万引き犯と勘違いし誤認補足! 「人を泥棒扱いして!!」激怒する客に店長がとった行動とは

 こんにちは、保安員の澄江です。

 12月11日の夜、名古屋市南区にある大型ディスカウントストアの店頭にて、万引きを疑われたと主張する会社員の男(37)が自動ドアなど店内設備を破壊して逮捕されました。犯行時の動画を見ると、店頭の自動ドアを蹴り飛ばし、工具のようなものやのぼり旗の棒を振り回してガラスを割っているところが確認できます。10人ほどの警察官に取り囲まれても臆せずに長尺の棒を振り回して威嚇するなど、取り押さえられるまでのあいだ執拗に暴れており、その狂乱ぶりに呆れた人も多いでしょう。目撃者のインタビューによると、被疑者は「万引き犯みたいに疑いやがって」「テレビで過去にやっていたほかの事件と一緒だ」などと発言していたそうで、お店側にどれほどの落ち度があったのか気になります。

 今後の展開を考えれば、身柄拘束のほか、被害店舗側から損害賠償請求されるのは必至で、実際に損をするのは被疑者だけといえるでしょう。短気は損気。どれほど不条理なことがあっても、無駄に暴れてしまえば、あとで嫌な思いをするのは自分なのです。

 今回は、私の経験した誤認事故について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、都内にある有名繁華街の端に位置する大型ディスカウントストアA。時間を問わず、人通りの絶えない街にある24時間営業のお店です。この日の勤務時間は、午前11時から午後19時まで。ホームレスの人や朝から酒に酔っている人たちの顔を眺めながら、商店街のアーケードを抜けて現場に向かい、出勤の挨拶を済ませて現場に入ります。

 早速に巡回を始めると、店内のレイアウトが複雑すぎて、前半の勤務だけでも3人の見送りがありました。店の中央に大きな棚があるため、売場の半分が死角になっており、近づけば気付かれ、離れすぎれば見失うような状況でうまくいかなかったのです。恐れずに言えば、犯意を誘発するレイアウトといえ、店舗の良識を疑う気持ちにさせられました。

(早く挙げてラクになりたい)

 見送りが続くと、自分の能力に対して疑問が生じてしまい、言い知れぬ焦燥感に襲われます。ましてや犯行の一部始終を現認して、あとは外に出るのを待つばかりという状況にまで至った後に、被疑者の姿を見失い逃げられてしまえばなおさらのこと。まんまと商品を持ち去られて、ひとりテンパってしまった私の前に、自然と次の不審者が現れました。白いフリースを着て、黒のロングスカートをはいた30代と思しきOL風の女性が、手にかけたルイヴィトンのバッグの中に化粧水を隠すところを現認したのです。

 どことなく大沢あかねさんに似た女は、続いて高級保湿クリームを手にすると、まもなくバッグの中にねじ込みました。すぐにバッグのチャックを閉じて、平然とした様子で出口に向かって歩いていきます。

(まかれないようにしないと)

 距離を開けぬよう、なるべく接近して追尾すると、出口手前のコーナーを一度左折して姿を隠した女が、急に踵を返して私のほうに向かって歩いてきました。おそらくは追尾を警戒しての行動だと思われますが、私の正体に気付いた様子はありません。目を合わせぬようやり過ごして、少し距離を取ってから追尾を再開すると、意味なく棚を一周した女は店の外に出ていきました。この上ない早足で距離を詰めて、後方からそっと声をかけます。

「店内保安で……あ、違う!」
「はあ?」
「いえ、すみません。間違えてしまいました。ごめんなさい、なんでもないです」
「保安って、あなた警備員? わたし、何も盗っていませんよ! どうぞ、見てください」

 声をかけた瞬間、女性の持つバッグがルイヴィトンじゃないことに気付いて言葉を飲み込みましたが、保安という言葉が引っかかってしまったようです。怒りの導火線に火が付いたらしい女性は、多くの通行人がいる路上でバッグの中身を投げ出し、気が済むまで確認してくれと怒鳴りました。振り返れば、踵を返された時に誤信したようで、服装と髪型、バッグの色合いが同じだったことから被疑者だと思い込んでしまったのです。ごめんなさいと謝りながら、女性が放り投げたバッグの中身を拾い集めた私は、鬼の形相でにらみつけてくる女性に差し出しました。

「本当にごめんなさい! 人違いをしてしまいました」
「人を泥棒扱いして、冗談じゃないわ。店長を呼びなさいよ!」
「いえ、そんなつもりじゃ……。申し訳ありません」

 事務所に向かい、どことなく嵐・櫻井翔さんに似ている店長に事情を説明すると、一緒に謝ってくれることになりました。出口脇で仁王立ちする女性に、深く丁重にお詫びしながら、店長につなぎます。

「この度は、不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。人間違いしたみたいで、申し訳ございません」
「人間違いって、何よ? この人、保安員でしょう? 私、泥棒扱いされたのよ!?」
「保安員ではございますが、そのようなことは申してないと言っております。なんでも服装が似てらっしゃる方に用事があって、人違いで声をかけてしまったと。どうかお気になさらないでください」

 さわやかかつ明確な店長の対応に、徐々に落ち着きを取り戻した女性が、突然にお許しの言葉を口にされます。

「あら、そうだったの。確かに、違うとしか言われてないかもしれないわ。でも、気をつけてね。私、この店好きだし、いい気持ちはしないから」

 かろうじて場が収まり、立ち去る女性の背中を見送ってから事務所に戻り、改めて店長にお礼を述べて謝罪をします。すると、いままでの笑顔を豹変させた店長が、冷たい口調で言いました。

「今日は、これで帰ってもらっていいですか。料金は、請求通りに払いますから」

 事の顛末を会社に報告して再度謝罪に参りましたが、あっという間に契約を切られてしまい、お許しいただけないまま現在に至ります。さすがに代金の請求は致しませんでしたが、自分の状態が招いた小さなミスが大きなことになってしまい、この世から消えてしまいたくなるほど辛い思いをしました。この時に味わった屈辱は、今も忘れていません。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
『伊東ゆうの万引きファイル』https://ufile.me dy.jp/

ベテラン万引きGメンが負傷! 人気芸人似の凶悪犯と命がけの対決【歳末警戒SP】

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、東京都八王子市中野町のスーパーマーケット「スーパーアルプス甲の原店」で、50代の保安員が、声をかけた万引き犯に果物ナイフのようなもので胸を刺されるという衝撃的な事件が発生しました。

 刺された保安員は、凶器となったナイフを胸に刺したまま搬送されたそうで、一命をとりとめたものの重傷を負っています。犯人は、精神疾患歴のある50代の男性。居合わせた通行人に取り押さえられたあと、駆けつけた警察官たちに羽交い絞めにされる形で身柄を確保されました。

 直接の逮捕容疑は殺人未遂ですが、調べに対して男は「刺したことに間違いないが、殺すつもりはなかった」と供述しており、殺意を否定しているとのこと。人の胸にナイフを突き刺しておきながら、殺意を否認する心理は不明ですが、刑事責任能力を調べられているということで今後の展開が気になります。

 つい先日も、2017年7月に神戸市北区で発生した5人殺傷事件の被告が、2回の鑑定留置を経て起訴されたにもかかわらず、裁判員裁判で“犯行時は心神喪失状態であった”と認定され、求刑死刑のところ無罪判決となりました。被害者側からすれば、納得できるものではないと容易に想像でき、このような判断に疑問を抱いた次第です。

 今回は、8年ほど前の年末に発生した私自身の受傷事故について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、大型ショッピングセンターS。関東近県の駅前に位置する店舗で、8階建てのビル一棟、すべてが売場になっている大型店舗です。

 ここ数年、月に10日ほど入っている現場で、相当数の捕捉をこなしてきました。土地柄なのか、高齢の常習者が目立ち、高価な酒や化粧品などを狙う換金目的の被疑者も散見されます。前回の勤務では、スポーツドリンクや機能性食品を盗んで捕まった被疑者の所持品から覚せい剤が発見されるという事案も発生しており、どうしても粗暴な雰囲気を感じてしまう現場といえるでしょう。

 万引きだけでなく、内部不正(従業員や出入り業者などによる内引き行為)も頻発していることから、出勤のあいさつは店長に直電するよう指示されています。事務所まであいさつに伺えば、保安員導入を周知させることになりかねず、隠密な入店を求められることもあるのです。この日の勤務は、午前12時から午後8時まで。

 店の正面口から店長に電話をかけて、どことなく木下富美子元都議に似ている30代の女性店長に出勤のあいさつをしてから勤務を始めました。

「おはようございます。これから入りますが、なにか注意することはございますか?」
「通常通りでお願いします。年末なので、充分に気をつけてくださいね」

 急に忙しくなるから面倒なのだと、保安員の導入を毛嫌いする店長もおられるなか、優しく対応していただき気分よく現場に入ります。

 食品売場は、年末年始の買い出しに来られたお客様であふれており、人ごみに紛れながら不審者探索に没頭するも、特に成果のないまま業務終盤を迎えることとなりました。外もすっかり暗くなってしまい、少し息を抜くべく入口脇のベンチに腰をかけて入店していく人たちを眺めていると、一瞬で目を奪われるほどの不審者を見つけます。

 どことなくEXITのりんたろー。さんに似ている20代後半くらいに見える体格のいい男性が、左肩にかけたリュックの開口部を全開にしたままの状態で店の中に入っていったのです。

