史上最年少の18歳で中原中也賞を受賞し、当時は「JK詩人」として一世を風靡した詩人の文月悠光さん。就活経験もなく恋愛経験も未熟で、世間知らずだと自称する文月さんが綴ったエッセイ『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)には、JK詩人と呼ばれたことへの戸惑いをはじめ、セクハラ体験や自身の恋愛体験などが赤裸々に明かされています。今回は、普段から女性の格好で日常生活を送り、「女性の格好をするようになって心が広くなった」と語る、ロックバンド「実験台モルモット」のボーカルでイラストレーターの谷琢磨さんとの対談を実現。2人のジェンダー観や、最近世間を騒がせているセクハラ問題について語ってもらいました。
子育てはチームなので「手伝う」のではなく「当たり前」
――文月さんはこれまで、谷さんのようにセクシュアリティは男性でありながら、女性の格好をしている男性と、接したことはありますか?
文月悠光さん(以下、文月) セクシュアリティに違和感を持って女性の格好をしている方とは接したことがありますが、谷さんのように、女性の格好を楽しみたくて女装をしてらっしゃる方と接するのは初めてです。
谷琢磨さん(以下、谷) 気づけば7年くらい、女性の格好をしています。もともと女装をしたくて始めたわけではなく、お仕事でロリータブランドの服を着る機会があり、やってみたらまた女装のお仕事をいただけるようになったので、完全にビジネスから入りました(笑)。入り口は仕事でしたが、毎日自撮りをしてブログを更新するとなると、常にこの格好をしていなきゃならない。その結果、この格好でいることが当たり前になっちゃったんです。
文月 疲れませんか?
谷 それが疲れないんです。この自分でいるのが、すごく自然体になってしまって。
文月 自然なことなんですね。なんだか羨ましくなってきちゃいました(笑)。
――谷さんは1歳半の娘さんがいらっしゃるとのことですが、今、育児が大変な時期なのではないでしょうか?
谷 早朝に娘の往復ビンタで文字通り叩き起こされるので、寝不足です(笑)。昔は地毛のロングヘアだったのですが、娘に引っ張られて抜けてしまうので、バッサリと切り、最近はウィッグをつけています。
文月 けっこう子育てには参加されているのですか?
谷 そうですね。嫁とはある程度役割分担していて、一緒に育てている感じです。僕は仕事もあるので、仕事の合間にいったん帰って娘をお風呂に入れて、また仕事に出かけるということもあります。
文月 すごい! しっかり分担されているんですね。
――最近は、少し育児に参加しただけで「イクメン」と呼ぶ傾向が嫌だという女性もいますよね。
谷 そうなんですか。少しでもやったほうが、お母さんは助かると思いますけどね。でも、「手伝う」という意識でやるといけない気がします。手伝っているわけではなく、育てるのはお父さんもお母さんも同じなので、「当たり前」という感じでしょうか。
でも、自発的にそういう考え方が生まれたというより、自分が育ってきた環境や、お世話になった事務所に教え込まれたことがバックボーンにあるのかもしれません。仕事でも家庭でもそうですが、チームでやっているのだから、「手伝う」という概念でやるのはよくないと言われてきました。「手伝う」という意識では、外部的になっちゃいますから。
――文月さんは著書の中で、コミュニケーションに関してコンプレックスがあると告白されていますよね。谷さんは、何かコンプレックスはありますか?
谷 ありまくりです! そもそも、コンプレックスの塊が、この女装姿に表れているというか。僕、足のサイズが23cmしかないんです。男性の格好をしていた頃は、自分に合うサイズの靴を探すのも大変でした。社会が求める男性像から自分がかけ離れていたので、それに対して当時はコンプレックスを抱えていました。
でもあるとき、自分のダメな部分や嫌な部分も磨いていこうと思いました。自分の嫌な部分が前面に出ているのが、今の女装という形なのだと思います。結局、万人に好かれようと頑張るわけではなく、とてもニッチなところで、自分が嫌いな部分を好きになってくれる人がいるんです。そこを伸ばしていく選択肢を採りました。
文月 社会から押し付けられた男性像に乗れない男性たちは、実は多いと思います。それに対する違和感を大半の人は押し殺したり、女性への嫌悪感(ミソジニー)に転じて怒りを女性にぶつけたりする人もいると思うんです。でも、谷さんの場合、嫌われてもいいから少ない人に自分を理解してもらおうと自分を作り変えた。とても強い生き方だなと。
――文月さんは前作のエッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)で、セクハラを受けたことを綴っていて、今回の書籍でもまた、セクハラについて書かれています。昨年末から#MeToo運動が起こり、福田淳一前事務次官のセクハラ問題と、それにまつわる麻生太郎財務相の問題発言も話題です。なぜ最近こんなにセクハラ問題が起こっているのか、お二人はどう考えますか?
