なにわ男子・大橋和也の「好きな小説家」の1冊を読んだら……天真爛漫キャラとの“ギャップ”がすごい!

――アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!

◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

なにわ男子・大橋和也がハマった『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』

編集・B子 最近、若手ジャニーズの勢いがすごいよね。その中でも、“本好き”としてファンに知られるSixTONES・松村北斗の愛読書『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(幻冬舎)については紹介したけど、なにわ男子・大橋和也も読書家なんだって。

ライター・保田 そうなんだ! どんな本を読むのか気になる。

編集・B子 以前、雑誌の取材で「好きな小説家」として名前を挙げていたのが、多数のミステリー作品を世に送り出している貫井徳郎。一番初めに読んで「ハマった」のが、『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』(KADOKAWA)だと明かしてた。

ライター・保田 大橋くんって、ジャニーズに詳しくない私でも「明るいキャラクター」っていうイメージがあるから、その作家と作品を選ぶのは意外! てっきり、王道エンタメ小説を好むかと思ったけど、なかなかダークな作品を選ぶんだね。

編集・B子 はっすんは「ドロドロ系」が好きって言ってるみたいだけど、『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』もそんな感じの話なの?

ライター・保田 タイトル通り「結婚」をテーマにした1話完結型のミステリー短編集だよ。ミステリーといっても派手なトリックやアリバイがあるような話じゃなくて、日常生活にひそむ男女のすれ違いや、よく知っているつもりでいた他人の心の闇を描き出して、思わずゾクッとしてしまうような作品が多い。

編集・B子 いつも明るくて太陽みたいな存在のはっすんが、そんな小説を読んでいたとは……ギャップがすごくていい!

ライター・保田 短編の一つ「見られる」は、結婚を控える女性のもとに、見知らぬ男性から執拗ないたずら電話がかかってきて……という話。ネタバレは控えるけど、問題が解決したように見えて、ラストのページで人間不信に陥るぐらいヤバい展開が待ってるの。

編集・B子 いわゆる「イヤミス」ってやつだ。ラストで展開が引っくり返される小説って、やっぱり読んでいて楽しいよね。すごく気になってきたわ。

ライター・保田 表題作の「崩れる」も、短いのにラストが鮮やかで、短編小説の醍醐味を味わえるよ。ほとんどの登場人物にひと癖あって、「嫌な人だけど、こういう人どこかにいるのかも」と思わせる人間描写のリアリティーが、作品の味になってると思う。

編集・B子 はっすんの趣味は「人間観察」だから、そういう癖のあるキャラクターが好きなのかもしれないね。ちなみに、貫井さんのほかにも湊かなえや中村文則の小説が好きなんだって。

ライター・保田 作品にもよるけど、その2人も人間のネガティブな面をえぐって、多面性や深みを出す描写が印象的だよね。大橋くんは闇を抱えた人や、そういう人が登場する話に惹かれるのかも。

編集・B子 はっすんは若いころから芸能界で生きてるし、人に対して達観しているところはありそう。天真爛漫に見えて、実は人間の裏側を見つめるクールな一面があるとか、アイドルオタクはもれなく大好きでしょ!?

ライター・保田 確かに、今かなり大橋くんに興味が湧いてる(笑)。

編集・B子 さて、『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』が好きなはっすんに、おすすめしたい本はある?

ライター・保田 人間の闇に惹かれがちな大橋くんには、『鬼の跫(あし)音』(著:道尾秀介/KADOKAWA)をおすすめしたい! 基本的には『崩れる』と同じ、1話完結型のミステリー短編集だよ。

※以下、『鬼の跫音』収録「悪意の顔」「箱詰めの文字」のネタバレが含まれます。

編集・B子 道尾さんといえば、2011年に『月と蟹』(文藝春秋)を受賞した人気作家だよね。それで、一体どんな作品なの?

ライター・保田 『崩れる』と同様に、事件や謎解きが主題ではないミステリー。読者に示される情報が巧みに計算されていて、絶妙なところで語り手の闇が明かされるから、ラストまで読んだらもう一度冒頭から読み返したくなるような作品が多いよ。

 たとえば「悪意の顔」は、語り手にとってはファンタジーを含んだ友情物語なんだけど、最後の一文をもとによく読み直すと、読者にとってはファンタジー要素なんかどこにもない、恐ろしい殺人事件のようにも解釈できる。多分どちらが正解というわけでもなくて、読者の考察に作品が委ねられているところが魅力なんだよね。

編集・B子 うわ〜、気になる! ここ数年、ミステリードラマの考察ってSNS上でも流行してるから、そのうちドラマ化されそうじゃない?

ライター・保田 短篇だから連続ドラマは難しいだろうけど、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)みたいなオムニバス形式なら、十分あり得そう。

編集・B子 はっすんが主演でドラマ化するなら、どの話がいいだろう?

ライター・保田 私が見てみたいのは「箱詰めの文字」かな。ミステリー小説家のもとに、突然若い男性が「空き巣をしてしまった」と、ざんげに来て……というストーリー。この作品の語り手は、穏やかな好青年に見えて、実は相当裏のあるキャラクターだから、“ダークな大橋和也”を存分に発揮してくれそう。

編集・B子 それ、絶対に実現してほしい。フジテレビの偉い人、ぜひご検討ください!

『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』(KADOKAWA、著:貫井徳郎)

 「崩れる」仕事もしない無責任な夫と、身勝手な息子にストレスを抱えていた芳恵。ついに我慢の限界に達し、取った行動は……。「憑かれる」30代独身を貫いていた翻訳家の聖美。ある日、高校の同級生だった真砂子から結婚報告の電話があり、お祝いの食事会に招待されるが……。家族崩壊、ストーカー、DV、公園デビューなど、現代の社会問題を「結婚」というテーマで描き出す、狂気と企みに満ちた8つの傑作ミステリ短編集。

『鬼の跫音』(KADOKAWA、著:道尾秀介)

 「犭(ケモノ)」刑務所で作られた椅子に奇妙な文章が彫られていた。家族を惨殺した猟奇殺人犯が残した不可解な単語は、哀しい事件の真相を示しており……。「悪意の顔」同級生のひどい攻撃に怯えて毎日を送る僕は、ある画家の女性と出会う。彼女が持つ、なんでも中に入れられる不思議なキャンバス。僕はその中に恐怖心を取って欲しいと頼むが……。心の「鬼」に捕らわれた男女が迎える予想外の終局とは。驚がく必至の衝撃作。

『私は私のままで生きることにした』がアイドルファンに沁みるワケ――BTS・ジョングク効果で167万部の大ヒット

――アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!

◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

BTS・ジョングクが読んだと話題の本『私は私のままで生きることにした』

編集・B子 このまえ、行きつけの本屋さんに立ち寄ったら、韓国文学のコーナーが新しくできててビックリ。今まで読んだことなかったんだけど、人気K-POPアイドルグループ「BTS」のジョングクも読んだらしいと話題になったエッセイ『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)が置いてあって、思わず買っちゃったよ。

ライター・保田 さすがミーハー(笑)。今も出版業界で続く、“韓国エッセイ本ブーム”の火付け役にもなった1冊だよね。BTSが出演したテレビ番組で、ジョングクのそばにこの本が映り込んだことで話題になり、日本と韓国あわせて累計発行167万部(2022年8月現在)のヒットになったそうだよ。

編集・B子 BTSの人気ぶり、影響力もすごいけど、それだけ売れてるってことは、そもそもこのエッセイが多くの人に刺さったってことだよね。

ライター・保田 「装丁がかわいくてプレゼントしやすい」とか、ヒットの理由はいろいろ分析されていたけど、実際に読んでみると「“旧来の普通”を生きる困難さ」に寄り添う内容が、現代を生きる人々、特に若い世代にマッチしたんだと思うなあ。

編集・B子 私も買ってからすぐ読んでみたけど、社会学者や哲学者の知見や言葉を引用しつつ、SNSの発達で加速した「他人や自分を数字で格付けする」危うさや、虚しさを悟らせるエッセイだよね。「これは自分のことかもしれない」って感じるぐらい、リアルな話題の連続。

ライター・保田 中産階級が崩壊して、一部の成功者を除いて社会階層が固定化されつつあるという点は、日本もほとんど同じだよね。不条理な世界で「みじめになりたくない、けど冷酷にもなりたくない」という著者のスタンスだったり、「世間の基準や評価に関係なく、自分を尊重する心を育て」る方法を説く点が、読者に響くんじゃないかな。

