“女優”万引きGメンが激怒した「卑劣な盗撮犯」、その後味の悪い結末

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、主に食品を扱うクライアント様からいただく仕事の絶対量が減り、いよいよ先が見えなくなってまいりました。どの企業も、先行き不透明感を理由に経費を削減しており、その第一候補が保安警備というわけです。私服で行う保安警備は、制服警備員と違って存在感がなく、一番削りやすい場所にいます。たとえ多くの捕捉実績があっても、その月の費用対効果で判断されてしまえば割に合わないことは確かなので、それも仕方のないことといえるでしょう。

 生涯現役を目指してやっていますが、このような社会情勢になるとは思わず、加齢による足腰の痛みもごまかしが利かなくなってきました。そろそろ引退すべき時期かもしれないと、日々葛藤しながら現場に入っては、小さな騒動を起こす日々を過ごしています。

 今回は、以前に大型書店で捕まえた盗撮犯について、お話ししたいと思います。

相棒は正義感あふれる安達祐実似の女優Gメン

 当日の現場は、東京の中心に位置する大型書店S。8階建てのビルで書籍の専門店を営む老舗の有名書店です。当日の勤務は、午前12時から午後8時まで。ここのところ換金目的の粗暴犯が目立つことから、2人勤務で対応することになりました。この日のパートナーは、半年前に他社から移籍してきた美智子さん(32)。

 どことなく女優の安達祐実さんに似ている可愛らしい方で、腕もよく、すでにいくつかの指名店舗を抱えておられる人気の職員です。彼女と会うのは、これが2回目。この仕事は、趣味の範囲でやられているそうで、本業は舞台女優なのだと話していました。副業をやるにしても、演技に役立ちそうなことがしたいと、この仕事に行きついたそうです。直近の舞台では犯罪者の役をやられたそうで、現場のリアル感が演技に役立ったと、輝かしい笑顔で話していました。

「前の会社では、どんな現場に入っていたの?」
「スーパーが多かったですけど、本屋さんと洋服屋さん、リサイクルショップにも入っていました」
「ここと変わらないけど、どうして移籍する気持ちになったの? お給料だって、そんなに変わらないでしょう?」
「セクハラがひどくてやめたんです。研修で会社にいくたび、社長から手を握られたり、お尻触られたりして、もう我慢できなくて。ほかにも、同じように嫌な思いをして社員が3人いたから、みんなでやめて一緒に訴えたんですよ」

 話を聞けば、在職中に申し合わせて証拠を集め、お金を出し合って集団訴訟を起こしたそうで、相当額の賠償金を受領されたと話していました。かなりの修羅場だったようですが、複数回にわたる和解の申し出を断って判決を得たといい、話の節々から勝気な性格が垣間見えるような気がします。

 母娘を装い、少しだけおしゃべりをしながら各階の巡回をしていると、3階から4階に向かうエスカレーターに乗り込もうとしたところで、美智子さんに腕をつかまれました。

「待って、あの人!」

 すぐに足を止めて視線を上にやると、ワイシャツ姿の男がスマートフォンを右手に屈んでおり、前に立つ女性の足下からスカートの中を狙っていました。足音を立てないまま、エスカレーターを駆け上がった美智子さんは、男の後方から犯行を現認すると大きな声で叫びます。

「ちょっと、あんた。なに撮ってんのよ!」
「ギャアア!」

 被害者である女性が叫び声に反応して振り返ると、男は前後を挟まれ、行き場を失くし、被害女性を押しのけてエスカレーターを駆け上がって逃走しました。大きく回り込んだ男が、下りのエスカレーターに乗って降りてくる気配を感じたので、先回りして階下の踊り場で待ち受けます。

 するとまもなく、男は上方から姿を現し、左手で手すりに触れてバランスを取りつつ、右手でスマートフォンを操作しながらエスカレーターを駆け下りてきました。画面操作に集中しているようで、私に気付いている様子はありません。降り口を塞ぐようにして待ち構えて、視線を上げて踏み出した男の腹に向け、タックルするように抱きつきます。慌てて逃走を図る男に引きずられながら、私は用件を言いました。

「ダメ、逃げないで。あなた、盗撮していたでしょう」

 まるで私の存在を無視するように、何も答えないまま前進を続けた男は、スマートフォンの操作もやめようとしません。明らかに証拠を隠滅されていますが、手を離せば逃げられてしまうことになるので、美智子さんが到着するまで必死にしがみついて足を止めます。

「ちょっと、あんた。なに消しているの。いい加減にしなさいよ」

 揉み合う中、執拗に画面操作を続ける男の手首を掴んだ美智子さんは、手にあるスマートフォンを叩き落すと、大声で叫びました。

「すみません。この人、痴漢です。誰か手を貸してください」

 男に抱きつきながら周囲を見渡すと、被害女性が売場の方から男性店員を連れて走ってこられるのが目に入り、少し安心したことを覚えています。

「おい、暴れるなよ! とりあえず警察呼ぶから、おとなしくしていろ」

 事務所に連れていくものだと思っていましたが、なぜだかこの場に警察を呼ぶというので、私は男に抱きついたまま、警察官の到着を待ちます。店の人を呼ばれて観念したらしく、すでに勢いを失くしてはいますが、手を離せば逃走される気がしてなりません。

 待つこと数分、ようやくに到着した警察官に被疑者の身柄を引き渡すと、その場で逮捕されることになり、被害者の方と警察署に向かうことになりました。犯人を見つけたのは美智子さんですが、初めに声をかけたのは私で、犯行状況の一部始終も現認していることから、私だけで事足りると判断されたようです。

 警察署に向かう道中、パトカーの後部座席に被害女性と並んで座ったので、落ち着かせるべく声をかけてみました。

「びっくりしたでしょう? 大丈夫ですか?」
「もう怖くて、まだ震えが止まらないですけど、大丈夫。自分では気づいてなかったので、捕まえてもらってよかったです。本当にありがとうございました」

 被害女性は、26歳。現場となった書店には、待ち合わせまでの時間潰しのために立ち寄られたそうで、こんな目に遭うとは想像もしていなかったと話しています。

「予定があったのに、こんなことになっちゃって、なんだか申し訳ありません。相手の方とは、ご連絡つきましたか」
「はい、警察署まで来てくれることになりました」
「それなら、よかった。こんな日は、誰か一緒にいてもらったほうが安心ですよね」
「はい……。でも、すごく怒っていたから、ちょっと心配なんです」

 話を聞けば、待ち合わせの相手は婚約者で、犯人に対する怒りが尋常じゃなかったとのこと。警察署で暴れたりしないだろうかと、被害に遭いながらも余計な心配をしておられました。ちなみに犯人は、店の近所にある会社に勤める34歳の男で、「妻が妊娠中で寂しかったから」と、犯行の動機を供述したそうです。

 すべての逮捕手続きを終えて店に戻ると、まもなく閉店の時間を迎える店内は閑散としており、美智子さんを探しているうち店内のBGMが「蛍の光」に切り替えられます。電話をかけても出ることなく、どうにも見つからないので総合事務所に向かうと、60代と思しき店長と話している美智子さんの姿を見つけました。何かを店長に褒められているような雰囲気ですが、よく見れば美智子さんの手は両手で握られており、可愛らしい顔が引きつっています。

 邪魔をするべく、大きめの声であいさつをしながら室内に入ると、店長は美智子さんの手を離して平静を装いました。それに気付かぬふりをしたまま、一連の報告を済ませて報告書の控えをいただき、美智子さんを連れて足早に事務所から立ち去ります。

「大丈夫? 店長に、手を握られていたでしょう?」
「はい。お礼にごちそうするからって、断っているのにしつこくて、すごく嫌でした。タイミングよく入ってきてくれてよかったです」
「クレームを入れるなら、一緒に言ってあげるわよ」
「お願いできますか? 盗撮犯を捕まえた後、すぐに自分が触られるなんて、ちょっと許せないです」

 その日の下番時、会社の営業担当にクレームを入れましたが、なんの音沙汰もなく事態は終結。その書店で、私たち2人が巡回する機会はなくなったものの、件の店長が処分を受けるような話は一つもありませんでした。

 苦情を申し立てて、今後の取引に悪い影響が出たら困る。そのあたりが会社の本音のようで、すべてがうやむやにされ、後味の悪い結末になりました。その後、しばらくして美智子さんは退職し、いまは小さなスナックのママとして活躍されておられます。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

「やられた!」目の前で煙のように消えた万引き犯――ベテランGメンが執念の追跡で捕まえた犯人の正体!

