなった。

 次回は、袴田吉彦が演じる兄の元同級生が絡む事件。11日放送の第10話にも期待したい。

(海女デウス)

『トレース~科捜研の男~』最終回目前、錦戸亮が感情爆発! 主役の魅力が際立つ第9話!

(これまでのレビューはこちらから

 3月4日放映の第9話。『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ・2004年)で凛ちゃんを演じていた美山加恋が冒頭から死体として登場する、その衝撃の内容から。

 仮出所した富樫康太(和田正人)は元恋人・胡桃沢綾乃(美山加恋)の自宅で彼女の遺体を発見する。慌てて逃げ出した富樫は、容疑者として警察から追われることに。7年前に富樫を逮捕した虎丸(船越英一郎)は、彼の犯行ではないと信じるも、それが仇となり捜査から外されてしまう。虎丸は礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)に富樫の無実を証明してほしいと頼む。正規の捜査でない真相の解明に、礼二ら科捜研の面々は挑むのであった。

 以上が第9話のあらすじだ。次章より、その内容を振り返りつつ、感想を綴りたい。

■「そうそうこれが見たかった!」感情爆発させた錦戸演じる真野礼二の活躍!

 第9話は、バランスのとれた良質な回だった。

 事件の内容・キャラクターの心情・最終話への伏線。すべて過不足なく描かれており、見易いと同時に、主人公・礼二たちの目線で富樫が助かってほしいと願えた。

 シンプルな物ほど、作り手の頭はフル回転になる。特に第9話は、礼二が家族を失った25年前の事件の振り返りと、メインの富樫の事件の起承転結を描かなければならず、情報量が多かった。

 それでもスルッと見れたのは、脚本の段階から情報の圧縮と連結が見事だったからだろう。

 今までは俯瞰して事件と向き合っていた主人公・礼二が、感情移入して事件に寄り添い、真実を導き出す。それ故に25年前の事件の情報提示を最小限にとどめる事ができていた。

 礼二が正規の依頼でないにもかかわらず、富樫の無実の証明を引き受けたのは、25年前家族殺しのレッテルを貼られた兄を想っての事だろう。虎丸が富樫への「俺だけが(殺してないと)信じてやらなきゃいけない」といった想いを聞き、口には出さないが、「兄にもそう言ってくれる人がいてくれたら」と礼二は感じたに違いない。

 また、富樫が元恋人・綾乃を殺した疑いの強い人間に報復しようとした際、礼二が感情を露わにして食い止める場面は珠玉のシーンだった。

 前提として富樫という男は、父親が犯罪者だったせいで白い目で見られる人生を送ってきた。唯一自分を信頼してくれた元恋人まで失い、自分が加害者として疑われている。「恵まれて生きてきたお前(礼二)には俺の気持ちはわからない」と言う富樫に対し、「俺も同じだ」と家族を失った過去を語る礼二。虎丸とノンナ(新木優子)を前にし、他人に知られたくない過去を持ち出してでも富樫を止めようとする自己犠牲には、胸が熱くなった。

 しかも、主観でなく根拠に基づいて捜査する礼二のキャラを損ねなかったのが素晴らしい。富樫に対して、「根拠がないまま疑う相手を狙うのは、犯罪者の息子だから罪を犯すと言ってくる連中と同じ」という旨を語る。バックグラウンドから誘発される感情の昂りと、性格に由来する説得の仕方……見逃し配信でいうと23分目からの5分間だけでもいいので、多くの人に見てほしいと感じる。

 先の回で必要な要素を組み上げながら名場面にしてしまうメイン脚本の相沢友子氏の腕は一級品であった。

■作中で描かれない関係性まで伝わる演出

 第9話の監督である三橋利行氏の演出も冴えていた。

 昨年4月期の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』(同)でも、三橋氏の演出は、台本の良さを引き立てていた。台詞は聞き取りやすく、見せるべき画は見せるという基本を大切にする。無駄なオカズは挟まないため、話についていけなくなることはない。

 本作第9話においては、足し引きの塩梅が絶妙だった。タイトル前、礼二と虎丸が別々の方向を歩き出すだけの場面を濃く見せる事で「今回はこの二人が主軸の物語」とわかった。逆に、科捜研メンバーがノンナの恋心をイジる場面は、シリアスさが崩壊しないようアッサリと終わらせていた。

 またクライマックスで、逃亡する富樫を捜索する際、礼二の同僚たちが協力する場面がある。最終回に向けて特に描かなければならないのは礼二と彼らとの関係値だ。

 市原浩(遠山俊也)は、富樫との通話中の音声を解析するプロフェッショナルな側面で協力的な姿勢を提示できる。ここまでは台本領域であるが、相良一臣(山崎樹範)は捜索開始の際、礼二の肩をポンと叩いたのは演出と演技の領域の可能性が高い。相楽の兄の死の真相を解き明かす4話以来、あまり描かれなかった礼二と相楽との関係の進展が垣間見えた。

 富樫捜索の場面で、いつもエンディングで流れる主題歌を使った編集も、最終回直前だからこそできるニクい演出だった。

 連ドラ後半は、撮影スケジュールがカツカツとなる事が多く、本作も例外ではないと思う。そんな中でも、可能な範囲で出来る限りの事をしようとする姿勢が作品と同様に好感が持てた。

■最終回のセットアップとしても良質な回

 今回は同僚たちだけでなく、虎丸・ノンナと礼二との関係が深まる回だった。虎丸は礼二を素直に頼れるようになっており、ノンナも礼二への恋心を素直に認め、彼を救いたいという想いが明確となった。

 そんな温かい気持ちで繋がる仲間たちであるが、礼二自身は25年前の真相の解明を「復讐」と捉えている節がある。今回、富樫の救出を通して感情を爆発させたからこそ、真犯人と向き合ったときの礼二の行動が楽しみとなった。

 次回は、袴田吉彦が演じる兄の元同級生が絡む事件。11日放送の第10話にも期待したい。

(海女デウス)

錦戸亮主演『トレース~科捜研の男~』視聴者に負担を与えつつも……“禁じ手”に挑戦した第8話!

