“妊婦万引き犯”に下した冷酷な鉄槌! 女店長は「そんな幸せな環境にいるのに、あなたぜいたくよ」と言い放った

 

 こんにちは、保安員の澄江です。

「雨の日は、万引きが少ない」……同業者や警察の方であれば、きっとご理解いただける定説だと思いますが、今年の梅雨は少し違うようです。おそらくは、度重なる緊急事態宣言の延長に基づく経済状況の悪化によるものでしょう。初犯の方に声をかける機会が増えたことで、その季節感はなくなり、通年より忙しい日々を過ごしています。

 事務所で話を聞いてみれば、仕事が途絶え、お金がなくなり仕方なかったのだと、どこか居直り気味の人が多いことも特徴といえるでしょう。

「もう、どうなってもいい」

 そんな気持ちすら伝わってくる自暴自棄な態度も共通しており、まるで責める気になれません。つい先日も、生活苦を理由に弁当を盗んでしまった高齢の個人商店主から“ワクチンを打つ前に餓死してしまいそうだ”と嘆かれ、このような人達が身を寄せられる施設が必要だと痛感しました。確かに逮捕されてしまえば、寝食に困ることはありません。しかしながら結果として信用を失い、お金のない状況で罰金刑でも科されてしまえば、容易に立ち直ることはできないでしょう。

 老若男女、人種国籍を問わず、食うに困って犯行に至るような人を捕まえた時には、ついつい同情してしまう自分がいます。そうした人を警察に引き渡すたび、声をかけたことが正しかったのか、自問自答してしまうのです。

 そんな人が増えつつある現状ですが、今回はそうした人たちとは“違う理由”で犯行に至ってしまった女性の事案について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の端に位置するドラッグストアK。小さめの店内に大量の商品を陳列しているためか、万引き被害が絶えない状況に陥っているそうで、次の決算までに常習者を一掃するべく各店に保安員が大量導入されました。複数の保安会社と契約されているため、本部より結果を出すよう暗に指示されましたが、この日は雨のため客足が寂しく、嫌な焦燥感を抱えたまま後半の業務に臨みます。

 ようやくに雨が上がり、少し晴れ間が出てくると、20代後半と思しき妊婦さんが入ってきました。どことなく土屋太凰さんに似ている健康的な雰囲気が印象的な女性で、スポーツ選手と見紛うほどスタイルが良く、お腹の膨らみが余計に目立ってみえます。特に不審に感じたわけではありませんが、お客さんがいないので彼女の動向を見守るほかありません。すると、入口脇のボックスティッシュを手に取ってカゴの中に立てたその女性は、左肩にかけたトートバッグを手首に移しながら店内を歩いて、サプリメント売場で足を止めました。

 吟味することなく、さまざまな種類のサプリメントを複数ずつ手に取った女性は、あれもこれもという勢いで多数の商品をカゴに放り込んでいきます。左手首にかけたトートバッグは、カゴと体の間に挟まれており、商品を隠しやすい状況にセットされているように見えました。おそらくはカゴの中に立てたボックスティッシュを“幕”に利用するつもりなのでしょう。一連の行動が悪いほうにつながり、自然と犯行に至ることを確信した私は、棚の隙間を駆使して女性の手を見続けます。

(やっぱり……)

 それから間もなく、この店一番といえる死角通路に入り込んだ女性は、カゴに入れたティッシュで手元を隠しながら、“棚取り”した大量のサプリメントをトートバッグの中に隠しました。鉄分やDHA、マルチビタミン、ナットウキナーゼなど、隠した時間と商品名を記憶に留めつつ、次に乳製品コーナーで足を止めた女の行動を見守ります。

 すると、プリンやヨーグルト、ハーゲンダッツなどをカゴに入れて売場を離れた女は、お気に入りらしい死角通路に舞い戻って商品をトートバッグの中に隠しました。“幕”に使ったボックスティッシュの精算を済ませて、何食わぬ顔で店を出ていく女の背後に忍び寄り、極力驚かせないよう近所のおばさん気取りで声をかけます。

「こんにちは。もうそろそろ産まれそうですね」
「ええ、どうも……」

 この人誰だっけと、頭の中で記憶をたどっているであろう女は、いぶかしげに私の顔を凝視してきました。引きつり気味の微笑みで応えて、そっとトートバッグの紐を掴んだ私は、びくりと体を強張らせた女に用件を伝えます。

「お店の保安です。このバッグの中に、たくさん入れちゃったでしょう? ちゃんと払ってから帰ってもらえる?」
「え? ああ、はい……」

 呆気にとられながらも同行に応じてくれたので、「大丈夫だから」となだめながら、建物の裏手にある事務所に向かいます。応接室のパイプ椅子に座らせ、トートバッグに隠したモノをテーブルの上に出してもらうと、先程覚えた商品のほか、カロリミットやグルコサミン、高機能マスクが出てきました。続いて身分確認を進めると、ヨガの講師だという女は、31歳。この店の近くに、旦那さんと2人で暮らしているそうで、健診帰りに立ち寄ったと話しています。

 今回の被害は、計21点。合計で5万円ほど。すべて買い取れるか尋ねれば、10枚づつなのか束になった万券をテーブルの上に出して、すべて買い取るので許してくださいと懇願されました。

 ひととおりの確認作業を終え、どことなくたんぽぽの川村エミコさんに似ている50代と思しき女性店長を呼び出して状況を説明すると、見覚えのある女だそうで、通報する前に事情を聴きたいと申されます。

「よく来てくれていますよね。いつもやっていたんですか?」
「いえ、いつもではないです……」
「お金、たくさんあるじゃない? どうして払わなかったの?」
「世の中コロナで大変なのに、妊娠しちゃって。子供が産まれたらお金かかるのに、全然仕事できていないし。そんなことを考えていたら、お金払うのが嫌になっちゃって……。ごめんなさい」

 おそらくは、自分の胸の内を誰かに聞いてもらいたかったのでしょう。ため込んでいたものを吐き出すように告白した女は、顔を伏せて泣き始めました。そんなことにはまるで動じない女性店長が、この上なく冷酷な顔で言い放ちます。

「そんな幸せな環境にいるのに、あなたぜいたくよ。警察呼んできますね」

 むせび泣く女を尻目に席を立ち、扉の向こうで通報を始めたので、重苦しい場を変えるべく話しかけて場をつなぎます。

「サプリメントって、高いですよね。いつも色々な種類を飲まれているんですか?」
「ヨガのインストラクターって、健康的な見た目でいないと信用されないので、気をつかっているつもりです」

 その後、警察に引き渡された女は、直近に近隣店舗で同じことをして所轄警察署に扱われていたことが判明。逮捕もあり得る状況でしたが、妊娠中であることを理由に基本送致となり、身柄を旦那さんに引き受けさせることを条件に帰宅を許されました。

 すべての処理を終えて店に戻り、各報告書の承認印を頂くために女性店長を呼び出すと、早速に質問されます。

「あの女、どうなりました?」
「旦那さんと一緒に帰られました。短期間に再犯しているので、おそらくは罰金刑になるでしょうね」
「フン、いい気味ね。幸せな人生を送っているくせに、あの女、どうかしてるわよ」

 酷く意地悪な顔で言う女性店長の目には、嫉妬の色が色濃く浮かんでおり、同性の嫌な部分を見せつけられた次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「あら、嫌だ。こんなところで……」万引きGメンは見た! 変態少年のおぞましき“遺留品”

 こんにちは、保安員の澄江です。

 最近は、大型スーパーやショッピングモールよりも専門店からの依頼が多く、書店やドラッグストアをはじめ、釣具店やスポーツ用品店など、さまざまな業種の店舗に潜入しています。個人的には、食品スーパーにおける勤務が一番気楽で望ましいのですが、不況のためか単発の依頼が多く、選り好みできる状況にありません。

 あらゆる専門店は食品スーパーと違って客足が少なく、回転も悪いので、検挙率が低くなります。クライアントが気にするのは、常に費用対効果のこと。こちらも重々承知しているので、結果を出すべく気を抜かずに警戒しますが、相手が来なければ話になりません。多くの常習者を抱える食品スーパーと違って、専門店の常習者は来店回数が少なく神出鬼没なため、犯行の予測が難しいのです。それでも導入し続けるのは、一度の被害が大きいからにほかならず、その費用を考えれば被害店舗の苦しみが実感できることでしょう。その少ないチャンスをモノにできるかできないかに、私たちの評価がかかっていることも申し添えておきたいところです。今回は、とある書店で過去に捕らえた変態少年についてお話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の都心に位置する大型書店S。ありとあらゆるジャンルの豊富な書籍を、複数のフロアで販売する巨大店舗です。周辺に数件の書店がある土地柄、ハシゴする常習者が目立つため、有事の際は他社の保安担当者と連携するよう指示されています。このようなネットワークは、非公式ながら20年以上前から構築されており、ひと昔前まではお互いの不審者ファイルを持ち寄って情報交換していました。

 今は各店に顔認証装置が設置されているため、不審者ファイルの存在自体がなくなり、情報交換するだけの関係です。顔認証登録された不審者データの共有は簡単で、一部地域では各店の保安員が連携をとって警戒にあたったそうですが、この地域の店が共有しているかはわかりません。私たちは受信端末を持たされるだけで、登録から運用まで店側がするため、その実情はわからないのです。

 出勤の挨拶を終えて、近くの喫煙所で勤務前の一服をつけていると、並びの書店で勤務する顔見知りの男性保安員(42歳)から声をかけられました。太い眉毛と長いもみあげ、それに痩せた体が特徴的な人で、その風貌と毛深さから“ワッキー”と呼ばれて親しまれているプロ意識の強い同業者です。違う事務所に所属しているものの、お互いがベテランのために付き合いは長く、過去には数件の検挙を共にしています。