 こんにちは、保安員の澄江です。

 新型コロナウイルスの蔓延防止対策による行動規制は終わり、街の雰囲気も段々と活気づいてきました。どこの街に行っても、人出の増加を実感するほどで、商店も客足を取り戻しつつあるようです。

 かといって、景気が良くなったわけではないので、私たちの仕事に変わりはありません。仕事を失い、食うに困って弁当や惣菜を盗む人も減ることなく、犯行を繰り返すことで生き延びているような状態に陥っている人が散見されます。

 生活費の節約を目的に万引き常習者と化した主婦は、年齢を問わず幅広く潜在しており、換金目的の犯行にまで手を染める者が増えました。生き残るためにと、家族総出で犯行に及ぶ「万引き一家」も増加傾向にあるようで、親の指示でやむなく犯行に加担したと涙ながらに告白する小学生を捕捉したときには、その非情な環境に触れて涙が止まらなかったです。

 コロナウイルスによる経済停滞やロシアのウクライナ侵攻、さらには急激な円安に追い打ちをかけられた日本経済は、いつになったら落ち着くのでしょうか。景気が悪くなるほど、街の治安は悪化していくので、早期回復を期待するばかりです。

 今回は、コロナ不況で増加傾向にある内部不正事案について、お話ししたいと思います。

大型ショッピングモール、カツサンドを持った不審な女性

 当日の現場は、東京の外れに位置する大型ショッピングモールD。広大な駐車場と売り場面積を誇る人気店です。この日の勤務は、午前11時から午後7時まで。ここ数年、毎月のように入っている現場なので、店内把握(店内構造を熟知すること)の必要はありません。早い時間は、お客さんの流れがある食品売り場を中心に巡回することにして、ランチ目当ての来店客に紛れて周囲の警戒を始めます。

「あの女(ひと)、大丈夫かな?」

 およそ30分後、有名店のカツサンドとパック入りのサラダ、それに透明の容器に入ったスムージーを手にしたショートカットの女性が、化粧品売り場に入っていく姿が目に留まりました。カゴを持つことなく、商品を直接手に持って抱え歩く姿に、妙な違和感を覚えたのです。

 おそらくは仕事中なのでしょう。一見して20代前半くらいに見える女性は、白いポロシャツに黒パンツといった服装で、休憩前の買い出しに来られたような雰囲気です。すると、化粧品売り場でリップスティックを棚取りした女性は、それをカツサンドの上に載せてレジ方面に向かって歩いていきました。

 不審感が拭えず、精算完了まで遠目から見守ることにすると、レジ列を避けて多くのテナントが軒を連ねる専門店街に向かって歩いていくので、慌てて後を追いかけます。すると、正面から異臭漂うホームレス風の男性が現れました。職業柄、自然と目を奪われ、その隙に女の姿を見失ってしまいました。

「どこに行ったのかしら?」

 慌てて周囲を探すも、女の姿はありません。近くにある旅行代理店やモバイルショップなど、周囲のテナントはもちろん店外にまで探索範囲を広げて10分近く探してみましたが、その姿を見つけることはできませんでした。

「やられた!」

 冷静に考えれば、いまここに女が現れても、声をかけるわけにはいきません。目切れ(目を離しているという意味)している間に、何をしているかわからないので、もはやあきらめるほかないのです。気持ちを切り替えて食品売り場に戻ると、先ほど目を奪われたホームレス風の男性が、298円の激安弁当と38円のお茶を手に持ってレジに並んでいました。

「今日は、ダメかもしれないわ」

 朝一番から失敗してしまったことが響いたのか、なにひとつ活躍できぬまま業務は終盤を迎えます。眠気を堪え、疲れた体を引きずるように巡回していると、一瞬にして目の覚める出来事が起こりました。

 朝、見失った女が、菓子売り場に現れたのです。運のいいことに、店に入ってきたばかりのようで、まだ何も手にしていない状況です。

「きっと、やる」

 そう確信して行動を見守れば、特上の握り寿司と特定保健系のお茶(500ml)を手に取った女は、次に菓子売り場で舶来物のクッキーと箱入りのチョコレートを棚取りして握り寿司の上に載せると、朝見た時と同じ経路でレジを通過しました。

 またしても専門店街へ向かっていくので、見失わないよう近距離で追尾すると、テナントのモバイルショップに入っていきました。裏のバックヤードに入っていくところをみれば、ここの従業員に違いありません。

 内部不正事案の場合、本来であれば一度見送り、クライアントの指示を仰いでから声をかけるのがルールです。しかしながら女はテナントの従業員で、クライアントの社員ではないので、中まで追いかけて声をかけることにしました。朝のこともあるし、いま盗んだ商品を食べられてしまえば証拠隠滅されることにもなるので、すぐに決着をつけたかったのです。

「お疲れさまです。D社の保安です」
「え? ああ、お疲れさまです。なんですか?」
「先ほど売り場で手にした商品のご精算、まだのようですが、どうされるおつもりですか?」
「……いや、払いましたけど」

 否定されたものの、ひどく動揺しており、彼女の顔をみれば自白しているのと変わらぬ状況にありました。すると、私たちの様子を呆然としながら遠巻きに見ていたモバイルショップの店長らしき男性が、気まずい様子で私のそばに来て耳元でささやきます。

「お疲れさまです。ここの責任者ですけど、彼女、なにをしたんですか?」
「ご本人がいいなら別ですけど、私からお話しするわけにはいかないので、その商品を持たせて、事務所まで一緒にきてもらえますか?」

 本人が認めていない段階で、私の口から事実を告知するわけにはいきません。大体のことは察しているだろう店長も、あえて詳しいことは聞かずに女を立たせて、一緒に行こうと促してくれています。

 事務所の応接室に到着して、未精算の商品をテーブルに並べてもらったところで、モバイルショップの店長が言いました。

「〇×さん。これ、どうしたの?」
「ごめんなさい……」
「間違えちゃったなら、ちゃんと話したほうがいいよ。会社に報告されるだろうし、きちんとしよう」
「すみません、ごめんなさい。私……」

 逃げきれぬと察した様子で、涙ながらに犯行を認めた女は、朝の犯行も素直に認めてくれました。事務所までの道中に逃走経路を聞けば、同じくバックヤードに入ったと話していたので、道理で見つからないわけだと合点がいった次第です。

 この日の被害は、すべてを合わせて計7点、合計4,000円ほど。

 派遣社員だという女は23歳で、商品を買い取れるだけのお金は持っていると話しています。モール側の店長に状況を説明すると、テナントの従業員であることを考慮されたのか、警察は呼ばずにすませたいと言われました。

 結局、各々の会社に事故報告をあげることを約束して、事態は終結。商品代金の精算のため、午前中に盗んだリップスティックを出すよう求めると、財布も商品もロッカーにあるというのでモバイルショップの店長と3人でテナントのバックヤードまで取りに伺います。

 すぐにでも逃げ出したい。

 そんな表情の女が、いやいやながらロッカーを開くと、その中には大量の商品が入っていました。値札のついた洋服や化粧品のほか、色の変わった菓子パンなどが、乱雑に保管されていたのです。

「これ全部、お金払ってなさそうね」
「……ごめんなさい。本当にすみません」
「なんで、こんなことを?」
「父の仕事がうまくいかなくて、家にお金を入れているから、いろいろと足りなくなっちゃって……」

 結局、すべてを認めて即時解雇となった女は、ロッカー内に残されていた商品の代金を精算することで許されました。大きな企業ほど身内の不祥事を隠したがるもので、一歩間違えば逮捕されていただろう被疑者からすれば、この上なくラッキーな展開だったといえるでしょう。

 後日、テナントとして入っていたモバイルショップのテナント契約は更新されず、いまはマッサージ店が入居しています。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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『伊東ゆうの万引きファイル』https://ufile.me dy.jp/

仮面ライダー俳優が万引き! Gメンが犯行の“常習性”と警察の “忖度” を解説

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、男性アイドルグループの人気メンバーで、元仮面ライダー俳優でもある男が、昨年10月に福岡県内の商店街にある閉店間際のドラッグストアで万引き行為に至り、捕捉されていたことが判明しました。用いた手口は、隠匿。その犯行態様が明らかにされていたので、被疑者の挙動や店側の対応など、気になるところを時系列に沿って検証してみます。

 犯行現場は、ドラッグストアK。得られた情報により確認したところ、昔ながらの薬局がドラッグストアになった雰囲気のお店で、大きさでいえば、コンビニエンスストアと同じくらいでしょうか。このタイプの店舗は、売場面積の関係から高い棚を設置する場合が多く、結果として死角箇所が目立つレイアウトになってしまうため、万引き抑止が難しいのです。

 犯行当日、残暑のなか大きめのロングパーカーを羽織って、ハットを深めにかぶって顔を隠すようにして店に入ってきた被疑者は、カゴを持つことなく商品を手に取り店内の死角に向かっていきました。おそらくは高齢者層の顧客が中心だろう商店街のドラッグストアに、そんな服装で入っていけば目を引くに違いありません。

