池松壮亮の役者バカぶりがさらに激しさを増す!! 美人OLと現実逃避の旅『宮本から君へ』第3話

 社会のルールを守ることは大人の常識ですが、ルールに縛られすぎていては生きていくことが面白くも何ともありません。退屈な社会のルールなら平然と破ってしまう男、それが宮本浩です。新井英樹原作コミックのTVドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)を観ていると、裸になった池松壮亮がサウナ風呂のロウリュのような熱風をテレビの中からこちらに向けて吹き込んできます。テレビを観ているだけなのに、視聴者の心は汗だくです。池松演じる宮本の熱さがますますヒートアップした『宮本から君へ』第3話を振り返りましょう。

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 都内の弱小文具メーカーに勤める宮本浩(池松壮亮)は仕事や生きることに価値を見出すことができずに悩んでいます。大手自動車メーカーの受付嬢である甲田美沙子(華村あすか)と朝の通勤電車で会話を交わすことだけが唯一の楽しみです。美沙子に会うために、毎日出社しているようなものでした。社会人になって初めての秋。24歳になった宮本は美沙子からマフラーをプレゼントされます。美沙子ともっと深い仲になりたいと願う一方、今のお友達づきあいも壊したくありません。恋に仕事に、宮本は宙ぶらりんな状態でした。

 11月の終わりの金曜日、いつになく美沙子が駅に姿を見せません。そろそろ電車に乗らないと会社に遅刻してしまうなというタイミングで、ようやく美沙子は現われました。でも、いつもとちょっと様子が違います。宮本の手を握って「どこか行きませんか、会社をサボって。海とか……」。美沙子がどこまで本気なのか、冗談を言っているだけなのか、宮本は女心を計りかねてしまいます。

 電車の発車メロディが流れ、意を決した宮本は美沙子と共に会社とは反対方向へ向かう電車に乗り換えるのでした。社会人1年生として仕事のルールを学ぶことに明け暮れていた毎日が、美沙子と会社をサボったことで刺激的でロマンティックな、非日常的な世界へと変貌していきます。

 原作コミックが連載されたのは1990年代前半。サラリーマンたちはバブルの世を謳歌していましたが、まだ当時はケータイ電話が一般には普及していませんでした。ある意味、その頃のサラリーマンは会社からも恋人からも首輪を繋がれていない時代でもあったわけです。時代設定は明確にされていないTVドラマ版『宮本から君へ』ですが、宮本も美沙子もケータイ電話は持っていないようです。会社に「急にお腹が痛くなりました」「身内に不幸があったので」などバレバレな嘘電話をすることなく、2人は外房あたりの海へと繰り出していきます。

 ガラガラの電車の中、美沙子と2人っきりという駆け落ち気分を宮本は味わい、見知らぬ駅で買った駅弁を半分っこします。美沙子から「あーん」してもらい、宮本はサイコーの浮かれ具合です。これが政治家や官僚なら「ハニートラップかな?」と疑わなくてはいけませんが、小さな文具メーカーの平社員である宮本は、浮かれたい放題に浮かれるのでした。まだ何者にもなれずにいる宮本は、その分だけとても自由な生き物です。

 駅弁で食欲を満たした後は、浜辺に出て海を眺める宮本と美沙子でした。平日の海には2人以外に誰も人影がありません。流木に腰掛けた宮本は、隣にいる美沙子の肩を抱き寄せようとしますが、誤って美沙子の頭を叩いてしまいます。「なんで叩くんですか!?」とちょっと怒った美沙子がサイコーにかわいく思えてきます。「肩を、肩を(抱くつもりがね)……」と言いよどむ宮本の言葉尻を美沙子は繋いで「肩を、ちょっと貸してくださいね」としなだれ掛かります。ついに宮本は惚れた女を手中に収める瞬間を迎えたのです。

 

■華村あすかのたどたどしさが男心をくすぐる!?

 

 美沙子が会社をサボって海を見たがったのには、明確な理由がありました。残念ながら、宮本とデートがしたかったわけではありません。昨晩、交際していた彼と別れ、思いっきり泣くために海を訪れたのでした。宮本はそれに付き合わされていたのです。美沙子からそのことを知らされた宮本は、座っていた流木からまるでワイヤーで引っ張られたかのように後方へビョ~ンと跳び退きます。後ろ跳び世界選手権があれば、確実にメダルを獲得したことでしょう。ここからの宮本は尋常ではない行動に移ります。いよいよ、アブノーマルパーソン・宮本の本領発揮です。

 おもむろにスーツを脱ぎ出した宮本は、パンツ一丁になります。「付き合っている人がいたこと、隠すつもりはなかったんです」と謝る美沙子を浜辺に残し、波が高い海へ狂ったように駆け出す宮本。どうやら失恋で気落ちしている美沙子の心のスキに付け込んで、エロい関係になろうとしていた自分自身が許せないようです。会社はズル休みしたくせに、自分の頭の中にある恋愛哲学には厳格な宮本でした。「甲田美沙子がフツーの奴に捨てられちゃダメだろ!」「泣くなら、ひとりで泣け!!」と波にさらわれながら、ズブ濡れになった宮本は叫び続けます。宮本の叫び声は波の音に掻き消され、半分も美沙子の耳には届きません。美沙子は宮本の言動に励まされたというより、むしろあっけにとられています。きっと美沙子は「男はみんなバカだ」と痛感したに違いありません。

 季節はずれの海で寒中水泳に励んだその夜、宮本は同期入社の田島(柄本時生)のアパートを訪ねました。会社をサボった宮本のために、田島は2人分のナポリタンを作ってやります。「人間ひとり、大した意味もっとらんて。つまらん意地を張っとったら後悔するぜ」と助言する田島に向かって、宮本は「でも人間に意味なし、なんて思ってないだろう?」と聞き返すのでした。「それ、本気で聞いとる?」と答えるときの田島、いや柄本時生の人生を半分達観したような表情がすごくいいんですよ。

 週明けの月曜、出社した宮本は無断欠席したことで岡崎部長(古舘寛治)から小言を言われますが、小田課長(星田英利)や田島がフォローしてくれたお陰で思いのほかあっさりと解放されました。こんなことで激怒していては、新入社員がいなくなってしまうからでしょうか。宮本が勤める文具メーカーは、良くも悪くも緊張感というものがありません。でも、美沙子と一緒にズル休みしたことで、2人の心の距離は確実に縮まりました。終業後も美沙子と待ち合わせて、アフターファイブを楽しむようになります。あの日以来、美沙子は髪型を変え、香水も変えました。「(彼と別れて)ひと月も経っていないのに、薄情でしょう?」と笑いながら宮本と夜の街をデートする美沙子。気が付けば、東京はもう初冬。夜風に震える美沙子のために、宮本は彼女からプレゼントされたマフラーを手渡します。宮本の体温をマフラーごしに感じる美沙子でした。

 美沙子が「東京でいちばん好きな場所」という神宮外苑のベンチに腰掛ける2人。短い沈黙の後、宮本は「甲田さん、本気で好きになるよ」と低い声で囁き、美沙子と唇を重ねます。友達の関係から初キスまでずいぶん回り道しましたが、会社を1日ズル休みした収穫がようやく実ったのです。

 宮本の憧れのヒロイン・甲田美沙子を演じる華村あすかは、本作がデビュー作となる山形出身19歳の新人女優です。まだお芝居はうまくありませんが、たどたどしい感じが逆に「守ってあげたい!」という男心をくすぐるタイプのようです。所属事務所はかつて石田ゆり子・ひかり姉妹らが活躍したボックスコーポレーション。先輩女優たちと同様に小悪魔的な魅力をこれから発揮していくことでしょう。それにしても、美沙子に振り回される宮本に徹底的になりきる池松壮亮の熱いこと熱いこと。番組エンディングに流れたメイキング映像を見ると、本当に波に呑まれて海難事故になるギリギリまで芝居を続けています。ハードな撮影続きで「何回か記憶が飛んだ」そうです。原作で描かれた宮本の熱さに真っ正面からぶつかっていく池松の役者バカぶりは、一体どこまでエスカレートしていくのか。宮本&池松のクレージーさにますます拍車が掛かる第4話も楽しみです。
(文=長野辰次)

『孤独のグルメ』原作者・久住昌之が出演しなくなる? 第3話はメキシカン感めっきめき!