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 2月25日放送の『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)第8話。まずはそのあらすじから。

 同居する友人・根岸秀司(落合モトキ)を刺殺したと自首する御手洗治(渋谷謙人)。取り調べを担当する虎丸(船越英一郎)は、御手洗が根っからの悪人とは思えずにいた。

 根岸・御手洗と共に児童養護施設で育った人気女優・橋本梨央(石井杏奈)もまた、同じ理由で、事件の調べ直しをノンナ(新木優子)に願い出る。

 皆が御手洗を心配する中、彼自身は嘘の証言を続け、真相を隠そうとした。

 礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)は、現場の血痕の乾き具合を見て刺殺から通報(自首)までの“空白の1時間”を発見。さらに現場から猫の毛を検出。珍しい猫種であったことから、飼い主がフリーライター・益山英彰(弓削智久)と特定される。虎丸は益山の自宅を訪ねるも、益山は遺体となって発見された。

 以上が物語前半の内容だ。新たに死体として発見された益山は、根岸と御手洗とどのような関わりがあるのか? そして御手洗はなぜ、下手な嘘をついてまで真相を隠そうとするのか?

 その2つの問いに焦点が当たり、根岸と御手洗との友情、そして彼ら2人の女優・梨央への献身が明らかになっていく。

 前半は事件関係者が多いためか複雑でわかりづらい部分もあったが、後半の解決パートは映画『砂の器』(1974年・監督:野村芳太郎)のラストを彷彿とさせる感動があった。

 そして第8話は、とある禁じ手を使った意欲作。その事に関して次章から触れていきたい。

■禁じ手に挑む演出家と脚本家の勇気!!

 冒頭で述べた禁じ手とは、以下の2つである。

・重要なキャラ(本作だと御手洗)を嘘つきにさせる

・セオリーを度外視した構成

 なぜ嘘をつくのが禁じ手かと言えば、テレビドラマ的な観点からすると、視聴者に与える負荷が多くなるから。人物がひとつ嘘をつくごとに、“覚える”と“忘れる”の二つの脳内作業を強いることになる。その取捨選択に加えて、正しい情報も覚える必要があるのだから、真実と嘘で頭がこんがらがってしまう。視聴者の混乱を防ぐ方法は、瞬時に嘘だと気づかせることだ。

 嘘つきの動揺や焦りを見せればいいのだが、これがなかなか難しい。動揺が露骨になれば重要キャラが安っぽくなってしまうし、抑え過ぎれば間違った情報だと気づいてもらえない。高度な役者の演技力と演出家の腕が要求される。

 だが、本作の第8話を担当した松山博昭氏は、絶妙な塩梅で視聴者に嘘だと見抜かせた。

 御手洗は梨央を守るために必死に嘘をつき、虎丸は彼が嘘をつくたび心配そうにする。二段構えで嘘とわかる場面を置くだけでなく、両者が献身的な気持ちを持つゆえに、キャラの高尚さを損なわずに済んだ。

 一方、小悪党が保身のために嘘をつく時には水をゴクゴク飲ませ、あえて安っぽく仕上げていた。登場人物の重要度に応じて、演出の技量を上げ下げするのは見事だった。 

 とはいえ、嘘をつかせ続ければ情報は増える一方。冒頭で“前半は分かりづらい”と述べたが、たぶん制作サイドは織り込み済み。だから構成のセオリーをぶっ壊して、難解な捜査の時間を極力短くし、後半30分全てを解決パートに当てたのだろう(通常なら解決パートは10分前後)。解決パートなら、人情劇で視聴者を引き込む事ができる。

 けれど、そこには大きなリスクが潜む。第8話のゲストたちの過去回想となり、メインのキャラはほとんど画面に映らない。主人公・礼二たちの目線で物語を追う事ができなくなり、感情移入しづらくなる。

 しかし、僅かな登場時間で礼二たちに存在感を出させることで、その問題は解消されていたようにも思う。礼二は「離れていても思い合うのが家族」と梨央を慰める。虎丸は「一人でよく頑張ったな」と嘘で梨央を守ろうとした御手洗を慰める。

 慰めるに至った経緯は見逃し配信などでチェックしてほしいが、その台詞があるから礼二たちの物語という体は保てた。そして家族と死別した礼二と、離れて暮らす息子と御手洗を重ねる虎丸に、相応しいセリフだったとも言える。

 メインキャラを出せないハンデを背負いながら、構成のセオリーに逃げず、セリフでの真向勝負に出た岡田道尚氏には、脚本家としての高尚なプライドを感じる。また、嘘がテーマとなる難しい回を引き受けた松山氏の自信と周囲からの信頼には頭が下がる。

 ただ面白いものを作るだけで終わらない、プロの仕事を見せつけられた気がした。

■視聴率は1ケタ続き。それでも……

 前回の第7話の視聴率は9.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)。そして今回の第8話は9.8%。

 視聴率は下がる一方だし、1ケタを二回連続で出してしまった。

 けれど、全話平均視聴率は2ケタをキープしているし、本作の性質から見れば大健闘なのではないだろうか。

 科捜研という過去起きた事件を解決する組織であるため、現在進行形での第2第3の事件の連鎖を起こしづらい。また、見応えのあるアクションシーンなどに逃げることもできない。