「ご無沙汰しています。最近、どうですか?」
「あら、こんにちは。ここは、久しぶりなんですよ」
「そうでしたか。私はよくここに入っているんですけど、最近は中高生が多いんですよ。鬼滅(の刃)の全巻狙いとか写真集狙いが多くて……」

 たしかにこのあたりは私立学校が多く、夕方になると学生さんの来店が目立つようになります。彼によれば、某学校内では万引きが流行っている節があるからと、夕方は学生さんを中心に警戒すべきだとアドバイスされました。有事の際は、お互いに協力し合うことを確認して、ひとり現場に入ります。

 気になる不審者を見つけられないまま夕方を迎え、学生の来店が増えてきたためにコミックと写真集の売場を中心に巡回していると、女性タレントの写真集コーナーに佇む制服姿の少年が目に止まりました。おそらくは高校生でしょうか。豊満なグラビアタレントのヘアヌード写真集を売場の死角に持ち込み、右手の爪でラッピングを切り裂いていたのです。

 もちろんマナー違反といえる行為ではありますが、これだけでは声をかけるに至りません。その目的が判明するまで注視すると、ラッピングを外して売場に放置した後、目を背けたくなるほどのスケベ顔で写真集のページをめくり凝視しています。それからまもなく、左手の親指で本を押さえてページを固定した少年は、顔を左右に振って周囲の警戒を始めました。ページを開いて固定しているところを見れば、商品を隠すつもりではなさそうで、何をするのか気になります。すると、おもむろにズボンのチャックを下ろして、あろうことかその場で自慰行為を始めました。

(あら、嫌だ。こんなところで……)

 ここで声をかけて捕まえることもできますが、私も女。まだ未成年者とはいえ、店内で性器を露出する男性に声をかける勇気が出ません。

(しまったところで声をかけたら否認されるかもしれないし、タイミングが難しいわね。あの写真集は、どうするのかしら)

 自問自答しながら葛藤していると、どうやら満足したらしい少年は、その場に写真集を放置してエスカレーターに乗り込んでいきます。商品の状態を確認する時間がなく、遠目から写真集の所在だけを確認して急いで後を追うと、そのまま1階まで降りて店の外に出てしまいました。

 早足で追いかけ、気付かれないまま射程距離に入れたものの、なんと声をかけていいのか言葉が浮かびません。売場で性器を露出していたのは間違いありませんが、写真集のラッピングを破いただけで盗んではおらず、証拠が弱いような気がして躊躇したのです。自分がどうすべきか思案しながら追尾していると、並びの書店に入っていくので、これ幸いとワッキーにLINEをして応援を求めます。

「あの子ですね? そっちでは、何をやったんですか?」

 店内で早速に合流して、これまでの経緯を説明したところ、まずは売場に放置された写真集の状況確認をすべきと意見が一致したので、少年の追尾をワッキーに任せて本来の現場に戻ります。とにかく急いで写真集が放置された場所に戻って、その状態を確認すると、中ほどのページ同士が液体によって貼り付いており、棄損された状態が確認できました。

「やっぱり汚していたので、声をかけます。今どちらですか?」

 常備しているレジ袋に棄損された写真集を詰めて、この上ない早足で並びの書店に舞い戻り、写真集コーナーに潜むワッキーの元に駆けつけます。声かけ前に証拠を確認してもらうべく、慎重に写真集を取り出してみせると、とたんに顔をしかめて言いました。

「うわあ、汚ねえ! たまにいるんだよね、こういうバカ」
「一応、見ておいてもらいたかったから、ごめんなさい。重ねて申し訳ないんですけど、ここで声かけさせてもらってもいいですか?」
「全然、いいっすよ。一緒に行きましょう」

 店内での捕捉は緊張するものですが、プロの男性のサポートが得られたことから、大船に乗った気持ちで少年の肩を叩きます。

「こんにちは、隣の店の保安員です。申し訳ないんですけど、さっき見ていた写真集。汚されちゃって困っているので、買い取ってもらえますか?」
「はあ? 俺知らないよ。関係ないです」

 ひどく慌てた様子で立ち去ろうとするので、少年の腕を脇に挟んで制止するも、身をよじって逃げる姿勢を崩しません。強く引っ張られて危うく転びそうになり、絡めた腕を離した瞬間、ワッキーが少年の両肩を掴んで床の上に転がしました。仰向けに倒れた少年の上に、流れるような動きで馬乗りになったワッキーが、場面に似合わぬ優しい口調で問いかけます。

「騒ぎになっちゃうから、素直にしたほうがいいよ」
「違う! 俺じゃない!」
「へー。DNA、びっちりと付いているけど、調べられても大丈夫かな? 認めないなら、すぐに警察を呼ぶことになるよ」

 問いかけが効いたのか、我に返った様子でおとなしくなった少年が、上から顔を近づけてすごむワッキーに言いました。

「ごめんなさい。認めますから、親と学校には言わないでください」

 適当な相槌を打ちながら、ワッキーと2人で少年を事務所に連れていき、店長立ち合いのもとで事後処理を進めます。逮捕者はワッキーなので、店長に事情を説明して、少年の扱いが決まるまで同席してもらえるようお願いしました。

 少年に身分証の提示を求めると「持っていない」と言うので、メモ用紙に人定事項を書いてもらうと、すぐそばにある私立中学校の3年生であることや、ここから電車で30分ほど離れた街で家族と暮らしていることがわかりました。被害品の写真集は3,850円(税別)ですが、少年の所持金は2,000円足らずで、自力で買い取ることはできません。顔を真っ赤にしてうつむく少年にかける言葉がなく、ただひたすらに黙っていると、状況を察したワッキーが言いました。

「俺も男だから気持ちはわからないでもないけど、他人に迷惑かけたらダメだよな。これ、どうするの? ご両親に助けてもらうほかないよなあ」
「もう二度としませんし、お金は明日必ず持ってきますから、親と学校には連絡しないでください。こんなこと知られたら、俺、殺されちゃいます! うわーん」

 どうしても親には知られたくないのでしょう。突然に土下座した少年は、床に額をつけて号泣しながら許しを乞い始めました。場馴れしていないらしく、ひどく困惑した様子の店長が、私の耳元で囁きます。

「ちょっとかわいそうですね。どうしたらいいでしょう?」
「そこは、店長さんのご判断ですよ。やったことが普通ではないから、このまま帰すのも、ちょっと心配ですけどね」
「そうですよね。じゃあ、通報してきます」

 結局、警察に引き渡された少年は、14歳だったことから犯罪少年(14歳以上で罪を犯した少年)として扱われることになり、ほんの数分で警察署に連行されていきました。その後の処分を知ることはありませんが、おそらくは厳重注意の上、家庭で話し合うよう指導されたことでしょう。

「いろいろ助けてもらったから、ごちそうするわね」

 処理後に軽い休憩を頂き、ワッキーを喫茶店に誘ったところ、小腹が空いたとホットドックを注文され、そのデリカシーのなさにあきれた次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

ポメラニアンに高級熱帯魚まで……連続“生体”万引き犯は、ペットコーナー常連客だった! 驚きの手口と動機とは?

 こんにちは、保安員の澄江です

 最近は、仕事でホームセンターに行く機会が増えてきており、捕捉数は少ないものの、高額事案にあたる確率が高まっています。つい先日は、仲間が資材館における軽ワゴン車を利用した大量盗難を見逃してしまったそうで、十分に注意して勤務にあたるよう指示されました。巡回の基本は店内ですが、値段が高騰している材木や高価な観葉植物の転売事例が増えてきていることから、資材館や屋外売場にも気を配る必要があるのです。

 また、福岡県内のホームセンターでは、ペットコーナーで販売されていた小型犬(生体)のポメラニアン(59万円相当)を盗んだとして、無職の男(64歳)と女(50歳)が逮捕される事案が発生しました。盗んだポメラニアンは逃げてしまったと供述しているようですが、同店では3月に豆柴も盗まれている事実があることから、転売目的による犯行と疑われており、引き続き捜査されています。

 数年前、ホームセンターのペットコーナーにおける触れ合い体験中にトイプードルを持ち去った高校生のカップルが逮捕されたこともありましたが、命をモノのように扱う所業は愛犬家として許せず憤怒した次第です。今回は、過去に捕らえた“生体泥棒”について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の端に位置する巨大ホームセンターS。生活館、工具館、資材館、植物館、ペット館など、複数棟の広大な売場が連なる巨大施設です。同じ敷地内に、書店や衣料品店、ドラッグストアなども併設されておりますが、巡回するのはホームセンターのみ。現場指示書の片隅にある特任事項欄に、マークしている人物の行動確認を希望されていると記載があるので、どことなく俳優の六角精児さんに似ている黒縁メガネの店長に尋ねると、デスク上に並ぶファイルを手に取って広げ、対象人物の写真を見せてくださいました。

「この男の人なんだけどね。毎日のようにペットコーナーでみかける常連さんなんだけど、来るたびにおかしな動きをしていてさ。今日も来ると思うから、もし来たら見てもらえますか?」
「ペットですか?」
「そう。熱帯魚を飼っている人みたい」

 開店に合わせて現場に入ると、平日の午前中であるため客足は寂しく、来店者の確認は容易な状態にありました。広い店内を右往左往して不審者を探し回るも、大過なく時間だけが過ぎていきます。夕方になって客足が徐々に伸びてくると、少し慌てた様子の店長が駆け寄ってこられて言いました。