 深夜の飯テロ番組『孤独のグルメSeason7』(テレビ東京系)。テレビなどで不意に流れる食欲を刺激されてしまう食事シーンを「飯テロ」と呼ぶが、ハナからその「テロ」に襲われるとわかっているのに、自らチャンネルを合わせにいくというのもおかしな話だ。しかし我々は、そのテロを毎週楽しみにしてる。今回もメキシコの「テロリスト」が我々の胃袋に襲いかかります。第3話「東京都港区南麻布のチョリソのケソフンディードと鶏肉のピピアンベルデ」。

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■『真昼のセント酒』はせず、メキシコ料理

 

 商談で久しぶりに広尾を訪れた井之頭五郎(松重豊)は銭湯(広尾湯)を発見。

 どうしても同じ原作者(久住昌之)で同じ深夜枠で放送されていた『真昼のセント酒』という「昼間から営業さぼって銭湯&一杯」がコンセプトの作品を連想してしまい、まさか五郎も今回仕事をさぼって入浴か? と思われたが、「(銭湯は)なくしてはいけない文化だ……」と、ただ慈悲深い感想を述べ、商談先へ向かう。仏のような人だ。

 それでいて商談先のグローバルキッズスクールに入るなり「Wao! He is tall!」とインターナショナルな子どもたちに囲まれてしまう仏の五郎。スタッフ(豊田エリー)に「今日のランチはラザニア」だと言われ「Lasagna! Lasagna! Lasagna!」と軍人のように盛り上がる子どもたちを見て、いつもなら「腹が、減った」と食欲が湧くところを「アイム、ハングリー、トゥ!」とアレンジ、しかもまだ子どもらに贈るアンティークトイの商談中なのに「よし店を探そう!」と勇み足でスクールを飛び出しかけてしまうなど、今回もセルフパロディが目立った。

 見送る子どもたちに笑顔で手を振り、振り返るなり鬼の形相で飲食店を探しだす元・仏、現・鬼の五郎。この「振り向きざまの鬼の形相」も、第2話のバイキング中に披露しており、もはや持ちネタ。五郎風に言わせてもらえば「これ、好きだ」。

 ラザニアの刺激で天ぷら屋や蕎麦屋を素通りしたものの、イタリア料理ではなくたまたま見かけたメキシコ料理店(広尾の「サルシータ」)に「胃袋の直感に従い」入店するのがいかにも五郎らしい。

 しかし勢いで入ったもののメニューを見てもさっぱりわからない。

「ユカタン風」という文字を見て「九州の『博多ン』は好きだけど……」と戸惑い、「チョリソのケソフンディード」を読みながら「『ケソ』で『フン』?」と困惑、だが「ピピアンベルデ? にモレポブラーノ? さっぱりわからんが声に出して言いたい料理に思えてきた」と、前向きに楽しみだす。注文したのは5品。

・ソペス
・ユカタン風チキンとライムのスープ
・ズッキーニのプディン(Sサイズ)
・チョリソのケソフンディード
・メキシカンレモネード(炭酸あり)

 

■知られざる奥深きメニューの数々

 

 ソペスは、トルティーヤ生地を厚めに揚げたものの上に豆ペーストやサルサやチーズなどの具材が乗ったもので、五郎いわく「メキシカンおかずタルト」。店員(渡部豪太)に勧められたオリジナルのハバネロのホットソースをかけて、かぶりつく。

「割と平気、というかナイスアクセント!」

 ユカタン風スープには、アボカド、トマト、チップスなどが細かく刻んで煮込まれおり、ライムのおかげで「具沢山なのに味はすっきり」。「おちゃめなユカタン、きっと人気者だ」と勝手に擬人化して微笑む五郎タン。

「超のつくフワトロ」だというズッキーニのプディンは、刻んだズッキーニを卵やチーズ、生クリームで包んで焼き上げたもので、五郎いわく「ズッキーニ一本槍のメキシカン茶碗蒸し」。「ソンブレロ(メキシコのでかい帽子)被って叫びたいほど」美味いらしいが、ぜひ、広尾の中心・有栖川公園で愛を叫んでほしかった。

 溶けたチーズの中に刻んだチョリソが入ったチョリソのケソフンディードは「食べる前から美味さ当選確実」というのも納得。小ぶりのトルティーヤが付いてくるので、包んで食べる。「もろこし感が尋常じゃない」というトルティーヤはトウモロコシの粉で作った柔らかい餃子の皮みたいなもので、タコスの下に敷いてあるアレ。

「この手の巻き食いはタコスしか知らなかったけど、これもいいぞー!」と、新たな発見を喜ぶ五郎。「巻き食い」という、言いそうで言わない言葉を自然に編み出す。しかし、こういう軽作業をしながら食う時の五郎はいつも楽しそうだ。

 これに先ほどのハバネロソースをかけ「ハバネロ追加でメキシカン感めっきめき!」。今日イチのパワーワード。

■チョコレートを使った鶏料理は選ばれず

 

 ここで「鶏肉のピピアンベルデ」を追加注文。もう一つのメインの名物「鶏肉のモレポブラーノ」はソースにチョコレートを使っていることから「俺をどこへ連れて行こうっていうんだ」と悩みつつも選ばれなかったが、どんな味なのかとても気になる。ドラマと違って口に合わないものは遠慮なくがっかりする原作コミックスだったら、どんな顔をするのか。だが、実は甘党の五郎の口に合いそうだ。

 冷めてなお美味いというズッキーニのプディンの残りを平らげ、「死せる孔明、生ける仲達を走らす!」と、なぜか中米から三国志を引用する五郎。

 五郎の食事の感想は全て原作者・久住昌之の手直しが入ってるので、間違いなく久住の趣味。同氏原作の「蜀の軍師」(=諸葛亮孔明ら)をパロった『食の軍師』(日本文芸社)という食の戦略漫画もオススメです。

 鶏肉のピピアンベルデが到着。カボチャの種とグリーントマトを使ったソースで食べる鶏肉料理。

「食べたことない味だ、脳がこの味をどの棚に入れていいのか困ってる。困るけど……美味しい」

 初めて出会った味覚は舌が美味いと思っても、まだ脳の理解が追いつかない感じがあるが、まさにそうなのだろう。

 しかし次第に脳も活性化し、「俺の脳もソースの美味さにようやく追いついてきた」。

 周りの店内はテキーラを飲んだり、おしゃべりしたり、わいわい楽しんでるのに、そのセンターで一人黙ってカチャカチャと鶏肉の骨をだけを外し、最終決戦の準備を進める五郎。ここで今季からの戦闘用BGM「アイリッシュ・スプーン」のイントロがけたたましく鳴り響く。アイリッシュトラッドとメタルが混ざったような曲に乗せて、一気に流し込んだ。

 ハバネロソースをかけたピピアンベルデを「異文化の伝統と新しさが陽気に踊りまわってるような味だ」と評していたが、そんな曲だ。勢い余った五郎がメキシコ語で叫ぶ(心の中で)。

「アミーゴ アミーバ ウノ ドス トレス メヒコ バンザーイ!(=男女の友達、1、2、3、メキシコ万歳! ※筆者の直訳)」

 

■久住があのコーナーを辞めたがってる?