 それら刑事ドラマのメリットが出しづらいだけでなく、チャンネルを変えたくなるような陰惨な事件も多い。今回も幼少期の性的虐待が絡むなど、家族そろって観づらい内容。なおかつ前述のとおり難しい題材に挑戦し、メインの役者を長時間映せないハンデまであった。それでも、0.1%ダウンだけで踏ん張れたのは、多くの視聴者が、「最後は絶対に感動させてくれる」とこの作品を信頼しているからではないだろうか。

『トレース』を毎週追ってるひいき目かもしれないが、また2ケタ視聴率に復調してくれることを願っている。

■視聴者と登場人物の感情をつなぐ音楽

 このドラマの売りと言えば、事件のスリリングさと解決パートでの感動だろう。

 そのふたつを際立たせるのは音楽。タイトルバック前に必ず流れるテクノ調の曲『TRACE』が事件の緊迫感と物語への期待を高め、バラード調の『Never Again』が解決パートで明らかになる事件関係者の悲しみに対する共感を誘う。そして、『Your Broken Heart(Reprise)』で捜査員や事件関係者が前に進む希望を感じさせる。(タイトル名はサウンドトラックより引用)

 本作の音楽を手掛けるのはKen Arai氏。『鍵のかかった部屋』(2012年・フジ)や『失恋ショコラティエ』(14年・フジ)など、先ほども紹介した松山博昭氏の過去の作品でも音楽を提供しているようだ。作り手同士の関係性や、作品に込める想いを想像するのもまた、ドラマの楽しみのひとつである。

 第8話ではサウンドトラックCDのプレゼントの告知があったが、連ドラのプレゼント告知は作品が大詰めになっている時期なのだと実感させる。次回より最終章突入。3月4日放送の第9話も見逃せない。

(海女デウス)

錦戸亮主演『トレース~科捜研の男~』、メインキャストたちが激白! 実は“BLドラマ”だった!?

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 2月18日、『トレース』(フジテレビ系)第7話が放映された。

 今回の事件のテーマは“替え玉事故”。

 都議会議員・伊集院和明(徳重聡)の妻・葉子(河井青葉)が徘徊老人をひき殺してしまう。

 虎丸(船越英一郎)ら捜査員は、伊集院が保身のために葉子に罪をかぶせたのではないかと疑う。一方、沢口ノンナ(新木優子)ら科捜研の女性職員に身の危険が降りかかる。ノンナは数日前、不良たちに絡まれた女性を救っており、彼らが腹いせをしているのではないかと思う。

 “交通事故”と“女性の救出”。無関係に見えた2つの事柄は繋がっていた。ノンナを危険な目に遭わせていたのは伊集院。助けた女性は伊集院の不倫相手であった。ノンナは女性を助ける際、自分と彼女の交通系ICカードを取り違えてしまい、伊集院は愛人のICカードを取り戻そうとしていた。

 女性のICカードの履歴を見てみると事故当日の現場近くのコインロッカーを使用した形跡があった。ICカードで照合してロッカーの鍵を開けると、中から違法薬物が見つかる。

 事故当日、飲酒運転をしていた伊集院は徘徊老人をひき、密会中の不倫相手に所持した麻薬を押し付ける。さらに警察が来る前に妻を呼び出し交通事故の罪を被せた。伊集院が妻と愛人に被せた全ての罪を、礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)ら科捜研が暴くのであった。

 結末まで書き長くなったが、以上が第7話のあらすじだ。

 沢口ノンナが鍵を握っていた回ということで、今回のレビューでは彼女を演じる新木優子にスポットを当てたいと思う。まずは第7話の感想から綴る。

■さすがの月9、細部に宿る“ラブ”の腕

 今回は加害者を追及する勧善懲悪モノ。『踊る大捜査線』(1997年)や『HERO』(2001年)にも通じる“弱きを助け、悪を挫く”の精神。『古畑任三郎シリーズ』(94年~、ここまで全てフジテレビ系)みたく犯人確定とまではいかないものの、ほぼクロの人間を追い詰める構造。今までは遺体の鑑定を機に被害者たちの悲しみに寄り添う感動回が多かった本作が、フジの事件モノっぽく攻めたのが逆に新鮮だった。

 フジっぽさと言えば、今回は恋愛パートが際立っていた。(1話のレビューで“本作はラブ線が無さそう”とか書いてスイマセン……)

 ノンナの淡い恋心が議員のゲス不倫との対局になっていたし、ノンナと礼二の手の触れ合いが議員を追い詰める決定打になったりと、恋愛パートを出した意味があったように思う。

 特に良かった点がノンナと礼二の会話だ。妹が彼氏と行くのであろう旅行を「友達と行く」と言った事に対し、「彼氏のいない自分に気を遣わせた」とヘコむノンナと「良い妹さんだな」とほほ笑んで励ます礼二。奥ゆかしくいじらしい会話を見て、本作の脚本家・相沢友子氏が過去に手掛けた『恋ノチカラ』(02年・フジ)を思い出した。

 また、ノンナを演じる新木優子もファインプレーの連続だった。今回のノンナは、合コンに行った事を礼二にバラされて戸惑ったり、礼二が家に来ると聞いて慌てたりと、一歩間違えれば“イタイ女”に見えていた可能性がある。けれど新木優子が控えめなトーンで演じたため、

