――先ごろ、再始動した伝説的ヒップホップ・グループのSCARS。リーダーのA-THUGと重要メンバーのBESは刑務所に服役したことがあるが、収監中にどのような読書をしていたのだろうか――。獄中で喰らった本たちについて、2人が赤裸々に語る!
“言葉”を生業とするラッパー。その中には刑務所にブチ込まれることになった者も少なくない。“塀の中”といえば、世間の情報が限りなくシャットアウトされているはずだが、そうした環境で彼らはどのようにして本に触れ、そこに書かれた言葉に何を感じたのか――。
折しも、2000年代のいわゆるハスリング(ドラッグ売買を意味するスラング)・ラップ・ブームを牽引した伝説的グループ、SCARSが再始動した今、そのメンバーであり、“諸般の事情”により複数回の服役経験があるA-THUG(以下、A)とBES(以下、B)に話を聞かないわけにはいかない。ストリートの現実をラップし、数々のパンチラインでヘッズをうならせてきた2人のリリシストに、“獄中の読書”体験を語ってもらった。
「XXL」まで読める! 収監中にゲトれた雑誌
A BES君は何回刑務所に行ったんだっけ?
B 2回かな。最初に入ったときは「シャバに戻ったら派手に稼いでやる」って思ってたけど、2回目はさすがに心が折れた。もう2度と行きたくない。
A 何がそんなにキツかったの?
B やっぱ、雑居(房)での人間関係だね。些細なことで足をすくおうとしたり、しょうもない見栄を張ってマウンティングしてきたり。そういうクソめんどくせぇヤツらとかかわりたくなかった。トニー君(A-THUGの別称)は4回入ってるんだよね?
A うん。初犯のときの刑務所は雑居にいたけど、再犯以降はほとんど独居(房)だった。確かに、雑居はめんどくさいよね。整理整頓もちゃんとしなきゃいけないし、初犯だとオナラやゲップするときは申告して「失礼しました」って言わなきゃいけないから。でも、独居はそういうのは全然ないから、靴下とかそこらへんに脱ぎ捨ててたもん(笑)。
B 俺の場合、雑居はウザかったけど、部屋長が本当に優しい人でね。だから、その人の刑期が終わるまで残って、見送った後に独居に移った。刑務所って問題のある人間が集団生活してるから、そのへんはオヤジ(刑務官)たちも臨機応変に対応してるみたい。独居では本を読むようになったな。あと、雑誌も。
A 雑誌は意外と読めるよね。拘置所や刑務所の面会所に売店があるから。俺は「週刊プレイボーイ」(集英社)が好きだった。娯楽から社会の動きまで、いろんな記事が載ってて面白い。
B どの施設にも雑誌や書籍を取り寄せる目録があって、雑誌は好きなヤツが結構読めるよね。でも、買うためには当然金が必要。刑務作業ですずめの涙程度の金はもらえるけど、あんなんじゃ全然足りない。
A そうそう。だからシャバの仲間から差し入れてもらえる金が重要になってくる。一回に受け取れる本の冊数は決まってるけど。差し入れだと、俺がいた月形刑務所では海外の雑誌も読めたよ。施設によっては読めない場合もあるけど、「XXL」みたいなヒップホップ雑誌を読めたこともある。
B 注文できる雑誌は刑務所によって違うけど、基本的にヤクザ系や刺青系はダメ。最初は「実話時報」(休刊)くらいだったけど、2回目のときは「実話ナックルズ」(大洋図書)、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)もダメって言われた。あと、エロ本も。規制がどんどん厳しくなってるみたい。
A マジで!? 「べっぴんDMM」(現「月刊FANZA」)ももうダメなのかな? 298円で安いから、大人気だった。性犯罪で捕まるヤツが増えたから、エロ本も見れなくなったのかも。だとしたら、懲役が懲役の首を絞めてるようなもんだ……。
B 俺は差し入れてもらったヒップホップ系ファッション誌の「411」(休刊)をよく読んだ。いっぱいウェアやスニーカーが紹介されていて、売ってる店や値段も書いてあったから、眺めるだけで楽しかった。
A 「シャバに出たら、これ買いたいなぁ」ってね。そういう意味では、俺らは恵まれてたと思うよ。ほとんどの受刑者はシャバに仲間がいなくて、差し入れなんてしてもらえないんで。俺は中にいたとき、友達が「FREE A-THUG」って言ってくれてるのを知って、スゲー感動したのを覚えてるよ。だって、中には身寄りのいない人たちもいっぱいいるからさ。
