安倍昭恵夫人とスピリチュアルの深いつながり――「五輪イベント」を売り込んだ“教祖様”との蜜月関係

弱った心に入り込む、甘い言葉やラクに稼げそうな情報――。ネット上には、無責任な理論で集客しては人を食い物にするような、スピリチュアリスト、霊能者、民間資格カウンセラーなどがあふれています。彼らを信じ込んでしまえば、価値観や金銭感覚をゆがめられるのはあっという間。友人や家族を失ってからでは、もう遅い! 「スピリチュアルウォッチャー」黒猫ドラネコが、現代社会にのさばる怪しい“教祖様”を眼光鋭く分析します。

 いやはや、痛恨のうっかりです。「スピリチュアルウォッチャー」としてこのコラムをやっておりますが、ドクタードルフィンのマークを外しておりました……。

 4月16日発売の「週刊文春」(文藝春秋)にて、安倍晋三首相の妻である昭恵夫人が、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出自粛が呼びかけられている中、ドクタードルフィンこと松久正氏が主催する『神ドクター降臨 in Oita』とのツアーに合流して、大分県の宇佐神宮を50名ほどで参拝したと報じられました。私の故郷でこんなことがあるなんて、なかなかショックです。

“文春砲”を受けた松久氏の言い訳が意味不明!

 私が最初に松久氏を知ったのは、昨年11月の「龍の日」なるイベント。デューク更家氏ら出演者によるオープニングトークの舞台で、ひときわテンション高く騒いでいたのが松久氏でした。甲高い声と早口で何を言っているかよくわからなくて、出演者も会場も引いていたことを覚えています。

◎関連記事:昭恵夫人と旅行の「ドクタードルフィン」松久正氏は何者か――心屋仁之助氏ら“スピリチュアルイベント”参加の過去

 この時、私の頭の中に“要注意人物”として刻まれ、書店で松久氏の著書『死と病気は芸術だ!』(ヴォイス)などを見かけて手に取るも、これまた意味不明で、5秒で棚に戻したこともありました。言い訳にはなりますが、松久氏に対する印象といえば、全部「何を言っているのかさっぱりわからん」だったので、コラムのテーマにするのも難しかったのです。

 「UFOエネルギー」「地球人革命」といった言葉が並ぶ著書を見て、かなりスピリチュアル系な発信をしている人物だということは、容易にわかりました。当コラムでも取り上げた、“胎内記憶”の池川明医師とも懇意で、「ヘンタイドクターズ」なるグループを結成し、共著『いのちのヌード まっさらな命と真剣に向き合う医師たちのプロジェクト』(同)を出版しています。ちなみに、松久氏はヘンタイドクターズのリーダーで、「ピンクレンジャー」だそうです(何その設定?)。

 さて、今回の文春砲を受けて、ドクタードルフィンこと松久氏は、Facebookに“言い訳”を投稿しています。

「いまのウィルス騒動を収めるには、外出禁止、自粛は、微々たる効果があるだけ。人間の意識エネルギーに、ウィルスが誕生したり、反応する。外出していても、意識内容が重要。ウィルス感染することを受け入れて、敢えて、自らを進化させる人間の魂も、少なからず、存在します。これは、データで立証できない、高次元の知識です」

「いまの医者や権力者たちには救えない、多くの人間を救えるのは、私がいままでの地球にはない、高次元の医学と生き方を生み出してきたから。私でないと救えない、いまの地球社会で救われない人々が、大勢いることを知ってほしい」(以上、4月15日の投稿より)

 ……やはり、何を言っているのかわかりません。こうした松久氏の謎文章以上に驚くのは、この投稿に「心から応援します」とか、「いつの時代も先駆者は叩かれてしまいますね」といった、支持者からの“慰めコメント”がついていること。松久氏を信頼している人が、一定数いるという事実です。今この状況下で「外出自粛は微々たる効果があるだけ」と唱える人に、医学を語らせてはマズいと思うのですが、そう感じていない人が存在するのは、非常に恐ろしいことではないでしょうか。

 そんな“医師”とつるんでいるのが、昭恵夫人です。自粛うんぬんに関しては散々批判されているでしょうから、怪しいスピリチュアルにお墨付きを与えているという点で、改めて私から触れておきます。