 案の定、そのあやしさは際立っていたようで、閉店準備に勤しむ店員さんの目にも留まり、行動を監視されることになりました。

 品出しのフリをしながら脚立に上って、被疑者の頭上から気付かれぬよう行動を監視した店員さんは、整髪料や化粧品などの商品を上着のポケットや袖口に隠匿する犯行の一部始終を現認。

 隠匿した商品の精算をすることなく店の外に出た被疑者は、店員さんの制止を振り切って、およそ300メートル先まで全力疾走で逃走した後、たまたま通りかかった通行人の手により確保されました。追跡してきた店長と警備員に引き渡された後も事務所までの同行を嫌がった被疑者は、1万円札を取り出して

「これで勘弁してください」
「見逃してください」

 と懇願するなど30分ほど抵抗したそうです。犯行を現認した店員さんは、被疑者が出演していた仮面ライダーシリーズの視聴者で、入店時から彼の正体に気付いていたとのこと。この場で捕まることなく逃げきったとしても、いずれ事件は明るみになっていたに違いなく、捕捉時における往生際の悪さが余計に残念な展開となりました。

 被害は、ヘアオイルなど計6点、合計で9,000円ほど。

 万引き事案でいえば、なかなかの高額被害といえ、状況から察すれば初めてのこととは思えません。人目を引くアイドルという立場にありながら、大胆な犯行に及んだ理由を思えば、捕まらない自信もあったのでしょう。バッグなど犯罪供用物を使うことなく、複数の商品をさまざまな場所に隠す手口をみれば、ゲーム感覚で犯行に及んだ側面すら感じられます。

「気が高ぶってやった」

 警察官到着後は、犯行を素直に認めて謝罪に転じたそうですが、逃走を図り、逮捕者に買収を仕掛け、同行に抵抗したことに鑑みれば、前科前歴に関係なく逮捕されて当然といえるレベルの犯情(犯罪の背景)といえるでしょう。

 ところが、被害弁償したことなどを理由に逮捕されることなく微罪処分で済まされたため、ネット上などで警察の甘い対応を指摘する人も多くみられました。まして被疑者は、名古屋観光大使やあいち地位安全サポーター、愛知県警の広報大使としても活躍しており、絶対に間違いを犯してはいけない立場にある人物です。

 これらのことから警察による忖度を疑う声まで散見されましたが、今まで数多くの万引き犯を捕まえ処理してきた立場からいえば、このような結末はよくあることといえます。

 本件の場合、通りがかりの人による捕捉と閉店間際の犯行だったこともあり、おそらくは逮捕者や被害者の協力が満足に得られなかったのではないでしょうか。被害申告は任意のため、特段の事情がない限り断れますし、残業したくないなど被害者側の事情で申告されないこともあるのです。

 もっとも管内に大きな繁華街を抱える署なので、ほかの事件との兼ね合いで被疑者の処分を警察に一任させた可能性も捨てきれませんが、それは忖度といえるものではないでしょう。

「これを最後にしてくれたら、それでいい」

 私自身、捕捉した被疑者に対して、そう声をかけるようにしています。でも、逃走を図ったり、買収を仕掛けてきた被疑者に対しては、声をかける気持ちにすらなれません。

 また、彼のような有名人が万引きをして捕まると、すぐに窃盗症やクレプトマニアといった病気だと決めつけてかかる識者が散見されるようになりました。

「あの人が、そんなことをするはずがない。病気としか考えられない」

 罪を犯した有名人をかばいたくなる気持ちはわかりますが、事情も知らずに何かと理由をつけて病気に仕立てあげること自体が失礼な話で、そうした主張を目にするたび辟易とさせられます。

 今回の被疑者は、犯行理由を明確にしているにもかかわらず、ある情報番組では「病気なのではないか」と言及されていました。微罪処分で済まされたことで、病気を主張することなく自分の罪を認めたのだとすれば、個人的には治療の必要はないのではないかと思います。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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女性用下着を大量に“棚取り”した万引き男、コート内のブラジャーに「これは、違う!」と叫んだワケ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ようやくに暖かくなり、桜の花びらが舞う季節になりました。煮しめやおにぎりを持ち寄り、友だちとお花見を楽しみたいところですが、自粛ムードから抜けきれずに今年も断念。新型コロナウイルス蔓延以降、友人たちと顔を合わせることはなくなり、毎年恒例のイベントも消滅の危機を迎えているように感じます。またみんなと顔を合わせて、お酒を片手に笑いあえる日は、いつの日か。その日が来るまで生き延びようねと、みんなで励ましあいながら、ウクライナの状況を見守る毎日です。

 現場で頂く指令にも季節感があって、これから夏が終わるまでは、商店内における盗撮行為やトイレへの連れ込みなど、性犯罪に対する警戒が強化されます。女性の肌の露出が増えるとともに増殖するカメ(警察用語で痴漢のこと。覗き見る時に首を伸ばす特徴から)は神出鬼没で、捕捉するときには万引き犯と同じく、その挙動で判断するほかありません。

 このところ俳優や映画監督に性行為を強要された女優さんの告発が話題になっておりますが、商店においても性犯罪は頻発していて、多くの被害者が生まれているのです。今回は、それとは違う性的趣味の万引き犯について、お話したいと思います。

 当日の現場は、都内から車で1時間ほどのところに位置する大型ディスカウントストアD。巨大駐車場を擁し、広大なフロアでさまざまな商品を扱う地元で人気の巨大激安店です。この日の勤務は、午前10時から午後6時まで。2人勤務のため、この日のパートナーである男性保安員のリョウくんと現場近くの駅前で待ち合わせて、バスを乗り継いで現場に入りました。

 キャリア5年目のリョウくんは、34歳。この仕事は副業で、万引きの現場でしか味わえない興奮が癖になって、月に数日は現場に入っているそうです。一見、ガラの悪い感じに見える方ですが、柔術道場に通うスポーツマンで、その捕捉能力は高く、たとえ被疑者に殴られても離さないタイプの職員といえるでしょう。

「最近は、どう? 挙がってる?」
「そこそこですけど、最近は子連れが多いですね。前回は、幼稚園児の子どもを2人連れた30歳の女で、大量のチョコエッグをやりました。生活費が足りないからメルカリで売るんだって、そんなのばかりです」
「確かに。旦那が失業したからとか、お店がつぶれたからとか、そんな人が多いわよね」
「コロナで外国人が少なくなった分、主婦が増えている感じがしますよね。高齢者は相変わらずだけど」

 そんな会話をしながら事務所に向かい、店長に出勤のあいさつを済ませて、何かあったら連絡を取り合うことを約束してから二手に分かれて現場に入ります。

 午前中に、ビールや総菜など数点を盗んだ高齢男性の捕捉があって、店の事務所で微罪処分の処理を終えて現場に戻ると、まもなくして目を引く不審者が目に入りました。店内の端にある婦人服売場に、怪しく佇む中年男性を見つけたのです。

 江頭2:50さんのようなヘアスタイルで、一見して50歳くらいに見えますが、その年齢は定かではありません。黒いロングコートにビジネスバッグという姿から判断すれば、どこかにお勤めの方なのでしょうが、時計を見れば14時を少し回ったところで、勤め人が買い物に来るには早すぎる気がします。一緒に見ようと、リョウくんに連絡を取るべくスマホを取り出すと同時に、後方から声をかけられました。

「あの男ですよね?」
「そうそう、どう見る?」
「連れもいないようだし、あれはいきますよ」

 同じ不審者を同時に発見するのは、2人勤務の現場においてよくあること。裏を返せば相手の挙動が大きな証しともいえ、犯行に至る可能性は極めて高く、エガちゃん似の中年男性から目の離せない状況になりました。ましてや、男性がいるのは婦人服コーナーで、奥さんらしき人など連れの姿も見あたりません。いったい何をしに来たのかわかりませんが、初めに手にする商品を見れば、その目的も明らかとなるでしょう。

 “棚取り”を確実に見るため、二手に分かれて男性の手に視線を注ぐと、女性モノのスカーフややハンカチを物色しながら周囲の様子を伺う気配が見てとれました。そのままフラフラと女性用の下着売場まで歩を進めた男性は、カラフルなショーツとブラジャーが吊るされている棚の前で足を止めて、少し離れた場所で品出しをする店員の動向を気にしています。

 するとまもなく、ハンガーのクリップについた下着をむしり取った男は、それらを次々とビジネスバッグの中に詰め込みました。特に好みはないようで、手当たり次第に手際よく、いくつかのセットを隠すと、ビジネスバッグのチャックを閉めて出口に向かって歩いていきます。