 見逃せない気持ちになって追尾すれば、酒売場に直行した男性は、ワインやシャンパンが並ぶ棚の前で足を止めます。偏見的な見方ではございますが、発泡酒や缶チューハイといったお酒が似合う男性で、とても高級酒を嗜む人には見えません。売場にそぐわぬ男性の雰囲気に目を引き付けられていると、化粧箱に入ったシャンパンを次々と手に取り、抱えるようにして箱を重ねていきました。

 最終的に、合計4本のシャンパンを抱えて売場を離れた男は、人気のない通路を探すように店内を歩いていきます。

(そこで、入れるのね)

 ペット用品売場の通路にある太い柱の脇で足を止め、抱えるシャンパンを一本ずつ優しく床に置いた男は、リュックも降ろして、その場にしゃがんで商品を隠しました。来た時とは違って、しっかりと両肩を通してリュックを背負い、足早に立ち去っていきます。きっちりと詰めたために楕円形のリュックが真四角に変形してしまい、とても不自然な状態にみえますが、気に留める人は私以外に誰もいません。精算する素振りすら見せないまま、いわば堂々と店の外に出た男の背後から近づいた私は、腰元に垂れるショルダーハーネスのストラップを掴むと同時に声をかけました。

「あの、お客様……」

 声をかけると同時に腰を捻って、背負うリュックを私にぶつけてきた男は、その場から逃走を図りました。リュックのハーネスから手を離さずにいたため、ふたり一緒に転倒してしまい、自然と男の下敷きにされて強く胸部を圧迫されます。自分の正体がバレることはもちろん、ヘタに巻き込んでケガをさせることもあるので、通行人に助けを求めることは避けたいところですが、あまりの恐怖に悲鳴を上げてしまいました。

「誰か!」

 助けを求めると同時に、慌てて立ち上がった男が逃げようとするので、リュックを掴んで抵抗すると、その手を汚いスニーカーで踏みつけられます。こらえきれずに手を離したところ、リュックを奪って走り出しましたが、たまたま近くにいた学生3人組が取り押さえてくれました。

 それから間もなく、駅前交番から警察官も駆けつけてくれ、ようやくに事態は収拾。開口一番、警察官に証拠保全を頼むと、リュックの中から4本のシャンパンが出てきました。被害品は、モエ・エ・シャンドンのロゼアンペリアルとネクターアンペリアルが2本ずつの計4点、合計で2万4,000円(税込)ほど。そのうち2本は、箱が凹んでしまい、もはや売り物にはならない状態に見えます。

 息を吸うたびに胸が痛み、どうにも息苦しいので、警察官の言葉に甘えて救急車の手配をしてもらいました。その一方、否応なくパトカーに乗せられた犯人は、車内で現行犯逮捕となり、まもなく警察署に連行されていきます。

「大事に至らなくてよかった。本社に報告しないといけないので、診断書とあわせて事故報告書を提出してくださいね。年末なので、なるべく早めにお願いします」

 警察官に呼ばれて現場に来た店長は、被害状況を把握すると、事務的な口調で言いました。このような受傷事故が発生した場合、クライアントに謝罪をしたうえで事故報告書を提出することになり、再発防止策の報告も求められます。店長からすれば、余計な仕事が増えたにすぎず、おそらく内心では面倒に思っているのでしょう。保安員の仕事は警備業に属しているため、無事故で1日を過ごすことが一番重要で、自分に落ち度がなくとも騒ぎを起こせば嫌がられるのです。

(頑張っているつもりなんだけど……)

 野次馬の視線を浴びながら、少し嫌な気分で救急車に乗り込み、車内のストレッチャーに横たわると、胸に激痛が走りました。診断の結果は、肋骨骨折。2か所骨折しており、全治2か月の重傷です。

 湿布を貼り、コルセットを装着して、痛み止めを処方してもらってから警察署に向かい、逮捕手続きを済ませます。犯人の男は、32歳。金がなく、換金目的で盗んだといい、執行猶予中の身であることから怖くなって暴れてしまったと話しているそうです。

「ご両親とは連絡ついたんだけど、“もう関わりたくないから好きにしてくれ”って拒絶されてね。あんた、これはやられ損になっちゃうかもなあ。治療費は、会社から出るの?」

 幸いにも、この時は会社が気を使ってくださり、いくらかの治療費と休業補償が支給されました。はっきりいえば、通院費などを含めれば赤字で、いくらかの損失が生じていることは否定できません。

 その後の裁判で、被疑者は前刑と合わせて3年6月の実刑判決となりましたが、商品代金や治療費の支払いはなされず、謝罪の言葉すらありませんでした。その事実は求刑に反映され、通常よりは重い判決が下されたと、検事に言われたことを覚えています。

 保安員に対する暴行や報復行為は、罪を重くするばかりで、得られるものは何もありません。暴れてしまったがゆえに、罰金や賠償金は高額となり、素直に応じていれば執行猶予を得られたところ、実刑とされるケースもありました。もし万引きをしてしまい声をかけられるようなことがあったら、素直に従うことを進言しておきます。

 もちろん、万引きしないのが一番であることは、言うまでもないでしょう。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

逃走万引き犯が捕まった! 「しっかり思い出して」検察庁でGメンが体験したイヤ~な話

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、人手不足とコストカットによる人員削減の両立を図るため、接客支援や自動精算、認証装置などさまざまな機器が開発されています。新しいシステムが導入されると、それを突破して盗み出すことに喜びを得るようなタイプの挑戦者的万引き常習者が必ず現れることも不思議で、その盲点を突くような犯行を目にする機会も増えてきました。ゲーム感覚なのか、楽しそうに犯行を繰り返す被疑者が多く、その人間性を疑うばかりです。

 先日、会員登録された客が使用できる自動精算機能付きの買い物カートを導入する店舗で、そのシステムを悪用する手口を用いた常習者の検挙報道がありました。

 その被害は、食料品ばかり計60点、合計で1万1千円相当。被疑者は20歳の女性で、頻繁に来店しては、そのたびに多量の食品を盗み出していたそうです。その行為を見咎められて、お店側から警告を受けたこともあったそうですが、彼女が犯行を止めることはありませんでした。同店のシステムには、多数の余罪記録も残されており、蓄積された盗難被害は140万円以上に上っているとのこと。

 被疑者の家族らが、これまでに盗み出した分すべての損害賠償請求に応じる姿勢をみせたことで和解に向けた協議がなされているようですが、店員に注意されても、なお、万引きを頻繁に繰り返した被疑者の心理は理解できるものではありません。被害状況から察するに、被疑者本人の万引き癖(あえて病気とは言いません)は深刻なものに違いなく、再犯抑止に向けた長い戦いが始まったといえるでしょう。成人した娘の尻拭いに奔走する両親の気持ちを思えば、これを最後にしてほしいと願うほかなく、見捨てぬ親の愛情に感心した次第です。

 防犯カメラの性能向上や設置台数の増加により、特定の万引き常習者による被害を特定できるようになったのは大きな進化で、映像をもとに被害申告をして被疑者の特定に至るケースも増えています。半年ほど前、化粧品やサプリメントなど大量の高額商品を盗んだ中年女に車で逃走されたことがありましたが、残された証拠から特定に至り、つい先日、逮捕に至りました。

 今回は、逃走した万引き犯の後日逮捕について、お話ししたいと思います。

 先日、自宅でゆっくりしていると、事務所から電話がかかってきました。声かけ時に逃走して、後日逮捕された女が犯行を頑なに否認しているため、現認者である私の話を直接聞きたいと、担当検事から呼び出しがあったというのです。早速に折り返しの連絡を入れると、なるべく早く来てくれと頼まれ、次の休みの日に出頭することになりました。

 検事調べ当日。検察庁の受付で約束の時間と担当検事の名前を伝え、所持品を含めたボディチェックを受けると、上階の待合室に通されました。待機している間、手錠と腰縄をつけられた人が数人、見張りの官を従えて両脇の廊下を通過していきます。

 そのうち一人の男の顔に見覚えがあり、誰か思い出せないまま待ち時間を潰していると、顔色の悪い痩せた事務官に呼ばれました。縦長の部屋に3人くらいの検事が詰めており、ついたての向こうにある隣の席では、先ほど見かけた見覚えのある男が取り調べを受けています。後方で待機する官は、腰縄の先端を手に揃って居眠りしておられ、そこだけ見れば休憩室の様相です。

「お忙しいところ、すみません。交通費と日当は出るので、少しの間ご協力ください」

 ちなみに、この日の日当は5,000円ほど。受け取りに必要な書類を書き終えると、早速本題に入り、すぐに被疑者の写真を見せられました。手錠をはめ、腰縄をつけられた30歳くらいに見える太目の女の全身写真で、寝起きを襲われたように見える不機嫌な表情が鼻につきます。

「この女、見覚えありますか」
「いや、ちょっとわからないですね」
「では、こちらの写真を見てもらえますか」

 次に差し出された写真は、女が商品をバッグに隠している瞬間を捉えた店内の防犯カメラ映像を接写したもので、写真を見た瞬間、あの日の記憶が蘇ってきました。犯行時には、帽子をかぶりマスクを着けていたため、女の素顔に見覚えがなかったのです。

 もちろん覚えていると伝えると、防犯カメラ映像の解析から割り出した女の行動が秒単位で記載された写真付きの調査書を示され、それを見ていた私の位置や時間などを詳細に聴取されました。