 確認すると、松久氏のFacebookには、2019年2月20日の時点で昭恵夫人とのツーショット写真が投稿されていました(ああ、リアルタイムで見逃したのが悔しい!)。「昨夜は、内神田で、これからの日本を語り明かしました」とのことで、池川医師が写っている写真もあります。昭恵夫人、池川医師とも当然のように交流があるようで……さすがですね。そういえば、池川医師をスピリチュアル・シンポジウムに登壇させると告知して炎上したのは立教大学ですが、その大学院を11年に修了なさっている昭恵夫人。この界隈は、「引き寄せ」のごとく広く浅くつながっているのでしょう。

 私の守備範囲で言えば、昭恵夫人は17年に東京・銀座で行われたとあるパーティーで、“あの”スピリチュアリスト・happyと、その大親友で吉本興業所属の脚本家・旺季志ずか氏と対面していました。旺季氏は同年12月2日に更新したブログの中で、「久しぶりにお会いした この国の女性の象徴 ファーストレディ 安倍昭恵夫人」という文章とともに、happyを交えたスリーショットを公開。また、happyも「『天の河伝説、オリンピックイベントでやりたいです!』って安倍夫人に直接伝えれた」(原文ママ)と、旺季氏と同じタイミングでインスタグラムに投稿しています。ちなみに「天の河伝説」とは、旺季氏が脚本、happyが制作・主演を務めるミュージカルのこと。これを「オリンピックイベントでやりたい」と、堂々と申し出たわけです。

 旺季氏は18年7月14日に自身のFacebookで「ミュージカル『天の河伝説』がオリンピック関連イベントとしてパリ公演をしないかと推薦されたことがあって」と投稿しています。なんとまあ……(絶句)。もしもこの公演が実現していたら、happyらが嬉々としてSNSで騒いでいるはずなので、今のところ実現に向かっていないのでしょう。でもこれって、時系列を追って考えると、happyが銀座のパーティーで直談判した「オリンピックイベント」のこと? まさか……五輪と1ミリも関連性がなく、知名度が高いわけでもないメンツを、誰がどこで知って、どのように推薦したのでしょうか? 昭恵さん! 何か知っていたら教えてください!!

 18年3月に長崎県壱岐市の観光大使に就任したhappyですが、同年2月に行われた『天の河伝説』壱岐公演を、昭恵夫人がわざわざ観劇しに来たことは、市内でも話題になったようです。当コラムでも、2人の関係性が大使任命につながったのではないかと触れました。

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 ただその後、happyのメッキの剥がれようは、このコラムを読んでいただいている方ならご存じかと思います。大規模スピリチュアルイベント『縄文祭』を18年10月に開催し、壱岐市内の公園を荒らしたことなどが市議会で問題になって、観光大使を解嘱。それなのに、happyは現在までなんの謝罪も言及もせずに、SNSをすべて消してバックレました。

 しかし、結局happyはSNSを復活させ、認証と顔写真が必要な“非公開グループ”を主宰しているようです。最近では、このグループの参加者に3000万円を分配すると、自身のブログにつづっていました。「私を投資家にさせてください」とか言ってましたが、ただの信者集めでしょうね。 スピリチュアル的なことを細々とやっているようですが、まさか、昭恵夫人は参加しないですよね……? いや、いつ何があるかわからないので、注視しておこうと思います。

“教祖様”にお墨付きを与える昭恵夫人

 どのような立場であろうと、スピリチュアルそのものを好きになったり、頼ったりすることはあるでしょう。でも、そんな純粋さを、“スピ教祖様”は利用します。ツーショット写真とともに「首相夫人がいらっしゃいました!」「イベント開催を直訴しました!」と投稿すれば、たちまち教祖様の求心力も上がり、新たな信者獲得につながってしまうかもしれないのです。昨年、吉本興業所属の芸人さんたちが、反社会的組織の面々と写真を撮って大問題になっていましたが、これと似たものを感じます。昭恵夫人にとって、スピリチュアルは趣味の一環であっても、写真一枚、発言一つで教祖様の“ビジネス”に加担し、太鼓判を押してしまっているのです。

