高畑充希に笑い、泣かされ、腹まですかされる新感覚なグルメドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第7話となる今回は、前回の宮崎遠征の続編。友人の結婚式が行われた高級ホテル(シェラトン)で、かつて自身の結婚式の最中に失踪した元・新郎とばったり出くわした問題のシーンからスタートです。
(前回までのレビューはこちらから)
■幸子、男湯へ
今まで何度か俊吾さん(元・新郎=早乙女太一)らしき人は登場してきた。しかしそれは幸子の妄想だったり見間違いばかりで、その都度幸子はザワつき、肩をそっと落としてきた。
今回の「俊吾さん」は、ホテルのロビーを清掃する従業員。慌てた幸子は俊吾さんらしき人物を見失うまいと追いかけ、男湯にまで突入。あげくセグウェイに乗りながら「俊吾さああぁぁぁーーーん!」と松林で絶叫。その声量はカラスの群れが鳴きわめくほどで、おそらく演出というよりハプニング。
俊吾さん本人か? と、やきもきする視聴者の気持ちを手玉に取るかのように面白シーンを畳み掛ける演出。ちなみにドラマ公式Twitterによると高畑は5分でセグウェイを乗りこなしたというから、お見事。
■マツコも夜更かしで食べたトウモロコシ
結局、俊吾さんは見つからず、疲れ果てた幸子はホテルにて「宮崎の旬なお野菜スープ(月替り)」をオーダー。
出てきたのは宮崎県産とうもろこし・ゴールドラッシュを使った冷製スープ。
飲んだことないけど、絶対美味しいであろう黄金色に輝くその見た目。表面は白く泡立ちビールのよう。
かつて、ゴールドラッシュを紹介していた『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)によると、その糖度は18度。調べてみるとメロンと同じで、イチゴやリンゴ、柑橘類よりは上だが、熟したバナナよりは下くらい。そもそも果物ではないし、茹で汁まで甘いというから、よっぽどだろう。
そんな、マツコを唸らせた品種をサチコが飲み干す。
冷たいスープを飲んでるのに、ほわぁ……っとあったかいスープを飲んだかのような吐息を吐く。それだけ沁みる美味さなのが伝わる。
だが、いつものように生真面目を絵に描いたようなサチコ歩行(進行方向を直角に曲がる)で歩く幸子の顔は曇ったまま。
美味しいものを食べているときだけ俊吾さんのことを忘れられるというのが、この物語の基本コンセプトなのに、それを揺るがしかねないピンチ。
それを打開するためにか、タクシードライバー(温水洋一)に教えてもらったネオン輝く繁華街・ニシタチ通りに繰り出した幸子。お目当ては元祖もも焼き・丸万焼鳥本店という地元では誰もが知る人気店。
■鶏料理の最高峰・宮崎炭火焼
宮崎名物・鶏の炭火焼特有の、あの業火の中で焼かれる肉を目の当たりにしたサチコは、
「もはや調理というよりも戦いではないですか…」
「わたし対……鶏!」
と、徐々にヒートアップ。
「鶏のもも焼き」「鶏のタタキ」「鶏のモツ焼き」と「鶏3連戦!」に挑む。
鶏のタタキは黄色い皮が炙られ脂が溶けかけながらもレアな肉の弾力はそのまま、歯ごたえを楽しみながら脂の旨味も味わえる一品。水で晒したらしき玉ねぎスライスとの相性も抜群で、幸子の顔に笑みが戻る。
モツ焼きは口にいれると「風味が一気に広がってくる」という旨味の爆弾。
たまらずビールを注文する幸子。初めて見かける、幸子、本心からのアルコールオーダー。
そしていよいよ、もも焼きの登場。見た目はただの焦げ茶色のコマ切れが学食のような銀の皿に乗っているだけの無骨さ。
タタキには玉ねぎ、モツ焼きには焼いたトマトやシシトウが添えられていたが、もも焼きにはメイン以外何もなし。
逆に風格すら感じるたたずまい。
筆者もこの料理が大好きで、鶏料理の中で一番だと勝手に決めている。塩だけの味付けなのに鶏の旨みが炭の風味で包まれて、思い出すだけでヨダレが湧く。
幸子に至ってはヨダレどころか「暴れてる、誰かが口の中で暴れてる!」とUMAの存在を示唆するほどのハマり具合。
「同じ鶏からこれだけの味の違いを出せるなんて、なんて奥が深いの、鶏!」
箸が止まらず満足そうな幸子の背景に、荒ぶる猿の群れを効果で入れ込むこのスタッフはなかなか頭おかしい。
しかし、今回ばかりはグルメ以上に気になるのが俊吾さんは本人なのか問題。
■ついに、俊吾さん登場
入浴後、牛乳を飲みながら幸せそうに佇むサチコの前に現れたのは、例の「俊吾さん」かもしれない従業員。
結論からいうと、この俊吾さんは本人だ。気付いた幸子のすっぴんが固まる。