編集・B子 SNSなどではっきり人気が数値化されたり、若いうちから厳しい批判にさらされやすいアイドルにとっては、他人からの「不合理な採点に屈してはいけない」という点も深く刺さりそう。ジョングクやK-POPアイドルだけでなく、日本のアイドルにも読んでほしいと思ったよ。

ライター・保田 アイドル本人もそうだし、私たちのようなアイドルファンにも沁みる1冊かもね。……推しにプレゼントしたいな(笑)。

編集・B子 さて、『私は私のままで生きることにした』を読んだジョングクに、“次の本”としておすすめしたい1冊はある? 韓国のエッセイは一通り知っていそうだから、できれば別のジャンルがよさそうかな。

ライター・保田 じゃあ意外なところで、コミックエッセイ『プリンセスお母さん』(KADOKAWA)はどう? 作者の母「ママ子さん」を中心に、父や姉弟も含めた家族の面白エピソードを描いたコミックエッセイだよ。

編集・B子 『私は私のままで生きることにした』とは、全然内容が違くない? 絵柄的にも、かなりギャグっぽいけど……。

ライター・保田 そうそう、基本的には笑えるコミックエッセイだよ。でも、実は『私は私のままで〜』に通じるところがあると思う。というのも、ママ子さんのおふざけは、どれも「他人を貶めず自虐もしないで人生を楽しむ」っていう考えが徹底してるの。

 作中にママ子さんの「いろんな不条理のなかでも生きていかなければいけない(略)自分の心だけは誰にも支配されない」っていう言葉があるんだけど、これって『私は私のままで〜』のまんまでしょ? こっちだって、200万部くらい売れていいと思う!

編集・B子 なんか、今回はすごい熱量で勧めてくるね(笑)。

ライター・保田 ママ子さんは子どもの頃に家族関係でつらい思いをしてて、深く傷ついた時期があるの。そんな過去を経て、親子や夫婦であっても人間関係は不確かなものだと思っているんだよね。このバックグラウンドを踏まえると、ママ子さんの面白エピソードにも、「人に何かを求めて行動するよりも自分がなりたい自分に近いと思う行動をしていく」(3巻より)というポリシーが貫かれているんだなって気づかされるよ。

編集・B子 普通のギャグ漫画だと思ってたのに、そんな奥深い話だとは……!

ライター・保田 もちろん、ほのぼのと笑えるエピソードがほとんどだから、楽しく読み終えるのが一番いいと思う。でも、もし人生に迷ったり、人と比べて悩んだりしてしまう人が読んだら、真摯な考えにユーモアをまぶして昇華されているこの作品が、きっと心に響くんじゃないかな。

『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス、著:キム・スヒョン/訳:吉川南)

 私たちはみんな、ヒーローになること、特別な何者かになることを夢見ていた。だけど今では、世界どころか自分を救うことに必死な大人になってしまった。中途半端な年齢、中途半端な経歴、中途半端な実力をもつ、中途半端な大人になった私たちは、誰もが大人のふりをしながら生きている。本書には、今を生きる普通の人へのいたわりと応援を詰め込んだ。何が正解なのかわからない世の中で、誰のまねもせず、誰もうらやまず、自分を認めて愛する方法を伝えたい。

『プリンセスお母さん』1〜3巻(KADOKAWA、著:並庭マチコ)

 豪華なホテルに泊まると「私の城へようこそ」ともてなし、醤油さしをしゃべらせ、推しのポールをこよなく愛する母・並庭“カトリーヌ”ママ子。彼女の自由奔放な行動が今日も波乱を呼ぶ! 抱腹絶倒、だけど家族愛に満ち溢れた並庭家の日常! 娘が語る、ちょっと(?)不思議な母と家族の爆笑実録ギャグコメディ!

乃木坂46・齋藤飛鳥の愛読書に“セクシャルなテーマ”がある? 『夜のミッキー・マウス』読んでみた

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◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

乃木坂46・齋藤飛鳥の愛読書『夜のミッキー・マウス』

編集・B子 「サイジョの本棚」ではここ最近、ジャニーズタレントの愛読書などを取り上げてきたけど、保田さんが好きな女性アイドルの中にも、読書家っているの?

ライター・保田 パッと思いついたのは、乃木坂46・齋藤飛鳥かな。講談社の書籍やコミックなどを紹介するキャンペーン「World meets KODANSHA」に参加していて、出版社側からも“本好き”だと認識されているみたいだよ。

編集・B子 へ〜、それはすごい! もちろん、乃木坂46も齋藤飛鳥も知ってるけど、そこまで読書好きだとは知らなかった。

ライター・保田 ファンの間では、コンサートのリハーサルや撮影の休憩時間にも本を開くほどの読書家として知られている。そんな“あしゅ”の愛読書のひとつが、谷川俊太郎の『夜のミッキー・マウス』(新潮文庫)。ちなみに、文庫版には書下ろしの詩「闇の豊かさ」が収録されてるから、こちらがおすすめかな。

編集・B子 谷川俊太郎って、押しも押されもせぬ現代詩人の代表的存在だよね。アイドルが仕事の休憩中に詩集を開くなんて、ちょっと話ができすぎてるというか、夢のような光景(笑)。斎藤さんって、おしとやかな子なの?

ライター・保田 いやいや、「詩をたしなむ=おしとやか」とは言い切れないよ! 特にこの作品には、セクシャルなテーマだったり、女性器の名称がタイトルになってる詩も収録されてる(笑)。でも、思わず声に出して読みたくなるような詩ばかりで、日本語の美しさをじっくり味わえる作品なんだよね。

編集・B子 え〜!? いきなり斎藤さんのことがわからなくなったんだけど! 目次を見てみると、表題の「夜のミッキー・マウス」のほかにも、「朝のドナルドダック」とか「百三歳になったアトム」とか、誰でも知っているようなキャラクターがモチーフにされた詩もあるんだね。なんかこの詩集自体、私が想像している詩集とは全然違うのかも。

ライター・保田 あしゅはかわいらしいし、ダンスもしなやかで上手。グループへの愛が深いところも人気だけど、彼女の文章を知って、ますます惹かれる人も多いんじゃないかな? あしゅの文才の一端は、公式ブログでも垣間見ることができる。ブログの本文は誰でも読みやすいように書かれているけど、タイトルが独特で面白いんだよ。

編集・B子 ホントだ、8月10日更新のブログは、本文なのかと思ったところがタイトルだ……。「肋骨にのめり込む頭と聞くと、痛々しい姿を想像するかもしれない」という書き出しからまだまだ続くけど、本文を読むと、この日が斎藤さんの誕生日で、ファンに感謝してる内容。タイトルと中身が全然関係ない!(笑)

ライター・保田 そう、割といつもこんな感じ(笑)。あしゅはいろんな本を読んでいるけど、谷川さんの詩も、彼女の独特な感性や文章に影響を与えているんじゃないかなと思ってる。ファンの方々はそんな視点で『夜のミッキー・マウス』を読むと、ますます面白いはず!

編集・B子 『夜のミッキー・マウス』は詩集だけど、齋藤さんに小説をおすすめするなら、どんな作品がいいと思う?

ライター・保田 澁澤龍彦や安部公房の作品を愛読書に挙げるあしゅは、すでに確立された自分の世界を持っていると思うので、おすすめするのはおこがましいけど……。多忙で新作はチェックしきれていないと予想して、今年2月に出版されたばかりの、永井みみ著『ミシンと金魚』(集英社)を推したい!

編集・B子 この人って、去年「第45回 すばる文学賞」を受賞してデビューしたばかりの作家さんだよね? デビュー作の『ミシンと金魚』で「第35回 三島由紀夫賞」にもノミネートされて、話題になってたのを見たよ。まさにこれから注目の人だ。

ライター・保田 ケアマネジャーとして働く永井氏によって書かれた本作は、認知症を患う女性「カケイさん」が日常や半生を語る小説。カケイさんの一人語りは、高齢者特有の滑舌が甘くなっているところもそのまま書かれていて、独特の味わいを持った魅力的な文体になっているの。谷川俊太郎の詩集のように、日本語の美しさや楽しさを感じられる作品だと思う。

編集・B子 実体験に基づいたお話っぽいね。一体どんなストーリーなの?