 今回の「文春」報道でもわかりますが、世間はこうした怪しいスピリチュアルに対して、かなりの拒絶反応を示し、厳しい意見を浴びせています。昭恵夫人の威光を欲して彼女に近づいた教祖様は、いつ自分が槍玉に挙げられるかわかりませんから、今のうちに、ドクタードルフィンのようなスピっぽい言い訳を考えておいたほうがいいかもしれませんね。

昭恵夫人と旅行の「ドクタードルフィン」松久正氏は何者か――心屋仁之助氏ら“スピリチュアルイベント”参加の過去

 4月16日発売の 「週刊文春」(文藝春秋)にて、安倍晋三首相の妻である昭恵夫人が、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、約50人の団体とともに大分県へ旅行していたと報じられ、波紋が広がっている。

 記事によると、昭恵夫人は3月15日に大分県宇佐市の宇佐神宮を訪れたそうで、これは医師の松久正氏が主催する「神ドクター降臨 in Oita」というツアーの一環だったとのこと。“ドクタードルフィン”を自称する松久氏は、自身の公式サイトで「薬や手術というものを一切使わず、自分自身で人生や身体の問題を修復する力を最大限に発揮させる『超次元・超時空間松果体覚醒医学』を提唱」と、治療方針を示している。

 この報道を受け、ネット上では「コロナ流行の中で旅行にいくのもヤバいけど、ドクタードルフィンがさらに謎」「ドクタードルフィンって本当に医者? スピリチュアル系の人かな?」「ドクタードルフィン、怪しすぎるだろ! こんな人と旅行って、昭恵夫人は大丈夫?」など、松久氏の存在に衝撃を受ける声が続出中だ。

 “謎の存在”として注目を集めている松久氏だが、サイゾーウーマンでは昨年11月、都内で開催された『龍の日』なるイベントにて、松久氏の姿を捉えている。心理カウンセラー・心屋仁之助氏、「龍使い」を名乗るSHINGO氏といった、“スピリチュアル界隈”で名を馳せる人物が出演したこのイベントについてつづった、スピリチュアルウォッチャー・黒猫ドラネコ氏のコラムを、いま一度掲載する。松久氏は一体どのような人物と関わりがあるのか、ぜひ確かめていただきたい。

(編集部)


(初出:2019年11月8日)

心屋仁之助氏・デューク更家氏も出演――スピリチュアルイベント『龍の日』で目撃した一部始終

 先月、台風や豪雨が全国各地で猛威を振るいました。被害に遭われた方々に、心からお見舞い申し上げます。私が観察している“怪しいスピリチュアル”界隈には、台風が来ると「白龍が来た」などと騒ぐ連中がいます。どうやらここ最近、彼らのトレンドは「龍」のようなのです。

 昔から界隈で人気のあるモチーフではありますが、最近は特によく目につきます。その発端とまでは言い切れませんが、ブームを過熱させたのはおそらく、“ウォーキング健康法”で一世を風靡した、デューク更家氏でしょう。

 昨年11月には、『お金持ちになれたのは龍のおかげ』(宝島社)という著書を出版。“スピ好きカミングアウト”ともいえるこの一冊には、良くも悪くも注目が集まりました。アマゾンの内容紹介によると、デューク氏は「幼いころから『龍』と交信をしていました」とのこと。この本を読めば、「龍を自分の中に呼び込んで、人生が激変」する方法がわかるようです。神秘的な(胡散臭い)魅力と、天災が多かったことの畏れが相まって、この1年でじわじわと「龍」を持ち出す人が増えたと思われます。

 そんなデューク氏は、今月11月3日に東京・銀座の時事通信ホールで行われた『龍の日』なるイベントに出演。フライヤ―を見ると、「龍に興味がある人 龍の運気にあやかりたい人 名前に龍が付く人 龍の地名に住んでいる人 とにかく龍好き!! THE・ハッピーエンターテイメント 2020年に向けてパワーアップ1Day!」と書かれていますが、一体何の目的で開かれたイベントなのかは不明。その他、スピ界隈から絶大な支持を受ける、心理カウンセラー・心屋仁之助氏や、お笑い芸人・楽しんご氏、アニメソング歌手の高橋洋樹氏ら、多種多様なゲストが登場するとの告知も。私としても無視するわけにはいかず(?)、少しだけ会場に潜入してきました。