「熱帯魚の人、いま駐車場にいたから、もうすぐ入ってくるよ」

 ペット館から一番近い出入口を見ていると、写真で見た男性が、大きなトートバッグを右肩にかけて入ってきました。おそらくは30代、どことなくくりぃむしちゅーの上田晋也さんに似ている日焼け顔で筋肉質の男性です。事前の情報通り、ペットコーナーに直行した男性は、高価な熱帯魚のディスプレイの前で足を止めました。

 アジアアロワナ(高背金龍) ¥78,000(税別)

 悠々と泳ぐアジアアロワナを、しばらく見つめた後に店員さんを呼んだ男は、いくつか質問を重ねています。どうやら購入を決めたようで、一旦その場を離れた店員が、大きな網とバケツを手に戻ってきました。売場のカウンターで登録関係に必要な書類と、酸素注入されパンパンになったビニール袋(マジックで値段が書かれている)に入れられたアジアアロワナを受け取った男性は、それをカゴに入れて買い物を続ける様相です。

(そんなにおかしな人には見えないし、店員さんも付いているから大丈夫かな)

 ろ過槽用のウールや活性炭、エサ用のコオロギが入った虫かごなどの商品をカゴに入れて間もなく、同行していた店員が別の客に声をかけられて足を止めると、それに合わせて男性も売場を離れて行きます。

 レジに向かうだろうと思いつつ、ペットコーナーをあとにした男性を追尾すると、不必要なくらいの早足で人気のない通路に入っていきました。慌ててあとを追うと、ちらりと後方を確認してから柱の陰にしゃがみこんだ男性は、アジアアロワナの入ったビニール袋と登録書類をトートバッグに隠しています。

 生体をバッグに隠す人を見るのは、これが初めてのこと。予想外の展開に動揺しながら努めて冷静に動向を見守ると、そのままレジに入った男は、ろ過槽用のウールと活性炭、コオロギが入った虫かごだけの精算を済ませるようです。ひとりで声をかけるのが心細く、サポートを求めるべく周囲を見回すも、店長や従業員の姿は見当たりません。仕方なく自分ひとりで声をかけることに決めた私は、駐車場に出た男が青いスポーツカーの扉を開いたところで声をかけました。

「お兄さん、すみません」
「へ?」
「お店の保安ですけど、精算されていないものがあるので、お声かけしました」
「いや、払ったけど……」

 平然と言いきるので、盗んだものを具体的に指摘して、事務所への同行を求めます。

「そのバッグに入れたアロワナのことですよ。お話聞きたいので、事務所までご足労いただけますか?」
「…………」
「防犯カメラの映像もあるし、車のナンバーもわかっていますから、きちんとされたほうがいいですよ」
「うん、すみません」

 完全に降参した様子で同行に応じてくれたので、事務所に到着するまでの場をつなぐため、犯行理由を聞いてみました。

「どうして隠しちゃったんですか?」
「ちゃんと払おうと思っていたんだけど、途中でカードが止まっていることを思い出してさ。戻すに戻せなくて、いいやって……」

 あっけらかんと話しているところをみれば、こうした場面に慣れているように感じられ、今後の展開が気になります。事務所の応接室に座ってもらい、免許証の提示を求めると、この店の近くでひとり暮らししているという男は35歳。被害品を出してもらうと、袋詰めにされたアジアアロワナと登録書類のほかに、いつ隠したのかデジタル水温計(980円・税別)も出てきました。被害は、計2点、合計7万8,980円(税別)になりますが、男の所持金は2万円足らず。カードも止められていると話しているので、商品の買い取りはできそうにありません。

 店長を呼び出して事情を説明すると、被害品のアジアアロワナを見ながら平然と座る男に、どこか白々しく声をかけました。

「よく見るお客さんでショックだなあ。熱帯魚好きに悪い人はいないと思っていたけど、今日は、どうしたんですか?」

「途中でクレジットカードが止まっていることを思い出して……。戻せばよかったんですけど、すみません」
「へえ。実は、2カ月くらい前にもさ、アジアアロワナ持っていかれているんだけど、まさかあんたじゃないよな? マイクロチップ入っているから、家で飼っているならすぐにバレると思うけど、大丈夫?」
「…………」

 まもなく警察に引き渡された男は、いくつかの前科があったらしく、その場で逮捕されることとなりました。その後の調べで、男の自宅で飼育されていた別のアジアアロワナも、同店で盗んだ生体と判明。どうやら男は水槽に囲まれた部屋で暮らすほどの熱帯魚マニアで、違う餌を与えることによる発色の違いを知りたかったのだと、担当刑事に話していたそうです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きしたのは“鳩の餌”……! 全財産を持ち歩く哀しき老女に、店長が「おい、ババア!」と顔色を急変させたワケ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ新規のスポット契約が増え、見知らぬ土地の新しい現場に入る機会が増えてきました。どの店も、被害の増加を実感されているようで、一人でも多く捕まえてほしいと口を揃えます。お客さん全員がマスクをつけて、大きなバッグを持ってくるだけでも怪しく感じてしまうのに、ソーシャルディスタンスを意識しているのか他人を避けるように周囲を気にしながら歩くので、みんなが不審者に見えてしまうのだと話す店長もいました。お客さんを疑いたくない。その気持ちを維持するには、万引き者を捕捉するほかなく、保安員の導入を決めたそうです。今回は、つい先日捕らえた不思議なおばあちゃんについて、お話したいと思います。

 当日の現場は、関東の一部地域を中心に店舗展開するスーパーマーケットT。初めて行く現場なので早目に出向いて、挨拶する前に店内把握(店内の構造や状況を把握すること)を済ませると、ワンフロアながらも広大な売場は死角だらけで、どこで何を隠されてもおかしくない状況にありました。開店まもないために使用を限定しているのか、稼働していないものの、真新しいセルフレジも導入されています。

 恐れずに言ってしまえば、犯罪機会を刺激する店づくりをされているような状況で、こうなると万引きされないわけがありません。長年の経験から、お店の構造やレイアウトをみれば、どれほどの常習者が潜在しているか予想がつくのです。

(久しぶりの新店だから、間違いのないようにしないと)

 少し緊張しながら事務所まで挨拶に出向くと、どことなく鬼越トマホークの金ちゃんに似ている体の大きな強面の店長が、優しそうな笑顔で応対してくださいました。

「緊急事態宣言されてから、まとめ買いするお客さんが多くてさ。どさくさに紛れてカゴヌケされている気がするんだよね」
「どの店も同じでございますよ。セルフレジは、大丈夫そうですか?」
「一度開けてみたんだけど不正が多くてさ。恐くて使えないんだ。ただでさえマスクとかエコバッグに振り回されているのに、セルフレジまで気にしていられないよ」
「そうですよね。ちょっと前の話なんですけど……」

 ここのところ人と話すことが少なく、常にどこか不安な気分でいたので、ちょっとした日常を取り戻せたことがうれしく、ついつい余計におしゃべりした次第です。

 捕捉があった時の連行場所を確認させてもらい、心地よい緊張感を持ちながら現場に出ると、思いのほか客足が悪く暇な時間を過ごすことになりました。

 自然と耳に入るお客さんたちの会話から察するに、近隣のライバル店で朝市を開催しているようで、夕方に向けて客足が伸びる雰囲気です。そのため早めに昼食をいただき、後半の勤務を開始してまもなく、どことなく和泉雅子さんに似た感じのする70代と思しきふくよかな女性が目に止まりました。カートの上下段に設置したカゴの中に、大きめのバッグを2つずつ載せて店内に入ってきたのです。

 店内に多くの荷物を持ち込む人は、それだけ隠し場所が増える上、ホームレスの可能性も考えられます。気になって行動を注視すると、菓子パン売場に直行した老女は、蒸しパンケーキを2つ手にして、カートの上段に置いたバッグの狭間に挟み込むように置きました。

 さらに続けて2つの蒸しパンケーキを手に取り、今度は下段にあるバッグの狭間に挟み込んでいます。わざわざ上下段に分けて商品を隠すように置く意味がわからず、不審に思いながら老女の行動を見守ると、そのまま店の外に出て行ってしまいました。入店から退店するまで、およそ90秒。ただ盗みにきた人の犯行は、いつも素早く、手際の良いものなのです。

「ちょっと待って。お店の者ですけど、パンケーキの代金、お支払いいただけますか」
「え? ああ、そうよね。ごめんなさい」

 店の外に出たところで呼び止めると、さほど悪びれた様子も見せず素直に認めてくれたので、そのまま事務所に連行して処理を進めます。早速に、未精算のものをテーブルに並べてもらい、続けて身分を証明するものがあるか尋ねると、後期高齢者用の医療保険証を提示されました。それによると、この店の近くにある団地に住む老女は、79歳。聞けば、一人暮らしをしているそうで、迎えに来てくれるような人は思いあたらないと話しています。事務員に店長を呼び出してもらい被害を特定すると、計4点、合計で400円ほどになりました。所持金を聞けば、6,000円ほど所持しているので、食うに困っての犯行ではなさそうです。

「お金あるのに、どうして払わなかったの?」
「いや、外にいる鳩が可愛くてね」
「え? 鳩が、どうしたって?」
「うん。おなか空いてそうで、かわいそうだったから」

 蒸しパンケーキを盗んだのは、店の前に集まる鳩に給餌するためだと、悪びれる様子なくニヤニヤと話す老女に、急に顔色を変えた店長が怒気を強めて言います。

「もしかして、いつも鳩に餌やっているの、あんたなのか?」
「うん。毎日とはいかないけどね。2~3日に1回は、やっているかな」
「あんたみたいに餌をまく人がいるから、餌付けされた鳩が、たくさん集まってきて困っているんだよ。フンの掃除、毎朝おれがしているんだぜ。盗まれたパンを餌にされた揚げ句、フンの掃除までさせられてよ。おい、ババア! ちゃんと聞いているのか?」