 嫌味な印象は受けなかった。グラビアでは色気やカッコいい雰囲気を醸し出せるのに、ドラマでは女っぽさを抑えられるのが凄い。

 演出家の指示もあるだろうが、彼女の持つクレバーな部分が演技に反映しているようにも思う。クレバーだと思った理由は、次章にて述べる。

■ドラマファンにはお薦めしたい“副音声放送”

 第7話では、副音声ボタンを押すと錦戸・船越・新木の対談を聞く事ができた。

 放送される映像に合わせ、「このシーンのロケの日、寒かった」「俺が出てた場面(編集で)カットされた」などの制作秘話が流れる。

 この時の新木優子のトークの立ち回りに彼女の頭の良さを感じた。

 男2人が盛り上がってるときは相槌だけに留める。脱線し過ぎた時には先輩の演技を褒めながらドラマの内容に話を戻す。小道具さんや美術さんが苦労して作った装飾品を見て無邪気に喜び、かといって媚びる感じも優等生ぶってる感じも出ない。ちなみに前章で述べた“勧善懲悪モノ”というまとめ方も彼女から出た言葉だったような気がする。

 トーク慣れした錦戸と船越のおかげで新木の魅力が出たと思う反面、新木が居るからこそ錦戸のチャーミングさと船越の熱量が際立ったと感じた。まさに『トレース』の礼二・虎丸・ノンナのような関係性。三者三様に役作りの一環と捉えて、現場でのコミュニケーションを大切にしてるのかもしれない。

 皆が和気藹々とした雰囲気を心がける中、まだ20代なんだよなーと良い意味で思えたのが、「オフの日は何してる?」の質問に対する新木優子の一言。

「オフの日ほどオフになれない。気を抜いた瞬間、風邪とか引きそうで怖い」

 リアルに勝るドラマはないと感じた。

■それでもノンナは片思い?『トレース』は男2人のラブストーリー!!

 対談の中で、船越英一郎が印象深いことを言っていた。

「『トレースは礼二と虎丸のラブストーリーです』と、(制作スタッフから)言われた」

 散々煽っておいて申し訳ないが、これは物語の構造のお話。

 最初はそっぽを向き合っていた礼二と虎丸が、回を重ねるごとに互いを認め合う……言われてみれば嫌い合っていた男女が互いを好きになる恋物語と同じ構図だ。

 第7話では、冒頭で虎丸がわざと礼二の嫌う「刑事の勘」というフレーズで彼にハッパをかける。ラストでは報われない議員の妻を心配する虎丸を、事件解決のおかげで妻の救われた部分もあると礼二が励ます。礼二と別れたあと嬉しそうにする虎丸がほんの少しだけかわいかった。

 ラブストーリーの構造がラストまでの肝となるのであれば、最終回間近には今までで最大級のぶつかり合いがあるのだろう。ベタだが、互いを想う故の衝突なら泣けるし、ヨリを戻した上で難事件に立ち向かう男2人はメチャメチャ恰好よく見えるだろう。

 とはいえ、『おっさんずラブ』(18年、テレ朝)のような事態に陥る急展開や、殉職した虎丸の遺体から礼二が“真実のカケラ”を見つけ出すようなシリーズ化を棄てた男気なども見てみたい。

 ラストへの期待や妄想が膨らむ終盤、2月25日放映予定の第8話も見逃せない。

(海女デウス)

『トレース~科捜研の男~』面白さに欠ける中だるみ回も、演技派ジャニーズ“錦戸亮パワー”で視聴率上昇!?

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 2月11日放映のトレース第6話。まずはあらすじから見てみよう。

 河川敷で発見されたホームレスの変死体の鑑定を依頼される科捜研の面々。死んだホームレスは真野礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)の兄・義一をイジメていた同級生であった。25年前、義一はイジメが原因で引きこもり、礼二以外の家族を刺殺した後に自殺したとされている。兄の殺人も自殺も不審に思う礼二は、変死体の鑑定をしながら25年前の真相に迫る。

 礼二の過去が明確になる重要な回ではあったが、前回までに比べると面白さがトーンダウンした印象だった。今回はその原因に触れながら、6話で明かされた新情報を整理する。また、礼二にスポットの当たる回ということで、主演・錦戸亮の魅力にも迫っていきたい。

■風呂敷を広げるだけで終わった第6話

 第6話では以下のような情報が提示される。

・死んだホームレス新妻大介はイジメの主犯格の一人だった

・兄・義一はイジメで引きこもったが大検の合格を目指し前向きに生きていた

・警察は義一以外の犯行の線も調べていた模様

・新妻の遺体発見現場にあった手袋に付着した血痕が礼二の両親と姉のDNAと一致

・礼二の上司、海塚(小雪)は25年前の事件の鑑定を担当していた

・25年前、事件の鑑定資料を上層部に取り上げられ、改ざんされた資料が戻ってきた

・海塚は改ざん前の事件の記録を残したノートを持っていた

・ノートには殺害前、当時高校生の礼二の姉が妊娠3カ月だった記述がある

 警察による隠蔽の疑惑や、姉の妊娠など、新事実が明らかになるスリリングな回ではあった。

 しかし、「新妻は氷を喉に詰まらせて死んだの“かもしれない”」「警察が25年前の真相を隠したの“かもしれない”」と、ホームレス新妻の死の真相も、25年前の事件の真相も、わからぬまま物語が終わる。

 前後編仕立てで、次話に全ての真相が明らかになるなら納得する。だが1話完結型に戻り、25年前の事件の情報を小出しにしていくのであれば、今でさえ多い情報を視聴者が覚えていられるかの懸念がある。

 また第6話は、事件解決のカタルシスも、誰かが救われた場面も描けなかったため、本作の見どころでもある山場の秀逸さが発揮できなかった印象だ。

 亡くなった家族への想いの吐露や警察組織への憤慨など、礼二の感情が揺さぶられている場面を増やしてほしかった。『トレース』の制作チームであれば礼二のキャラにブレを感じさせることなく撮れていただろう。印象的なシーンがあることで新情報を強く記憶に残せていたとも思う。

■錦戸亮が真野礼二に与えたモノとは!?