 

 そして久住が実際に店舗を訪れる「ふらっとQUSUMI」のコーナー。

 実は前回の放送の少し前に、久住は自身のTwitterでこのコーナーの出演を迷っている旨の書き込みをしていた。揶揄するのだけが目的のアカウントからの心無い書き込みがきっかけなのだが、その直後「最後のコーナーいらないような気がずっとしてる」「ボクの仕事は原作と音楽と五郎台詞直しだけで十分」「いい歳して出たがりみたいで、いつも居心地が悪かったんだ」と本音を吐露した。

 しかし、以前も書いたが、このコーナーをむしろメインに考えている視聴者もいるくらいで、「やめないでほしい」という書き込みが殺到、久住は反響に驚きながらも「よく考えてみます」と結論を保留している。

 もともとメインストリームで目立って何かをすることに抵抗がある人だと思うので、特に近年のブーム気味のヒットで、出演するたびに一部でやんや言われたり、あげつらって見られることに疲弊していたのかもしれない。

 しかし今回も久住はメキシコビール(ライム添え)を「ライムジュースかな?」と、恒例の酒じゃない物に例えて飲む特技を披露し、サボテンのサラダやタコスを流し込んだ。

 筆者の久住のイメージは、いまだ、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)の「東京トワイライトゾーン」というコーナーで、タモリやカメラマンの滝本淳助(みうらじゅんのバンド「大島渚」のドラマー)と一緒に、街角の気になる建造物(2階にドアがあるが階段がないとかどうしようもないやつ)などを見て、くだらない妄想を繰り広げる貧相な人というイメージ(失礼)で、今の成功者のような扱いに馴染めないのだが、おそらく当人が一番馴染めていないのかもしれない。

 ドラマとは違った雰囲気のあのコーナー、ドラマパートとセットで見て補完し合うものだと思うので、ぜひマイペースに続けていただきたい。
(文=柿田太郎)

テレ東の新しい“おさんぽ番組”の武器は「馬」と「ふん尿」!? 参勤交代を現代にやってみたらどうなるのか

 テレビのラテ欄の文言は、放送作家が考えていると聞く。番組内容を簡潔に説明し、視聴欲を喚起するのがその役目だが、時折、妙にチャレンジングな文章に出くわすこともある。

「大惨事! ふん尿し放題」という、とんでもない一文が踊ったのは、4月23日放送の『いま参勤交代中です! お馬さんパカパカ旅』(テレビ東京系)。

 この番組の趣旨は「参勤交代を現代の日本でやってみたらどうなる?」という、あまりに突拍子のないもの。ちなみに、ふん尿するのはタレントではない。馬である。

 この“歴史冒険バラエティ”に姫として出演したのは、野呂佳代。乗馬ライセンス5級の彼女が馬に乗って登場し、家老役を務める芸人と共に、3日かけて小田原城から江戸(現在の皇居)へ向かうのだ。

 

■「今、参勤交代中なんですけど」と、当然のように説明しようとするバイきんぐ西村

 

 初日に家老役を務めたのは、バイきんぐの西村瑞樹。その他に調教師が同行するし、「ふんを持つ者」(ふん尿を処理する係)もちゃんと付いてくる。準備は万端だ。

 とはいえ、現代日本の道路事情は参勤交代に適していない。自動車がビュンビュン行き来する通りで、野呂を乗せた馬がゆったりと闊歩。確かに馬は道交法で軽車両扱いだが、世界観として明らかにおかしい。

 車道の左端に寄り、江戸に向かう一行。他の車両に気を使いながらの撮影だが、当の馬にそんな意識はない。唐突に足の裏を道路にガリガリとこすりつける馬。これは、欲求を抱える時に取る行動だそう。今、馬は水が飲みたいのだ。今回の参勤交代には「馬の水や餌は自分たちで手に入れる」というルールが設けられている。西村は近所の理髪店に立ち寄った。

「すいませ~ん! 今、参勤交代中なんですけど、馬のお水を分けていただきたいんですが」(西村)

 事情を知らない人へ、いきなり「参勤交代中なんですけど」という切り出し方もないだろう。しかし、ご主人の善意で一行はバケツ一杯分の水をゲットした。

 それにしても、馬が可愛い。この子は「あずみ」という名前で、20歳の女の子だ。彼女に惹かれ、街行く人が次々に近付いてくる。西村は、みんなに事情を説明する。

「参勤交代中でして、今」(西村)

 また、当たり前のように「参勤交代」と口にしている。それじゃ伝わらないと思うのだが……。

■いつどこで「ふん尿」が出てくるのか読めない

 

 この番組、よく考えると現在流行中の“おさんぽ番組”にカテゴライズできる。より細かく区分けすると、実は『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京系)の流れを汲んでいる。電動バイクが「馬」で、充電は「馬のエサ(水や野菜)」に変換できるだろう。

 だが、フォーマットを拝借しただけではない。馬は電動バイクと比べ、イレギュラーの要素が盛りだくさんだ。

「ジャーーーーッ」

 不意に、おしっこするあずみちゃん。「おしっこした、おしっこした、おしっこしたよ!」という西村の呼びかけと同時にふんの者が駆け寄り、道路はきれいに洗浄された。これで一安心! ……と思いきや、今度は歩きながらふんをするあずみちゃん。

「あらあらあら! ストップ、ストップ! ウンコしてる、ウンコしてる、ウンコしてる! おい、だいぶやったな!」(西村)

 レディ(あずみちゃん)を前に、西村のデリカシーの無さはさすがだ。

 どうやらあずみちゃん、交通量の多い道路に緊張してしまったらしい。画面上には「パカパカ情報 ふん尿はどこでも出ちゃう」なるテロップが表示された。ラテ欄でも推されていた「ふん尿」が、番組の最大の見どころか?

 イレギュラー要素は他にもある。車を避けて河川敷を道に選ぶと、あずみちゃんは足元にある草にたまらなくなる。そして、食らいつきにいく。

「すげえ食ってる」(西村)

 西村のデリカシーの無さは相変わらずだが、あずみちゃんはどこ吹く風。辺り一面の草にはしゃぐわ、食べるわ、あてもなく歩きまわるわ。「止まれ」の指示にも言うことを聞かない。

 「おい、マジでどこ行くんだ! 牧場じゃないからね、ここ」(西村)

 自由に歩けずストレスを抱えていたあずみちゃんにとって、心地いいことこの上ないシチュエーション。遂に、彼女は走り出した。この時のBGMは、横浜銀蝿の「ぶっちぎりRock’n Roll」だ。

 

■凡庸な“おさんぽ番組”に収まらない

 

 現代の道路事情に、あずみちゃんはストレスを溜め込んでしまう。そこで、一行は道すがらのガソリンスタンドで休憩することに。洗車……というか水浴びさせてもらおうと考えたのだ。ホースで足に水を当て、あずみちゃんの体温は下がった。無事、快適な体調になったようだ。

 さて、気になるのは料金だ。上でも述べたが、馬は道交法で軽車両に該当する。あくまで、道交法ではだ。果たして、あずみちゃんの水浴びに請求されるのは……? これが高い。7,600円だ。軽自動車の「10分860円」の8倍以上! やはり、今の日本は参勤交代に適さない時代にある。

 ……にもかかわらず、まだ歩く。この番組は2週にわたって続く。次回(4月30日)予告映像では、野呂が落馬する場面が紹介されている。参勤交代には苦労が伴う模様。

 通常の“おさんぽ番組”は流し見に適したフォーマットだと思うが、フック満載の『いま参勤交代中です! お馬さんパカパカ旅』は、どうしても見入ってしまう。見どころの連続ゆえ、目をそらしてはいられない。ふん尿も、疾走も、落馬も、突然やって来るのだから。

 最後に、何がどうなって「参勤交代を現代の日本でやってみたらどうなる?」という発想に行き着いたのかが不思議だ。そもそもの企画会議にまで思いを馳せながら、次回放送を待ちたい。
(文=寺西ジャジューカ)

テレ東“鉄板のフォーマット”を、ちょっとだけ逸脱『昔のケータイ、電源入れてみませんか?』が人生に及ぼす影響

 学生時代、“未来の自分”宛てに送る手紙をタイムカプセルに収め、校庭の隅に埋めたことがある。当時は確信を持たぬままに行ってたが、後になって掘り起こすと、なんだかんだで興味深い。「あの頃は大志を抱いていたんだなあ」「当時の自分はいいかげんだった……」など、わかりやすくタイムスリップすることも可能だ。

 話は変わって、携帯電話。機種変更を経て無用の長物と化した過去の愛機を、誰しもが持っているはずだ。よく考えると、「昔のケータイ」以上に昔を思い出させるタイムマシンは他にない。どんな友人とどんなやり取りをし、どんな日々を送っていたか。掘り起こしたい過去もあれば、封印していた思い出だってあるはずだ。

 4月22日に放送された『昔のケータイ、電源入れてみませんか?』(テレビ東京系)は、「昔のケータイ」にスポットを当てた特番である。

 

■「昔のケータイ」を見て前向きになれる

 

