萱野稔人と巡る【超・人間学】「宇宙生物学と脳の機能から見る人間」(前編)

――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

今月のゲスト
吉田たかよし[医学博士]

今回のゲストは受験生専門の心療内科クリニック院長の吉田たかよし氏。NHKアナウンサー、政治家秘書、宇宙生物学、脳科学の研究者など、多彩な経歴を持つ吉田氏に生命の進化、人間の脳について問う。

“はやぶさ2”と生命の起源

萱野 吉田先生は東京大学大学院で、宇宙全体の観点から生命の成り立ちを考察する“宇宙生物学”を研究された後、医学部に再入学して医師免許を取得されました。NHKアナウンサーや政治家の秘書としても活躍され、現在は受験生専門の心療内科クリニックを開業されています。こうした極めて多岐にわたる経歴から吉田先生が「人間とは何か」についてどのようなお考えを持っているのかを、今回はおうかがいしたいと思います。まずは時事的なトピックでもありますし、小惑星探査機“はやぶさ2”の話から始めさせてください。

吉田 よろしくお願いします。

萱野 はやぶさ2が地球近傍小惑星“リュウグウ”の地下物質サンプルの採取に成功しました。このニュースは「生命の起源に迫ることができるかもしれない」と話題を呼んでいますが、そもそも宇宙の小惑星の地下物質と生命の起源がどうして関係があるのか、疑問に思う人も多いのではないかと思います。この点からご説明いただいてよろしいでしょうか?

吉田 まず、地球上に存在している生命を構成する最も基本的な物質は、水とアミノ酸です。

萱野 この2つが、生命が誕生するための根源的な必要条件であるということですね。

吉田 この2つがあれば、生命誕生の最低限の条件はクリアできます。まず、水は宇宙の至るところに存在しています。彗星は“汚れた雪だるま”なんていわれているように、ほとんどが凍った水でできていて、太陽の熱で溶けるから尾ができるのです。ですから、問題になるのはアミノ酸がどこから来たのか、ということになります。

萱野 アミノ酸といえば、結合して“タンパク質”を作るもの、というイメージがありますが。
吉田 アミノ酸から作られるタンパク質が、生物の“細胞”を構成するために最も重要な物質なんです。地球上で生きている生命はすべて、アミノ酸を組み合わせて作られた精密機械ともいえます。このアミノ酸がどこで生まれたのかという問題は、昔からさまざまな議論になってきました。かつて有力だったのは、アミノ酸は原始地球で生成されたとする説。1953年のアメリカの化学者ミラーの実験によるものです。この実験では原始地球の大気の成分とされるメタン、アンモニア、水素、水の混合気体に雷を再現する放電を行い、数種類のアミノ酸の合成に成功したんです。しかし、後に原始地球の大気にメタンやアンモニアが含まれていなかったことがわかり、ミラー説は怪しくなってきました。そこで、アミノ酸は地球ではなく、宇宙空間で合成されたのではないかという説が浮上してきます。それが何らかの方法で地球に運ばれて生命のもとになった、ということですね。私も東大工学部にいた頃、野辺山宇宙電波観測所で牡牛座暗黒星雲から飛んでくるマイクロ波の中にアミノ酸が合成される化学反応の痕跡を探すという研究プロジェクトに参加していました。しかし、アミノ酸の検出は大変難しく、これまで誰も成功していません。

萱野 宇宙空間でアミノ酸が合成されたと考えられる理由には、どのようなものがありますか?

吉田 太陽系にアミノ酸が存在する間接的な証拠はたくさん見つかっています。例えば、宇宙から飛来した隕石からもアミノ酸が見つかっています。隕石の表面には地球のアミノ酸が付着してしまっているのですが、隕石の内部からもアミノ酸が発見されているので、これは宇宙にアミノ酸が存在するという証拠のひとつです。とはいえ、隕石の内部で見つかったアミノ酸は微量なので、実験中の混入も完全には否定できません。ですから、はやぶさ2が持ち帰ってくる“リュウグウ”の地下物質が重要になるのです。もし、そこからアミノ酸が見つかれば、それはアミノ酸が太陽系に存在するという決定的な証拠になります。さらに、46億年前に太陽系ができたとき、地球などの惑星は誕生時のエネルギーでドロドロに溶けていますから、当然アミノ酸も壊れてしまっています。しかし、リュウグウなどの太陽から離れた小惑星は太古の状態をとどめているため、その地下物質からアミノ酸が検出されれば、アミノ酸は太陽系よりもさらに古いということになります。ということは、地球と同じタイプの生命が宇宙のさまざまな場所に存在していてもおかしくないわけです。そこにロマンがあるんですね。

萱野 水とアミノ酸が宇宙の至るところに存在しているのであれば、環境さえ整えば、どこでも生命が誕生する可能性はあるということですね。では、地球上の生命は、どのようなステップを経て生まれたと考えられるでしょうか?

吉田 まず細胞を再生産することができる能力を持つことを原始的な生命の定義としましょう。その誕生には複数の説がありますが、有力なのは、まず生命が誕生する前段階として細胞の原型となる“コアセルベート”という小さな袋状のものができたという説です。そこにアミノ酸が取り込まれて酵素ができ、膜の外のものを取り込む代謝の機能が生まれ、何らかの偶然でタンパク質の鋳型となる遺伝物質RNAが細胞に含まれて、再生産が行われるようになった――この生命誕生のプロセスが行われた場所として有力視されているのが、海底の“熱水鉱床”です。

萱野 熱水鉱床とは具体的にはどのようなところですか?

吉田 海底の火山活動によって熱水が噴き出し、そこに含まれる成分が冷却されて沈殿している鉱床です。ここでは水が高温高圧によって超臨界という特別な状態になっており、アミノ酸が自動的に結合することも可能です。さらに、熱水鉱床から少し離れたところでは水の温度は一気に下がっていて、この極端な温度差をエネルギー源に利用して生命が誕生したと考えられているのです。

萱野 その熱水鉱床と同じような条件が整えば、地球以外でも生命誕生の可能性はあり得るわけですね。

吉田 例えば木星の衛星エウロパには広大な海があり、海底には熱水鉱床が広がっているといわれています。そのほかにも、かつての火星や土星の衛星タイタンにも生命が誕生し得る環境があり、そう考えると、太陽系に限っても、地球以外に原始的な生命が存在する可能性は低くないでしょう。ただ、地球に誕生した生命の場合は、当初こそ熱水鉱床の熱をエネルギーにしていましたが、やがて光合成という太陽エネルギーを利用するシアノバクテリアが登場し、光合成によって地球上に酸素が増えると、今度は酸素を細胞の分裂に利用する生物が誕生――と進化を遂げていったんですね。ここでちょっとおうかがいしたいのですが、萱野先生はいわゆる“宇宙人”は存在すると思いますか?