 低い声で凄まれても動ぜず、それを無視するかのように財布から500円玉を取り出した老女は、それをテーブルに置くと居並ぶ蒸しパンケーキをバッグにねじ込みはじめました。

「おいおい、謝りもしないで、勝手に入れるなよ。もう警察呼ぶから、そこでおとなしくしてな」

 蒸しパンケーキをテーブルに戻させ、きちんと謝罪したほうがいいと進言してみるも、ごめんごめんと口先だけで謝るばかりで話になりません。どうやら店長に怒鳴られたことが気に入らず、無視することに決めたようです。気まずい雰囲気が重苦しく、警察官が到着するまでの間、世間話をして場をつなぎます。

「鳩が、好きなんですか?」
「うん。幼稚園をやっていた頃に、大きな鳩小屋を作って、たくさん飼っていたのよ。だから懐かしくてね」
「幼稚園をやっていた?」
「そう。わたし、夫がやっていた私立幼稚園のあとを継いで園長をしていたの。バカだから騙されて、全部取られちゃったけど」

 話を聞けば、不動産取引に係る詐欺被害に遭ったそうで、そこから団地で一人住まいを始めたとのことでした。同性で年が近いからか、私の問いかけには余計なことも含めて答えてくれるので、気になっていることを質問してみます。

「お荷物たくさんあって大変ですね。お仕事か何かで使うものなんですか?」
「ううん、違うわよ。これは、私の全財産」
「全財産? 持ち歩いていたら大変じゃないですか? おウチには置いとけないんですか?」
「騙されてから、他人が信用できなくなってね。家に置いておくと不安で、いつもこうしているのよ」

 全財産といっても、荷物の状況から察するに衣類がほとんどで、私の感覚からすれば盗まれるようなものではありません。詐欺被害の話が事実なのかはわかりませんが、どこか壊れてしまっているような老女の現況を見れば、なにか大きなことがあったことに違いなさそうです。

 到着した男女の警察官が犯行状況を確認して、老女の犯歴照会をかけた結果、さしたる前科はなかったようで微罪処分で済ませる流れになりました。蒸しパンケーキの代金を精算してもらい、老女を警察官に引き渡すと、嫌味たっぷりな感じで店長が声をかけます。

「もう二度と来るなよ。鳩の餌やりも、絶対ダメだからな」

 返事をすることなく、少し悲しげな微笑を浮かべた老女は、パトカーのトランクに全財産を積まれて警察署に連行されていきました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

変装万引きGメンVS常習妻! 「あんた、なにやってんのよ!」捕まった女が取った驚がく行動とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ新型コロナウイルス感染拡大の予防措置と称して、関東近県では警備や店内販売員(商品の試食や試飲などを勧める人のこと)の出入りを抑制する動きが各商業施設において広がりをみせており、希望通りの稼働日数をいただけないことが増えてきました。度重なる緊急事態宣言の発令により、ほとんどの現場がキャンセルされ、まるで失業してしまったような気分です。体力に自信はあるものの、現在の社会状況や自分の年齢を考えると新たな仕事先を探すことは難しく、わずかな年金を支えに耐え凌ぐほかありません。現役で働けていることだけでもありがたい。そう思いつつ部屋にこもり、衣替えをしながら断捨離をしていると、現場で愛用していた変装セットが入った袋が出てきました。

(わあ、懐かしい)

 袋の中身を取り出してみると、いくつかのメガネや帽子といった定番の変装道具をはじめ、マスク、眼帯、エプロン、割烹着、作業服、飲料メーカーのロゴ入りジャンパーなどが、次々と出てきます。これらを愛用していたのは、かれこれ20年以上も前のことですが、その一つひとつに想い出があり、さまざまな記憶がよみがえってきました。

 今回は、保安員の変装について、お話したいと思います。

 当日の現場は、食品スーパーY。都内ではあるものの、駅からバスで行くしかない住宅街の一角にある小規模チェーンのスーパーマーケットです。小さいながらもレイアウトが悪く、多くの常習者を抱えているお店で、ここ2カ月ほど毎日のように通い詰めた結果、相当数の常習者を捕捉することができました。そのほとんどが地域住民のため、警察を呼ぶことなく商品を買い取らせて、出入禁止の誓約書を差し出させてコトを済ませている状況です。家の近くにある便利な店だから、来ないわけにもいかないのでしょう。その約束を守る人は少なく、1週間もしないうちに素知らぬ顔で再来店してくる人ばかり。長期間にわたって同じ現場に入れば、常習者の把握ができる半面、こちらの顔を常習者に覚えられることにもなるのです。

(あの人、また来てる……)

 この日も、数日前に捕まえた女性が、何食わぬ顔で店内に入ってきました。入店すると、大きく店内を1周して、私の姿を探しているような感じにみえます。一度捕らえた人をあらためて追尾するには、変装するほかありません。早々に化粧室に駆け込んで帽子を被り、眼鏡をかけ、マスクをつけてから売場に戻ります。

(やっぱり、私のことを探しているみたい)

 売場に戻ると、件の女性が、チラチラと周囲を警戒しながら店内を歩いていました。この店には2度と立ち入らない。前回の捕捉時に交わした誓約を破っていることで、周囲を気にしているのなら理解できますが、その挙動は目を離せないほど怪しいレベルです。追尾中、一度すれ違ってしまったものの、顔を見られないよう背を向けたこともあって気付かれた気配はありません。自分の変装に自信を深めて、少し積極的に彼女の行動を見守ると、まもなく着手に至り、いくつかの生鮮食品をバッグに隠しました。安価でかさばる葉物野菜などの精算だけを済ませて、何度も後方を振り返りながら店の外に出た女性に、そっと忍び寄って声をかけます。

「こんにちは」
「キャーッ!」

 おそらくは、極度に緊張していたのでしょう。後方から声をかけると同時に、驚きのあまり悲鳴を上げた彼女は、その場に尻餅をつきました。床にお尻をつけたまま、恐怖の表情を浮かべて、私から逃れるように手で後ずさりしています。

「大丈夫だから、落ち着いて。私のこと、わかりますよね?」

 マスクを取って顔を見せると、しばし呆然とした女は、下唇を噛んで顔を背けました。

「また事務所に来てもらわないといけないんですけど、立てますか?」
「……ごめんなさい」

 この店の事務所は、隣の建物の3階にあります。手を差し延べて立たせて、これ以上ないくらいの重い足取りで歩を進める女の手を引きながら商品搬入口を経てエレベータに乗り込むと、タイミングよく店長も乗り込んできました。

「あれ? なんか見覚えのある人だなあ」
「はい。ちょっと前に連れてきた人が、また……」
「はあ? 出入禁止なのに、また来てやったのかよ。どうしようもねえなあ」

 応接室のベンチに座ってもらい、顔を上げられないでいる女に隠したものを出すよう促すと、いくらや天然まぐろの刺身、ローストビーフ、カマンベールチーズといった高級食材がバッグから出てきました。なにを聞いても顔を背けて答えないので、前回の記録をファイルから引っ張り出して、新たな報告書に転載します。それによれば、店と同じ町内会に所属する女は34歳。前回の犯行は、およそ2週間前のことで、その時にはホタテの刺身や和牛ステーキ肉、それに高級ワインを盗んでいました。被害品から察するに、高級志向の人のようで、その暮らしぶりが気になります。

「なんだ、あんた。いいものばかり盗んで、まったく反省してないってことだな。申し訳ないけど、今日は警察呼ぶよ」
「え? 警察だけは、すみません。あたし、離婚されちゃう!」

 ようやくに顔を上げて、涙ながらに懇願する女に構うことなく、店長は受話器を上げて通報を始めました。居ても立っても居られないといった様子で立ち上がった女は、店長の周りをウロウロして、話しかけるタイミングを窺っているようです。

「万引きです……」

 電話口に向かって店長が話し始めた瞬間、その周りを落ち着きなく歩き回っていた女が、事務所の窓に向かって突然に走り始めました。

「危ない!」

 あろうことか、そのまま窓を飛び越えて転落したので、あわてて外の状況を確認します。すると、地面に横たわり、痛そうに腰を押さえる彼女の姿がありました。どうやらお尻から落ちたようで、うまく起き上がれないようです。ひどく狼狽しながら電話口の警察官に事情を説明する店長に、救急車も呼ぶようお願いしてから、全速力で彼女の許に駆け付けました。

「あんた、なにやってんのよ! あんな高いところから飛び降りたら、死んじゃうわよ!」

 どうやら相当のダメージを負ったらしい女は、声をかけても応じることなく、強く目を閉じたまま呻いています。すると通報を終えたらしい店長が、3階の窓から顔を出して、彼女の状況を尋ねてきました。

「命は、大丈夫そう?」
「はい、いまのところ」

 気がつけば、周囲は10人前後の野次馬に囲まれており、好き勝手にさまざまな臆測を口にしています。近所に住む方なので、なるべく顔を見られないよう女のそばにしゃがんで、励ましの言葉をかけつつ救急車の到着を待ちました。

