
『サヨナライツカ』/幻冬舎
■今回の官能小説
『サヨナライツカ』(辻仁成、幻冬舎)
男は、強く愛した女を神格化することがある。それが叶わない恋ならばなおさらで、まるで女を「女神」のように崇めてしまうのだ。けれど、どれだけ神格化しようと、女は所詮、ただの女。男に崇められれば崇められるほど、女は恋愛に酔うことなく、冷静に相手を愛し続けるため、すれ違いが生じてしまう。
今回ご紹介する『サヨナライツカ』(幻冬舎)の舞台は、1975年のバンコク。婚約者を日本に残してバンコクで働く東垣内豊は、謎の美女・真中沓子と出会う。豊のもとへ突然現れた沓子は、彼の返事も聞かずに室内に上がり込み、ノースリーブのシャツとスカートを脱ぎ、豊をベッドへと導いた。小柄だけれど弾力があり、成熟している沓子の身体。そして、黒目がちで大きな瞳――美しい沓子の誘いに、豊は光子という貞淑な婚約者がいながらも、あっさりと応じてしまう。
“好青年”というニックネームを付けられるほど堅実だった豊は、奔放で美しい沓子の魅力に溺れてゆく。旧華族出身の母親を持ち、謙虚でエレガントな雰囲気を携える光子は、ベッドの中では怯えた小動物のように恥じらい、ぴったりと両足を閉じ続ける。しかし、沓子は違う。まるで獣の交尾のような大胆さを持っていた。