萱野 地球外に生命が存在する可能性はあっても、人間のような高度な知性を持った生物が存在するかどうかはまったく別の話なのではないでしょうか?

吉田 そうです。地球外に生命が存在するということを、一足飛びに知的生命体が存在することと同一視してしまう人は案外多いのですが、これは全然違う話なんですね。地球上に生命が存在するのは必然だと思いますが、人間が存在するのは奇跡中の奇跡といってもいいぐらいの偶然が重なった結果だといえます。例えば、もし月がなかったとしたら、人間は地球上に存在していないでしょう。

萱野 月がなければ、地球に生物はいても、人間までは進化しなかったということですか?
吉田 月の潮汐力によって大陸まで潮が押し寄せて地殻を削った結果、ナトリウムが海に溶け出して“塩水”という環境ができあがりました。人間の体はナトリウムイオンを使って神経や筋肉をコントロールしていますが、それは生命を育んだ海水に由来しています。もし、月がなかったらこのような進化はあり得なかった。この海水の環境を作ることになった月も、太陽系ができたばかりの約45億年前、地球に原始惑星が衝突した“ジャイアント・インパクト”のときの破片が集まってできたものとされています。太陽の寿命自体があと50億年程度といわれていますが、もし月がなかったら、人類の誕生はそれまでに間に合っていなかったでしょう。

萱野 原始的な生命が誕生した約38億年前から人類の誕生まで長い時間がかかりましたが、その間には宇宙の成り立ちに関わる偶然もあったということですね。その過程をひと言で表すなら、何といえるでしょうか?

吉田 それは破壊と創造の連鎖だと思います。その意味で最も大きな影響を与えたのは“木星”の存在でしょう。

萱野 木星ですか?

吉田 木星の位置が絶妙なんです。この木星の距離が近すぎても遠すぎても、今の人類は存在しなかったと思います。人類が誕生するに至った最も大きな分岐点は、6500万年前にユカタン半島沖に隕石が落ちて恐竜が絶滅したことです。それまで恐竜に見つからないよう夜中にコソコソと活動していた哺乳類が活動領域を広げるようになり、急激に進化していきました。その頂点に立っているのが人類といえるわけです。それ以前にも何度か、隕石やそのほかの環境の変化によって地球上の生物は大量絶滅して、リセットされています。生物の進化には適度な間隔のリセットが必要なんですね。その中で人類にとって最も重要なリセットが6500万年前の隕石だったのです。もし木星の軌道がもっと外側だったら、木星の重力の影響が少なくなるため、地球に頻繁に隕石が降ってくることになります。6500万年前に恐竜がリセットされたことが哺乳類にとっては幸運だったわけですが、その後に同規模の隕石が降ってこなかったことも大きい。もし、降ってきていたら、そのときは哺乳類がリセットされて、また違う種が台頭していたはずです。ただし、高度な知性を獲得するには6500万年という年月が必要なので、リセットが頻繁だと、いつまでたっても高度な知性には到達できないはずです。逆に木星の軌道がもっと内側だったら、木星の重力に引っかかるので、6500万年前の隕石は降ってこなかった可能性が高い。そうすれば、今でも恐竜が地球を支配していたかもしれないし、少なくとも哺乳類が台頭する時代はもっと遅くなっていたはずです。

萱野 木星と地球との距離が人類誕生の大きな鍵となっているなんて、ものすごく壮大な生命観ですね。ところで、そうした隕石の落下による環境の激変も含めて、人類の誕生に至る生命の進化の過程というのは、複雑化の過程として考えられるものでしょうか?

吉田 単純に見える生物が複雑なシステムを作り上げていることはよくありますから、人間が最も複雑な生物であるとは断定できませんが、約40兆という細胞の数だけ見れば、それだけ複雑化しているということは間違いないでしょう。そしておっしゃる通り、環境の変化による大量絶滅は地球上で何度も起こっていて、その後に生まれた生物は確かにより複雑化しています。シアノバクテリアの登場によって原始地球にはなかった酸素ができましたが、当時の生き物にとって酸素は有毒でしたから、数多くの種が死に絶えました。しかし、今度はエネルギー効率のよい酸素を呼吸に利用する生物が生まれてきたのです。古生代にはカンブリア大爆発が起きて生物は一気に多様化しましたが、P-T境界で大量絶滅があって、その後の中生代で恐竜と哺乳類が誕生しています。環境の激変による大打撃で淘汰され、生き残った種が新たな環境に適応するために新たな体の仕組み、生きていく仕組みをより複雑化させるほうに進化していったといえます。

萱野 複雑化の結果として、地球上の生物はかなり多様化しました。ただその一方で、地球上の生命は水とアミノ酸から生まれたことを考えると、むしろ生物全体で共通しているところも多いのではないでしょうか?

吉田 これもまたびっくりすることなんですが、地球上のあらゆる生物の細胞の構造、働きは、基本的にすべて同じ。極論すると地球上の生物は“一種類”しかいないともいえます。バクテリア、原生生物、菌類、植物、動物、人、すべて細胞が生きる基本的な仕組みは共通しているんですね。

萱野 私が吉田先生の著作『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』を読んで面白いと感じたのは、そのような基本的な仕組みのもとで人体を説明していくところでした。原子のレベルにおける基本的な仕組みから生命を論じていく宇宙生物学を見れば、人間も他の生物と変わらないという視点をとても斬新に感じました。

吉田 生命を化学的な反応から見れば、もちろんすべての生物は同等ですよね。人間だから特別な地位を与えるようなことはありません。ただ、そこには人間の“精神”や“心”という観点が欠落しています。例えば哲学者が人間を語るときは、そういった人間の確固たる意思や精神性といったものを前提にしているのではないですか?

萱野 そこは哲学者によっても変わってきますね。人間の意思や精神性を重視する哲学者がいる一方で、人間の身体や物質性を重視する哲学者もいます。両者の違いを端的に言うと、人間は信じるから祈るのか、それとも祈るから信じるのか、という違いです。私自身はどちらかといえば後者の立場です。人間の精神性はとりあえず“カッコ”に入れて、まずは“存在”としての人間がどういったものなのかというところから考えていこうという立場ですね。

吉田 それは、哲学者としては一般的な考え方なのでしょうか?