「あの人、腰椎を骨折していて、しばらくは歩けないって」

 女が病院に搬送された後、店長と一緒に、女に対する加害行為がないことを証明するための実況見分をしていると担当刑事が言いました。

「あの人の旦那さん、すごく厳しい人らしくてさ。万引きしたことを知られるくらいならって、衝動的に飛び降りちゃったみたい」
「逃げるつもりじゃなく、死ぬつもりだったんですか? そんなに旦那さんが恐いなら、万引きなんてしなきゃいいのに」
「そういうストレスが原因なのかもしれないねえ。いずれにせよ、死なれなくてよかった」「ええ、本当に」

 これを最後に、彼女の姿を見かけることはなくなり、その消息は知れません。無事に歩けるようになって、旦那さんと仲良く過ごされていることを願うばかりです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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新人の万引きGメンが、勤務中に万引き! 警察官の前で彼女がひた隠す「見られちゃいけないもの」とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 過日、とても恥ずかしい事件の報道を目にしました。大阪の現役保安員が、勤務経験のある大阪・ミナミの「ドン・キホーテ」で万引きをして逮捕、起訴されていた話です。被告男性は41歳。逮捕事案における被害品は、高級ブランドのバッグを計5点、合計11万円相当とのこと。その手口は、防犯ワイヤーを切断したうえで、狙った商品を店内倉庫に隠し、一旦外に出てから商品搬入口より店内に侵入して商品の回収を図るという悪質極まりないものでした。このほか、ドラッグストアで大量盗難事件(被害合計7万4,000円相当)を起こし、その犯行後に盗んだ商品を買い取り業者に持ち込み換金(およそ6万円)した事案でも立件されています。報道によれば、風俗店に勤める女性にプレゼントするつもりで犯行に及んだと話しているそうで、救いようのない人だと呆れた次第です。

 今回は、過去に私が経験した同僚の不祥事について、お話ししたいと思います。

 かれこれ15年ほど前の話になるでしょうか。休日に家でゆっくりしていると、普段は滅多に電話をかけてこない所属事務所の社長から電話がかかってきました。

「大変なことが起きた。澄江さんが担当しているMさんが、勤務中にいくつかの商品を裏に持ち込んで隠していたらしくてさ。店長に見つかって、警察沙汰になりそうなんだ」
「ええっ? なにかの間違いでしょう?」
「どうやら間違いないみたい。お休みのところ申し訳ないけど、取り急ぎ謝罪に向かうので同行してくれるかな」

 この日、彼女が入っていた現場は、東京都内の駅ビル内に位置するスーパーO。複数路線が乗り入れるターミナル駅と直結している繁盛店です。社長との通話を終えて、すぐに身支度を済ませた私は、いままでのことを回想しながら現場に向かいました。

 Mさんは、当時38歳。まだ入社から1年もたたない新人さんで、青白い肌と長い髪、それにどことなく寂しげな表情が印象的な女性です。この頃、新入社員の指導教育責任者の1人だった私は、彼女に課せられた新任研修のほとんどを担当しました。そのため、月に何回かは、業務上のことを中心に電話で話す関係にあります。話の中で聞いた個人的なことをかいつまんで話せば、離婚をして一人暮らしを始めたことがきっかけで入社されたそうで、研修中には久しぶりの仕事だから慣れるまで不安だと漏らしていました。どちらかといえば、真面目で重いタイプの女性といえるでしょう。彼女と最後に話した時、いつもより饒舌に自分のことを話し、近いうち再婚するかもしれないと声を弾ませていたことを覚えています。

 待ち合わせ場所である店舗の裏口前に到着すると、見たことがないほどに憔悴された社長が、異常なほど蒼い顔をした営業部長と一緒に待っていました。このクライアントが、会社の売り上げの4割を占めていることを思えば、それも無理のないことといえるでしょう。

 防災センターの扉を開くと、店長と駅ビルの警備隊長、それに男女2人の警察官に囲まれたMさんが、盗んだと思しき商品を並べた応接テーブルの横で床に伏して丸まっていました。軽く背中を叩きながら声をかけても、まるで反応しないので、店長を外に連れ出して状況を確認します。

「商品をロッカーに入れていたので声をかけました。本社の指示で警察を呼んで、おまわりさんが所持品を確認したら、ロッカーにあったバッグからも商品が出てきたんですよ。そこまでは普通にしていたんですけど、そのバッグの中にあった化粧ポーチに警察官が手をつけた途端に暴れて、それを取り上げてうずくまっちゃって。もうかれこれ10分くらい、この状況です」
「そうでしたか。誠に申し訳ございません」
「これ以上に、なにか見られちゃいけないものがあるんですかね。おたくの社員さん、大丈夫ですか?」

 被害品は、化粧品や健康食品など計6点、合計で1万2,000円ほど。この店で扱う商品のなかでも、ひと際高額な商品ばかりを盗んでおり、その悪質性は否定できません。それよりも、仲間であるはずである私たちの呼びかけにも応じることなく、ひたすらにうずくまって化粧ポーチを守り続ける理由が気になります。

「Mさん、頼むから、これ以上の迷惑はかけないでくれ。大事なお客様のところで、いいかげんにしてくれよ。私も一緒に謝ってあげるから、頼む」

 怒りに体を震わせながら、極力冷静に声をかける社長でしたが、Mさんは反応しません。業を煮やして、社員みんなで腕を取って立たせようとしても、より強固に身を丸めて抵抗してきます。その様子を黙って見ていた警察官が、嫌気の差した呆れ顔で言いました。

「見ての通り仕方ないので、まずは窃盗の現行犯で逮捕して、詳しく調べようと思います。ちょっと時間かかっちゃいますけど、被害届は出していただけますよね?」
「わかりました。こうなったら、とことんお付き合いします」

 警察に対して全面協力を申し出た店長に、再度深々と頭を下げた社長が言いました。

「この度は、本当に申し訳ございません。何卒、穏便にお願いいたします!」
「穏便に? もう遅いでしょう。本社にも報告しちゃったし」

 素気ない店長の様子に、失望を隠せない社長でしたが、警察官は構うことなく事務的に事を進めていきます。

「○時○分、あなたを窃盗の現行犯で逮捕します」

 警察官2人がかりで引き起こされたMさんは、抵抗空しく後ろ手に手錠をかけられました。深く項垂れているために、髪の毛で顔が隠れて表情は窺えませんが、歯を食いしばって身を捩る姿が病的で、別人のように見えます。自分の教え子といえる後輩社員が、目の前で手錠をかけられる現実は重く、自然と涙があふれ出ました。

「この中に、危ないものが入っていないか確認するから、一緒に見ていてくださいね」

 Mさんが死守していた化粧ポーチを拾い上げた女性警察官が、その中身を彼女の面前で確認すると、火力の強いターボライターのほか、ところどころが焦げているガラスのスポイトのようなものと、カラフルな和紙に包まれた結晶状の粉末が出てきました。

「これは、なにかな? 自分の口で言ってください」
「…………」

 警察官の問いかけに、項垂れたまま顔を背けたMさんは、なに一つ言葉を発さないまま警察署に連行されました。その後の調べで、和紙に包まれた結晶は、覚せい剤と判明。尿検査の結果もクロで、覚せい剤を使用した状態で勤務にあたり、商品を盗んでいた事実が明らかになりました。

 後日、留置場まで面会に行くも拒絶されたので、未払い分の給料を差し入れて、懲戒解雇の通知書は封書で送りつけることにします。すると、しばらくして拘留中のMさんから、返信の手紙が届きました。

 逮捕当日からいままで、合わす顔がなく、きちんとした謝罪もできず、本当に申し訳ありません。

 そんな謝罪の言葉から始まった手紙を読み進めると、付き合っていた彼氏の影響で覚せい剤を常用するようになったそうで、気がつけば夢中になり、自分を見失ってしまったという言い訳が書かれていました。どうやら彼氏はヒモのような人らしく、要求に応えているうちにお金が足りなくなり、現場で商品を盗んでは、ネットで売って換金したことも告白しています。

 その後、何度も契約先に出向いては謝罪をして、ようやくにお許しいただき、単価を下げることで契約解除は免れました。しかし、失った信頼を取り戻すまでの時間は長く、その損失は思いのほか大きかったです。

 好いた男に振り回された結果、仕事と信頼を失い、仲間に迷惑をかけ、獄にまで落ちた彼女にかける言葉はありません。離婚せずにいたら、彼女の人生はどうなっていたことでしょう。男に振り回されて堕ちていく生き方に触れ、彼女の人生は男次第なのだと痛感した次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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YouTubeチャンネル「丸山ゴンザレスの裏社会ジャーニー」

【万引きGメンは見た!】衝撃写真で見る犯人の素顔とその手口

【5000人以上を捕まえた男が語る】万引きの最高被害額とは?

