お正月には神社で初詣をし、一年の願い事。大みそかには、お寺へ参って除夜の鐘をついて願い事。子どもが生まれれば初宮参りで無事の成長を祈り、11月には七五三参り。夏や秋の祭りには山車が出て、子どもたちが総出で引く。最近では6月の夏越の祓に、大きな茅の輪をくぐって健康祈願をする人も少なくない。このように、日本人の生活には寺社の存在が寄り添っている。
二礼・二拍手・一礼の作法を守り、普通に参拝している分には問題はないが、時には信仰が深すぎるあまり(?)暴走する参拝客もいるという。匿名を条件に、神職の面々がこれまでに遭遇した「ゾッとした参拝客」を教えてくれた。
ゾッとした参拝者1:御利益のため……桜の下で大暴れ
「きちんと手水で手と口を清め、深々と二礼・二拍手・一礼でお参りしてくださったのですが……」と、戸惑ったように話すのは、室町時代の天皇が祀られた、格式ある神宮の神職だ。
目撃したその一行は、いかにも信仰深い様子で神妙にお参りをしていたそうだが、花吹雪を舞い散らす桜の下で立ち止まったという。そのうちの1人が、「舞い散る桜の花びらをキャッチしたら、運気が上がるんだって」と言うと、競うように花びらを捕まえようと跳び始めたそうだ。近年、花見の際も、桜の樹の下にビニールシートを敷くと桜が痛むとして、禁止される事例が増えてきた。桜は根が痛むと枯れてしまう、繊細な植物なのだ。ましてや根の上で跳びはねれば、大きなダメージとなるのは想像に難くないだろう。
「それだけならば、まだ見逃せるのですが……。これは、さすがに注意させていただきました」
風が止まり、花びらが散らなくなると、「それっ!」と一行は幹を揺らし始めたそうだ。神職さんが注意すると、ハッと我に返り、謝罪したというが、たとえ桜の花びらをキャッチして運気が上がっても、せっかくきれいに咲いている桜を散らしてしまっては、神様とて「あの者たちの願いを叶かなえてやろう」とは思わないだろう。
ゾッとした参拝者2:「神様からのお告げ」と言い張り奇行
「ヘタをしたらご神木が枯れてしまうかもしれませんし、しばらく境内がお酒臭くて困りました」
こう語るのは、平安京や平城京よりずっと昔に王朝があったのではないか、といわれるほど歴史ある地域に鎮座する古社の神職だ。
日本の神道には、経典もなければ、教祖もおらず、さしたる戒律もない。現在は神社庁によって作法が統一され、参拝する際は「二礼・二拍手・一礼」などと決められているが、江戸時代ごろまでは神社によってバラバラ。現在でも、例えば出雲大社(島根県)では、二礼・四拍手・一礼が正式な作法だ。ほかにも宇佐神宮(大分県)など、四拍手を正式とする神社がある。こうして人によって神や教義に違いがあるため、「私の信仰こそが正しい」という参拝者が登場しやすいのだという。
ある日、崇敬者の1人が日本酒の一升瓶を持ち込み、神前に供えるのかと思いきやご神木に掛け始めたときは、神職さんも驚いたそうだ。
「『何をされているんですか?』と尋ねたところ、『夢で神のお告げがあり、神木にお酒を供えろと言われた』と、真面目な表情で答えられたのです」
むろん、悪気はなく、神のお告げに従っただけなのだろう。確かに、松の木の根元に酒粕を埋めると良いともいうが、樹木の種類によっては、アルコールでダメージを受けかねない。夢に神様が現れて、頼み事をされれば、なんとかしてかなえたいと思うのは無理もない。しかし、それが単なる夢である可能性も忘れてはならないだろう。ご神託を受けたと感じた場合は、境内を毎日清め管理している神職に、一言相談するようにしよう。
ゾッとした参拝者3:絶対的タブー“禁足地”をSNSにアップ
最もよく見かけるのが、「禁足地」に関するタブー破りだという。
「ある神社紹介サイトに、堂々と禁足地内の写真が掲載されていたのには、目を疑いました」
日本最古ともいわれる神社の神職は、首を振りながら嘆き教えてくれた。日本人は、古くから自然そのものを神とみて、信仰してきた。大神神社(奈良県)は三輪山をご神体としているし、宗像大社(福岡県)は絶海の孤島、熊野那智大社(和歌山県)は滝が信仰の対象だ。だからこそ、神の宿る地を「禁足地」として、立ち入りが厳しく制限されていることも多い。
例えば、宗像大社(福岡県)がある沖之島は禁足地であり、女性の立ち入りは一切禁じられている。男性も、お祭りのときなどに許可を得た少人数のみが上陸可能だ。大神神社(奈良県)の三輪山は、社務所で受付を済ませ、登拝料を支払えば立ち入りが可能だが、入山口にある鳥居をくぐれば、写真撮影は一切禁止。
また、ご神体山で見たことは一切口にしてはならないとする神社もある。例えば、湯殿山神社(山形県)のご神体は、湯殿山にある温泉の湧き出る赤茶けた巨石だとされており、それは「お言わず様」とも呼ばれている。その地で見たことは人に語ってはいけないとされ、ましてや写真に収めるのは、絶対的なタブーだ。
しかし、「湯殿山 御神体」で画像検索してみると、ご神体らしき赤茶けた画像がたくさんヒットする。
「見つけ次第削除をお願いしているそうですが、ブログなどで誰でも発信できるこの時代にあっては、イタチゴッコできりがないんです」(同)
日本の神々の大らかさを考えたとき、神の宿る場所を撮影したとて「仕方ない」と笑って済ませていただけるかもしれないが、やはり、タブーを守らない参拝者の願い事を積極的にかなえてやろうとは思わないのではないだろうか。
こうしてトンチンカンな参拝者の事例を見てみると、神社だけでなく、一般社会においてもマナー違反と言えるものもあるだろう。手水をしっかり使ったり、二礼・二拍手・一礼を守ったりするだけでなく、一般的なマナーを守るようにしたいものだ。