萱野 必ずしもメジャーとはいえないかもしれません。やはり中世以降のヨーロッパの哲学はキリスト教神学の発展と切り離せませんし、基本的に哲学は人間中心の学問として進展してきましたから。ただ、スピノザやハイデガー、フーコーなど、そうではない哲学の系譜も一方にはあって、そこでは逆に、人間中心の視点を一度“カッコ”に入れることではじめて「人間とは何か」を明らかにできると考えられています。

吉田 なるほど。「人間とは何か」という問いは、立場によって答えが変わってきますよね。1000の立場があれば、1000の答えがある。そして、“人間という物質”は間違いなく存在しているわけですから、その物質がどうなっているのかという側面を見る意味は大きいでしょう。
萱野 そうした吉田先生の視点には、人間中心の哲学を破壊するだけのインパクトがあると私は感じました。すべての生命を同じ仕組みのもとで見た場合、人間を特別な存在と見ることはできなくなりますよね。

吉田 物質として見た場合はそうしないと成り立ちません。

萱野 その上ではじめて、人間と他の生物の違いとは何かを考えることに意味が出てきます。その場合、その違いはやはり“環境の違い”ということになるのでしょうか?

吉田 私は“環境の多様性”こそが生命を生み出した本質だと思います。

(次号に続く)

吉田たかよし
1964年生まれ。医学博士。受験生専門の心療内科「本郷赤門前クリニック」院長。受験医学研究所代表。東京大学大学院工学系研究科卒業後、NHKに入局。その後、東京大学大学院医学研究科・医学博士課程修了。加藤紘一元自民党幹事長の公設第一秘書、東京理科大学客員教授も歴任。主な著書に『受験うつ』(光文社新書)、『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 』(講談社現代新書) など。

萱野稔人
1970年生まれ。哲学者。津田塾大学教授。パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。主な著書に『国家とは何か』(以文社)、『死刑 その哲学的考察』(ちくま新書)、『社会のしくみが手に取るようにわかる哲学入門』(小社刊行)など。

(写真/永峰拓也)

【松本妃代】七色の役に染まる演技派女優のテッパンは、まさかの“妊婦”?

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――今年の話題映画にそれぞれ異なる役柄で出演した注目女優の根底にあるのは、ヒップホップとジャズダンス経験だった。

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(写真/西田周平)

「中学1年生から始めたヒップホップやジャズダンスがきっかけで、この業界に入りました。よく、『踊れなさそう』って言われて驚かれますが……踊れます!」

 清楚で文化系のような見た目とは裏腹に、意外なキャリアを明かしたのは、女優の松本妃代。岡崎京子の原作を実写化した『チワワちゃん』、横浜流星主演の『いなくなれ、群青』など話題の映画に多数出演し、11月には松本穂香主演の『わたしは光をにぎっている』の公開を控えている注目の女優だ。

「『わたしは光をにぎっている』は妊婦の役で、静かな湖のほとりで赤ちゃんを抱っこするシーンの撮影は、とても穏やかな空気に包まれました。私って、なぜか若い妊婦役を演じる機会が多くて、実はこれが3回目なんです。でも、女性が母親になっていく美しさを表現する役はやりがいがありますし、演じていてすごく優しい気持ちになれますね」

 一方、今夏放送されたドラマ『僕はまだ君を愛さないことができる』(フジテレビ系)では、白洲迅演じる主人公にあざとく猛アプローチをかける、“ぶりっ子”な役を演じたように、作品ごとにがらりと表情や雰囲気を変え、役に染まり切る“カメレオン”ぶりが彼女の持ち味だ。

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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エリがアヤワスカのお茶を飲むと、視界がキラキラと輝いたが、やがて強烈な吐き気を催した。(写真/草野庸子)

「2011年3月11日、震災の夜、主人が帰ってこなかったんです。『仕事が終わらないから事務所に泊まる』って。私は息子と家にいて、すごく不安でした。あのとき、主人は浮気してたんですよね。表参道のカフェで食事をしてたら、主人がスマホのロックナンバーに知らない数字を打ち込んでました。もとは息子の誕生日だったのに。それでも私は妙に自信があって、まさか自分が浮気されるわけないと高をくくってたんです。主人が帰らない夜が増えてきて、しかも帰るとすぐお風呂に入る。わかりやすい。バカな人だなって。あの3月は息子が卒園して小学校入学という時期で、私は慌ただしくて、世の中も震災で慌てふためいていて、そんななかで夫の浮気に気づいて、人生終わったと思いました」

 エリは夫の浮気を知って失調した。眠れない、息が切れる、心がたえずわだかまる。まさか自分が鬱病になるわけがないと思っていたが、気がつくと心療内科に向かっていた。ベテラン女性医師の医院には、杖をついて歩く若い女性や、身を震わせる女子の姿があった。「へぇ、鬱病ってこんななんだ。でも私は違うから」とエリは思う。「鬱状態だね」と医師は診断をくだし、抗不安剤と睡眠導入剤を処方した。「ちょうどいいよ、これ飲めば痩せるから」という医師の言葉が引っかかる。痩せたら夫との不和が解消するのだろうか。痩身は夢を叶える魔法ってか。「ショートカットのババア医者でしたよ」とエリは言い捨てた。

「薬は飲むほど増えて、ときどき意識が途切れて、仕事も家事もできなくなってきました。会社を出て、家の最寄り駅に着くとイライラが募って、今日は何をぶっ壊してやろうかとワクワクしてました。食器、服、鏡、電化製品。主人のものは包丁で切りつけました。浮気は止まったんですけど、それでも私は夫の帰宅時間を見計らって、玄関で血だらけになって待ちました。『俺に見せつけたくてわざとやってんだろ』と言われても、てめぇがやらせてんだろって思ってました。私が死んだらこいつを加害者にできると考えて、自殺未遂をくりかえしました」

 夫には心の傷を形にして見せつけたい。でも息子には破壊行為を見せたくない。子が帰宅する前、子が寝静まった後、その時間をエリは狙う。散らかった部屋で「ママ、ごはんつくらなくなっちゃったね」と子はつぶやいた。

「そもそも堕ろせばよかったんです」と、前触れもなくエリは言った。

「22歳で妊娠したとき、産みたくないと思いました。でも主人に伝えたら、土下座して『よろしくお願いします』と言われちゃったんですよ。これを逃したら私は結婚も出産も一生ないだろうと思って。10代、20代と私はたくさんの男性とフィジカルな関係があって、そんなふうに誰かに求められないと生きてる心地がしなかった。自分から愛するということがわからなかったんです。子どもができたら何か変わるかなっていう期待もあって、結婚して、出産して。でもやっぱり夫も息子も全然好きじゃないんです。顔は可愛いんですよ。でも、可愛くないんです」