 その時に出した被害届の内容に沿って話をしますが、正直なところ細かいところまで完ぺきに記憶しているわけではなく、かといって適当な説明をするわけにもいきません。

「おわかりだと思いますけど、人を逮捕するということは、大変重いことです。映像と違うので、もうちょっとしっかり思い出してもらえますか」

 見ていた位置を間違えて話してしまい、あからさまに嫌な顔をされ、ついには嫌味まで言われる始末です。言葉に詰まるたび、検事がイラついているように思えて、いつしか自分が悪いことをして捕まったような気分になりました。それに合わせて、隣の席から振り込め詐欺の出し子を調べる会話内容が漏れ聞こえてきて、その被害者が80代の女性であると耳にしたため怒りまでこみ上げてきます。

「今日は、これで結構です。状況次第で出廷いただくことになるかもしれません。その時は、よろしくお願いいたします」

 このまま被疑者が否認を貫けば、証人として出廷して、彼女の犯罪行為を証言しなければなりません。それまで記憶がしっかりしていればいいのですが、日常的に犯罪の現場を目撃していると、みな同じようなことをするので記憶が混同してしまうのです。無論、加齢による記憶の衰えも否定できません。

(きっと、なんとかなるでしょう)

 身支度を整えて席を立つと、私の肩くらいまでしかない衝立の向こうにいる男と、不意に目が合いました。すぐに目を逸らされましたが、その瞬間に男の正体を思い出して、急に鼓動が激しくなります。数年前まで、同じ事務所に所属していた元同僚だったのです。

「おばあちゃん、こんなことしていたら、みんな心配するよ」

 一緒に勤務した時、捕捉した老女を諭す彼の言葉を思い出しました。同じ口で老女を騙し、金を取っていたとすれば、いままでの善行もふいになることでしょう。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「子どももいるのでお願いです。助けてください!」示談金を押しつける万引き主婦の恐るべき執念

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ようやくに緊急事態宣言が解除され、段々と街に活気が戻ってきました。私たちの現場である商店においても、明らかに客足が伸びており、あたり前だった日常を取り戻せる気配を感じています。油断ならない状況は続いていますが、マスク着用やアルコール消毒など、わずらわしいことをする必要のない日々が一日も早く訪れることを願ってやみません。

 緊急事態宣言下における自粛生活の影響によって、生活環境が崩壊してしまった方々も多数おられるようで、失業され生活苦に陥られた人による万引きは絶えず発生しています。たとえ資産や蓄えがあっても、この先が不安だからお金を使いたくないのだと、歪んだ節約心から万引き常習者に成り下がる高齢者も相変わらず目立つところで、まるで反省のない態度に腹が立つことも増えました。その一方、和解成立を目指して、被害店舗に日参する被疑者もみられます。

 先日、地方の温泉施設で高級羊羹を万引きする様子をテレビなどで放送されたカップルが、被害店舗に出向いて謝罪をしたうえで代金を支払い、店の許しを得られたと報道されていました。被害者が温泉施設であることから、万引き犯の扱いに慣れていなかったのでしょう。一般の方は、万引きをして見つかっても謝ってお金を払えば許されると思われるかもしれませんが、このような対応は稀なことといえます。許しを得られるどころか、映像証拠を基に被害申告が済んでいるケースも考えられ、現場に戻った時点で警察を呼ばれることさえあるのです。今回は、たまにみられる万引き犯の謝罪について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、都内の街道沿いに位置する食品専門スーパーD。倉庫と見紛う造りの大型店舗で、精肉や鮮魚を中心に取り扱う人気店です。ここ数年、毎週のように通っている馴染み深い現場で、これまで多くの万引き者に声をかけてきました。一日いれば、一人は必ず挙がる。そんなレベルにあるお店といえるでしょう。バックヤードから事務所に向かうと、顔なじみである白鵬関(現・間垣親方)に似た体の大きな店長が出迎えてくれたので、軽く挨拶を済ませて近況を伺います。

「最近、また増えてきている感じでね。先週も、寿司を盗った女がいたから自分で捕まえて、被害届を出したんだ」
「大変でしたね。時間かかったでしょう」
「何回か捕まったことがある人らしくてさ。いつもよりしっかりした調書を作ることになって、5時間くらいかかったよ。それから毎日、示談してくれって謝りに来られてね。本部から『謝罪は受けるな』って言われているからお断りしているんだけど、ちょっとしつこくて困ってるんだ」

 基本(基本送致のこと)で処理されたということは、短期間の内に犯行を繰り返したか、複数の犯歴を有するに違いありません。日参してまで謝罪の受け入れを求めているところから察するに、保護観察中や執行猶予中、もしくは保釈中の身である可能性まで考えられます。

「今日も来ますかね。どんな人ですか?」
「32歳の主婦。もし来たら相手してもらっていいかな? 今日、店長会議があって、そろそろ出ないといけなくてさ」
「お相手するのは構わないですけど、何をお話したらいいのか……」
「聞くだけ聞いてやってよ。俺にもどうにもできない話だからさ」

 この日の勤務は、開店時刻である午前10時から18時まで。店内の温度設定が低いため、寒さ対策をしっかりした上で現場に入りました。売場を一回りしてみれば、低い棚が多く万引きしにくい感じがしますが、店の一角にある乾物コーナー周辺は完全な死角となっています。

(やる人は、ここで隠す)

 これまでの経験から確信に至り、しっかりと視界を確保してから、店内の巡回を始めました。

 開店から数分が経過したところで、40代くらいにみえる化粧気のない痩せた女性が、菓子折りが入っているであろう紙袋を持って店内に入ってきました。商品に目をやることなく、何かを探すように店内を歩き回るので気にしていると、バックヤードから出てきた店長をみつけて駆け寄っていきます。

(あの人か。やっぱり来たのね)

 あからさまに嫌な顔をして周囲を見回す店長と目が合い、手招かれるままそばに行くと、苦悶の表情を浮かべた女性が店長の袖をつかんですがりついていました。

「すみません。これから会議なんで、この人とお話してもらっていいですかね。全部話してあるから」

 ひどく冷たい目で女性を振り切り、その場を離れた店長は、私に目くばせをしながら立ち去っていきます。ぼちぼちとお客さんも入ってきたので、バックヤードの応接室に女性を案内して、二人きりで話すことにしました。期待を持たせても酷なので、開口一番、単刀直入に断りを入れます。

「ごめんなさい。お話は伺っているんですけど、本部の意向があって、謝罪はお断りしているんですよ」
「それは、店長さんから聞きました。でも、私、刑務所に行くことになっちゃうかもしれなくて」
「でも、そうなることわかって、やったことですよね。そんなことを言われても困ります」

 そう突き放すと、無表情のまま泣き始めた女性が、小さな声で言いました。

「もちろんわかっていたんですけど、その時には忘れちゃうんです。私、そういう病気なんです!」

 どんな病気か気になりましたが、あえて尋ねることなく沈黙していると、すすり泣いていた女性が紙袋から菓子箱とお金が入っているらしい封筒を取り出しました。それをテーブルの上に重ね置くと、前方にスライドさせて私に差し向けてきます。

「お願いします! これを受け取っていただき、受領のサインだけください。もう二度と来ませんから。子どももいるのでお願いです。助けてください!」
「お気持ちはわかりますけど、私には、そんな権限ないんです。どうかお引き取りください」
「どうしてもダメですか?」
「ごめんなさい。個人的には助けてあげたいけど、立場もあるから勝手なことはできないの」

 自分が裁かれる公判に備えて、裁判所などに提出するための示談書や宥恕文(ゆうじょぶん、被害者が加害者の行為を許すことを記した文章)を目当てに、謝罪を繰り返す人は初めてではありません。刑の軽減を目指して、こうした行動をとる人もいるのです。

 弁護士や通院されている病院の先生に指示されている場合が多く、被疑者を病気に仕立てるような側面が垣間見えることもあって、その活動内容に疑問を覚えるケースもありました。仮に病気の影響で盗んだのだとしても、その真贋を判定できる術はなく、司法の判断に委ねるほかありません。送検後の和解は、検察官の忌み嫌うところでもあり、そう簡単にはできないのです。

「そうですか、わかりました」

 しばし沈黙した後、そっとつぶやいた女性は、テーブルに出した封筒と菓子折りを紙袋に戻すと、深々と頭を下げて応接室を後にしました。本音を言えば、助けてあげたい。仕方のないことではありますが、ひどい意地悪をしてしまったような気持ちになってしまい調子が上がらず、この日は捕捉のないまま一日を終えました。

 およそ2週間後。くだんの店に仕事で入ると、あの時以来話せていなかった店長が、あいさつに出向いた私の姿を認めるや駆け寄ってこられました。

「この前は、ごめんね。ありがとうございました」
「いえ、大丈夫です。その後、いかがですか」
「あれから来てないんだけど、この前、お店に書留が届いてね。中にお金が入っていてさ。手紙もついていて読んでみたら、あの人からで、これで許してくれって書いてあるんだよ」

 現金書留のため住所氏名が封筒の表面に記入してあり、自分がいれば受け取っていなかったと話していますが、従業員が留守中に受け取ってしまったそうです。

 おそらくは弁護士や専門医師による助言があったのでしょう。謝罪は拒否されたが示談金は受け取ってもらえたと公判で情状酌量を求めるために、示談金を押し付けるような手法を使われることもあるのです。本部に報告したところ、返すのにも経費がかかると言われ、そのまま受け入れることになったと話していました。

 その後の彼女が、どのような判決を受けたかわかりませんが、子どもさんと平穏に暮らせていることを願うばかりです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最先端AIの目は万引き犯を見つけられるのか? ベテランGメンとの対決の結果はいかに――