 大胆な番組だ。唐突に、街行く人へ「昔のケータイに電源を入れてみませんか?」と声を掛けるスタッフたち。携帯電話の中を見せてもらうことが目的である。

 筆者だったら即座に「ヤダよ!」と言ってしまいそうだが、意外にもOKを出す一般人は多い。メリットはある。長年電源を入れないと、充電器を挿しても充電できなくなってしまうらしい。そこで番組は特殊なバッテリー復活マシンを用意、「昔のケータイ」を蘇らせてくれる。開かなくなったタイムカプセルを、この機会に開けることができるわけだ。

 長年の封を解いた携帯には、どんなデータが残っているか? これが、感涙ものだった。ある男性の10年前のガラケーには、病床に伏せる今は亡き父の動画が残っていた。画面の中から、父は男性に語りかけるのだ。

「メシは食わないかんばい!」

 偶然にも、10年後の現在も有効なメッセージ。久しぶりの動画を目にした男性が発した言葉が、この番組のコンセプトを奇しくも説明している。

「見れるだけで前を向ける自分になれたというか。辛いと思った時に見れるっていうのは、ありがたいと思いますね」

 

■封印していた過去に泣き、「やっと終われた」

 

 若い女性も番組からのオファーに応じ、昔の携帯に電源を入れた。まずは中学時代の携帯電話を復活させると、バスケットボールに取り組む女性の画像やメールを発見できる。彼女は青春のすべてをバスケに捧げていたのだ。

 続けて、高校時代の携帯電話を復活させると、そこにはギャルに変貌した金髪姿の女性の画像が……。中学時代の面影は、そこにはない。

「(バスケは)高2に上がるちょっと前くらいで辞めてます」

「私が(バスケ部の)キャプテンをやってたんですけど、試合に負けても笑ってたりとかが許せなくて、いろいろ言い過ぎちゃって。『私たち、もうやりたくない。そんなにガチじゃなかったし……』って、全員辞めちゃって」

「バスケは5人いないとできないので、部活自体がなくなった感じですね」

 決定打は、部活の顧問とたまたま街で出会った日の出来事だった。女性は顧問に胸ぐらをつかまれ、「お前がだらしないから廃部になった。お前がバスケをやってたことは無かったことにする」と恫喝されたという。これを機に彼女は自分を見失い、夜遊びに走る。

「この時は誰とも会いたくないし、『死んじゃった方が楽だな』みたいな」

 女性は、バスケに取り組んでいた経験を誰にも明かさなくなった。

 携帯のデータを掘り続けていたら、バスケを辞めた日に届いた父親からのメールが発見される。彼女を辛うじてつなぎとめた大切なメールだ。

「星(女性の名前)が今も、バスケットが大好きなことも分かっています。だから、バスケットに対する想いにふたをしないでください」

「大好きなバスケを続けてきたことを決して忘れないでください。決して嫌いにならないでください」

 泣きながらメールを読み上げた彼女が、今の心境を語る。

「つらいことしか載ってなかったですけど、逆にそれをちゃんと思い出せたのがよかった。8年くらい避け続けてきた内容だったので。でも、久々に泣けた。ずっと何年もモヤモヤしてたけど、傷付ききれたというか、やっと終われたかなというか、次に進めそうかなというのが自分の中ではあるので」

■昔のケータイに残されていた亡き母からの檄に目覚める

 

 北海道から上京した男性フリーターも、昔のケータイに電源を入れている。彼は上京前、親から引き継いだケーキ店を営んでいた。

 久しぶりの携帯電話には、母親が映る動画が残っていた。人工関節を足に入れて体が不自由だった母の面倒は、男性が見ていたという。

「母親の介護をしながらお店をやらないといけなくなったんですね。それが、自然と僕の中で生きがいになってしまってたんです。マザコンでしょうね。助けになってあげたいなって何度思ったことか」

 そんな母も、5年前に他界した。そして、彼の心にポッカリと穴が空いた。

「このまま店を続けても意味はあるんだろうかって、ふっと思って」

 上京した彼は、母の私物を東京に持ってきている。この機会に男性は、母が入院中に書いた日記を読み上げた。

「婦長さんが私のところで、椅子に座ってしばらく話をしていた。『今どきの子とは違って母さんによく気をつかう。若いのに珍しい』と言う」

「トシ(男性の名前)は強いから、自分の道をキチンと切り拓けると思う」

 コンビニのアルバイトなどで日々を生きる男性は、決意表明する。

「携帯の中イコール、僕の家族なんですね。(母の声を)改めて聞くと、頑張ろうって気持ちですね、逆に。応援してもらってるんだなって」

 パティシエ経験のある彼の目標は、料理の道に再び戻ること。タイムカプセルの封を解き、忘れかけていた夢を思い出すことができたのだ。

 

■テレ東鉄板のフォーマットを少しだけ逸脱

 

 この番組は、テレビ東京が編み出した鉄板のフォーマットに則っている。『家、ついて行ってイイですか?』や『YOUは何しに日本へ?』、『母ちゃんに逢いたい!』など、街行く人に声を掛ける類の、おなじみのプログラムだ。きっかけ(建前)は異なるものの、全番組が一般人の人生を掘り起こそうとしている。とどのつまり、目的はみんな一緒。正直、切り口をちょこっとアレンジしてるだけの印象だ。

 なのに、『昔のケータイ、電源入れてみませんか?』だけは、着地点が他と違ってるのが面白い。

 何があろうと傍観者の立ち位置を崩さず、人生に影響を及ぼさず、ドライでい続ける他番組。しかし、この番組だけは未来に変化を与えてしまっている。過去と対面する機会を設けたら、人々はなぜか一様にネクストステップを踏み始めたのだ。

 同時に、テレ東自身も新境地を開いていることになる。変わり映えしていないようで、実は密かにネクストステップに進んでいた今回。

 第2弾放送、もしくはレギュラー化の芽もあるのではないか? 期待込みの予測だ。
(文=寺西ジャジューカ)

『ゴッドタン』で話題の腐り芸人、ゴールデンのブレークはあるのか? ノブコブ・徳井健太の“分析キャラ”に熱視線!

 数々の名企画を生み出してきたテレビ東京系の深夜番組『ゴットタン』だが、ここ最近のヒット企画といえば「腐り芸人」だろう。

 さまざまな理由で昨今のバラエティー番組に上手く順応できず、活躍の場を失い、その現状に甘んじている「腐り芸人」たちの現状を打破すべく、セラピーを行うという企画。インパルスの板倉俊之、平成ノブシコブシの徳井健太、ハライチの岩井勇気の3人が「腐り芸人」の代表格として登場し、現在のお笑い界に対する鋭い分析を交えながら、自身の現状に対する恨みつらみや、心の闇を吐露していく。とある放送作家はこう話す。

「実力のある3人の腐り芸人を軸にしつつ、次なる若手の腐り芸人の相談を聞く“腐り芸人セラピー”という企画も放送されており、かなり好評ですね。やはり芸人たちの知られざる本音や、過酷な現状などにスポットが当たっていくのは面白い。ものすごくネガティブな感情を笑いにまで持っていくのは、さすがの『ゴッドタン』という感じですね」

 現時点で「腐り芸人」というくくりで板倉や徳井が番組に出演するのは『ゴッドタン』だけだが、今後彼らが番組の枠を超えてブレークする可能性はあるのか。

「心の闇を笑いに変えるというのは、少々お笑い偏差値が高い。『ゴッドタン』のようなコアなお笑いを追求できる番組であれば成立しますが、ゴールデンタイムのバラエティー番組などではちょっと難しいでしょう。もともとゴールデンで対応できない芸人の企画ですからね。そのまま普通にブレークというのは考えにくいです」(同)

 また、とあるバラエティー番組に関わる制作会社関係者は、こう話す。

「現在『ゴッドタン』で結果を出している腐り芸人は、そもそもこだわりが強いタイプで、だからこそゴールデンタイムに順応できないという側面もある。裏を返せば、お笑いセンスは高いということでもあるのですが、番組側が料理するのも難しいということでもある。仮に腐り芸人としてのキャラクターを前面に押し出すゴールデンの番組があったとしても、そこからブレークするには時間がかかると思います」

 そんな中、ノブコブ・徳井については、別のキャラでの需要が高まりつつあるという。

「徳井は、ほかの芸人を客観的に分析する能力に長けている。これが芸人以外のタレントや、さらには番組、芸能スキャンダルなどに及ぶようになれば、ほかの番組もどんどん使っていくようになるでしょうね。特に今はワイドショーにおける芸人コメンテーター需要が高く、各番組がいろんな芸人を試しているところです。このコメンテーター枠であれば、結果が出るかもしれませんね」(同)

 腐り芸人たちが、ゴールデンで輝く日は来るのだろうか……。

『ゴッドタン』で話題の腐り芸人、ゴールデンのブレークはあるのか? ノブコブ・徳井健太の“分析キャラ”に熱視線!