 予想を上回る早足についていけず、大きく引き離されてしまいましたが、リョウくんが射程圏内にいるので慌てる必要はありません。先に出た2人から少し遅れて外に出ると、制止を無視して立ち去ろうとする男を、必死に引き止めるリョウくんの姿がありました。

 もみ合う2人のところに駆け寄り、強引に歩を進める男の腕にしがみついて制止するも、火事場の馬鹿力を発揮されているようで止まりません。

「おい、待てよ! これ以上暴れるなら取り押さえるぞ」
「違う、ちょっと待って! 離せ!」

 何が違うのかはわかりませんが、制止を聞かずに私たちを引きずり歩いて抵抗したため、しびれを切らしたリョウくんが男の肩口を掴んで路上に転がしました。何をどうしたのか、あっという間に男を仰向けにすると、その上に跨って腕を抑えています。

 投げられた拍子にビジネスバッグを離したので、それを拾い上げてから、リョウくんの下で身を捩る男に聞きました。

「この中に隠した女性モノの下着、ちゃんと精算してもらえますか?」
「ごめん、違うんだ。お金は払うから、許してくれ!」

 違うというのが、この男の口癖のようですが、何が違うのかはまるでわかりません。ようやくにあきらめて、逃げる姿勢を失くした男を立たせると、はだけたロングコートの中にピンクのブラジャーがみえました。

「あなた、バッグだけじゃなく、コートの中にもブラジャー隠していたの?」
「これは、違う!」

 どうにも話にならないので、同行をリョウくんに任せて事務所まで連れていき、ビジネスバッグに隠した被害品を出させて身分確認を進めます。この日の被害は、計6点、合計で9,000円ほど。差し出された国民健康保険証によれば、男は46歳で、いまは無職だと話しています。場慣れしているのか、まるで反省の見えない態度の男に、少しイラついた様子のリョウくんが言いました。

「買えるだけの、お金は持っているよね?」
「いや、全然ない」
「これは、どうするつもりで? こんなに必要なの?」
「…………」

 その後、警察に引き渡された男は、いくつかの犯歴が認められたようで、送致されることになりました。担当の警察官によると、女性の下着をつける趣味があるらしく、買うのが恥ずかしくて盗んだと話していたそうです。もともとお金を持ってきていなかったことから、その言い訳を聞いて「違う」と言ってやりたくなりました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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「先輩の引退式があって……」バイク用品を万引きした少年に、店長が“愛ある一喝”を放ったワケ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ロシアによるウクライナ侵攻が現実となってしまい、現地の戦況報道を目にするたび、胸が痛み不安な気持ちに襲われます。ロシア軍による大量虐殺は、あまりに冷酷で、理由や背景はどうあれ決して許せるものではありません。

 我が国においても、北方領土や尖閣諸島の領有権をめぐる争いが存在しており、いつミサイルが撃ち込まれても不思議じゃない気持ちになりました。保安員引退後、ひとり静かに余生を過ごすプランを台無しにされてしまえば、自分の人生を否定されるに等しく、被害妄想を膨らませては戦々恐々としています。ウクライナの方々がおかれている現状を思えば、まさにそのような状態に陥れられており、あまりに悲惨でお気持ちを察することすらできません。また、各国による重い経済制裁を受けながら暮らすロシア人の苦しみも相当に深いはずで、一刻も早い停戦を願うばかりです。

 そんな中、日本国内は年度末を迎え、卒業シーズンが到来しました。この季節になると、きまって若い人たちの犯行が増え、その対応に苦慮します。犯罪にも季節感を感じさせるものがあり、時節に沿った警戒が必要なのです。今回は、先輩の卒業を祝うために万引きした人たちのことについて、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、東京の外れに位置するホームセンターD。東京都内とは思えぬ、緑豊かな街にある巨大店舗です。ワンフロアの広大な売場には、ネジ1本からペットの生体まで無数の商品が陳列されており、どこで何を盗まれてもおかしくない現場といえるでしょう。この日の勤務は、午前11時から午後9時まで。私鉄とバスを乗り継いで、自宅から1時間半ほどかけて現場事務所に到着すると、どことなくアルコアンドピースの平子さんに似た長身のイケメン店長が出迎えてくれました。

「今日はよろしくお願いします。最近、この辺の暴走族っていうか、若い子のバイク集団が、ウチの休憩所をたまり場にしていて困っているんだよね。万引きしているかはわからないけど、今日も来ると思うからさ、店の中に入ってきたら見てもらえる?」
「承知しました。何時くらいに、どれくらい集まりますか?」
「4~5人の集団なんだけど、いつもバラバラに来ているね。早いときには4時くらいから集まってくるかな」

 万引きは、少年の犯罪。そんなイメージがあるかもしれませんが、ここ数年、少子化の影響もあってか、少年万引きは減少しています。おそらくは、得られる利益と捕まるリスクのバランスが合わなくなってきている部分もあるのでしょう。万引きよりも、ひったくりや特殊詐欺、大麻売買などの犯罪に手を染める者が増えているようです。

 無論、認知件数が減っているとはいえ、地域によってはゲーム感覚や換金目的の犯行が頻発しており、その対応に苦心する商店は少なくありません。少年万引きは、共犯によるものが多く、逃げ足も速いため、外国人の集団万引き同様、捕まえにくい実態があるのです。彼らによる犯行の成功率を考えれば、その暗数は計り知れず、相当な被害を生み出しているといえるでしょう。

 巡回前に店内外の状況を把握すると、バイク少年たちのたまり場とされる休憩所は、店舗駐車場の一角にありました。店舗との位置関係を言えば、正面出入口の斜向かいにあって、その内部まで店内から監視できる状況です。

「来たわね」

 午後4時を少し過ぎた頃、入口付近を警戒していると、大きな背もたれのついた2台の派手なバイクが店舗前の駐輪場に入ってくるのが見えました。排気音が店内にまで聞こえてくるほど、ひどくうるさいバイクなので、すぐに気づいたのです。ガラス越しに彼らの動向を注視すれば、ヘルメットをミラーにかけて店の中に入ってきたので、気付かれぬように追尾を開始しました。

 一見したところ、18歳くらいでしょうか。パンチパーマはかけておらず、特攻服を着ているわけでもないので、暴走族というよりはいたずらっ子といった雰囲気です。じゃれあいながら店内を闊歩してカー用品売場で足を止めた2人は、それぞれがひとつずつパトライトを手に取って、何やらひそひそと話し始めました。手元がはっきり見える場所に身を潜めて様子を見守れば、箱から中身を取り出して配線状況などを確認しています。それからまもなく、商品本体だけをお腹に隠した少年たちは、空になった箱を棚に戻して売場を離れていきました。

 お揃いの物を盗むのは、少年万引きによくあること。申し合わせていたかのように、同じ手口で同じものを盗んだ2人は、目的を達成したらしく、何ひとつ買うことなく店を出ていきました。声をかけるべく外に出ると、早速に盗品を取り出して駐輪場で取り付け作業を始めたので、万全を期すために電話で店長を呼び出して立ち会ってもらいます。

 声かけは、現認者(犯行を目撃した者)である私がするつもりでいましたが、怒りが積もっていたらしい店長に先を行かれました。その怒気に圧倒されたらしく、すぐに作業の手を止めた2人は、抵抗の素振りを見せることもなく、今にも泣きだしそうな顔で店長を見つめています。重苦しい雰囲気に耐えかね、話を進めるべく少年たちに声をかけると、まだあどけなさの残る表情でこう返されました。

「ねえ、君たち。これを買えるだけのお金は持っているの?」
「いや、2,000円くらいしか持っていないです」
「おれは、3,000円くらいしかないです。ごめんなさい」

 拍子抜けするほど素直に対応してくれたので、被害品を各々の手に持たせて事務所まで連れていこうとすると、ほかの仲間たちがバイクに乗ってやってきました。友人を取り囲む私たちの様子を見て、すべてを察したらしく、声もかけてきません。沈黙の友人に見送られながら、2人を事務所に連れていき、粛々と事後処理を進めます。

 被害は、パトライト2点、合計で税込8,000円ほど。

 身分を確認すれば、別々の高校に通うという2人は共に17歳で、地元の友だちという関係でした。この店からバイクで20分ほどのところに家族と暮らしているらしく、商品の買い取りやガラウケに困ることはなさそうです。必要事項の確認を終え、2人の扱いを店長に委ねると、通報する前に彼らと話をしたいと言われました。

「おい、おまえら。いつも来ているけど、来るたびにやっているのか?」
「いや、初めてです。信じてください」
「じゃあ、今日は、なんで盗った?」
「先輩の引退式があって……」

 話によると、高校を卒業して就職する先輩の引退記念として、週末に集まってバイクで走る約束をしているらしく、その場を盛り上げるために使いたかったということでした。私からすれば普通の子にしか見えませんが、どうやら暴走族のようなバイクチームの一員のようで、そのギャップに驚くほかありません。