 ストーリーには物足りなさを感じたが、視聴率は前回から0.4ポイントアップの10.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 また、「(錦戸の演技が)目、声、表情で伝わる」「色気とカッコよさが堪能できた」など礼二を演じる錦戸亮に対する好意的な意見がネット上で見られた。

 ファンによる書き込みも多々あるだろうが、錦戸ファンでない私も賛同する。

 第6話まで過去が明らかにされていなかった真野礼二を主役として見られたのは錦戸亮の存在感に頼るところが大きい。「過去つらい経験をしたんだろうな」程度の情報しか提示されていない状況で、錦戸亮が醸し出す憂いや儚さが無ければ、礼二が虎丸刑事に突っかかるただの変人にしか見えなかっただろう。

 演技力以上に、錦戸が役者として持つ天武の才は滲み出る“愛嬌”だと思う。

『ごめんね青春!』(2014年・TBS系)や『サムライせんせい』(15年・テレビ朝日系)などのコミカルなドラマではチャーミングな男を演じられる。『ラスト・フレンズ』(08年・フジテレビ系)でDV男を演じた時は、女にとって離れがたい男という設定を、錦戸の愛嬌が説得力を持たせていた。

『トレース』においても、礼二から滲み出る“憂い”は、錦戸亮の持つ愛嬌と、原作と脚本が抽出した悲しい過去が合わさってこそ生まれる。

 キャスティングの段階で錦戸の魅力の立たせ方が分かるスタッフも優秀であるが、周囲に自身の長所を気づかせる錦戸亮も素晴らしい。

■今後の展開への期待

 錦戸亮の演技以外で、第6話の良かった部分を挙げるなら、各キャラクターと礼二との関係性の変化だろう。

 ノンナ(新木優子)と虎丸(船越英一郎)は、礼二と接する機会が多いからこそ、25年前の事件を前にした礼二の異変を察することができていた。虎丸に至っては、礼二の真実を追究する姿勢を呆れながらも理解を示すようになった。他の科捜研のメンバーも同様だろう。

 この先、礼二に救われた仲間達が、25年前の真相に立ち向かう彼のために何をするのか?

 各話、真相の解明と救われる人々の姿で泣かせてくれたドラマだけに、主人公・礼二が救われる立場になった時の感動は計り知れない。

 また、サスペンスとしての要素も楽しみだ。千原ジュニア演じる警察上層部の男はどう25年前の事件と関わっているのか? そして礼二の協力者として登場した兄・義一の元担任・早川(萩原聖人)もまだ秘密を握っている匂いがする。

 次回2月18日放送予定の第7話では、1話完結のメインの事件に主軸を置きながらも、未解決のままのホームレスの死因も含め25年前の事件の真相に少し近づくのだろう。

 残り4回ほどの放送を、最後まで見守りたい。

(海女デウス)

錦戸亮主演『トレース~科捜研の男~』、『半沢』『逃げ恥』にも共通する“ヒットの法則”とは!?

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 2月4日に放映された『トレース~科捜研の男~』第5話。

 内容は、18年前の誘拐を機に行方不明となっていた女児が、現在の殺人事件の容疑者として浮上し、その真相に迫るというもの。次々と予想外な事実が発覚するスリリングな内容でありながら、ラストは感涙必至という高尚な回だった。

 今回のレビューでは、『トレース』というドラマ自体の魅力に触れつつ、2ケタ視聴率を維持する秘訣に迫っていく。さらに次週から突入する新章への期待も綴りたい。

■視聴者の本性まで炙り出す神回!!

 第5話は視聴者の引きつけ方に巧さがある。

「18年間行方不明だった女児が殺人犯!?」という切り口だけでもインパクトが強い。また、予想外の展開と共に、視聴者の善意と悪意を引き出しながら、画面にくぎ付けにする。中二病的な表現だが、前半では視聴者を天使にし、後半では悪魔にしてしまう巧妙な構造だ。

 前半は、子の無事を願う両親への共感という善意から物語にのめり込める。殺人現場に残された毛髪と、行方不明の女児のDNAが一致するところから物語は始まる。

「今娘はどこにいるのか?」「無事に生きていてほしい、けれど殺人犯であってほしくない」

 女児の両親の目線で礼二(錦戸亮)やノンナ(新木優子)の活躍を祈ることができた。

 後半は一変して、見る者に内在する悪意をくすぐる。そのターニングポイントは、女児の両親、島本彩花(矢田亜希子)と島本彰(山中聡)のDNA鑑定のくだりだろう。中盤で失踪中だった娘・ユウ(山本舞香)が警察に出頭するのだが、ユウ本人か確認するため、父・彰と母・彩花のDNAと一致するか鑑定を行う。ここで一波乱あり、彩花とは一致するも、彰とは一致しない。つまり彩花が別の男性と性的関係を結んだことになる。

 不倫をしたのか? 襲われたのか? それ以外の理由があるのか? 

