「遠藤憲一が俳優を引退する決意のもと、温泉で人知れず派遣の仲居(中井田健一と名乗っている)として働いている」
そんな設定のフェイクドキュメンタリー風人情ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。
いよいよ迎えた最終話(第12話)は、健さんが惚れた女のために拳銃片手に大暴れ。振り返りましょう。
(前回までのレビューはこちらから)
最終回でもやっぱり恋に落ちる健さん
群馬は薬師温泉「かやぶきの郷 旅籠」で働く健さん。
そこへやって来たのは、建築デザインの仕事のために古民家を見て回っているという宿泊客・植木夕子(苗木優子)。
健さんは、宿にある囲炉裏の手入れをしてる最中に現れた夕子を見るなり、例によって恋に落ちる。
「囲炉裏の火は気持ちを落ち着かせてくれますからね」と直前に言っていたのに、落ち着くどころか「その時、俺の心に火が点くのがわかった」と延焼宣言。
さらに「メラメラと燃え上がる、恋の炎が」と倒置法を駆使。全焼する勢いの可燃性の健さん。
ふとした拍子に夕子の手首についた傷を見てしまうが、「この出会いは運命だ。彼女に悩みがあるのなら、俺が癒やしてやる……!」と、むしろ前のめりに沼にハマりにいっている。
夫がいたり子連れだったりと、状況が困難なほど燃え上がるタイプなのは間違いない。
今回も空いた時間に、夕子を誘い、婚姻関係でもないのに「新婚旅行スタンプラリー」を楽しむという浮かれっぷり。
夕子の謎
手首の傷も気になるが、警察官を見かけるなり、あからさまに挙動不審になったりと、気になる点も多い夕子。
祝言をあげるような、きらびやかな着物を着て2人で記念写真を撮った時も
「これ外部には出ないですよね?」
「絶対に外に出さないで下さいね?」
と過剰に流出を恐れる一面も。
この一言に、勝手に新婚気分で浮かれてた健さんが過剰にショックを受けるのが図々しくて面白い。
その日出会った人と結婚しているかのような写真を撮ったのが流出して、変な誤解をされるのは確かに困るはず。しかし、もはや本物の新婚さん以上に“いらっしゃい”な気分になってしまっている健さんは、正式な夫並みに腑に落ちない。ただのナンパ臨時従業員なのに。
さらに彼女を知っていると思しき、同じ宿に泊まってる不倫カップルらしき女性宿泊客が、健さんに忠告する。
「綺麗な花には棘がある……騙されちゃダメよ? 彼女魔性の女だから」
怪しさは増すばかりだ。
健さん、風呂場でガチセックス
その夜遅く、女湯が使えないとかで健さんだけの男湯に夕子が入ってきてしまうハプニング発生。
双方慌てたものの、健さん渾身の提案で2人で湯船に浸かる展開に。
しかも、「私もずっと一緒にいたい」「健さんといると素直な自分でいられる」と互いに見つめ合い、近寄りだしたところで意味深なフェードアウト。
これは情事と見ていいのでしょうか? 今までこんな思わせぶりなフェードアウトはなかったはず。
盛り上がった男女が気持ちぶちまけた後、全裸で近づきながら、2人きりの浴室でフェードアウト。これはもうセックスと見てよいのではないでしょうか。
おめでとう、健さん! そして大丈夫なのか? 妻帯者・遠藤憲一?
浴室から出てきた2人は幸せそうな顔で寄り添っていた。
毎度毎度、幸せそうな健さんはともかく、夕子がとにかく幸せそうだったのが印象的。
「私、人生やり直せそうです」
この言葉の意味が明らかに。
ここで物語は急展開。不倫カップルと思われていた2人は実は刑事で、夫を殺した罪で逃亡している夕子を逮捕しようとしていたのだ。
夕子に事実を確認した健さんは、「俺が守る。一緒に逃げよう」と、まさかの決意。
いや、映画とかドラマならよくある決意なのかもしれないが、この「健さん」はこの番組では、まんま遠藤憲一なのだ。大丈夫なのか、遠藤憲一さん!
そんな心配などお構いなしに、健さんは、あのトランクを開ける。
何でも出てくるから四次元トランクと勝手に呼んでいるが、そこから最後に出てきたものは……?
ゴーン氏と同じ手法
今回も例によって、なぜか持参してた警察の制服に身を包み、夕子を連行するフリして刑事たちの前を通り過ぎようとする健さん。
どこかゴーン氏の保釈を思い出すが、こちらは立派な犯罪だ。
しかもあちらと同じくこちらもすぐにバレることに。
「あなた、仲居の!?」
仲居だとバレはしたものの、遠藤憲一だとはバレない。
とうとうシリーズ中、一度も「遠藤憲一」だと気づかれることはなかったが、芸能人的にどんな気持ちなのか、遠藤憲一。
さらに、すかさず腰の拳銃を抜き、刑事に突きつけるゴリゴリの犯罪者と化す遠藤。
コンプライアンスガチガチの現代で、なかなかテレビでは見なくなった懐かしさを覚えるインモラルな展開。
ニューシネマのようであり、北野映画のようであり、内田裕也主演の映画のようでもあった。
目の前にいるのに、スダレに包まってバレないのは、勝新最後の座頭市を思い出す。
しかし、「これ以上健さんに迷惑かけられない」という夕子は、健さんに礼を言い、自首する決意を固める。
「冷え切って固まった私の心を健さんがほぐしてくれた。私を人間に戻してくれた。貴方に会えて本当によかった」
自首する直前、マフラーを健さんの首に巻き、振り返らずに去って行く。
車に乗せられ連行される夕子と、それを影から見送る健さん。
残されたマフラーに顔を埋めて号泣する男泣きする、いいシーン。
「それはそれとして、健さんも自首すべきでは?」という感情をかき消すのが大変だった。
本人の口からフィクション宣言
本編終了後のインタビュー。
「引退についてご自身の口からお願いします」と言われた遠藤はついにハッキリ言う。
「このドラマはフィクションであり、実在する人物団体とは関係ありません」
今更だが、毎回小さくフィクションであるというテロップが出ており、そこにも毎回遊び心があった。
「この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありませんが、遠藤憲一さんは奥さん一筋です。」(第7話・中学の時に好きだった女の子の名前を出した途端、『ピー』音入れといてと真顔で言われてしまったあとのテロップ)
「この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありませんが、遠藤憲一さんはいい匂いです。」(第8話・同じ服ばかり着てるので服が臭いのでは? と散々スタッフが遠藤をいじったあとのテロップ)
「この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありませんが、遠藤憲一さんは友人インタビューの内容を本当に知りません(第9話・焼き鳥屋のママが引退の話を聞いて涙ぐんだと聞かされて)
「この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは関係ありませんが、遠藤憲一さんは山形まで片道6時間、車移動でした。」(第10話・(俳優生活に)疲れてるか? との問いに「しんどいよ」と答えたあとに)
ここ数年、他局がこぞって真似をし出したバラエティ同様、テレ東のフロンティアスピリッツを感じるドラマだった。
そして、最終回のテロップは、
「この物語はフィクションであり、実在する人物団体とは関係ありませんが、遠藤憲一さんの旅は続きます」
健さんの次の旅に期待します。
(文=柿田太郎)