「セルフレジ万引き」増加中! 商品をスキャンせず持ち逃げ、バレると「機械のせい」……万引きGメンはどう出る!?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、普段通っている馴染みのスーパーで、図らずも盗んだと疑われても仕方のないことをしてしまいました。無論、商品をエコバッグに隠匿したりするような行為をしたわけではありません。商品の読み取りから会計まで、全て購入者が済ませる、いわゆるフルセルフレジで精算したしたのですが、家に帰り、ポイントを確認するべくレシートをチェックしたところ、レシートに記載されていない商品があったのです。その商品は、2キロの新米。バーコードを読み取り機に当てて、チェック音を聞いた記憶もあるのに、なぜだか支払いがなされていません。お店に電話をかけて、使ったレジの位置と時間、ポイントカードの番号を伝えて事情を説明すると、次回の来店時に支払ってくれれば構わないと対応されました。しかしながら、それも気持ち悪いので、すぐに伺うことにして支払いを済ませます。

「この度は、失礼しました。こういうことって、ほかにもあります?」
「ええ、たまにありますよ」
「ピッていう音、鳴っていたんですけどね」
「混雑する時間ですし、他のお客さまの音と混同されたのかもしれませんね。重い商品なので、読み取るときに揺らいで、うまくスキャンできなかったとも考えられます。どうか、お気になさらないでください」

 サービスカウンターに出向いて事情を話すと、電話口に出たと思われる女性スタッフの方が、嫌な顔ひとつみせずに対応してくれました。帰りの道中、過去に見たセルフレジを悪用した捕捉事案と、自分の行動を照らし合わせながら家路を辿ります。

(もし、現場で同じことをする人を見かけたら、きっと声をかけているはず。悪意がないとはいえ、もし声をかけられていたら、どうなっていたかしら……)

 少しでもタイミングが悪ければ、自分のキャリアが崩壊していた可能性まで考えられ、改めて安堵した次第です。今回は、フルセルフレジを悪用する万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、大型ショッピングセンターY。挨拶のため総合事務所に到着すると、店長はお休みとのことで、どことなく亀田史郎さんに似ている副店長が対応してくださいました。形式的な挨拶を済ませて、いつものように注意事項を確認すると、副店長が苦虫を噛み潰したような顔で言います。

「ここは、セルフレジでチェッカーをスルーする人が、たくさんいてさ。導入してからは、売場で商品を隠す人を、全然見かけなくなったくらいなんだよね」

 この店は、将来的に店舗の無人化運営を見据えているようで、店員さんが商品をスキャンして、支払いのみ機械でするセパレート式のセルフレジだけではなく、その全てをお客さんが行うフルセルフレジも複数台導入しています。お客さんに精算の手間を預けることで、確かに人員コストは下げられるかもしれませんが、不正行為による被害を考えると、その全てが無駄のような気がしないでもありません。

「あなた、そういう人も、捕まえられるの?」
「はい、何人か扱ったことあります。否認される方が多いから、大変なんですよね」

 フルセルフレジにおける犯行は、捕捉後に犯意を否認される方が目立ち、その処理には余計な時間がかかります。悪い人の目で監視スタッフの様子を窺い、おかしな手つきで商品を隠しているにもかかわらず、精算したつもりだったと居直る人が多いのです。一見して、言い訳しやすい環境と思えますが、各台には比較的高性能の防犯カメラが設置されており、咄嗟に思いついたような嘘は通用しません。精算の様子は一部始終記録されており、その映像からも犯意は特定できるのです。

「そうなんだ。大変でしょうけど、今日はセルフレジを中心に警戒してもらえるかな。期待してますよ」

 セルフレジを中心にと言われても、商品を手にするところから見ないと、なにも始まりません。通常通りに巡回をして不審者の発見に勤しみ、その結果として、そうした手口を用いる被疑者が現れるのです。いつも通り、比較的高価で万引きされやすい商品を手に取る方々を確認して回ることに決めた私は、化粧品や高級食材などの売場を中心に警戒することにしました。

 すると、勤務中盤に差し掛かったところで、どことなく工藤静香さんを意識している感じがする50代前半と思しき髪の長い痩せた女が目に止まります。ポイントデーでもないのに、比較的高価なオリゴ糖と蜂蜜のボトルを3本ずつカゴに入れるところを目撃してしまい、ちゃんと買うのか気になったのです。追尾すると、次に複数のクレイジーソルトをカゴに入れた女は、牛すね肉、スペアリブ、菓子パン、モッツァレラチーズ、そして最後に高価な赤ワインを2本カゴに入れて、レジの方へと向かって行きました。

 入口に設置された5円のレジ袋を手に取り、フルセルフレジのエリアに入った女は、サポート役の店員さんから一番離れた台に陣取ります。店員さんに背中を向ける形で、レジ袋をスキャンしないまま精算台にセットすると、何食わぬ顔で商品の精算を始めました。

(レジ袋だけではなさそうね)

 ちらちらと女が店員さんのほうを気にしている隙に、女の手とレジのモニターが確認できる位置まで移動して精算状況を確認すると、ここでは公表しかねる手口で、いくつもの商品をレジ袋に隠しているのを現認できました。会計時、酒類を購入したことから年齢確認のためにサポート役の店員さんが駆けつけましたが、女の悪事に気付いている様子はありません。店員さんが離れ、スキャンした商品のみ精算を済ませた女は、かなりの早足で店を出ていきます。後方を振り返りながら店の外に出た女が、出入口脇に停められた電動自転車に手をかけたところで、そっと声をかけました。

「あの、お客様? 店の者ですが、そちらのお会計、ちょっと確認させていただけますか?」
「はあ? なんですか? お店開けなきゃいけないから、時間ないんですけど」
「すぐに終わりますよ。レシートは、ございますか?」
「これですけど……」

 なぜだかわかりませんが素直にレシートを出してくれたので、レジ袋に入れた商品と照合させていただくと、案の定、複数取りした商品の精算が一部しかなされていません。はっきり言ってしまえば、買ったモノより盗んでいるモノのほうが多い状況です。

「お支払い済んでないモノ、たくさんあるんですけど……」
「え? ウソ? 私、全部通しましたよ」

 そう言い張るので、直接本人に照合してもらうと、どこかわざとらしく狼狽してみせた女が、意味不明の言い訳を始めました。

「あれ? ホントだ。なんでだろう? もしかして、機械が壊れているんじゃないですか」
「お釣りまで出ているのに。壊れているわけないじゃないですか。そんな言い訳、通りませんよ」
「はあ? そんなこと言われても……。以後、気をつけますね。お金、払ってきます」

 店内に戻ろうとする女を呼び止め、事務所で払ってもらうよう促すと、時間がないと言いながらも同行に応じてくれました。事務所に到着して、身分証明書の提示をお願いすると、女は52歳。旦那さんと二人、隣町で小さな洋食屋を営んでおられるそうで、店を開けないといけないので時間がないのだと繰り返しています。

 この日の被害は、レジ袋を含めて計10点、合計8,000円ほどとなりました。

 どうにも落ち着かない様子でいる女に、被害品の伝票を確認してもらうと、現金の持ち合わせがないのでカードで払いたいと、まるで悪気のない感じで話しています。すると、事務所内のロッカーから「(秘)不審者ファイル」を取り出してパラパラとめくっていた副店長が、興奮気味に声を上げました。

「ウチのブラックリストに、あんたの写真があるんだけどさ、同じこと何度もしているよね?」
「いえ、本当に払ったつもりでいました。すみません。これからは、気をつけます」
「いや、あんた出入禁止だから、二度と来ないでくれる? 今日は、いままでの被害も含めて、きちんと警察に調べてもらいますから」

 おそらくは言い訳を用意した上での犯行と思われ、声をかけられたときの対応もシミュレーションしてきたのでしょう。まもなく臨場した警察官に引き渡された女は、否認を続けたことが影響したのか、犯歴がないにもかかわらず基本送致されることになりました。

「店で使うモノだって話しているから、仕入れ目的みたいな感じだろうね。本人は認めないけど、計画的にやっている感じだよ。コロナのおかげで、お店やっている人の万引きが増えてきたよなあ」

 処理を終えて警察官と一緒に地域課を出ると、女のガラウケにきていた旦那さんが、廊下に設置されたベンチシートに大股を広げて座っておられました。憎悪あふれるような目で睨まれ、とても怖かったです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメン困惑、急増する「カゴパク」の実態! ホームセンターで高額商品をカゴごと盗んだ男に、店長がブチ切れたワケ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 近頃の現場は、食品スーパーばかりなのですが、久しぶりにホームセンターの現場を踏んできました。個人的な好みを言えば、いわゆるガテン系のお客さんが目立つホームセンターは、あまり好きではありません。食品スーパーと比べて、粗暴で犯罪慣れした被疑者と遭遇する機会が多く、その危険度に鑑みれば、私のようなおばちゃん保安員が活躍できるような現場ではないのです。

 ホームセンターにおける被害は、取扱商品の幅広さから大量、高額となってしまいやすく、当然に逮捕までに至る確率も高まります。車で来店される方が多く、集団で犯行に及ぶケースも珍しくないため、受傷事故の発生率が高いことも特徴といえるでしょう。過去には、車に乗り込んだ被疑者を捕捉するべく運転席のドアノブに手をかけた仲間が、そのまま引きずられて中指と人差し指の一部を欠損したこともありました。今回は、つい先日に関東圏の大型ホームセンターで捕らえた高額万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、ホームセンターH。ネジ本からペットまで、ありとあらゆる商品を取り扱う郊外型の巨大店舗です。1時間ちょっと電車に揺られて、最寄駅からバスに乗り継ぎ、のどかな道を20分ほど走って現場に到着。大きな駐車場と資材館を通過して事務所に入ると、アインシュタインの稲田直樹さんに似た店長が、不愛想に出迎えてくれました。