 数々の名企画を生み出してきたテレビ東京系の深夜番組『ゴットタン』だが、ここ最近のヒット企画といえば「腐り芸人」だろう。

 さまざまな理由で昨今のバラエティー番組に上手く順応できず、活躍の場を失い、その現状に甘んじている「腐り芸人」たちの現状を打破すべく、セラピーを行うという企画。インパルスの板倉俊之、平成ノブシコブシの徳井健太、ハライチの岩井勇気の3人が「腐り芸人」の代表格として登場し、現在のお笑い界に対する鋭い分析を交えながら、自身の現状に対する恨みつらみや、心の闇を吐露していく。とある放送作家はこう話す。

「実力のある3人の腐り芸人を軸にしつつ、次なる若手の腐り芸人の相談を聞く“腐り芸人セラピー”という企画も放送されており、かなり好評ですね。やはり芸人たちの知られざる本音や、過酷な現状などにスポットが当たっていくのは面白い。ものすごくネガティブな感情を笑いにまで持っていくのは、さすがの『ゴッドタン』という感じですね」

 現時点で「腐り芸人」というくくりで板倉や徳井が番組に出演するのは『ゴッドタン』だけだが、今後彼らが番組の枠を超えてブレークする可能性はあるのか。

「心の闇を笑いに変えるというのは、少々お笑い偏差値が高い。『ゴッドタン』のようなコアなお笑いを追求できる番組であれば成立しますが、ゴールデンタイムのバラエティー番組などではちょっと難しいでしょう。もともとゴールデンで対応できない芸人の企画ですからね。そのまま普通にブレークというのは考えにくいです」(同)

 また、とあるバラエティー番組に関わる制作会社関係者は、こう話す。

「現在『ゴッドタン』で結果を出している腐り芸人は、そもそもこだわりが強いタイプで、だからこそゴールデンタイムに順応できないという側面もある。裏を返せば、お笑いセンスは高いということでもあるのですが、番組側が料理するのも難しいということでもある。仮に腐り芸人としてのキャラクターを前面に押し出すゴールデンの番組があったとしても、そこからブレークするには時間がかかると思います」

 そんな中、ノブコブ・徳井については、別のキャラでの需要が高まりつつあるという。

「徳井は、ほかの芸人を客観的に分析する能力に長けている。これが芸人以外のタレントや、さらには番組、芸能スキャンダルなどに及ぶようになれば、ほかの番組もどんどん使っていくようになるでしょうね。特に今はワイドショーにおける芸人コメンテーター需要が高く、各番組がいろんな芸人を試しているところです。このコメンテーター枠であれば、結果が出るかもしれませんね」(同)

 腐り芸人たちが、ゴールデンで輝く日は来るのだろうか……。

『孤独のグルメ』井之頭五郎の“バイキンガー”ぶりと、タイトルに「一人」が入る意味とは?

 おじさんがああだこうだ考えながら飯食うのを鑑賞するドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)。説明するとバカみたいだが、事実といえば事実だけに申し訳ない。第2話となる今回は、Season7にして初となるメニュー「バイキング」。これは「ああだこうだ」冥利につきそう。

 視聴率は初回が5.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、深夜にしては異様に高い。今回は3.2%とダウンしたものの、それでもテレ東の他の深夜に比べたら十分高く、あいかわらず好調だ。

 

■第2話「世田谷区経堂の一人バイキング」

 

 商談前に顧客(大和田獏)がテニスに興じるのを見学するも、やったことないのにノリでラケットを握らされ、あげく無茶振りされた「エア・ケイ」(錦織圭のやつ)の意味がわからなくて理不尽にもがっかりされてしまう、かわいそうなな我らが井之頭五郎(松重豊)。実はテニスは、大和田獏の本当の趣味。その昔、かの野沢直子(雅子じゃない方)が「ばくばくばくばく、おーわだばく!」と名前を連呼するだけの歌を歌っていたのを思い出す。

 一瞬期待したが、そんな曲がかかるわけもなく無事商談も終わり、最寄りの経堂駅までの道を尋ねるも、大和田獏が説明下手なタイプの人だったため、五郎は四苦八苦。道順の説明途中に「なんだかんだあって」を使われたら、戸惑うのも当然だが、実際、世田谷は農道を基にした、細く入り組んだ道が極めて多い。特に住宅街はランドマークとなる建物が少なく、筆者も豪徳寺付近から抜け出せず深夜に小一時間ばかり「遭難」したことがある迷宮だ。

 まだ雪の残る小道を行く五郎は途中、一軒家から出てきた女性が食事の感想を言ってるのを聞き逃さない。見た目、完全にただの個人住居だが、ポツンと「マッシーナメッシーナ」と看板が置かれている。

 映画『トップガン』のあの曲を歌っていたケニー・ロギンスが在籍したグループ「ロギンス&メッシーナ」に由来するのか、それともさらにそこから名前をとった『ジョジョの奇妙な冒険』のロギンズとメッシーナという登場人物(波紋の師範)に由来するのかはわからないが、とにかく駄洒落なのは間違いない。

 こんな場所に店があるのもすごいが、メニューが90分1,500円のバイキング一択なのもすごい。

 

■かつて「一人」の付いた放送回は3回

 

 そもそも今回のタイトルに「一人バイキング」とあるが、元来、この番組は「一人飯」であることが大前提。かつてタイトルメニューに「一人」が付いたのは、Season1の「神奈川県川崎市 八丁畷の一人焼肉」、Season2の「墨田区両国の一人ちゃんこ鍋」、Season5の「東京都豊島区 西巣鴨の一人すき焼き」の3回。

 つまり、鍋など通常「一人では行かないはず」というものに「一人」を付けているのだが、しかし大人数でつつく前提の鍋や焼肉はともかく(2012年の放送時より一人焼肉は市民権を得たが)、バイキングはむしろ一人向きなメニューな気もする。言ってしまえば、結局食べる側の気持ち次第なのだが「空腹の好奇心が(店に)入っちまえと騒いでいる」という五郎は、当然入店。

 引き戸を開けて入店するも、中は完全に「ひとんち」のリビングダイニングで、苦手な人は、この空気だけで頓挫してしまうかもしれない。だが五郎は「いきなり友達の実家に呼ばれた気分」と、この状況を楽しんでる。さすが。

 原作コミックの五郎は、この手の一癖ありそうな空気の店(西荻窪のおまかせ定食の回など)を当初苦手としていた気もするが、ドラマの松重五郎はたくましい。

■バイキンガー五郎

 

 並べられたメニューを次々皿に乗せて行く五郎。個人の貿易商という仕事柄、ビジネスホテルで朝食バイキングなど食べる機会も多いのだろう。洋食を一つのプレートに、和食を小皿に分ける取り方もこなれている。「五郎’Sバイキング第一弾」として持ってきたのは、

・サバの塩焼き
・なす味噌
・がんも煮
・マカロニグラタン
・白菜の浅漬け
・豚しゃぶ
・サラダ風のヘルシー冷やし中華
・タラモサラダ
・アスパラガスの塩焼き(一本丸ごと)
・きんぴらごぼう(カレー風味)
・雑穀米ご飯
・豆腐と油揚げの味噌汁(いりこ出汁)

 大きな図体で背中を丸め、品目を選ぶ五郎がかわいい。サバの塩焼きが小ぶりなのを「バイキング者、バイキンガーの気持ちがわかってる」と喜んでいるが、確かに朝食バイキングのサバ塩は小さい。「サバの塩焼き定食欲が、とりあえず満足させられた」と、ちょっとずつたくさん食べたい考え方は、まさに「バイキンガー」。

 白菜浅漬け、きんぴら、なす味噌、がんも煮を横長の皿にちょっとずつ並べて「どうだ、この付け合わせの組み合わせ。なかなかセンスいいと思うなぁ」と配列に酔いしれる感じも、バイキンガーあるあるかもしれない。