 こんにちは、保安員の澄江です。

 昨今、どこのお店に入っても万引き被害が増えたと実感しておられるようで、いかに防止するかということに頭を悩ませています。捕まえることのリスクを鑑みて、見て見ぬふりをする商店も散見され、もはや泥棒天国といっても過言ではない状況にある店もあるほどです。そうした状況に目をつけた防犯機器会社の一部は、AIによる不審者検知システムなどを激しく売り込み、多くのお店でモニター設置をするなど販路拡大に努めておられます。今回は、動作認証機器をモニター使用している最中の現場で過ごした一日について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東近県の街道沿いに位置する大型総合スーパーK。食品を中心に、衣類や日用品、玩具、ペット用品まで、幅広い品目を扱う巨大店舗です。上階には子ども服専門店、隣には大型ホームセンターが設置されているため、敷地内に広大な駐車場を有しており、休日には周辺が渋滞するほどの人気スポットとなるほどです。裏にある総合事務所まで出勤の挨拶に伺うと、どことなくかまいたちの濱家さんに似ている40代前半と思しき店長が私に気付かれ、スマホを片手に事務所から出てこられました。

「お久しぶり。最近、他店で内部不正があったから、保安を入れていること隠したいんだ。ちょっと外に行きましょう」

 建物から出て、搬入口の脇にある物陰で、あらためて挨拶を交わします。

「今日一日、よろしくお願いいたします。最近、いかがですか?」
「大量盗難は3カ月くらい発生していないけど、アルバイトさんの内部不正があったり、ちょこちょこは(被害が)あると思うよ。それと今、この機械をモニター設置していてさ。米と酒、それと化粧品売場に仕掛けてあるんだ。ピーピー鳴るから、使ってみて」
「顔認証ですか」
「ううん、これは万引きとか不審な動きにAIが反応するやつ。初日は気にして使ってみたけど、どうかなって感じでさ。Gメンさんの感想も聞いてみたくて」

 20年以上前、同じような防犯機器を導入した大型書店で実証を兼ねた勤務をした経験はありますが、その結果は芳しくないものでした。

 発報して駆けつけ、対象者の行動を見守ることを繰り返すも、不審点がない人ばかりで見守る必要性が感じられないのです。その当時のモノは、首が動いたり、しゃがんだりする動作などに反応していただけのようで、とても不審者検知を謳えるような代物とは思えませんでした。

 近頃の現場において、顔認証システムの端末を持たされることは増えてきましたが、AIによる不審者検知の端末を持たされるのは初めてのこと。この20年ほどのあいだに、どれだけ技術が進歩したのか確認できる機会を頂き、新しいおもちゃを得た子どものような気持ちで現場に入ります。

 この日の勤務は、9時から17時まで。

 平日のため店内は閑散としていますが、客足は少ないながらも絶えることなく、気を抜ける状況にまで至りません。すると間もなく、先ほど渡されたスマートフォンにメールが届きました。すぐに開封すると、米売場にいる女性の姿が映る画像が表示されたので、早足で駆けつけて状況を確認します。

 そこには、下段の棚に陳列される10キロの米を、しゃがんで選ぶ老女の姿がありました。そのまま見守ると、少し苦戦しながら米をカートの下段に載せた老女は、レジに直行して支払いを済ませています。

(昔と変わらず、しゃがんだことに反応したのかしら……)

 気を取り直し、巡回を再開してまもなく、今度は化粧品売場に写る中年女性の写真がメールで送られてきました。すぐそばにいたので迂回してみると、当該女性は乳液や化粧水のテスターを試用しており、しばらく悩まれた後、しっかりとお買い上げになられて退店されます。

 その後も、たびたびメールが届きましたが、一人ひとり確認しても万引き行為に至るような不審者ではありませんでした。不審者検知システムは発展途上の段階にあるようで、お客さんが売場にいることを従業員に知らせて駆けつけるような接客支援には向いているかもしれませんが、売場従業員数が不足しがちな商店における有効利用は難しそうです。

(人が来るたびに鳴らされても、ペースが乱されるだけよね)

 もうメールは無視することにして、いつも通りに巡回すると、しばらくして濃い化粧を施した40代と思しき痩せた女性が目に止まりました。

 カゴの中にある高級洋菓子や健康ドリンク、それに蜂蜜などといった商品を、売場に設置された小分け用のポリ袋に入れているのが気になったのです。

 そのまま追尾すれば、店内で頒布されるチラシを数枚手にした女性は、それも駆使して手に取る商品を隠していきました。殺気溢れるような目で、カゴの中に何度も手を入れ、いわゆる精算偽装を済ませた女が、レジに寄ることなく店の外に出たところで声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。カゴにある商品、ご精算していただけますか」
「ああ、はい」
「お声かけしちゃったので、事務所までお願いできますか」
「わかりました」

 感情をみせることなく、無表情のまま同行に応じてくれていますが、受け答えのリズムがおかしく、どこか病的なものを感じました。いきなり体調が悪くなられても困るので、状況を探るべく、事務所までの道中に努めて優しく声をかけます。

「今日は、どうしたんですか?」
「私、病気なんだと思います」
「体調は、大丈夫ですか? 何かあったら言ってくださいね。お病気のことは、店長さんにもお伝えしますから」

 骨の太さしか感じられないほど細い手足をみれば、病名を尋ねるまでもありません。カートを押しながら、なるべく目立たないように事務所まで誘導して、未精算の商品をデスク上に並べさせます。

 被害は、計6点、合計で3,000円ほどになりますが、お金は持っているというので商品の買い取りはできそうです。続けて身分確認をお願いすると、ここから車で30分以上かかる町にひとりで住んでいると話した女は、45歳。現在は無職で、生活保護の受給を検討していると話しました。店長を呼び出し、知り得た状況を報告した上で、事後の判断を仰ぎます。

「社内規則もあるし、病気だからって通報しないわけにはいかないですよ」

 結局、警察に引き渡された女は、商品代金の支払いと出入禁止の約束をさせられたうえで微罪処分とされ、その日のうちに帰宅を許されました。

「もしかして、あの機械で捕まえたの?」
「いえ、いつも通りにやっただけです。たくさんメールきましたけど、ちょっと違いましたね」
「やっぱり。さっきの人は、全然引っかかっていないのかな」

 実際に捕まった人のことを、AIが検知できていたかどうか店長が気にするので、端末のメールを一緒に確認してみたところ、50件を超える通知の中に彼女の姿はありませんでした。万引きする人を見極め、捕まえるのは私たちの仕事で、機械が解決してくれることはないのです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「お父さん、助けて!」顔認証システムで捕まった万引き老女を警察が逮捕しない理由とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、JR東日本が顔認証カメラに刑務所から出た出所者と仮釈放者の一部を情報登録して、駅構内などで検知する防犯対策を講じていることが明らかになりました。必要に応じて職務質問や所持品検査を行うとしており、刑期を終えて出所したにもかかわらず、出所者の行動を監視、制限をするような状況に批判の声が出ています。報道によると、検知の対象は、過去にJR東日本の駅構内などで重大事件を起こして服役した者や指名手配中の容疑者のほか、駅構内を徘徊するなどの行動不審者とのこと。主要な駅や変電所に設置される8,350台(稼働台数は非公表)に及ぶネットワーク化されたカメラで情報照合され、データが一致すれば警備員などが目視で確認した後、警察に通報し、必要に応じて手荷物検査をする流れになっています。

 JRの駅構内で重大犯罪を起こした出所者については、加害者の処遇や出所を被害者に知らせる「被害者等通知制度」により情報提供を受けており、事件当時の報道に基づいて氏名と罪名を含めた形で報道された顔写真データを登録。痴漢や窃盗などの加害者は対象外で、登録者はいないとされていますが、運用の実態はセキュリティー上の理由で秘匿されているのでわかりません。

 東京五輪中のテロ対策を理由に顔認証システムの導入を発表したJR東日本は、その設置をHPなどで公表しています。しかし、商店やアミューズメント施設などにおいては、設置していること自体を秘匿しながら運用しているところも珍しくなく、その運用実態に疑問を感じることも少なくありません。一度顔認証機器に登録されてしまえば、たとえ声をかけられなくても、いつでも対応できる措置をとられることに違いなく、行くたびに居心地の悪い思いをすることにもなるでしょう。しかしながら、少し変わった動きをしたというだけで警戒登録している商店もあり、人のことは言えない立場にございますが、その偏見ぶりに驚かされることも珍しくありません。データ共有も簡易で、その扱いを間違えれば人権が侵害される事態を招きかねず、我が国においても法整備が必要な時期が到来しているのではないでしょうか。

 今回は、顔認証システムを利用した店内防犯の実態について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、ショッピングセンターR。関東近県にある比較的大きな駅の前に位置する8階建ての商業施設です。老朽化したビルの立て替えに合わせて、最先端の防犯機器を導入しており、この日は顔認証機器の端末を持たされました。どことなく宮迫博之さんに似ている50代後半と思しき警備隊長によれば、最新機器が導入されたらしく、その精度は高いと解説されます。

「リニューアルオープンしてから日が浅くて、まだ数人しか登録されていないけど持っておいてもらえますか」
「どんな方を登録されているのですか」
「基本は、出禁(出入禁止のこと)にした人たちですね。今のところは、休憩スペースに居座っていたホームレスの人と、店内で大声を出して暴れた酔っ払いくらいかな。おかる(万引き犯のこと)も出禁にするから、もれなく登録しますよ」