ソープ嬢の万引き犯、ボストンバッグから出てきた大量の○○……女性警察官も同情した身の上とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 昨今、デパートの閉店が各地で相次いでいます。山形県では、以前に山形署交通官の警視が講演帰りに万引きをして捕まったことで話題になった「大沼山形本店」が倒産し、デパートのない県になってしまいました。都心部のデパートも、その流れには逆らえないようで、三越恵比寿店とそごう川口店の閉店が2月28日に閉店。何かの記念日には、必ずデパートに行って、買い物や食事を楽しむ。それがステータスになっていたデパートの全盛期が自分の青春時代と重なっていることから、この状況はとても寂しく、一時代の終焉とともに我が身の老いを痛感している次第です。

 仕事の上でも、デパートでの勤務は少なくありません。あまり知られていないことですが、デパート専門の万引き常習者も存在しており、その被害は少なくないのです。今回は、都心部のデパートで捕まえた女性常習者について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、有名デパートX。都内の大型ターミナル駅に直結する老舗デパートで、地下2階、地上8階建ての建物内に、広大な売場を有する百貨店です。通常であれば、催事やセール時に限って複数の保安員を導入されるクライアントですが、ここのところ数人の常習者による万引き被害が横行しているとのことで、急な依頼を受けました。

 予算の都合上、今回の導入は1カ月のみ、しかも1人勤務ということで、キャリアの長い職員を中心にローテーションを組んで対応します。クライアントの事務所に到着して出勤の連絡を入れると、常習者と思しき女性の人着は特定できているそうで、その写真を事務所で確認してから現場に入るよう指示されました。どことなくフォーリンラブのバービーさんに似ているふくよかな女性担当者に挨拶を済ませて、当該写真を見せてもらうと、とても派手な格好をしている痩せた女性が、ブランド物のボストンバッグを肩にかけて店を出て行く様子が写っています。

「よく見かける人ですか?」
「うん、ここのところ毎日。この人、この辺の同業者の間で有名なおかる(万引き犯の俗称)でね。つい最近、お隣(デパートのこと)で捕まったんですって。それでウチに流れてきているみたい」

 デパートで高額品を狙う常習者は、手口や狙う商品にこだわりがあるのか、同じような行動を繰り返します。おそらくは、過去の成功例が、そうさせるのでしょう。言葉は違うかもしれませんが、その技術レベルは高く、とても上手に盗んでいくのです。その行動を入店から確認するため、毎日来ているという女性担当者の言葉を支えに、なるべく目立たぬよう出入口を見渡せる場所に立ち尽くして女の登場を待ちました。

 店の出入口を見守り続けて数時間。例の女が、写真と変わらぬスタイルで売場に入ってきました。実際に見ると、写真よりも一段と細く見え、何かの病気を抱えているような感じがします。肩にかけられたブランド物のボストンバッグは空に近い状態に見えますが、チャックは大きく開いていて、女のやる気が強く伝わってきました。

 すると、1階の財布売り場に足を止めた女は、男性用の長財布(1万8,000円相当)を3つまとめて手に取ると、それをバッグと体の間に隠し持って、地下の食品売場に降りていきました。にぎわう店内の雑踏に紛れて、ボストンバッグで手を隠しながら値札をちぎり、形状を維持するための厚紙を抜き取っています。除去した厚紙や値札はテナントであるジューススタンドのごみ箱に捨てて、処理を終えた財布をボストンバッグの中に隠すと、上階に向かうエスカレーターに乗り込みました。

 そのまま2階に向かって、有名ブランド店の店頭にディスプレイされたトートバッグ(4万円相当)の前で足を止めた女は、なめるように商品を見てから嫌な目付きで店内の様子を窺い始めました。店内にいる従業員は1人しかおらず、カウンターで書き物に集中しているようで、まるで女の視線に気付いていません。

 まもなくトートバッグの持ち手に手を伸ばした女は、それをボストンバッグで覆い隠して、下りのエスカレーターに乗り込みました。距離を開けるため、吹き抜けの上から女の手元を目で追うと、トートバッグの持ち手に巻かれた値札やタグを指で引きちぎっています。取り外した値札を、入口脇に設置される傘を保護するビニール袋専用のごみ箱に投げ捨てた女が、店外に出たところで声をかけます。

「お客様、お待ちください。お会計、お忘れのようですよ」
「違います」

 なにが違うのかわかりませんが、足を止めずに歩き続けるので、ボストンバッグの持ち手を掴んで少し強めに制止を求めます。

「ちょっと、逃げないで。人を呼びますよ」

 思いのほか体が軽く、強く引きすぎてしまったようで、女は尻餅をついて泣き始めました。路上で泣く女と寄り添う私に、通行人は興味深げな視線を浴びせてきますが、声をかけてくる人は誰もいません。なかなか立ち上がろうとしない女をなだめつつ、事務所に来るよう説得を続けていると、誰かが通報したらしく男性警察官が駆け寄ってきました。

 事情を説明すると、すぐに無線で女性警察官を呼び出し、その到着を待って事務所に向かいます。女性警察官による入念な所持品検査の結果、女のボストンバッグからは私が現認した商品のほか、大量の錠剤が出てきました。女が盗んだ財布を手にした男性警察官が、それを見ながら女に尋ねます。

「この財布、男モノみたいだけど、どうするつもりだったの?」
「付き合っていた男にだまされて……。たくさんお金をとられて捨てられたんです。お店にも借金ができちゃったから、夜の仕事で頑張って払っているんですけど、コロナで暇になっちゃったから全然足りなくて」
「売るつもりだったってこと?」
「はい、すみません。彼と会うには、お店に行くしかなくて、お金が必要だったんです」

 その後、耳に入った警察官と女の会話を整理すると、女はソープランドで働く風俗嬢。付き合っていたという男はホストクラブで働く男のようで、多額の金を貢がされた上に捨てられてしまい、いまは客としてしか会ってもらえないということでした。

「この薬は、なに?」
「……安定剤と眠剤です」
「なんで、こんなにたくさん持ち歩いているの?」
「いまの仕事を始めてから拒食症になっちゃって、夜も眠れないんです。お金もないし、どこかで死ねたら、それを飲もうと思って」

 なにかの麻薬ではないかと勘繰った警察官たちでしたが、錠剤のパッケージに製品名が記されており、それをスマホで検索することで疑いは晴れました。女の話に嘘がないことで同情したのか、女性警察官が慰めるように背中を擦ると、心ここにあらずといった様子で空を見つめていた女の目から涙があふれ出ます。ティッシュを差し出して涙を拭わせると、ずれた袖口から、複数の切り傷がつけられた手首が見えました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

女子高生2人組の正体は「万引き商人」! ホストクラブで遊ぶカネ欲しさに……何食わぬ顔で盗みまくる!!

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、窃盗団による大量万引きが全国で頻発しています。ベトナム人の犯行ばかりがクローズアップされていますが、日本人の組織的窃盗団も多数潜在していて、悪質極まりないやり口で大量の高額商品が盗まれている状況です。正規買い取り店やネットオークションで盗品を処分するには、本人確認が必要となるため、一定の犯罪抑止力を有していると思われます。しかし近頃は、盗品を買い取る専門業者等の出現もあって、その処分は安易になってきたようです。

 商品の買い取り相場は、業者の需要に合わせて変動するようで、オーダーを受けて犯行に及ぶ人まで存在します。こうした人たちは、この道のプロのようなもので、その捕捉は至難です。大量の高額商品を持ち出した3人組の男が、制止を振り切って車に乗り込み急発進させ、駐車場のゲートを吹き飛ばして逃走したこともありました。組織的な犯行は大胆になりがちで、声かけ時に身の危険を感じることが多く、逃走される可能性が高いのです。捕まらなければ、何をしてもいい。そんな理屈を押し通すような犯行を目の当たりにして、怒りに震えたことも数知れません。今回は、換金目的の万引き商人について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、大型ショッピングモールE。まだ開店したばかりのショッピングモールですが、若い子に人気のあるアパレルショップやデザートショップなどが多数入っていることから、すでに地域の人気スポットになっています。今回は、アパレルショップにおける万引きが後を絶たないということで摘発の依頼をいただき、現場に入ることになりました。総合事務所まで挨拶に行くと保安関係の話がわかる方は誰もおらず、受付の女子社員から面倒くさそうに対応されたので、見返してやりたい気持ちで現場に入ります。

 モール内の面積が広すぎるため、被害が多そうな店舗に目星をつけて、そこを中心に巡回することにしました。夕方になり、若い人たちの出入りが目立つようになると、ようやくに強い不審者が目に止まります。2階にある人気セレクトショップで、ある程度重量感のある大きなボストンバッグを肩にかけた10代後半くらいの女性2人組が、お揃いで色違いのショルダーバッグを一つずつ手にして、周囲の様子を窺っていたのです。2人の見た目は、タレントのみちょぱさんを意識したギャル系といった感じで、そこそこの不良感が漂っています。まもなくして、よくあるやり方でタグを除去した2人は、各々のボストンバッグにショルダーバッグを隠しました。

(この子たち、かなりの常習ね。ここは、慎重にいかないと)

 大胆な手口で高額品を狙っているので、相当な常習犯だと察した私は、絶対に姿を見られないところから2人の行動を監視します。すると、次にアクセサリーのコーナーに向かった2人は、あれやこれやと商品を手にとっては戻すという行為を繰り返して、そのどさくさに紛れて商品をボストンバッグに落とし入れました。周囲に店員の姿はあるものの、接客に追われていて、警戒している様子はありません。その後、またしても色違いでお揃いの靴を手に取ると、前回よりも手際よく防犯タグを除去して、それをそれぞれのボストンバッグに隠しました。続いて、お揃いのワンピースも同じようにしてボストンバッグに隠すと、何食わぬ顔でセレクトショップを出ていきます。

 そのまま1階に降りた2人は、化粧品売場に入って、スマホを見ながら商品を探し始めました。それなりに経験のあるコンビなのでしょう。お目当ての化粧品を見つけるたび、目を見合わせてほほ笑みを交わし合い、それを合図に商品を隠匿しています。結局、乳液や化粧水、つけまつげなど、複数の商品をボストンバッグに隠して売場をあとにした2人は、なに一つ買うことなく売場を出ました。目的を果たせてうれしいのか、楽しそうにじゃれ合いながら、出口に向かって歩いていきます。その様が、どこか大袈裟にみえて、自分のやましい気持ちをごまかしているように見えました。