 エリの言う“可愛くない”は“接し方がわからない”だ。子が自分より弱い存在だと認められない。だから相手を守り育てる必要性が迫ってこない。夫が自分と異なる意思をもつのだと認めがたい。だから相手の想定外の行動が背信としか感じられない。

「誰にも言えなかったです。『子どもは産めば可愛いものだ』ってよく言われるじゃないですか、『住めば都』みたいに。そんなことないです。息子が失敗すると『こいつ、なんでできないの』と思ったし、泣いたり怒ったりすると『空気読めよ』とか平気で言ってました。子どもは懸命に生きてるだけなのに、自分と同じ目線で子どもを見てたんです。いま息子を育ててるのは、愛情というより責任感だと思います」

 エリには理想の家庭像があった。見栄えのする家族、洗練された家具調度、趣味のよい遊び方、センスのある友人たち。人に羨ましがられる体裁、それが幸福の秘訣だと思った。DIYで本棚を作り、家庭菜園でパクチーを育て、インテリアに多肉植物を置き、食事にマクロビを取り入れ、シュタイナー教育を調べて。「ハッタリですよ、全部」。メディアで紹介される生活スタイルを実践したが、そうした流行をエリは鼻で笑う。その笑いは自虐でなく軽蔑のニュアンスで、かつての実践は脇に置き、まるで自分に釣り合わない低俗な文化だと忌み嫌うようだった。

 両親は多趣味な人で、家には「大きなスピーカー」や「父のシャツ専用クローゼット」があった。けれどプロダクトデザイナーの父は家に帰らず、洒落者の母は夜になると友達に電話して「さみしい」と泣いていた。

「パパには空洞がある。私生子で生まれて養子縁組で育って、家庭の作り方がよくわからないんだと思う。私がパパと会ったのは通算30分くらいで、それも怒られた記憶しかない。さみしかったですよ。この感覚はアヤワスカ【註1】をやるまでずっと続きました」

「こんにちは。遅れてすみません」と立瀬が合流した。立瀬は自身が主催する“お茶会”にエリを誘った人物だ。「彼はほんとに頭がよくて、すべて見透かされてる気がするんです。ちょっと怖いくらい」とエリは評する。

お茶会での嘔吐で蘇った子ども時代の欠落感

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もしもあなたに娘がいたら…『さよならミニスカート』と村上春樹の間で揺れる親心

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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 あなたが小学6年生の娘をもつ父親だとしよう。

 あなたは、それなりにカルチャーリテラシーが高いという自負がある。村上春樹や『新世紀エヴァンゲリオン』を90年代に通過し、ゼロ年代の批評界隈や10年代以降のSNSの隆盛も、それなりにキャッチアップした。ネットの時流もそこそこ把握している。娘から「#metooって何?」と聞かれたら、簡潔に答えられる程度には。

 あなたはある日、娘が毎月買っている「りぼん」(集英社)の連載マンガ『さよならミニスカート』が話題になっていることを知る。キャッチコピーは「このまんがに、無関心な女子はいても、無関係な女子はいない。」。編集長が、異例とも言える署名付きの「推薦」をしたことでも話題になった。

 あなたはタイトルから内容を推測し、その批評アングルに手早く見当をつける。「ジェンダー方面ね。“女の子っぽさ”の押し付けに対する異議申し立てか。『りぼん』らしい問題提起だ」。あなたは「りぼん」の対象読者が小学校高学年から中学生女子であることだけでなく、競合誌の「なかよし」(講談社)に比べて、シリアスな社会問題やリアルな恋愛事情を扱う作品が載る雑誌だということを知っている。「『なかよし』は腐女子を育成し、『りぼん』はフェミ予備軍を育成する」と、まとめ記事で目にした記憶も掘り起こされた。

 あなたは単行本を買って読んでみる。元アイドルが握手会でキ○ガイのファンに刃物で切りつけられたことをきっかけに引退、髪を短く切って男装にズボンを履いて普通の高校に登校している。これが主人公の神山仁那だ。作中では、現実のネット上で今この瞬間も議論が展開中の「女の子の受難」が、これでもかとばかりに俎上に載る。時流に則ったフェミ&ジェンダー論点きっちり全部乗せ。それらは、まるで“全オトコ”を仮想敵化したような男子たちの口から、醜悪なセリフの形をもって並べられる。

「変質者怖がってるくせに、なんでそんなスカート短けーの? そんなに怖いならスラックス履けよなー。結局さぁー、男に媚び売るために履いてんだろ?」

「握手で釣ってCD何枚も買わせてたんだろ? 女使って男釣って儲けてんだから、恨み買われて当然だろ。嫌なら最初からアイドルなんてやるなっつーの!」

「ブスに限ってチカン恐いとか騒ぐからさーっ」

「マジで女子って陰湿だよな! 怖ッ ちょっとは男子のサッパリ感見習えよな~~っ」

 これはYahoo!のコメント欄ではない。12歳の我が娘も読む、マンガ雑誌のフキダシ内だ。そんな声に対して、仁那は徹底的に反発する。

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登録ユーザーは1.3億人以上! 中国の過酷な受験戦争が生んだ「教育テクノロジー」の進化

――あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界最大の人口14億人を抱える中国では、国家と個人のデータが結びつき、歴史に類を見ないデジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか――。

■作業幇(ゾウイエバン)

2014年に、中国の小中高校生向けに、宿題の写真をスマートフォンでアップロードすると、その「解き方」を探してくれるアプリとして誕生した。またオンライン上で1対1の学習指導などをおこなってくれる有料サービスなども備えている。もともと百度(バイドゥ)から生まれたが、スピンアウトして有力ベンチャーキャピタルから出資を受けて、現在はユニコーン企業(時価総額1000億円以上の未上場企業)のひとつに数えられている。

「中国の受験戦争は、比喩じゃありません。本当の戦いなんです」

 2019年6月7日朝、北京市内の空気はいつもよりも張り詰めていた。何しろこの日は、中国全土の高校3年生たちが、これからの人生を大きく左右することになる大学入試の統一試験「高考」を受験する日だからだ。

 たまたま取材のために北京に滞在していた私は、受験会場に足を運んで、たくさんの受験生たちがやってくる様子を眺めに行った。同行してくれたのは、中国の最高学府である清華大学大学院生の夏目英男さん(23)だ。

 今年は1031万人の生徒がこの一発勝負のテストに挑み、どの大学に入学できるかが決まる。超名門の清華大学や北京大学、浙江大学を頂点にして、場合によってはわずか1点の差で、14億人の学歴ヒエラルキーにおける位置づけが決まってしまう。