「高額品を中心に見てください。それと、レジ袋が有料になってからカゴの持ち去り(カゴパク)が増えているので、もし見つけたら教えてもらえますか」
「わかりました。カゴを持っていかれた場合、どう対応されますか?」
「捕まえるわけにはいかないから、やんわりと注意して返してもらう感じかなあ」

 以前から見かける事象ではありますが、レジ袋有料化以降、店内カゴの私物化は全国的に急増しており、どの店も対応に苦慮しています。つい先日も、独立系の食品スーパーで、カゴを戻さず車内に持ち込んだ初老のお客さんと、オーナー兼店長さんが駐車場内でトラブルになっていました。

「お客さん、カゴごと持っていかれたら困るんですけど。ちゃんと戻してもらえますか?」
「次、来たときに返すよ。カゴぐらい、いいじゃないか」
「全然よくないですよ。それはウチの物ですから、持っていかれたら困ります」
「なんだと! 客を泥棒扱いしやがって、この野郎!」

 店長に掴みかかる勢いで詰め寄った初老のお客さんでしたが、この騒ぎを周囲で見守っていた若いお客さんが間に入ると、店長に向けてカゴを放り投げて車に乗り込んでしまいました。新型コロナウイルス発生以降、小さな間違いや当たり前のことを他人に指摘されることで、無駄に大声を出したり、乱暴な態度を取ってしまう人が増えているように感じるのは気のせいでしょうか。いわゆる迷惑客は、店側が曖昧な態度を取ると、さまざまな形でつけこんでくるので、慎重に対応する必要があるのです。呆気に取られる店長を車内から睨みながら、ものすごい勢いで走り去った初老の老人の表情を見れば、まるで悪気のない感じでした。その時の状況を稲田さんにお伝えして、カゴパク発見時の対応を検討していただきます。

「そんなヤツもいるんだ。とんでもねえなあ。警察を呼ぶのも、ちょっと違う気がするしねえ」
「声のかけ方が、難しいですよね。きちんと警察が扱ってくれるかも微妙ですし……」
「わかりました。その時は、相手を見て判断します」

 挨拶を終えて店内の巡回を始めると、客足は常にまばらで、業務終盤まで大過なく過ごすことになりました。不審者など、一人もおらず、こんな日は自分の存在が無駄に感じられます。業務終了まで、あと30分。まるで客足が伸びず、見るべき対象のいない状況に嫌気が差した私は、暇つぶしを兼ねてペットコーナーに潜んで、そこから客の出入りをチェックすることにします。

 可愛い動物たちと出入口を交互に見る形で、ゆるく警戒していると、どことなく長州力さんに似た50代くらいと思しき作業着姿の男性が入ってきました。小太りの体全体から発せられる違和感のようなものが気になって動向を見守ると、カートにカゴを載せた長州さんは、周囲を威圧するような歩き方で工具コーナーへと向かって行きます。

(あんなにたくさん……)

 売場に着くと、電動工具セットを3セットもカゴに入れた長州さんは、続けてラチェットやドライバー、計測器など、比較的高価な商品を吟味することなく、次々と放り込んでいきます。それから、出口脇にあるカー用品コーナーに立ち寄った長州さんは、3万円に近い値札のついた自動車用バッテリーを棚から降ろしてカートの下段に載せると、自身のベルトにかけられた黒いポシェットの中から一つの工具を取り出しました。マネされると困るので詳細は語りませんが、手際よく防犯タグを除去してみせると、証拠を隠滅するためなのか、棚の下に蹴り入れてしまいます。捕まらない手口を考えてきたとしか思えぬ動きをみれば、犯罪慣れしている人としか思えず、みるみると恐怖心が膨らんでいきました。

(もう出るわね。危ない人かもしれないから協力してもらわないと……)

 相手が強面で体格の良い男性であるため、たまたま近くを通りかかったアルバイトの方を捕まえて応援を要請すると、店内無線を通じて店長と副店長を呼び出してくれました。長州さんの位置と人着を伝えて、声をかけるまで見守ってもらうようお願いします。

 すると、ちらりと後方を窺い、ほぼ駆け足で防犯ゲートを突破した長州さんが、駐車場に停められた軽ワゴンのトランクを開きました。カート上にあるカゴに続けて、車内にバッテリーを積もうと腰を下ろしたところで声をかけます。

「あの、お客様? こちらの代金、まだお支払いいただけてないようなのですが、どうするおつもりですか」

 声をかけると同時に、店長をはじめとするお店の男性スタッフが、私の後方に居並んでいることが雰囲気でわかりました。その迫力に動じてしまったらしい長州さんが、しゃがんだまま大きく目を見開いてポツリと呟きます

「……ごめん、申し訳ない」
「わかってると思うけど。ごめんで済む話じゃないからさ、それ持って事務所まで来てくれる?」

 我慢できないといった様子で前面に出てきた店長さんの、少しばかり高飛車な言い方が気に入らないのか、しゃがんだまま店長の顔を睨みつけた長州さんは、いまにも暴れそうな雰囲気で立ち上がりました。そして、あふれる怒りを堪えるような表情で、トランクに入れたカゴをカートに戻すと、明らかに不貞腐れた顔で立ち尽くしています。もう隠していないかと、いやらしくトランクを覗き込んだ店長が、振り返ると同時に怒鳴りました。

「ちょっと、あんた。このカゴも、ウチのじゃねえかよ。これも、返してくれよ」

 トランクの中を覗き込めば、この店の名前が入ったカゴが無造作に置かれており、その中には工具やテープ、安全ベルトなどが整頓された状態で入れられていました。

「いや、これは現場で使っているやつだから、ちょっと困る」
「は? あんた、自分の言ってること、わかってる? こりゃ、警察だな」

 結局、その場で警察を呼ばれた長州さんは、手口が悪質で被害額が大きいことから、基本送致されることになりました。本来ならば逮捕されるべき事案と思われますが、意外にも初犯であったことと、コロナ禍における警察の人員不足が影響したようです。

 この日、全ての手続きを終えて警察署を出たのは、午前2時を過ぎたところでした。自宅まで送ってもらえる雰囲気ではないので、仕方なくネットカフェで時間を潰して、始発を待って帰宅します。疲労困憊の状態でアパートに戻ると、早朝から原状回復工事の業者さんが出入りされており、これからの安眠に暗雲が立ち込めました。

(あ……)

 原状回復工事にかかる部屋の前を通りかかると、複数の工具が入れられた有名チェーンストアの名前が入ったカゴが置かれており、一言言ってやりたい気持ちになりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンがつい反応する「エコバッグの持ち方がおかしな人」……デカいバッグで高級品を盗みまくる、居酒屋店主の呆れた手口

 こんにちは、保安員の澄江です。

 レジ袋有料化に伴うエコバッグ利用者の増加と、新型コロナウイルス流行によるマスクや帽子の着用率上昇に伴い、食品スーパーの店内は、一見して不審者だらけといった様相を見せています。商店側も危機感を持たれているようで、ここのところ新規依頼が急増しており、一部お断りするまでの状況にまでなりました。同様に、防犯機器のリニューアルを進める商店も目立ち、まず手始めにと、エコバッグの利用方法などの買い物マナーを啓発するポスターを貼り出す商店も増えています。

 その内容を見れば、万引き防止の観点から言っているもので、お客さん側に「疑われない努力」を求める内容になっていました。足を止めて読み込んでいる方も数人見かけたので、過去にあった草野仁さんが上段に竹刀を構えて「万引きは犯罪です」と訴えるポスターや、警察官に扮した南明奈さんが「万引きの罪はオッキーナ」と微笑むポスターなどと違い、多少の啓発効果は見込めるのかもしれません。しかしながら現場の実態は、まだまだそれが反映された状況になく、なにも気にしていないと思われる方々ばかりが目立ちます。職業柄、仕方のないことなのですが、エコバッグなどの持ち方がおかしい人を見ると、つい反応してしまうのです。

 近頃は、レジ袋を断る形で商品を持ち帰る人が増えており、そうした状況に紛れて、堂々と商品を持ち出す被疑者も急増しています。マイカゴに商品を詰めて、そのまま持ち出すカゴヌケの手口による犯行も目立ち、社会状況の変化によって万引きがやりやすくなってしまったことは否めません。万引き被害が急増した古書店が、エコバックの店内への持ち込みを禁止する一方、客を疑いたくないと、環境にやさしいバイオマスの袋を無料で頒布し続けるスーパーも存在しています。防止対策の正解は見当たらず、保安員の目というアナログな武器で立ち向かうほかない状況と言えるでしょう。今回は、コロナ禍の食品専門スーパーで捕らえた居酒屋店主について、お話ししていきたいと思います。

 当日の現場は、東京近郊にある食品スーパーS。私鉄沿線のターミナル駅前に位置する老舗店舗で、土地柄なのか、比較的若い世代の人たちが目立つお店です。このお店での勤務は、この日が初めてのこと。少し早めに到着したので、店長に挨拶する前に比較的小さめの店内を一周してみると、万引き犯が集まりそうな典型的な死角を見つけて気になりました。

(やる人は、ここで入れるだろう)

 周囲に気付かれぬよう、死角への視界を確保する作業をしてから、いそいそと事務所に向かいます。

「おはようございます。店内保安です」
「おはようございます。あなたの思った通り、おかしな人は、みんなあそこに入っていきます。ベテランさんのようで安心しましたよ。よろしくお願いしますね」

 どことなく松村邦洋さんに似ている店長に挨拶をすると、防犯カメラのモニターで私の様子を見られていたようで、少し恥ずかしい気持ちで巡回を始めることになりました。

(あれ、あの人……)

 午前中のピークを迎え始めた店内を巡回していると、胸にスワロフスキーで描かれた髑髏のワンポイントがある黒いTシャツを着た男が目に止まりました。どことなくネプチュ-ンの堀内健さんに似ている40歳くらいの男が、胸にある髑髏に劣らぬ暗い表情で、高価な本マグロの切り身を3パック重ねて、一度に取る動きが気になったのです。ホリケンさんの持ち物を見ると、カゴと体の間に大きく口の開いたトートバッグを所持しており、その中を垣間見れば、生鮮食品のパック群が無造作に沈められている様子が見てとれました。
(もう、やっているのかしら?)