 ゴシップ誌をめくるような邪な野次馬根性から、真相を知りたくなってしまう。そうして導かれたラストでは我々視聴者の涙腺を崩壊させ、善人に戻してくれる。彩花の過ちや彰の決断には賛否両論あるだろうが、18年間離れていた娘のユウが“何”によって、両親からの愛を感じていたのかは必見だ。ぜひ、見逃し配信などで確認してほしい。

 ただ、気になる点が一つ……どの回も家族愛を描いてばかりじゃないか!!

 第1話は母娘の絆。第2話は父娘の絆。第33話は娘の死と夫婦愛。第4話は兄弟愛。そして今回もまた、親子愛。

 こうして並べてみるとマンネリな作品にも見えるが、実は視聴率的な観点から言うと得策かもしれない。そう考えた理由を次章で述べる。

■高視聴率の隠し味は、ホームドラマ!?

 第5話の10.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)も含め、『トレース』全話の平均視聴率は10.9%。この一年、月9で放映された、『コンフィデンスマンJP』(平均8.9%)、『絶対零度』(平均10.6%)、『SUITS』(平均10.7%)。まだ途中段階であるが、上記作品と比べても、トレースは一番の好成績を収めている。

 結果を支えているのは、前章でも触れた“家族愛”だろう。なぜ視聴率において得策なのかというと、2010年代の大ヒットドラマの共通点は、家族愛をスパイスにしているから。

『トレース』と同じ月9作品『コード・ブルー3』(2017年・フジテレビ)を見てみよう。こちらも医療ドラマでありながら、多くの回で家族愛が描かれている。メインメンバーや患者たちは、家族に関する悩みを抱えることが多かった。トレースで家族愛の描写が多いのも、同作品のヒットが影響しているのかもしれない。

 月9作品以外で例を挙げるなら、『半沢直樹』(2013年・TBS)。上司への倍返しが痛快な作品であるが、家族愛が重大な役割を担っている。半沢(堺雅人)が復讐を決意する理由は、父親の自殺。時として復讐鬼となる半沢の人間味を戻してくれるのが妻・花(上戸彩)。彼女に至ってはただの添え物にならず、半沢のピンチを何度も救うキーパーソンになっており、女性視聴者を置いてけぼりにしていないこともまた気持ちがいい。

『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年・TBS)でも、“契約結婚”という切り口から多くの家族愛を見せてくれた。みくり(新垣結衣)と津崎(星野源)の障害の多くが、家族を愛する気持ちから起きる。結婚挨拶を機に両親からの愛情を知り後ろめたい気持ちになったり、叔母・百合(石田ゆり子)に契約結婚だとバレないために協力し、二人の恋が発展したりする。

 平成に入って、ホームドラマ自体の視聴率は徐々に下がり、制作本数は少なくなった。けれど、現代ではさまざまなジャンルの作品のスパイスとして家族愛は活躍している。

 真正面から「家族の愛を描く」と謳われるとくすぐったい気持ちになるが、スリリングな事件や斬新なテーマの中に家族愛がサンドされていると惹きつけられてしまう。

 愛や憎しみ、さまざまな感情が混在しても、家族を想う気持ちは平成が終わろうとしている今でも変わらないのだろう。

■次週、新章突入!! 今後の展開は?

『トレース』の場合は、視聴率のためだけに家族愛を描いたわけではなさそうだ。その理由は第5話ラストのノンナの台詞。

「礼二さんって、次男ですよね?」という一言をキッカケに、礼二の兄が自殺したことがほのめかされる。原作では第1話から、礼二の家族の事件に重きを置いている。原作のメインストリームとなっていた要素をドラマでは懐刀にし、次週から始まる新章から濃密に描いていくようだ。礼二の家族の事件に入っていけば、今まで家族愛を描いた事にも意味合いが出て来るだろう。また、今まで描かれることの少なかった小雪や千原ジュニアらの演じる人物達がどのように物語に絡むのかも楽しみである。

 ちなみに具体的なネタバレは避けるが、礼二の事件には、『半沢直樹』っぽい復讐要素が絡んでくる。倍返し要素と家族愛のスパイス、大ヒットドラマの系譜を受け継ぐ本作の第6話にも期待したい。

(海女デウス)

錦戸亮主演『トレース~科捜研の男~』、視聴率復調の裏に木村拓哉をアゲた“福男”の存在!

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『トレース~科捜研の男~』の第4話が1月28日に放映された。

 感想から述べると、率直に素晴らしい回だと思えた。見易く温かい内容を受けてか視聴率は前回9.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)から11.0%に復調。また内容だけでなく、今勢いのあるクリエイターの起用が流れを掴んだ要因かもしれない。脚本家は今年公開の大ヒット映画を担当。さらに演出家も去年のとあるヒットドラマを手掛けた若手ディレクターだった。

 今回は近年のフジ作品をヒットに導く福男たちにスポットを当てながら、第4話の内容を振り返っていく。

■『マスカレード・ホテル』を書いた“アゲチン”脚本家

 第4話の脚本を手掛けたのは岡田道尚氏。『ライアーゲーム』や『信長協奏曲』(ともにフジテレビ系)などのヒット作にも名を連ねている脚本家だ。最近では木村拓哉主演・東野圭吾原作の映画『マスカレード・ホテル』の脚本を担当している。アゲチンなどと下品な表現で語るのが申し訳なくなるほどの若手有望株である。

 まずここで第4話の内容に触れる。礼二(錦戸亮)とノンナ(新木優子)が、兄殺しの容疑で逮捕された同僚・相楽(山崎樹範)の疑いを晴らし、兄の死に秘められた兄弟愛まで解き明かす1話であった。