 以前であれば、出入禁止にされた被疑者の写真は事務所などに貼り出すほか、ファイリングするなどして対応していました。たとえ、そうした人が入店してきても、声をかけることは稀で、見て見ぬふりをしながら遠巻きに見守ってきたものです。ところが昨今は、さまざまな理由を以って迷惑客を遠ざけようとする風潮が垣間見え、徐々に暗黙の了解が通用しない状況が構築されていると感じます。

「出禁の人が入ってきたら、どうしましょう?」
「酔っ払いとホームレスは、制服組がやるから大丈夫。おかるが来たら、おねがいしますね」

 聞けば、不審者の入店と共に対象人物の映像と検知位置、それに登録日時や種別までもが瞬時に表示されるそうで、今まで持たされてきたモノより役に立ちそうな気がしてきました。この日の勤務は、午前10時から午後6時まで。ポシェットに顔認証端末を忍ばせ、各階の巡回を始めます。

 昼下がりの午後、閑散とする店内で巡回を続けていると、登録者の入店を知らせる発報がありました。メールを読む体で内容を確認すると、さまざまな情報と併せて、全身からだらしのない感じが滲みでている80歳くらいにみえる女性の全身写真が画面いっぱいに表示されています。画面表示された情報によれば、2週間ほど前に万引きをして捕まり登録された人のようで、行動確認するほかありません。不自然にならない程度の早足で店内を歩き回り、地下の食品売場で対象女性の姿を見つけて追尾を開始すると、まもなくしてウインドブレーカーを羽織った警備隊長がそばにやってきました。同じ端末を持たれているため、私自身の行動も監視されているのと変わらず、いつにも増して気の抜けない気持ちにさせられます。

「あのばあさん、改装前から何度も捕まっているんだけど、認知症の診断が出ている人で、警察に扱ってもらえないの。出て行ってもらうのはかわいそうだから、もしやったら、その場で声をかけましょう」
「わかりました。暴れたりしないですよね?」
「わからないけど、大丈夫じゃない?」

 犯意を成立させることを重要視する私たちは、たとえバッグに商品を隠匿されたとしても、店内で声をかけることはありません。万引きの既遂時期についてはさまざまな法解釈がなされていますが、後のトラブルを防ぐためには、言い訳のできない状況まで犯行を見守り犯罪を成立させるのが一番なのです。しかしながら、警察から犯行を防止するよう指示がある場合は、その限りではありません。認知症の常習者を短期間にたびたび捕まえた時には、顔もわかっていることだし警察を呼んでも罪に問えない人であるから、みんなの手を煩わせることなく防止してくれと懇願されたこともありました。

 二手に分かれて追尾をすると、鮮魚売場で足を止めた女性は、そこで手にしたサケの切り身と真鯛の刺身を、カゴの中にある自分のバッグに躊躇なく入れてしまいます。堂々と商品を隠匿する姿は、慣れた手口を用いているようにも見えますが、万引き犯特有の挙動をひとつも示すことなく隠匿したところをみれば、認知症の方だという話に合点がいきました。女性の向こう側で、隠匿行為を確認した警備隊長と歩調を合わせ、挟み撃ちする形で声をかけます。

「いとうさん(仮名)、こんにちは」
「へ?」
「ちょっと、こっち来てもらっていいですか」
「あんたたち、なんだよお」

 ちょっとお話があると宥めながら、すぐそばにある調理場に通じるドアに女性を押し込み、関係者専用の通路を通って防災センターの応接室まで連れていきます。その道中、カゴにあるバッグの中を上から覗きみると、先程隠した商品の下に大きなトマトがあるのも確認できました。

「ねえ、いとうさん。私のこと、覚えていますか? ついこないだ、もう入ってきたらダメって、お約束した者だけど」
「いやあ、ちょっとわからないねえ。なんで入ってきちゃダメなのよ?」
「お金払わないで、持っていっちゃうからでしょ! そのバッグの中に入れたらダメだって、前にも約束したじゃない。それ、一回全部出してよ」

 バッグに入れた商品を出すのを手伝い、トレーニングレシートで合計額を出してもらうと、有機栽培トマトを含めた計3点の合計は1,600円ほどになりました。現認のとれていないトマトは除外するよう進言すると、防犯カメラの映像で立証できたというので、それもあわせて請求します。

 バッグから出てきた年季の入ったワインレッドのガマグチの中には、折りたたまれた千円札以外の現金は見当たらず、そのほかには後期高齢者医療被保険証とどこかの電話番号が書かれた単語カードの切れ端が入っていました。保険証によれば、この店から少し離れた町のマンションに住むらしい女性は82歳。前回は、単語カードに記載された電話番号に連絡をして、息子さんに迎えにこさせたとのこと。早速に、受話器を上げた警備隊長が電話をかけ始めると、突然に老女が叫びました。

「お父さん、助けて! 私は、ここです! 早くー!」

 およそ1時間後。お迎えに来られた60代と思しき調理服姿の息子さんによれば、長年夫婦で中華料理屋を営んできた女性は、旦那さんに先立たれてから様子が変わってしまったそうで、いまや意思の疎通が図れないに近い状態にあるということでした。買い物には付き添うようにしているものの、後継した中華料理店が忙しい時間には、どうしても目が離れてしまうそうで、たびたび迷惑をかけて申し訳ないと話しています。

「ご事情はわかりましたが、こちらのルールもあるものですから、今後も入店されないようお願いいたします」

 淡々と話す警備隊長の冷淡な発言に、一言言ってやりたい気持ちにもなりましたが、自分の立場を考えれば意見を申し上げる立場にありません。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

野球カード欲しさに万引きを繰り返した児童……やるせない犯行動機とは?

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、今年8月に福岡市西区のコンビニエンスストアで菓子を万引きしたとして、福岡県臨時職員の女(46歳)が逮捕されました。被害品は、フィナンシェ1点、計160円。棚卸をしていた店主が、在庫数の不一致に気付いて防犯カメラの映像を確認したところ、女による犯行の様子が記録されており所轄警察署に相談。その結果、被疑者の特定に至り、後日に逮捕された事件です。

 逮捕された被疑者は、公務員であるためか実名報道となり、県のホームページに謝罪文が掲載される事態にまでなりました。デジタルタトゥー化した犯歴は消えることなく、再起の障害となることは明らかで、いわゆる公務員による万引きが割に合わない結果をもたらすことを示しています。多くの方は、たったそれだけのことで逮捕されるのかと思われるでしょうが、軽微な万引き事案での立件は余罪があることが多く、素直に同情することはできません。コンビニエンスストアをはじめ小規模店舗では、来店するたびに小さな商品を1点だけ持ち去る万引き常習者は珍しくなく、蓄積される被害に頭を悩ませる商店主が多いのです。

 今回は、以前に小さなスーパーで捕らえた少年常習者について、お話したいと思います。

 当日の現場は、東京の下町にある住宅街の一角に位置するスーパーT。コンビニを2回りほど大きくしたくらいの売場を有する地域密着型のオーナー店舗で、定期的にスポット契約を頂いているクライアントです。開店直前、青果の品出しに勤しむ顔馴染みの社長さんに挨拶をすると、慣れた口調で歓迎されました。どことなく往年の坂上二郎さんに似た柔和な雰囲気を持つお方です。

「おう、ご苦労さんです。今日は、何時まで?」
「開店からですので、18時までお邪魔致します。最近は、いかがでございますか?」
「小さい店だからさ。一度にたくさん持っていく人は見ないけど、様子がおかしいのは、ちょこちょこ来てるよ。ま、注意してみて」

 変な話に聞こえるかもしれませんが、一度に盗まれる品数が少ないほど、摘発の難易度は高まります。たったひとつの商品を盗む犯行の一部始終を明確に現認することは至難で、それを実現するには、いち早く不審者の来店を察知し、その行動を見守るほかないのです。その一方、入口の自動ドアが開くと同時に犯行に至る確信が得られることも珍しくありません。そうした人の多くは、その外見や行動、雰囲気などから犯意が滲み出ており、自然と目を奪われるものなのです。開店まもなくから出入口を見渡せる位置に陣取り、自分の気配を極力殺しながら入店チェックを始めた私は、ちらほらと入ってくるお客さんひとりひとりの様子を確認していきます。

(あれ!? あの子、なんだろう……)

 午後3時を過ぎた頃、小学3~4年生くらいにみえる少年が、ひとりで店に入ってきました。野球帽を深めに被っていることもあってか、顎を上げて周囲を見回すような視線が不自然で怪しく、発見すると同時に目が離せない気持ちになったのです。

 そのまま行動を見守れば、お菓子売場に直行した少年は、ポテトチップスのコーナーで足を止めました。その場にしゃがんで、商品棚の最下部に陳列された「プロ野球チップス2021」を手に取ると、大人顔負けの悪い目で周囲を見回しています。まもなく商品に貼られているおまけのカードを剥がして、それをズボンのお尻ポケットに隠した少年は、この上ない早足で売場を離れていきました。必死に追いかけるも、足が追いつかずに見失ってしまい、どこを探しても少年の姿は見当たりません。

(おまけひとつの話だし、子どものやったことだから、あきらめて戻ろう)

 おまけのカードを取られて損壊された商品を回収して店長に報告するべく、敗北感にも似た重い気分を抱えて売場に戻ると、さきほど見失ったばかりの少年が同じ場所にしゃがみこんでいました。またやると確信して、先程より見通しの良い位置から行動を注視すれば、おまけのカードを次々に剥がしています。最終的に、陳列されたほとんどの商品からカードを剥がした少年は、それを手に持って売場を離れていきました。

