有名弁当店「キッチンDIVE」万引き事件をベテランGメンが考察! 同じ服装で犯行を繰り返すのは「よくあること」

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、東京・江東区にある、ボリュームと安さが売りの有名弁当店「キッチンDIVE」で、弁当を盗んだ男が逮捕されました。先月にも、同様の犯行に及んでおり、その様子を捉えた映像がライブ配信されて話題となった事件です。

 1回目の犯行映像を見ると、スポーツキャップをかぶり、青いウインドブレーカーを着た小太りの男が、レジ前に佇んで商品を選ぶフリをしながら周囲を見回しているのがわかります。そして、惣菜を手に取った男は、両手で抱えるようにして持つと、左手を弁当に伸ばして取りました。自分の体を使って、店員から商品を見えないように隠して、お客さんの流れに逆らいながら出口に向かう様は、万引き犯の典型的な動きの1つといえるでしょう。

 1回目の犯行後、ネット上などで大きな話題になったにもかかわらず、同じ格好で同様の犯行に及んで現行犯逮捕されたことも話題になりました。このような犯行態様は、私たちからすれば、よくあることなのですが、一般の方は不思議に思われたようです。

 スーパーなどで弁当を盗む人の被疑者像を想像すれば、失業者、もしくはホームレスに近い状態にある人が目立ちます。スマートフォンなどを持てない人も多く、いわゆ“情報弱者”の状況にあるため、店内映像をライブ配信していることなど思いもよらなかったのではないでしょうか。食うに困って、刑務所に入るために、あえて捕まりやすい店を選んだのかもしれませんが、おそらくは過去の成功体験が再犯に向かわせたと思われ、そう考えれば万引き犯が好まぬ店員の目が届きやすい狭い店で大胆な犯行を繰り返したことも理解できます。

 いずれにせよ、弁当を盗む人は食うに困っている状況にあることがほとんどで、こう言ってはなんですが、あまり責める気になれません。ただ切なく、1日も早く明日の食事を心配しないで済む生活基盤を築いてほしいと、その場限りのお祈りを捧げるばかりです。今回は、この男同様、服装が仇となって捕捉に至った女常習犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外の住宅街に位置する大型ディスカウントスーパーK。食品をはじめ、衣料品やドラッグコスメはもちろん、カー用品や家電製品など、さまざまな品物を扱っている昭和感漂う老舗店舗です。建物の造りが古いこともあって、広大な2フロアの売場は死角だらけで、防犯機器もわずかしか設置されていません。その捕捉率は、いままで踏んできた中でも上位にあり、地域に潜在する高齢常習者をはじめ、小学生から外国人窃盗団まで、ありとあらゆる万引き犯が集まってくる検挙が絶えない現場といえるでしょう。

 裏口から総合事務所に出勤の挨拶に出向くと、いつもよくしてくださるミスチルの桜井和寿さんに似た店長が、満面の笑みで出迎えてくれました。

「そういえば、最近、変な女がよく来ていてさ。たぶん、やっていると思うんだよね」
「どんな人ですか?」
「40歳くらいかなあ。小柄で色の黒い、ショートカットの人でさ。いつも背中に『8』の数字が入った派手なジャンパーを着てくるから、すぐにわかると思うよ。8番の女、今日来るかわからないけど、注意してみて」

 どれほど派手なジャンパーかわかりませんが、すぐにわかるというので、相当に目立つ人なのでしょう。なぜだかはわかりませんが、万引き常習者は派手な服装をしていることが多いので、店長の言葉を信じて警戒にあたります。

 午前中に、2本のビールを盗んだ83歳の老婆を警察に引き渡し、お店の休憩室で持参した弁当をつつきながら、どことなく蛙亭の中野周平さんに似た警察官と微罪処分の処理を為して現場に戻ると、まもなくして無数のワッペンがつけられたピンクのスタジャンに、水色のスパッツという奇妙な服装をした女に目を引かれました。タレントの鈴木奈々さんを二回りほど大きくしたような雰囲気を持つ30代前半と思しき色黒の女です。右肩にかけられた特大サイズのエコバッグも気になって、相当に離れたところから行動を見守ると、カートを押す女の背中に大きな「8」の字のワッペンが貼られているのが見えました。

(この人が、8番の女ね。カゴに何も入っていないし、いま来たところかな)

 すると、入口脇にある高級青果コーナーで、箱入りのあんぽ柿をカゴに入れた女は、次に鮮魚コーナーで本マグロの刺身と酢ダコを、続いて精肉コーナーですき焼き用の黒毛和牛スライスを2パック手に取ってカゴに入れました。値段を確認することなく、次々と高額商品を手にしていますが、なぜか支払意欲が感じられないのが不思議です。

 続けてビールケースと10キロの米をカートの下段に載せて、人気のない日用品売場に移動した女は、肩にかけた特大エコバッグを下ろして、上段のカゴに入れた商品を覆い隠すようにして歩き始めました。通常客の歩行速度を大きく上回る早足で店内を歩かれ、危うく見失うところでしたが、女の派手な服装を目印にして食らいつきます。

 すると、居並ぶレジカウンターの脇をすり抜け、レジとサッカー台の間を通過した女が、そのまま店の外に出て行くので、呼び止めるべく近寄ると、先程まで一緒にいた警察官が前方から歩いてきました。前を行く女も、その姿に気付いたらしく、明らかに歩行速度を上げて、この場から逃れようとしています。なにか用事でもあるのか、私の姿を目にして微笑みかけてきた警察官に、目と顎で合図をしてから女に声をかけました。

「こんにちは、お店の者です。これ全部、お支払いただかないと……」
「え、いや、車にポイントカードを忘れちゃって、取りにきたんです。ちゃんと払いますよ」
「いや、商品をバッグで隠して、お金払わないまま外に出たらダメなんですよ。そんな言い訳は通らないと思いますけど、もし否認されるなら、こちらの警察官とお話しいただけますか」
「…………」

 声をかけるところから状況を見守ってくれていた警察官が、正面に立ちふさがる形で女の前に立ち、嫌気の差した顔を隠すことなく言いました。

「またですか、参ったな。ちょっとお姉さん、お店の人がお金もらってないって言っているけど、実際のところはどうなの?」
「いや、ポイントカードを車に忘れて……」
「そんなこと聞いてない。お金払ったのか、払っていないのか、それを聞いているの。どっち?」
「まだ払ってないです」

 明らかに苛立っている様子の警察官から、少し強い口調で同行を求められた女は、警察官に腰元を掴まれた状態で事務所に向かいます。事務所に入ると、傍らのデスクで惣菜パンを食べていた店長が、目を丸くして叫びました。

「え、また? あ、8番さんじゃん。やっぱり、やっていたか。そうだよなあ!」
「店長、この人のことご存じなんですか?」

 警察官の問いかけに、鬼の首を取ったような顔をした店長が、女を蔑むように見下ろしながら言いました。

「ずっとマークしていた人です。あんた、しょっちゅうやっていたろ?」
「いえ、そんなことないです。車にポイントカードを忘れただけなんです。信じてください!」

 未精算の商品は、計7点。被害合計は、2万円を超えました。女の前歴次第では逮捕もあり得る大きな被害に、1人目の処理を終えたばかりの警察官は、どこか投げやりにもみえる不遜な態度で女の身分確認を進めています。報告書に記載するため、女の了解を得たうえで財布に入っていた運転免許証を警察官と一緒に拝見したところ、この店からほど近いところにあるコーポに住むという女は、34歳。警察官の問いかけに対して、いまは無職で、生活保護を受けながら生活していると話していました。所持金は、2,000円足らずで、クレジットカードなども持っていないようなので、盗んだ商品を買い取ることはできそうにありません。所持品検査の結果、この店のポイントカードまで財布から出てきて、女のウソも明らかとなりました。

「ポイントカードのことはさておき、どうやってお金払うつもりだったの」
「…………」

 警察無線から漏れ聞こえてきた彼女の扱い歴は、6件。応援要請を受けて駆けつけた女性警察官に女の身柄を任せて、彼女の扱いを決めるため刑事課に相談の連絡を入れた警察官が、電話を切ると顔色を変えて言いました。

「だめだ、こりゃ。この人、2階に上がってもらうことになったから、保安員さんも一緒に来て」

 2階に上がってもらうということは、女の扱いが刑事課に決まったことを意味しており、それ即ち女の逮捕を示唆しています。

「もうすぐ交代だっていうのに、時間かかるぞ、こりゃ」

 警察署に出向く準備を整えて、今日は残業になりそうだと店長に伝えると、財布から1枚の千円札を取り出して言いました。

「やっぱり、ベテランのGメンさんは違うね。一番の常習さんを捕まえてくれて、本当にありがたいよ。これで、ご飯でも食べて」
「いえ、困ります。お気持ちだけで充分でございますよ」
「いいから、いいから。少ないけど賞金だよ」

 丁重にお断りするも、お札をアウターのポケットに放り込まれて、売場に戻られてしまいました。やむなく頂戴したものの、被疑者のことを思えば喜ぶわけにもいかず、警察署に設置される交通遺児育英会の募金箱に投入した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

ママ友の「幼稚園お別れ会」積立金を着服! お菓子やジュース1万円分をカゴ抜けした“万引き母さん”