A そういう金がない人たちは、よく官本を借りて読む。
B 官本っていうのは、施設が貸してくれる本だよね。わかりやすく言えば図書館みたいなシステムだけど、蔵書量としては本棚レベルって感じかな。でも、量は施設によって違う。あと、官本は基本的には拘置所や刑務所にしかないけど、本が読める留置場もたまにある。
A ここでパクられてからの流れを簡単に説明しておくと、まず警察署の留置場に入れられる。その後、起訴された場合、保釈の許可が下りたら一回シャバに出られるけど、そうじゃないと裁判が終わるまで3〜4カ月は拘置所にいなきゃいけない。で、裁判で実刑判決が下ると、どの刑務所に入るか決める分類センターに行かされて、面接がある。
B 留置場、拘置所、刑務所はどこも朝6時か6時半に起床。留置場だと昼間は結構ゴロゴロできるけど、拘置所だとそうもいかない。ものすごく細かい規則がたくさんあって、少しでも違反すると懲罰。刑務所の場合、昼間は刑務作業がある。自由時間は夕方5時くらいからで、消灯は夜9時。
A 娯楽はテレビ、ラジオ、読書って感じ。本は購買部、目録で取り寄せ、差し入れ、官本のどれかで手に入れる。ただ、官本は古い本が多いかも。その中だと、ケータイ小説の『Deep Love』(スターツ出版)を読んだ。
B どの施設にも官本の目録があって、読みたい本の番号と自分の番号を書いて提出すると、「掃夫」っていう役割の懲役が部屋まで持ってきてくれる。一回に借りられるのは大体3冊までかな。で、受刑者が施設の本を全部読みきっちゃうと、「官本交換」といって新しい本棚が来る。500冊とか。交換する時期は施設で違うけど、俺がいたところは2週間に1回くらいだった。
A 川越少年刑務所にいたときは、手塚治虫のマンガを読んだよ。『ブラック・ジャック』(秋田書店)、『ブッダ』(潮出版社)、『火の鳥』(朝日新聞出版)とか。特に『ブッダ』は全巻読んで超感動した! あと、『火の鳥』のどのエピソードか忘れたけど、「若い頃はマリファナ吸って、クラブに行って女の子をナンパしろ」って書いてあった(笑)。
B 『ブッダ』は全巻揃ってなかったなぁ。俺は『ゴーマニズム宣言』(扶桑社)を読んでみたんだけど、難しすぎて全然わかんなかったわ。
A わかんないといえば、村上春樹。官本で読んだけど、マジでどこが面白いのかさっぱりわかんねぇ!
B 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(新潮文庫)とかの人でしょ? 頭がおかしくなりそうになって、途中でぶん投げた(笑)。
A それだったら、映画とミュージカルが有名な『アニー』【1】なんかを読んだほうがいい。アニーって人生をめっちゃストラグル(もがく)しててさ。あれを読んで、信念を曲げずに生きることの大切さを学んだ。最後にすごく幸せなことが起こるし、イイ本だね。
B 本は差し入れてもらうことも多いよね。
A うん、俺は映画の原作本をいっぱい差し入れてもらったな。『スカーフェイス』『カリートの道』『ブロウ』みたいなギャングものが多かったけど、映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作である『ぼくと1ルピーの神様』【2】も読んだ。インドの悲惨なゲトーで育った少年がクイズ番組でとんでもない賞金をゲトる話だけど、俺も川崎のストリートでサバイブしてきたから、かなりグッときた。
B 俺が印象に残ってるのは、シュン君(DJ/トラックメイカーのONE-LAW)が差し入れてくれた『ヘルズ・キッチン』【3】。登場人物の男がいろいろやらかして刑務所に入るんだけど、そこでレイプされちゃうシーンがあってね。そしたら俺が入ってるときに、おっちゃん同士でヤッて懲罰受けた人たちがいてさ。それはレイプじゃないんだけど、リアルに感じて衝撃を受けたよ。
A それはエグいなぁ……。
B エンタメ系もわりと読んだね。伊坂幸太郎の『陽気なギャングが地球を回す』【4】とか。違うスキルを持った4人の犯罪者が強盗をやる話なんだけど、基本的には会話劇でさ。テンポがいいから、スゲー読みやすい。ひとつのトピックに対して4人それぞれが違う視点を持ってるのが面白かった。あと、馳星周の『生誕祭』【5】もよかったね。
A 昔、新宿でバーテンやってて、映画にもなった『不夜城』(角川文庫)を書いた人だよね?