「ふん、くだらねえ。おまえら、ほかにも悪いことしてそうだから、警察呼ぶかな」
「いや、ちょっと待ってください。もう絶対にしないので、警察だけは……、すみません!」
「……面倒だし、まあいいか。じゃあ、おまえら、仲間も含めて、ウチには2度とたまらないって、約束してくれるか?」
「します、します。もう絶対に来ません!」

 その後、駐輪場で待つ仲間たちのところまで一緒に出向いて、2人の口から出入禁止になったことを伝えさせた店長が、みんなに2度と来ないと約束してもらうことで事態は終結。出入禁止と通告しておきながら、ちゃんと買い物をしてくれるなら来てもいいからと、どこか親しげに話す店長の真意が気になります。

「俺も昔、同じようなことしていたからさ。警察の相手も面倒だし、出禁にできれば、それでいいかなって。今日は、お手柄でした。ありがとね」

 法的には、警察に通報して引き渡すべき話で一抹の不安が残りましたが、被害者本人の意向に逆らう立場にもありません。本音を言えば、少年事案の事件処理は甚だ面倒で時間がかかるため、残業せずに済んでよかったと秘かに安堵した次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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『伊東ゆうの万引きファイル』https://ufile.me dy.jp/

ママは万引き犯! 幼い我が子の前で24点を窃盗……「警察に相談します」店長が怒りの通報

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、東海地方に出張する機会を頂き、某ドラッグストアで勤務してまいりました。コロナ禍以降、万引き被害が激増しており、キャリアと実績のある保安員を1週間ほど送り込んでもらいたいと依頼されたそうです。かといって、1週間もの間、出張に出られる職員は限られ、周囲を見渡せば私くらいしかいません。

「経費かかるし、地元の業者を使えばいいのに。なんでわざわざ?」
「どこも実績が乏しくて頼りにならないから、お願いしたくないと言っていました。経費をかけてもいいから、とにかく捕まえられる人を使えと、社長さんに指示されたそうですよ」
「そんなふうに言われたら、プレッシャーかかっちゃうじゃない。挙がらなかったら、どうするのよ?」
「澄江さんなら、普段通りで大丈夫ですよ。条件も悪くないので、行ってもらえますか?」

 はなからプレッシャーのかかる依頼ですが、営業担当の口ぶりから断れる雰囲気にありません。ビジネスホテルに泊まるのは、あまり好きではないのですが、成果次第で特別手当も出るというので、たまにはいいかとお受けした次第です。

 当該店舗は、昼夜それぞれの時間帯に常習者を抱えているらしく、勤務時間は日によってバラバラで、夜間勤務のシフトも組まれていました。ここ数年、換金目的の常習者や外国人窃盗団による被害が多く、顔認証システムなどの防犯機器も新規に導入したそうで、お店の本気が感じられます。

 出張初日の勤務は、午前10時より午後6時まで。早朝に自宅を出て、新幹線とローカル線を乗り継ぎ、見知らぬ街の景色を楽しみながら現場に向かいます。

(ああ、ここね)

 挨拶のため、搬入口から事務所に入ると、どことなく島崎和歌子さんに似ている30代前半と思しきグラマラスな女性店長が出迎えてくれました。

「おはようございます。一週間、よろしくお願いいたします。最近の被害は、いかがですか?」
「こんな田舎まで来ていただいて申し訳ありません。最近は、若い主婦の方とかが、よく捕まっていますね。あとは外国の人。ちょっと前にも、棚にある商品を軒並み盗られて、20万ちょっとの被害になりました」
「捕まえたんですか?」
「いえ、逃げられました。映像が残っていたので、被害届は出しましたけど。見ます?」

 警察に提出したばかりだからと話した店長は、手慣れた様子で犯行時の映像をモニターに映し出してみせました。そこには、アジア系外国人らしき男3人組が、見張りを立てて犯行に及ぶ様子が映っており、3人が売場を離れた後の商品棚がスカスカになっているところまで確認できます。

 未精算のまま外に出た3人組が、車に乗って逃走するところで映像は終了。駐車場に設置される防犯カメラが、逃走車の色やナンバーまで捉えていました。

「ナンバーも映っているし、すぐに捕まると思ったんですけど、盗難届の出ているナンバーだったみたいで、まだ捕まっていないんです」
「こういうタイプが来たら、どうします? 犯行の現認はできても、捕まえるとなると、応援が必要なんですけど」
「警察にも伝えてありますし、警備員さんもいるので、うまく連携してやりましょう」
「わかりました。何かあったら早めに報告しますね」

 はっきり言ってしまえば、即時対応できなければ、集団万引きの摘発はできません。それが私の仕事なのですが、高齢者域にいる女の限界は低く、ひとりで立ち向かえるわけないのです。もし、同じような場面に遭遇したら、商品だけでも取り返す。そう心に決めて、巡回を始めました。

(ちょっと話が違うじゃない……)

 たくさんいるという言葉を信じて、気を抜くことなく巡回するも、気になる不審者は見当たりません。わざわざ呼ばれてきたのに、初日から坊主を出してしまえば、明日からの居心地も悪くなることでしょう。勤務時間中に挙がらなければ、少し残業をしてでも、結果を出して帰りたい。そんな気持ちで売場を眺めていると、勤務開始から6時間ほど経過したところで、ようやく強めの不審者が目に留まりました。

 まだ就学前と思しき2人の女子児童を連れた20代前半に見えるかわいらしい女性が、比較的高額な自然派化粧水と乳液を3本ずつカート上のカゴに入れたのです。芸能人で例えるならば、鈴木奈々さんといったところでしょうか。目が離せなくなって追尾を始めると、ビタミン剤やサプリメントが並ぶコーナーに向かった女性は、特に吟味することなく、いくつもの商品をカゴに入れると、おむつ売場へ向かって歩いていきました。

(やるとしたら、ここよね)

 おむつやトイレットペーパーの売場は、商品の大きさから棚が高くなりがちで、店の死角になっていることが多いのです。そこで、おむつとおしりふきをカートに乗せた女性は、それを幕(死角)にして手元を隠すと、これまでに棚取した商品すべてを持参のバッグに隠しました。

 何も知るはずのない子どもたちは、赤ちゃん用のおもちゃを手に嬌声を上げて遊んでおり、その横で犯行に及ぶ女の神経を疑います。商品を隠したバッグのチャックを閉めて、はしゃぐ子どもたちを一喝して売場を離れた女は、おむつとおしりふきの精算を済ませて外に出ました。

 車のキーを片手に、駐車場内を子どもたちと並んで歩く女に、そっと声をかけます。

「こんばんは。お客様、ちょっとよろしいですか?」
「はあ? なんですか?」
「なんですかって、子どもたちの前だけど、私から言わないとダメですか?」
「あ、ごめんなさい……」

 正気を取り戻したのか、犯行を素直に認めた女は途端に涙を流して、わなわなと震え始めました。その顔を正面から見れば、まだ幼さが残っており、ふたりの子を持つ母親には見えません。いつものように、大丈夫だからとなだめながら事務所に連れていき、盗んだ商品をデスクの上に出させたうえで身分確認を求めます。

 差し出された運転免許証によると、女は23歳。土地勘がないので住所を見てもわかりませんが、この店から車で5分ほどのところにある一軒家で暮らしていると話しています。

 今回の被害は、計24点、合計3万8,000円ほど。

 買い取れるだけのお金を持っているか尋ねると、現金はないけどカードでなら支払えると、涙ながらに言いました。うつむく母親の顔を、不安気に覗き込む子どもたちは、場面を読んでいるのかひと言も発しません。その様子を、苦々しい顔で眺めていた店長が、子どもたちに聞こえないくらいの声で女に問いかけます。

「あなた、子どもたちの前で、とんでもないことしているわね」
「ごめんなさい……」
「これ、なんのために盗ったのよ? 転売目的よね? いままでに捕まったことはあるの?」
「……本当に、ごめんなさい。子そもがいるので、警察だけは勘弁してください。お願いします!」

 ひどく慌てた様子で店長にすがりついた女は、右腕を抱きかかえて泣きつき、お願いしますを連呼しています。

 ひどく困惑した様子で、子どもたちと私の顔を交互に見た店長が、犯行の理由を改めて問い質しました。

「こんなにたくさん盗って、そう簡単には許せないわよ。どうして盗ったのか、理由があるなら聞いてあげるから、言ってごらんなさいよ」
「実は、旦那が逮捕されちゃって、どうしていいかわからないんです。働くにしても、子どもを預けられるところなんてないし、助けてくれる人なんて誰もいなくて……」
「だからって、盗ったらダメでしょ。ここで見逃しても、あなたは同じことするほかないわよね? 子どもたちのためにも、警察に相談します」