学歴社会の中国では受験生たちへのプレッシャーも大きい

 ちなみに学歴社会で知られる中国にとって、ことさら受験生たちが受けるプレッシャーは半端なものではない。

 さらに日本の大学受験よりも過酷なのは、中国には私立大学という選択肢が事実上ないことだ。いわゆる東京大学や京都大学などの国立大学に落ちても、慶応大学や早稲田大学に行けばいい、という「逃げ道」がほとんどないという。

 会場まで、両親がマイカーで送りにくるケースも多い。そしてお弁当を抱えて、会場の外で待機して、我が子の奮闘を祈っているのだ。

「もう6年前に受験したのですが、この日が来ると、反射的に緊張しますね」

 自身も留学生向けの高考を経験している夏目さんによれば、中国には高校生活のすべてをこの日のために捧げている生徒が、たくさんいるのだという。誰もが知っている名門校は、衡水市(河北省)にある「衡水中学校」だ。

 全寮制のこの高校では、まるで牢屋のように鉄格子がはまった部屋で、起床から就寝まで、分刻みで勉強のスケジュールが組まれている。ランチタイムを過ごす食堂で、テキストを読みながら行列している姿は、中国でも賛否両論あるという。

 しかし、一流大学に合格すれば、出自に関係なく大きなチャンスがつかめるのも事実。そのタフな戦いのために役立つのが、ものすごいスピードで進化している中国の「教育アプリ」だ。

 中国のエドテク(教育テクノロジー)に詳しい人が、一様に注目株として名前を挙げるのが、作業幇(ゾウイエバン)というスマートフォンのアプリだ。

 14年に始まったこのサービスは、K12(幼稚園から高校)の子どもたちが、あらゆる学習をすることができるモバイルプラットフォームだ。このサービスが面白いのは、人工知能を使った「宿題の解き方」を教えてくれる機能。例えば数学のプリントで、わからない問題があったら、すかさずスマホのカメラで撮影をすればいい。

 そうすると自分が悩んでいる問題と、似たような問題をデータベース上から自動的に探し出してくれて、どうやれば解くことができるのかという「解き方」をアドバイスしてくれるのだ。だから数学が苦手でも、このアプリを片手に理解を進めることができる。

 さらにこのアプリを通して、動画によるオンライン授業であったり、1対1の家庭教師サービスであったり、リアルタイムで質問をすることができる「バーチャル塾」のようなサービスも展開されている。

 日本の子どもたちの多くは塾にせっせと通っているが、ここ中国では、スマートフォンを使ってオンラインレッスンを受けることが当たり前になっているという。

「合計ユーザー数は1.3億人以上、毎月利用しているアクティブユーザーも9000万人に上っています。信じられない人数です」と、同社に出資している、投資ファンドのレジェンドキャピタルの幹部は証言する。

 同じように、ユニークな教育アプリは数多く誕生している。

 さらに巨大なエドテク企業となっているのが、猿補導(ユェンフーダオ)だ。あらゆる科目のオンライン授業を、スマートフォン上で受けることができるこのサービス。教師のキャラクターや難易度もさまざまだ。

 アプリを開いてみると、トップ大学を目指している生徒に向けた「オンライン夏期講習」の受講者を募集していた。7月13日から20日にかけて8日間、午後7時から9時までのライブストリーミング講座は、合計で299元(約5000円)で参加できる。

 ひとりあたりの授業料は高くはないけれども、すでにこの授業は1241人(6月8日時点)もの受講者が集まっており、単純計算で500万円近いレッスン料が集まることになる。

 授業が始まると、スマホ画面の横いっぱいにホワイトボードが広がり、そこに数式や解き方などが次々と書き込まれてゆく。

 また右端上には教えている先生のライブ映像が、右端下にはチャット形式で生徒たちとのやり取りが表示される。

 それぞれの先生には受講者からのレビューコメントがついており、「前回110点だったテストの成績が、先生の授業を受けてから134点に上がりました!」といった声が並んでいる。

 まさにオンラインショッピングや、オンライン動画といったモバイル時代のビジネスが、そのまま受験勉強に「応用」されている印象だ。

 夕日が沈む頃、中国全土の高考の初日を終えた生徒たちが、それぞれの家族らと共に自宅に帰ってゆく。この日のことは、大学受験をしたあらゆる中国人にとって、忘れがたい1日になるようだ。

 教育は国家100年の計にあり、とは昔からよく言われたことだ。中国では2000年代前半まで、大学への進学率は、10%前後だったといわれる。それが近年、30%から40%にまで上がっている。

 しかし今でも、北京や上海などの都市部と、地方都市などでは、教育をめぐる環境格差が大きいのが実態だ。だからこそテクノロジーを駆使した、スマートフォンを使った学習アプリが、次々に生まれてきている。

 例え良い教師や学校になかなか恵まれない環境にあったとしても、教育アプリをつかえば中国全土の名門校の「過去問」などが手に入り、オンライン授業であれば地理的なハンディキャップも埋めることができるのだ。

 また今回は紹介することができなかったが、オンラインのみならず、リアルな学校空間もテクノロジーによって進化をつづけている。例えばカメラによる顔認識の技術を使って、いま生徒がどのくらい授業に集中しているのか、といった状況をデジタル的に分析することができるサービスなども登場しているという。

 筆者が勤めるNewsPicksにも、中国出身の女性エンジニアの同僚がいる。30代前半の彼女も上海にある全寮制の高校で、朝から晩まで、3年間にわたって勉強をしたのだという。いきさつがあって、大学は日本の理系大学としてはトップの東工大に進学した。

「勉強ばかりの高校生活を送ったので、日本の大学入試は楽勝でした」

 良いか、悪いかではなく、中国にはこうした過酷な受験レースで勝ち上がった人たちがいる。その頭脳は、長期的にこの国の競争力になるに違いない。(月刊サイゾー7月号より)

後藤直義(ごとう・なおよし)
1981年生まれ。青山学院大学文学部卒。毎日新聞社、週刊ダイヤモンドを経て、2016年4月にソーシャル経済メディア『NewsPicks』に移籍し、企業報道チームを立ち上げる。グローバルにテクノロジー企業を取材し、著書に『アップル帝国の正体』(文藝春秋)など。

パク・チョンヒ政権の利権誘導で対立が悪化! いまだに根強い「 韓国国内の地域差別」

――学歴信仰や男尊女卑など、さまざまな差別意識がはびこっている韓国だが、地域差別もかなり深刻な問題だという。

 保守派が多いとされる「日刊ベストストア(イルベ)」ではたびたび、「全羅道」という韓国西南部にある地域が卑下の対象となる。例えば話題となっている人物が同地の出身者の場合は嘲笑の的となり、同地ではガンギエイ(ホンオ)の刺身が郷土料理であることから、「ホンオ」が掲示板内の罵倒語として定着している。これは、一体どういうことなのだろうか?