 こんにちは、保安員の澄江です。

 仕事柄、お客さんが手に取る商品を見て回っているため、流行や景況感の変遷を実感できる立場にいます。コロナ禍以降、食品スーパーにおいては和牛肉や天然物のマグロといった高級品を手に取る方は減り、カゴの中はモヤシや玉ねぎ、練り物、プライベートブランドのインスタント食品、酒類などばかりが目立つようになりました。その一方、生鮮食品や菓子の売れ行きは悪いようで、売場に出す商品を少なくしている店も散見されます。棚から手に取れる商品も少なくなっているようで、カート上に商品を満載して持ち出すカゴヌケの手口を用いる被疑者が、いままでより目立って見えるのは気のせいでしょうか。今回は、先日に捕捉した“カゴ抜けママ”について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京都下のベッドタウンに位置する大型スーパーE。広大な駐車場を有する平屋建ての大型店舗で、生鮮食品から衣類、日用品のほか、ドラッグコスメやインテリアまで扱う地域の人気店です。かれこれ20年以上、お世話になっているお店なので、店長をはじめ、ほとんどの従業員に顔を知られています。居心地はよく、私にとって、お気に入りの現場の一つといえるでしょう。入館手続きを済ませて、バックヤードで行き交う従業員の方々と挨拶を交わしながら事務所に伺うと、店長さんはお休みで、代わりに特定エリアの保安関係を統括する立場にあるエリアマネージャーが対応してくれました。あまり会うことのない方なので、失礼のないよう緊張していると、大きなため息をついたエリアマネージャーに質問されます。

「店長の休みに合わせて、受け持ちの店を順番に見て回っているんだけど、この店の(商品)ロスが一番大きいんだ。なぜだと思う?」
「お店が広い割に、売場におられる従業員さんの数が少ないから、どうしてもやられてしまうでしょうね。魅力的な商品も多いですし、この辺の地域性も影響しているかと思います」
「そうだよね。この辺は外国人も多いし、やっぱり捕まえる以外の方法は、なかなかないか。じゃあ、今日もお願いします」

 ウンザリした表情で、肩を落とすエリアマネージャーに送り出される形で売場に入り、店内の状況を把握するために軽く店内を一周したところ、商品らしき化粧品の空き箱や除去された防犯タグの残骸など、過去に万引きされた痕跡が複数見つかりました。

(きっと、今日も現れる)

 限りなく確信に近い予感を胸に、死角箇所を中心にして巡回を始めます。長年の経験から断言できますが、こうした予感がした場合、必ず何かが起こるのです。

 午前中のピークを迎えた、午前11時過ぎ。肩にかけたコストコの大きなショッピングバッグを店内で下ろし、カートのフックにひっかけている30代前後と思しき女が目に止まりました。どことなくタレントの菊地亜美さんに似ている小太りの女です。彼女が押すカートには、幼児向けのスナック菓子やチョコレート、2リットルのペットボトルなどの商品が箱買いの状態で満載されており、なにかイベントの買い出しに来られているような雰囲気を感じます。

(あんなにたくさん、一人で大変ね)

 そんな思いで見守っていると、続いて複数のアイスクリームとオードブルセットをカートに載せた彼女は、レジの方へと向かって行きました。商品量が多いのが気になって、念のために精算確認をするべく注視すれば、レジ列の後方でフックにかけたショッピングバッグをカゴの上に広げています。あたかも精算を終えたような状態にして、混雑するレジの脇をすり抜けると、レジから一番離れたところにあるサッカー台に陣取りました。あまりに自然な動きに、我が目を疑うような気持ちにさせられましたが、なに一つ精算していないことに違いありません。特大サイズと呼ぶべきショッピングバッグに、全ての商品をきれいに詰めた女が、それをカートに載せて外に出たところで声をかけます。

「お客様、お店の者です。そちらの商品、ご精算いただかないと」
「え? あ、はい。すみません、払います」

 否認することなく素直に認めてくれたので、事務所まで来ていただくよう促すと、途端に態度を変えて言いました。

「いえ、レジで払います。時間ないので、ついつい出てきちゃっただけですから。本当に、ごめんなさい」

 そう言い放ち店内に向かってカートを押し始めたので、その手を押さえて制止すると、それを振り切るように走り始めました。制止しても聞く耳を持たずに、店内に戻ろうと強行するので、走って前方に回り込んで、カートの前に立ちはだかって制止します。

「いい加減にしないと、ここで通報しますよ。人目もあるから、落ち着いて」
「……わかりました。ごめんなさい」

 事務所に到着して話を聞けば、これから子どもが通う幼稚園でお別れ会があるらしく、早く行かなければと財布を片手に慌てていました。今回の被害は、計76点、合計で1万円ほど。お金を払わなかった理由を聞けば、初めこそ時間がないからだと言い張っていた彼女でしたが、盗品の精算をする段階になって、本当の理由が明らかとなります。

 通報を受けて臨場した女性警察官が犯歴照会をすると、彼女に前歴はなかったようで、被害は大きいものの、小さな子どもがいることもあって、今回は簡易処分で済ませることとなりました。警察署に連行される前に、盗んだ商品の精算を済ませてもらいます。

「現金の持ち合わせがないので、カードでお願いします」

 ところが、カードの利用が停止されているようで、何度やっても支払いが完了できません。困惑した様子で、ほかのカードがないか財布を弄る彼女に、女性警察官が言いました。

「これ全部、幼稚園のお別れ会で出すつもりだったんだよね?」
「はい、そうです。早く届けないと、間に合わない……」
「私も子どもいるからわかるけど、こういうのって、ママ友みんなの積立金で準備するものでしょう? あなた一人で支払うわけじゃないですよね?」
「……実は、私が会計係なんですけど、生活費が足りなくて使っちゃったんです」

 結局、身柄引受人として同居する彼女の母親が呼び出され、代金を支払ってもらうことで事態は終結。買い取った商品は、おばあちゃんの手によって、幼稚園まで届けられることになりました。自分の娘が一度手をつけた商品を買い取り、お孫さんをはじめとする皆さんの元に届ける心境は、どんなものだったでしょう。必死の形相で大量の商品を白の軽自動車に積み込み、慌てた様子で走り去る老女の姿を目の当たりにして、親になることなく余生を過ごす自分が、勝ち組のように思えた次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

ママ友の「幼稚園お別れ会」積立金を着服! お菓子やジュース1万円分をカゴ抜けした“万引き母さん”

 こんにちは、保安員の澄江です。

 仕事柄、お客さんが手に取る商品を見て回っているため、流行や景況感の変遷を実感できる立場にいます。コロナ禍以降、食品スーパーにおいては和牛肉や天然物のマグロといった高級品を手に取る方は減り、カゴの中はモヤシや玉ねぎ、練り物、プライベートブランドのインスタント食品、酒類などばかりが目立つようになりました。その一方、生鮮食品や菓子の売れ行きは悪いようで、売場に出す商品を少なくしている店も散見されます。棚から手に取れる商品も少なくなっているようで、カート上に商品を満載して持ち出すカゴヌケの手口を用いる被疑者が、いままでより目立って見えるのは気のせいでしょうか。今回は、先日に捕捉した“カゴ抜けママ”について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京都下のベッドタウンに位置する大型スーパーE。広大な駐車場を有する平屋建ての大型店舗で、生鮮食品から衣類、日用品のほか、ドラッグコスメやインテリアまで扱う地域の人気店です。かれこれ20年以上、お世話になっているお店なので、店長をはじめ、ほとんどの従業員に顔を知られています。居心地はよく、私にとって、お気に入りの現場の一つといえるでしょう。入館手続きを済ませて、バックヤードで行き交う従業員の方々と挨拶を交わしながら事務所に伺うと、店長さんはお休みで、代わりに特定エリアの保安関係を統括する立場にあるエリアマネージャーが対応してくれました。あまり会うことのない方なので、失礼のないよう緊張していると、大きなため息をついたエリアマネージャーに質問されます。

「店長の休みに合わせて、受け持ちの店を順番に見て回っているんだけど、この店の(商品)ロスが一番大きいんだ。なぜだと思う?」
「お店が広い割に、売場におられる従業員さんの数が少ないから、どうしてもやられてしまうでしょうね。魅力的な商品も多いですし、この辺の地域性も影響しているかと思います」
「そうだよね。この辺は外国人も多いし、やっぱり捕まえる以外の方法は、なかなかないか。じゃあ、今日もお願いします」

 ウンザリした表情で、肩を落とすエリアマネージャーに送り出される形で売場に入り、店内の状況を把握するために軽く店内を一周したところ、商品らしき化粧品の空き箱や除去された防犯タグの残骸など、過去に万引きされた痕跡が複数見つかりました。

(きっと、今日も現れる)

 限りなく確信に近い予感を胸に、死角箇所を中心にして巡回を始めます。長年の経験から断言できますが、こうした予感がした場合、必ず何かが起こるのです。

 午前中のピークを迎えた、午前11時過ぎ。肩にかけたコストコの大きなショッピングバッグを店内で下ろし、カートのフックにひっかけている30代前後と思しき女が目に止まりました。どことなくタレントの菊地亜美さんに似ている小太りの女です。彼女が押すカートには、幼児向けのスナック菓子やチョコレート、2リットルのペットボトルなどの商品が箱買いの状態で満載されており、なにかイベントの買い出しに来られているような雰囲気を感じます。

(あんなにたくさん、一人で大変ね)

 そんな思いで見守っていると、続いて複数のアイスクリームとオードブルセットをカートに載せた彼女は、レジの方へと向かって行きました。商品量が多いのが気になって、念のために精算確認をするべく注視すれば、レジ列の後方でフックにかけたショッピングバッグをカゴの上に広げています。あたかも精算を終えたような状態にして、混雑するレジの脇をすり抜けると、レジから一番離れたところにあるサッカー台に陣取りました。あまりに自然な動きに、我が目を疑うような気持ちにさせられましたが、なに一つ精算していないことに違いありません。特大サイズと呼ぶべきショッピングバッグに、全ての商品をきれいに詰めた女が、それをカートに載せて外に出たところで声をかけます。

「お客様、お店の者です。そちらの商品、ご精算いただかないと」
「え? あ、はい。すみません、払います」

 否認することなく素直に認めてくれたので、事務所まで来ていただくよう促すと、途端に態度を変えて言いました。

「いえ、レジで払います。時間ないので、ついつい出てきちゃっただけですから。本当に、ごめんなさい」

 そう言い放ち店内に向かってカートを押し始めたので、その手を押さえて制止すると、それを振り切るように走り始めました。制止しても聞く耳を持たずに、店内に戻ろうと強行するので、走って前方に回り込んで、カートの前に立ちはだかって制止します。