(ここまでされたら、きちんとしないと)

 このような商品は、おまけのカードがついてなければ売れません。もはや“子どものいたずら”では済まされない事態に、失敗を取り返すべく慎重に追尾すると、店内の死角にある棚の隙間にしゃがみこんで、身を隠しながらカードを開封する瞬間が確認できました。目当てと思しきカードを尻のポケットに隠し、不要なカードと袋は棚の下に隠して店の外に出た少年が、出口脇に停められたギア付きの子ども用自転車に手をかけたところで、そっと声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。僕、野球好きなのかな? カード取られちゃうと、みんな売れ残っちゃうから、困っちゃうのよ。ちょっとお話聞かせてもらってもいい?」
「あ、はい。ごめんなさい……」

 泣きそうになりながらも素直に認めてくれたので、店内に放置された被害品や袋を回収しながら、なるべく目立たぬよう親子の体で店内を歩き、奥にある事務所まで連行します。今回の被害は、計11点、合計で1,100円ほどですが、少年の所持金は皆無で商品を買い取ることはできません。近くの小学校に通う小学3年生だと話しているものの、身分証明書を持っているわけもなく、自宅の正確な住所や電話番号さえ言えない状況にありました。

「野球選手のカード、集めているの?」
「うん」
「でも、盗ったらダメだよね。今日は、どうしちゃったのかな?」
「大事にしていたレアカード、パパが売っちゃったから……」

 くわしい事情はわかりませんが、大事にしていたカードを親に処分されてしまったそうで、それを取り返すべく犯行に及んでしまったようです。スマホで調べてみると、確かに売買がなされており、少年のいう選手のレアカードには1,000円以上の値段がついていました。

「キミさ、いままでにも、同じことしていたでしょ? おとといも、あそこの棚の下から、カードの袋が5枚も出てきているんだよね」
「ごめんなさい。もうしませんから、許してください。うあーん」

 体を丸めて、泣きながら許しを乞う少年の扱いに困った店長が、顔をしかめて言います。

「警察を呼ぶまでもない話だし、学校に連絡して引き取ってもらうかな」
「最近は、引き取りを拒否する学校が多いので、警察に引き渡したほうが早いと思いますけど」
「いや、近所の子だし、警察はかわいそうだよ。仕方ないから、一緒に家まで行って、お母さんに話してきてくれる? 買い取ってもらえたら、それでいいから」

 住宅街に位置する個人オーナーの店は、大型店よりも地域に密着しているため、被疑者に対する扱いが優しくなりがちです。損壊されたプロ野球チップスと被害品を集計したレシートを手に、少年とふたりで家に向かうと大きな団地の一室に案内されました。玄関口までお邪魔して、応対に出てこられた母親に本人から事情を説明してもらったうえで、速やかにレシートを差し出して商品代金を徴収します。

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。よく言って聞かせますので……」
「余計なことかもしれませんが、大事にしていたカードを、お父さんに売られてしまったことを理由にしていました。念のため、お伝えしておきますね」
「あの子、そんなことまで話したんですか? こんなご時世だから、仕方ないのに。ほんと、恥ずかしい」

 否定されなかったところから察するに、少年の話は事実のようで、とてもかわいそうに思えてきました。商品代金を受け取り、玄関の扉が閉まった途端に、扉の向こうから大きな怒号が聞こえてきます。

「この、バカ! なにやってんのよ。パパに全部報告するからね!」

 果たしてパパは、どのような言葉で少年を叱るのでしょうか。理由はどうあれ自分が大事にしているモノを親に売られた子どもの心境を思えば、どんな言葉も響くことはないだろうと感じた次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「離せよ、このくそばばあ!」悪質な転売万引き犯「クロキン」の抵抗に女店長が取った勇敢な行動

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、日本全国を万引き行脚していた36歳の男が、広島県福山市の文具店で電卓や電子辞書など計14点、合計11万円相当の商品を盗んだとして広島県警に逮捕されました。その後、安芸区のカー用品店にて、およそ12万円分の商品を盗んだ容疑で再逮捕されています。報道によれば、万引きをしながら全国を渡り歩き、昨年だけでも1,000万円以上の不当利得を得ていたそうです。盗んだ商品のほとんどは、フリマアプリで売却しており、いまどきの万引き商人の実態が明らかとなりました。県内だけでも、このほかの15店舗において同様の被害が確認されており、余罪も多そうです。

 近頃は、盗んだ商品を買い取るためのお金すら持たない人による犯行が目立ち、生き残りをかけて万引きするような人と接する機会が増えています。おにぎりなど、毎日のように最低限の食料を盗んでいく人の多くは中高年層の男性ですが、大量の高額商品を換金目的に盗み出すのは比較的若く、スマホの扱いに慣れているような人たちといえるでしょう。その悪質さは大きく異なりますが、扱いのくくりは同じで、量刑差はあれ妙な違和感を覚えてしまう次第です。

 今回は、専門店で捕らえた転売目的の万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外の街道沿いに位置するスポーツ用品店S。倉庫のような広大な売場に、さまざまなジャンルのスポーツ用品を豊富にそろえる専門店です。近頃、各店で高額品の盗難が多発しているとのことで、被害の多い地域を中心に警戒することになりました。今月は、この店に10日ほど入る予定で1日も早く実績を作りたいところですが、5日目の今日を迎えるまで成果はありません。なんとなく気まずい思いを抱えつつ、店舗裏手にある総合事務所まで出勤のあいさつに出向くと、30代と思しきポロシャツ姿の女性店長に出迎えられます。体格のいい男性と見紛うほど筋肉質で、どことなくSHELLYさんに似た明るい雰囲気を有する健康的な女性です。

「ああ、Gメンさん。今日も、お願いします」
「今日も1日、お世話になります。何か注意することはございますか?」
「一昨日、自転車部品の空き箱が棚の下から出てきました。コロナ対策でスタッフの数も少ないので、やりやすいのかもしれませんね。また来るかもしれないので注意してください」

 売場の状況をお伝えすれば、いかにも魅力的で高額な商品を無数に扱っているものの、店内は死角だらけで、やろうと思えば何でも盗れる状況に感じられます。防犯設備も頼りなく、言ってしまえばお客さんの良心に頼る防犯態勢。流行の最先端にいる商品を扱うには心細い状況といえるでしょう。

 しかしながら、平日のためかお客さんはまばらで、出入口を中心に警戒していれば歩き回らなくても済むほどの状況です。特に気になる不審者の来店もないまま、あきらめの心境をごまかしながら業務終盤を迎えると、ようやく目を奪われる不審者が現れました。

 長年に渡り愛用しているとしか思えぬ黒地に金ラインの入ったジャージ上下に、フレームの細い眼鏡をかけた30代とおぼしき痩せた男性です。しばらく手入れしていないであろう金髪は、根元から数センチが漆黒になっており、着用するジャージと同じ色合いになっていました。それを理由に心の中で「クロキン」と勝手に名付けて、そっと追尾を開始します。

 自転車用品売場で足を止め、大きなリュックサックを手にしたクロキンは、それを右肩にかけるとゴルフコーナーに向かっていきました。そこにディスプレイされたゴルフシューズに目をやり、下部に積まれた箱入りの在庫を照らし合わせると、店員さんに断わることなく開封して中身を確認しています。あまりの怪しさに目を離さないでいたところ、手にした在庫商品をリュックサックに隠す瞬間を現認できました。リュックサックの大きさから、まだまだやりそうな雰囲気を感じていたところ、ゴルフボールなどの商品を同様に隠して、周囲を警戒しながら店内のトイレに入っていきます。男性用トイレに入られたので、私は中に入ることはできません。トイレの出口を見ながら、店長さんに目と手で合図を送って呼び寄せた私は、ざっと状況を説明して協力を仰ぎます。

「リュックを持ったまま店の外に出たら声をかけます。もし暴れたら、警察を呼んでもらっていいですか?」
「わかりました。私も一緒に行きますよ。なんかドキドキしてきたなあ」
「万引き、初めてですか? 黒に金色のラインが入ったジャージを着た金髪の男ですので、お願いします」
「その男の人、さっき見かけました。初めてですけど、あのくらいなら大丈夫かな」

 あのくらいの意味はわかりませんが、2人で一緒にいるところを見られたくないので、すぐに別れてトイレの出入口を見続けました。数分後、未会計のリュックサックを自分のモノのように背負ってトイレから出てきたクロキンが、すぐ脇にある出口から外に出たところで声をかけます。

「ちょっと待って。お店の者です。商品のお金、ちゃんと払っていただかないと」
「はあ?」
「はあ、じゃないでしょう? このリュックと中に入れたゴルフ用品、ちゃんと払ってもらえますか?」
「うるせえ、離せ!」

 盗んだ商品を指摘した途端、私を振り払うべく身を捩って暴れ始めたので、クロキンが背負うリュックの持ち手を握って応戦します。振り回されながらも、両手でリュックサックを掴んで必死に喰らいついていると、すぐに店長が加勢してくれました。

