オリエンタルランドの社員による「過重労働」「パワハラ」裁判の第一回公判が、2018年11月13日に千葉地方裁判所で行われ、大きく報道された。東京ディズニーランドでキャラクター出演者として働いていた女性契約社員AさんとBさん2人が、過重労働やパワーハラスメントで体調を崩したとして、オリエンタルランドの安全配慮義務違反を訴えている裁判である。今年3月26日に行われた第二回公判では、「過重労働」を訴えていた原告Aさんがパワハラ被害も追加提訴。そんな中、オリエンタルランドで「私も」と声を上げる動きが起こっていることがわかった。『ディズニーの労働問題 「夢と魔法の王国」の光と影』(三恵社)著者であり、東京経営短期大学専門講師も務めるジャーナリスト・中島恵氏が、その現状について寄稿する。
職場復帰時に「どの面下げて」と言われた
10~30キロあるキャラクターの衣装を着て、ショーやパレードなどに出演していたところ、2017年1月、神経などを圧迫される「胸郭出口症候群」を発症したというAさん。当初、オリエンタルランド側は労災申請を渋り、休業補償もないとの対応だったそうだが、労働組合「なのはなユニオン」と支部であるオリエンタルランド・ユニオンによる交渉の結果、会社は労災申請をし、同年8月に労災認定を受け、昨年7月に会社側の安全配慮義務違反を提訴。その後、Aさんは復職したものの、仕事に行くことができなくなり、今年3月の第二回公判では、「パワハラを受けた」と追加提訴したAさんが、意見陳述を行った。
Aさんは出演者として働き続けたいという思いから、復職に関してできる限り努力したものの、現在「反応性うつ状態」を発症し、復職できずにいるという。なんでも労働災害に認定されたと新聞報道があってから、「Aさんが悪いことをした」などと、同期たちから怒りをぶつけられ、「謝罪がないことがおかしい」と、責められたそうだ。Aさんは、「安心して職場に行けない恐怖感があった」ため、団体交渉の場で会社に「出演者が労災認定されたとの報道については守秘義務違反にあたらない」と認めてもらっていたが、職場復帰の際、周囲のスタッフの反応はひどく冷たいものだったという。
例えば、職場復帰初日にほかのスタッフから「どのツラ下げて来てんのか見に行ってやろうぜ」と言われていたことを耳にしたほか、復帰2日目には、先輩から「謝った方がいい。」「謝るんだよ。」と言われたとのこと。Aさん自身、ある程度想定したことだったが、実際に直接言われるとやはり心が折れ、会社に行くことはできなくなったそうだ。
Aさんにとって職場は、夢を守らなければならない、守りたい場所であると同時に、働き続けたい場所。働く者が会社に行くこと自体が怖いなんて「夢の国」にあってはならない……そんな思いから、Aさんはパワハラも提訴したという。なお、第一回公判後の記者会見で、Aさんは現在、心療内科にかかっていることも明かしていた。
千葉地裁は、次回からAさんに関して安全配慮義務違反とパワハラ問題を合わせて審議すること、さらにAさんとBさんとの弁論を分離すると説明した。
現場の同僚から理解が得られず、攻撃される……原告側が抱える問題が浮き彫りとなったが、その一方で、別の動きも出てきている。オリエンタルランド・ユニオンが1月12日、Twitterに「今、OLC裁判をしている原告二人以外で、最近パワハラで解雇され交渉申し入れをしている別件もあります!毎日いろんなキャストの方から『私も同じです!』の声上がってます!お気軽にご相談ください!ひとりじゃない!」(原文ママ)とツイートしたのだ。パワハラ裁判中に、別の非正規従業員がパワハラ解雇に遭うという、想像し難い事態が起こったのだ。そこで筆者は、なのはなユニオンの委員長・鴨桃代氏に取材を申し込んだ。
4月2日現在、団体交渉を開始しているのは、女性キャストCさん。裁判の報道を見て、ユニオンに助けを求めて駆け込んできたそうだ。Cさんの受けたパワハラとは、一体どのようなものだったのか。
「Cさんは、『協調性がない』『空気を乱す』『通常の指導や説明に対する意見・反論批判が多い』などの理由で2019年1月末をもって解雇されました。Cさんは何度も上司に個室へ呼び出され、『同僚のキャストがCさんについてこう言っている』と指摘され、『それについて反省や改善はないのか』と責められたものの、Cさんにとっては、“意味がわからない抽象的なこと”ばかり。『わかりました』と言えば、自分が非を認めることになってしまうので、Cさんは同意できなかったとのこと。現在、裁判中のBさんは『30歳過ぎのババアはいらない』『ケガで働けないなら辞めちまえ』など明確なパワハラ暴言を受けましたが、Cさんはここまで直接的な暴言を受けてないが、解雇されました」(鴨氏)