ライター・保田 自宅とデイケアサービス、病院を往復する日々を過ごすカケイさんが、ある人に「これまでしあわせでしたか?」と問われたことをきっかけに、まま母に受けた暴力や失踪した夫、兄や子どもの死など、自身の過去を語り出すの。そして、来たるべき自分の死に立ち向かう……という話。

編集・B子 なんか、こう言っちゃなんだけど、あらすじを聞くと結構重そうな内容だね……。

ライター・保田 そうだね、特に過去のパートは重い。でも、これがカケイさんの話し言葉でつづられることで、明るさや優しさが自然と染み込んできて、どんどん読み進めたくなるんだよね。

 序盤のカケイさんは、認知症を患った老女の定型のように見える。静かにしなきゃいけないところで黙っていられなかったり、現在のことはすぐ忘れちゃったり。でも、カケイさんが語る過去のエピソードは鮮やかで、彼女の印象がどんどん変わってくるんだ。つらいことの多い過去だけど、その中でも優しく美しい思い出が光っていて、1人の人間として、人生の奥行きを感じさせてくれる。

編集・B子 カケイさんの「語り」だからこそ、物語にグッと入り込めるのかもね。

ライター・保田 読み終えるころには、カケイさんがすごくチャーミングに見えるし、彼女の人生を心から肯定したくなる。それって、自分にもいずれやってくる「老い」をも肯定することに近いんだと思ったよ。だから、齋藤さんはもちろん、老いや認知症の話なんて自分にはまだ無関係だと思っている人、もしくは、あまり直視したくないと思っている人にも勧めたいな。

編集・B子 最近、脂っこいものが受け付けなくなって「老い」を感じてたけど、そんな自分も肯定できそう。未来の自分に会いに行くような気持ちで、私も読んでみようかな!

『夜のミッキー・マウス』(新潮文庫/著:谷川俊太郎)※文庫版がおすすめ!

 詩人はいつも宇宙に恋をしている。作者にも予想がつかないしかたで生まれてきた言葉が、光を放つ。「夜のミッキー・マウス」「朝のドナルド・ダック」「詩に吠えかかるプルートー」そして「百三歳になったアトム」。ミッキー・マウスもドナルド・ダックもプルートーもアトムも、時空を超えて存在している。文庫版のための書下ろしの詩「闇の豊かさ」も収録。現代を代表する詩人の彩り豊かな30篇。

『ミシンと金魚』(集英社/著:永井みみ)

 「第45回 すばる文学賞」受賞作。認知症を患うカケイの視点で進む物語。カケイは、ある時病院の帰りに「今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と尋ねられ、来し方を語り始める。暴力が身近だった幼少期、娘や息子の死——。暴力と愛情、幸福と絶望、諦念と悔悟……絡まりあう記憶の中から語られる「女の一生」。

A.B.C-Z・戸塚祥太の愛読書『人間』読んでみたら、ジャニーズJr.時代の“坊主”姿を思い出したワケ

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◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

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A.B.C-Z・戸塚祥太の愛読書:『人間』

編集・B子 最近さ、読書好きで知られるA.B.C-Z・戸塚祥太が、ピース・又吉直樹の話ばっかりしてるの。ファンの間では、突然ラジオで関西弁をしゃべりだしたり、髪の毛を伸ばしたりしてるのも、「又吉の影響じゃないか」とささやかれているぐらい。

ライター・保田 言わずもがな、又吉さんはお笑い芸人でありながら、2015年にデビュー作『火花』(文藝春秋)で「第153回芥川龍之介賞」を受賞し、作家としても大活躍の人ね。確かに、戸塚さんのプロフィール写真を見ると、“又吉リスペクト”を感じる(笑)。

編集・B子 今年の春に『人間』(毎日新聞出版)が角川文庫から文庫化された時、公式携帯サイト・Johnny’s webの個人ブログ「guerrilla love」で「祝杯だー!」って大喜びしてた。19年に『人間』の単行本が発売された時点で、あらゆるメディアで「愛読書」として紹介してたから、私も気になって読んでみたよ。

ライター・保田 いろんなテーマが含まれた長編だけど、美術の専門学校に通う主人公・永山が、芸術家を志す同世代の男女と共同生活を営む中で起こった苦いエピソードがメインになる第1章は、戸塚さんに刺さりそう。若いころから芸能という表現の世界で生きていて、うまくいく同世代に嫉妬したり、挫折したり、不用意に自意識を削り合って疲弊したような経験があるんじゃないかと思って。

編集・B子 とっつーはジャニーズJr.時代、突然“坊主”にして、ファンの間で大騒ぎになったことがあるのよ。のちに「Myojo」2013年8月号(集英社)のインタビューで理由を明かしてるけど、稽古中に「俺、いてもいなくても変わんないんじゃないか」「特別、五関(晃一)くんみたいに振り付けができるわけでもない」「俺は、表舞台に立つのは向いてない」と思い、ジャニーズを辞めようと決心して、坊主にしたんだとか。

 結果的に、メンバーのことを考えて踏みとどまったそうだけど、このエピソードと『人間』の永山は重なるかも。

ライター・保田 表現者じゃなくても、「自分は特別な人間であるはずだ」っていう自意識と現実がズレることって、若い頃は特に経験しがちだよね。『人間』は、青春時代の失敗や挫折が色濃い人ほど、序盤からぐっと引き込まれると思う。

編集・B子 『人間』は4章構成になってるんだよね。ざっくり整理すると、1章は永山の学生時代がメイン、2章は永山の現在と、芸人で小説家の「影島道生」が学生時代の親友「奥」であることに思い至る流れがつづられて、3章で影島との再会や、影島の記者会見の一部始終、4章は永山が両親の住む沖縄で過ごした日々が描かれてる。

ライター・保田 私は「青春の終わりと『その後』」を書いた作品だと感じたけど、複数のテーマが盛り込まれているから、読み込めば読み込むほど、いろんな解釈ができるように書かれているんだよね。そのうえ、文庫化にあたって1万字も加筆されているから、戸塚さんが「祝杯」をあげたくなる気持ちはよくわかる(笑)。

編集・B子 2章で学生時代の恋人・めぐみと再会した時、永山が1章で語ってきた回想と微妙にズレた会話が進むところは、叙述ミステリーみたいで面白かった。会話の相手がさらっと別の女の子になってたり、読んでて「あれ?」ってなるの。

ライター・保田 そこを読むと、かつての親友・影島と偶然再会する場面も、「永山は本当に再会したの?」って疑っちゃうよね。両親の出身地も同じで、どちらも歯を失ってたり……「どちらかの内省のために生み出された、仮想の存在では?」と思っちゃう。再会してないと矛盾するところも出てくるから、答えはないんだろうけど。

編集・B子 とっつーの愛読書でもある太宰治の『人間失格』(筑摩書房)や、ゴッホ作品の引用を見つけた時はテンション上がった。もっと読み込んで、とっつーと“考察合戦”やりたいわー!

編集・B子 さて、『人間』を読んだとっつーにおすすめの本を教えてほしいんだけど、読書家なのに、女性作家の名前を挙げることが少ない気がするんだよね。

ライター・保田 それなら、劇作家でもある本谷有希子の初期作『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(講談社)をおすすめしたい。「自分には唯一無二の演技の才能がある」っていう強烈な自意識を持っている俳優志望の女性が、登場人物を振り回す中編小説。笑ってしまうくらい強めに戯画化されてるから、読み心地は『人間』とはかなり違うんだけどね。

編集・B子 もともと舞台作品で、2007年には佐藤江梨子、永瀬正敏、永作博美ら出演で映画化もされてるんだ。どんな話なの?

ライター・保田 俳優を目指して上京していた澄伽(すみか)が、両親の死を機に田舎に帰省することから始まる。両親の死に全く悲しむ様子のない澄伽と、彼女に異様におびえる妹の清深(きよみ)、寡黙だけど妻に対して横暴な兄・宍道(しんじ)、彼に献身的に従う愚鈍な妻・待子(まちこ)……っていう4人が、普通の日常を続けながら感情をもつれさせて、非日常にたどり着いてしまう話。じめっとしているようで、最終的に突き抜けた爽快感を感じられるよ。

編集・B子 「自分には唯一無二の演技の才能がある」と思っている澄伽って、そのまんま『人間』の永山みたい。

ライター・保田 そうなのよ。で、その「自分は特別である」という強烈な自意識がもろく崩れる様子や、表現衝動と人間性を天秤にかけていいと思っている澄伽の危うさは、『人間』が響いた人なら間違いなく楽しめるはず。情景一つひとつのコントラストが鮮やかで、日常生活が舞台なのに幻想的な光景が浮かび上がるのも、『腑抜けども』の魅力だと思う。

編集・B子 てか、とっつーは本谷作品自体が好きそうだな(笑)。「劇団、本谷有希子」からのオファー、待ってます!

『人間』(角川文庫/著:又吉直樹)※文庫版がおすすめ!