B そうそう。『不夜城』の原作は暴力描写がスゴいけど、『生誕祭』のテーマは暴力じゃなくて欲望。80年代後半の東京が舞台で、主人公はもともと六本木のディスコの黒服なんだ。バブル時代の東京でいろんな人と知り合って、地上げでものスゴい大金を動かすようになる。
A 普通に面白い系だと、都市伝説の本をよく読んだな。ちなみに、俺はオバケも宇宙人もまったく信じてないんだけど、横浜拘置所にはマジでオバケが出る! あそこの独居に入ると、耳鳴りはスゴいし、何度も金縛りに遭った。もちろん体は疲れてないのにね。霊感なんて全然ないんだけど、あの独居だけはもう行きたくない……。
B 音楽系の本もちょくちょく読んだね。例えば、ボブ・マーリーの奥さんのリタ・マーリーが書いた『ボブ・マーリーとともに』【6】。ボブ・マーリーって聖人みたいなイメージがあるけど、意外とゲスいこともやらかしてる人なんだなって思った。
A そうなんだ(笑)。でも俺、ボブ・マーリーの詩集『バイブス ボブ・マーリィの波動』(宝島社)には結構パワーもらったよ。
B そういうのを読んで、獄中でリリック書いたりした? 俺は無理だった。少なくとも雑居じゃ書けない。イラついて全然集中できない。
A ちゃんとしたリリックじゃないんだけど、本を読んで気になったフレーズはノートにメモってたよ。50セントの『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』【7】って自伝小説に書いてある、「夜明け前は一番暗い」とかね。「冬の寒いなか路上で夜中にクラック【註:アメリカの貧困地区で蔓延したクラック・コカインのこと】を売っても、時給8ドルで働いてるマックの店員より稼げないことはある」という一文も、スゲー共感した。ほかには『タルムード』【8】にもインスパイアされたんだけど、知ってる?
B 知らないなぁ。
A ユダヤ教の聖典で、人生の究極みたいなことしか書いてないんだ。「たとえ右手がなくなったとしても、左手でできることを考えろ」「足がなくなっても、首があることに感謝しろ」とかね。人生っていろいろつまずくじゃん。でも、そんなんで気持ちを持ってかれちゃうのはダセーぞってことが、延々と書かれてるんだよ。
B なるほど。やっぱ、ムショにいるときはアガる本がいいね。そういう意味では、日本人がアメリカの刑務所に入ってチカーノ・ギャングになった『KEI チカーノになった日本人』【9】とか、日系2世のアメリカ人がイタリアン・マフィアの大幹部にまで登り詰めた『モンタナ・ジョー マフィアのドンになった日本人』(小学館)みたいな自伝、ノンフィクションが超面白かったよ。まあ、どっちも俺とはスケールが違いすぎて、あそこまでタフにはなれないんだけど。
A 結局、シャバにいたって人は裸一貫で生きてかなきゃいけないってことなんだよ。「GUNS AND BUTTER」っていう黒人のことわざがあってさ。“BUTTER”は富の象徴で、金とかドラッグみたいに持ってるとイキがれるもの。けど、いざというときに身を守ってくれるのは“GUN”なわけじゃん。つまり、人生は戦いってことだと思うんだ。暴力的になれってことじゃなくてね。俺は刑務所の読書でそういう人生のヒントを得た。
B でも、俺はもう2度と入りたくないな……。
A そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない? ムショも社会のシステムのひとつにすぎないから。俺の趣味はイリーガルなものばかりだから、またキャッチされるかもしれない。けど、俺らはこのシステムで生きていくしかないわけで。
B トニー君は本当に強い人だよね。だから、前向きに考えられるし、逆境をチャンスに変えられると。ドラッグで壊れちゃったこともある俺はそこまで強い人間じゃないけど、信念だけはしっかり持たなきゃいけないと思ってる。それはムショの中で学んだし、こうしてトニー君と本の話をしても強く感じた。