「韓国の歴代大統領は釜山、蔚山、大邱といった広域市(地方行政地区)がある南東部の慶尚道出身者が多く、60~70年代にかけては地元贔屓の利権誘導で、慶尚道に工場地帯や高速道路などが整備され、経済的に発展してきました。それに対して光州広域市がある全羅道は、政府からの恩恵を受けられずに開発が後回しとなり、結果的に地域差別の対象とされていました」(高月氏)

 実は韓国では社会の分裂の主要因となり得るほどの地域対立が存在しており、選挙の際は地域別得票率の極端な違いとなって現れる。また、同地は光州事件などの民主化運動が盛んだったこともあり、リベラル派の多い地域というイメージで保守派からは毛嫌いされているという。
「歴史的にみても、慶尚道と全羅道の地域対立は昔からありましたが、今でも保守派はこうした地域差別を政治的に利用する傾向があります。例えば私の友人の新聞記者によると、パク・クネ政権時は、青瓦台や国会の記者室(日本の記者クラブ)に登録する際、自分の出身地を提示する必要があったらしいんですね。『全羅道出身だったら、警戒するぞ』ということなのでしょう」(金氏)

 一部の排他的な掲示板に限らず、社会全体で地域差別は根強いのだ。

「国民との意思疎通強化」を掲げて2017年に誕生したムン・ジェイン大統領。現政権になってから登場したオンラインサービスが、青瓦台(韓国大統領府)の公式サイトに設立された、「国民請願掲示板」だ。

 これは国民から投稿された請願のうち、30日間に20万人の賛同を得た場合は政府が回答するというシステム。ホワイトハウスの請願制度である「We the PEOPLE」が30日間に10万人の推薦を受けることを基準にしていることと比べると、人口の数的にあまりにも基準が厳しいのではないかと当初は不安視されていたが、実際には多くの請願が20万人の賛同を集め、政府からの回答も出ている。

 この掲示板に投稿される国民の請願は、法律の改正であったり、ある事件の捜査を要求するものから、「YGエンタテインメントの芸能活動停止を求める」までさまざまだが、中には「どうしろというんだ」というクソリプ紛いの請願もある。

 例えば、昨年開催された平昌冬季五輪でスピードスケート女子団体追い抜きの韓国代表、キム・ボルムが仲間の遅れのせいでメダルを逃したといった発言をした際、彼女の代表資格剥奪を求める請願に賛同が殺到。同じく昨年のサッカーW杯ロシア大会で、グループステージでスウェーデン代表に韓国が敗れると、「スウェーデンとの戦争を望む」という請願が投稿されるなど、メチャクチャな状態である。

 挙げ句の果てに、今年の4月には「ムン大統領の弾劾を求める」請願に25万人の署名が集まってしまった。20万人の署名が集まった以上は、何かしらの対応をしなくてはならないため、大統領府は自身のSNS放送で「よりいっそう頑張らなければならないという覚悟を新たにした」と、コメントを発表した。

 当初の目的から大きく変わってしまったようにも思える「国民請願掲示板」だが、もし、同じような掲示板を日本政府が設立した場合、果たしてどうなるのだろうか。(サイゾー8月号『中韓エンタメ(禁)大全』より)

【中村里帆】スマホゲームのCMで話題のモデルが変顔に目覚めた健気な理由とは?

【拡大画像はグラビアギャラリーでご覧いただけます。】

――「ヴ」の発音にこだわるお姫様役のCMで話題のファッションモデルは、憧れの女優と話題の映画でまさかの共演を果たす!

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(写真/岩澤高雄・The VOICE)

「映画の中で実際にバイオリンを弾くシーンがあったので、1カ月くらい練習しました。でも、持ち方や姿勢を奇麗に保つのが精一杯。指はつるし、真夏だから楽器ケース背負ってると背中は汗でびっしょり」

 そう語るのは、現在公開中の映画『いなくなれ、群青』で、心にトラウマを抱えるバイオリニスト役として出演している中村里帆。

 普段は「Ray」(主婦の友社)の専属モデルなど、ファッション誌を中心に活躍しているが、彼女が世間でもっとも知られるようになったのは、お姫様姿で変顔を披露したスマホゲーム『戦国布武~我が天下戦国編~』のCMだろう。

「私、表情筋が柔らかいので、変顔が特技なんですよ。だから、このCMは『絶対にやりたい!』と思ったんです」

 そんな彼女が変顔に目覚めたのは、健気な理由からである。

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サイゾー厳選! 次代のグラビアを担う!?――現役バスト100センチ超えグラドル選

――業界に現れるのは1年でもひとりか2人かと言われるバスト100センチ超えグラドル。ここでは、現役で活躍する彼女たちの中からおすすめの子をピックアップ!

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●恵体界のトップランカー
桐山瑠衣(28)

T157/W61/H94センチ

[バスト]
104cm

17歳、高校生で1st DVDを発売したのが2008年。2015年に一度引退したが、翌年にフリーランスとして活動を再開し、10月には自身36作目となるイメージDVDを発売する。寿命の短いグラビア界において、現役B100センチ超えグラドルとしてはもっとも古株だが今も根強い人気を誇っている。個人撮影会の料金は7000円。専用サイトを設け、一眼レフカメラを無料でレンタル、カメラレクチャーなど、初心者にも優しい細やかな姿勢はさすがベテランといったところか。

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●とろける鉄工おっぱい
ちとせよしの(19)

T158/W63/H86センチ

[バスト]
100cm?

「ヤングアニマル」が読者投票で次世代のグラビアクイーンを決める「YAグラ姫2019」で編集部特別賞を受賞した。地元・佐賀県の鉄工所で働いていたという素朴さ、そして「Hカップの有村架純」のキャッチフレーズからもわかるロリ顔で、昨年10月に1st DVDを発売してからすでに4作品をリリース。11月にも5作目が決まっているという人気ぶりだ。『有吉反省会』(日本テレビ系)で、バストを3センチサバ読んでいたことを明かしたが、現在も公式プロフィールは100センチのままだ。

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女性嫌悪もすごいが男性嫌悪もすごい!? 芸能人を追い込み遺族を愚弄する「韓国ネット民の闇」

――日本で韓国の芸能人の自殺が報じられる際、「背景にはネット上での苛烈なバッシングがあった」と伝えられることもある。日本よりもネットの普及が進んでいる韓国だが、同国の人を死に追いやるまでのネットコミュニティとは、どのようなものなのだろうか?