 そのまま目を離さないでいると、すぐに件の死角通路へと向かったホリケンさんは、カゴに入れることなくわし掴みにしていたマグロのパックを、一気にバッグの中へとねじ込みました。少し慌てた様子でバッグの中に手を入れ、空間を作るように整理してみせると、異常なほどの早足で鮮魚売場に戻っていきます。

(まだ、やるわね。しっかり準備しておいてよかった)

 そこでさらにスモークサーモン、タイ(一尾)、わかめなどを手にして、それらを同じように死角通路に持ち込んだホリケンさんは、全てをバッグに隠し終えると、慎重な面持ちでレジを通過し、わざとらしくサッカー台を経由して外に出て行きました。おそらくは客のフリをすることで精一杯なのでしょう。追尾には、まるで気付いていない様子ですが、相手が若い男性なので、反撃されるリスクを下げるため、人通りのあるところまで余計に歩かせてから声をかけます。

「お客さん、すみません。お店の者です。お会計済んでないもの、たくさんございますよね?」
「はあ? なにを言っているんですか、全部払いましたよ。勘弁してくださいよ」
「ええ? レシートは、お持ちですか?」
「あれ、どうしたっけな? 捨てちゃったかな?」

 払っていないのだから、レシートなどあるはずもありません。でも、ここで強く否定してしまうと逃走を図られるような気がしたので、ホリケンさんの言葉を尊重します。何気なくバッグに目をやれば、トートバッグの開口部からパック詰めのタイが顔を出しており、助けを求められているような気持ちになりました。

「では、探させてください。なければ、すぐに確認できますから」
「はあ。なんでこんなことに……」
「見ていましたけど、お支払いになっていないですよ。もし間違えていたら、謝りますので」
「……………」

 サッカー台の下に設置された全てのゴミ箱から、捨てられたレシートをもれなく取り出して確認してみても、安価な商品を購入したレシートばかりで、該当するレシートは見当たりません。埒が明かないので、逃走を防止する意味合いも含めて事務所での精算確認を求めると、いまにも逃げ出したそうな顔をされましたが、暴れることなく応じてくれました。事務所に入ると、事務作業をしていた店長が、ホリケンさんの顔を見て驚かれます。

「あれ、店長さん。どうしたんですか?」

 話を聞けば、ホリケンさんは反対口にある居酒屋のオーナーで、いままでに何度か飲みに行かれたことがあるとのこと。店長の知り合いだったことに驚きつつ、現在の否認状況を説明すると、この人はそんな人じゃないよと、逆に私を疑うような目を向けられました。

 バッグの中に隠したものを任意で出してもらい、店長に精算履歴を確認していただくも、同一商品群の履歴は当然のことながら見当たりません。言い逃れのできない状況に追い込まれ、呆然と空を見つめたままでいるホリケンさんに、そっと声をかけます。

「知らない仲じゃないんだし、これ以上の迷惑はかけないほうがいいかと思いますよ」
「……ごめんなさい、申し訳ございません! お支払いしますので、許してください!」

 明らかに困惑する店長を尻目に、バッグの中にあるモノを全て出すよう促すと、近隣店舗の商品と思しき食品も大量に出てきました。うなぎや和牛肉、活鮑など、どれもが高級品で、店の営業に使うための食材であることに違いはなさそうです。この店の被害は、6,000円ほどですが、近隣店舗の被害は優に1万円を超える様相で、ホリケンさんの状況によっては、逮捕もあり得る状況と言えるでしょう。

「こんなにたくさん、どうしちゃったんですか?」
「言い訳になっちゃうんですけど、コロナでお客さんが全然来なくなっちゃって、店がヤバイんです」
「それは、わかるけどさ。こんなデカいバッグを持ってきているのに、なに一つ買っていないのはショックだなあ。警察、呼びますね」

 詳しい話を聞けば、ホリケンさんは48歳。3万円ほど所持していますが、すぐに電気代を支払わないと、店の電気を今日にも止められてしまうそうで、このお金は使えなかったのだと話しています。通報を受けて間もなく駆け付けた警察官たちも、ブツ(被害品のこと)の多さに驚かれていました。

「Tさん(もう一件の被害店舗)は、買い取りでいいって。こちらは、どうされます?」
「同じような経験がある人ですか?」
「これだけのことやっているから、とても初めてじゃないだろうけど、捕まったことはないみたい」

 目立つ前科前歴もなく、店長の顔見知りだったこともあって、商品の買い取りと今後の出入禁止を条件に、被害申告はされませんでした。深々と頭を下げて、警察官に囲まれながら事務所をあとにするホリケンさんの背中を見送りながら、呆れ顔の店長が呟きます。

「もしかしたら、ウチで盗まれたモノに金を出して、飲み食いしていたのかもしれないなあ」

 盗まれた活鮑が、パックの中で弱々しく蠢いている姿は、しばらく忘れられそうにありません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンが語る「YouTuber・へずまりゅう窃盗事件」……スーパーのシャインマスカットを“勝手に食した”老婆の思い出

 こんにちは、保安員の澄江です。今年の7月、YouTuberの「へずまりゅう」という方が、5月に愛知県内のスーパーマーケットで精算前の刺身を店内で食したという事実で逮捕されました。逮捕の容疑は、窃盗。その模様を映した配信動画を見れば、精算前の商品を店内で食した後に空のパックをレジに持参して、店員さんに「おなかが空いて食べちゃいました」と事情を説明したうえで精算を済ませており、その犯意が成立するのか疑問に思いました。この事実で窃盗が成立するのであれば、店内で刺身を食した場所からレジに至るまでの間に盗んだことになってしまいます。その間、隠匿行為もしておらず、店外に持ち出すことなく支払いを済ませていることから、既遂事実として認定できないと思うのです。近頃は、精算前の商品を店内で飲食する欧米系外国人も散見され、実際の業務研修においても、そうした場合は店を出るまで声をかけるなと教育されています。文化の違いによる区別で、犯罪格差が生じる可能性もあり、法の下の平等の原則を思えば、いくら迷惑行為とはいえ立件の判断は難しかったことでしょう。後に、新型コロナウイルスを撒き散らして関係各所に迷惑をかけたという被疑者ですが、それを罰する刑法も見当たらないので、今後の展開が気になるところです。今回は、私たちが店内で声をかける事案の一例について、お話したいと思います。

 当日の勤務は、東京都下のホームタウンに位置する食品専門スーパーE。土地柄なのか、買い物マナーの悪い人が目立つお店で、従前から捕捉の多いお店です。この日は、月に数回開催される朝市の日。開店と同時に勤務を開始してまもなく、どことなく自民党の二階俊博幹事長に似ている80歳前後と思しき老婆が目に止まりました。青果売場に設置されたポリ袋を複数枚手に取り、それをカゴの代わりにして、バラ売りのトマトを入れる姿が気になったのです。そのまま行動を見守っていると、朝市の混雑に紛れた老婆は、いくつかの品種が並ぶ葡萄コーナーでシャインマスカットを手にしました。居並ぶシャインマスカットのパックを、取ったり戻したりしながら、いくつかの実をむしり取っています。

(あんなにいろんなところから取られたら、どれが被害品かわからなくなっちゃうじゃない……)

 右手の中にため込んだシャインマスカットの実を、トマトとは別のポリ袋に入れた老婆は、次に巨峰の実もむしり始めました。あろうことか、その場で1粒食して、その皮をキャベツの外葉を入れるポリバケツに捨てる始末です。

 本来であれば、言い訳できぬよう店の外に出たところで声をかけたいところですが、むしり取った葡萄を食べられてしまえば、声をかけることすらできません。すでに高価な葡萄を複数損壊しており、その被害額は1万円に達する勢いです。おそらくは年金暮らしであろう老婆の弁償能力に、若干の不安を覚えますが、この厚かましい犯行を見過ごすわけにもいきません。

(ここで声をかけないとダメね)

 たまたま近くで品出しをしていた青果担当の社員さんに、そっと声をかけて老婆の行為を見てもらうと、どことなくホリエモンさんに似ておられる顔を途端に紅潮させて言いました。

「あの婆さんだったのか。ふざけやがって!」
「被害品がわからなくなっちゃうんと困るので、ここで声をかけちゃいたいんです。立ち会ってもらってもいいですか?」
「いや、いつもやられているから、俺がいくよ。取られたやつ、集めといて」

 平気な顔で巨峰に手を伸ばす老婆に、早足で詰め寄ったホリエモンさんが、少し大きめの声で老婆に声をかけます。

「お客さん、それ困るなあ。葡萄はね、1粒でもむしられちゃうと商品にならないんですよ。全部お買い上げいただけますか?」
「へ? これくらい、いいじゃないか。ケチな人だねえ」
「そういう問題じゃないでしょう。商品を壊しておきながら、何を言ってるんですか」
「え? あたしが、何を壊したっていうの?」

 2人の声が大きくなるにつれて周囲の視線が集まり始めたので、棚に残る被害品を手早く集めて、事務所まで来てくれるよう促します。渋々と動向に応じた老婆は、手中に残る巨峰の粒を複数個まとめて口に放り込むと、ホリエモンさんの袖口を掴んで歩き始めました。