谷 やはり、セクハラを受けた側が、どんどん言えるようになってきているということですよね。
文月 でも、口を開けるようになってきたからこそ、難しさを感じます。本当はどういう立場であっても「これ、おかしいよね」と言えるのが健全だと思うんです。実際には、被害を受けた側が攻撃されることも多いですし、(告発に対する)受け入れ体制ができている人ばかりではないところに生身で飛び込んでいくのは危険すぎるのではないかと、心配になりますね。
また、男性側からは#MeTooしにくい面もあり、非対称だなと思います。福田前次官に対して女性記者が告発することができたのは、「同じことを繰り返させてはならない」という使命感のようなものが強かったのだろうと思います。でも、勇気ある行動を取ったにもかかわらず、福田前次官はセクハラの存在自体認めようとしなかった。そこまで女性の心を踏みにじるのか、とあぜんとしてしまいました。二次被害も深刻ですが、今は過渡期なのだと思い、慎重に見守りたいです。
――谷さんは女装をしていて、セクハラや痴漢に遭うことはありませんか?
谷 痴漢には、ものすごく遭いますね。加害者の中には、男性だとわかっていてやっている人も多いと聞きます。女装仲間と話し合った結果、我々は少し珍しい生き物なので、性的な意味合いではなく、遊園地の着ぐるみを触る感覚で触っているのではないかという結論に至りました。
文月 えっ! それも、ある種の暴力に思えますが……。好奇心によるものですかね?
谷 好奇心はあるのだと思います。また、男性は女性に比べて、触られることに対してそこまで抵抗のない方が多いのだと思います。
文月 男性は、自分の体と性的な意味が、あまり結びついていないということですか?
谷 みんながそうとは限りませんが、触られることに関しては性的な意味合いを感じていない男性も多いと思います。だから、結局セクハラ問題も、訴えられる側に男性が多いのはそういう面があるからかと。逆のパターンで女性が男性に対してセクハラをしているというのもあるのではないでしょうか?
文月 たくさんあると思います。
谷 だけど、男性が告発する案件が少ないのは、それを不快と感じている男性が少ないのかもしれないですよね。
文月 あと、不快だと感じていても、言い出せない土壌があるのかもしれません。同世代の男性から、女性にセクハラを受けたという話を個人的に聞いたことがありました。でも、それを#MeTooできるような空気ではないですよね。
――「童貞はいじってもいい」という雰囲気もそうですよね。
文月 社会の権力構造上は、男性のほうが優位なのに、男性の身体に対して世間の扱いが雑な部分があるのかなと。そういうことを男性はどうのみ込んでいるのだろうという点は気になっています。何も感じていない、疑問に思っていない人が大半なのでしょうか。
谷 性別という意味合いで分けると、男性って何も行動しないと何も起きないんですよね。女性は男性から良くも悪くもアプローチを受けたり、女性がメイクやファッションで自分を美しく見せることで惹きつけられたりする男性もいます。でも、男性は基本すっぴんだし、女性ほど髪形やファッションのバリエーションがない。行動を起こさないと何も起こらないというのが、自分が男性の格好をしていたときの感想です。積極的な人間ではなかったので、ナンパもできないし、女性に声をかけることもなかったです。
誤解を受けるかもしれませんが、女性からはセクハラと捉えられても、男性にとっては女性へのコミュニケーションだと思ってやっていて、もしかすると本人は悪気のないパターンもあるでしょうね。
文月 それは非常に多いと思います。
谷 だから、行動を起こさないと何も起きないという悩みを抱えている男性もたくさんいます。女性の格好をするようになってから、自分は「男性」というものに縛られていたことに気づきました。
――男性と女性がわかり合うには、どうすればいいのでしょう?
谷 これは多分、わかり合えないから、人類は繁栄しているんですよね。お互いが理解し合える立ち位置だと、興味を持てなくなるというか。
文月 でも、「わからない」って大事だと思います。「わかるでしょ?」と思った途端に、甘えが生じる部分がありそうです。体の仕組みが違う以上、根本的なところを理解してもらうのは難しい。その了解がある上で、じゃあどうやって自分の生きづらさや要望を伝えていくか、というところが重要だと思います。
谷 そうですね。男性と女性の生活スタイルに差がある以上は、お互いわかり合えないですよね。異性に対する理解は深まらないと思うので、女性がすっぴんで街を歩いて何も起こらない日常を味わったり、男性もスカートをはいて痴漢に遭遇して嫌な思いをしたり、それぞれが男性・女性の生活を体験する日を1日設けたほうがいいと思う(笑)。
女性は身だしなみからして、男性よりも時間とお金を使っているし、それが気持ちの面で自分に与えている影響はとても大きいです。逆に、男性は寝坊をしたとしても、布団から出て、着替えるだけで外に出られるという日常が、女性にはわからないでしょうし。
文月 そうして互いの立場を体験して、気持ちの部分も含めて理解できれば、異性に対してモヤモヤすることは減る気がしますね。
(姫野桂)
文月悠光(ふづき・ゆみ)
詩人。1991年北海道生まれ。16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。詩集に『屋根よりも深々と』(同)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。最近では、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆、詩作の講座を開くなど、幅広く活動中。
谷琢磨(たに・たくま)
切ナ色歌謡ロックバンド「実験台モルモット」コエ担当。女装モデル、タレント、絵描きとして活動。『バイキング』(フジテレビ系)女装コンテスト優勝。『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)ゲスト出演。
