日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏の弁護団が9日、記者会見を行い、ゴーン氏自身が無罪を主張する動画を公開した。
金融商品取引法違反や会社法違反(特別背任)で起訴されたゴーン氏は、3月6日に東京拘置所から保釈。4月3日にTwitterアカウント(@carlosghosn)を開設し、「11日に記者会見を行う」旨ツイートしていたが、翌4日、会社法違反(特別背任)容疑で東京地検特捜部に再逮捕された。
逮捕前に収録したという約7分半にわたる動画では、無実を主張するとともに、自らにかけられた嫌疑について真っ向から反論しているが、果たして真相は語られたのか?
日本国内に数人しかいないとされる認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーのひとりで、微表情研究家の清水建二氏に、会見中のゴーン氏の心理状態について推測してもらった。
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こんにちは。微表情研究家の清水建二です。今回は、4月9日に公開されたカルロス・ゴーン氏のスピーチを表情分析の観点から解説します。
分析に用いた動画は、こちら(https://www.youtube.com/watch?v=21kCyZKyYB8)です。
今回の分析の特徴は、次の通りです。全体的にゴーン氏の言動は一致しており、自身の気持ちをストレートに語っていると考えられます。しかし、言動が一致していない箇所が1点だけあります。それは、「嫌疑に基づいて私に対してなされている非難についても、また事実無根です」の中の「非難(accusation)」というネガティブな文言に対し、幸福の微表情というポジティブな感情発現が見られる箇所です。
では、具体的に解説していきましょう。
日本と日産に対する愛情と、「陰謀」を強く主張
全体的にゴーン氏のメッセージは言動が一致しています。これは、伝えたいメッセージがストレートに伝えられているということです。端的に言えば、本心を伝えようとしていると考えられます。
動画でゴーン氏が伝えているメッセージは3つです。(1)無実の訴え、(2)日本と日産に対する愛情、(3)「陰謀」の訴えです。(1)に比べ、(2)と(3)を話しているときのほうが表情筋が強く、さまざまな感情が込められています。表情筋が強いというのは、感情が強いということを意味します。感情は、伝えられているメッセージに伴いながら、豊かな表情として表れています。つまり、無実の訴えに比べ、日本と日産に対する愛情と「陰謀」の訴えのメッセージのほうが、伝えたい思いが強いということが推定されます。
このように全体的に言動が一致し、感情の起伏がメッセージごとに異なりつつも、そこに込められた思いがストレートに伝えられています。しかし、1点だけ言動が一致していない箇所があります。
それは、動画の38秒において「非難」というネガティブな文言に対し、幸福の微表情というポジティブな感情発現が見られる箇所です。典型的な幸福感情は「頬が引き上げられる」+「口角が引き上げられる」という動きによって生じます。微表情とは、抑制された感情が、0.2~0.5秒の間にわずかな表情筋の動きを伴って顔に生じる現象です。
動画38秒前後のメッセージとして、ゴーン氏は「そして、それらの嫌疑に基づいて私に対してなされている非難についてもまた事実無根です」と語っています。原則的に言葉の前、あるいはほぼ同時に生じる感情が、その後の言葉の重みを決めます。つまり、「非難」という一般的にはネガティブな言葉に幸福というポジティブな感情の重み付けがなされていると考えられます。ただ、メッセージ全体に、このポジティブ感情が及んでいる可能性もあります。
表情分析からは、人の心の中を見抜くことはできません。したがって、なぜゴーン氏がネガティブな文言・メッセージにポジティブな感情を見せたのか、さらにそれがなぜ抑制されたのかはわかりません。
ウソのサインのひとつに、「だます喜び」というものがあります。子どもがイタズラをして、「○○ちゃんがやったの?」と聞くと、「僕、やってないよ」と言いながら、ニコッとする場面を見たことがありませんか? これが「だます喜び」という現象です。大人がこの行為を行う場合、大人は表情コントロールがうまくなるので巧みに行えます。生じるとしても、微表情として「だます喜び」がわずかに思れる程度です。
しかし、ここでゴーン氏の幸福の微表情を「だます喜び」であると判断するのは早計です。「だます喜び」は、ウソだとわかった後に、そうラベル付けされるものなので、事前にその可能性が頭をよぎることがあっても、決めてかかってはいけません。ただ単に自分に向けられた「非難」に苦笑したものの、そのバカバカしさを面に出すことをためらっただけかもしれません。
仮に私が捜査官側ならば、今回の表情分析からゴーン氏の感情抑制のクセを幸福の微表情であると仮定し、取り調べ中に生じるその抑制のパターンを精査し、真実を明らかにするヒントとして活用するでしょう。
●しみず・けんじ
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけに、ウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ『科捜研の女 シーズン16』(テレビ朝日系)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。現在、ハーバービジネスオンライン、月刊「健」にて連載を持つ。