「お金払ってないのに、なに食べてんだ?」
「これ、甘くておいしいのよ。皮ごと食べられるの」

 事務所の応接セットに座ってもらい、むしり取られた葡萄の粒を数えてみると、ポリ袋の中からシャインマスカットが7粒、巨峰が2粒出てきました。これまでに何粒か食べられてしまっていますが、被害は葡萄本体のほうなので、あまり関係ありません。被害は、シャインマスカットが4房(1房1,580円)、巨峰が2房(1房980円)、トマト(100円)の計7点、合計8,380円(税別)に上りました。数粒の葡萄を食した結果と考えれば、少し高くついたように感じられますが、同情する理由にはなりません。所持金を聞けば、2,000円ほどしか持っておらず、自力での解決は難しそうです。

 その光景を見守っていたホリエモンさんが、鬼の首を取ったような口振りで言いました。

「今日は、全部買っていってもらうよ。お金ないなら、誰か家の人でも呼んでもらえる?」
「いま食べたばかりだし、もういらないよ」
「はあ? 勝手なことばかり言っているけど、あんたさ、払わないまま食べちゃうの、初めてじゃないでしょう? いつも迷惑しているんだよ」
「ここには、たまにしか来ないのよ。あっちのA(近隣のライバル店)には、よくいくけど」

 そういう問題じゃない。整合性のない話を聞いて、認知症の症状だと感じた私は、怒り冷めやらぬ様子のホリエモンさんに警察を呼ぶよう進言しました。

 まもなく臨場した警察官が、老婆の所持品を調べたところ、手書きの「連絡カード」を発見。そこには、老婆の氏名や生年月日、血液型、血圧数値、脈拍、持病などの個人情報が詳細に書かれているほか、連絡先として介護施設らしき名称のゴム判が押されています。早速に警察官が電話をかけて事情を説明すると、職員の方が迎えに来てくれることになりました。姿の見えない老婆の行方を、職員総出で探し始めたところだと話していたそうです。

「どうして勝手に出かけちゃうのよ、心配したのよ」

 ほんの数分で迎えに来てくれた介護施設の女性職員の方に事情を説明すると、老婆が損壊した商品は全て買い取っていただけることになりました。

「ご本人にお願いしても、お支払いただけないのですが、大丈夫でしょうか?」
「預り金があるので、こちらでお支払いいたします。領収証だけいただけますか」

 職員の方によれば、隙を見て施設を抜け出しては近隣の商店を徘徊しているらしく、好きなものが目に入ると見境なく食べてしまうので困っていると話していました。施設内でも、他人の荷物や冷蔵庫まで漁っておられるそうで、ここのところ目の離せない状況が続いていると嘆かれています。

「こんなにたくさん食べきれないでしょうから、みんなで食べましょうかね?」
「あたしは、自分のを食べるからいい。こんな高価なモノ、もらうのは申し訳ないよ」

 自分の担当している商品が被害に遭ったことから、終始殺気立っていたホリエモンさんでしたが、無邪気とも言える老婆の言葉に微笑みを見せてくれて、うれしかったです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンを追尾する「変な男」の正体! スーパー側が「冗談じゃないよ!」と激怒した珍事件の真相

 こんにちは、保安員の澄江です。

 つい先日、都内の繁華街に位置する大型スーパーマーケットで勤務をしていると、他者からの強い視線を感じました。捕捉された経験を持つ万引き常習者などは、実行前に我々の存在を確認することがあるので、私たちは見られることにも敏感なのです。自分の感覚を信じて周囲を確認すると、どことなくN国党党首の立花孝志さんに似ている40歳前後と思しき体格のいい男性が、チラチラと私のことを気にしています。この上ない早足で移動してみても、しっかりと私の後についてきました。年齢のことはさておき、私も女。見知らぬ大柄の男性に後をつけられて、怖くないわけありません。無用のトラブルを避けるべく、一旦身を隠すことに決めてトイレに向かうと、私の行き先を気にするように、入口の手前までついてこられました。

(変なヤツね! いったい何がしたいのよ?)

 立花さんをやり過ごすために、トイレで時間を過ごしていると、お店から持たされている保安員専用のPHSが鳴りました。慌ててボタンを押して電話口に出てみれば、妙に慌てた様子のマネージャーさんが、この上ない早口でしゃべり始めます。

「いま、どこですか? 地下の食品売場に、なんか変な男がいるので、大至急見てほしいんですけど」
「ちょうど地下におります。どんな男ですか?」
「40歳くらいの、大柄な男です。お客さんを見て回っているので、痴漢とかスリかもしれません」

(あの男だ……)

 マネージャーとの通話を終えて売場内を探索すると、立花さんはすぐに見つかりました。自分の存在を認知されながらも、相手に気付かれぬよう注視しなければならない状況の緊張感は、計り知れるものではありません。職業柄、正体がバレてしまっては仕事にならず、「何を見ているんだ」と絡まれることもあるので、細心の注意が必要なのです。努めて慎重に追尾すれば、商品には目もくれず、店内を見回したり、お客さんの後をつけている様子が見て取れました。どう見ても買い物に来たようには見えず、その目的が気になります。

(いったい、何をしに来たのかしら?)

 立花さんの目的を探りながら追尾していると、複数の和牛肉パックを抱えた中年女性が、私の前を通り過ぎました。普段の習性から、ついつい足を止めて動向を見守れば、不思議なことに立花さんも同じように足を止めて、まさに保安員といった体で商品棚のエンド(商品棚の端のこと)から中年女性を注視しています。まもなく、和牛肉パックをバッグに隠した中年女性は、続けて手にしたホタテのパックも同様に隠して、そのまま店の外に出ていきました。声をかけるべく後を追うと、中年女性と私の間に、立花さんが割り込んできます。

(まさか声をかけるのかしら?)

 幸いにも私の存在には気付いていない様子なので、そのまま追尾して状況を見守っていると、店の外に出た中年女性が立花さんに声をかけられました。会話の内容まではわかりませんが、隠したお弁当を出しているので、そのことについての話であることは間違いなさそうです。

(あの人、刑事さんなのかな? これから、どうするのかしら?)

 近頃は、盗撮などの犯行を現認して、被疑者から金銭を脅し取る「盗撮ハンター」による事件なども発生しているため、事態の推移を慎重に見極めます。2人の行き先を確認すると、堂々と事務所に入っていくので、そこで声をかけました。

「警備の者ですが、入店手続きは、お済みですか?」
「いえ、いま万引きした人を捕まえたので連れてきました。店長さんは、いらっしゃいますか?」
「あなたは?」
「これを、専門でやっている者です」

 少し待ってもらうよう伝えて、マネージャーさんを呼び出して、事態の詳細を説明します。すると、首を傾げたマネージャーさんが、立花さんに言いました。

「たまたまっていう感じじゃないですけど、警察の方ですか?」
「いえ、実はいま、フリーでこの仕事をしていまして、お仕事をいただけないかと……」
「はあ? 営業のデモンストレーションってこと?」
「まあ、そんな感じです」

 勝ち誇ったように胸を張る立花さんに、呆れ顔のマネージャーが怒気を強めて言いました。

「こちらの許可もなく、こんなことを勝手にやられたら困るんだよ。なにかあったら、どう責任取るんだ?」
「え? そんな言い方ないじゃないですか。お礼もなしで……」 
「余計なことされたうえに、お礼しろなんて、冗談じゃないよ。仕事を頼むこともないし、迷惑だから二度と来ないでもらえるかな」
「ああ、そうですか。わかりましたよ」

 怒りや恥ずかしさからなのか、途端に顔を赤らめた立花さんは、乱暴にドアを開けて大きな音を立てながら出て行きました。一人置き去りにされた中年女性がポツリとつぶきます。

「あの、私は、どうなるんでしょうか?」
「私も見ていたので大丈夫です。バッグに入れたお肉と和菓子、全部出してもらっていいですか?」

 事務室内のパイプ椅子に座ってもらい、デスクに商品を出させると、計5点、合計7,000円ほどの商品が出てきました。被疑者の中年女性は、50歳の専業主婦で、この店の近くで家族四人と暮らしているとのこと。所持金を尋ねれば2万円ほど持っており、お金に困っての犯行ではなさそうです。同じことをして捕まった経験が複数回あるそうで、半年ほど前に罰金刑を受けて20万円ほど支払ったばかりだと、まるで他人事のように話しています。

「今日は、どうしたんですか?」
「明日、家族でバーベキューやるから、つい……」
「盗んだ肉を家族に食べさせて、楽しいバーベキューになるかしら?」
「そうですよね。恥ずかしいです」

 警察への通報を終えて戻ってきたマネージャーが、項垂れる女の目に立って、嫌味っぽく言いました。

「A5の和牛肉なんて、おれもなかなか食べられないよ。いいなあ、あんたは。いつでも簡単に食べることができて」

 怒り心頭のマネージャーさんは、被害届を出すと熱くなっておられましたが、逮捕者である立花さんの供述調書が作れないことを理由に不受理とされ、厳重注意の上、中年女性に商品を買い取らせることで事態は終結。イライラの絶頂に達したマネージャーさんが、自分のデスクを蹴飛ばして店長さんに怒られたうえ、足の指を骨折されたのが可哀想でなりませんでした。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「エコバッグ万引き」女の厚かましすぎる犯行! スーパーのポリ袋も丸ごと盗み「レジ袋として使おうと思って」!?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 レジ袋が有料化されて以降、被疑者と遭遇しない日は減少して、現場に出れば捕捉がある日々が続いています。事務所で話を聞けば、新型コロナウイルスの影響により失業したと話される方が目立ち、会社の寮を出されてホームレス状態になってしまった方までおられました。まだ若く、働き盛りと言える方々が、職はおろか寝床まで失い、さらには食うに困って万引きしてしまい、警察の世話になる。そんな現実が重く、自分に何かできることはないかと、日々考えさせられています。結局は、お金で解決する以外の方法は思いつかず、その原資を持たない自分の無力さを痛感して、情けなく思うこともありました。SNSなどで、お金をプレゼントしているZOZO創業者の前澤友作さんや、元「青汁王子」こと三崎優太さんのような方々が、社会に追い込まれて万引きしてしまう人たちに目を向けていただけたら、少しは救えるのかもしれません。その一方、少しでも得をしたいと考える卑しき人の犯行は相変わらず頻発しており、あまりの図々しさに呆れることばかりです。今回は、とある女性の厚かましすぎる犯行について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外のベッドタウンに位置するスーパーマーケットA。郊外店舗にありがちな無駄に広い売場と広大な駐車場を有する店舗で、古くから導入いただいている馴染み深い現場です。周辺にライバル店がないため、立地を問わず来客の絶えない人気店となっており、この日も梅雨空にかかわらず、多くのお客さんが来店されました。お客さんの多い店では、入店の様子をチェックすることで不審者を割り出し、その行動を見守るのが私の常套手段。この日も、メインの入口が見渡せる位置に陣取ってアンテナを張り巡らせていると、入店と同時に、カートにのせたカゴの上に、大きな袋を広げた女が目に止まりました。貧しく、不幸な女性の役を演じる際の女優・もたいまさこさんのような、どんよりとした雰囲気を持つ40代と思しき女です。