「あなたたち、ちょっと待って。バッグの中に隠した商品のお金、ちゃんと払わないと」

 店の外に出たところで呼び止めると、逃げることなく立ち尽くした2人は、呆然と顔を見合わせています。

「そのバッグに、たくさん入れていたよね? 悪いことだって、わかるでしょ?」
「はい、わかります。ごめんなさい。全部返します」

 項垂れる2人を事務所まで連行して、ボストンバッグに隠した商品を出させると、計24点、合計で9万円相当の商品が出てきました。現認の取れていないコミックやスマホケースなども出てきて、どうやら同じモール内の店舗をハシゴして回っていたようです。

「これは、全部自分たちで使うつもりで?」
「…………(泣)」

 身分確認などを求めても、泣きじゃくるばかりで話になりません。立場上、深く問い詰めることはできないので、モールの施設長を呼び出して判断を仰ぎます。すると、相手をするだけ時間の無駄だと吐き捨てた細身の施設長は、すぐに警察を呼んで出て行きました。どうやら、万引き犯に嫌悪感を持たれている方のようで、全てが事務的に進められる雰囲気です。

「こんなにたくさん、初めてじゃできないよね。あんたたち、いつもやっているでしょう」

 現場に到着した女性刑事が、2人の前に並ぶ盗品群を見て、開口一番に言いました。その問いかけにも答えることなく、ただひたすらに泣き続ける2人でしたが、警察官による所持品検査の結果、同じ高校に通う高校2年生と判明。ボストンバッグの中からは、盗んだ商品と同一の商品名が記されたメモの切れ端も、複数枚出てきました。商品名のほかに、あだ名のような名前も書かれており、その1枚1枚が、まるで違う字体で書かれています。その意味を女性刑事が問い詰めると、ようやくに観念したのか、一人の女の子が言いました。

「友達に欲しいものを聞いてから盗って、安く売っていました」

 どうやら発見されたメモは、注文書の役割を果たしていたようで、商品のパッケージをスマホで確認しながら盗っていたとのことでした。注文書のないものは、自分たちのために盗ったそうで、テーブルに広げられたワンピースのほか、お揃いの靴やショルダーバッグが、それにあたるようです。

「被害者は施設でなく店舗なので、各店の店長に被害申告の意思を確認したい」

 女性刑事の依頼を受けて、出勤時に顔を合わせた女性社員に連絡を頼むと、返事もしないまま店内放送を始めました。どうやら、こういう人のようです。

「買い取れないなら被害届は出しますけど、忙しいので警察署に行くことはできません。全部お任せしているので、保安員さんとやってもらえますか?」 

 被害者は会社。そんな意識が強いのでしょう。自分の店の被害であるのに、まるで感情を見せない店長たちは、全ての処理を私に押し付けて売場に戻ってしまいました。苦労して捕まえたのに、誰にも喜んでもらえないことが空しく、一人で踊るような気持ちになったことは言うまでもないでしょう。

 商品の買い取りが叶えば、警察署に行く必要はありませんが、2人の所持金はわずかで保護者との連絡も取れません。やむなく警察署に行き、事件処理を進めていると、私を担当する初老の男性刑事が言いました。

「あの子たち、『あそこは楽勝だから、行くたびに万引きしていた』って話しているよ。これで稼いだお金で、クラブやホストクラブに行って、遊んでいたんだって」
「あんなに若い子が、ホストクラブに? 私なんか、行ったこともないですけど」
「インスタとかもそうだろうけど、最近の子は、みんなチヤホヤされたいみたいだよね。自分さえよければ、罪を犯すことも厭わないような子が増えている感じがするよ」
「そういえば、あの子たち、すごく楽しそうに盗んでいました。万引きなんて、やろうと思えば簡単にできちゃうから、お店側もさせないように気をつけないと減らないですよね」

 万引きは、回数を重ねるごとに罪悪感は希薄となり、より高額で大量の商品を頻繁に盗むようになります。商店の大型化が進み、犯行も容易くなった結果、そこに巣食う常習者の不当利得は増すばかり。商店の防犯意識を変えなければ、その被害が減ることはないでしょう。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンへの報復はおそろしい! 不良グループ捕まえた2日後……店長が「大変なことが起こってさ」と漏らしたワケ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 過日、ドラッグストアで万引きをして保安員に捕まり、懲役刑を受けて出所した男(35)が、捕捉した保安員の関係先に複数回汚物を送って嫌がらせをしたとして、大阪府迷惑防止条例違反で逮捕されるという事件がありました。捕まったことに対する報復のため、使用済みの靴下やスリッパ、紙屑入りのごみ袋などをダンボールに詰めて、着払いで送りつけていたとのこと。汚水を入れたウォーターサーバー用のタンクを送りつけたこともあったそうで、その発想に驚きつつも、宅配便の配送料金が気になりました。警察の調べに対して被疑者は、ゴミを送ったのではなくプレゼントのつもりだったと供述しているそうで、まるで反省の色はないようです。

 いやがらせ行為は、出所直後から始まったと報道されています。保安員の住所を知り得た背景が気になりますが、それに言及する記事は見当たりませんでした。被害者や逮捕者の住所氏名は、被害届や供述調書、現行犯人逮捕手続き書(乙)などを見れば、複数個所に記載されています。逮捕者である私たちの住所を被疑者が知り得るには、それらの書類を覗き見るほかなく、それ以外の手段は考えられません。

 経験がある方なら、おわかりいただけると思いますが、捜査官は取調べ中に、取調室をたびたび出入りします。慎重な方が担当であれば、隙を見せることなく書類を見えないように隠して退出されますが、なかには気遣うことなく放置して退室してしまう方もおられるので、やろうと思えばできてしまうことは否定できません。長時間にわたり密室で行われるため、そのチャンスは豊富で、タイミングさえあえば簡単に盗み見ることができるといえるでしょう。

 見てはいけない、撮影してはいけないと言われるほど、それに固執してしまう人がいるのも事実です。私自身、検事席に置かれた被疑者の経歴書や身分帳(刑務所で使用される個人台帳)を目にしたとき、どんな内容が書かれているのか非常に気になりました。もちろん、無断で盗み見るようなことはいたしませんが、逮捕者を逆恨みする被疑者の立場であったら、どうでしょう。このような形の情報漏洩から、より凶悪な被害が生じる可能性は捨てきれず、ぜひとも逮捕者の住所を知り得た経緯を明らかにしていただき、再発防止策を講じてもらいたいものです。今回は、私が経験した万引き犯の報復行為について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東の郊外に位置する大型ショッピングセンターH。食品のほか、書籍や衣料品、日用品、コスメドラッグなどまで扱う老舗店舗です。近隣に商店が少ないため、この店のフードコートは異様な活気を見せており、老若男女を問わず、数多くのお客さんが来店される人気スポットになっています。

 ここのところ、そのフードコートが地元高校生を中心に構成される不良グループのたまり場と化してしまい、それに乗じて万引き被害も増えているということで、その摘発を依頼されました。予算の関係上、単独勤務ではありますが、お店の方が全面協力してくださることを約束してくれたため、捕捉時の恐怖は控えめで済みそうです。事務所まで挨拶に出向くと、どことなく近藤正臣さんに似た渋めの店長が、色つきの眼鏡を直しながら言いました。

「売場にいる高校生は、だいたいやっているから、なるべく捕まえてください。あと、フードコートでの迷惑行為を見かけたら、これで呼んでもらえるかな。ちょっと隙をみせると、すぐ調子に乗るから、なかなか大変なんだよね」

 保安専用と書かれた充電器から、PHS端末を外した店長が、それを私に差し出しながら言いました。あまり聞かない依頼を受け、戦々恐々とした気持ちで現場に向かった私は、フードコートの状況から把握することにします。すると、昼前にもかかわらず、フードコート内には多くの高校生がたむろしていました。いくつか勉強しているグループもいますが、そのほとんどがスマホのゲームに興じており、テーブルに伏して寝ているグループまで見受けられます。

 一番ひどいのは、テーブルに足を投げ出して足の爪を切っている者のいるグループで、その足元には、切った爪の破片や飲食物の残骸が散らかっていました。皆一様にワイシャツの襟元を大きく開き、さまざまな色に髪を染めた4人組で、足の爪を切っている白に近い金髪の男がリーダー格の雰囲気を漂わせています。どことなく元TOKIOの山口達也さんに似た体格のいい男で、彼の発する威圧的な雰囲気が、ほかの客を遠ざけているように見えました。マナーやモラルを守らないことで目立ちたいのか、奇声を上げてじゃれ合い、キックボクシングのマネごとまで始めたので、店の外に出てから店長に連絡を入れます。

「また、あいつらか。どうせ言っても聞かないから、売場に出て悪さするまで、目を離さないでもらえますか。従業員にも、注意するよう伝えておくので」

 フードコートの外にある雑貨屋に潜んで、彼らの動向を見守ること90分。ようやくに動き出して、食品売場に向かった彼らは、売場通路の端に見張りを立てる動きを見せました。近づくことができず、かなり離れたところから状況を見守ると、部活用らしい大きなバッグを開いて、チョコレートやポテトチップス、ボトルガムなどの商品を次々に隠していくところを現認。早速、店長に連絡を入れて、現在の状況を報告します。

「やったの、見れたの!? 本当に、間違いない?」
「間違いないですよ。まだやりそうな雰囲気ですけど、一緒に見ますか?」
「いや、間違いないなら、110番しちゃう。あいつら、絶対に暴れるから」

