「胎内記憶」池川明医師は、虐待の専門家をあざ笑う――「頼ってもムダ」発言の恥ずかしさ

 弱った心に入り込む、甘い言葉やラクに稼げそうな情報――。ネット上には、無責任な理論で集客しては人を食い物にする、スピリチュアリスト、霊能者、民間資格カウンセラーなどがあふれています。「この人たちのようになれるかも」と彼らを信じ込んでしまえば、価値観や金銭感覚をゆがめられるのはあっという間。友人や家族を失ってからでは、もう遅い! 「スピリチュアルウォッチャー」黒猫ドラネコが、現代社会にのさばる怪しい“教祖様”を眼光鋭く分析します。

 新型コロナウイルスの騒動で、落ち着かない日々。引き続き、手洗いうがいなどの対策をしっかりとしたいものです。そういえば、「胎内記憶」の第一人者である産婦人科医・池川明氏は、自身のFacebookで「ベビーイオン 結構売れてます! コロナウィルス、インフルエンザウィルス、花粉症対策などに使えます」と、24万円(税別)の「イオン発生器」の宣伝をしておられました。自粛ばかりではなく、経済活動も大事ですもんね。この機械がどうというわけではなく、便乗商法やデマにはくれぐれも注意したいものですねえ。

 さて、そんな池川医師、どうやら「胎内記憶」が間違った解釈をされていると、お怒りのようです。

 昨年、立教大学で行われた「霊性(スピリチュアリティ)と現代社会」なる公開シンポジウムに、池川医師が「登壇予定」と告知され、ネット上で物議を醸しました。“あの”池川医師が招かれたということで、私も「マジか立教大学」とツイートしたところ、拡散されて「これはヤバい」「自分の子どもがこんな講演聞いてきたら泣きたい」といった、批判的な反響がありました。

 この騒動がWebサイト「Wezzy」をはじめ、いくつかの媒体に取り上げられたこともあってか、のちに立教大は「講師のご都合」として、池川医師の登壇取りやめを発表。こうしたひと悶着がありながら、昨年12月8日、池川医師抜きでシンポジウムは開催。「在日宇宙人」「宇宙人ドクターズ(の一人)」「天の声を聴く詩人」「和太鼓響沁浴演奏者」といった人々が登壇したようで、池川医師がいなくても、十分カオスな状況だったようです(これについては、キリがないのでツッコみません)。

「虐待する親を選ぶ」と主張する意味はあるのか?

 以前、当コラムでもテーマにしましたが、「胎内記憶」とは、子どもたちが語る「母親のおなかの中や、前世にいた時の記憶」のことを指すそうです。池川医師によれば、6歳までの子ども3,500人にアンケートを取ったところ、その中の約3割が「生まれる前の記憶」を語ったといいます。この結果だけならいいのですが、池川医師はこれを「胎内記憶」として、「子どもは親を選んで生まれてくる」「虐待をする親を選ぶ子どもがいる」など、「不幸や不遇も自分で決めた」と取れるむちゃな理論を広めていると感じます。私はこの“思想”を、以前から問題視し続けています。

 1月29日から2月8日にかけて、池川医師は立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の濁川孝志教授との対談動画を12本もYouTubeに公開しました。ここで池川医師と濁川教授は「ネットで騒がれた」と苦笑しつつ、「胎内記憶が虐待肯定だというのは、完全にフェイク」「批判したい人はしてもいいが、一般に流れる情報にフェイクを出すのはよくない」といった主張をしています。これは、前述したWezzyの記事「虐待を肯定する『胎内記憶』池川明医師が立教大シンポジウムに 大学側の見解は」に対する“反論”です。

 まず動画を視聴して驚いたのは、池川医師が「子どもがそう話している」などと繰り返していたこと。責任逃れではないと思いたいのですが……。たとえば、次のような発言がありました。

「虐待をする親を選ぶ子がいるのは間違いないんですよ、だってそう言うから」
(FOTTO TV「(6)Wezzy 記事の「虐待肯定」は、論理飛躍?」より)

 本気で言っているなら噴飯ものです。親による凄惨な虐待事件が連日報じられているこの時世に、「そう言うから」といって、虐待される環境を「選ぶ子がいるのは間違いない」と主張する必要性が、一体どこにあるのでしょう? 目黒区の結愛ちゃんも、野田市の心愛ちゃんもこれに当てはめられてしまうのなら、甚だ疑問です。

 厚生労働省によると、全国の児童相談所への虐待相談対応件数は、「一貫して増加を続け、2017年度には13万件を超えている」(2019年3月19日発表「児童虐待防止対策の抜本的強化について」より)といいます。調査や報道で明らかになる惨状だけでなく、人知れずネグレクトや性的暴行を受け、一生の傷を抱える「虐待サバイバー」もいます。また、虐待を止めることができず悔いる加害者家族、被害者の関係者もいるでしょう。池川医師がこうした状況を知った上で発言しているとは、到底思えません。