「す、すいません……」と気まずそうに立ち去ろうとするリアル俊吾さんを「あの……!」と呼び止め、ようやく絞り出た続く幸子の言葉が「……お元気でしたか?」。
かつて24時間テレビで前人未到の200キロマラソンを終え、ゴールしたばかりのヘロヘロの間寛平に向かって「初めまして、裕木奈江です」と自己紹介を丁寧にかました女優・Yを一瞬思い出したが、それはさておき、ドラマを見続け保護者目線になってきてる我々視聴者には、この幸子の不器用さがたまらなく愛おしい。
何を聞いても「ごめん」としか言わない俊吾さんに対し、
「お会いして早々大変お聞きにくいことをお尋ねしますが~」
「このようなことは申し上げたくはございませんが~」
と、いつもの幸子より声をやや荒らげながらも、いつもながらの丁寧さを保持しようとする幸子に胸を打たれる。
「仕事が終わったらちゃんと全部話すから」と、0時に焚き火のあるリビング(ホテルのロビーにある)に来てくれと言い残し、俊吾は消えていった。
夏の日に2人で花火をした記憶を蘇らせながら、焚き火を見つめる幸子。結局俊吾は来なかった。
幸子の宿泊部屋のドアの下に置いてあった俊吾からの手紙。
「すまない。やはりまだあの日のワケを話すことはできない。ごめん」
さらに「この手紙を読む頃にはもう僕はこのホテルにはいません。だから探したりはしないでください。本当にごめん。」とつらい内容が。
「どうして……なんで……」と俊吾さんを責めるような口調から一転、「なんでまた行っちゃうの……」と泣き声になるかならないかくらいの掠れた声を絞り出し、気持ちを決壊させ膝をつく幸子。
我々が思っていた以上に幸子は俊吾さんのことが今でも好きだし、全然『忘却』なんてできちゃいなかった。
いろいろ笑って見ていたあげく、それを少し申し訳ない気待ちにさせられるなんて、なんだか悔しい。
その直後一発目のCMで「クリスマス、ケンタッキーにしない?」とパーティーバーレルを抱え笑顔で微笑む幸子、もとい高畑充希。
もう炭火焼のことすら忘れてしまってるようで、それも悲しい。
■温水洋一が男前に
眠れずに迎えた翌朝。
「こんなときにも」と腹の音が鳴る幸子は、訪れたうどん屋でタクシードライバーと再会。「行きましょ行きましょ」と店内へ連れ込まれる。
根掘り葉掘り聞いてきたり、つまらない冗談を言ってきたり、リアルな生活で出会ったらきっと鬱陶しく感じてしまうタイプの人かもしれないが、一晩でいろいろ通過し、昨日とは違う景色を見てる幸子には、変わらず接してくる運転手のズケズケさが心地いいに違いない。
2人で「天玉かうどん」をすする。
丸天という蒲鉾を揚げた「天」。
玉子の「玉」。
天カスの「か」。
で、「天玉か」。
うどんの説明をしてくれるだけなのに、温水が昨日より男前に見える。
讃岐より全然柔らかく、「腰ゼロのうどん」。
讃岐ブームのおかげで、逆に大阪や福岡、宮崎の柔らかいうどんにも注目が集まるようになった。
「宮崎の人はこの柔らかくてあったかいうどんが大好きなんです。これ食べて、元気をつけて、こっから今日1日を始めるとですよ」
人間は、口に入れたものからしか身体を作ることはできない。
柔らかい麺をすすり、汁を飲む幸子は、今回は『忘却』していないように見えた。
それは美味しくなかったからではなく、忘れずに生きていこうと決めたからではないか。
そうなるとこの番組が成り立たなくなるのだが、それくらいいい顔をしていた。
ちなみに原作漫画で俊吾さんと出くわすのは宮崎ではなく、岩手は花巻の湯治場。
真実を話すからと約束した待ち合わせ時間は、0時ではなく朝の4時。
さすがに明け方まで待たせて消えているんじゃ鬼畜すぎるから、早めの時間に変えたのだろうか。
しかし、俊吾さんの、やはりまだ話せない「理由(ワケ)」とは何なのか?
いつも思い出すのは、フニャコフニャ夫の「ライオン仮面」(ドラえもん)。結末を決めずに展開を引っ張る漫画家(フニャコ)が毎週連載の執筆に困る話だが、作者(阿部潤)は、どこまで見据えて俊吾さんのことを先延ばしにしてるのか心配になる。
いや、そこを気にするタイプの漫画ではないのは百も承知だが、原作以上にいじらしく真っ直ぐなドラマの幸子に親心を抱くたびにそう思ってしまうのだ。
俊吾はホテルの従業員仲間に、宮崎に来た理由を「大切な人を傷つけてしまって」(原作では裏切ってしまって)と言っていた。今でも「大切な人」であるのは本心だろう。
そろそろ佳境を迎えるドラマ終盤、どうまとめるのか。
原作は連載中だし、ドラマも好評なので、続編を作るためにまだ引っ張ると思われるが、どこまでを描くのか。
グルメドラマで展開を気にすることになるなんて、悔しいけど続きが楽しみです。
(文=柿田太郎)