 そのまま注視を続けると、菓子パンとドリンク、それに高価なほうのアイスクリームを同様の方法で隠した彼らは、その足で書店に向かっていきました。十分な現認があるので、深追いすることなく店の外から動向を見守れば、団子状態になって、オートバイと格闘技の雑誌をバッグに隠すところを目撃できました。続いて、怪しくも楽しげな目つきでコミックス売場に向かう彼らを目で追っていると、現場に臨場した刑事から声をかけられます。

「ご苦労様です。あいつらですね?」
「はい」
「やったのは、間違いない?」
「食品売場で、お菓子やアイス、ドリンクを入れて、いまさっき雑誌を入れるところも見ました。これからコミックスをやると思いますよ」

 するとまもなく、予想通り人気コミックスを実行した彼らに、3人の刑事が声をかけました。その場で同行を求められた彼らと、別のパトカーで警察署に向かい、一通りの手続きを済ませて事務所に戻ります。

「今日は、よくやってくれました。発注しておくので、また来てもらえますか?」

 それから、2日後。ご指名をいただいたため、勤務予定を変更して、この店に入ります。事務所に出向くと、挨拶もそこそこに、どこか元気のない様子の店長が言いました。

「こないだは、お疲れさま。昨日のことなんだけどね、ちょっと大変なことが起こってさ……」

 話を聞けば、食品売場に陳列される複数の米袋に穴を開けられる被害に遭われたそうで、夜中まで防犯カメラの検証作業をされたと話しています。

「さっき、ペットボトルのフタが開けられてる被害も発覚してね。いくつか苦情も入ってて、困っちゃうよ」
「防犯カメラには、なにも映っていないんですか?」
「それがさ、ちょっと不鮮明なんだけど、こないだの子たちみたいなんだよね。そろそろ警察も来ると思うから、一緒にいてくれる?」

 その後の調べで、一連の犯行は、彼らによるものだと判明。正面口の扉につけられた鍵穴に瞬間接着剤を注入していた事実も判明し、後日、逮捕される事態となりました。警察に呼ばれた店長が、担当刑事に犯行理由を聞いたところ、前回の犯行後、出入禁止にされたことが許せず、いわゆる報復心から犯行に至ったようだと話していたそうです。

 最終的には、彼らの保護者が弁償金を分担して支払うことで、事態は終結。この日を境に、当該高校の生徒は、この店に出入りすることを学校から禁じられたそうで、荒れていたフードコートに平穏が戻りました。

ドラッグストアで「窃盗団の大量万引き」増加中! 万引きGメン連れ去り事件も発生、死と隣り合わせの現場

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、日本各地のドラッグストアにおいて、ベトナム人窃盗団による大量万引き事件が頻発しています。私たちはもちろん、警察も検挙に勤しんでいますが、彼らの手口は粗暴かつ巧妙で、もれなく捕捉するに至りません。その被害は頻発しており、一度に数十万円相当の商品を持ち出されることも珍しくなく、系列店舗をハシゴする連続窃盗と呼ぶべき事案も目立ちます。1日の被害合計が、100万円を超えることもあり、その悪質な犯行に憤りを感じることも増えました。また彼らは、逃げ足が速いことも特徴で、その捕捉は困難を極めます。共犯による犯行が多く、見張り役の男に威嚇されることもあって、言ってしまえば犯行を抑止することすら難しい状況にあるといえるでしょう。

 最近は、コロナ禍の影響で盗品の輸出が困難になり、大麻の密造販売や家畜窃盗、高級青果農場荒らしにシフトする者が増えたという話も聞きますが、帰国したくても状況が許さず生活苦に陥り、常習万引きに至る者が増えている側面もあります。今回は、私が遭遇したベトナム人による集団万引き事案について、お話ししていきます。

 当日の現場は、北関東の街道沿いに位置するドラッグストアS。コスメドラッグを中心に、処方箋から食品まで、さまざまな商品を取り扱う地域で人気の有名チェーン店です。ここのところ、ベトナム人と思しきアジア系外国人の大量万引き被害が頻発しているとのことで急な依頼をいただき、どことなく鈴木福くんに似ている男性保安員(38)と2人で勤務に入ることになりました。柔道初段がウリの新人さんで、彼と会うのは、この日が初めてのこと。長時間電車に揺られて、ようやく待ち合わせ場所である改札口に到着すると、耳の潰れた体格のいい男性が、おにぎりを食べているのが見えました。

(きっと、あの人だわ)

 そばに寄ると、すぐに気付いてくれたので、簡単に挨拶を済ませて徒歩で現場に向かいます。2人並んで歩けば親子に見えないこともない感じですが、182センチ、105キロという福くんの存在感はやかましいほどで、一緒にいたら仕事にならない気がしてきました。

「体が大きいから、スーパーなんかじゃ目立つでしょう?」
「そうなんですよ。ドラッグストアは、隠れ場所がないから、苦手なんですよね」

 あからさまに姿を見せて万引きを抑止するのは意外に簡単なことですが、逃がしてしまえばほかの店が被害に遭うため、クライアントは常に捕捉を求めてきます。そうした事情から、店内における現認は私1人で行い、福くんは捕捉に専念してもらう作戦を立てました。外国人相手の捕捉は、男性の力が不可欠なので、大船に乗ったような気持ちで現場に入ります。

 客足の少ない店内で、なるべく動かないように身を潜めながら人の出入りを中心に警戒していると、夕方になって若い外国人の男が入ってきました。おそらくは20代前半くらいでしょうか。袋やバッグなどは持っておらず、一見すると一般客に見えますが、女性用の化粧品売場に直行したことで強度の警戒対象と化しました。犯行に至るとすれば、カゴヌケや持ち出しの手口を用いると想定でき、外で仲間が待機している可能性が高まります。

「仲間がいるかもしれないから、よく確認して。確認したら、出口付近で待機ね」

 店外のことは福くんに任せて、1人店内に残って化粧品売場を一巡する男の行動を見守れば、高額な化粧品や避妊具、サプリメントなどの店頭在庫量を確認しているようです。すると、突然に風除室まで引き返した男は、2つのカゴをカートにのせて、再度売場に戻ってきました。犯行に至ることを確信して、店内の状況をメールで福くんに伝えます。

 わずかな時間に、いくつかの商品棚を空にして見せた男は、2つのカゴに商品をあふれさせると、まさに一目散と行った体で、出口に向かって走り出しました。出口を通過する際、防犯ゲートが鳴りましたが、店員さんが反応することはありません。発報に怯むことなく、出口を駆け抜けて外に出た男の跡を追いかけると、駐車場に停まるシルバーのワンボックス車の後部ドアに手を伸ばしているのが見えました。スライドドアを開いて、カゴを車内に放り込んだ男の後方から、福くんが勢いよく掴みかかります。

(柔道初段だっていうし、大丈夫よね)

 そう信じて駆け寄ると、後部座席から仲間の男が飛び出してきて、2人を引き離すべく福くんの手をつねりました。それでも離さないとみるや、間に割って入って、車内に押し込むように犯人の背中を押し始めます。揉み合っているうち、犯人を掴んだ手を離さないでいた福くんも、引きずられるようにして車内に吸い込まれてしまいました。

「ちょっと、待って! 止まりなさい!」

 自分でも驚くほどの大きな声で叫びましたが、止まるはずありません。急発進して、猛スピードで走り去るワンボックス車を追いかけながら、110番通報して車の色やナンバーを警察に伝えた私は、事務所に緊急連絡を入れながら店舗に戻りました。ひどく動揺していたのでしょう。体の震えが収まらず、声を振るわせて状況を説明する私に、店長が言います。

「これは、警察を信じるしかないですね。まずは、犯人の写真を用意して、警察の到着を待ちましょう」

 極めて冷静に対応され、我に返った私は、店長と2人で防犯カメラの映像から逃げた犯人の写真を探し出して抽出。続けて、駐車場に設置された防犯カメラの映像を確認していると、捜査と書かれた腕章をつけた刑事を先頭に、複数の警察官が事務所に入ってきました。抽出したばかりの写真を渡して、探し当てた逃走車の映像を見てもらうと、一通りの状況を確認した刑事が、無線で情報を拡散するよう警察官に指示を出します。

「至急、至急! 警備員連れ去りの件、被疑車両はシルバーのワンボックス、ナンバーは……」

 いままでに経験したことがないほどの不安に襲われ、生きた心地のしないまま事情説明を続けていると、さらわれていた福くんが足を引きずりながら事務所に入ってきました。

「ちょっと、あなた大丈夫? なんで連絡しないのよ」
「車から蹴り落とされちゃいました。どこかでスマホを落としたみたいで、どうしようもなかったんですよ。途中、パトカーにも手を振ってみたんですけど、気付いてもらえなくて」

 話によれば、ワンボックス車内で揉み合った末、走行中の車内から蹴り落とされ、そのまま逃げられてしまったということでした。車内には、3人の外国人が乗っていたそうで、その顔つきからベトナム人に違いないと話しています。一通りの状況確認を終えて、警察官に救急車を手配させた刑事が、福くんに言いました。

「あんた、死ななくてよかったな」

 結局、福くんのスマートフォンを遠隔で検索したところ、犯人の車に放置されていることが判明。それが捜査の端緒となって、この日のうちに犯人は捕まり、盗んだ商品も回収されました。犯人は、3人ともベトナム人。そのうちの2人は、オーバーステイで検挙されることになり、万引き(事後強盗)の調べはしないまま入国管理局に送られます。

 診察の結果、幸いにも足と膝、顔の打撲で済んだ福くんでしたが、この日を最後に退職してしまいました。退職理由を聞けば、命の安売りはしたくないとのことで、何も言い返せずに別れを告げた次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)