 大人になっても青春は、痛い。38歳の誕生日に1通のメールが届いた。呼び起こされる痛恨の記憶と目前に立ち上がるあの日々の続き――。

「神様はなんで才能に見合った夢しか持てへんように設定してくれんかったんやろ。それかゴミみたいな扱い受けても傷つかん精神力をくれたらよかったのに」。

 何者かになろうとあがいた青春と何者にもなれなかった現在、上京以降20年の歳月を経て永山が辿り着いた境地は? そして「人間」とは? 又吉直樹の初長編小説に、単行本では描かれなかった新たなエピソードを加えて待望の文庫化。

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(講談社/著:本谷有希子)

 「あたしは絶対、人とは違う。特別な人間なのだ」――。女優になるために上京していた姉・澄伽(すみか)が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。その日から澄伽による、妹・清深(きよみ)への復讐が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を晴らすために……。

加藤シゲアキの「人生を変えた1冊」読んでみた! NEWSの運命が変わっていたかもしれない言葉も

——アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!

◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

NEWS・加藤シゲアキの人生を変えた1冊:『寝ながら学べる構造主義』

編集・B子 NEWSの加藤シゲアキが、ここ数年、いろんな取材で『寝ながら学べる構造主義』(文藝春秋/著:内田樹)をおすすめしてて、前から気になってるんだよね。「人生を変えた本」として挙げたこともあるくらいなんだけどさ、シゲはジャニーズが誇る“作家先生”だし、そもそも「構造主義」って何? って感じだし、なかなか手をつけられなくて。保田さんは読んだことある?

ライター・保田 20世紀を代表する哲学思想「構造主義」の概要と歴史について、やさしい言葉で学べる名著だよね。「構造主義? 聞いたことない」みたいな状態から読み始めても大丈夫なはず。

編集・B子 シゲはほかにも、おすすめの本として『哲学用語図鑑』(プレジデント社/著:田中正人)や『断片的なものの社会学』(朝日出版社/著:岸政彦)なんかを挙げていたこともあるのよ。とにかく物事を学ぼうとする姿勢だけでなく、世界をちょっと斜めから見ているような、シゲらしいラインナップだなあと思ってる(笑)。

ライター・保田 構造主義は、ざっくり言うと“私たちが「常識」「正義」だと思っているものは、その時代、国や地域、属する社会集団の常識であって、普遍のものではない”という考えを基にして展開する思想。『寝ながら学べる構造主義』の著者も述べているけど、これって、現代人の多くが、すでに身につけている感覚ではあるんだよね。

 哲学に苦手意識がある人でも、ぼんやり認識していることが明確に言語化されて、整理される快感が味わえるんじゃないかな。「自分も他者も等しく同様に、認知の歪みや限界がある」と気づけることは、そのまま他者理解にもつながると思うし。

編集・B子 確かに、シゲはこの本を通して「他人のこともより理解できるようになった」って言ってた。きっと、NEWSメンバーや仕事仲間への理解が深まったんだろうね。作家としての土台にもなったのかも。

ライター・保田 同書の中では、思想家・レヴィ=ストロースの知見として、グループ(社会集団)で他者と共生する「暗黙のルール」は、「変化し続けること」と、自分が「欲するものは、まず他者に与えなければならない」と解説している。この辺り、グループで活動する人には、特に響いたんじゃないかな。

編集・B子 言いたいことはなんとなくわかるけど、NEWSはメンバーが変化し続けて、デビュー当時の9人から3人に減ってるのよ。だから、「他者と共生」できたかどうかは……(苦笑)。デビュー当時にメンバーがこの本を読んで、「欲するものは、まず他者に与えなければならない」を意識していれば、NEWSの運命も変わってたりして。

ライター・保田 本の内容はとてもここでは語り尽くせないけど、対人関係とか、集団の関係性について考えたい時に、知っていて損になることはないと思う。個人的には、特に“名文”といわれる「まえがき」と「あとがき」だけでも読んでみてほしい!

編集・B子 では、『寝ながら学べる構造主義』を読んだシゲに、おすすめしたい本はある?

ライター・保田 読書家としても有名な加藤さんに本を勧めるのは気が引けるけど、『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版/著:岡田憲治)は好きそうだと思った。政治学の教授である著者の岡田氏が、どうしても断りにくい状況に追い込まれて、小学校のPTA会長を務めた怒涛の3年間を振り返るエッセイなんだけど、近刊だからまだチェックしてないかも。

編集・B子 PTAの問題って、子どもがいる家庭にとっては人ごとじゃないよね。でも、シゲは今のところPTAとは無縁だし、ピンと来ない気もする。

ライター・保田 だからこそ、「PTA」っていう“名前は知ってるのによくわからない世界”の一端を知る入口になる本かなって。岡田氏も、PTAについてほとんど知らないのに、会長に推薦されてしまうの。だからむしろ、PTAについて知らない人ほど、岡田氏の戸惑いに共感できるだろうし、「政治学」のフィルターを通してPTAが語られることで、新しい学問を知る取っ掛かりにもなりそう。

編集・B子 “シゲと政治”で思い出したけど、2016年に当時の安倍晋三政権を強く批判した学生団体「SEALDs」について、雑誌のインタビューで「すごく賛同できます」と語ったことがあった。アイドルのみならず、芸能人が政治に触れるのは“タブー”のようにされてきたし、当時はネットが大炎上したの。

 でも、昨年10月の衆議院選挙前に、多数の芸能人が投票を呼びかける「#わたしも投票します」というYouTube動画が公開されて、こちらはいい意味で話題になった。今回の参議院議員選挙でも、長澤まさみや池田エライザ、北村匠海らがこの動画に出演してて、“芸能人が政治を語ること”も普通になってきそうだよね。今だったら、シゲの発言もあんなに炎上しないはず(笑)。

ライター・保田 そういえば、そんなことあったね〜。やっぱり、これは加藤さんにピッタリの1冊かも。一方で、単純にエッセイとしてもドラマチックで面白いよ。著者は、PTAが「多くの人たちが『さほどそれでいいと思っているわけでもない』のに、誰が作ったのかもよく分からない決め事に縛られて苦しそう」な組織に見えていて、変革したいと思っている。

 だけど、PTAの古参役員たちから見れば、それは「自分たちが頑張って作り上げたものを壊そうとしている」ように見えてしまって、当初はぎくしゃくしてしまうんだよね。

編集・B子 どちらも悪意があるわけではないのに、自分を「正義」だと思ってるから、お互いが悪く見えちゃう……って感じ。PTAじゃなくても、よくある話だなあ。

ライター・保田 最終的には相互理解が進んで、協力体制がとれるチームが出来上がるんだけどね。そういう意味では、『寝ながら〜』で学んだ構造主義を、PTAという身近な事例に置き換えて復習できる本かもしれない。前述の「欲するものは、まず他者に与えなければならない」という論も、このエッセイに適用できるところがあるし。

編集・B子 私の周りにも、PTAとの関わりで悩んでる人って多いんだよねえ。そういう人にとって支えになるエッセイになりそう。

ライター・保田 コロナ禍で直面した学校と保護者の戸惑いや葛藤も、つぶさに描かれているよ。著者が「間違いと、思い込みと、(略)挫折の連続」と語るように、成功エピソードだけではなく、自身の失敗や勇み足がつづられているところも役立ちそう。成功した理由より、うまくいかなかった理由から学ぶことのほうが多かったりするし。

編集・B子 シゲにもぜひ読んでもらって、今後の執筆活動の参考になるといいね。

『寝ながら学べる構造主義』(文藝春秋/著:内田樹)

 現代思想の代表といわれる「構造主義」。解説書を手にとれば、そこには超難解な言い回しや論理の山……。そんな挫折を味わった、「本物の初心者」に向けた構造主義入門書。フーコー、バルト、レヴィ=ストロース、ラカンといった構造主義の主唱者たちは、要するに何が言いたかったのか、そもそも構造主義が生み出された背景には、どんな思想家たちの系譜があったのか。「思想の整体師」の異名をもつ著者による解説書決定版。

『政治学者、PTA会長になる』(毎日新聞出版/著:岡田憲治)

 小学生の保護者たちの胸をざわつかせる「PTA」の存在。そんな場所にうっかり義憤に駆られて、政治学者が踏み込んだら……? PTAを見てみたら浮かび上がってきた、「スリム化」を阻むものの正体、「やめよう!」が言えない大人たち、「廃止」が必ずしもベストではない事情……。そして、コロナで学校が閉ざされた時、PTAが果たした役割とは? 今の時代に合うPTAの形とは、続ける意味とは何か? 身近な自治の場「PTA」での著者の1,000日を通じて考える、私たちの「自治」の話。

相葉雅紀が読んだ『錦繍』は、嵐のいまと重なる!? 「別れと再会」の物語を味わう

――アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!

◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

嵐・相葉雅紀が読んだ1冊:『錦繍』

編集・B子 この前、嵐・相葉雅紀がラジオ『嵐・相葉雅紀のレコメン!アラシリミックス』(文化放送)で、『錦繍』(新潮社/著: 宮本輝)を読んだって言ってたの。私は聞いたことない作品だったんだけど、保田さんは読んだことある?

ライター・保田 うわあ、懐かしい作品! 芥川賞受賞作家・宮本輝の人気作品の一つだし、もちろん読了済みだよ。書簡(手紙)形式で進んでいくから読みやすいと思うけど、もう40年も前に発売された本を手に取るなんて、ちょっと不思議。相葉さんって読書家なの?

編集・B子 それが、相葉ちゃんは嵐の活動休止後に小説を読み始めたらしく、読書にハマったのはここ2〜3年の話みたいよ。ちなみに、今までラジオなんかで「読んだ」と明かしていた本は、宮部みゆきの『模倣犯』(小学館)、奥田英朗の『最悪』(講談社)といった、過去の名作が多い。

ライター・保田 「今話題の本」じゃなくて、「読書好きの定番本」から読み始めてるんだね。まずは基礎から固めていくみたいな、相葉さんの真面目さを感じるよ。

編集・B子 相葉ちゃんの冠番組『相葉マナブ』(テレビ朝日系)を見てると、料理やものづくりに一生懸命取り組む姿が印象的で、まさに“真面目な好青年”。本のチョイスにも、性格が表れるもんだね〜。それで、『錦繍』ってどんな話なの?

※以下、『錦繍』の結末についての言及があります。

ライター・保田 とある事件をきっかけに離婚して音信不通だった元夫婦が、偶然の再会をきっかけに手紙をやりとりする話。前夫・有馬の住所を探し当てた女性・亜紀の手紙から始まって、過去に有馬が起こした事件、そこからの唐突な別れ、お互いの心境の変化を手紙につづり合っていくの。

編集・B子 なるほど、「別れと再会」の話なんだ。そういえば、嵐活動休止前の2019年、『24時間テレビ42』(日本テレビ系)の中で相葉ちゃんがメンバーに手紙を朗読するシーンがあったのよ。20年間の活動を振り返りながら、嵐のメンバーを「最愛のパートナーです」と言ってて、すごく感動したんだよね。活休後に『錦繍』を読んだって知ったら、作品のストーリーと嵐を重ねちゃう。

ライター・保田 手紙を出した亜紀は、もう別の男性と結婚しているんだけど、有馬との別れをうまく消化できてないんだよね。最初は「お返事をいただくためにお出しする手紙ではありません」とか書きながら、次にはもう「主人は今月の末から三カ月間の予定でアメリカにまいります」って書いて、さりげなく有馬と会う隙を見せていたり、未練があるのかなって私は解釈した。

編集・B子 おお、なんか急に昼ドラっぽくなった(笑)。で、2人の関係はどうなるの?

ライター・保田 相手の未練や罪悪感をしっかり乗り超えて、それぞれ新たな人生の目的を持ち、お互いの幸せを願いながら別々の道を歩んでいくの。

編集・B子 ウッ、その結末は嵐と重ねたくないぞ……。

ライター・保田 でも、離れていても2人がお互いを思い合っている姿は、いまの嵐メンバーのようじゃない? きっと相葉さんも『錦繍』を読みながら、メンバーを思い出したはずだよ。 

編集・B子 今は5人それぞれの目標や、やりたいことに向かってバラバラに歩んでいるけど、ぜひファンの幸せのために、また同じ道を進んでいってほしいなあ。

編集・B子 さて、『錦繍』を読んだ相葉ちゃんにおすすめするなら、どんな本がいいかな? さっき「まずは基礎から固めていくみたいな、相葉さんの真面目さを感じる」チョイスだと言ってたけど、その“基礎”ともいえる作品や作家は、個人的にも気になる。

ライター・保田 『模倣犯』や『最悪』を読んだ相葉さんは、エンタメ系が好きなのかなと想像して、伊坂幸太郎作品を推したい! あまり読書をしない人でも、楽しく読める作家じゃないかな。

編集・B子 伊坂幸太郎は、生田斗真やHey!Say!JUMP・山田涼介が出演した映画『グラスホッパー』(15年)の原作者だよね。最近も、海外の文学賞にノミネートされたってニュースを見たよ。

ライター・保田 そうそう。英・ダガー賞にノミネートされた『マリアビートル』は、『グラスホッパー』(どちらも角川書店)と同じシリーズなの。同作は『ブレット・トレイン』としてブラット・ピット主演で映画化が進んでいて、今年公開予定みたい。ストーリー構成の巧みさは世界レベルのお墨付きっていっていいんじゃないかな。

編集・B子 でもさ、シリーズものって読書初心者にはハードル高くない!? 相葉ちゃんはきっと、「1冊で伊坂幸太郎の面白さがわかる」って作品を読みたいはず!

ライター・保田 ちょっと待って、答えを急ぐな(笑)。私が相葉さんにおすすめしたいのは、伊坂幸太郎の連作短編集『死神の精度』(文藝春秋)。主人公の男性「千葉」は、人の死を判断するためにこの世界に派遣された死神という設定で、この仕事を通して、いろんな人の人生と死に触れていくの。

編集・B子 へえ〜。ちょっとファンタジー要素もありそう。

ライター・保田 千葉は、人間世界に興味は薄いけど、人間の作る「ミュージック」が大好きで、音楽が作品のスパイスのような役割を果たしている。さらに、千葉がこの世界に現れるときは常に「雨」っていうところが、嵐を想起させるかなって。

編集・B子 そういえば、嵐・櫻井翔は「5人で仕事すると雨になる」って言ってた。実際、コンサートの日程に台風が直撃して延期になったり、国立競技場の公演で大雨が降ったり、大きなイベントで嵐を呼びがちなんだと思う(笑)。しかも、相葉ちゃんの出身は「千葉」だし、「ミュージック」が大好き……なんか、共通点が多い気がしてきた。

ライター・保田 人間ではないキャラクターをメインに据えて、人の生死を俯瞰させることで、伊坂作品が持つ「普遍的な優しい視点」がストレートに表れた作品だと思う。まさに、この1冊で伊坂幸太郎の面白さがわかるんじゃないかな。

編集・B子 短編集だったら、忙しい相葉ちゃんでも読みやすそう。『死神の精度』はいろんな面から見て、相葉ちゃんにぴったりの作品だね。

ライター・保田 ほかには、「別離」の物語であるカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(早川書房)や、『錦繍』と同じ書簡形式で進むけど全然内容が違う、森見登美彦『恋文の技術』(ポプラ社)もおすすめ。ちょっと趣向を変えて、本読みのプロ2人が20世紀のベストセラーを読み倒す対談書評集『百年の誤読』(筑摩書房)は、次に読みたい本を探せていいかも。

編集・B子 相葉ちゃんがどんな本を選ぶか、これからも注目してこ〜!

『錦繍』(新潮社/著:宮本輝)

 「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛し合いながらも離婚した2人が、紅葉に染まる蔵王で10年の歳月をへだてて再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書きつづる――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

『死神の精度』(文藝春秋/著:伊坂幸太郎)

 CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない――そんな人物が身近に現れたら、死神かも。1週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌8日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う6つの人生。

SixTONES・松村北斗の愛読書『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』を読んでみた! キーポイントは「父子関係」と「夢への理解」?

――アイドル好きのブックライター・保田と編集部員・B子が、タレントたちの“愛読書”を片手に、人となりを妄想中!? 「サイジョの本棚」前で、おしゃべりが始まります!

◎ブックライター・保田 アラフォーのライター。「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部員・B子 猫と暮らすアラサー。芥川賞、直木賞、本屋大賞あたりを一通りチェックしたい、ミーハーな本好き。最近はノンフィクションばかり読んでいる。趣味(ジャニーズオタク)にも本気。

SixTONES・松村北斗の愛読書:『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』

編集・B子 保田さん、SixTONES・松村北斗の愛読書『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(幻冬舎)は読んだ? 俳優・安田顕が、自身の父・弘史さんの思い出を中心に、家族や幼少期のエピソード、そして自身が親になった感慨をつづるエッセイだけど、どうだった?