オリエンタルランドには、ゲストや同僚キャストからクレームが入ったりした場合、上司に呼ばれて書かされる「パフォーマンステーマ・スキル指導確認書」という書類があるという。
「上司からの改善を要する事実および指導内容について、『指摘事実及び指導内容を受け止め、改善することを約束します』と本人が署名・押印するものです。そのなかに、『改善が出来なかった場合、時給およびグレードの変更、あるいは契約が終了となる可能性がある』と書かれています。『これは始末書ではない』と、交渉の場で会社の人事部の人は公言しましたが、現場では始末書の性格を持っています。Cさんだけでなく、これまでユニオンに駆け込んできた人たちが言うには、上司に個室に呼ばれて書かされるもので、この書類自体がキャストにとって相当なストレスとなっており、パワハラと感じるようです」(同)
近年、ディズニーランドでは、ゲストの迷惑行為が問題になるケースも少なくない。鴨氏も「キャストの対応が悪かったのではなく、客側が“モンスター化”して、理不尽なクレームを入れているケースもあり、カスタマーハラスメントも横行していると思う。」と述べる。
「ところが、オリエンタルランドは“ゲスト第一主義”なので、いかなるクレームもキャストが悪いとして、改善されなかったら時給減額か契約終了という書類にサインさせています。ユニオンは、それでは問題が隠され、真の接客改善につながらないと主張しています。キャストがみんな『私が悪い』と思わせてしまうホスピタリティ教育……そんな社風だと感じます」(同)
Cさんは解雇通告をされたものの、解雇理由は「不明」だという。ユニオン側はその点も疑問視しているそうだ。
「現場の上司であるスーパーバイザーや店長が解雇を言い渡すのですが、第二回目の交渉で、Cさんの解雇理由を会社側に問うたところ、『今は正確に言えないので、次回、回答します』と言われました。解雇を通告したのに、解雇理由を言えないのはおかしいでしょ。人事部は具体的解雇理由を把握していないのではないか、現場が暴走しているのではないかと感じます」(同)
3月19日には、また別のディズニー裁判が明るみに。元ダンサー(出演者)の大川英典氏(51歳)がオリエンタルランドの安全配慮義務違反を問う裁判を起こし、同社は請求棄却を求め、争う姿勢を見せている。
大川氏は1995年6月から、「パレードで大きな旗を持ちながら踊る」といった労働を続けたことでひざや腰を痛め、96年9月に退職。その後、「ジャンパーひざ(ジャンプ動作などの繰り返しによって発生する、膝蓋靭帯炎および大腿四頭筋腱付着部炎)」や「反射性交感神経性ジストロフィー(神経因性疼痛)」と診断され、2005年に船橋労働基準監督署から労災認定を受けたという。現在も治療は続き、杖を使っての歩行を余儀なくされているそうだ。大川氏は記者会見で、会社側から出演中のケガは、労災ではなく民間の保険で治療することを指導されたほか、上司に痛みを訴えても叱責されたことも明かしている。
SNS上で、「私も」を意味する「#MeToo」というハッシュタグを用い、セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する運動を「#MeToo運動」というが、オリエンタルランドのキャストの間でもパワーハラスメントや過重労働に関して「私も」と声を上げる動きが広がりつつある。 鴨氏いわく、Cさんのほかにもオリエンタルランドとの団体交渉を控えている人がいるという。AさんとBさんが、勇気を振り絞って訴訟に踏み切ったことは想像に難くないが、その思いは確実に“誰か”に伝わっているはずだ。
次回の裁判は「オリエンタルランドの希望で非公開」
次回の裁判は6月4日16時と決まったが、「非公開」で行われるという。鴨氏は「私たちは多くの人に知っていただきたいが、オリエンタルランドは非公開を強く求め、裁判所も非公開と判断を下しました」という。
一般的に、こうした裁判の進行はとても遅く、大手企業はそれでいいとしても、労働者側は「生活に困る」といった現実的な問題に直面し、戦意喪失につながるなど、不利になるケースもある。非公開とするならば進行が早まることを願う。
原告たちの目的はオリエンタルランドを攻撃することではなく「本当の夢の国にしたい」、そして働き続けたいということである。ディズニーが好きだから働いてきたというAさん、Bさん、Cさんが、3人とも職場復帰を果たし、働き続けられることを切に祈る。
(中島恵)