NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月20日の放送は「ここがわたしの居場所~海を渡った熱血教師と教え子の涙~」。中国で一番有名な日本語教師、中村紀子と、彼女のスタッフの成長について。
あらすじ
中国で一番人気のある日本語教師・中村紀子。ネット配信を活用した授業で教え子の総数は22万人を超える。授業のわかりやすさだけでなく、人情味あふれる人生相談も人気で、日本でのオフ会にも多くの生徒たちがやってくる。中村は幼少期から教員を目指していたが教員採用試験に受からず、塾講師を経て日本語教師となり中国に渡った。中村の語学学校のスタッフで、唯一大学で日本語を専攻しなかった周紫娟(愛称ルンルン)は他スタッフと比べ自分の語学能力が劣ることや、日本語を教える仕事を家族が反対していることで思い悩むも、SNSにルンルンが投稿した仕事ぶりを見て家族との関係も改善。日本語能力試験のN2級も高得点で合格する。
語学はネットでググっても習得できない
日本語能力試験は、N1~N5のクラスに分かれている。ルンルンが合格したN2は、難易度が上から2番目で、その問題は、日本語能力試験のホームページにある問題例からも見ることができる。その中から一つを紹介したい。
( )に入れるのに最もよいものを1~4から一つ選びなさい
■あの映画の最後は( )場面として知られている。
1.名
2.高
3.良
4.真
ルンルンの日本語は、書き言葉はちょっとおぼつかないところがあるが、話し言葉は十分伝わるレベルではある。「日本語で話すのがすごく怖い。ミスが怖くて。日本語能力がもっとアップしなければならない」「(自分の語学能力は全然)変わんない」とこぼしていたが、それを聞いていた中村と他スタッフは「変わんない」という日本語は難しくて、それが言えるだけすごいのだ、と慰めていた。どうやらこれは「撥音(ん)」の問題で、「ん」は、外国人にしたら聞き取りがとても難しいようなのだ。
ただ、そんなルンルンも中村に言われた「ちょっと待ってね」を「少しの間待っていてね」ではなく、「そこで動かないで待っていてね」と勘違いして中村やスタッフを困らせてしまうなど、ネイティブの人間なら小学生でも理解できることでつまずいてしまう。それが外国語だ。
外国語の習得、特に思春期以降の外国語の習得は長期の地道な努力と、冷や汗をかきつつ実践し恥をかき、それでもあきらめないひたむきさが必要だ。なので、ルンルンや、中村の語学教室で働くスタッフなど、母国語以外の言語を習得した人たちを尊敬している。
自身の語学力の足りなさを嘆くルンルンに、中村は周りの18歳から日本語学科で学んだスタッフとは学んだ量が違うのだから、これからなんとかなると励ます。ネットが普及し、ググればすぐ手頃な答えがあると勘違いしがちな現代社会においても、語学の学習は「結局ものをいうのは地道な取り組みであり、“量”なのだ」という大切なことを教えてくれる。
一方で、ルンルンの日本語はもうすでに「おおむねオーケー」ではないのか、とも思う。もちろん、ルンルンは日本語教室で働く以上、さらなる高みを目指す必要があるだろう。しかし「語学で食べていく」、もしくは「その地で正社員としてバリバリ働く」のでなければ、このくらいしゃべれればもういいのではないかとも思う。
というのも、私自身昨年フィリピンに英語の語学留学に行き、それ自体はとてもいい経験だったのだが、英語の「前置詞」「冠詞(a/the)」「複数形」「時制」につくづくうんざりさせられたからだ。これらは日本語ではなじみの薄い概念で、外国人にとっての「ん」のようなものだ。前置詞をこなせば冠詞を忘れる、というように、この4つがすべてきれいに着地できずいつも添削されていた。
旅行者の会話やSNSのつぶやきレベルなら、見逃してやってくれやしないかと思う。多くの大人が外国語習得で挫折するのは、大人になったのに、箸の上げ下ろしのようなことまであれこれ言われるツラさに耐えきれないからだろう。根性が足りないと言われれば、その通りなのだが。
世界中どこにいても(英語圏でない場所でも)、当たり前のように英語で話す英語圏の人はいる。「ミス・ユニバース世界大会」で過去に、ベトナム代表が質問に笑ってうなずくだけで返答しないことを、「わからないのにわかるフリをしていて可愛い」と、米国代表がからかい、大炎上したことがあった。たまたま生まれた国が英語圏だっただけなのに、非英語圏の人間が英語を学ぶためにかけた時間や苦労を知ろうともせず、単に思い上がっているだけに思える。
私は英語に苦労しているので、日本語を学ぶ外国人に優しくありたいと思うが、そうではない人も、残念ながらいるのだ。
次週の『ザ・ノンフィクション』は『親になろうとしてごめんなさい~目黒・結愛ちゃん虐待死事件~』。目黒区内のアパートで義父からの虐待の末に亡くなった船戸結愛ちゃん。5歳の女の子に暴力を続けた船戸雄大被告は、彼を知る人からは「学校一バスケがうまかった」「サークルのリーダー的存在」「同期の盛り上げ役」という声も上がる。雄大被告の実像とは?
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