 このイベントは、ゲストのトークショーが行われるステージと、物販ブース等がある展示会場に分かれており、展示会場は無料で出入り可能。トークショーは登壇者ごとにチケットを購入する必要があり、全ステージを前方の席(プレミアムシート)で見る場合、ちょうど5万円になる計算です。

物販ブースの様子。一見“普通の”イベントでした。 私は午前中のメインステージへ潜入し、デューク氏と心屋氏の“初対談”を見てきました。そこで語られた話によると、デューク氏の奥様が心屋氏の大ファンらしく、お互いに存在を認識していたようです。心屋氏に龍は見えないとのことでしたが、一方で「8歳の頃から見える」と話すデューク氏。さらに、ふくよかなおなかを指さして「ここにも龍がいる。触った人は運気が上がる」と、軽快なトークを展開します。小鳥のような龍の鳴き声、得意な歌謡曲の一節などを披露し、デューク氏は200人以上集まった聴衆を喜ばせていました。

 本当にデューク氏に龍が見えているのか……私には否定も肯定もできませんが、過度にビジネスへ絡めることなく、イベントでの“話術”として使えば、スピ好きな人を大いに楽しませてくれるでしょう。降壇後、彼をロビーで見かけましたが、ファンから握手や撮影を求められても気さくに応じ、残りのステージを見るため椅子を勧めるスタッフに「お客さんの邪魔になるから、後ろのほうで立って見るよ」と優しく告げるなど、いい意味で、そのへんの“教祖様”と風格の違いを感じました。

“ドクタードルフィン”松久正氏、心屋氏らとステージに登場!

 さて、ここからが本題です。今回のイベントで私が最も注目したのは、SHINGO氏という男性。なんと肩書は「龍使い」です。SHINGO氏は、14年間勤めた上場企業を過労とストレスにより退社し、高野山奥で「龍神」と出会い、それをきっかけに「龍が視える」ようになったそう。『龍の日』公式サイトのプロフィールを見ると、「最近は自身が『龍』であったことに目覚め、ますます高次元のエネルギー体との共同創造に拍車がかかる」と書かれており、「現在はセミナーや個人セッションを中心に龍のエネルギーを活かして、本来の自分を生きる『真の龍遣い(ドラゴンマスター)』の育成に力を入れている」(すべて原文ママ)と、彼の“活動”も紹介されています。

 いやはや、「龍が視える」という設定まではまだ、スピ好きが食いつくフレーズとしてグッと笑いをこらえられますが、「最近は自身が『龍』であったことに目覚め」「エネルギー体との共同創造に拍車がかかる」というあたりは、さすがにツッコミを禁じ得ません。「最近、運動不足だからジム通い始めてさ~」的なノリで大真面目にこれを言えるのですから、感動すら覚えます。

 ちなみにこの人も、怪しいスピリチュアル界隈御用達の“Ameba公式ブロガー”。ブログ更新を知らせてくれるLINEに登録したところ、「龍と仲良くなれる」方法として、「龍の置物を飾る」「龍に感謝する」といった、誰でも言えそうなメッセージが届いて笑いました。

 SHINGO氏は「龍の魔法学校」なるセミナーを開催しており、彼のブログを見ると、「魔法学校の生徒」と輪になって手をつないだり、魔法使いのような衣装を着て生徒の頭に手をかざしたりと、非常に“それっぽい”ことをやっています。なお、今年1月に名古屋で開催された「龍の魔法学校2019」は、午前10時~午後5時の受講で、参加費10万円(税込)。SHINGOさんのブログによると、「さまざまなスピリチュアル能力を1日にして得ることができます」とのことなので、安いと感じる人も、もしかしたらいるかもしれません。