「もう警察呼んだから、おとなしくして!」
「うるせえ、俺は関係ない。離せよ、このくそばばあ!」

 すると、背負っていたリュックサックから両腕を抜いたクロキンが、盗品を放置して逃走を図りました。

「待ちなさい!」

 その瞬間、素早い動きでクロキンの左腕を掴んだ店長は、何をどうしたのか、あっという間にクロキンを路上に転がすと、背中に膝を立てて左腕を抱えてねじ伏せています。

「もう暴れないで。わかった?」
「わかった、わかったから」

 それでも信用できないと、そのままの態勢で警察の到着を待つことにして、その間に被害品の状況を確認します。すると、持ち手の部分が少し破れてしまったリュックサックの中からは、箱入りのゴルフシューズとゴルフボールが4箱、それにゴルフ用のグローブが2組出てきました。どれも値札は除去されており、リュックサックについていたはずの防犯タグも外されています。警察官が到着してから、男性用トイレを捜索してもらうと、それらは全て貯水タンクの中から発見されました。

 今回の被害は計8点、合計で7万6,000円ほど。クロキンの所持金は2,000円足らずで、商品を買い取ることはできません。事務所に連れて行き、警察官と一緒に人定確認を進めると、クロキンは28歳。失業中のため、この店から少し離れたところにある実家で、母親と2人で暮らしていると話していました。すっかりおとなしくなり、うなだれたまま顔を上げないでいるクロキンに、店長が尋ねます。

「これ、どうするつもりだったんですか?」
「すみません。売るつもりでした」
「ウチの店で、いままで何回くらいやってます?」
「ここでは、本当に初めてです」

 これまでうまくやってきたのか前科前歴はありませんでしたが、被害が高額で手口が悪質なことから、クロキンは逮捕されることになりました。直接の逮捕者である店長の書類も必要となり、2人で警察署に行くことになったので、刑事課の前に設置されたベンチで待機している間に、ずっと気になっていたことを聞いてみます。

「店長さん、男性相手にすごかったですね。何か、やっていらっしゃるんですか?」
「あたし、小学生のころから合気道をやっているんです。父が先生をやっていたものですから、ずっとやめられなくて。でも、こうして役に立つとうれしいものですね」

 そう言ってはにかむ店長が、あまりに頼もしく素敵で、次の勤務日が楽しみになりました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「このまま、お前の葬式をやってやりたいくらいだよ」喪服姿の老女、“身も凍る万引きの言い訳”とは

 先日、東京・新宿駅近辺の店で食料品を万引きして女性店員に捕まり、警察に引き渡されて微罪処分とされた男が、釈放後に小田急線の電車内で包丁を振り回す通り魔事件がありました。供述によれば、警察官によるヤサカク(居住確認)後、逮捕者である女性店員に殺意を抱いて再度新宿に向かったものの、閉店していることに気付いて予定を変更。電車内の座席にいた女子大生をはじめ、無関係の乗客数名を切りつけ、持参の油を車内にまいて放火を試みるなど、一歩間違えば大惨事になりえた事件です。

 どうやら男は、生活苦から万引き常習者に成り下がっていたようで、報道によれば初めて捕まったことが凶行のトリガーになったとされています。私自身、新宿の現場に入ることもあるため、タイミングさえ合えば、いつ遭遇してもおかしくない状況にあったと言っても過言ではなく、まるで我がことのように恐怖を感じました。男を捕まえた女性店員の気持ちを察すれば、運よく被害に遭わなかったとはいえ身が凍るような思いをされたでしょうし、自分の行為が凶行につながったと責任を感じておられるかもしれません。万引き犯に対する声かけという正当な行為が、なんら落ち度のない無関係の人に対する凶行へ繋がったことが衝撃的で、とにかく許せない気持ちでいっぱいです。被害に遭われた皆様の心身が、一日も早く回復されるよう、心より祈念いたします。

 昨年に引き続き、今年のお盆休みも政府の一貫しない政策により出かけることができず、亡夫のお墓に花を供えたほかは、休みを返上して現場に出ました。今回は、お盆期間中に捕まえた罰当たりな万引き犯について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の外れに位置する大型スーパーT。大きな霊園が近くにあるため、お盆期間中はお墓参りグッズの特設コーナーが設置され、出入口脇にはお供え用の生花が値段別に並びます。この日の勤務は、午前10時から18時まで。店長不在のため、どことなくさかなクンに似た副店長に挨拶を済ませて現場に入ると、1時間も経たないうちに目を引く不審者が店内に入ってきました。一見して、70歳くらいでしょうか。赤茶色のカーリーヘアと白塗りの顔に真っ赤な口紅が印象的な喪服姿の老女です。

(あのおばあちゃん、やる気バリバリね)

 老婆の姿が目に入った瞬間、その顔つきを見て犯行に至ることを確信しました。どう説明したらいいのかわかりませんが、万引きする人の顔、そのものだったのです。

 店内における行動を見守れば、店に入ってすぐの青果売場でマスクメロンと巨峰、それに梨をカート上のカゴに入れた老女は、すぐそばにあるお盆の特設コーナーで足を止めました。そこで落雁や最中、羊羹、線香、ジェットライターなどをカゴに入れると、それらを整理しながら酒売場の通路に入り、缶ビールとカップ酒を2本ずつカゴに追加して出口へと向かって歩いていきます。

(このままカゴヌケするつもりなのかしら)

 いつ出られても対応できるように間合いを詰めると、出入口脇に並ぶ生花売場で立ち止まった老女は、一番値の張る花束(1対、3,000円)を花桶から抜き取りました。やけに周囲を気にしてからまもなく、生花を片手に持ちながらカートを押す老女が早足で外に出たので、その後を追って声をかけます。

「お店の者です。そのお花、持っていったらダメですよ」
「ひっつ!」
「カゴの中のモノも、お支払されてないですよね。事務所でお支払いいただけますか」
「いや、レジで払いますから、大丈夫です。あたし、どうしちゃったのか、うっかりしちゃって。ごめんなさい……」

 そう誤魔化すと、カートを回して店内に戻ろうとするので、カートを押さえながら改めて事務所への動向を求めます。

「声をかけちゃっているので、事務所でお願いします。申し訳ないけど、うっかりで済む話じゃないですよ」
「ちがいます。払うつもりで……」
「どこで払うつもりだったんですか。この先にレジはないですし、後ろ振り返りながら出てきて、そんな言い訳は通らないでしょう」
「ちがう、ちがうの! トイレに行きたかっただけなのよ」

 追手を振り払うべく、見た目以上の力でカートを振り回した老女は、私が離さないとみるや、持っていた花束を振り上げて私の手を叩いてきました。さほど痛みは感じませんが、あまりの振る舞いに、自然と怒りが込み上げてきます。

「ちょっと、いいかげんにしてください。大ごとになっちゃいますよ」

「離して、もう漏れちゃう」

 老女の袖口を掴んで、しばし揉み合っていると、カートが倒れてしまい、カゴの中の商品が路上に投げ出されました。

「そんなに暴れたら危ないですよ。落ち着いて」
「だれか、助けて。お店の人に乱暴されているんです」

 おそらくは野次馬の誰かが通報してくれたのでしょう。転んだときに備えて、割れてしまったワンカップ酒のガラス片を足で散らしながら店に引き返そうとする老女を必死に引き止めていると、徐々に近づくサイレンの音が聞こえてきました。

「もうパトカー来るから、それまでじっとしてて」
「あんた、偉そうに、なによ。こんな乱暴して、訴えてやるからね」
「はいはい。カメラもたくさんついていますし、お好きになさってください。こちらもしっかりとやらせていただきますから」

 出口前に横付けされたパトカーから警察官が降りてくると、被害者ぶった顔をした老女が、あの人に乱暴されたと私を指差しました。みんなで事務所に行き、二手に分けられたうえで事情を話すと、地面に散乱した商品と彼女の犯歴から状況を飲み込んでくれた警察官が、早速に防犯カメラの検証を始めてくれます。

「出入口の防犯カメラに全部映っていたので見てきたけど、乱暴されたっていうより、あなたが逃げようとするのを、保安員さんが制止する感じでしたよ。実際は、どうなの?」
「いや、トイレに行きたくて……」
「そんなこと聞いてないよ。お金は、払ったの、払ってないの、どっち?」
「……払っては、ないです」

 出入口の真上に設置された防犯カメラの存在を知らされ、途端におとなしくなった老女は、これをきっかけにすべてを認めてくれました。警察官と一緒に話を聞けば、この店の近くに家族と住んでいるという老女は、年金暮らしの74歳。複数の犯歴があるそうで、前回捕まった時、次にやったら逮捕すると脅されていたことを思い出して暴れてしまったと話していました。今回の被害は、計15点、合計9千円ほど。これから自宅で義母の法要があるそうで、早く帰らないと旦那に叱られると、財布から取り出した1万円札を震える手で握り締めています。

「これ全部、お供えするつもりで?」
「置いておくだけで捨てちゃうものだから、お金払うのがバカらしくて」
「盗んだモノで供養するなんて、仏さんも、さぞかし居心地悪いでしょうね」
「いいのよ。ひどく意地悪な人だったから……」

 そのまま事務所内で手続きを進め、ガラウケに家族を呼んでもらうと、まもなくして老女の旦那さんと娘さんを名乗る2人が喪服姿で迎えにこられました。

「このまま、お前の葬式をやってやりたいくらいだよ」

 家族2人に見下ろされ、体をすぼめてうつむく老女の姿は痛々しくも、お義母さんの気持ちを思えば同情する気にはなれません。この人自身の葬儀や法要は、どんなものになるのだろう。そんなことまで想像してしまった私も、きっと意地悪な女です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