「いい加減にしないと、ここで通報しますよ。人目もあるから、落ち着いて」
「……わかりました。ごめんなさい」

 事務所に到着して話を聞けば、これから子どもが通う幼稚園でお別れ会があるらしく、早く行かなければと財布を片手に慌てていました。今回の被害は、計76点、合計で1万円ほど。お金を払わなかった理由を聞けば、初めこそ時間がないからだと言い張っていた彼女でしたが、盗品の精算をする段階になって、本当の理由が明らかとなります。

 通報を受けて臨場した女性警察官が犯歴照会をすると、彼女に前歴はなかったようで、被害は大きいものの、小さな子どもがいることもあって、今回は簡易処分で済ませることとなりました。警察署に連行される前に、盗んだ商品の精算を済ませてもらいます。

「現金の持ち合わせがないので、カードでお願いします」

 ところが、カードの利用が停止されているようで、何度やっても支払いが完了できません。困惑した様子で、ほかのカードがないか財布を弄る彼女に、女性警察官が言いました。

「これ全部、幼稚園のお別れ会で出すつもりだったんだよね?」
「はい、そうです。早く届けないと、間に合わない……」
「私も子どもいるからわかるけど、こういうのって、ママ友みんなの積立金で準備するものでしょう? あなた一人で支払うわけじゃないですよね?」
「……実は、私が会計係なんですけど、生活費が足りなくて使っちゃったんです」

 結局、身柄引受人として同居する彼女の母親が呼び出され、代金を支払ってもらうことで事態は終結。買い取った商品は、おばあちゃんの手によって、幼稚園まで届けられることになりました。自分の娘が一度手をつけた商品を買い取り、お孫さんをはじめとする皆さんの元に届ける心境は、どんなものだったでしょう。必死の形相で大量の商品を白の軽自動車に積み込み、慌てた様子で走り去る老女の姿を目の当たりにして、親になることなく余生を過ごす自分が、勝ち組のように思えた次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「みんな死にました」スーパーの男子トイレで弁当を食らう万引き犯は、東日本大震災の被災者だった

 こんにちは、保安員の澄江です。

 政府による緊急事態宣言発令以降、お客さん以外の人は、なるべく現場に入れたくないというクライアントが増え、年明け早々から仕事量が減ってしまいました。長くご指名をいただいてきた店舗からの依頼も、一旦様子見となり、今月からお休みです。勤務中は、売場と事務所、それに警察署といった密な場所にしか身を置けません。お休みになったことで新型コロナウイルスの感染リスクが減り、個人的には少し気楽に思うところもございますが、今後の生活を考えると憂鬱になります。これほどまで不安な気持ちになったのは、東日本大震災発生以来で、夜な夜な友人に電話をかけて、寂しさを紛らわせることが増えました。今回は、数年前に捕らえた悲しき万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京下町のベッドタウンに位置する総合スーパーY。深夜まで営業している地上3階建ての大型店舗です。長年にわたりお付き合いいただいている現場ではありますが、予算の都合上、年に数日しか保安員を導入できないため、来るたびに数件の捕捉がある多忙な現場といえるでしょう。居並ぶ団地群の脇道を抜ける最短ルートを辿って、総合事務所まで挨拶に伺うと、日本テレビの藤井貴彦アナウンサーに似た店長がうれしそうに出迎えてくれました。

「ああ、やっと来てくれた。ここ3カ月くらいのことなんだけど、3階にある男性用トイレの個室で弁当を食っているヤツがいてさ。お金を払っているとは思えないから、なんとかしてほしいんだよね」
「人着ですとか、来ている時間帯など、なにかおわかりのことはございますか?」
「ただ、個室内に飲食したあとがあるくらいで、なにもないんだよ。ほぼ毎日やられているから、防犯カメラのチェックをすれば、どこかに映っているだろうけど、確認する時間がなくてさ」

 さらに詳しく話を聞けば、酒やドリンクのほか、菓子、つまみ、デザートなどの空袋が散乱していることも多いといいます。ひどい時には1日3食、欠かさずに食べていかれることもあるそうで、清掃担当者にも注意を促しているとのことでした。聴き取り事実から被疑者像を想像すれば、おそらくはプータローさん(路上生活者のこと)の仕業でしょう。

 しかしながら、最近のプータローさんは、若くて身綺麗な方も多く、その判別が難しくなっています。被疑者につながる有力な情報は、決まって3階の男性トイレの個室内で飲食するという事実しかなく、捕捉するには自分のアンテナで発見するほかなさそうです。勤務時間中にやられてしまえば、自分の存在価値がなくなり、長きにわたり積み重ねてきた実績も失うことになりかねません。

 状況把握のため、店長に同行を願い、犯行現場である男性用トイレの状況を確認しにいくと、扉を押し開けた店長が個室内をあごで指差すようにして言いました。

「また、やられてるよ。ほら、これみて!」

 個室内を覗き込むと、うなぎ弁当と寿司の空パケのほか、ビールやエナジードリンクの空き缶、空になったハーゲンダッツのパックなどが、物置台やペーパーホルダーなどの上に放置されていました。床を見れば、割りばしやタレなどのパッケージ、アイスのフタなどが散乱しており、好き放題にやってくれている状況です。

「これは、ちょっとひどいですね」
「そうでしょう? 好きなだけ飲み食いして、片付けもしないでさ。本当に、腹が立つよ。しかし、こんなに臭いところで、よく食べられるよなあ。おれなんて、息もしたくないくらいなのに」
「このお弁当は、いつの商品ですか?」
「昨日の夜に出しているやつだね。最後の掃除が午後10時だから、それ以降の時間だよ。きっと、また来ると思うから、注意してみて」

 現在時刻は、午前10時。朝一番から、おちおちと休憩にも入れない状況に追い込まれ、なんとなく落ち着かない気持ちで現場に入った私は、出入口とお弁当売場を中心に巡回することにしました。

(あら、変わった人ねえ)

 昼のピークを過ぎて、従業員の皆様が休憩を取り始めた午後1時頃、どことなく四千頭身の後藤拓実さんに似ている20代と思しき小太りの男性が目に止まります。鼻につけた輪っかのようなピアスが気になったのです。目に入った瞬間、いつもの癖で男性の風体を確認すると、耳や口、眉のあたりなどにも無数のピアスが刺さっているのが確認できました。ベテラン保安員であれば誰もが感じることだと思いますが、いわゆる違和感がある人を見つけた時には、自然と心がざわつきます。注意しなければダメな人だよと、体が教えてくれるのです。

 自分の直感を信じて、カゴを持つことなく両手をズボンのポケットに突っこんだまま店内を歩く後藤さんの後を追うと、お弁当売場に直行しました。そこで、まぐろづくしのにぎり寿司(1,200円)を2パックと海鮮あんかけ焼きそば(498円)、それにとろろそば(298円)を手に取って重ね持つと、ドリンク売場に向かって行きます。

(この人、トイレの人だ)

 冷蔵棚の扉を開けた後藤さんが、ドリンクを手にした瞬間、まもなく犯行に至る確信を得ました。トイレの個室内に放置されていたエナジードリンク(198円)と、まったく同じドリンクを手に取ったのです。続けて、乳製品が並ぶ冷蔵品コーナーでカマンベールチーズ(368円)とシュークリーム(148円)を手に取った後藤さんは、人気のない階段を上がっていきました。気付かれぬよう踊り場を駆使して追尾すると、そのまま3階のトイレに入ってしまいます。男性用トイレに入るわけにもいかないので、近くにいた従業員の方に店長を呼び出してもらい、到着されるまでの間、トイレの出入口を見守ることにしました。

「どうした? トイレのヤツ、来たの?」
「はい、お弁当とかいくつか持って、トイレに入っていくのを見ました」
「精算してないのは、間違いないね」
「はい。入りから見ていたので、間違いないです。食べていれば捕まえられますけど、どうやって確認しましょうか」
「わかった、まかせて」

 何か考えがあるのか、迷うことなくトイレの中に入っていった店長は、誰もいないことを確認してから私を呼び入れました。息を殺して、耳を澄ませると、施錠された個室内からお弁当をつつく音が聞こえてきます。その瞬間、扉の上部に手をかけて懸垂の要領でよじ登った店長が、室内にいる後藤さんに向けて怒鳴りました。

「おい、こら。カネ払ってないのに、食ったらダメだろ」
「す、すみません」
「早く出て来てくれる?」
「はい、ちょっと待ってください」

 逃走や立てこもりを危惧しながら、個室から後藤さんが出てくるのを待っていると、ズボンのチャックを上げる音に続いてベルトを閉める音が聞こえてきました。どうやらお尻を出しながら食事をしていたようで、どんな環境で暮らしてきた人なのか気になります。水を流す音と共に、個室の扉が開くと、気まずそうな顔をした後藤さんが床を見ながら出てきました。

「すみません、本当にごめんなさい」
「悪いけど謝って済む問題じゃないよ。あんた、何度もやってるだろ? ゴミも片付けねえで……」

 店長の言葉に反応して、個室内に散らばるゴミと盗品を片付け始めた後藤さんは、それらを腕に抱えて、あらためて出てきました。証拠保全のため、食べかけの海鮮あんかけ焼きそばと飲みかけのエナジードリンクだけは預かり、その他の商品は本人に持たせて事務所に向かいます。応接室に入り、未精算の商品をテーブルに並べてもらうと、にぎり寿司ととろろそばは、すでに完食されていました。カマンベールチーズとシュークリームは、未開封の状態で回収できましたが、トイレに持ち込まれていることから、商品として売ることはできません。被害合計は、4,000円ほど。後藤さんに所持金を聞けば皆無で、立て替えてくれる人の心あたりもないと話しています。