 池川医師は、虐待の問題に取り組む人たちをあざ笑うかのような発言もしています。

「どこに虐待の専門家がいるんですか? Wezzyさん紹介してよ(笑)。もし虐待を防ぐ人がいるなら、世の中から(虐待が)一掃しているはずですよ。どんどん(虐待が)増えているのはどういうことですか?」
「虐待をする親を(子どもが)選んでるのに、それを専門家に治させるなんて、ムダなんですよ。遅すぎるんです。虐待をしないように、妊娠中から関わらないと、虐待なんかなくならないんです」
「私は『(虐待の)プロじゃない』ってことですよね? 『ド素人が手を出すな』って言ってるわけですよ。じゃあ、誰がプロなんだ? プロのリスト挙げてほしいなあ。全国の、何十万という数の虐待を防ぐ人たちが、どこにいるんだろうって思うんですけどね」
(以上、FOTTO TV「(9)Wezzy 記事の「虐待肯定」論は、池川著書2ページのうち2行だけを引用している? 虐待を無くす為に本当に必要な事を考える」より)

 笑いながらおっしゃっていましたが、恥じるべきだと思います。子どもの貧困・格差問題の解消に尽くそうとしていたり、被虐待児の居場所を確保したりする自治体や各団体の努力を、池川医師が何も知らず、知ろうともしていないだけでしょう。本当に虐待をなくしたいと思う立場なのでしょうか?

 助けを求める人々を無視するかのような、「虐待をする親を選ぶ子がいるのは間違いない」「専門家に治させるなんてムダ」の放言にはあきれます。このような考え方は、助かるケースの発見を遅らせることにはならないでしょうか? 万が一、「胎内記憶」が疑いようのない事実であったとしても、池川医師に承服しがたいのは、こうした発言への疑問があるからです。

 さて、何度聞き直してもさっぱりわからないのが、「胎内記憶は虐待肯定ではない」という主張で池川医師が出した、二つのたとえです。

「山登りで死ぬ人がいるのに、『山登るなよ』って言うのが普通だとしたら、山に登る人を禁止にすればいいじゃないですか? でもみんな登るじゃないですか、許可とかもらって。あれを“遭難推進”って言うんでしょうかね?」

 「人の死につながる」という共通点から例に挙げたのでしょうが、虐待は「他人から受ける理不尽な暴力」であり、自ら進んで行う登山と並べて考えるのは、理屈が通っていません。そして、もう一つ意味のわからないたとえがこちら。

「犯罪を犯す人に、『いや~あなたたち、こんな環境だったら(犯罪をしても)しょうがないよね』って言ったら、“犯罪推進”になる。そういう理論ですよ」
(以上、FOTTO TV「(6)Wezzy 記事の「虐待肯定」は、論理飛躍?」より)

 はっきり言っておきたいのは、虐待は「しょうがない」では済まないということです。理不尽な暴力を受けている環境まで自分が「選んで生まれてきた」と捉えさせ、「しょうがない」と諦めさせるのなら、ある種の“肯定”にはなりませんか? 「虐待をする親を選ぶ子がいる」という説は、「自ら選んだのだから、暴力を受けてもしょうがない」という考えと地続きだと思うのですが。

 動画の中で、池川医師の発言にはいくつも矛盾があり、全体的に“その場しのぎ”な印象でした。「生まれた意味を知り、愛に気づけば虐待しなくなる」といった趣旨のこともおっしゃっていましたが、せっかく12本もの動画で“弁明”したのに、「胎内記憶」の有用性アピールに固執するあまり、虐待の現状や、問題の深刻さを全く理解していないことが浮き彫りになっただけでした。

 池川医師は12本目の動画にて、「『こうやってやればいいんだ』って押しつける。実はこれが虐待を増やしてるんですよ」と批判しています。こうした言葉の背景には、一般的な虐待防止対策などに対する、池川医師の不満があるのかもしれません。しかし、池川医師が「押しつけ」だと感じることがあったとしても、幼い命を救うための具体的な対策を何よりも優先するべきです。自身の“思想”を広めるのは、せめてそのあとではないでしょうか。

 むしろ、産婦人科医という立場がある池川医師の主張こそ、妄信的な信者を生んで「『胎内記憶』を信じれば虐待が止まる」と、明確な根拠がないことを押しつけそうな気がします。ネット上にはびこる、一般には受け入れがたいスピリチュアル理論。それらはまるで「善意」のように広められるため、“感染力”が強くて始末が悪いのです。

※厚生労働省は「児童虐待防止対策」の一つとして、児童虐待が疑われる子どもを発見した際や、出産や子育てに関する質問等を受け付ける専用ダイヤル「189(いちはやく)」を設けています。電話連絡は無料、匿名の相談も可能で、地域の児童相談所へつながります。また、各市町村や児童相談所には相談窓口もあります。詳細は、下記のリンクをご覧ください。

・厚生労働省「児童虐待防止対策
オレンジリボン運動