 少量のマカロニグラタンを食べ「子どもの頃に初めて食べた時、逆上がりができた時くらい感動したっけ」と幼少時を懐かしんだかと思いきや、「そっから白菜漬けに飛ぶ自由」と、定番の2品だけで精神を開放するルーク・スカイウォーカーのような五郎。

 スパゲティサラダかと思いきや、冷やし中華だった! という驚きも、バイキングならでは。店によっては料理名が添えてある場合もあるが、視覚で認識してたものを口に入れた時、味覚で訂正するのもバイキングの醍醐味。

 タラモサラダはギリシャ料理。タラモ(魚卵)をパンやジャガイモに練りこんだ料理で、日本ではタラコが多く使われるのでタラコ+じゃがいもサラダだと思われているらしい。「美味さで堕落しそうだ」というこのメニューを、五郎は「隠して持って帰りたい」と、密輸を企てるほど気に入っていた。

 冷めたアスパラを食べつつ「バイキングは時の運、諦めが肝心」と自分に言い聞かせていたのに、すぐさま到着した焼きたてを食べ、「バイキングは運じゃない。諦めずに自ら道を切り開く強い心が大切なんだ」と持論をリライトする五郎。そもそも、なぜ一回我慢したのかは謎だが、ドラマ版五郎は柔軟さが魅力だ。

 

■アフリカ料理「マフェ」とは?

 

「五郎’Sバイキング第二弾」

・マフェ
・甘めの卵焼き
・ブロッコリーサラダ

「よーし、ギニアいってみよー!」と、今回もいかりや口調の掛け声で食べだしたのは、ピーナッツソースとトマトを使った煮込み料理・マフェ。西アフリカでは有名な料理らしく、番組でもギニア版のカレーとして紹介。この今回のメインディッシュを、大盛りご飯にかけて貪る五郎。「しっかり辛さがありながら優しい味」とのこと。

 途中で客が入ってきて五郎と相席になるが「普通の店での相席とは、相席感のレベルが全然違う」と慄く。なんたって「ひとんち」だから。他の客は全員女性なのだが、「全品制覇したくなるのがバイキンガーの性(さが)!」と、意にも介さずおかわりし続ける五郎の豪胆さ。

 

「五郎’Sバイキング第三弾」

・枝豆豆腐(わさび塩で)
・キュウリとトマトの塩麹和え
・おくらとみょうがの和え物
・がんも煮
・雑穀米
・味噌汁

 正直、マフェで終わりかと思った。いいとこ最後に出てきた枝豆豆腐を味見するだけ思ったら、雑穀米と味噌汁まで。もう胃が完全に開いているのだろう、五郎は「小ライス」と言っていたが、結構な量を追加していた。

「美味い家庭の味が恋しくなったら、この家に帰ってこよう。ここはまるで、俺の胃袋の実家だ」と、万感の思いで食事を締め、お会計しかけた直後「ドリア出来上がりましたー」と言われ、取り乱す五郎。

 てっきり食べ直すかと思ったが「また来る口実ができたから、よしとしよう」と前向きに店をあとにする。

「バイキングは100パーセント食べ過ぎちまうな、でも満足感は200パーセントだから『勝ち』ってことで」

 筆者のようなさもしい貧乏人は「元を取れたかどうか」を基準に「勝ち負け」を考えてしまうが、昼飯に数千円使うこともある小金持ちの五郎の言う「勝ち負け」とは、もっと精神的なものだろう。

 今回は店主役のいしのようこに五郎が軽くときめく様子も見られたが、かつてあったような恋バナ展開は特になく、どちらかというと、変なおじさんが出現しやしないかと勝手にドキドキしてしまいました。

 原作者・久住昌之がロケ店を訪ねる「ふらっとQUSUMI」では、3年かかってやっと辿りつけた客もいることが明かされた秘境・世田谷に潜む一軒家バイキング。冒険心溢れる方は是非。
(文=柿田太郎)

“据え膳”を食べない独自美学に酔う池松壮亮! 自己チュー男のこだわり『宮本から君へ』第2話

 経済効率が最優先される現代社会において、いちばん真逆な方向へ突き進んでいるのが宮本浩という男です。大学を卒業して、小さな文具メーカーの営業マンとして働き始めた宮本ですが、彼のやることなすこと無駄だらけです。漫画家の新井英樹が漫画家デビュー以前に文具メーカーに勤めていた体験をベースにした同名コミックのドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)は、そんな無駄だらけの男・宮本の青春の日々が描かれます。深夜0時52分からのオンエアにもかかわらず、主演俳優・池松壮亮の宮本になりきった暑苦しい演技に感化された視聴者は少なくないようで、第1話の視聴率は「ドラマ25」枠の初回としては過去最高となる2.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という好記録でした。第2話はどうでしょうか?

 大手自動車メーカーに勤める甲田美沙子(華村あすか)たちとの合コンに臨んだ宮本浩(池松壮亮)でしたが、テーブルに置かれたフルーツポンチの鉢の中に“宮本”と名前の書かれたコンドーム(開封前)が落ちたところで第1話は終わりました。いまどきの婚活パーティーだったら「宮本さんったら、準備よすぎ!」と爆笑ネタになるのでしょうが、大学を出たばかりの宮本はギャグに転嫁させることができません。毎朝、美沙子と通勤電車の中で会話するのを楽しみにしていた宮本ですが、フルーツポンチ事件の後は気まずくて、出社時間をずらしていました。職場でも同僚たちから「宮本」ではなく「ポンチ!」と呼ばれるようになり、散々な毎日です。

 美沙子のことで頭がいっぱいな宮本は、仕事でも大ポカをやってしまいます。京橋のお得意先である文具店に2カ月間顔を出していなかったことが部長の岡崎(古舘寛治)にバレてしまったのです。京橋の文具店へ詫びにいく宮本でしたが、店長(綾田俊樹)は説教を滔々と垂れるものの、目すら合わせてくれません。ここで何と宮本は「人と話すときは相手の目を見て話してはどうですか?」と説教返しをするのでした。自分の職務怠慢ぶりを棚に上げて、お得意先の態度を平気であげつらう宮本。シリーズ後半から爆発することになるクレージー営業マンの片鱗さを早くも感じさせます。

 当然ながらこの一件も岡崎部長の耳に入り、今度は小田課長(星田英利)に付き添われて再び謝罪に行くことになります。多分、小田課長も別にこの会社が好きで入ったわけじゃないはずです。でも、人生経験が豊富な分、小田課長は世間知らずの新人・宮本に対してもすっごく寛容なのです。一緒に詫びに行くのにイヤな顔ひとつせず、「営業マンはみんな、俺のために命を投げ出してくれる」と自慢げに語る店長を懸命にヨイショしまくります。部下思いの小田課長の熱心さにほだされ、宮本もぎこちないながらに店長の太鼓持ちに徹するのでした。合コンの席と違って、宮本はホッとします。見習うべき先輩がここにいました。ちっぽけな会社に勤める小田課長が、とても頼もしく思えるエピソードでした。

 謝罪の帰り道、煙草をふかしながら小田課長は、愛想笑いもできない愚直すぎる宮本を「わかってて、損するのは利口やないなぁ」と関西弁でやんわりと諭すのでした。仕事はつまんなくても、こういう情の深い上司や先輩がいたら、ついつい職場って居着いてしまうものですよね。チュパチャップス時代からずいぶん時間は掛かったけど、ほっしゃんって脇役俳優としていい味出すようになったなぁと、しみじみさせるシーンです。ところが、後輩の尻拭いで無駄な時間を費やしたほっしゃん、いや小田課長に対して、「(損な性格の自分たちを)かっこいいと思っているんですよー」と笑顔で返す宮本は、途方もない大バカ者です。

■いまいちな女の子が、無性に愛おしく思えた瞬間

 