 結局、警察に引き渡された女は、その場で逮捕されることになりました。別々のパトカーで所轄警察署に向かい、調書作成のため刑事課の取調室に案内されると、ずいぶんとフレンドリーな初老の刑事が担当でした。ベテランながらも、あまり仕事ができそうにない感じのする人で、着席すると同時に被疑者の背景を話しはじめました。

「あの女、前が大麻じゃなかったら、子どもらと家に帰れたんだけどね。旦那もお勤め中だし、パクるほかないよ」
「子どもたちは、どうなるんですか?」
「とりあえず児相(児童相談所のこと)だね。ちゃんとした親族が身請けして、面倒見てくれたらいいけど、世の中の状況も悪いから難しいよな」

 午後11時過ぎ。逮捕手続きを終えて警察署を出ると、すっかり寝入ったらしい子どもたちを抱きかかえた職員が、どこに行くのかワゴン車に乗り込むところを見ました。母娘を引き裂く結果を招いた自分の仕事に、嫌気がさしたのは言うまでもないでしょう。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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「なんだかガラの悪い女ね……」74歳万引き犯にGメン怒りの展開! 高齢者夫婦の一部始終

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、ごく限られた私の周囲だけでも新型コロナウイルスに感染する方が急増しており、外出するたびに不安を覚えます。仕事以外は人と会うことなく自粛に努めた生活を送っているので、濃厚接触者に該当することはありませんでしたが、話を聞けば感染した人たちも同じような生活をしている方ばかり。幸いなことに、知り合いに今のところ死亡者は出ていないものの、いつ自分が感染してもおかしくないことを改めて痛感させられました。

 親友の孫夫婦などは、出産予定日間近である奥さんの感染が判明してしまい、帝王切開による出産を余儀なくされたとのこと。自然分娩だと長時間にわたって激しくいきむことになるため飛沫が飛散しやすく、医療スタッフに対する感染防止が難しいとして、帝王切開による出産の同意を求められたそうです。

 望んでいた夫の立ち合いはおろか、面会すら許されない環境の中、防護服に身を包んだ看護師に取り囲まれて出産に臨んだそうで、無事に生まれたと聞いた時には胸をなで下ろす思いがしたと話していました。自分の息子や孫を憂う彼女の気持ちに触れ、孤独な自分の環境が寂しく、いたく身に染みた次第です。

 今回は、それとは逆に、万引きをして捕まり、息子に身柄を引き受けさせた老夫婦について、お話ししていきたいと思います。

 当日の現場は、関東近県のベッドタウンに位置する総合スーパーY。食料品をはじめ、日用品やコスメドラッグまでも扱う広大な売場に、いくつかのテナントとフードコートまで擁する郊外型の大型店です。長期にわたりご指名いただいているため、店長との関係も良好で、私にとっては居心地のいい現場の代表格にあるといえるでしょう。

 この日の勤務は、午前9時より午後5時まで。開店待ちのお客さんを入口で出迎え、アルコール消毒を促しながらカゴを差し出す店長に、目だけで挨拶をすませて店内に潜入します。

 勤務開始から、およそ2時間。昼のピークを迎えつつある店内で、70代と思しき女性が目に留まりました。カゴやバッグを持たずに、手ぶらの状態でポケットに手を突っ込んで歩く姿に、どこか違和感を覚えたのです。

(なんだかガラの悪い女ね……)

 眼光鋭く、周囲を睨むようにして歩く女性の顔は、後妻業で話題になった筧千佐子死刑囚に似ていました。黒の革ジャンに、真っ赤なニット帽という派手な服装もうるさく、それを目印にして行動を見守ります。

 するとまもなく、ガムやミントなどを主に陳列する小物菓子のコーナーで足を止めた女性は、複数の「ミンティア」を手に取りました。続けて、袋物のせんべいを手にして、外周の通路に戻ったところで、たくさんの商品を詰めたカゴを載せたカートを押す旦那さんらしき人と合流します。

(なんだ、旦那さんと来ていたのね)

 そう安心したのも、束の間。カートに近付き、袋物のせんべいをカゴに入れた女性は、手に「ミンティア」を持ったまま歩き始めました。隠し持つように握っているので、目が離せなくなって追尾を継続すると、この店一番の死角である日用品売場に入っていきます。

 この上ない早足で近づき、棚のエンド(端)に身を潜めながら見守ると、ふたりの会話が聞こえてきました。

「これ入れちゃおうかな」
「馬鹿、なに言ってんだ。やめとけよ」
「大丈夫よ、これくらい」
「ったく、しょうがねえなあ」

 革ジャンのポケットに吸い込まれる「ミンティア」を見届けた旦那さんは、自分には関係ないといわんばかりに、その場から離れていきました。その一方、振り返って後方を確認した女は、革ジャンのポケットに手を突っ込んだまま、肩で風を切るようにして旦那さんの後を辿って歩いていきます。

 しばらく買い回りを続けて、「ミンティア」以外の精算を済ませた2人が外に出たところで、そっと声をかけました。

「こんにちは、お店の保安です。ポケットに入れたもの、お支払いいただきたいんですけど」
「え? ああ、これね。そうだそうだ、忘れてた」
「全部見ていましたけど、それは違うと思いますよ。お父さんも、ちょっと待って!」

 気付いていないフリをしているのか、奥さんから呼び止められているにもかかわらず足を止めない旦那さんは、呼びかけを無視して車に乗り込もうとしました。目を離すわけにもいかないので、慌てて女の手を取って一緒に駆け寄り、商品を車に積もうとする腕を掴んで制止します。

「お父さんも、一緒に来てくださいよ。奥さんが万引きしたの、わかっているでしょう?」
「俺は、やめろって止めたよ。だから関係ない」
「関係ないって、ご夫婦ですよね? 止めていたことも知っているけど、共犯になっちゃうかもしれないから、一緒に来てくださいよ。ね、お願いします」
「もう、言わんこっちゃねえよな。お前は、ホントに……」

 ほかにも盗品が紛れ込んでいる可能性が捨てきれないため、カートの先を廻して方向転換した後、それを押しながら3人で事務所に向かいます。空いている椅子に座らせ、デスクの上に盗んだ「ミンティア」を出してもらい、ほかに盗んだものがないか確認すると、それ以外に未精算のものは見つかりませんでした。被害は、「ミンティア」3点、合計300円ほど。

 身分確認を進めたところ、ふたりともに74歳で、この店から車で10分ほどの場所に住んでいることがわかりました。ふたり合わせて10万円以上の現金を所持しており、きちんと精算した分のレシートには、5,000ポイント以上のポイント残高も記されています。

「お金でもポイントでも払えるのに、どうしてこれだけ入れちゃったんですか?」
「たくさん買うし、このくらいなら、いいかなと思って」
「ご主人に、止められていましたよね。なのに、どうして?」
「いやあ、絶対にわかんないだろうと……」

 まるで反省の見えない口調で、不貞腐れたように話した女は、頬杖を突きながら言いました。こんな謝罪は、長いキャリアの中でも珍しく、言い知れぬ怒りが込み上げてきます。

「あなた、自分が悪いことしたって、わかっていますか?」
「そんなの、わかっているわよ。どうもすみませんでした! お金払うから、いいでしょ。このくらいのことで、そんなに大騒ぎしないで。もう、わかったから」

 もはや逆切れの状態で、私に背を向けてデスクに寄りかかった女は、とても万引きをして捕まった人とは思えぬ態度で居直っています。その場にいるみんなの口が、開いたまま塞がらない状況になると、その重苦しい空気に耐えかねたらしい旦那さんが言いました。

「おい、なんだその態度は! 本当に申し訳ありません。もっと強く止めていればよかった。ほら、お前も、ちゃんと謝れ」
「もう何度も謝ったわよ」
「なんで、そうなんだ。お前は!」

 馬耳東風。旦那さんの言葉すら響かず、不遜な態度を取り続けた女は、警察に引き渡されても態度を変えません。あり得ない対応に苦慮した若い警察官は、共犯関係を理由に、逮捕も辞さないと脅してみせました。

 しかしながら上役の係長は、明らかに面倒くさそうな顔で、人員不足を理由に消極的な姿勢を貫きます。

「前はないし、商品を買い取れるし、息子さんも迎えに来てくれるっていうからさ。今日は、厳重注意で済ませます。余計な時間とらせないし、それでいいでしょ?」

 高齢者万引きの再犯率は、優に5割を超えています。たかが万引きだといわんばかりの警察対応では、現状を変えることにはならないでしょう。捕捉時の説諭は、再犯防止において非常に重要なことなのです。

 結局、警察署には行くことなく、店の事務所まで息子さんを呼び出し、彼に身柄を引き渡すことで事態は終結。

「いい年こいて、こんな安いもの盗んで、なに考えてんだよ? こんな場に、俺を迎えに来させて、どんな気持ちか言ってみろ!」
「ほんと、このくらいのことでさ、大騒ぎしすぎよね?」
「はあ? もう帰ろうかな、俺……」

 息子に責められても、なお、デスクに寄りかかって対応する女に反省の色は皆無で、再犯に至る可能性が十分に感じられます。この先のことを悪く思えば、妻を置き去りに立ち去ろうとした親族の気持ちも理解でき、彼女の余生が心配になりました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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“万引き犯”に手を握られ……スーパーの鮮魚部長メロメロ!? 罪を犯した相手に「いつでもうまいもん食わしたる」!