ライター・保田 正直、安田さんについては“TEAM NACS所属の、演技が上手な俳優”くらいの知識しかない状態だったけど、単純に面白かった! 父・弘史さんをはじめ、家族がみんな個性豊かで、まるで昭和の室蘭を舞台にした朝ドラを1本通して見たような読後感。弘史さんの少年時代のエピソードや、祖父の話から室蘭が造船業や製鉄業で栄え、衰退していく地域の戦中戦後史も垣間見えたなあ。

編集・B子 私も読んだけど、単なる“ほっこり家族エッセイ”じゃなかったよね。その理由は、弘史さんがちょっと破天荒なお父さんだったからかな〜と思った。

ライター・保田 “その筋”の人に「どこの組ですか?」と聞かれるくらい強面なのに、お風呂に入る前、裸のまま居間で踊ったり、ふざけたりして小さな息子2人を喜ばせるところとか、基本的には心優しい人なんだよね。ちょっとお酒に飲まれすぎなのが気になるけど……。でも、清濁あわせのむような大らかさが、この本の魅力を深めているんだろうなあ。

編集・B子 ちなみに、弘史さんが顕さんに言って聞かせた「(酒は)浴びるほど、ほどほどに」は、好きな物事に対する姿勢として、ほっくんの座右の銘になっているらしい。“自分を労わりつつも、やりたいことはとことんやれ”って意味で言ったみたいだよ。ジャニーズJr.時代、ほっくんがインタビューで「一番の興味はお芝居」と話してたのを覚えてるけど、とことんやった結果、朝ドラ俳優になったんだからすごい。

ライター・保田 エッセイで書かれているのは何十年も前のことで、当事者たちが笑って話しているので穏やかに読めるけど、妻(当時は恋人)が頑張って貯めていたお金を勝手に持ち出して飲みに使うエピソードなんて、「本当に最悪!」って思った(笑)。でも、1冊通して読むと、顕さんが濃い愛情の中で健やかに育てられて、家族の仲がいいのも伝わるんだよね。

編集・B子 確かに、ちょっと引いちゃうようなエピソードもあるけど、私は弘史さんが「子供に手を上げない」「子供にはなんも、叩かれる理由がない。暴力ふるわれる理由がないんだよ」と、しっかりポリシーを持っているところで安心したかな。当たり前のことだけど、残念ながら、線引きできない親って結構いるから……。

ライター・保田 私は、家庭環境などで若いころは鬱屈していた弘史さんが、クラシック音楽に感動して、人生を大きく変えたエピソードが印象的だった。弘史さんは、舞台に立ったり、映画や音楽を熱心に楽しんだり、芸術やエンタメが人生に与える力を信じているようで、そういう背景があったから、会社を辞めて俳優を目指した息子にも、きっと理解があったんじゃないかな。

編集・B子 一部報道によると、ほっくんはデビューの確約があったわけではないJr.時代に、お父さんが家や車を売って、仕事も変えて、家族で上京しているんだとか。破天荒な中に優しさがある弘史さんとほっくんのお父さんって、なんとなく似ている気がしてきたね。このエッセイを読みながら、ほっくんは自分のお父さんを思い浮かべたんだろうな〜。

ライター・保田 家族が息子の夢に理解があるところも、共感できたポイントかも。いい父子関係だったことが想像できて、勝手にほっこりしちゃうね。松村さんの愛読書になった理由が、ちょっとわかったような気がする!

編集・B子 ところで、『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』を愛読しているほっくんに1冊おすすめするなら、どんな作品がいいと思う?

ライター・保田 著名人が家族の思い出をつづるほっこり系エッセイは、これまでリリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(扶桑社)、島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』(徳間文庫)など、数々のヒット作が生まれてる。だけど、ここはあえて、あらゆる意味で「逆」を描いた吉川トリコの小説『女優の娘』(ポプラ社)を推すよ!

編集・B子 「あらゆる意味で『逆』」って、どういうこと?

ライター・保田 『女優の娘』は、母がポルノ出身女優として一世を風靡した赤井霧子であることを隠して、アイドルグループに所属していた娘・斉藤いとの物語。母が死んだことで、自身が「ポルノ女優の娘」だと報道され、一気に注目を集めてしまうんだよね。この母が、お酒に飲まれすぎる女性で、でも、明るくふざけることが大好きで……『室蘭〜』の弘史さんと通じるところがあると思って。

編集・B子 なるほど。確かに『室蘭〜』は父と息子の話だったけど、『女優の娘』は母と娘の話なので「逆」だね。一方で、いとがアイドルだという点は、ほっくんにも重なりそう。

ライター・保田 アイドルとしてのいとは、毎月「人気投票」でランク付けされていて、そこから生まれるドラマを、「ドキュメンタリー」としてファンに消費されている。そんな彼女が、自分の父かもしれない映画監督と共に、母のドキュメンタリー製作に関わることで、それまで避けていた「ポルノ女優であり母である赤井霧子」と、自分の関係性を見つめ直すことになる――というストーリー。

編集・B子 歌やダンスだけじゃなく、個人のバックグラウンドまでもが「ドキュメンタリー」として消費されていくなんて、現実のアイドルと同じじゃん! ジャニーズに「人気投票」はないけど、CDの売り上げやYouTubeの再生回数など、最近は特に“数字”が人気の基準みたいになっているから、他人事とは思えないわ。

ライター・保田 女性アイドルと男性アイドルとのグループ交流シーンは、「現実も似たようなものだろうな……」と思わせるリアルな描写で。私やB子のようにアイドル大好きな人が読むと、身を切られるような楽しみが味わえるかも(笑)。

編集・B子 ちょっと待って? そんな作品を現役ジャニーズに勧めて、本当に大丈夫なの!?

ライター・保田 エッセイとフィクションという点で簡単に比較するべきではないけど、『室蘭〜』と『女優の娘』は、「父と息子/母と娘」「地方/都会」「昭和/平成(令和)」など、さまざまな構成要素が点対称を成している作品だと思うだよね。だから、読み比べることで、『室蘭〜』の新たな面も見つけることもできそうだなと。

編集・B子 なるほど、「書籍のシンメ」みたいな感じ! 一緒に読むことでそれぞれの面白さが引き立つだけでなく、理解も深まりそうだね。

ライター・保田 生き方を含めて商品化されてしまうアイドルという職業のヒリヒリした葛藤、それでもやめられないステージの魔力、そして、アイドル仲間との友情が描かれた爽快な青春小説という面も併せ持った作品だから、芸能界に身を置く松村さんの心にも、響くものがあるかなと思うよ。

編集・B子 アイドルを描いたフィクションを、アイドル自身が読んだらどんな感想を持つのか……かなり気になる。あんまりいとに共感されすぎても、ファンとしては複雑な気持ちになりそうだけどさ。

ライター・保田 私たちは、“アイドルのキラキラした部分”しか見てないからね。裏側まで描かれてる作品を「面白い!」と絶賛されたら、確かにちょっと反応に困るな(笑)。

編集・B子 だからこそ、ほっくんに『女優の娘』の書評を書いてほしいかも。2019年から雑誌「東海ウォーカー」(KADOKAWA)でコラムを連載してるぐらい文章がうまいから、きっとファンに刺さりまくる名文が生まれるはず!

ライター・保田 ちなみに、“ダメ男だけど憎み切れない”を極端な形で戯画化した西村賢太さんの作品群や、弘史さんや祖父の定吉さんが生きた当時の室蘭の時代背景がわかる漫画『親なるもの 断崖』(小学館)もおすすめ。どれか松村さんが気に入ってくれるといいな〜。

『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(著:安田 顕/幻冬舎)

父ヒロシには、右手の親指がない。若い頃、鉄を延ばす機械でマンガみたいに広げちゃったから。笑わせてばかりの父に、昔話をせがむと――。兄が生まれた時、大喜びして母に菊の花束を贈ったこと。初めて買ったステーキ肉を緊張した母が黒焦げにしたこと……。貧乏だったが、いつも笑顔と幸せがあった。俳優・安田顕の感性が光る、家族愛エッセイ。

『女優の娘』(著:吉川トリコ/ポプラ社)

アイドルグループ「YO!YO!ファーム」の一期生・斉藤いとに届いた、突然の母親の訃報。現役アイドルの母親が一世を風靡したポルノ女優・赤井霧子だった、というニュースは瞬く間に広がり、いとは一躍時の人になる。そんな中、著名な映画監督から、霧子の半生を追うドキュメンタリー映画の案内人に指名されて――。「マリー・アントワネットの日記」シリーズで全女性の共感をさらった著者が、世界の不条理とたたかうすべての人に贈る、真摯な希望の物語。