 身分を証明できるものがあるか尋ねると、自動車免許証を提示されました。それによると、後藤さんは22歳。住所が宮城県内になっているので、不審に思い確認すれば、この店の近くにある団地の敷地内に停めたワンボックス車の中で生活していると答えます。

「ご家族は、宮城にいらっしゃるの?」
「いえ、大震災の時に、みんな死にました」

 可哀想なことを聞いてしまった気持ちになり、次の言葉を失っていると、後藤さんが小さな声で話し始めました。

「僕が学校に行ってる間に、両親と祖母が流されちゃって、みんな死んじゃったんです。親戚もいないから、18まで施設で暮らしていました。就職が決まって、そこを出たんですけど、寮で先輩とケンカしてやめちゃってから、ずっと仕事が見つからなくて……」

 話によると不憫な境遇にあるようですが、鼻につけられた輪っかと顔の至る所に刺さる待ち針のようなピアスが、湧き上がる同情心を打ち消します。すると、これまで黙って話を聞いていた店長が、寂しげな顔で感傷的な雰囲気を醸し出す後藤さんに言いました。

「いろいろあって大変みたいだけど、人様のモノに手をつけたことに変わりはないから。警察が来るまで、そこでおとなしくしていろよ」

 まもなく臨場した警察官の手により警察署まで連行された後藤さんは、その後の調べで、根城としていたワゴン車も盗んでいたことも判明。そちらの容疑で逮捕となり、万引きの件は、別日の調べとなりました。後日、刑事さんから、震災時の話は本当のことと聞き、やるせない気持ちにさせられた次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「おれ自殺します」と通報を阻止! アダルトグッズ大量万引きの高1男子、バッグに隠された“もう一つの疑惑”

 こんにちは、保安員の澄江です。

 新年を迎え、初詣などに出向いて気持ちを切り替えたいところですが、新型コロナウイルスの猛威は変わらず、今年のお正月休みは、どこにも出かけませんでした。毎年欠かさずにいた亡夫の墓参りも、年末に出た感染者数増加の報道により、泣く泣く一旦保留に。申し訳ない気持ちで仏前に花を供え、自室でひとり好みのものだけを揃えたおせち料理をつまみながら、友人や同僚たちと「あけおめLINE」をかわしていると、突然に訃報が舞い込んできました。昨年末に、仲の良い同級生の一人が、急逝されたというのです。状況を尋ねると、お酒を飲んだ後に、持病の痛み止めを服用して就寝。朝起きてこないので、中学生になるお孫さんが部屋まで行って声をかけたところ、すでに冷たくなられていたそうです。葬儀の予定を確認すれば、コロナ禍の影響から家族葬で執り行われるといい、お別れを告げることすら叶いそうにありません。賑やかなことが好きだった仕切り役の彼女が、仲間たちに見送られることなく旅立ってしまう現実に、やり場のない怒りと言い知れぬ寂しさを痛感した次第です。今回は、それとは違う種類の寂しさを抱えた万引き犯を捕捉した時のことについて、お話したいと思います。

 当日の現場は、北関東の某県に位置するドラッグストアS。医薬品や化粧品のほか、酒やお菓子、日用雑貨、生鮮食品など、幅広い商品を取り扱ういまどきのドラッグストアです。通勤距離の問題などから、本来であればお受けしない地域の現場ではありますが、ここのところアジア系外国人による大量万引き被害が相次いでいるそうで、営業担当者に頼みこまれる形で駆り出されました。自宅から電車を乗り継ぎ、2時間近くかけて現場に到着。挨拶のため、店内の奥にある事務所に入ると、どことなく女優の天海祐希さんに似ている眼光鋭い女性店長に出迎えられます。顔を合わせた瞬間、明らかに落胆した表情となった店長は、まるで値踏みするかのような視線を私の全身にぶつけて、嫌味たらしい口調で言いました。

「あなた、一人ですか?」
「はい、なにか間違いでもございましたでしょうか?」
「あのね、ウチの店が困っているのは、外国人の集団万引きなんですよ。あなた一人で、大丈夫なの?」

 外国人の犯罪者集団を相手に、私一人で大丈夫かと聞かれれば、全然大丈夫ではありません。そのことを正直に伝えて、万一の際にはサポートいただけるようお願いすると、「その時は警察を呼ぶから」と冷たく返されました。どうやら、屈強な男性保安員の出勤を期待されていたらしく、私のことが気に入らないようです。

「面倒だけは起こさないでくださいね」

 不機嫌な顔をあからさまにして、 捨て台詞を吐くように言い放った店長は、 イラついた様子を隠すことなく売場に戻っていきました。自分に落ち度がない分、強烈に悔しくなって、沸々と闘志が湧き上がります。自然に滲み出た涙を拭い、いけ好かない店長の鼻を明かしてやりたい一心で現場に入った私は、人影まばらな店内で息を潜めて警戒にあたりました。

 店長からの見えない圧力が気になって、お昼休憩すらいただかないまま警戒を続けていると、午後4時を過ぎたところで、ようやくに強めの不審者が現れます。どことなく霜降り明星のせいやさんに似ている学校帰りと思しきブレザー姿の男子高校生が、おれに近寄るなといった雰囲気をまといながら入店してきたのです。右肩には、ナイロン製の大きなスポーツバッグが提げられており、そのチャックは半分ほど開いた状態にあることも確認できました。万引き犯が見せる典型的なサインを前に、実行に至ることを確信しつつ、その動向を注視します。

 すると、衛生用品売場の前に足を止めたせいやくんは、その場にバッグを下ろして股の間に挟む形でしゃがみこむと、卵パックの形状をした商品を棚から手に取り、そのままバッグの中に隠してしまいました。その後も周囲を窺いながら、なにかシャンプーのようなものを数点と、パッケージに「0.01」と書かれた男性用避妊具を数箱続けてバッグに隠すと、チャックを閉めて肩にかけ、足早に売場を立ち去っていきます。時間でいえば、2分弱といったところでしょうか。手際の良い犯行に驚愕しつつも、気付かれぬように後を追い、何度も振り返りながら店の外に出たせいやくんに声をかけました。

「こんにちは、お店の者です」
「はい? なんですか?」
「なんですかって、なんで声かけられたか、わかるでしょう?」
「あ、いや、……はい、ごめんなさい」

 ずっと惚けていたい様子でしたが、逃走を図ることなく事務所への動向に応じてくれたせいやくんに、盗んだ理由を聞いてみます。

「どうして盗っちゃったの?」
「ちょっと恐かったし、恥ずかしかったから……」
「え? どういうこと?」
「…………」

 なぜか黙り込んでしまったので、無理に尋ねることなく、事務所まで連れて行きます。事務所に到着して、盗んだ商品を応接テーブルに出してもらうと、計8点の商品が出てきました。どれも見たことのない商品ばかりで値段はわかりませんが、200円ほどしか持っていないというので、商品の買い取りはできそうにありません。身分を確認させてもらえば、近くにある県立高校の1年生で、ここから電車で30分くらいかかるところに家族と暮らしていると話しています。両親とも働きに出ており、帰宅されるのは夜遅くだそうで、商品代金の支払いや身柄の引き受けに時間がかかることに違いありません。今日も残業かと意気消沈しながら、必要事項の聴取を終えてまもなく、額に青筋を立てた店長が鬼の形相で事務所に入ってきました。

「え? こんなにたくさん盗ったの?」
「はい。所持金も少なくて、買い取れそうにないんですけど、どうされますか?」

 テーブルに並べられた商品群を見て、汚物を見るかの如く顔をしかめた店長が、せいやくんに言いました。

「こんなにたくさん、全部自分で使うつもりだったの?」
「いや、友達にもあげたかったから」

 店長によれば、せいやくんが盗んだモノの一部はアダルトグッズで、販売時に年齢確認が必要となる商品ということでした。恐くて恥ずかしいと話していたのは、このことを言っていたのでしょう。色や形によって中身が違うらしく、さまざまなタイプの商品を万遍なく盗んでいるところをみれば、友達にあげるという弁解も疑わしく思えてきます。

「キミさ、高校1年生なんだよね? こんなことするより、もっとほかにやらなきゃいけないこと、たくさんあるでしょう? 学校にバレたら、将来までダメになっちゃうかもよ」
「ごめんなさい! もう絶対にしないので、誰にも言わないでください! こんなこと知られたら、おれ自殺します!」

 事の重大さを理解したのか、椅子に座ったまま両腿に拳を立てて胸を張るようにしたせいやくんが、かなり激しく泣き始めました。まだあどけなさの残る泣き顔の前に居並ぶファッショナブルなアダルトグッズが、段々と忌々しいモノに見えてくるのが不思議です。

「すごい泣いてるし、自殺されても面倒だから、もう帰していいわよ」

 基本的には、警察に通報して引き渡さなければならない状況ですが、店長さんの意向であれば仕方ありません。全ての被害品を回収した上で、最後にもう一度、念のために所持品を確認させてもらうと、バッグに入っていた学生かばんの中から数枚のアダルトDVDが出てきました。パッケージを見ればレンタル品のようで、18歳未満の子が借りられる作品ではありません。思春期の真っ只中にいる男の子の生態を目の当たりにして、微笑ましいどころか吐き気のする思いがした私は、せいやくんと同じ空間にいることさえ苦痛に思えてきました。

「これは普通にレンタルしてきたやつです。本当です! 信じてください!」
(この子、このまま帰して、本当に大丈夫かしら?)