 実はSHINGOさん、「前世が卑弥呼」だという天宮玲桜(あまみやれいか)と、長崎県壱岐市の観光大使を1年足らずで解任されたスピリチュアリスト・happyの“付き人”だった過去があります。この手の人たちって、広~く浅~く繋がるんですよね。2017年1月13日、SHINGO氏は「つきびと終了しました」というタイトルのブログを更新していました。そこには、「3か月弱という短い間で 僕のお金・時間・人間関係すべての価値観が まったく変わってしまった。こんな変化、自分でも想像していませんでした。人生はこんなにも突然変わるということ そして、『世界は自分で創る』って ホントだった、ということを 間近で見せてもらいました」などとつづられており、2人に強く“感化”された様子が伝わります。

 付き人を辞めて約半年後の17年7月、SHINGO氏は「スピリチュアル好きのための龍神サロン」なるコミュニティを立ち上げ、本格的に“教祖様”への道へと進みます。一般的な認知度はほぼゼロ、たった2年の“教祖歴”で『龍の日』のメイン扱いされるとは、さぞ素晴らしい力をお持ちか、世渡り上手のどちらかでしょう。

キャッチーなことが言えれば“教祖様”になれる

 改めて言うのもなんですが、「龍」は空想上の生き物です。夢のある言い方をすれば、似たような生き物なら、どこかにいるのかもしれません(SHINGO氏は視たって言ってるし)。こうした“空想上の存在”というのは、「大きなエネルギー」といった曖昧なニュアンスに変換され、都合よく利用されがち。子宮委員長はる(現・八木さや)が「“子宮の声”に従って生きる」などと唱え、局地的に大流行した「子宮系スピリチュアル」と「龍のエネルギー」は、似たようなものだと言えるでしょう。

 別にこれは、「子宮」や「龍」ではなくても、「宇宙人」「ペガサス」「人魚」などなんでもよくて、まだ見ぬ不思議なもの、だけどイメージしやすいものから「力を与えられた」とでも言えば、なんでも“スピっぽく”なってしまいます。こういったモチーフを持ち出せば、特別な力を持っていなくても、誰だって人を導く“ふり”ができる。ネット上での自己発信が達者で、キャッチーなイメージを作り上げた“だけ”の人たちが、実にならないセミナーを開き、高額な商材を購入させているのかもしれません。

 たとえすべてがウソだとしても、“教祖様”にお金を出す人が集まってしまうスピ界隈。人からお金を巻き上げるなら、最初から「龍とか子宮とか宇宙とか不思議で面白いことを言うので、お金を恵んでください!」と素直に言う教祖様のほうが、まだマシだと思いますけどね。

「胎内記憶」池川明医師は、虐待の専門家をあざ笑う――「頼ってもムダ」発言の恥ずかしさ

 弱った心に入り込む、甘い言葉やラクに稼げそうな情報――。ネット上には、無責任な理論で集客しては人を食い物にする、スピリチュアリスト、霊能者、民間資格カウンセラーなどがあふれています。「この人たちのようになれるかも」と彼らを信じ込んでしまえば、価値観や金銭感覚をゆがめられるのはあっという間。友人や家族を失ってからでは、もう遅い! 「スピリチュアルウォッチャー」黒猫ドラネコが、現代社会にのさばる怪しい“教祖様”を眼光鋭く分析します。

 新型コロナウイルスの騒動で、落ち着かない日々。引き続き、手洗いうがいなどの対策をしっかりとしたいものです。そういえば、「胎内記憶」の第一人者である産婦人科医・池川明氏は、自身のFacebookで「ベビーイオン 結構売れてます! コロナウィルス、インフルエンザウィルス、花粉症対策などに使えます」と、24万円(税別)の「イオン発生器」の宣伝をしておられました。自粛ばかりではなく、経済活動も大事ですもんね。この機械がどうというわけではなく、便乗商法やデマにはくれぐれも注意したいものですねえ。

 さて、そんな池川医師、どうやら「胎内記憶」が間違った解釈をされていると、お怒りのようです。

 昨年、立教大学で行われた「霊性(スピリチュアリティ)と現代社会」なる公開シンポジウムに、池川医師が「登壇予定」と告知され、ネット上で物議を醸しました。“あの”池川医師が招かれたということで、私も「マジか立教大学」とツイートしたところ、拡散されて「これはヤバい」「自分の子どもがこんな講演聞いてきたら泣きたい」といった、批判的な反響がありました。

