日曜劇場『ブラックペアン』(TBS系)最終話の視聴率は18.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と過去最高を記録。全話平均も14.3%となり、今期ドラマではトップだそうです。7話目までは13%前後でしたが、ラスト3話で急上昇。有終の美を飾りました。
前回のレビューで「ラスト3話だけ見とけば大丈夫だったんじゃ?」と書きましたが、はてさてホントにそうだったのでしょうか。最終話を中心に振り返ります。
(前回までのレビューはこちらから)
■面白かったー!
今回は、いよいよ表題でもある『ブラックペアン』のお話。端的に言って、面白かったです。最終回、たいへん楽しめました。
初回からたびたび登場していた、体内にペアンが残されたX線写真の謎。この謎が、ほぼ今回だけですべて紐解かれました。主人公の天才外科医・渡海征司郎(二宮和也)が上司の佐伯教授(内野聖陽)に抱いていた誤解と逆恨みも、スッキリ解消。その天才的な手技で佐伯教授の命を救うクライマックスも、たいへん盛り上がりました。
ガジェットとしての「ブラックペアン」の処理も、比較的忠実に原作を再現していました。まだネット上の公式で無料で見られますし、最終回だけ見てもストーリーはおおよそ理解できると思いますので、興味があればチェックしてみてください。よくできたお話です。
佐伯教授は、ブラックペアンが“医者が不完全である”ことの象徴だと言います。「医者は腕こそがすべて」だと言い続けてきた東城大佐伯外科チームのボスが、「腕だけでは治せない患者」のために用意していたのが、ブラックペアンでした。
最終回にきて、初めて手術に失敗した渡海。患者の命を救うと同時に、ブラックペアンは医師としての渡海を救うことにもなりました。
■二宮和也が“悪魔”だった効果
序盤から、このレビューではニノの愛嬌について「このドラマの長所」と書いてきました。“オペ室の悪魔”と呼ばれる孤高の天才外科医、どうにも低身長で猫背で童顔なニノには似合わない設定ですが、このニノの可愛げこそが作品を救っていると。
最初のころにそう書いていたのは「渡海って、なんか暗くてジメジメしたキャラだし、手術に関しては超天才完璧超人すぎるから、顔とか立ち姿はキュートなほうがバランスが取れて、ちょうどいいよね」くらいの感じでしたが、最終回まできて、渡海が可愛いこともドラマにきっちり作用しました。
渡海は最終盤になって「誤解に基づく恩讐に囚われて、師匠の命を危険にさらす」という、かなりヤバ目なところまで落ちてしまいます。佐伯教授はペアンを体内に残しましたが、渡海は病魔に倒れた佐伯教授の体内に、取れるはずの大動脈解離を残し、「いつ死んでもおかしくない」状態に置きながら脅迫するのです。
そこから渡海はブラックペアンによる救いを得て回復していくわけですが、この医療従事者にあるまじき暴挙を犯した孤高の闇医者が、ニノのツルツルな童顔のおかげで「天才だが未成熟な人物」として浮き上がってくる効果がありました。絶対に手術を失敗しない外科医が(つまりは医療そのものが)“未成熟である”もしくは“完璧ではない”ことはブラックペアンをめぐるドラマそのものの主題となっていますし、だからこそこの作品の結末は、未来を感じさせるものとなりました。
顔の見えない原作だと「その後、杳として行方がしれない」渡海に“終わった感”が漂っていたものですが、ニノなんか、まだまだガキンチョっぽいので、これからもっといい医者になりそうだなーと思えたのです。これは、原作以上に気持ちのいい余韻になりました。
■でもやっぱり、4話でよかった。
というより、『ブラックペアン』は物語が4話分しかなかった、というのが今クール全体を通した印象です。1~6話はほとんど同じストーリーのループで、1話にまとめても差し支えありません。無理やり引き延ばしたせいで人物描写はブレにブレたし、高階講師(小泉孝太郎)と研修医・世良(竹内涼真)のような登場シーンの多いキャラクターほど、どこをどう飛んでどう着地したのか、その軌跡が見えにくくなってしまいました。前話で片づけたはずの問題が、1週間たったら解決していないことになっているケースも多く、2人とも芝居がよかっただけに、残念だった部分です。
一方で、物語の進行にあまり関係のない、単なるキャラクターとして大いに光ったのがオペナース・猫田(趣里)でした。「渡海を支える」という役回りだけなのでキャラが立ちやすかった上、シナリオの進行によって人格がブレることがなく、終始、愛せる人物として画面の中で存在感を放ち続けることができました。同様の理由で、趣里ちゃんほどじゃないにしろ、キャラクターの良さを発揮したのが関川医師(今野浩喜)だったことも記しておきます。演出部が関川のキャラを気に入って便利に使っていることが、ありありと伝わってきました。
いろいろ話題を振りまいたカトパンこと加藤綾子の治験コーディネーター役も、まずもって業界関係者からのクレームはカトパンの責任ゼロですし、お芝居も悪くなかったと思います。感情を豊かに表現した、というわけではないですが、感情を出さないクールな人物として成立していた、ドラマの邪魔になっていなかったと思います。あと、これも何度も書いていますが、顔面の美しさと年齢の感じが絶妙にハマってたと思う。いろんな偉い男性との食事シーンが何度もありますが、そのすべてで「食後のセックス」を連想させました。単なるお色気フェロモンとはまた違う、リアルなエロさというか、これは今後、カトパンが女優業を本格的にやるなら武器になると感じます。
■続編希望続々! だそうですが……。
実際、面白かったし、最終回を前に視聴率爆上げ、しかも渡海は死んでませんので、ネット上では続編を期待する声が続々と上がっているそうです。
でも正直、厳しいかなーと思います。
原作者・海堂尊さんの一連のシリーズでは、数多くの作品が繰り返し映像化されていますが、田口公平が複数作品を横断して登場する『チームバチスタの栄光』シリーズとは違い、渡海が出てくるのはこの『ブラックペアン』だけです。
また同作は、基本的に「ブラックペアンって、なんなの?」という疑問への答えが、ミステリーとしての仕掛けの帰着と、物語が抱いている思想の帰着の両方を担っています。いわば一本道なので、この先がありません。ならばドラマスタッフがオリジナルでシナリオを作ればいいということにもなりそうですが、1冊の小説から実質4話分しかドラマを抽出できなかった「渡海が主人公の『ブラックペアン』」を新たに12話分作るのは難儀でしょうし、実現したとしても今回の1~6話のような「水戸黄門スタイル」のループドラマにしかなり得ないと思います。
海堂さんの小説の特色は、本職の医者が、実際の現場で抱いた医療の問題をエンタメに昇華していることにあります。作家が頭で考えたロジックではなく、現場のプロがその身をもって「やべえ」と感じていることを「どう世の中に伝えるか」というスタンスが少なからず入っているため、そのメッセージが実存的であり、強烈なのです。「プロの医者じゃなきゃ書けない小説」だからこそ売れたのであって、その続編を作る可能性があるとしたら、やっぱり海堂さん自身がまず『ブラックペアン2』を書くしかないよなぁと思います。
どちらかというと、ニノが今後、渡海っぽいキャラを演じることのほうに期待したいです。そして、40歳50歳になって、内野聖陽くらい顔面にシワが刻まれたとき、どんな俳優になっているのか。そっちのほうが楽しみですねー。
ではでは、今回はそんなところで。
(文=どらまっ子AKIちゃん)