 岡田氏は手短に語れるシンプルなストーリーラインを兄弟の愛憎で膨らませ、ラストは事件解決とともに視聴者を感動に至らせる。前述した『マスカレード・ホテル』でも、「ホテルの中に犯人がいる」というシンプルな切り口を、刑事・従業員・客たちのさまざまな人間模様で二時間に膨らませていた。

 もう一つ特筆すべきは、岡田氏の登場人物の頑(かたく)なな心境を解きほぐす際の技量だろう。『トレース』第4話でも事件解決までに、礼二とダメな兄を頑なに嫌う相楽の心境を一変させた。それだけでなく消極的だった科捜研メンバーを積極的な姿勢に至らせ、チームの結束力まで高めていた。

 物語の膨らませ方、人物の心境を変える技量、複数人を同時に動かすことの巧さ。

 岡田氏の長所は本作やマスカレード以外の作品でも遺憾なく発揮されている。それが作家性とも言えるだろうし、強みを自覚して前に出せているのかもしれない。クリエイターとしても仕事人としても、優秀な人なのだろう。

■進化し続ける“フジの若手演出家”

 今回は脚本だけでなく演出も素晴らしかった。演出家は相沢秀幸氏。調べたところ、5年ほど前から演出を手掛けるようになり、サスペンスやラブコメなど活躍は多岐に渡る。直近だと、ここ数年1ケタ視聴率を連発するフジの木曜10時枠で2桁視聴率の快挙を成し遂げた『グッド・ドクター』(2018年・フジテレビ系)の演出も担当している。

 さまざまなジャンルで培われた演出の幅は本作でも見られる。先週の第3話では、事件の冷酷さと人間の温かみの緩急で1時間をもたせた。だが、正直言えば、第1話と第2話を手掛けた松山博昭氏と比べるとテンポ感とキレがなく、モッタリとした印象ではあった。

 しかし、今回の第4話ではその課題を克服するばかりか、テンポとキレを武器にして見せた。

 ネタバレしてしまうが、クライマックスで、兄が保険金を自分に与えるために自殺を他殺に見せかけた事を相良が知るシーンは圧巻だった。

 相楽が幼少期の兄との想い出を回想しながら、死の真相を聞かされる場面なのだが、映像・音楽・台詞を折り重ねるタイミングを少しでも間違えていれば感動は薄れていただろう。しかし、「バカだな……嘘が下手なんだよ」と、亡き兄を想い泣く相良を起点に置き、回想映像を切り上げるタイミングと音楽を入れるタイミングは鳥肌が立つほど絶妙だった。

 その他にも、転んだノンナに礼二が手を差し伸べて立たせるシーンも良くできていた。下手に撮れば、突然ヌッと現れた礼二に驚き転んだドジな女・ノンナが立たせられるだけの場面。だが、テクノミュージックとの調和でカット割りを細かくし、礼二の前方不注意ぶりを忘れてしまうほど、礼二を演じる錦戸をカッコよく見せていた。

 役者と台詞を輝かせる相沢氏の演出をこの先も見てみたい。また今回を上回る進化を見せてくれるだろう。

■『踊る~』や『HERO』の栄光を捨てられないフジの風潮

 今回もまた、脚本家と演出家をベタ褒めしてしまった。しかし、指摘すべき点が一つある。それは、過去のフジ作品の焼き廻しとも思える場面の頻出だ。

 例えば、今回の消極的だった科捜研メンバーが憎まれ口を叩きながら、ノンナの捜査を手伝い始める場面。これは『踊る大走査線』(1997年・フジテレビ)の第4話の織田裕二演じる青島刑事が犯人を取り逃した万事休すの場面で、所轄の仲間たちが憎まれ口を叩きながら犯人を連れて現れるシーンと似通っている。

『トレース』に限ったことではない。近年のフジの刑事ドラマでは、チームの結束を上げる場面では何かと同シーンが使いまわされ、仲間感を見せる場面では『HERO』(2001年・フジテレビ)の横一列並びが多用されている印象だ。「どっかで見たな」という既視感は、見てる側を冷めさせてしまう。

 先輩社員を喜ばせるための踏襲なのか、尊敬の念を込めてのオマージュなのかはわからない。ただ、優秀な若手クリエイターには過去に縛られず新たな名場面を生み出してほしい。

『トレース』が良作故に無茶な注文をつけてしまったが、2月4日放映予定の第5話も楽しみにしている。

(海女デウス)

錦戸亮主演『トレース』視聴率1ケタに急落も、ドラマ版の“原作愛”が2ケタ復活を可能に!?

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『トレース~科捜研の男~』(フジテレビ系)の第3話が1月21日に放映された。

 まずはそのあらすじから紹介。

 女子児童の遺体が発見され、礼二(錦戸亮)とノンナ(新木優子)は着衣から性的暴行の形跡が無いかを鑑定する。一方、虎丸(船越英一郎)ら刑事達は今回の事件が、過去2件の女子児童殺害と酷似している点から、当時容疑者に浮上した西内智幸(池内万作)をマークする。着衣から性的暴行の形跡は見られなかったものの、礼二とノンナは現場に落ちていた吸い殻についた唾液から容疑者・西内のDNAを検出。犯人断定かと思われたが、礼二は吸い殻に不審な点を見つける。それを皮切りに西内を犯人に仕立てようとする人物の存在が明らかになる。

 ここまでが第3話前半のあらすじ。虎丸の過去や刑事という仕事の痛みを描いた見応えのあるヒューマンドラマ回だった。

 今までの記事ではストーリーを中心に掘り下げたが、今回はまだ触れていない役者陣の演技、そしてこのドラマの原作について迫りたい。

■物語に厚みを加える役者陣の名演技!!