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、とある報道番組で、米国ニューヨーク州のドラッグストアにおける万引き現場の実態を目にしました。摘発しても警察が満足に対応しないことから、警備員は余計なトラブルを避けるべく犯行を見逃しているようで、堂々と商品を持ち出されているありさまです。

 頭を下げて店を出ていく万引き犯を、微笑みながら送り出す警備員の姿を見て我が目を疑う思いがしましたが、どうやら真実のようで世界の終焉すら感じました。この先の世界は、どうなってしまうのでしょうか。老い先短い私にできることなどありませんが、せめて現場の軒先で息絶えることなく、余生を穏やかに過ごせることを願うばかりです。

 日本国内の外国人による万引き被害は相変わらずで、高額品を狙う換金目的の大量万引き被害は全国で頻発しています。昨今は、仕事の減少に起因する生活苦から、やむなく犯行を繰り返す外国人留学生も見かけるようになりました。特定の地域に位置する店舗においては相当数の外国人常習者が潜在しており、昨今のコロナ不況が追い風となって、その裾野は広がっているといえるでしょう。

 今回は、昨年末に捕捉した外国人万引きの事例について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東近県を走るローカル線の駅前に位置する総合スーパーS。食料品のほか日用品やコスメドラッグも扱う大きめの店舗で、その品揃えと値段設定が地域で評判の人気店です。本社が西にあるため、店長をはじめとする社員の多くが関西や四国方面の人で構成されている珍しいお店で、皆さんが言葉に気を使わないバックヤードにいると出張にきたような錯覚を覚えます。

 この店に入るのは、かなり久しぶりのこと。裏の通用口から入って事務所に伺い、出勤の挨拶をするため店長を呼び出すと、どことなく亀田史郎さんを彷彿させる30代前半くらいと思しき色の黒い強面の男性が現れました。前に来た時とは違う方で、今回が初対面になります。

「おばちゃんが、今日のGメンはんか? ウチは主婦の常習さんもいれば、外人さんやホームレスの常習さんもぎょうさんおるから、あんじょうたのんますわ」
「はい、よろしくお願いいたします。捕捉があった場合は、こちらで大丈夫ですか?」
「うん、ここに連れてきたって。ガッツリ、シメたるから。ウチの鮮魚部長、万引き好きなんよ」

 どうやら万引き対応は鮮魚部長が担当されているようで、その立場は店長より上のように聞こえます。万引きが好きという言葉の意味を問うてみれば、警察や万引きの実録番組がお好きで、警察や犯罪者との関わりを好む方のようです。そのような人は、たまにいるので、特に気に留めることなく巡回を開始しました。

(ああ、あの人ね……)

 店内に入ってまもなく、巡回がてら鮮魚売場の調理場に目をやると、刺身包丁を片手にダミ声で指示を出す鮮魚部長の姿が確認できました。おそらくは50代前半くらいの方でしょうか。目つき鋭い精悍な顔つきは、昭和の大親分といった雰囲気で、包丁を持って構える姿からは説得力のようなものすら感じます。

(この人に怒られたら、きっと泣く)

 そう感じさせるほどの威圧感が、体全体から発せられているような方で、強面の店長と並べば相当な威力を発揮するだろうと容易に想像できました。ここで結果を出せなければ、その威圧感を味わうことになる。知らぬ間に、自分が威圧されていることに気付いた私は、目を凝らして不審者の発見に勤しみます。

(ん? あの子、なんだろう?)

 午前11時半過ぎ。いつにも増して集中していると、お昼のピークを迎えつつある店内で、20代前半くらいにみえる女性が目に留まりました。タレントの岡田結実さんに似ている顔立ちの整った美人さんが、この店一番の死角である酒売場でリュックを降ろし、商品らしき袋状の物を入れていたのです。その様を見れば、何かを隠したようにしか思えず、目を離さないことに決めました。

 降ろしたリュックを左肩に背負い、左手にコートを下げた結実さんは、カゴを持たないまま総菜売場に向かって早足で歩いていきます。そこでグリーンサラダを手にしたあと、各売場でプレッツェル、フルーツスムージーを手に取って重ね持った結実さん。それらをコートで覆い隠して店の外に出ていきました。

(やっぱりね)

 心の中で呟きながら結実さんの後を追い、リュックのひもを掴むと同時に、そっと声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。お持ちのサラダとか、お支払いただけますか?」
「チガウ、ゴメンナサイ、イマハラウ」

 近くで接してみると、思ったより大柄だった結実さんは外国人で、私を振りきって店内のレジに舞い戻ろうとしました。少し引きずられながらも両手でつかんで制止して、事務所で支払ってもらうよう声をかけながら、逆に押し込むようにして連行します。その道中、なぜか手を握ってくるので、これ幸いと逃走を阻止するべく握り返して対応しました。

「万引きです」

 手をつないだまま事務所に入ると、パソコン作業の手を止めた店長から、応接室に結実さんを通すよう指示されます。コートの下にある未精算の商品をテーブルに並べてもらい、続いて身分証明証の提示を求めると、財布から外国人登録証を取り出してくれました。確認すれば、ベトナム人留学生だった結実さんは21歳で、店の近くにあるワンルームマンションでひとり暮らしをしていると、片言の日本語で話しています。

 今回の被害は、計5点、合計で800円ほど。

 一番初めに隠していたのは、袋詰めのパプリカで、盗品はダイエットに効果がありそうな食品ばかり。滞在期間に問題はないようですが、お金は一銭も持っておらず、警察を呼ばれてしまえば大事になる様相です。本人もわかっているのか、執拗に私の手を握ったまま、その場に膝をついて涙ながらに「ゴメンナサイ」と繰り返しています。

「なに盗ったん? ゼニはあんの?」

 状況確認にきた店長が応接室に入ってくると、膝をついたまま方向転換した結実さんは、許しを請いながら両手で店長の手を握りました。それを嫌がることなく被害品を一瞥した店長は、手を握られたままデスク上にある電話の受話器を上げると、内線で鮮魚部長を呼び出します。

「なんや、またバアさんかと思ったら、若い姉ちゃんやないかい。珍しいのお」

 床に座る結実さんを見て、毒気を抜かれた様子の鮮魚部長が、店長を睨んで言いました。

「おどれ、なに鼻の下伸ばしてるんや! とっとと、通報してこんかい!」
「はい、すみません」

 慌てて手を放し、目の前の電話を使うことなく応接室を出た店長は、自分の席から通報を始めました。店長に代わって、鮮魚部長が結実さんの脇に立つと、すかさずに手を握られて縋りつかれます。

「おい、姉ちゃん。かわええ顔して、なんで盗ったん? 腹すいとったんかい?」

 若くきれいな女性に手をつないでもらえたことが、よほどうれしいのでしょう。うるうるとした目で見つめる結実さんに、目じりを下げて声をかける鮮魚部長の顔は別人のようで、言ってしまえばかつてアジア諸国の夜の街で見かけられた日本人にみえました。

「おっちゃんに言ってくれたら、いつでもうまいもん食わしたるのに」

 下心全開で口説いておられますが、日本語が理解できない様子の結実さんは、鮮魚部長の手を握ったまま祈るようにしています。

「これは、身柄(逮捕のこと)になるな。保安員さん、お時間は大丈夫ですか?」

 しばらくして臨場した警察官は、被疑者が外国籍のためか逮捕する気満々でおられましたが、鮮魚部長の一言で状況が一変します。

「反省しているようやし、被害届は出さんでおきますわ」

 結局、盗んだ商品を返却したうえで、彼女の居住確認をすることで事態は終結。日本語がわからないため状況を飲み込めず、警察官の手を握って泣き咽ぶ結実さん。それを見る鮮魚部長は嫉妬に燃えているようで、店を後にするまで粘着質な視線を送り続けておられました。

「Gメンはん、おつかれさん。今度、あの子見かけたら、ワシに連絡してくれるか」
「はあ……」
「メシ食わしたるって約束してもうたから、もし来たら頼むわ」

 男はいくつになっても若い女性に弱く、手を握られるだけで、その立場すら忘れてしまう生き物のようです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
『伊東ゆうの万引きファイル』