 前回の合コンでは、駅のホームで面識のない美沙子に声を掛けた宮本のことを「すごいと思う」とうっとりした表情で語っていた暗くて地味な女の子・裕奈(三浦透子)に、宮本は夜の渋谷駅でばったり遭遇します。同居しているお姉さんの彼氏が遊びに来る日なので、大して好きでもない映画を観て時間を潰していたそうです。どちらからともなく、夜の街へと流れていく2人。バーで慣れないカクテルを口にした裕奈は、いつになく上機嫌です。美人偏差値の高い美沙子は口説き落とすのに手間ひまが掛かりそうですが、宮本に気があることが痛いほどわかる裕奈は、鼻毛を抜くよりも簡単に落ちそうです。あくまでも理想の女性への一点勝負か、それともハードルの低い女の子で手を打つのか。夜のバーで宮本は自問自答し、気持ちよく酔っぱらうことができません。

 バーを出たときは、すでに終電間際でした。急いで駅に向かえば終電に間に合うのに、裕奈は帰ろうとしません。酔いに任せて宮本と手をつなぎ、「私、今まででいちばん楽しい日です」とはしゃいでいます。宮本はとうとう裕奈を連れて、ラブホテルへと入ってしまいます。薄っぺらなバスローブに着替え、同じベッドに入る2人ですが、悶々とした時間だけがジリジリと流れていきます。眠れずにいる裕奈は宮本が頼んでもいないのに、小学校時代の思い出話を始めます。学級会で裕奈は何度か議題になったという、まったくエロさを感じさせない話題でした。クラスでイジメに遭っていた裕奈は、担任の教師から「彼女もみんなと同じ人間なのよ」と言われ、クラスメイトたちは泣きながら謝罪したそうです。

 無駄に熱い男・宮本はベッドの中で呟きます。「それって、何か悔しいよね。そんなところで謝るのなら、最初っからいじめるなよって」と返す宮本に、裕奈は「優しすぎますよ、宮本さん」と微笑むのでした。エロさをまるで感じさせない女の子・裕奈が無性に愛おしく思えた瞬間でした。思わず、宮本は裕奈のことを抱き寄せてしまいます。

 この後、宮本はてっきり裕奈と朝までエッチしたんだろうなぁと思っていたら、出社した宮本の言動を見る限りではエッチはしていないそうです。据え膳に手を出さずにラブホから会社に出社した自分のことを「立派! よく耐えた!!」と自画自賛する宮本でした。処女を奪ってほしかっただろう裕奈の心情はまったく無視され、「自分が惚れた女以外とはエッチしない」という中学の頃からの独自の哲学を貫いた宮本がニヤニヤしながら鼻血を流す姿がカメラに映し出されます。宮本は優しそうに見えて、超弩級な自己チュー野郎です。

 ラブホで裕奈と朝までハグしあい、京橋の文具店への謝罪も済ませ、いつになく充実感で満たされる宮本でした。客観的に見れば、恋も仕事も何ひとつ成果を上げていないのですが、本人はそのことに気づいていません。でも、こういうポジティブ思考の人間って、往々にして幸運を呼び込んでしまうものです。今度は大物です。夜の街で、美沙子とばったり遭遇するのでした。

 合コン以来となる久々の再会でしたが、夜の雑踏の中でも美沙子は3D映像のように宮本の目にグ~ンと飛び込んでくるのでした。しかも、同期入社の田島(柄本時生)から「ポンチ!」と宮本が呼ばれていることから、美沙子は「ポンチじゃ、かわいそう」と笑ってフォローしてくれるではありませんか。フルーツポンチ事件のことは水に流してくれるそうです。しかも、「電車の中で学校時代のことを話す宮本さんはすごく生き生きした表情をしていて、そういう宮本さんをいつも見ていたい」とまで語っています。美女が気まぐれに発する思わせぶりな台詞に、どれだけ数多くの男たちが舞い上がった挙げ句に轟沈したことでしょう。

 田島が気を利かせて去ったその夜、宮本にはまだツキが残っていました。駅での別れ際、美沙子は通行人に押され、宮本の胸の中へと倒れ込んできたのです。宮本の鼻先に、美沙子のうなじ部分がありました。このときの宮本には美沙子が愛用している香水プアゾンが、彼女のフェロモン臭に感じられたに違いありません。もう迷うことなく、美沙子にロックオンです。

 次回の宮本は美沙子に誘われて会社をサボり、海へと繰り出します。回り道ばかりしている宮本は、ついに「エッチするのは惚れた女だけ」という中学以来の大願成就を果たすのでしょうか? 無駄だらけの宮本ですが、どうやらそんな無駄な部分にこそ、その人の人間性が色濃くにじみ出るようです。経済効率に反して、損をして得をする男・宮本の独自哲学がさらに炸裂する第3話も見逃せません。
(文=長野辰次)

“失速気味”のテレ東『池の水ぜんぶ抜く』月イチレギュラー初回は、超豪華ゲストで勝負!

 今、テレビ東京で最も話題を振りまいている番組といえば、「日曜ビッグバラエティ」枠で不定期に放送されていた『緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦』だ。

 同番組は、ロンドンブーツ1号2号・田村淳と、ココリコ・田中直樹がメインキャスターを務め、外来種が大量発生して困っている池の水を全部抜き、何が潜んでいるかを調査するという内容。

 昨年1月に第1弾が放送され、視聴率は8.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)をマークし、同枠では異例となる高い数字を記録した。

 第2弾は8.1%、第3弾は9.7%で、第4弾では11.8%まで上げ、初の2ケタ台に乗せた。その後も、第5弾は12.8%、第6弾(正月スペシャル)は13.5%と驚異的な視聴率をはじき出し、右肩上がりで数字が上昇。その結果、4月の番組改編で月イチのレギュラー化が決まった。

 ところが、3月11日に放送された第7弾は9.1%しか取れず、急降下。連続2ケタ台記録は3回で止まってしまった。

 さらに、番組にミソを付けてしまったのが、ロケ時の醜聞だ。第7弾では、岐阜県笠松町の「笠松トンボ天国」を訪問し、ヤゴ(トンボの幼虫)を食べる外来種を駆除すべく、池の水を全部抜いたが、この収録に参加した一般の人による、ネット上への批判的な書き込みが散見される事態となってしまったのだ。その内容とは、制作側の不手際により、捕獲した魚を一時的に入れておく容器が不足し、酸欠などで大量に死んでしまったのだという。

 上昇気流に乗って、月イチのレギュラー化が決まったのに、視聴率は急落し、評判を落とすようなウワサが広まってしまい、同番組は完全に“失速気味”。その先行きに大きな影が差してしまった。

 こうなると、テレ東も黙ってはいられない。レギュラー放送初回となる4月22日のオンエア分では、超大物がゲスト出演することが明らかになった。それは、小池百合子東京都知事と江口洋介だ。

 小池都知事は、東京・日比谷公園の「心字池」でのロケに参戦。同16日スタートの同局系連続ドラマ『ヘッドハンター』で主演を務める江口は、長野市にある善光寺大勧進の「放生池」での水抜き作戦に参加。そのほか、小田原城(神奈川・小田原市)のお堀の水を抜く様子も放送される。

 同22日は、NHK大河ドラマ『西郷どん』、日本テレビ系『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』、TBS日曜劇場『ブラックペアン』(嵐・二宮和也主演)の初回といった強力なライバル番組を裏に回す。その状況下で、『池の水ぜんぶ抜く』は、2ケタ台に再浮上させることができるだろうか?
(文=田中七男)

『孤独のグルメ』スタート!「こういうのでいいんだよ」という美学を覆すとんかつ屋の“追いステーキ”ってナンだ!?