女性ボディビルダーが陥ったジェンダーの皮肉/肥満や女性に向けられる嘲笑/「自分の体は自分のもの」を知る2冊

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

ブックライター保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

「強くなりたい」はずの女性ボディビルダーが陥る、ジェンダー規範

保田 2月15日、プロeスポーツ選手として活動していた女性が、配信中に男性の身長や女性のバストサイズについてあげつらう差別発言をしたとして、後にスポンサー契約を解除されました。

A子 ニュースの反応を見ていると、「見た目への批判を受け止めてこそ、人間として成熟する」といった層もいまだ一定数いるんですよね。男女関係なく、望んでいない他人に向かって、外見で人格や人全体まで格付けすることはないと思うのですが。

保田 ということで、「自分の外見と他人からの評価」について考えるのにおすすめしたい本を取り上げたいと思います! 1冊目は『我が友、スミス』(石田夏穂、集英社)です。ボディビル(正確にはフィジーク)競技に飛び込んだ女性を主人公とした中編。登場する女性のほとんどが違った美学を持っていて、各々格好いいんですよ。

A子 1月の芥川賞候補作ですね。ボディビルというと、多くの人にとっては知られざる世界ですが……。

保田 膨大な情報量で解説されているうちに、知らぬ間にボディビルの世界に引き込まれていきます。「別の生き物になりたい」「やればやるほど強くなる」という理由で日々筋トレに励んでいた会社員女性・U野が、トレーナーO島にスカウトされ、本格的な競技大会に臨む話です。

A子 筋トレ自体はコロナ禍の運動不足の解消手段として、あらためて注目されていますが、意外とその延長線上にボディビルがあるんですね。

保田 もともとU野の「別の生き物になりたい」という願望の底には「ジェンダー規範から外れたい」という思いが見え隠れしているんです。しかしフィジークで勝つには「女性らしさ」も審査されるので、髪を伸ばし、ハイヒールを買い、エステにも通うようになる――。

A子 「女性の役割から外れたい」を突き詰めた結果、外見上は旧来のジェンダー規範に絡め取られてしまうなんて皮肉ですね。

保田 U野は初めて自覚した体への愛情や勝利への願望と、競技ルールの間で葛藤しつつ、進む道を模索していきます。葛藤がなぜか常にちょっとコミカルなのも本作の魅力です。また、U野の外見の変化を巡る周囲の反応がリアル。当初、彼女は筋トレによって得られる強さや集中する時間を楽しんでいたのに、周囲から「痩せて美しくなった=彼氏ができた?」と思われたり、「女性は大変だね」と声をかけられたりする。

A子 それは、現実でもありえますね……。「美」が目的ではなく、単に上達や楽しさを求めて運動する女性も多くいるのに、「美のための努力」みたいな言葉にまとめられると、違和感が残ったりします。

保田 そういう悪意のないバイアスって多くの人が経験しているので、ボディビル自体は未知の世界でも共感できるんですよね。声を上げるほどでもないけど、消化しにくい居心地の悪さの切り取り方が秀逸でした。加えてU野が「スポーティーにしろセクシーにしろ(略)この世に物差しは幾つもあっていい」と、美しさのためにやっている人も否定しているわけではない点も現代的です。

A子 美しくあるためでも、楽しむためでも、動機自体に上下はないですもんね。

保田 自分の決めた“物差し”で戦う人には共感こそすれ、対立軸には置かないフラットな視点が読みやすかったです。終盤、U野が一見同じ場所に戻ったようで、螺旋階段を上がったように別の位置にあることをさりげなく示すラストも鮮やかで、読後に爽快感がある一篇です!

保田 趣きは異なりますが、「自分の身体をジャッジするのは自分」という信念を伝える本として、米国女性文筆家のエッセイ『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト著、金井真弓・訳、双葉社)を挙げたいです。

A子 Huluでシリーズドラマ化された『Shrill』の原作ですね。ドラマはシーズン3まで製作され人気を博していますが、原作も米国でベストセラーになっているんですね。

保田 コメディを愛し、コメディアンとして表に立つこともあった著者が半生を振り返る自伝ですが、同時に肥満や女性に向けられる根拠のない嘲笑の視線を、怒りを込めながらユーモアで力強く振り払うエッセイでもあります。本作が書かれていたのは2016年、6年ほど前ですね。

A子 日本と米国では状況が違いますが、6年前は今より「太っている=痩せるべき」という観念が強かったかも。実際BMIなどはあくまでひとつの指標であって、肥満と不健康は必ず結びつくものでもないんですよね。

保田 著者は、上司が肥満を揶揄した記事を掲載した時、「ハロー!私は太っています」という題で反論を同じ媒体に載せたり、テレビ番組で討論したり、匿名で中傷した男性とラジオで話したりと、勇敢に波風を立てる女性。その裏にある信念が綴られています。

A子 矢面に立ち続けている人なんですね。このSNS隆盛期に最前線に立つ人って、相当強い人だろうと思われがちですが……。

保田 エッセイを読むと、彼女は特別に強いわけではない。自身の弱さや間違いもオープンにしています。ただ「いい仕事をする」「自分の選択が未来の社会を築く」ことに誠実で、自覚的なんだと感じました。実際世論も変えてきた彼女の「世界はゆっくりだが必ず変わる」という手応えはきれいごとではなく、実感として伝わってきます。女性全体を励ます1冊です。

『我が友、スミス』

 「別の生き物になりたい」、そんな動機で日々筋トレに励む会社員女性・U野。自己流のトレーニングをしていたところ、元ボディビルダーであるO島から大会への出場を勧められ、本格的な筋トレと食事管理を始める。すばる文学賞佳作、第166回芥川賞候補作。

『わたしの体に呪いをかけるな』

「笑うな。哀れむな。値踏みをするな。わたしの体はわたしのものだ。」
女性文筆家でフェミニストである著者による自伝エッセイ。体型への固定観念、生理や中絶への偏見、ネットの誹謗中傷、ジョークの顔をした性暴力……自分から人生を奪うシステムに、ユーモアと怒りで疑義を呈する。

新年、新しいエンタメに出会いたい人への2冊『新しい出会いなんて期待できない~』『小説の惑星』

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当 で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

保田 1月は年も改まって、新しいことを始めたくなる時期ですよね。

A子 とはいっても再びコロナ感染も広がる中、できることは限られていますよね……。

保田 今月は、こんな時期でもお勧めできる「新たな世界の扉を開く」本を紹介したいと思います。まずは、対談(+エッセイ)集『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』。私は年末年始の間にこの本を読んで、新ジャンルに開眼したんです!

A子 エッセイ集『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)などで知られるコラムニストのジェーン・スーさんと、音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる、ラブコメ洋画に特化した対談なんですね。

保田 私は、そもそも恋愛映画に苦手意識があったんです。恋愛が成立することがすべてのような世界観に共感できなかったり、同性同士の足の引っ張り合いの描写にイライラしちゃったりして……。その流れで恋愛要素の強いコメディーも避けていたんですが、そんなジャンル自体への根深い偏見を取り払うような勢いを持った本でした。

A子 どのジャンルにも面白い作品/面白くない作品はありますから、ジャンルごと食わず嫌いしてしまうのはもったいないですよね。

保田 そうなんです。2人のラブコメ愛あるトークによって、恋愛至上主義だけに陥らない作品、現代の価値観に沿ってアップデートされている作品や、今見ても色褪せない名作がピックアップされているので、ジャンルに詳しくない人でも、自分に合う未知の作品を見つけることができると思います。

A子 ラブコメ映画だからこそ、観客を笑わせながらも女性の日常生活に立ちはだかるジェンダーやルッキズムの構造を浮き彫りにすることもできたりするんですよね。ラブコメ初心者にとってはもちろん、この2人ならではの劇中の音楽や社会背景からの考察もあって、もともと映画好きな人でも楽しめそう。

保田 私みたいな「恋愛映画? パスパス!」というタイプにとっては、視界を広げてくれるような1冊だと思います。私はこの本をきっかけに、ルッキズムに苦しめられた女性が自分らしくいられる道を探した『キューティ・ブロンド』や、生粋のNY育ちであるアジア系女性レイチェルと、嫁姑問題で苦労したレイチェルの恋人の母の“「『仁義』ある女たちの闘い」(本書より)を描いた『クレイジー・リッチ!』を鑑賞して楽しみましたし、もっと早く出会いたかったなーと感じました。寒くて外に出たくない冬の間に、たくさんラブコメ映画を楽しみたいです!