 その様子を見守れば、レタス売場に直行した女は、備え付けのロールから1枚ずつ切り取る形で、大量のポリ袋をカゴに放り込みました。そして、最後に手にした1枚を大きく広げると、ポリバケツに捨てられているレタスの外葉を、詰め放題チャレンジのような勢いで詰め始めます。人着を覚えるために容姿の細部を確認すれば、昭和感漂う茶系のジャケットは秋冬物で、現在の季節に合うものではありません。一つに結わかれたポニーテールは、汗をかいているためなのか脂気強く縮れていて、なかなかの不潔感が漂っていました。髪を束ねるゴムにも毛玉が溢れており、使い古された感じが伝わってきます。

(まだ若いけど、ホームレスの人なのかしら?)

 レタスの外葉を詰め終えた女は、それを持参の袋に入れると歩き始めて、次に精肉売場で足を止めました。そこでいくつかの牛脂をわしづかみにしてポリ袋に詰めると、自分の袋に投げ入れて、総菜売場へと向かって歩いていきます。そこでさらに備え付けのしょうゆとわさびを、同じようにポリ袋に詰めて自分の袋に入れた女は、次に商品であるサラダや総菜、おにぎり、サンドウィッチ、菓子パン、お弁当などを手にして、それも一つずつポリ袋に入れてから自分の袋に入れました。いわば堂々と、エコバッグに商品を隠している状況と言え、あまりの大胆さに我が目を疑う気持ちになったことは言うまでもありません。持参の袋を大きく膨らませて満足したらしい女は、わざわざサッカー台に立ち寄って財布を取り出し、あたかも精算済ませたと言わんばかりの演技を披露しています。最後に、サッカー台に備え付けられたポリ袋のロールを、設置台から丸ごと抜き取って自分の袋に入れた女は、出入口に設置されたアルコールをたっぷりと手に振りかけてから外に出ました。どうやら、ただで使えるモノは、余分に利用しなければ気が済まない人のようです。つけすぎたアルコールを振り払いながら、平然と店を出ていく女の後方から、そっと声をかけました。

「こんにちは、お店の者です。そのバッグの中、全部お支払いいただかないと……」
「いえ、違うんです。いま、財布を取りに出ただけで……」

 女の手元を見れば、手垢で薄汚れた薄いピンクの折り畳み財布が、しっかりと握られています。

「お財布は、手にお持ちのようですけど、どちらまで取りに行かれるんでしょうか?」
「あ、いえ、そうじゃなくて、銀行に行こうかと……」

 しどろもどろになった女の袖口を掴んで、否認するなら警察を呼ぶと伝えると、途端に狼狽した女は財布から1万円札を取り出して押し付けてきました。

「お釣りはいらないので、これで許してください! 次はないって、こないだ言われたばかりなんです!」
「ええっつ? ちょっと前にも捕まったってことですか?」
「はい! だから本当に困るんです。これで許してください!」

 虚実が交錯する話にウンザリさせられながらも、お支払いと謝罪は店長にしてくれるよう進言します。爪先を立てて、歩きたがらない女の背中を強めに押して事務所に連行して、お決まりのパイプ椅子に座らせて盗んだ商品を出させると、計11点、合計2,600円ほどの商品が出てきました。身分を確認させてもらえば、小さな会社の事務員だという彼女は42歳で、この店の近くに家族4人(父母弟)で暮らしているとのこと。店長に報告するため、被害にはならないレタスの外葉やポリ袋、醤油、わさび、牛脂なども出していただくと、その量に驚かれた店長が顔色を変えて言いました。

「これは、ひどいな。何も買ってないみたいだし、何しに来たの?」
「ごめんなさい! もうしませんし、二度と来ませんから、これで許してください」
「ポリ袋は、何に使うの? こんなにたくさん、使い道ないでしょ? これだって、安くないんだよ。お店はね、あんたと違って、全部お金払って仕入れているの。わかる?」
「ごめんなさい、レジ袋の代わりに使おうと思っていました。これで許してください! お釣りは要りませんから!」

 その場に土下座をして、両手で1万円札を献上する女を一瞥した店長は、すぐに警察を呼びました。臨場した警察官が、まもなくして女の犯歴照会をかけると、直近に扱いがあったことが判明。俳優の中野英雄さんに似た顔馴染みの班長が、その結果を幹部室に電話で知らせて、女の扱いをどうするか相談しています。

「今日は、3階になっちゃいますけど、お付き合いいただけますよね?」

 ここの警察署の3階は、刑事課。すなわち、女が逮捕されることを意味しており、警察署に同行することを求められます。相当な時間がかかりますが、お店が被害届を出される以上は、警察に協力しないわけにいきません。

「はい、大丈夫です。それも仕事ですので」
「では、実況見分からお願いします」

 商品の位置や見ていた場所など、店内で実況見分を進めていると、2キロの米を手にした40代と思しき男性が目につきました。そのまま何気なく見ていると、手にある米をバッグに隠して出口に向かって行くので、そばにいた警察官に報告します。

「あの人、お米をバッグに隠していました」
「なんだって!?」

 外に出ようとする男を呼び止めた警察官が、バッグの中身を強制的に確認すると、当たり前にお米が出てきました。警察官に腰元を掴まれながら、事務所に連れて行かれた男は42歳で、所持金は500円ほど。アパートで独り暮らしをしているそうで、商品代金を立て替えてくれる人や、迎えに来てくれる人はいないと話しています。班長さんに、盗んだ理由を尋ねられた男は、切羽詰まったような顔で言いました。

「派遣社員をやっていたんですけど、コロナで仕事がなくなって切られちゃって……。とりあえず米だけあれば生きていけるかなって思ったんです」

 最近は、コロナ不況やレジ袋の有料化に関係する事案が増え、普段は万引きしないような人が万引きしなきゃいけない状況に陥っているような事案が散見されます。彼の境遇に同情したらしい店長は、初犯だったこともあって、今回は被害届を出さないと話していました。しかし、警察官が声をかけた以上、事件化しないといけないということになり、事態は一転。結局、その夜は、2件分の書類を作成して、深夜すぎの帰宅となります。

「この人、おれと同い年ですよ。コロナさえなければ、こんな風になってないでしょう?」
(この人の話に、嘘がなければね)

 米泥棒に同情するお人好しの店長を前に、すっかり他人を信用できなくなっている自分の本音に接して、我が身の汚れ具合を再認識した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

レジ袋有料化で万引き多発中! 「1枚5円」を絶対に払いたくない老婆との不毛すぎる戦い

 こんにちは、保安員の澄江です。

 前回の記事でもご紹介いたしましたが、7月に入ってから、レジ袋の有料化に伴うトラブルや不正行為が各店で散見されます。特に、お客さん自身が精算手続きの全てを行うフルセルフレジにおける不正行為の発生率は顕著で、設置店舗に入れば必ず一度は目にする光景となりました。最初に通さなければならないはずの有料レジ袋を、レジに通すことなくセットし、そのまま持ち去っていく人が多いのです。たった3〜5円の話ですが、いままで無料で入手できたモノを買わなければならないとなると、どこか損をした気持ちになってしまうのでしょう。毎回のこととなれば、その負担も確かに気になってきますが、エコバッグを持参すれば済む話なので同情はできません。今回は、どうしてもレジ袋代金を支払いたくない常連客との、不毛な戦いについてお話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東近県の某駅前にあるショッピングセンターK。昨年に契約をいただいたクライアント様で、今までの傾向からすれば、主に高齢者の犯行が目立つ現場です。レジ袋が有料化されて以降、S,M,Lと3種類のサイズに分かれたレジ袋専用の陳列棚がレジ手前に新設され、精算直前に棚から取れるようになりました。特に目立つ不審者を見つけられないまま勤務終盤を迎えたところ、入店直後にLサイズのレジ袋(5円)を手に取り、それをカゴに入れて買い回り始めた70代と思しき女性が目につきます。全身黒づくめの服装で、黒いチューリップハットを目深に被り、白いマスクと無駄に大きく見開いた二つの目が不気味で印象的な、どことなく面倒くさそうな感じのする老婆です。

(あの袋に直接入れて、そのまま出るつもりなのかしら)

 自分の直感を信じて追尾すれば、そのまま店の死角通路である雑貨売場に向かった黒い老婆は、人気のないことを確認すると、レジ袋をくしゃくしゃに丸めて自分のバッグに隠しました。それから、野菜や刺身、納豆、牛乳などをカゴに入れた黒い老婆は、特に不審な様子を見せることなくレジに向かいます。ソーシャルディスタンスが反映された列に並び、自分の順番を迎えてレジ台にカゴを置いた黒い老婆に、レジ担当の店員さんが声をかけました。