A BES君も『タルムード』を読みなよ。SCARSのメンバーとして、一緒に生きていこう。Live for everything, die for nothing!(月刊サイゾー7月号『ヤバい本150冊』より)
A-THUG(エーサグ)
1980年、川崎市川崎区生まれ。2000年代、SCARSのリーダーとして頭角を現わす。その後、ソロ・アルバム『BRIGHT SON!!』などを発表。最新作はEP『PLUG』。近年は、KNZZやKILLA EAT、DJ J-SCHEMEと共にDMF(DAWG MAFIA FAMILY)としても活動している。
BES(ベス)
1978年、東京生まれ。SWANKY SWIPEのメインMCとして活動を始め、SCARSに加入。2007年に「UMB」で準優勝に輝き、08年発表の1stソロ・アルバム『REBUILD』は高く評価された。近作に『CONVECTION』、ISSUGIとの『VIRIDIAN SHOOT』がある。

◇◇◇
【1】『アニー』
トーマス・ミーハン/三辺律子訳/あすなろ書房(14年)
11歳の孤児の少女アニーが孤児院を抜け出し、まだ見ぬ両親を探しにいく。苦難の連続を乗り越えた先で、アニーを待つものとは――。そんな超人気ミュージカルの小説版が、こちら。

【2】『ぼくと1ルピーの神様』
ヴィカス・スワラップ/子安亜弥訳/ランダムハウス講談社(06年)
舞台はインド。孤児ラムはクイズ番組で難問を正解し、超高額賞金を獲得するが、不正が疑われて逮捕。ラムはなぜ難問に答えられたのか? 映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作。

【3】『ヘルズ・キッチン』
ジェフリー・ディーヴァー/澁谷正子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫(02年)
主人公ペラムは、放火犯として逮捕された老婦人の無実を証明するため、真犯人を探す。ニューヨークのヘルズ・キッチンを舞台に、ギャングや孤児など土地に根づいた人間が登場。
【4】『陽気なギャングが地球を回す』
伊坂幸太郎/祥伝社文庫(06年)
それぞれ違うスキルを持った4人が銀行強盗を実行。見事成功したかのように見えたが、逃走中に「売上」を横取りされてしまう。映画を観ているかのようなスピード感ある文体が特徴の本作は、著者の出世作である。
【5】『生誕祭』
馳星周/文春文庫(06年)
80年代後半、バブル全盛期の東京。六本木のディスコでバイトする彰洋は、幼馴染みの麻美と偶然再会し、若き不動産屋の美千隆を紹介される。彰洋は美千隆に影響され、地上げで大金を動かす楽しさを知ってしまう。
【6】『ボブ・マーリーとともに』
リタ・マーリー/山川真理訳/河出書房新社(05年)
ボブ・マーリーの妻リタ・マーリーの自伝。夫であるボブを「レゲエの神様」ではなく、ひとりの人間として見た彼女の貴重な証言が綴られる。妻しか知り得ないボブの意外な逸話もアリ。
【7】『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』
50セント/江口研一訳/青山出版社(06年)
「9発の銃弾を撃ち込まれた男」こと50セントの自伝小説。ニューヨーク・クイーンズのゴロツキだった彼が、ラッパーとして成り上がる過程が描かれる。書名は自身の大ヒット作から。
【8】『タルムード入門Ⅰ』
A・コーヘン/村岡崇光訳/教文館(98年)
ユダヤ教徒の信仰、生活の基になっているといわれる聖典『タルムード』。もともとはラビ(僧侶)が『旧約聖書』をさまざまな角度から解釈した対話を記録したものとされる。本書をはじめ、解釈本が多数刊行されている。

【9】『KEI チカーノになった日本人』
KEI/東京キララ社(09年)
FBIの囮捜査で捕まったKEIはLAの刑務所に服役した。獄中でたったひとりの日本人として孤立した彼は、チカーノ(メキシコ系アメリカ人)・ギャングのボスと運命的に出会う。そうした壮絶な半生の記録である。