 第3話の見どころと言えば、虎丸が先輩刑事・鶴見(大地康雄)の悲しい過去を語るシーンだろう。

 ネタバレになってしまうが、西内を犯人に仕立てようとしたのは鶴見刑事。過去に女子児童を殺害した疑いが強いものの確証が出ないため平然と暮らす西内を、鶴見は何としても逮捕したかった。その理由は交番勤務時代のミスのせいで女子児童が殺される悲劇を招いたことを悔いていたから。虎丸は鶴見のしたことが許されないとわかりながらも、礼二に「ただ(鶴見の後悔を)知っていてほしかった」と、最後にポツリと言う。

 礼二に泣き言もお願いも言えない不器用な虎丸のその一言に「鶴見を許してあげてほしい」「西内が殺した確証を得るため協力してほしい」という気持ちが込もっていた。そのように感じ取れるほど虎丸役の船越英一郎の芝居は快演だった。第1話の、殺された女性を不憫に思い虎丸が涙を流すシーンもホロっと来る名場面である。

 船越英一郎だけでなく、礼二を演じる錦戸亮も素晴らしい。第2話で、落ち込むノンナに対して「お前はよくやった」と励ます際には、同僚を思いやる優しさと家族を亡くした人間としての憂いが込められていた。また、女優としては若手の新木優子だからこそ、新人研究員・ノンナの戸惑いを過不足なく抽出できている。

 各話の名場面に共通するのは、セリフがシンプルであること。これはメイン3人の役者への信頼があるからなのかもしれない。役者陣もその期待に応え、端的な一言の裏に秘められた登場人物たちの想いを、見事に表現している。

■ドラマ版『トレース』に原作愛はあるのか?

 このドラマの原作は古賀慶氏が「月刊コミックゼノン」(徳間書店)で連載中の『トレース~科捜研法医研究員の追想~』。サブタイトルの違いはさておき、内容に関して言えば共通する点も違う点も見受けられる。

 例えば、ドラマ版の第1話と第3話は原作にある小編を基に膨らませている。一方、第2話はキメラという特異体質が事件の鍵を握る骨子だけ抜き取り、肉付けを大きく変えていた。

 ストーリーラインに関して言えば、今後の展開も含めて原作に沿っている印象だ。しかし、原作とドラマ版の大きな違いがあるとすれば、先ほど絶賛した船越英一郎演じる虎丸刑事のキャラクターだろう。

 ドラマ版では科捜研にパワハラ気味な対応をする定年間際の刑事。仕事で家庭を犠牲にし、妻と息子とは絶縁状態の昭和堅気な男だ。一方、原作の虎丸は、生まれたばかりの子どもを愛し、科捜研に対して割と協力的なスタンス。肩の力も抜けたナイスミドルである。

 虎丸が好きな原作ファンからするとドラマ版の虎丸には納得いかない部分もあるだろう。しかしながら、虎丸を原作とは真逆なキャラにしたことでのメリットは多分にある。

 まず、虎丸を科捜研とって厄介な人間にした事で主人公・礼二に葛藤のラインができる。「刑事の勘だ」と主観で事件を見る虎丸に対して、原作でも頻出する「キモチワルイ」という口癖で反発するとともに、礼二の客観性を大切にする姿勢を色濃く出せている。

 また、前章で名シーンとして挙げた第1話の虎丸が涙を流す場面や、第3話の肝となった家庭を犠牲にした虎丸の後めたさも、ドラマ版の虎丸だからこそ生み出すことができた。

 ここまではドラマ版の改変を擁護する形になったが、原作ファンとしての私が嬉しかったポイントがある。それはメイン3人の被害者をいたわる誠実な姿勢がドラマ版の3人にも受け継がれていることだ。

 原作者である古賀慶氏は科捜研に居たことを明かしている。原作のディテールや登場人物が受ける痛みや悲しみは、研究員としての経験があるからこそ描けるのだろう。

 主人公・礼二が忌み嫌う主観で述べてしまうが、古賀氏は過去の仕事にも今の仕事にも真摯に向き合う誠実な人柄なのではないだろうか? そして古賀氏が生み出したキャラクターの誠実さを抽出できている時点で、映像化サイドの原作へのリスペクトを感じる。

 事件を解決しても喜んで終われない苦さ、そして原作から受け継いだ登場人物のDNAが最終回まで大切にされる事を願っている。

■3話の視聴率は9.6%……2ケタ台復活なるか!?

 今まで内容・役者・原作を賞賛してきたが、ここにきて懸念点が一つ出た。それは、第3話の視聴率が9.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という1ケタ台に落ちてしまったことだ。

 裏で瞬間最高視聴率20%超のサッカー・アジアカップが放映されていたことが大きい。ただ、原作にもあるとはいえ冒頭から女子児童の着衣で性的暴行の有無を調べたのはあまりにも痛ましかった(私ごとながら、2話のノンナみたく晩ご飯を食べられなくなりました)。これは素人意見かもしれないが、前話のおさらい的なシーンを冒頭に入れて各登場人物の想いに触れてからスタートした方が、主人公の目線に乗って見られて、凄惨さが気にならかったかもしれない。

 あともう一つ気になったのが急にメイン3人以外の研究員メンバーの描写が増えたこと。

 視聴時は余計なオカズに思えたが、4話で研究員の一人が容疑者とされるため必要な描写であった。前回の記事と重複してしまうが、無駄のない機能美に優れたドラマに思える。

 1月28日放映予定の第4話が、より多くの人に見られることを、原作ファンとしてもドラマ版のファンとしても期待したい。

(海女デウス)