未成年“大量万引き”グループに警察官も激怒! 抵抗する少年、泣き叫ぶ少女……とんだ真夏の大冒険

 こんにちは、保安員の澄江です。

 新型コロナウイルス蔓延防止に基づく緊急事態宣言が、範囲を広げる形で、またしても延長されました。高齢者枠に入るため、すでに2度のワクチン接種は終えておりますが、デルタ株に対する警戒は怠れず、不安の尽きない日々を過ごしています。つい先日には、いつもよくしてくださる某食品スーパーのマネジャーさんがコロナに感染。ひとり身のため、限界まで我慢されたのでしょう。自宅療養中に救急車を呼ばれたそうですが、病院到着時には重篤な状態に陥られて、ICUに入院されたものの回復することなく亡くなられたと聞きました。退院後まもなく荼毘に付され、葬儀の予定もないそうです。享年、56歳。

 身近にいる方がコロナに感染した事実はもちろん、ついこないだまで元気に店内を闊歩していた方の命がいとも簡単に奪われた現実が恐ろしく、明日は我が身と感染対策を徹底して現場に臨んでいます。

 今回は、そうしたこととは無縁で、ひどく迷惑な若者たちについてお話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東近県の住宅街に位置する総合スーパーS。広大な敷地に、衣料品店や百円ショップ、ドラッグストア、レストランなど、多数のテナントが集まる商業施設にある大型店舗です。この日の業務は、午前11時から19時まで。出勤の挨拶のため、バックヤードから事務所に入ると、どことなくよゐこの濱口優さんに似た店長さんが応対してくださいました。

「本日は、よろしくお願いいたします。なにか注意することはございますか?」
「万引きも相変わらず多いけど、最近、駐車場に若い子たちがたむろして困っているんだよね。みんな顎かけのマスクでしゃべって、タバコ吸って、そこら中につばを吐いたりするからクレームがきちゃってさ」
「このご時世に、迷惑な話ですね」
「うん。夕方になると集まり始めるから、店に入ってきたら注意してみてください」

 業務開始まもなく、素麺とミョウガをバッグに隠して盗んだ80代女性を捕まえて警察に引き渡し、微罪処分の事務処理をしていると担当の警察官が言いました。

「最近、この辺の若い子、ちょっと危ないから注意してくださいね。特殊詐欺やひったくりも多いし、薬物やっているのも多いから」

 そんなギャングのようなグループの人たちに万引きされても、私ひとりで太刀打ちできるわけないので、それとなく相手の状況を探ってみます。

「そうなんですか。なんでも駐車場がたまり場みたいになっているらしくて、注意するように言われたんですけど……。万引きも、やっていそうですか?」
「あまり聞かないけど、やっていても不思議じゃないですね。なにかあれば、遠慮なく通報してください」

 そのまま軽く昼食をすませて現場に戻り、巡回を再開するも気になるような不審者の来店はありません。夕方のピークを迎えても状況は変わらず、息抜きを兼ねて屋外に設置されたトイレに向かうと、排気音がうるさいスクーターに乗った2組のカップルが駐車場内に入ってきました。見たところ10代後半くらいでしょうか。自転車用の駐輪場に乱雑な形でバイクを停めると、すぐ脇にある休憩スペースのベンチを陣取って、一斉にタバコを吸い始めます。全員が同時にタバコをふかしているため、喫煙所と見紛うほどですが、この場所は禁煙で灰皿の設置はありません。駐車場を仕切る警備員も、彼らの存在に気付いてはいるものの、入場してくる車に向けて赤棒を振ることで見て見ぬふりをしているようです。

(あれが、うわさの人たちね。店の中に入ってこなければいいけど……)

 見ていても仕方ないので、手早く用を済ませて、それとなく各々の顔を覚えてから店に戻ります。近頃は、若い子たちの間で、昭和のスタイルが流行っているのでしょうか。渡哲也さんのようなサングラスをかけた短髪の男の子たちと、露出の激しい金髪の女の子たちの姿をみて、どこか懐かしい気持ちになりました。
 店に戻り、品出しをしていた店長に状況報告をすると、もし彼らが入ってきたら目を離さず、何かあったらすぐに知らせるようあらためて指示されます。

「ウチの副店(副店長)は空手の黒帯だし、鮮魚部長も学生相撲をやっていた人だから大丈夫。あんな奴らに、負けないですよ」

 どうにか理由をつけて排除したいらしく、有事の際は、腕っ節の強い男性社員と駆けつけるつもりでいるようです。業務終了まで、あと2時間半。なにもないことを祈りながら店内の巡回を再開すると、願い届かず、2組のカップルが店に入ってきました。肩を揺らして、威嚇するように先導する男の子たちの態度と、女の子の肩にある大きめのトートバッグが気になります。スマホで店長に連絡を入れながら様子を見ていると、花火売場で足を止めた一同は、手元を見られないように固まって、複数の花火セット(噴出と手持ちのセット)をトートバッグに隠しました。

 それから通路上に設置されたカゴを手にとり、どこかわざとらしくじゃれ合いながら食品売場に入った4人は、精肉コーナーで焼肉やステーキ用の和牛肉、ソーセージやブロックベーコンなど、値の張る商品ばかりをカゴの中に投げ入れ、続いて向かった酒コーナーで、缶チューハイやつまみなどの商品をカゴに追加して売場を離れます。彼らの位置だけを把握するように注視していると、男たちが手ぶらで店の外に出ていくのが見えました。何をするのか気になりますが、女たちが持つ未精算の商品から目を離すわけにはいきません。悶々とした気持ちで見守っていたところ、店長と合流することができたので、ひととおりの状況を説明しながら未精算の商品を見守ります。

「きっとカゴダッシュで持っていくつもりですよ。警察にも通報しておいたほうがいいかもしれませんね」
「わかりました。とりあえず出口を固めます」

 店内無線を使って外の様子を確認するよう副店長に指示した店長は、続いて鮮魚部長も呼び出して出入口付近で待機しておくよう命じました。するとまもなく、外に出た男たちがバイクを入口前に移動させているとの報告が入って、状況が一気に緊迫します。

 外に出た男たちが店内に戻り、待機していた女たちと合流してカゴを拾い上げると、つかず離れずの距離を保って全員が出口に向かって歩き始めました。店長とふたり、遠巻きにして後を追うと、出口前のベンチで足を止めて周囲を警戒しています。まもなく走り出す雰囲気を感じたため、なるべく急いで間合いを詰めたところ、案の定、外に向かって一斉に走り出しました。慌てて追いかけると、外に出たところで、副店長と鮮魚部長と思しき2人がバイクにまたがろうとする男たちと揉み合っています。揉み合い現場のかたわらで立ち尽くす女たちに近づき、それとなくトートバッグの持ち手を掴んだ私は、少し距離を取るよう2人を誘導してから用件を告げました。

「お店の保安員です。お姉さんたち、なんでこうなっているか、わかりますよね?」
「……はい、ごめんなさい」
「あの子たちは、あなたたちの彼氏かな? 暴れないように説得できる?」

 すでに数人の野次馬が、騒ぎに気付いて足を止め、大声を出して暴れる彼らに目を向けています。私の問いかけに顔を見合わせた2人は、すでに泣いていますが、目で会話してうなずき合うと、身をねじって暴れる男たちに近付いて言いました。

「ねえ、お願い。もうやめて!」
「……わかったよ。ごめん」

 冷静さを取り戻して、まるでスイッチが切り替わったようにおとなしくなった男たちに、改めて用件を告げます。

「このカゴに入っているもの全部、お金払っていないでしょう? 間違いないわよね?」
「うん。すんません」

 すぐに認めてくれたので、出入口に横付けされたバイクを駐輪場に停めさせて事務所に向かおうとしたところ、屋根に赤灯をつけた覆面パトカ―が駐車場に入ってきました。状況を話すと、彼らに免許証を提示させた警察官は、その場で犯歴とバイクのナンバー照会を行います。照会中、もうひとりの警察官がスクーターのシート下を捜索すると、人数分の水着やビーチサンダルが値札のついたまま出てきたほか、真新しい練炭やミニガスコンロなど、盗品と思しき商品が見つかりました。

「なんだお前ら、キャンプにでも行くつもりか?」
「川でバーベキューしたかったから……」

 所轄に送るにも複数台の車が必要なので、バックヤードにある従業員用の休憩室で待機しつつ、諸々の処理を進めます。報告書作成のため、身分確認を進めると、彼らは17歳から18歳。被害合計は、自店の被害だけで1万7千円ほどになりましたが、全員が1,000円程度ずつしか所持しておらず被害品を買い取ることはできません。すると、彼らの所持品検査をしていた厳しめの警察官が、出てきたタバコを片手に言いました。

「おまえら、タバコ持っていたらダメじゃんかよ。これ、没収な」

 すかさずに店長が、顧客から苦情が来ている話を持ち出すと、警察官はものすごい形相で怒鳴りつけます。

「おまえら、ここの人たちに、どれだけ迷惑かけてんだよ。吐いた唾、あとで掃除しにこいよな。吸い殻も拾って帰れ。このバカたれが」
「いや、緊急事態宣言が発令されていますし、それは大丈夫です」

 今後は、施設内に立ち入らない旨の誓約書を書かせたうえで被害申告する運びとなり、被疑者たちとは別便のパトカーで所轄警察署に向かいます。未成年者だからと、私より先に被疑者たちが帰宅する不条理に耐え、全ての手続きを終えたのは午後11時過ぎ。ようやくに解放の時を迎えて少年課の取調室を出ると、隣の取調室には、ひとり取り残されてガラウケ(身元引受人)を待つ少年の姿がありました。ニヤニヤした目で、品定めするように見られて、とても怖かったです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)