保田 もうひとつお勧めしたい本は、新たな作家を発見したい人や、単に「新しい小説を読みたい」という人に向けた、伊坂幸太郎氏による短編集アンソロジー『小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇/オーシャンラズベリー篇』です。

A子 伊坂さんといえば、『ゴールデンスランバー』『グラスホッパー』『重力ピエロ』など映画化された作品も数多い、押しも押されもせぬ現代日本の人気作家のひとりですね。

保田 収録された作品には、絲山明子さん(「恋愛雑用論」)や宮部みゆきさん(「サボテンの花」)、町田康さん(「工夫の減さん」)ら現代の日本文学を引っ張る作家から、中島敦(「悟浄歎異」)や井伏鱒二(「休憩時間」)、芥川龍之介(「杜子春」)など教科書に掲載されているような作家まで、古今の名作がそろっています。

A子 今回念頭に置かれたのは読書家ではなく、どちらかというと、あまり好きな小説が見つけられない人に向けた作品集ということで、読後感の良い作品を多めに扱っているという点も魅力的ですね。

保田 伊坂氏が「『小説を見限るのはこれを読んでからにして!』と渡したい、そう思える本」とまで言い切る作品群だけあって、人間の抱えるおかしみをさりげなく伝える作品や展開に引き込まれるミステリーなど、どれも短い中にギュッと濃い世界観が詰まっています。アンソロジーって、長編ではなかなか手に取りにくい未知の作家の作品に触れられるのも魅力だと思っているので、ぜひ2022年に、新たな“推し作家”を見つけてほしいです!

『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』(ジェーン・スー、高橋芳朗、ポプラ社)

 ラブコメ映画を愛する人気コラムニストのジェーン・スーと、音楽ジャーナリスト高橋芳朗が34本を語り尽くす対談+エッセイ集。「気恥ずかしいまでのまっすぐなメッセージがある」「それをコミカルかつロマンティックに伝える術を持つ」「適度なご都合主義に沿って物語が進む」「『明日も頑張ろう』と思える前向きな気持ちになる」という「ラブコメ映画4つの条件」を掲げ、「正解のない人生」を突き進む女を賛美するラブコメティ作品について徹底対談。ラブコメ映画カタログも収録。

『小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇/オーシャンラズベリー篇』(伊坂幸太郎編、筑摩書房)

 小説以外に漫画や映画、アニメ、舞台、あまたのエンタメ作品はある――。そんな人にこそ届けたい、作家・伊坂幸太郎が選んだ「究極の小説選集」。編者による書き下ろしまえがき、各作品へのコメント付き。

シスターフッドに支えられながら道を切り開いた女性を描く、『らんたん』『マリメッコの救世主』

 ここはサイゾーウーマン編集部の一角。ライター保田と編集部員A子が、ブックレビューで取り上げる本について雑談中。いま気になるタイトルは?

◎ブックライター・保田 アラサーのライター。書評「サイジョの本棚」担当で、一度本屋に入ったら数時間は出てこない。海外文学からマンガまで読む雑食派。とはいっても、「女性の生き方」にまつわる本がどうしても気になるお年頃。趣味(アイドルオタク)にも本気。

◎編集部・A子 2人の子どもを持つアラフォー。出産前は本屋に足しげく通っていたのに、いまは食洗器・ロボット掃除機・電気圧力鍋を使っても本屋に行く暇がない。気になる本をネットでポチるだけの日々。読書時間が区切りやすい、短編集ばかりに手を出してしまっているのが悩み。

A子 早いものでもう12月ですね。2021年は、この「サイジョの本棚」で何度か取り上げた、作家・瀬戸内寂聴さんが死去されましたね……。

保田 寂聴さんは幅広いジャンルの作品を残しましたが、「サイジョの本棚」では岡本かの子や河野多惠子、大庭みな子ら近現代を生きた女性の生涯を、エッセイと評伝の間のような手法で描き出した作品群を特に取り上げてきました。

というわけで今回は、近現代を生きた人々に焦点を当てた魅力的な書籍を紹介したいです。

A子 まず、『らんたん』(柚木麻子・著、小学館)ですね。

保田 恵泉女学園の創設者・河井道を主軸に、明治から戦後にかけて活躍した女性たちを描いた長編小説です。大まかな流れは史実ですが、細かなエピソードは脚色・創作され、起伏に富むエンターテインメント性の高い作品になっています。

A子 津田梅子や新渡戸稲造、朝ドラでもモデルになった村岡花子や広岡浅子ら、当時の著名人が自然に絡む絶妙なキャラクター造形が、ウェブ連載段階から話題になっていました。

保田 彼女ら彼らについてまったく知らない状態で読んだとしても、パワフルで人を巻き込むことが上手な主人公にぐいぐい引っ張られるように一気に楽しめます。主人公はもちろん、津田と大山捨松、村岡と柳原白蓮ら女性同士の親密なエピソードを意識的に盛り込んでいるように思いました。特に私が現代性を感じたのは、主軸となる河井道の恋愛が“描かれない”ところです。

A子 小説に限らず、実在の人物をモデルにしたエンタメは数多くありますが、女性となると、実際に成し遂げた業績より“恋愛が見せ場”であったりすることも多い。もちろん、そういう作品にも名作はありますが……。

保田 実際に河井道は“同志”である一色ゆり、およびその夫と生涯同居していて、恋愛らしいエピソードは見られないようです。けれども男女問わず、多くの人々と、一口には言えないような濃い人間関係をたくさん紡いでいて、物語を深く豊かに彩っています。

A子 「女性=恋愛への憧れ」という意識もまだ強いですが、恋愛に溺れた男性もいれば、特に必要としない女性もいますからね。

保田 そして、同時に、日本の女性教育史を追える作品でもあります。私たちが受けた教育は彼女らの尽力あってこそで、次の世代へ大事につなげるべきものであることに気づかされました。

保田 次に紹介する本は『マリメッコの救世主 キルスティ・パーッカネンの物語』(ウッラーマイヤ・パーヴィライネン著、セルボ貴子・訳、祥伝社)です。今では日本でも人気の高いフィンランドのブランド「マリメッコ」を、世界的な人気ブランドに押し上げた女性経営者キルスティ・パーッカネンの生涯を取材した評伝です。

A子 マリメッコといえば北欧の伝統的ブランドというイメージがありますが、キルスティが関わる前は倒産目前だったことは知りませんでした。彼女がマリメッコを私財で買い取り、経営に携わったのは60代からなんですね。

保田 その前には、女性だけの広告代理店を立ち上げています。1960年代当時はフィンランドでも、女性が企画した仕事を顧客には「男性の仕事」と伝えなければ断られてしまうような時代だったとキルスティは語っています。

A子 そんな中で女性だけの会社を成功させ、世間の大きな注目を集めたキルスティは、当時のフィンランドにおいて、女性に対する意識を変えた一人なのかもしれません。

保田 少女・青年期にメディアを通して彼女を知り、勇気づけられた人々の話も盛り込まれています。次の世代に大きな影響を与えたキルスティも、本作を通読すると、言うことが矛盾していたり、今となっては肯定しにくい面もそのまま描かれていたりします。けれども、欠点はあっても誰よりも情熱を持って、人生を懸けて仕事を愛した彼女が台風の目となり、周囲を惹きつけ、大きな仕事を成し得たことが伝わります。

A子 後世に名を残すような人々だからといって、パーフェクトな人間ではない場合がほとんどですよね。

保田 男女限らず、無傷であることが重視される昨今ですが、欠点もなく一生間違いも犯さない人なんていない。それでも、やはり最終的には、人はどれだけ間違ったかではなく、何を創り上げ、愛し、育てたかが残り、それが周囲の人や後世に希望をつないでくれるのだと思いました。
(保田夏子)

『らんたん』

 日本における女子学校教育の黎明期に、自身の理想を追求した河井道。日本の女子教育に情熱を燃やし、恵泉女学園を創立した彼女の生涯を中心に、明治から戦後にかけて生きた女性たちを明るく描く。彼女を支えるゆりとのシスターフッドや、津田梅子、平塚らいてう、伊藤博文、野口英世、伊藤野枝、山川菊栄、白洲次郎といった当時さまざまな分野で活躍した人々との交流、波乱に満ちた生涯を描く大河小説。

『マリメッコの救世主』

 1960年代、フィンランドでは女性一人でレストランに入ることが物議を醸した時代に、前代未聞ともいえる女性だけの広告代理店を立ち上げたキルスティ・パーッカネン。60代で私財を投じてマリメッコを買い取り、レトロ柄を復刻させて世界的ブランドに押し上げた名経営者の半生を描いたノンフィクション。