 5月末に自殺未遂を起こし、療養中と伝えられていた元KARAのク・ハラが、日本の芸能事務所から再デビューすることになった。6月17日付の「スポーツソウル日本版」によると、彼女の自殺未遂の背景には、元交際相手からのリベンジポルノや暴行問題といった、さまざまな問題で頭を抱えていたにも関わらず、一部のネットユーザーから、彼女が受けた二重まぶたの手術に関しての悪質なコメントが絶えなかったことも影響しているという。

 日本でもネット上の誹謗中傷に悩まされる芸能人は多いが、韓国の芸能界では自殺者も出るほど深刻な問題となっている。「1990年代最高の女優」といわれたチェ・ジンシルや、“韓国の倖田來未”と呼ばれ日本でも活動していたU;nee(ユニ)は、ネットの中傷により自らの命を絶ったのではないかと、当時の「中央日報」など一部メディアで報じられた。しかも、過度な露出衣装や整形疑惑でバッシングされていたユニに至っては、死後も公式ホームページで「今日は夜の商売に行かないの?」などと、中傷コメントが書き込まれたほどだ。

 人を死に至らしめるほどの、悪質なネットユーザーたちはどこにいるのか? 本稿では理不尽な芸能人バッシングなどを例に、韓国のネット社会が抱える問題と、それが現実に及ぼす影響を明らかにしていく。

 まずは、韓国におけるインターネット・コミュニティの成り立ちは、日本と大きく異なるという点から説明していきたい。「クーリエ・ジャポン」(講談社)創刊号より、朝鮮半島担当スタッフとして従事していたライター・翻訳者の金香清氏は、こう語る。

「フェイスブックやツイッターが広く普及される前、韓国のネット界で流行したのが“カフェ”と呼ばれる会員制コミュニティでした。イメージとしては『mixi』のコミュニティに近いですね。代表的なカフェは国産ポータルサイトの『NAVER』や『Daum』で提供されているものです。この2社はヤフーやグーグルといった海外勢力を凌ぐほどで、現在も『NAVER』がポータルサイト国内利用率1位です。理由としては、話者の少ない韓国語は英語などに比べて、利用できるネットコンテンツが少ないという事情があります。そこでNAVERなどは、カフェなどのサービスを増やしたり、カテゴリーを細分化することによって、韓国語コンテンツの検索結果を増やしていったのです」

 NAVERとDaumの設立は共に1999年。同時期の日本では、ネットコミュニティとして匿名掲示板の「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」が勢力を伸ばしていたが、韓国にも“カフェ”以外にそのような掲示板は存在したのだろうか? 韓国に関する著作を多数持つノンフィクションライターの高月靖氏はこう語る。

「韓国版2ちゃんねると言えるのは『dcinside』という掲示板ですね。もともとはデジカメのレビューを目的とする画像掲示板だったのが、さまざまな方面に拡散して巨大化したという経緯を持っています。韓国で親しまれているネットミームのほとんどは、ここから生まれたと言っても過言ではないでしょう」

 そして、こうした掲示板やカフェで芸能人の話題が上るのは日本と同じだが、ここで注目するべきは、そこには日本とは大きく違う独自のファン文化が出来上がっているということだろう。最新のK-POP事情に詳しい、ライターのDJ泡沫氏は語る。

「韓国の芸能界ではファンカフェと呼ばれる、無料のネットコミュニティの影響力が強いです。ファン個人が開設する私設のファンカフェもありますが、事務所が運営する有料のファンクラブを持っているのは、金を出してでも入りたい人が大勢いるような、ひと握りのグループだけですので、公式のファンカフェも存在します。ファンカフェのメッカといわれているのはDaum。韓国の芸能界ではデビューするとDaumにファンカフェが立つ、というのが定番の流れとなっています。好きなトピックのファンカフェに入会して、掲示板で同好の仲間と語らうといった具合ですが、特徴的なのはファンの間に存在する階級制です」

 ファンクラブの中に上下関係があるのは日本人の感覚からすると不思議に思えるが、ファンカフェの階級制度は韓国でのヲタ活(アイドルオタク活動)において非常に重要な意味を持つという。

「事務所公式のファンカフェには、正確なイベントスケジュールなどが掲載されます。ファンカフェに入会すると、まずはみんな準会員からスタートし、そこから掲示板への書き込み、熱心なファンにしかわからないクイズに正解するなどして、正会員を目指していくことになります。なぜ、正会員を目指すのかというと、アイドル本人が降臨することもある公式カフェには、正会員しか見られないコンテンツがありますし、音楽番組の公開収録に参加するためです。韓国のヲタ活でもっともポピュラーなもののひとつがこの公開収録なのですが、これに参加するために番組側から提示される最低条件にたいてい“ファンカフェの正会員”であることが含まれるのです」(同)

 正会員になるだけでもハードルが高そうなのに、そこからさらに先着順の公開収録に臨む……このような“ガチ勢”がファンカフェの中核を担っており、その結束力や統率力は、かつて日本に存在した“親衛隊”を思わせる。ただ、その分「自分たちが支えている」という自負も強いようで、中には暴走してしまう者もいる。

「そもそも、グループのファン同士が対立しており、合同ライブなどではライバルグループに対してブーイングしたりということも以前はありましたし、ファンカフェの逆であるアンチカフェも存在します。また、韓国のアイドルへの距離感はファンがオッパ(お兄さん)やオンニ(お姉さん)と呼ぶように、日本の感覚からするとかなり近いものに思えますし、アイドルのことを公人のように見る傾向が強いと思います。これは、アイドルが何かやらかしたときに公人のような対応を求めるという意味で、ファンの要求には基本的になんでも応えるべき、という考えが強いようです。また、住所やパスポート番号など、プライバシーに関わる情報なども密かにネットに流れますし、ファンに対して文句を言うことは許されない空気があるんです。例えば昨年、iKONのメンバーであるジュネが、インスタグラムで北野武のサインの写真を投稿しました。するとファンから『北野は右翼的な思想をもつ日本人だ、そんな人物を好きだなんて公言しないほうがいい』と、苦言を呈されたんですが、彼はそこで『私は彼の映画のファンであり、思想は関係ない』といった趣旨の“反論”を行ったのです。すると、これが大炎上。批判する側のトーンが『右翼思想の日本人が好きだなんて』から『心配してアドバイスをしたファンに反論するなんて』に変わっていったのが印象的でした。最終的にジュネは手書きの謝罪文を投稿して収束しました」(同)

 このように理不尽なバッシングは日常茶飯事で、ファン=親、アイドル=子、といったような力関係が窺える。芸能人が“問題行動”を起こせば、ファンは即座に掌を返し、事務所も手がつけられないほどの制裁が加えられるのだ。