 この騒動がWebサイト「Wezzy」をはじめ、いくつかの媒体に取り上げられたこともあってか、のちに立教大は「講師のご都合」として、池川医師の登壇取りやめを発表。こうしたひと悶着がありながら、昨年12月8日、池川医師抜きでシンポジウムは開催。「在日宇宙人」「宇宙人ドクターズ(の一人)」「天の声を聴く詩人」「和太鼓響沁浴演奏者」といった人々が登壇したようで、池川医師がいなくても、十分カオスな状況だったようです(これについては、キリがないのでツッコみません)。

「虐待する親を選ぶ」と主張する意味はあるのか?

 以前、当コラムでもテーマにしましたが、「胎内記憶」とは、子どもたちが語る「母親のおなかの中や、前世にいた時の記憶」のことを指すそうです。池川医師によれば、6歳までの子ども3,500人にアンケートを取ったところ、その中の約3割が「生まれる前の記憶」を語ったといいます。この結果だけならいいのですが、池川医師はこれを「胎内記憶」として、「子どもは親を選んで生まれてくる」「虐待をする親を選ぶ子どもがいる」など、「不幸や不遇も自分で決めた」と取れるむちゃな理論を広めていると感じます。私はこの“思想”を、以前から問題視し続けています。

 1月29日から2月8日にかけて、池川医師は立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科の濁川孝志教授との対談動画を12本もYouTubeに公開しました。ここで池川医師と濁川教授は「ネットで騒がれた」と苦笑しつつ、「胎内記憶が虐待肯定だというのは、完全にフェイク」「批判したい人はしてもいいが、一般に流れる情報にフェイクを出すのはよくない」といった主張をしています。これは、前述したWezzyの記事「虐待を肯定する『胎内記憶』池川明医師が立教大シンポジウムに 大学側の見解は」に対する“反論”です。

 まず動画を視聴して驚いたのは、池川医師が「子どもがそう話している」などと繰り返していたこと。責任逃れではないと思いたいのですが……。たとえば、次のような発言がありました。

「虐待をする親を選ぶ子がいるのは間違いないんですよ、だってそう言うから」
(FOTTO TV「(6)Wezzy 記事の「虐待肯定」は、論理飛躍?」より)

 本気で言っているなら噴飯ものです。親による凄惨な虐待事件が連日報じられているこの時世に、「そう言うから」といって、虐待される環境を「選ぶ子がいるのは間違いない」と主張する必要性が、一体どこにあるのでしょう? 目黒区の結愛ちゃんも、野田市の心愛ちゃんもこれに当てはめられてしまうのなら、甚だ疑問です。

 厚生労働省によると、全国の児童相談所への虐待相談対応件数は、「一貫して増加を続け、2017年度には13万件を超えている」(2019年3月19日発表「児童虐待防止対策の抜本的強化について」より)といいます。調査や報道で明らかになる惨状だけでなく、人知れずネグレクトや性的暴行を受け、一生の傷を抱える「虐待サバイバー」もいます。また、虐待を止めることができず悔いる加害者家族、被害者の関係者もいるでしょう。池川医師がこうした状況を知った上で発言しているとは、到底思えません。

 池川医師は、虐待の問題に取り組む人たちをあざ笑うかのような発言もしています。

「どこに虐待の専門家がいるんですか? Wezzyさん紹介してよ(笑)。もし虐待を防ぐ人がいるなら、世の中から(虐待が)一掃しているはずですよ。どんどん(虐待が)増えているのはどういうことですか?」
「虐待をする親を(子どもが)選んでるのに、それを専門家に治させるなんて、ムダなんですよ。遅すぎるんです。虐待をしないように、妊娠中から関わらないと、虐待なんかなくならないんです」
「私は『(虐待の)プロじゃない』ってことですよね? 『ド素人が手を出すな』って言ってるわけですよ。じゃあ、誰がプロなんだ? プロのリスト挙げてほしいなあ。全国の、何十万という数の虐待を防ぐ人たちが、どこにいるんだろうって思うんですけどね」
(以上、FOTTO TV「(9)Wezzy 記事の「虐待肯定」論は、池川著書2ページのうち2行だけを引用している? 虐待を無くす為に本当に必要な事を考える」より)

 笑いながらおっしゃっていましたが、恥じるべきだと思います。子どもの貧困・格差問題の解消に尽くそうとしていたり、被虐待児の居場所を確保したりする自治体や各団体の努力を、池川医師が何も知らず、知ろうともしていないだけでしょう。本当に虐待をなくしたいと思う立場なのでしょうか?