「いらっしゃいませ。袋は、ありますか?」
「うん、大丈夫」

 レジ前にあるガムを選ぶフリをしながら、その言葉をしっかりと聞き取った私は、黒い老婆から目を離さないまま、たまたまそばで品出しをしていた俳優の濱田岳さんを肥満児にしたような雰囲気を持つ店長に判断を仰ぎます。

「おつかれさまです。あの方が、Lサイズのレジ袋を隠すところを見ましたけど、捕捉しますか?」
「あの人、よく見るお客さんだなあ。続くと困るから、優しく注意してもらえる? 今日の分は、払ってもらわなくてもいいから」

 たった5円のこととはいえ、毎日やられてしまうのは困る。店長の気持ちを察した私は、黒い老婆が精算を終えるのを待ち、未精算のレジ袋に商品を詰めて外に出たところで声をかけました。

「お客さん、こんにちは。お店の者です。実は、7月からレジ袋が有料になりまして……」
「知っていますよ。で、なんですか?」
「そちらの代金、お支払いいただけなかったので、お伝えしています。今回は……」
「はあ? これは家から持ってきた袋よ。変な言いがかりつけないでよ」

 やんわりと注意しようと試みたものの、勝手に興奮してしまった黒い老婆は、周囲が振り返るほどの大声を出し、否認してみせました。こうなると、あとで何を言われるかわからないので、白黒はっきりつけなければなりません。

「いえ、私、全部見ていましたから。今回はいいですけど、次回からは、きちんとお支払いいただけますか?」
「ちょっと、あなた。毎日来ている客に向かって、その言い方は、なによ? ちょっと店長を呼びなさい」

 自分の行為を棚に上げて居直られたので、やむなく事務所に連れて行き、店長に事情を説明します。すると、いまだ興奮状態にあるらしい黒い老婆が、私の話の腰を折るようにまくし立ててきました。

「店長さん、この人ね、まるで私がレジ袋を盗ったみたいな言い方するのよ。私、長年通っているのに、ひどいじゃない」
「でも、お支払いいただいていないですよね?」
「はあ? これは持ってきた袋だって、さっきから言っているじゃないの!」

 完全に居直られてしまい、どうにも話にならないため、業を煮やした店長は警察に通報することを決めました。

「事件です」
「なにが事件よ、いい加減にしてよね!」

 電話口で通報を始めた店長の言葉を聞いた黒い老婆が、間髪入れずにツッコミを入れてきます。警察官が到着するまでの間も、執拗に私たちを責め続けた黒い老婆は、もし証拠がなかったらどうしてくれるんだと、脅迫めいたことまで口にしました。ここまで言われてしまえば、どうにも黙っていられません。

「証拠があった時は、どうされるおつもりですか?」
「そんなの、あるわけないから関係ない」

 どこまでも居直るつもりらしいので、怒りを堪えながら警察官の到着を待っていると、まもなくして背の高いプロ野球選手のような体をしたTOKIOの長瀬智也さんのような雰囲気を持つ男性警察官が、とても可愛らしいアイドル顔の女性警察官を伴って現れました。俳優さんと見紛うほど素敵な2人を前に、刑事ドラマに出ているような気持ちで状況を説明します。

「盗んだのは、レジ袋だけですか?」
「はい。注意で済ませようと声をかけたら、大騒ぎされてしまいまして……」
「被害額は、5円ってことですね。こんなに安いのは、初めてだなあ」

 警察官から事情を聞かれても、家から持ってきたものだと主張を崩さなかった黒い老婆は、証拠を見せろと、なぜか勝ち誇ったように繰り返しています。まるで埒が明かないので、根負けした警察官が防犯カメラの映像を検証することに決めると、その操作を店長に依頼しました。顔を紅潮させ、明らかにイラついた様子でモニターを睨む店長に、現認した時間と場所を伝えて検索をサポートします。その結果、黒い老婆が袋を手に取る映像とレジ袋をバッグに隠している映像を見事に発見。その全てが鮮明に記録されていたため、それを見せられた黒い老婆は言葉を失い、怒りと恥ずかしさが混ざったような顔でわなわなと体を震わせています。

「おばあちゃん、家から持ってきた袋じゃなかったね」
「……ちょっと勘違いしていたみたい。ちゃんと払います」

 警察官の問いかけに、ようやく行為を認めた黒い老婆でしたが、謝罪の言葉が一つも出ません。ここで、ずっと堪えていたらしい店長が、怒りを爆発させるように言いました。

「払いますの前に、なにか言うことあるんじゃないですか? この忙しい時に、こんなに大騒ぎしといてさ、勘違いで済まされないよ」
「いつも来ているんだから、そんな言い方しないでよ」
「いや、もう来ていただかなくて結構。ていうか、二度とこないでください。あなた、出入禁止!」
「こんな年寄りをイジめて、楽しいかい? まったく、ひどい店だよ」

 口喧嘩になり、より感情的になった店長が、被害届も出してやろうかと言い始めました。たった5円のこととはいえ、被害申告されるとなれば、警察も扱わないわけにはいきません。それを聞いた警察官たちは、明らかに困惑した様子で、店長を落ち着かせるべくたしなめにかかります。

「金額が金額なので、警察に一任してもらえませんか? 厳しく注意しますから、お願いしますよ」

 あまりに小さな事件のため、本音を言えば扱いたくないのでしょう。店に謝罪するよう、女性警察官が15分ほどかけて黒い老婆を説得した結果、ようやくに頭を下げてくれました。謝罪の言葉を受けて、落ち着きを取り戻したらしい店長が、冷静な口調で黒い老婆に尋ねます。

「袋だけ、どうして買ってくれなかったんですか?」
「バッグを忘れてきちゃったけど、袋にお金を使うのは嫌だったんだよ」
「お金は、あるんですよね?」
「うん、5万くらいある」

 塵も積もれば山となる。米一粒を大事にするほどに節約意識の高い日本人の国民性が、レジ袋の支払いをケチる心理につながっているのかもしれません。声をかけてから事態が収束するまで、およそ2時間。たった5円のレジ袋1枚のために残業となり、大人4人が費やした時間や経費がもったいなく、黒い老婆の腹黒さを恨めしく思いました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

レジ袋有料化に「おかしいだろ」と激怒! クレーマーはその後「エコバッグ」を万引きして……!?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 7月1日より、全国の商店においてレジ袋が有料化されました。その代用品として、さまざまなタイプのエコバッグも販売され、もはや手ぶらで買い物に来る人のほうが珍しくなってきているほどです。エコバッグを持参することで、魔が差す機会も増えてしまうのでしょう。最近は、商品をポケットに隠す人よりも、持ち込んだエコバッグに商品を隠す人が目立つようになりました。犯行に用いるバッグの大きさに比例してブツ量は増し、逮捕率も上昇します。捕まえてみれば、大量に盗む人ほど、なに一つ買っていない場合が多く、泥棒特有の厚かましさを痛感することも増えました。今回は、エコバッグを利用した悪質万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の端っこにある私鉄駅前に位置する大型ショッピングセンターM。地下1階、地上5階の一棟ビルが丸ごと巡回対象となる大型店舗で、長年にわたって通い詰めているお店の一つです。そのため所轄警察署で勤務する方々にも顔見知りが多く、この店に入るときには駅前交番に顔を出して、挨拶をしてから現場に入ることにしています。この日は、何度も担当していただいている班長が交番の外に立っておられ、目が合うと同時に声をかけられました。往年の名優、下川辰平さんに似ている気さくな警察官で、とても親しみやすい雰囲気の持ち主です。

「えー!? 今日入っているの? 参ったなあ。何時まで?」
「12時から20時までです。そんなに嫌な顔しないでくださいよ」
「嫌ではないですよ。でも、16時前後の通報は、できるだけ避けてもらいたいねえ。今日は、孫の誕生日会があるもんでさ。ご協力、お願いしますよ」 

 恥ずかしげに笑いながら話す班長の姿は、孫にデレデレのおじいちゃんにしか見えません。冗談半分ではありますが、残り半分は本気のようで、孫との時間を邪魔されたくないという気持ちが伝わってくるような気がしました。

「あら、おめでとうございます。こんな仕事なので、お約束はできませんけど、なるべく気をつけますね」
「なんとかお願いしますよ。去年も、万引きで行けなかったからさ……」
「そうだったんですか。今年は、行けるといいですね」
「今日だけは、再会したくないですね。お気をつけて」

 なんとなく申し訳ない気持ちで班長と別れて現場に入り、いつものように巡回を始めてまもなく、地下1階の食品売場にあるレジのほうから、大きな怒鳴り声が聞こえてきました。何事かと、気になって駆けつけると、仮面ライダーに出てくる死神博士に似た雰囲気を持つ白髪の老人が、レジ担当の女性店員さんを怒鳴りつけています。

「袋の金まで取るのか? そんなの、おかしいだろ!」

 どうやらレジ袋が有料化(1枚あたり3~5円)されたことに納得がいかず、女性店員を恫喝しているようで、すぐにマネージャーも駆けつけてきました。保安の立場から遠巻きに見守っていると、マネージャーの説明にも納得できない様子の博士は、顎を上下に怒鳴り続けて2人を困惑させています。

「じゃあ、これ全部いらねえから、金返してくれ。二度と買いに来ねえからな」

 袋の代金を、よほど払いたくないのでしょう。一度支払いを済ませた分の返金を受けた博士は、マネージャーを睨みつけながら捨て台詞を吐くと、肩で風を切るようにして外に出て行きました。客の立場を履き違えたクレーマーと呼ぶべき粗暴な振る舞いは、見ていて気持ちのいいものではありません。博士の背中を見送った後、お手洗いに立ち寄って、気持ちを切り替えて巡回を再開します。

(あれ!? あのお爺さん、またきてる……)

 それから2時間ほど経過したところで、正面口から堂々と入ってくる博士の姿を発見しました。舌の根も乾かぬうちの再来店に慄きつつ、その動向を見守れば、入口脇にあるエコバッグの特設売場に入っていきます。

(あきらめて、買うことにしたのかしら)

 そんな思いで注視を続けていると、棚からカゴにはまるタイプのエコバッグを手にした博士は、レジに寄ることなく地下の食品売場に続く下りエスカレーターに乗り込みました。この店の精算方式は各階精算が基本で、ポスターの掲示や店内放送でも繰り返し案内されていますが、まったく気に留めていない感じです。エスカレーターを降りて、カート上にカゴを置いた博士は、慣れぬ手つきでカゴにエコバッグをはめると、何食わぬ顔で歩き始めました。そのまま追尾してみれば、まだ精算を済ませていないエコバッグの中に、遠慮なく商品を詰めていきます。

(最後にまとめて精算するつもりなのかしら?)