 結局、面倒を嫌がる店長の一存で解放されたせいやくんは、帰宅を許された途端に泣き止むと、小走りで逃げるように立ち去っていきました。

(孫は可愛いって、みんな言うけど、意外と大変そうね)

 若い頃、子宝に恵まれずに夫と一緒に悩んだ時期があったことを思い出した私は、孤独な人生も悪くないものなのだと、自分に言い聞かせながら家路を辿った次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンが語る「最も印象に残った万引き犯2020」! 「私……ここの従業員なんです」おばちゃんは嗚咽を漏らして

 こんにちは、保安員の澄江です。

 今年も、もう終わりですね。1年を振り返れば、新型コロナウイルスとレジ袋有料化に伴う混乱に振り回されて、なにかと疲れる1年でした。万引きの世界においては、レジ袋有料化に伴う現場の混乱に乗じた犯行が急増。コロナ不況の影響もあって、初犯者や内部不正の摘発が目立つようになり、いままで犯罪とは無縁であったであろう方と接する機会が増えました。換金目的の組織的な犯行も多く、事後強盗事案にまで至るケースが増加しているようにも思います。また、家族ぐるみで犯行を繰り返して、万引きで生計を立てているような人たちまで散見され、まるで完全犯罪を狙うかのような悪質な手口に呆れたこともありました。なにかと大声を出して店員を威圧する輩のようなクレーマーも頻出しており、どこに行っても油断できない殺伐とした社会の雰囲気に嫌気の差す思いがします。この国の治安や生活水準は、間違いなく悪化しており、この先の社会情勢が不安でなりません。今回は、今年一番印象に残った事案について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、食品スーパーT。東京郊外の緑豊かな街にあるスーパーマーケットです。この日の勤務は、午前10時から。初めての現場であるため、いつもより早く起床して、時間に余裕を持って現場に向かいます。ありがたいことに行きの電車内は空いており、座席でうたた寝をしている間に到着しました。最寄駅から現場までは、田舎の雰囲気が漂う街道を歩きますが、コロナ禍のためか街中に人の姿はなく、現場の客入りが心配になります。店内犯罪の多くは、人混みに紛れて実行されるため、客入りが悪いと捕捉効率が下がるのです。

 どことなく昔のKABAちゃんに似た店長さんに挨拶を済ませて店内に入ると、案の定、店内は閑散としていました。さほど広くないお店なので、不審者が一人でもいれば、すぐに気付ける状況ですが、品出しをする従業員さんばかりが目につき、こちらが監視されているような居心地の悪さを感じます。その後も、客足は伸びることなく、特に気になる人を目にすることもないまま、時間ばかりが過ぎていきました。こうした1日は、時の経過が遅く感じられて、とてもつらい気持ちにさせられます。業務終了まで、あと2時間。トイレ休憩を挟みながらも、暗澹たる気持ちで店内の巡回を続けていると『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)に出ておられた「おばちゃん3号」に似た小太りの中年女性が目に止まりました。まるで般若のような怖い顔で、カート上に載せたカゴの中にあるチーズ入りウインナーを掴みながら歩く姿が、とても気になったのです。

(入れた!)

 この店一番の死角通路で、手際よくチーズ入りウインナーを自分のバッグに隠したおばちゃん3号は、続けてカゴにあるいくつかのモノも隠すと、精肉売り場に向かって行きました。カゴの中に残るモノを確認すると、白菜やもやし、ほうれんそうといったところで、さらに犯行を続けるとなると、次に手に取る商品を隠すに違いありません。いままでの経験からそう判断して追尾すると、黒毛和牛のシールが貼られた焼肉用スライス肉を2パックとフランクフルトをカゴに入れたおばちゃん3号は、まもなく死角通路に舞い戻って、それらをバッグに隠しました。明確な現認が取れたため、捕捉するべく追尾を続けると、なにやらレジ店員と談笑しながらカゴに残る野菜の精算を済ませて、しきりと後方を振り返りながら店の外に出て行きます。

「こんばんは、お店の者です。バッグの中に隠したモノの代金、お支払いいただけますか?」
「…………」
「認めていただけないなら、いますぐ警察を呼ぶことになっちゃうんですけど、それでも大丈夫ですか?」
「ごめんなさい」

 しばし沈黙した後、犯行を認めてくれたおばちゃん3号に、事務所への同行を求めます。踵を返す形で、店内にある事務所に向かって歩き始めてまもなく、胸に手を当てたおばちゃん3号が苦しげな様子で足を止めました。おそらくは、捕捉されたことで胸が一杯になり、うまく呼吸ができないのでしょう。逃走する雰囲気はありませんが、念のため腰元に手を置きながら、優しく声をかけます。

「具合悪くなっちゃいましたか? ゆっくり深呼吸して、落ち着きましょう」 
「……いえ、そうじゃないんですけど」
「それならよかった。もう少し歩けます?」
「あの、実は、私……」

 堪えきれない様子で、嗚咽を漏らし始めたおばちゃん3号が、私の胸倉を掴んですがりつくようにしながら言いました。

「あの、私……、ここの従業員なんです。うわーん」
「ええ!? それは、困ったわね。店長さん、きっと悲しむわよ」
「うわーん。私、なんてことしちゃったんだろう。ごめんなさい、ごめんなさい」
「私じゃなくて、店長さんに謝らないと。目立っちゃうから、あまり大きな声出さないで」

 ウソ泣きだったのでしょうか。途端に冷静さを取り戻したおばちゃん3号は、覚悟を決めたかのように同行に応じてくれました。事務所の扉を開くと、店長さんがパートさんの面接をしておられたので待機していると、居心地悪そうに佇むおばちゃん3号の姿を見た店長が異変に気付いて声をかけます。

「どうしたの? 忘れ物?」
「いえ、そうじゃなくて……」

 後方にいる私の姿を見つけた途端、なにかを察したように顔を曇らせた店長が、俯いて黙り込むおばちゃん3号の頭越しに言いました。

「まさか、違うよね?」
「すみません。従業員さんとは知らずに、見ちゃったものですから……」
「はあ? ウソでしょ? Sさん、開店から一緒にやってきたのに、そんなことしないでよ」

あとで連絡すると、すぐに面接を切り上げた店長は、事務所入口まで面接者を見送り、おばちゃん3号をパソコンデスクの前に座らせます。早速に、バッグに隠した商品を出すよう促すと、現認した商品のほかに、練り物セットと高級チョコレートも出てきました。計6点、合計で4,000円ほどの被害となりましたが、5,000円ほど持っているというので、商品の買い取りはできそうです。

「とりあえず会計してくるから、そっちの仕事、先に済ませちゃって」

 事務処理を終わらせるべく、身分を確認させていただくと、これしかないとのことで社員証を提示されました。雇用主からすれば、これほど嫌な社員証の使われ方もないだろうと思いつつ話を聞けば、この店のオープンから21年以上にわたって勤務されているそうで、今日で退職することになりそうだと涙ながらに頭を抱えています。立ち上げメンバーは店長と彼女の2人しか残っていないと話しているので、この店では店長に次ぐ立場にある方といえ、今後の展開が気になりました。すると、会計を済ませても、なお、動揺と興奮を隠せないでいる店長が、声を震わせて言います。

「こんなに盗って、初めてじゃないよね? 怒らないから、正直に話してくれる?」
「はい。正直言うと、来るたびにやっていました」
「はあ? 21年、ずっとってこと?」
「はい、すみません。私、きっと病気なんです。うわーん」

 泣き伏せるおばちゃん3号を尻目に、ポケットからスマートフォンを取り出した店長は、今後の処理について本部の意向を確認し始めました。彼女にとっては、この上なくシビアな会話の内容に違いありません。人によっては自傷行為などに及ぶこともあるため、なるべく耳に入れないよう、いくつか質問をして気を逸らせます。

「同じことで警察に行ったことはありますか?」
「はい。近所のYとMで、1回ずつ……」
「どうして盗っちゃうのかしらね」
「買うのがもったいないっていうか……。きっと病気なんでしょうね、私」

 結局、本部の判断により即時解雇となったおばちゃん3号は、長年勤めてきたことから温情が与えられ、警察を呼ばれることなく処理されました。民事上の賠償請求もしないというので、結果だけをみればヤリ得のような結末です。今回の事実を記した退職届を書き終え、帰宅を許されたおばちゃん3号は、護送車に載せられる被疑者のようにハンドタオルで顔を隠しながら立ち去っていきました。自転車にまたがり、逃げるように走り去る彼女の背中を見届けた店長が、ぼそりとつぶやきます。

「参ったなあ。ただでさえ人手不足なのに、明日から大変だよ」
「そうですよね。本来であれば、内部不正の摘発は本部の許可を得てからするものなんですが、気付かなかったものですから……。余計な面倒をかけて申し訳ありません」
「いえ、長い付き合いだったし、あんな人だとは思っていなかったからショックだけど、仕方ないです。あ、面接の人に連絡して、明日から来てもらうことにしよう」

 業務を終えて駅に向かうと、駅前のロータリー脇に設置されたベンチに、一人地面を見つめるおばちゃん3号の姿がありました。気付かれぬよう、早足で改札を通過した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「メルカリちゃん」と呼ばれる“万引き商人”の実態! 化粧品やストッキング……計92点を盗んだオンナ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ新型コロナウイルスの新規感染者が増加しており、仕事以外の時間は、なるべく家で過ごすようにしています。年齢的なことから考えるに、感染すれば重篤状態に陥るような気がして、外出する気分にならないのです。日々の買い物に行くこともなくなり、現場のない日はAmazonやネットスーパーなどを利用することで、日常生活を維持しています。つい先日までガラケーを使っていたからか、ネットショッピングは信用できず、どこか抵抗がありましたが、購入物品の持ち帰りや時間の節約を考えると、これほど楽な買物方法はありません。一度覚えてしまえば、操作は簡単。人と接したり、物品を手に取る必要もないので、感染リスクも最小限に抑えられます。しかし、人気のあるフリマアプリ「メルカリ」やオークションサイト「ヤフオク」も、たまに覗いてはみますが、どうしても商品を購入する気にはなりません。被害品と思しき商品を、たびたび目にすることから、買う気にならないのです。