 助けを求める人々を無視するかのような、「虐待をする親を選ぶ子がいるのは間違いない」「専門家に治させるなんてムダ」の放言にはあきれます。このような考え方は、助かるケースの発見を遅らせることにはならないでしょうか? 万が一、「胎内記憶」が疑いようのない事実であったとしても、池川医師に承服しがたいのは、こうした発言への疑問があるからです。

 さて、何度聞き直してもさっぱりわからないのが、「胎内記憶は虐待肯定ではない」という主張で池川医師が出した、二つのたとえです。

「山登りで死ぬ人がいるのに、『山登るなよ』って言うのが普通だとしたら、山に登る人を禁止にすればいいじゃないですか? でもみんな登るじゃないですか、許可とかもらって。あれを“遭難推進”って言うんでしょうかね?」

 「人の死につながる」という共通点から例に挙げたのでしょうが、虐待は「他人から受ける理不尽な暴力」であり、自ら進んで行う登山と並べて考えるのは、理屈が通っていません。そして、もう一つ意味のわからないたとえがこちら。

「犯罪を犯す人に、『いや~あなたたち、こんな環境だったら(犯罪をしても)しょうがないよね』って言ったら、“犯罪推進”になる。そういう理論ですよ」
(以上、FOTTO TV「(6)Wezzy 記事の「虐待肯定」は、論理飛躍?」より)

 はっきり言っておきたいのは、虐待は「しょうがない」では済まないということです。理不尽な暴力を受けている環境まで自分が「選んで生まれてきた」と捉えさせ、「しょうがない」と諦めさせるのなら、ある種の“肯定”にはなりませんか? 「虐待をする親を選ぶ子がいる」という説は、「自ら選んだのだから、暴力を受けてもしょうがない」という考えと地続きだと思うのですが。

 動画の中で、池川医師の発言にはいくつも矛盾があり、全体的に“その場しのぎ”な印象でした。「生まれた意味を知り、愛に気づけば虐待しなくなる」といった趣旨のこともおっしゃっていましたが、せっかく12本もの動画で“弁明”したのに、「胎内記憶」の有用性アピールに固執するあまり、虐待の現状や、問題の深刻さを全く理解していないことが浮き彫りになっただけでした。

 池川医師は12本目の動画にて、「『こうやってやればいいんだ』って押しつける。実はこれが虐待を増やしてるんですよ」と批判しています。こうした言葉の背景には、一般的な虐待防止対策などに対する、池川医師の不満があるのかもしれません。しかし、池川医師が「押しつけ」だと感じることがあったとしても、幼い命を救うための具体的な対策を何よりも優先するべきです。自身の“思想”を広めるのは、せめてそのあとではないでしょうか。

 むしろ、産婦人科医という立場がある池川医師の主張こそ、妄信的な信者を生んで「『胎内記憶』を信じれば虐待が止まる」と、明確な根拠がないことを押しつけそうな気がします。ネット上にはびこる、一般には受け入れがたいスピリチュアル理論。それらはまるで「善意」のように広められるため、“感染力”が強くて始末が悪いのです。

※厚生労働省は「児童虐待防止対策」の一つとして、児童虐待が疑われる子どもを発見した際や、出産や子育てに関する質問等を受け付ける専用ダイヤル「189(いちはやく)」を設けています。電話連絡は無料、匿名の相談も可能で、地域の児童相談所へつながります。また、各市町村や児童相談所には相談窓口もあります。詳細は、下記のリンクをご覧ください。

・厚生労働省「児童虐待防止対策
オレンジリボン運動