 野菜、生鮮食品、菓子、惣菜、酒などの売場を巡り、多くの商品をエコバッグの中に入れた博士は、多少混雑するレジをすり抜けてサッカー台に直行しました。エコバッグの開口部を素早く紐で締めて、それを肩にかけると、いそいそと上りエスカレーターに乗り込んでいきます。するとまもなく、ジャージのポケットからライターを取り出した博士は、エコバッグに付いたままだった値札のループを焼き切って、手際よく除去してみせました。エスカレーター最上部に滞留する値札を拾い、博士が店の外に出たところで声をかけます。

「店内保安です。これ全部、お支払いいただかないと」
「ああ? あんた、なんだよ? ほっといてくれ」
「そういうわけにはいきませんよ」
「うるせえな、離せ!」

 大声を上げて逃げようとする博士の右腕を、逃がさないよう左脇に挟んで揉み合っていると、差し込んだ左腕に汚い爪を立てられました。攻撃を避けるべく体を回転させた瞬間、不意を突かれたらしい博士が、仰向けに転倒してしまいます。これ幸いと、肩にかかったままのエコバッグを膝で押さえて地面に押し付けるようにした私は、博士の動きを封じながら携帯電話を取り出しました。

「この野郎、離せ。女だからって、容赦しねえぞ」
「いま警察呼びますから、ちょっと待ってくださいね」
「なんでだよ? いいから、早く離せ」

 仰向けのまま掴みかかってくるので、通報することもできずに右往左往していると、誰かが通報したのか、班長が若い警察官と一緒に駆け付けてくれました。

「お騒がせしてすみません。この人、これ全部払っていないんです」
「ケガはしてない? あんたのことだから大丈夫だろうけど、盗んだのは間違いないね?」
「両方とも大丈夫です」

 警察官の姿を見て、なにやら大声を出していた博士でしたが、身柄を若い警察官に預けられた途端に、おとなしくなりました。班長に現認状況を説明しながら総合事務所に向かい、店長さんを呼んで被害を特定します。

 この日の被害は、計23点、合計8,000円ほどとなりました。

 博士の所持金は、1,000円足らずで、全ての商品を買い取ることはできません。近くのコーポに1人で暮らしているそうで、身寄りはなく、商品代金を立て替えてくれる人もいないというので、犯歴次第では逮捕もあり得る状況と言えるでしょう。盗んだ理由を聞けば、マネージャーさんに話してあるから大丈夫なんだと、意味不明なことを真剣な表情で話しています。

「今日だけは、再会したくない」

 班長の言葉を思い出して、ちらりと時計に目をやると、すでに15時を少し回っていました。このまま被害届が出されれば、相当の時間がかかるに違いなく、今後の展開が気になります。

「班長さん、ごめんなさい」
「なんで謝るの? ケガがなくて、なによりでしたよ」
「お時間は、大丈夫ですか? 長くなっちゃいますかね?」
「それは、どうだろう。この爺さんの、歴次第だよね」

 犯歴照会をしたところ多数の前科が判明したようですが、それと前後して博士が認知症であるという情報も入ったそうで、今回は立件することなく厳重注意で済ませる流れになりました。そんなことまでわかるのかと班長に尋ねると、少し前にも警察の世話になっていたそうで、その扱い時に得られた情報なのだと話しています。

「またやっても、同じ結果になるんですか?」
「善悪の判断がつかないって診断が出ちゃっていると、なかなか難しいよね。最近、多いんだよ。こういう人……」
「でも早く終わってよかった。危うく班長さんに恨まれるところでしたよ」
「お気遣い、ありがとうございます。正直、ホッとしました」

 安心した様子を見せた班長が、事務所から博士を連れ出すと、まもなく警察無線の着信音が鳴り響きました。班長が無線を受けると同時に、軍人の伝令に似た名調子が漏れ聞こえてきます。

「至急、至急……」
「また万引きか。参ったな……」

 すぐ近くの店における新事件発生の一報を受けた班長は、悲しげな苦笑いを浮かべて呟くと、明らかに重い足取りで博士を連行していきました。その背中に漂う哀愁のようなものが、同じ職業だった亡き夫を彷彿させ、私の胸を締めつけます。その日の夜は、数少ない写真に残る想い出に目を通して、夫の声を思い出しながら眠りにつきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメン憤怒! タトゥー夫婦の共犯目撃も「おれは盗ってないから」……ふんぞり返る夫の秘密

 こんにちは、保安員の澄江です。

 長年にわたり、契約をいただいている現場に入ると、過去に捕捉した人と遭遇することがあります。捕捉された時、出入禁止の誓約書に署名を為しているにもかかわらず、素知らぬ顔で入ってきてしまう実情があるのです。きちんと買い物をしてくれるのならまだしも、懲りずに犯行を繰り返す人も多く、私などの存在に気付いて犯行を中止する人までいる始末。面(自分の顔、正体)が割れてしまっているので、それも仕方のないことですが、いない時にやられていると思うと、どうしてもイライラしてしまいます。最近は、万引きをして捕まった人を顔認証登録することで、そうした方の入店を拒否する店も増えてきました。6割を超えると言われる万引きの再犯率を考えれば、それも当然の流れなのかもしれません。今回は、過去に捕らえて更生を誓ってくれた万引き犯に、みごとに裏切られた話をしたいと思います。

 当日の現場は、関東の外れに位置する食品スーパーT。長年にわたり、地元に根付いた商売をしている老舗のスーパーです。勤務の中盤、閑散とした店内を流していると、以前に捕らえた40代前半の女性から声をかけられました。腕や首すじにいくつかのタトゥーを入れた、どことなくタレントの田中律子さんに似ている色黒の女です。

「あ、また今日も入ってるんだ」
「ええ、まあ。今日は、どうされたの?」
「買い物に来たんですけど、まだ出禁なのかな? やっぱり来ちゃダメですか?」
「それは私が許可できることじゃないけど、変なことしないならいいと思いますよ」

 この店で彼女を捕らえたのは、1年ほど前のこと。刺身や惣菜、それに缶ビールなどをバッグに隠して精算しないまま外に出た彼女が、店の前にある駐輪場に停めた自転車に乗り込もうとしたところで声をかけたのです。その時は、商品の精算を済ませ、今後は店に出入りしない旨の誓約書に署名させられた上で、警察に引き渡されるというお決まりの流れで処理されました。前科前歴がないということで被害届は出されなかったものの、身柄の引き受けに家族を呼ばれたようで、あの日のことは死ぬほど後悔していると話しています。

「もうあんな思いは、二度としたくないので、絶対にしません。あの時、捕まえてもらえなかったら、もっとエスカレートしていたような気がして……。お姉さんに、感謝しているくらいなんです」
「そう思ってもらえるなら、ありがたいですけど……。では、仕事中なので、失礼しますね」

 過去に捕らえた人からの声かけは、何度か経験したことがありますが、あまり気分のいいものではありません。話すことも特にないので、その場から逃げるように立ち去った私は、そのまま休憩に入って彼女との遭遇を回避しました。このような状況に陥った時には、身を隠すのが一番なのです。

 それから、およそ3カ月。スーパーTで巡回をしていると、件の彼女が旦那さんらしき人と2人で店に入ってくるのが見えました。旦那さんらしき人の体にも、たくさんのタトゥーが入っており、とても目立っていたのです。なんとなく目を離せないでいると、入店するなり二手に分かれた2人は、誰かを探しているような動きで店内を大きく一周してみせました。そうして入口前に戻ると合流して、仲良くカートを押し始めたのです。あまりに不自然な行動に強い悪意を感じた私は、落ち着きない様子で周囲を気にして歩く2人に気付かれぬよう、つばのついた帽子を目深に被って、その後を追いました。新型コロナウイルスによる自粛要請期間中のため、客足は少なく、少しでも油断すれば気付かれてしまう状況です。慎重に追尾を続けると、いくつかの商品を棚取りした2人は、この店一番の死角箇所に入っていきました。

(前も、あそこで入れたのよね)

 犯行に至ることを確信して、身を隠しながら2人の行動を見守ると、旦那さんらしき人と目配せをした女が、刺身や牛肉、ビールなどの商品を次々と自分のバッグに隠していきました。見張り役がいることで安心しているのか、前回の時よりも堂々と、臆することなく犯行に及んでいるように見えます。通常客を装いたいのか、バッグには入りそうにないサイズのキャベツと長ネギの精算を済ませて店の外に出た2人に声をかけると、まるでお化けでも見たかのような顔で驚かれました。

「こんばんは。また会ったわね」
「ひっつ! あれ? 今日も入っていたの?」
「あなたには関係ないことよ。ちゃんとお金払わないと、ね。お二人とも事務所まで来ていただけますか?」