 そのような怪しい商品を出品している人たちの出品歴を覗いてみれば、同様の商品を複数回出品している実績をお持ちであることが多く、いわゆる万引き商人(通称:メルカリちゃん)の暗躍と思しき状況が垣間見えます。詳しくは書きませんが、万引きした痕跡の残る商品に体のいい注釈をつけて出品している人も散見され、その厚顔ぶりには呆れるばかりです。今回は、過去に捕らえたメルカリちゃんの実態について、お話ししていきたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外のベッドタウンに位置する大型ショッピングモールM。広大な敷地にそびえたつ二階建ての建物の中に、食品スーパーをはじめ、日用品やコスメドラッグ、衣料品、ペットなどを扱う専門店が数多く出店しているほか、フードコートやレストラン、映画館にマッサージ店などまで併設されている地域の人気スポットです。

 当日の勤務は、夕方以降の被害が多いということで遅めのシフトが組まれて、午後2時からとなりました。この日が初回のため、総合事務所まで挨拶に出向くと、この店の警備隊長だという初老の男性が応対してくださり、防災センターまで案内されます。扉を開けると、室内の壁は無数のモニターで埋め尽くされており、テレビ局と見紛うほどの雰囲気に圧倒されました。

「私は、警察出身なんだけど、ずっと交通畑だったから、万引きには疎くてね。防犯カメラの解析くらいしかできないんだ。ここに不審者のファイルがあるから、目を通してもらえるかな」

 警備隊長に差し出されたファイルをめくってみると、店に出入りする様子や犯行前後の様子などを写したと思われる写真を中心に、数多くの不審者がファイリングされていました。どうやら細かい方らしく、日時や場所のほか、持ち物や服装、使用した出入口、来店手段なども詳細に記録されています。

「ずいぶんと細かくまとめておられますね」
「交通鑑識していたものだから、資料作りだけは得意なんだよね」

 よく見れば、どことなく俳優の六平直政さんに似ておられるスキンヘッドの警備隊長が、自慢気な様子で胸を張っています。

「先週は、この集団に洋服をたくさんやられちゃってさ。この婆さんは、毎朝かならず来る常習犯。で、このおじさんが……」

 自分の仕事ぶりをアピールしたいらしく、ファイルをめくりながら解説してくださいますが、捕捉実績は皆無のようで被害自慢に聞こえてきます。いくらデータの収集が上手でも、それを使いこなせなければ、なんの意味もありません。こうしたモールの多くは、積極的に警察OBの方を採用しておられるようですが、事後のことばかりで、現行犯に弱い気がするのは気のせいでしょうか。当たり前のことではございますが、ただモニターを睨んでいるだけでは万引き犯を捕まえられるわけもなく、その被害は膨らむばかりなのです。業務開始時刻が迫っていたため、少し大袈裟に時計を気にする素振りをした私は、歯周病の臭いを漂わせながらしゃべる警備隊長の話を遮って、いそいそと現場に入りました。

 午後8時過ぎ。あれも怪しい、これも怪しいと、勤務時間いっぱいまで、まったく不審に思えないお客さんの追尾を指示する警備隊長から解放されてまもなく、人気のない衣料品売場をゆるりと巡回していると、大きなトートバッグを肩に下げた40代前半と思しき太めの女性が目に止まりました。たんぽぽの白鳥久美子さんを、悪役の女子プロレスラーにしたような雰囲気を持つ意地悪顔の女です。

 一見して、50枚以上はあるでしょうか。カートに載せられたカゴの中には、大量のストッキングが入れられていました。こんなに大量のストッキングを、一度に買う人は見たことがありません。そう不審に思い目を止めていると、カート下段にあった空のカゴと商品を満載した上段のカゴを載せかえた白鳥さんは、再度ストッキングに手を伸ばします。

(あんなにたくさん、どうするつもりなのかしら)

 商品のサイズを確認することなく、まるで豆まきをするときのような動きで商品を乱暴にわしづかんだ白鳥さんは、それらをカゴの中に投げ入れ、売場から離れると、次は化粧品売場で足を止めます。そこで人気ブランドの口紅やファンデーション、美白系の化粧水などを、値段などを確認することなく複数ずつカゴに入れて、何度も後方を振り返りながらエレベーターに乗り込みました。一緒に乗り込める雰囲気ではないので、老体に鞭を打って階段を駆け上がると、多目的トイレに入る白鳥さんの姿が見えました。おそらくは、ここで商品をトートバッグに詰め替えるのでしょう。商店内の多目的トイレが、万引きの現場で悪用されることは珍しくなく、アンジャッシュの渡部建さんのような使い方をする方もいれば、盗撮カメラを仕掛けたり、麻薬を使用する人まで存在するので、どの店も重点的に警戒しているのです。

 案の定、トートバッグをパンパンに膨らませて多目的トイレから出てきた白鳥さんは、そのままエレベーターに乗り込んで階下に降りていきました。念のため、放置された商品がないか多目的トイレの室内を確認してから、階段を駆け下ります。

「あの、お客様? きちんとお会計していただかないと」
「あ、はい。すみません」

 エレベーターから出て、そのまま外に出て行く白鳥さんに声をかけると、こちらが拍子抜けするほど素直に犯行を認めてくださり、事務所への同行にも応じてくれました。防災センターの応接室に白鳥さんを案内して身分を確認させてもらうと、彼女は39歳。この近くのアパートで独り暮らしをしているそうで、半年ほど前に失業してから職に就けていないと話しています。続けて、トートバッグに隠した商品を出させると、テーブルに乗り切らないほどのストッキングが出てきました。その数、83点。そのほかに、口紅とファンデーション、化粧水も3つずつ盗んでいるので、それらを合わせると92点の被害となりました。すでに警備隊長は帰宅されているため、内線で副店長を呼び出して、今後の判断を委ねます。

「ストッキング、こんなにたくさんいらないでしょう? どうするつもりだったんですか?」
「仕事が見つからなくて、お金がないから、ネットで売ろうと思って……」
「化粧品も、そのつもりで?」
「はい、すみません。この辺は人気あって、メルカリとかに出すと、すぐに売れるんです」

 被害を特定するため、警察への通報を終えた副店長に被害品のレシートを出してもらうと、被害合計は9万円を超えました。所持金を尋ねれば2,000円ほどしか持っておらず、貯金もなく、クレジットカードなども止められているというので、被害品を買い取ることはできそうにありません。誰か立て替えてくれる人がいるか尋ねても、身寄りはなく、助けてくれる友人もいないと話していました。被害状況から察するに、前科前歴を問わず逮捕されそうな状況ですが、被害品の買い取りもガラウケの用意もできないとなると、その可能性は一気に高まります。

「あんた、2週間前にも同じことでウチの署に来てるじゃないか。今日は逮捕するから。しばらくの間、家には帰れないよ」
「はい、すみません。家賃も払えないし、ご飯も食べられないから、それでいいです」

 その後、臨場した警察官に逮捕された白鳥さんは、ひと通りのボディチェックを終えると警察署に連行されました。時計を見れば、すでに業務終了時刻である午後10時を過ぎています。これから実況見分を行って警察署で調書を巻くとなれば、明け方までかかることに違いなく、逮捕者である私も、今夜は家に帰れそうにありません。

(始発まで、どこで過ごそうかしら。ファミレスかネットカフェがあればいいけど)

 そんな思いの中、実況見分のために多目的トイレの扉を開くと、2つのカゴを載せたカートが寂しげに佇んでいました。全ての処理を終えたのは、午前4時。ありがたいことに刑事さんが自宅まで送ってくださり、無事に帰宅した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンはなぜ「おばちゃんのやる仕事」なのか? 危険と隣り合わせの現場で、私が感じていること

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、同僚保安員の間で「声かけ時における受傷事故」が連発しており、現場の警戒レベルが引き上げられました。不思議なことに、こうした事象は連鎖するもので、普段は滅多に発生しない受傷事故が、半月の内に3件も連続発生しています。被害者となった仲間たちは、60代の男性保安員1名と70代の女性保安員2名で、その内2名は擦り傷程度のケガで済みましたが、女性1名が肋骨及び胸椎骨折の重傷を負いました。詳しい状況を担当部長に尋ねれば、相手は酒や総菜などを盗んだ30代くらいの男性で、声をかけると同時に壁に押し付けられて、揉み合ったまま転倒。アスファルトに叩きつけられる形となったそうで、その時に骨折されたようだと話していました。事件発生時、多くの人が近くにおられたそうですが、皆さん呆気に取られるばかりで誰の助けも得られず、逃走した犯人は捕まっていません。負傷した保安員は、今回のことで引退を決意し、退職することとなりました。真面目に生きてきた女性の晩節を汚すような行為は、とても許せるものではなく、一刻も早く逮捕されてほしい気持ちで一杯です。

 万引きGメン(保安員)といえば、おばちゃんのやる仕事。過去に放送された報道番組の特集や、木の実ナナさんが出演されていたドラマ『万引きGメン・二階堂雪』(TBS系)のイメージも強く、そんな印象を持たれている方も多いことと思います。確かに、いままで共に過ごした面々を思い浮かべてみても、そのほとんどが40歳以上の女性でした。業務内容の危険度に鑑みれば、屈強な男性がやるべき仕事のような気もしますが、私が所属する会社の主たる現場はスーパーマーケットです。店舗の大きさにもよりますが、若い男性が平日の午前中から店内を巡回すれば、女性より目立つのは当然のこと。この仕事を始めた昭和後期の頃は、せっかく面接に来られた男性を、現場に馴染まないだろうという理由で採用していない時期もあったと記憶しています。盗難被害の多い女性用の下着や化粧品売場で、男性保安員が気付かれぬように身を潜めることは至難で、そうしたことから女性にしかできない仕事だと判断されていたのです。その一方、ドラッグストアやホームセンター、ショッピングモール、書店など、大型店や専門店を中心に保安員を派遣している業者も存在しており、そこには多くの男性保安員が在籍していると聞きました。このような現場は、換金目的や集団万引きが多く、捕捉経験が豊富で揉み合いに強い男性が求められるものなのです。