 レギュラー放送としては1年ぶりとなる『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)がスタート。

 ほぼ毎年レギュラー放送があり、さらに昨年は大みそかの年越し直前枠を2時間SPで任されるまでになった人気コンテンツ。もはや局を代表する顔だ。ただおじさんが独り言を言い(思い)ながら飯食うだけの地味な番組なのだが、それが逆によかった。

 言うまでもないが『アンナチュラル』(TBS系)や『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)で1~3月期もフル回転だった松重豊を押し上げた出世作。

 Season7の開幕を飾るのは上尾(埼玉)。Season6こそ大阪での遠征スタートだったが、それ以外の初回は、門前仲町、新丸子、赤羽、清瀬、稲田堤というクラクラするほどの地味具合。この気負わぬスピリットは変わらずだが、しかし今回の上尾でのとんかつが、とんでもないやつだった。

 

■第1話「埼玉県上尾市本町の肩ロースかつ定食」

 

 前日、すんでのところでとんかつを食いそびれた五郎(松重=個人でやってる輸入雑貨の貿易商)は、朝から腹がとんかつ状態。アンティーク照明を希望する呉服店主夫妻にカタログを届けに来たのだが、返す刀で着物を売りつけられそうになる。「売るか、売られるか」の弱肉強食なセールス合戦。なんとなく付き合い的にこちらも「買わなきゃいけない」ような気持ちになるのは営業あるあるだ。

「あやうくミイラ取りがミイラになるところだった」が、なんとか脱出。一安心したその直後、恒例・食事決心のシーン。いつもの「よし、店を探そう」を「よし、とんかつを探そう」とセルフパロディ。

 とんかつはSeason1の第6話で「ミックスかつ」、Season4の第7話で「カツサンド」を食べているが、意外とがっつりのとんかつ単体は初めて。

 いつもは惹かれそうな中華、洋食、うなぎに目もくれず、とんかつを求め彷徨う五郎。上尾市役所前で職員が行く飯屋があるはずと推理。(実は市役所に隣接する食堂にも、とんかつがあるのだが)長いとんかつクエストの末、たどり着いたのが今回の舞台・キセキ食堂だ。

 結論から言うと、地元では有名な人気店。今回の放送を知った店のファンは、むしろ「バレて」しまうことを悲しんでいるだろう。

 ドラマ内でも繁盛店として描かれているが、少なくとも今の時点でふらっと来て並ばず入れるようなことはないだろう(放送翌日にいたっては店頭のシート記入がいっぱいになり開店時間前なのに「品切れ」となるほど)。

 五郎が選んだのは、肩ロースを低温熟成したという人気ナンバーワンのキセキ定食。カツとステーキ(豚)があるのだが、「初めての方にはステーキをお勧めします」という注意書きを振り切り、カツを選ぶ「初志貫徹」。

 

■メジャーで肉を採寸する五郎

 

 出てきたカツは『なにこの威圧感』とビビるほどのデカさ。

 思わずメジャーを取り出し採寸しちゃう五郎。前シーズンでもアジフライを測っていた恒例のアレ。

 横16センチ、縦10センチ、高さ4センチ5ミリ。立体感がレンガのよう。

 真ん中の切り身にだけソースをかけ、箸で持ち上げるが、デカい。「ジェンガだな!」と例える心の声もデカかった。ジェンガがピンとこない人は、赤ちゃんの靴くらいのデカさを想像してほしい。もしくは小さめのテレビリモコン。一切れが、だ。一口かじって「何だよこれ、笑うしかないなあ」と目尻が垂れる。この番組(原作)を端的に表す名台詞「こういうのでいいんだよ」という美学とは明らかに違う、今までになかった圧倒的な美味さに屈服する感じ。

 続いて塩で一切れ。

「塩とんかつがうまいってことは肉がいい証し。それを白いご飯で追っかける法悦(ほうえつ)」

 塩レモンでも一切れ。

「今俺が食ってるのは肉の形をした幸せだ」

 辛味噌で一切れ。

「今度は辛味噌で名古屋に行ってみるか!」

 ふんだんな調味料でバイキング状態を楽しむ五郎。キャベツもごまドレやソースで味替え。どこにでも幸せはある。

 ちょいちょい「ごまドレいってみよー」「塩レモンいってみよー」と宣言する五郎が、いかりや長介みたいでどこか頼もしい。

 くどいようだが、肉一切れがデカく、五郎ですら場合によっては4口で食べていた。女性なら5口から6口は要するはず。中は低温熟成ということで、ほんのりピンク。生だと誤解する人もいるらしく、しっかり中まで火が通っていることを告げる張り紙が店内にあるほど。

 低温熟成ならではだと感じたのが、箸で肉片を持ち上げた際、両端が微妙にプルンとたわむこと。柔らかそうな食感が口に広がる。食ってないけど。

「肉食ってる感が尋常じゃない肉」

 これが230グラムの定食で1,000円。自分が地元民なら紹介した番組を生涯呪う。

■とんかつの後の「追いステーキ」

 

 さらに隣の客の「キセキのステーキとかつ100グラムずつ」という注文の仕方に注目し、「そういうのアリなのか……」とキセキのステーキ100グラムを追加。思わず隣の客に「助かりました」と礼を言い、動揺させてしまう五郎。今回も飯の海を自由に泳いでる。

 ラストのかつ一切れを再度とんかつソースで締める。ソースに始まりソースで終わる美学。

 そして美学とはとても思えない追加のステーキが到着。

「衣を脱いでなお旨し」という肉をステーキソースで。

「これはご飯いらない、肉で肉が食える」らしい。注文時にも「ここで追いステーキをかませたのはうれしい」と喜んでいたが、五郎独自の言語感覚がこのドラマの人気を支える一つ。いやメインといってもいい。追いステーキって、ソイソースみたいでどこかしっくりくるし。

 店員お勧めのオニオンソース。豚肉と玉ねぎの相性の良さから「生姜焼きの原理か」と発見する五郎。美味い組み合わせを考えている時、その舌は科学者だ。

 今回、ぜひ確かめたくなったのは、わさび醤油で食う(この店の)豚肉の美味さ。この組み合わせを「ベストアンサー」だと断言した五郎。

「俺の舌は今、感動にむせび泣いている」

 食えるか心配していたくせに、結局「あと300グラムくらい全然イケる」と胃袋フル回転。量を食っても軽い肉なのだろう。

「こんなとんかつとこんなステーキが、上尾の街に潜んでいたなんて。豚肉の道、奥深し」

 そして原作者・久住昌之がロケ地で飯を食う「ふらっとQUSUMI」のコーナー。原作漫画にない店しかドラマでは描かれないので、作者が来るのも基本毎回初めて。

 まずは予約限定の牛タンステーキを、わさび醤油で。美味いに決まってる。驚いたのは小ぶりの熟成ひれカツの150円といういう値段。小ぶりといっても久住ですら4口以上かかりそうな立派な「小ぶり」っぷり。店からしたら大迷惑だろうが、これとご飯だけでも昼飯としてアリだと思ってしまった。

 本編でメニューだけ出てきたお子様定食(カツまたはステーキ)も350円だし、五郎も言ってたが、いくら精肉店が経営してるとはいえ「店として大丈夫か?」。

 

■「行かない」視聴者でも、ただ見るだけで楽しめる作り

 

 この番組は基本実在する店やメニューで撮影しているのだが、店員は役者が演じているし、味わってるのも、あくまで架空の存在・井之頭五郎であって松重豊でないし、もちろん物語部分はフィクション。ドラマ本編部分には必要以上の「情報」的なものは差し込まず(久住コーナーが「情報」に当たるが、あくまで脇。逆に裏返しでここを「メイン」だと言う人もいる)、視聴者が「行く」という前提を強く押し出してはいない。

「食べたいけど行くの面倒臭い」とか「一見さん入りづらそう」とか「そもそも行く時間ない」とか、そういった萎える感情から解き放たれ、ただ井之頭というどこにでもいそうな人物が、ただ一人、悩んだり浮かれたり発見したりしながら日常の飯を享受するサマを観て楽しめばいいだけだ。

 グルメ情報を見てる時につきまとう「でもどうせ俺は行かないしな……」という劣等感に苛まれることがない。

 もちろん行きたくないわけではない。そりゃ行きたいし食べたいのだが、それはそれとして、「ここ」に行かないで「これ」を食べなくても、別に構わない気持ちにさせてくれる。腹が減ったら各々のとんかつ「らしき」ものを食えばいいのだ。

 だがしかし、今回はこのキセキのとんかつは食ってみたくて仕方がない。うれしいような悔しいようなこの気持ち。

 あくまで五郎が食らうところを鑑賞することで「自分の中に眠る食の思い出を喰らう」的な楽しみ方を提示してきた番組だったのに、こんなに感情をかき乱されるとは。

 Season6でもラム肉だらけの中華という未知の味を突きつけ我々を困らせた「前科」があったが(第8話)、今回は王道の味でありながらそのクオリティの高さと圧倒的なコストパフォーマンスで仕掛けてきた。この方向が番組的にどう影響するかはまだわからない。今週の「世田谷区経堂のバイキング」を待ちたい。
(文=柿田太郎)