 このように、韓国芸能界はネットコミュニティと現実がリンクするが、他方でネットコミュニティの存在そのものが社会問題となることもある。その権化ともいえるのが「日刊ベストストア(イルベ)」である。

 イルベはもともとdcinsideのまとめサイトで、削除された過激な書き込みをまとめることで知られていた。それがやがて掲示板として独立した勢力になったのである。

 この掲示板でもTWICEのメンバーであるミナに対して殺害予告が書き込まれるなど、芸能人に対する悪質な投稿は多数行われているが、他のポータルサイトや掲示板と違うのは、韓国社会から「悪」と明確に名指しされ、忌み嫌われているという点である。

「イルベが有名になったきっかけは14年に起きたセウォル号事件です。当時、被害者遺族の一部が、政府に対し座り込みのハンガーストライキを起こしていたのですが、イルベ民たちは彼らの目の前に陣取り、ピザやフライドチキンを食べる“カウンター行動”を始めたのです。イルベ民の政治スタンスは保守なので、こういったリベラルな市民運動を目の敵にしているんですね。もちろん、行為そのものは激しく非難されましたが、保守的な運動は年寄りがやるものという認識が一般的だったので、参加者に若者が多かったことは韓国社会に大きな衝撃を与えました」(金氏)

 当時のハンスト現場の写真を見てみると、確かに参加者は若い男性がほとんどのようだ。顔を隠す様子などもなく、堂々とピザを囲む姿は一見ただのオフ会にすら見える。

 イルベ民の基本スタンスは保守(極右)のほか、「女性蔑視、排外主義、左派への憎悪、特定地域への誹謗」など、あらゆる差別意識の上に成り立っているが、もちろん、右派的スローガンを掲げてデモや集会を開く、日本の在特会同様、この掲示板に書き込んで過激な行動に移るのは、ごく一部のネットユーザーに限られる。

 しかし、調査会社「ニールセンコリア」によると、イルベの15年4月のモバイル基準のユニーク訪問者(UU)数は、約173万2420人で、コミュニティサイト全体の中では8位になるなど、ネット上での存在感は強い。また、ニューヨークのタイムズスクエアに故人であるノ・ムヒョン元大統領を卑下する広告を出したり、彼が表紙を飾った雑誌「TIME」の見出し「Hello, Mr.Roh」を「Go To Hell Mr.Roh」に変えたような、イルベ発の悪質なコラ画像をテレビ局がそのまま使用してしまうなど、もはや、その影響力はネットに収まりきらなくなっている。そして現実社会もまた、イルベに厳しい目を向けているという。

「5ちゃんねる用語と同じように、イルベ用語というものがあります。ネットは流行の拡散も早いので、自然とイルベを知らない人にも波及していくわけです。しかし、差別や人を揶揄する意味が根底にある言葉を知らずに使ってしまうと、社会的には許されないようで、かつて、日本でも話題になったクレヨンポップというグループのメンバーが、何気なくイルベ用語を使ったところ、せっかく決まっていた広告モデルを降板させられるという出来事がありました」(同)

 芸能人への殺害予告、女性嫌悪、左派への憎悪など、多方面に差別意識を持ち、その掲示板での投稿で逮捕者が出たり、ニュースにもなるイルベ。一方で、イルベの女性嫌悪に対するカウンターとして、逆の過激派勢力も台頭している。

「儒教や家父長制の影響もあって、長らく男尊女卑だった韓国社会ですが、とりわけ00年代から急激に変化していきます。ドラマや映画にもフェミニズム的な要素が見られるようになり、先進国並みの意識に変わっていくスピードはものすごく速かったですね。そんな中、16年に『女性だから』という理由で、男性が若い女性をメッタ刺しにした『江南通り魔殺人事件』が起こります。この事件は“女性嫌悪犯罪”と呼ばれ、大きな議論を呼びました。同時に『#MeToo』運動の気運も高まっていき、そうした動きの中で登場したのが『メガリア』や『WOMAD』などの男性嫌悪の匿名掲示板です。WOMADはもともとDaumの非公開カフェとして始まりましたが、警察の捜査を受けた後に海外サーバのウェブサイトに移転しました」(高月氏)

 誕生の経緯が似ているところも含め、イルベにとってまさに宿敵といえる存在である。しかし、「警察の捜査」というのはどういうことなのだろうか?

「この掲示板を有名にしたのは過激なミラーリングです。もともとは『男性にされたことをそのままお返しするという行為』だったのですが、だんだんそれがエスカレートして『コーヒーに不凍液を混ぜて職場の上司に飲ませた』という投稿が寄せられ、警察沙汰になりました。ほかにも『胎児が男だったので中絶した』や『保育士が男児への悪戯をほのめかした』といった投稿もあり、本流のフェミニズム団体からも非難されるようになりました。イルベとは互いのユーザーの個人情報を晒し合うなど、何回か小競り合いは起きていますね」(同)

 ネットの過激な思想に感化され、現実社会でも問題を引き起こしてしまうほど、同国の男女間の嫌悪は想像以上に深刻なようにも見える。しかし、今回取材した識者たちによると、数年前に比べると、こうした極端なネットコミュニティの求心力は薄れ、今は男女間の対立も落ち着いてきているという。

 とはいえ、ジェンダー間の課題はいまだに現実に残されている。そんな中、新たな火種となっているのが、日本でもベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)だ。

「この作品は小説という体裁でありながら、実際のジェンダー関連のデータを織り込んだりと、フェミニズムや女性解放を訴える内容です。しかし、WOMADやメガリアの影響でフェミニズムそのものにミサンドリー(男性嫌悪)的な悪いイメージがついたせいか、Red Velvetのメンバー・アイリーンがこの本を読んだと言っただけで炎上したりと、かつてほどではないとしても、いまだにネット上での男女間の対立は続いている印象を受けます。日本のアマゾンにも同書の発売前から、韓国人と思われるユーザーからの低評価レビューがありました」(DJ泡沫氏)

 実際に高月氏に同書のレビューを読んでもらったところ、明らかに韓国語から日本語に直訳したと思われる文章がいくつか見つかった。ネット上の過激派に焚きつけられた、ミソジニー(女性嫌悪)とミサンドリーの戦いは、まだまだ終わってはいないようだ。

 芸能人に対するバッシングに限らず、ネット上の思想対立が現実に及ぼす影響も、もはや無視できないレベルにまでなっている。日本でもフェミニズムが声高に叫ばれるようになった今、韓国の現状を他山の石とするべきだろう。