 いつも万引きしに来る不良高校生グループや、外国人窃盗団を捕まえてほしい。こうした依頼も、私たちにとって珍しいことではありません。そのような現場で遭遇する被疑者は、粗暴な雰囲気を持つ人が多いため、万一、犯行を現認してしまった際は、逃げ出したくなる気持ちになります。見たいけど、見たくない。捕まえたいけど、逃げ出したい。そんな気持ちにさせられるのです。それでも、見てしまったからには、声をかけるほかありません。危険を感じた場合は、お店の人に同行していただくことにしておりますが、タイミングが合わなければ1人で声をかけることになります。タイミングが悪いと、なにひとつ上手くいかないのも、この仕事にありがちなこと。このような負の連鎖が、受傷事故の発生につながっていくのです。

 近頃は、社会情勢の急激な変化により生活基盤を失い、いままで犯罪と無縁だった方が万引き行為に至り、その罪から逃れるべく暴れてしまう人が増えているように感じます。初犯者は執行猶予中の人間と同じく、どうにかして罪から逃れたいという気持ちが強く表れがちで、暴れてしまう人が多いのです。以前は、女性相手に暴力を振るう被疑者は珍しく、素直に認めてくれることがほとんどでしたが、最近は、老若男女の見境なく暴れて逃走を図り、暴力を振るってくる人まで散見されます。自己中心的な人が増えているのか、小さなことで怒り狂う輩のような方々も増え、クレーマーを越えた当たり屋のような人まで目にするようになりました。外国人犯罪も多様化しており、平和な日常が脅かされているような雰囲気すら感じています。コロナ禍で蓄積された不安やストレスが、犯罪行為に向かう原動力になっているのだとしたら、この先の治安情勢は、悪化の一途を辿ることでしょう。

 時代の流れと共に店舗は巨大化し、比較的高価なモノが、無防備に近い状態で陳列されるようになりました。買取業者やオークションサイトの乱立もあって、もはや売れないモノはないほどに転売環境は充実し、誰もがいつでも古物商になれるような社会です。私自身、最近になって「メルカリ」の使い方を覚えて、たまに買い物させていただいておりますが、万引きしてきたのであろうと思われる商品を見かけることも多いです。

 例えば比較的高価で人気のある化粧品やサプリメントが、複数ずつ、妙に安い値段で出品されていることはありませんか。無論、全てがそうだとは言えませんが、出品されている商品群などをみれば、私にはなんとなくわかります。転売目的の万引き犯は、似たようなものを盗んでいくので、被害品と同じような商品構成を目にすればピンときてしまうのです。特に、食品や化粧品などの物品は、古物営業法における古物に該当しません。そのため、足がつくことなく、容易に換金できてしまうことから、大量盗難の被害に遭うわけです。

 こうした背景が、転売目的の万引き犯を跋扈させている側面は否定できません。転売目的の万引き犯のことを、昔は「ヤフオクさん」、いまは「メルカリちゃん」とあだ名をつけて蔑んでいましたが(ちなみに書店における換金目的の万引き犯は「ブックオフ」と呼んでいます)、こうした人たちによって盗まれた商品を買わされることのないように注意しながら、ネットショッピングを楽しんでいる次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメン、オンナ詐欺師に初遭遇! ポテサラの「半額シール付きふた」を悪用、その “図々しい手口”とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先月、岡山県倉敷市内のリサイクルショップで、掃除機など2点(7万1,280円相当)の商品についた値札を、店内で入手した別の安価な商品の値札と貼り替えて購入して騙し取ったとして、古物商の男と従業員の男2人が、岡山県警に詐欺の容疑で逮捕されました。この3人組、どうやら各地で犯行を繰り返していたらしく、別の詐欺未遂事件でも再逮捕されています。高額品を狙う貼り替え詐欺は、なかなか目にするものではなく、ここまで組織的な犯行は見たことがありません。スーパーで見られる貼り替え詐欺師は、主に中高年の主婦によるもので、そのほとんどが単独犯なのです。今回は、食品スーパーで捕らえた貼り替えオンナ詐欺師について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京都内の住宅地に位置するスーパーN。地階に食品売場、1階が衣料品、2階では書店やドラッグのほか、多くの日用品も扱う総合スーパーです。朝市や夕市、タイムサービスな ど、たくさんのイベントで固定客を掴んでいる地元の人気店で、いつも混雑しています。今月は、勤務シフトの半分以上が、このお店。その半分ほどを消化したところ、捕捉のない日はなく、店長や副店長の信頼も得られたようで現場における居心地もよくなってきました。私たちの仕事は、結果が全てなのです。

「おはようございます。これから入りますので、よろしくお願いいたします」
「おお。待っていましたよ。ちょっと一緒に、一服行きましょう」

 事務所に挨拶に出向くと休憩室に誘われ、どことなくチョコレートプラネットの長田庄平さんに似ている店長が、自動販売機のドリンクをごちそうしてくださいました。

「毎朝3時に起きて、市場に行ってさ。苦労して仕入れてきたモノを、タダで持っていくなんてヤツは、絶対に許せないよね。持っていかれる側から言わせれば、理由なんて関係ないよ」

 聞いたところによると、店長の平均睡眠時間は4時間。激務の中、不毛な万引き処理に時間を割かれるのは耐え難いけれども、放置もできないし許せないから仕方ないのだと、万引き犯に対する怒りを強くぶつけてきます。

「こないだの棚卸、ウチの店の商品ロスが一番多くて、ワーストだったんだよね。ほんと、困っちゃうよ」

 商品ロスの量は、店舗管理能力を問われるところ。店長さん自身のボーナス査定や人事査定にも影響するそうで、相当に頭を悩ませておられるように見えました。万引き犯を連れてくるたび、こちらが萎縮するほど怒鳴り散らす店長の真意を知り、少し納得のいく思いがします。

 店長の期待に応えるべく現場に入ると、午前中のピークを迎えたところで、妙に周囲を気にしながら惣菜を睨む初老の女性が目に止まりました。どことなくカマキリを彷彿させる目の大きな女です。明らかに他者の目を気にしている様子が気になり、そのまま注視していると、半額シールの貼られた「具だくさんポテトサラダ」(298円)のふたを外したカマキリ女は、続けて割引されていない同商品のふたも外して付け替えてしまいます。半額シールを持ち込むなどして、正規の値段で販売中の商品に貼りつける行為は散見されますが、ふたを付け替える手口を見たのは初めてのこと。正規品のふたをつけられた割引商品の消費期限を考えると、これを購入した人がおなかを壊すことになるかもしれず、放置するわけにはいきません。ふたを付け替えられて放置された商品を確保したうえで、カマキリ女を追尾すると、48円の缶コーヒーと、半額になったあんぱんを手にして青果売場に向かっていきます。そこで、備え付けのポリ袋を手にしたカマキリ女は、箱入りのみかんを開封して一つ抜き取り、いわば堂々とした様子でポリ袋に入れてしまいました。続けて、派手にディスプレイされた巨峰やシャインマスカットに手を伸ばすと、いくつかの粒をもぎ取ってポリ袋に入れてしまいます。

(ちょっと図々しすぎるわね。全部お買い上げいただかないと)

 高級青果は、一粒でも取られてしまえば形が崩れて、商品になりません。レジに向かうカマキリ女の動向を見守りながら、彼女が手をつけたブドウ類の房を余すところなく押収した私は、レジ列に並ぶ彼女の後ろにつきました。割引シールのついたフタに付け替えたポテトサラダを、不正な値段で精算した瞬間に、カマキリ女に声をかけます。貼り替え詐欺の場合は、万引きの既遂時期と異なり、値段を貼り替えた商品の支払が為されたところで犯罪が成立するのです。

「店内保安です。お客様、そちらのポテトサラダ、割引していないんですよ。ぶどうのほうも、商品にならないので、ご精算いただかないと。それに、みかんもタダじゃないです」
「え? ああ、そうよね。すみません」

 この目で見た女の行動を、もれなく指摘すると、言い返す言葉が見つからなかったのか、素直に犯行を認めてくれました。呆気に取られるレジ店員を尻目に、カマキリ女を連れて2階にある総合事務所に向かいます。その道中に、犯行理由を尋ねてみると、まるで悪気のない態度で返されました。

「今日は、どうしちゃったんですか?」
「一人暮らしだから、たくさん食べられないでしょう。少しだけで充分だから、買うのがもったいなくて」
「ポテトサラダのふたを付け替えた理由は、なにかあります?」
「どうせ買うなら新鮮なモノを安く買いたいじゃない」

 事務所に到着して、不正に購入したポテトサラダと果実を隠したポリ袋をデスクに出してもらい、現場で押収した被害品と一緒に並べます。事務所で事務作業をしていた店長に声をかけて状況を説明すると、損壊された商品とカマキリ女を一瞥して、すぐに警察を呼び始めました。通報に気付いて暴れる人もいるため、気を逸らすように身分証の提示を求めると、身分を証明できるものは持っておらず、この店のポイントカードを提示されます。話を聞けば、カマキリ女は62歳。この店の裏にあるアパートで一人暮らしをしているそうで、この店には長年にわたって毎日来ているのだと、常連客の顔で胸を張っています。

「毎日、こういうことをしていたってこと?」
「毎日じゃないけど、たまにね。もうしないし、全部返すから、勘弁しておくれよ」

 悪びれた様子は微塵も見せずに、まるで井戸端会議に参加しているような雰囲気で笑いながら話すカマキリ女に、通報を終えた店長が目を三角にして怒鳴りました。

「おい、あんた。たまにって、どういうことだよ。あんたは軽い気持ちでやっているのかもしれないけどよ。こっちからすれば、すげえ迷惑なことだぞ、これ」
「わかってますよ。そんなに大きな声出さないで」
「はあ? あんた、自分の立場わかってる? 立派な犯罪なんだぞ、これ!」
「はいはい、すみませんでしたね……」