 そう言うと、旦那さんと思しき人が、口を尖らせて言いました。

「なんで? こいつが勝手にやったことで、おれは関係ないよ。なにも盗ってないし」
「私、全部見ていましたから。奥さんだけのせいにしたら可哀想よ。どちらにせよ、迎えに来ないといけなくなるだろうし」
「……………………」

 2人を事務所に連れて行き、盗んだ商品をデスクに出させると、計5点、合計2,800円ほどの商品が出てきました。所持金は、2人合わせても1,000円足らずで、商品を買い取ることはできません、2人の身分確認を済ませて、店長さんを呼んで判断を仰ぐと、すぐに警察を呼ぶことになりました。その動きを察したらしい旦那が、私たちを言い含めるように、投げやりな口調で言います。

「女房のやったことは謝るけどさ、おれは盗ってないから。警察呼んでもいいけど、おれは関係ないからね」
「そうですか? 警察には、自分の目で見たことだけをお話ししますので、ご心配なく」

 旦那に裏切られて、自分の行く末を案じているのか、いつのまにか号泣していた女が、両手で私の手を握り締めて言いました。

「前に捕まってから、本当に、ずっとやっていなかったんですけど、2人ともコロナで仕事がなくなっちゃって……」

 コロナ禍における濃厚接触は避けたいところですが、ボロボロと涙を流す彼女を見れば、その手を振り払う気持ちにもなれません。宥めるように相槌を打ちながら話を聞いていると、2人共に派遣社員で、コロナの影響で仕事がなくなり、収入が途絶えてしまったことから、やむなく再犯に及んでしまったと話しています。

「給付金は出たけど、家賃と光熱費でなくなって……。こうするしかなかったんです」

 確かに同情すべき話に聞こえますが、共犯行為はもちろん、私を探してから犯行に至った点は非常に悪質で、とても見過ごせるものではありません。なによりも、明らかな共犯関係にありながら、泣き咽ぶ奥さんを尻目に犯行を否認し、偉そうに腕を組んで貧乏ゆすりをしている旦那が許せない気持ちになりました。普段は温厚な店長さんも同様だったようで、今回は厳しくしてもらおうと、珍しいことに被害届を出すと話しています。

「旦那のほう、こないだ送ったばかりのヤツです。今日は、時間かかっても大丈夫ですか?」

 まもなくして臨場した顔馴染みの警察官によると、この旦那は数週間前にも、別の店舗で万引きをして捕まっており、書類送検されたばかりとのこと。その背景を聞けば、全ての罪を妻になすりつけて無関係を装うのも理解でき、やむなく再犯に至ったという女の主張にも合点がいきます。結局は、夫婦共に逮捕されてしまいましたが、女の流した涙だけは本当だったような気がして、どこか救われた気持ちになりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメン憤怒! タトゥー夫婦の共犯目撃も「おれは盗ってないから」……ふんぞり返る夫の秘密

 こんにちは、保安員の澄江です。

 長年にわたり、契約をいただいている現場に入ると、過去に捕捉した人と遭遇することがあります。捕捉された時、出入禁止の誓約書に署名を為しているにもかかわらず、素知らぬ顔で入ってきてしまう実情があるのです。きちんと買い物をしてくれるのならまだしも、懲りずに犯行を繰り返す人も多く、私などの存在に気付いて犯行を中止する人までいる始末。面(自分の顔、正体)が割れてしまっているので、それも仕方のないことですが、いない時にやられていると思うと、どうしてもイライラしてしまいます。最近は、万引きをして捕まった人を顔認証登録することで、そうした方の入店を拒否する店も増えてきました。6割を超えると言われる万引きの再犯率を考えれば、それも当然の流れなのかもしれません。今回は、過去に捕らえて更生を誓ってくれた万引き犯に、みごとに裏切られた話をしたいと思います。

 当日の現場は、関東の外れに位置する食品スーパーT。長年にわたり、地元に根付いた商売をしている老舗のスーパーです。勤務の中盤、閑散とした店内を流していると、以前に捕らえた40代前半の女性から声をかけられました。腕や首すじにいくつかのタトゥーを入れた、どことなくタレントの田中律子さんに似ている色黒の女です。

「あ、また今日も入ってるんだ」
「ええ、まあ。今日は、どうされたの?」
「買い物に来たんですけど、まだ出禁なのかな? やっぱり来ちゃダメですか?」
「それは私が許可できることじゃないけど、変なことしないならいいと思いますよ」

 この店で彼女を捕らえたのは、1年ほど前のこと。刺身や惣菜、それに缶ビールなどをバッグに隠して精算しないまま外に出た彼女が、店の前にある駐輪場に停めた自転車に乗り込もうとしたところで声をかけたのです。その時は、商品の精算を済ませ、今後は店に出入りしない旨の誓約書に署名させられた上で、警察に引き渡されるというお決まりの流れで処理されました。前科前歴がないということで被害届は出されなかったものの、身柄の引き受けに家族を呼ばれたようで、あの日のことは死ぬほど後悔していると話しています。

「もうあんな思いは、二度としたくないので、絶対にしません。あの時、捕まえてもらえなかったら、もっとエスカレートしていたような気がして……。お姉さんに、感謝しているくらいなんです」
「そう思ってもらえるなら、ありがたいですけど……。では、仕事中なので、失礼しますね」

 過去に捕らえた人からの声かけは、何度か経験したことがありますが、あまり気分のいいものではありません。話すことも特にないので、その場から逃げるように立ち去った私は、そのまま休憩に入って彼女との遭遇を回避しました。このような状況に陥った時には、身を隠すのが一番なのです。

 それから、およそ3カ月。スーパーTで巡回をしていると、件の彼女が旦那さんらしき人と2人で店に入ってくるのが見えました。旦那さんらしき人の体にも、たくさんのタトゥーが入っており、とても目立っていたのです。なんとなく目を離せないでいると、入店するなり二手に分かれた2人は、誰かを探しているような動きで店内を大きく一周してみせました。そうして入口前に戻ると合流して、仲良くカートを押し始めたのです。あまりに不自然な行動に強い悪意を感じた私は、落ち着きない様子で周囲を気にして歩く2人に気付かれぬよう、つばのついた帽子を目深に被って、その後を追いました。新型コロナウイルスによる自粛要請期間中のため、客足は少なく、少しでも油断すれば気付かれてしまう状況です。慎重に追尾を続けると、いくつかの商品を棚取りした2人は、この店一番の死角箇所に入っていきました。

(前も、あそこで入れたのよね)

 犯行に至ることを確信して、身を隠しながら2人の行動を見守ると、旦那さんらしき人と目配せをした女が、刺身や牛肉、ビールなどの商品を次々と自分のバッグに隠していきました。見張り役がいることで安心しているのか、前回の時よりも堂々と、臆することなく犯行に及んでいるように見えます。通常客を装いたいのか、バッグには入りそうにないサイズのキャベツと長ネギの精算を済ませて店の外に出た2人に声をかけると、まるでお化けでも見たかのような顔で驚かれました。

「こんばんは。また会ったわね」
「ひっつ! あれ? 今日も入っていたの?」
「あなたには関係ないことよ。ちゃんとお金払わないと、ね。お二人とも事務所まで来ていただけますか?」

 そう言うと、旦那さんと思しき人が、口を尖らせて言いました。

「なんで? こいつが勝手にやったことで、おれは関係ないよ。なにも盗ってないし」
「私、全部見ていましたから。奥さんだけのせいにしたら可哀想よ。どちらにせよ、迎えに来ないといけなくなるだろうし」
「……………………」

 2人を事務所に連れて行き、盗んだ商品をデスクに出させると、計5点、合計2,800円ほどの商品が出てきました。所持金は、2人合わせても1,000円足らずで、商品を買い取ることはできません、2人の身分確認を済ませて、店長さんを呼んで判断を仰ぐと、すぐに警察を呼ぶことになりました。その動きを察したらしい旦那が、私たちを言い含めるように、投げやりな口調で言います。

「女房のやったことは謝るけどさ、おれは盗ってないから。警察呼んでもいいけど、おれは関係ないからね」
「そうですか? 警察には、自分の目で見たことだけをお話ししますので、ご心配なく」

 旦那に裏切られて、自分の行く末を案じているのか、いつのまにか号泣していた女が、両手で私の手を握り締めて言いました。

「前に捕まってから、本当に、ずっとやっていなかったんですけど、2人ともコロナで仕事がなくなっちゃって……」

 コロナ禍における濃厚接触は避けたいところですが、ボロボロと涙を流す彼女を見れば、その手を振り払う気持ちにもなれません。宥めるように相槌を打ちながら話を聞いていると、2人共に派遣社員で、コロナの影響で仕事がなくなり、収入が途絶えてしまったことから、やむなく再犯に及んでしまったと話しています。

「給付金は出たけど、家賃と光熱費でなくなって……。こうするしかなかったんです」

 確かに同情すべき話に聞こえますが、共犯行為はもちろん、私を探してから犯行に至った点は非常に悪質で、とても見過ごせるものではありません。なによりも、明らかな共犯関係にありながら、泣き咽ぶ奥さんを尻目に犯行を否認し、偉そうに腕を組んで貧乏ゆすりをしている旦那が許せない気持ちになりました。普段は温厚な店長さんも同様だったようで、今回は厳しくしてもらおうと、珍しいことに被害届を出すと話しています。

「旦那のほう、こないだ送ったばかりのヤツです。今日は、時間かかっても大丈夫ですか?」

 まもなくして臨場した顔馴染みの警察官によると、この旦那は数週間前にも、別の店舗で万引きをして捕まっており、書類送検されたばかりとのこと。その背景を聞けば、全ての罪を妻になすりつけて無関係を装うのも理解でき、やむなく再犯に至ったという女の主張にも合点がいきます。結局は、夫婦共に逮捕されてしまいましたが、女の流した涙だけは本当だったような気がして、どこか救われた気持ちになりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)