 店長から目を逸らし、不貞腐れながら謝罪するカマキリ女に対して、店長の怒りは収まりません。

「てめえ、なめてんのか? ババアだからって、承知しねえぞ、この野郎!」

 事務所の窓が共鳴するほどの大声でカマキリ女を一喝した店長は、警察官が到着するまでの間、ずっと怒鳴り散らしていました。理由はどうあれ、同年代の女性が若い男性に怒鳴られている姿を見るのは痛々しく正視に堪えませんが、残念ながら止める立場にもありません。結局、駆けつけた警察官に説得される形で、損壊した商品を全て買い取ることになったカマキリ女は、嫌々ながらに財布から金を出すと、この店のポイントカードも一緒に取り出して言います。

「ポイント利用でお願いします」
「気持ちはわからないでもないけど、少しは立場をわきまえろよ」

 突拍子もないカマキリ女の発言に警察官が失笑を漏らす中、お金とポイントカードを受け取った店長は、デスクの中からはさみを取り出して言いました。

「あんたは、もう出入禁止だから、ポイントカードは返してもらうよ」
「ええ? ここに来れないと、困っちゃうんだけど……」

 食い下がるカマキリ女の懇願を遮るように、あえて面前でポイントカードを裁断してみせた店長の意地悪な顔は、いまも目に焼き付いています。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「セルフレジ万引き」増加中! 商品をスキャンせず持ち逃げ、バレると「機械のせい」……万引きGメンはどう出る!?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、普段通っている馴染みのスーパーで、図らずも盗んだと疑われても仕方のないことをしてしまいました。無論、商品をエコバッグに隠匿したりするような行為をしたわけではありません。商品の読み取りから会計まで、全て購入者が済ませる、いわゆるフルセルフレジで精算したしたのですが、家に帰り、ポイントを確認するべくレシートをチェックしたところ、レシートに記載されていない商品があったのです。その商品は、2キロの新米。バーコードを読み取り機に当てて、チェック音を聞いた記憶もあるのに、なぜだか支払いがなされていません。お店に電話をかけて、使ったレジの位置と時間、ポイントカードの番号を伝えて事情を説明すると、次回の来店時に支払ってくれれば構わないと対応されました。しかしながら、それも気持ち悪いので、すぐに伺うことにして支払いを済ませます。

「この度は、失礼しました。こういうことって、ほかにもあります?」
「ええ、たまにありますよ」
「ピッていう音、鳴っていたんですけどね」
「混雑する時間ですし、他のお客さまの音と混同されたのかもしれませんね。重い商品なので、読み取るときに揺らいで、うまくスキャンできなかったとも考えられます。どうか、お気になさらないでください」

 サービスカウンターに出向いて事情を話すと、電話口に出たと思われる女性スタッフの方が、嫌な顔ひとつみせずに対応してくれました。帰りの道中、過去に見たセルフレジを悪用した捕捉事案と、自分の行動を照らし合わせながら家路を辿ります。

(もし、現場で同じことをする人を見かけたら、きっと声をかけているはず。悪意がないとはいえ、もし声をかけられていたら、どうなっていたかしら……)

 少しでもタイミングが悪ければ、自分のキャリアが崩壊していた可能性まで考えられ、改めて安堵した次第です。今回は、フルセルフレジを悪用する万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、大型ショッピングセンターY。挨拶のため総合事務所に到着すると、店長はお休みとのことで、どことなく亀田史郎さんに似ている副店長が対応してくださいました。形式的な挨拶を済ませて、いつものように注意事項を確認すると、副店長が苦虫を噛み潰したような顔で言います。

「ここは、セルフレジでチェッカーをスルーする人が、たくさんいてさ。導入してからは、売場で商品を隠す人を、全然見かけなくなったくらいなんだよね」

 この店は、将来的に店舗の無人化運営を見据えているようで、店員さんが商品をスキャンして、支払いのみ機械でするセパレート式のセルフレジだけではなく、その全てをお客さんが行うフルセルフレジも複数台導入しています。お客さんに精算の手間を預けることで、確かに人員コストは下げられるかもしれませんが、不正行為による被害を考えると、その全てが無駄のような気がしないでもありません。

「あなた、そういう人も、捕まえられるの?」
「はい、何人か扱ったことあります。否認される方が多いから、大変なんですよね」

 フルセルフレジにおける犯行は、捕捉後に犯意を否認される方が目立ち、その処理には余計な時間がかかります。悪い人の目で監視スタッフの様子を窺い、おかしな手つきで商品を隠しているにもかかわらず、精算したつもりだったと居直る人が多いのです。一見して、言い訳しやすい環境と思えますが、各台には比較的高性能の防犯カメラが設置されており、咄嗟に思いついたような嘘は通用しません。精算の様子は一部始終記録されており、その映像からも犯意は特定できるのです。

「そうなんだ。大変でしょうけど、今日はセルフレジを中心に警戒してもらえるかな。期待してますよ」

 セルフレジを中心にと言われても、商品を手にするところから見ないと、なにも始まりません。通常通りに巡回をして不審者の発見に勤しみ、その結果として、そうした手口を用いる被疑者が現れるのです。いつも通り、比較的高価で万引きされやすい商品を手に取る方々を確認して回ることに決めた私は、化粧品や高級食材などの売場を中心に警戒することにしました。

 すると、勤務中盤に差し掛かったところで、どことなく工藤静香さんを意識している感じがする50代前半と思しき髪の長い痩せた女が目に止まります。ポイントデーでもないのに、比較的高価なオリゴ糖と蜂蜜のボトルを3本ずつカゴに入れるところを目撃してしまい、ちゃんと買うのか気になったのです。追尾すると、次に複数のクレイジーソルトをカゴに入れた女は、牛すね肉、スペアリブ、菓子パン、モッツァレラチーズ、そして最後に高価な赤ワインを2本カゴに入れて、レジの方へと向かって行きました。

 入口に設置された5円のレジ袋を手に取り、フルセルフレジのエリアに入った女は、サポート役の店員さんから一番離れた台に陣取ります。店員さんに背中を向ける形で、レジ袋をスキャンしないまま精算台にセットすると、何食わぬ顔で商品の精算を始めました。

(レジ袋だけではなさそうね)

 ちらちらと女が店員さんのほうを気にしている隙に、女の手とレジのモニターが確認できる位置まで移動して精算状況を確認すると、ここでは公表しかねる手口で、いくつもの商品をレジ袋に隠しているのを現認できました。会計時、酒類を購入したことから年齢確認のためにサポート役の店員さんが駆けつけましたが、女の悪事に気付いている様子はありません。店員さんが離れ、スキャンした商品のみ精算を済ませた女は、かなりの早足で店を出ていきます。後方を振り返りながら店の外に出た女が、出入口脇に停められた電動自転車に手をかけたところで、そっと声をかけました。

「あの、お客様? 店の者ですが、そちらのお会計、ちょっと確認させていただけますか?」
「はあ? なんですか? お店開けなきゃいけないから、時間ないんですけど」
「すぐに終わりますよ。レシートは、ございますか?」
「これですけど……」

 なぜだかわかりませんが素直にレシートを出してくれたので、レジ袋に入れた商品と照合させていただくと、案の定、複数取りした商品の精算が一部しかなされていません。はっきり言ってしまえば、買ったモノより盗んでいるモノのほうが多い状況です。

「お支払い済んでないモノ、たくさんあるんですけど……」
「え? ウソ? 私、全部通しましたよ」

 そう言い張るので、直接本人に照合してもらうと、どこかわざとらしく狼狽してみせた女が、意味不明の言い訳を始めました。

「あれ? ホントだ。なんでだろう? もしかして、機械が壊れているんじゃないですか」
「お釣りまで出ているのに。壊れているわけないじゃないですか。そんな言い訳、通りませんよ」
「はあ? そんなこと言われても……。以後、気をつけますね。お金、払ってきます」

 店内に戻ろうとする女を呼び止め、事務所で払ってもらうよう促すと、時間がないと言いながらも同行に応じてくれました。事務所に到着して、身分証明書の提示をお願いすると、女は52歳。旦那さんと二人、隣町で小さな洋食屋を営んでおられるそうで、店を開けないといけないので時間がないのだと繰り返しています。

 この日の被害は、レジ袋を含めて計10点、合計8,000円ほどとなりました。

 どうにも落ち着かない様子でいる女に、被害品の伝票を確認してもらうと、現金の持ち合わせがないのでカードで払いたいと、まるで悪気のない感じで話しています。すると、事務所内のロッカーから「(秘)不審者ファイル」を取り出してパラパラとめくっていた副店長が、興奮気味に声を上げました。

「ウチのブラックリストに、あんたの写真があるんだけどさ、同じこと何度もしているよね?」
「いえ、本当に払ったつもりでいました。すみません。これからは、気をつけます」
「いや、あんた出入禁止だから、二度と来ないでくれる? 今日は、いままでの被害も含めて、きちんと警察に調べてもらいますから」

 おそらくは言い訳を用意した上での犯行と思われ、声をかけられたときの対応もシミュレーションしてきたのでしょう。まもなく臨場した警察官に引き渡された女は、否認を続けたことが影響したのか、犯歴がないにもかかわらず基本送致されることになりました。

「店で使うモノだって話しているから、仕入れ目的みたいな感じだろうね。本人は認めないけど、計画的にやっている感じだよ。コロナのおかげで、お店やっている人の万引きが増えてきたよなあ」

 処理を終えて警察官と一緒に地域課を出ると、女のガラウケにきていた旦那さんが、廊下に設置されたベンチシートに大股を広げて座っておられました。憎悪あふれるような目で睨まれ、とても怖かったです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)