万引きGメンを負傷させた我が娘! 土下座する父親に店長が「ポリ袋の大量使用」チクリ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 一度は収まりかけた新型コロナウイルスの蔓延も、オミクロン株の猛威により台無しとされ、またしても日常生活に大きな影響が出てきました。仕事量の減少はもちろん、数多くの物品が値上がりしており、この先の生活に大きな不安を覚えています。

 まもなく落ち着くと言い聞かせて、自分を奮い立たせておりますが、今年で私も68歳。仕事に対する熱意はあるものの、もはや風前の灯火となって、近頃は現場に立つことが億劫になってきました。それに加えて、近頃の万引きは悪質かつ凶悪化しており、声かけに対する恐怖心も増大しています。つい先日には、いくつかの食品を万引きした若い女に声をかけたところ突き飛ばされ、お尻に大きなアザができました。今回は、その時のことについて、お話ししたいと思います。

スーパーのポリ袋を異常使用する客が増加中

 当日の現場は、都内下町のベッドタウンに位置する食品スーパーM。ドラッグストアや衣料品店、100円ショップなどが軒を連ねるショッピングモールの1階に入るお店で、ワンフロアの広い売場を有する万引き被害多発店舗です。

 この日の勤務は、午前10時から18時まで。本来であれば、内部不正を防止するために身分は隠しておきたいところですが、慣れ親しんだ現場であるため、顔なじみであるスタッフの皆さんに挨拶をしながら事務所に向かいます。いくつかの捕捉を重ねてしまえば、自然と身バレしてしまうので、隠しきれないのです。

 まるで相撲取りのような体躯をもつ店長のところまで挨拶に出向き、直近の状況を尋ねると、売場に設置されるポリ袋が頻繁に盗まれて困っていると嘆かれました。近頃は、コロナ対策のつもりなのか、どこのスーパーにおいてもポリ袋を大量使用する人が目につきます。

 精算前にもかかわらず、ひとつひとつの商品をポリ袋に入れてからカゴに入れるほか、手袋やレジ袋代わりに使用する人が多いのです。なかには、設置されたポリ袋を丸ごと持ち去る人もいて、店長を通じて声をかけたこともありました。寿司コーナーのしょう油やワサビ、ガリといった提供品を大量に手に取り、ポリ袋に詰めていかれる人も数多く存在しており、その厚かましさには閉口するばかりです。

 無料提供されるものを独占するような迷惑客にも注意を払いながら巡回を始めると、昼前になって、この場にそぐわぬ服装をした10代後半と思しき女性が目に留まりました。読者モデルのような派手なメイクをしたミニスカートにブーツ姿の少女が、長い金髪をなびかせながら店に入ってきたのです。周囲を見れば、子連れのヤンママか高齢のお客さんばかりで、その存在は店内で得意な雰囲気を放っています。

「不審者は、自然と寄ってくるもの」

 昔、先輩に教わった言葉を思いだしつつ、なんとなく気になって見ていると、総菜売場に直行した少女はポリ袋をロールから切り取って、その中に焼肉弁当を入れました。続けて、野菜スティックとカスタードプリン、それにスムージー系のドリンクを手に取っては、ひとつずつ袋に詰めるという行動を繰り返します。袋の口を結びながら歩いていくので不審を強めて後を追えば、レジ列に並ぶことなく通過して、未精算の商品を抱えたまま出口に向かって歩いていきました。いわゆる、持ち出しという手口です。出口直前から速度を上げて、この上ない早足で外に出た少女の後を必死に追いかけ、そっと声をかけます。

「お店の者です。何かお忘れ……」

 声をかけた途端に振り返った少女は、袖口をつまむ私の手を振り払って転倒させると、高いヒールの音を立てながら逃げ出しました。すぐに立ち上がって全力で後を追うも、お尻あたりに痛みを感じて、きちんと走ることはできません。あきらめることなく、左足を引きずるように追いかけると、左手にある団地群の敷地内に逃げ込む少女の姿を目撃しました。

 警察に通報しながら後を追って、団地の敷地内を見回すも、すでに女の姿はありません。周囲の様子を見張りながら警察の到着を待つことにして、誰でも通行可能な中通路から各棟の入口を見て回ると、放置された自転車のカゴに盗まれた商品を入れたポリ袋が入っているのを見つけました。ここで待機することにして、まもなく到着した警察官に状況説明をしていると、この団地の住民らしい初老の男性が話しかけてきます。タレントさんに例えれば、「さらば青春の光」の森田さんに似ている感じの人です。

「何かあったの?」
「そんな大したことじゃないんだけど、ちょっと人を探しています」

 詳しい説明を避けつつ、不安を抱かせないように応じる警察官に、不満気な顔をみせた森田さんが尋ねます。

「どんな人? ここに住んでいる人なら、大体わかるよ」

 それならばと、警察官が逃走した女の人着を伝えてみると、みるみる顔を曇らせた森田さんが言いました。

「それ、ウチの娘だ。あいつ、何したの?」
「まだハッキリとは言えないんだけど、もしそうなら娘さんを呼び出してもらっていいですか?」

 件の自転車を停めた建物とは違う場所にお住まいのようで、ひとつ隣の棟の入口から自室に向かった森田さんは、玄関口から大声で娘の名前を連呼すると、引っ張るようにして連れ出してきました。うなだれていて、はっきりと顔は見えませんが、間違いなく犯人の女です。

「この人です」

 当たりであることを伝えると、すぐに女の脇を固めた警察官たちは、放置された盗品のところまで女を連れていきました。そこで犯行の認否を問われた女は、うなだれたままダンマリを決め込んでいます。

「やったなら、やった。やっていないなら、やっていない。はっきり言いなさい!」
「……ごめんなさい」

 父からの取り調べに、勝るものはありません。ごめんなさいをしたと同時に泣き始めた女は、ぼろぼろと涙を流しています。驚きと失望、それに恥ずかしさが混在する複雑な表情で娘を見つめる森田さんは、両拳に力を入れて、何かを堪えているように見えました。

「なんで、そんなことしたんだ?」
「わかんない……」
「自転車のカゴに入れたのは、なんで?」
「怖くなったから……」

 今回の被害は、計4点、合計で1,500円ほど。定時制高校の3年生だという少女に前歴はなく、森田さんがガラウケとなり商品代金も支払うというので、一度店に戻って店長に謝罪し、以後の判断を仰ぐこととなりました。

 事務所に到着して、店長が現れるなり森田さんが土下座をして、娘も後に続きます。

「突き飛ばして逃げたのは悪質だから。どんなに謝られても被害届は出します。もう、やめてもらえますか」

 親娘の懇願は叶わず、事件処理されることになった少女は、警察署に連行されることとなりました。森田さんは後で迎えに来るよう警察官に指示され、一旦は家に帰るようです。商品代金の精算時、森田さんに釣銭を渡す店長が、嫌味たっぷりに言いました。

「ポリ袋の使い方も、娘さんにご指導願えますか。ウチは出入禁止だから、関係ないかもしれないけど」

 残業することなく帰宅して、入浴時に痛むお尻を確認すると、うっ血して真っ黒になっていました。病院で診断書を取るのは面倒だし、大事にせぬよう暴行についての被害申告はしていないので、泣き寝入りするほかありません。トイレに入るたび、両拳を握りしめた森田さんの姿を思い出し、痛みを堪える次第です。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

※本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
『伊東ゆうの万引きファイル』https://ufile.me dy.jp/

福袋に盗品詰め込んだ万引き老女、「お正月だから妹とおいしいものを食べたくて」警察官も呆れ

 こんにちは、保安員の澄江です。

 昨今、メインの仕事場であるスーパーマーケットが年末年始に休業するようになったため、今年の年始は巨大ディスカウントストアにおける勤務から始まりました。生鮮食品やお弁当、酒にコスメドラッグ、カー用品や洋服などまで扱う広いお店で、日が合えば一日に数件の摘発がある現場です。

 こうした店の多くは、比較的地価の安い、交通の便が悪いところにあるのが特徴で、私のような低所得者層が主たる客といえるでしょう。その客層は悪く、多くの常習者を抱えているため、年末年始の繁忙期には、多くの警備員を投入して警戒を強めています。

 この日の勤務は、午前9時から午後17時まで。開店15分前にもかかわらず、すでに100人以上の人が列をなして、扉が開くのを待ち受けています。

 店長が多忙なため、出勤のあいさつは電話で済ませるよう指示されていたので、初売りの福袋目当てに並ぶ人たちの列を眺めながら連絡を入れました。

「正月だから、高額品をメインに見てくれる? 酒1本とか、小さいのはいいから」
「お気持ちはわかりますけど……」

 よほど忙しいのでしょう。高額もしくは大量の被害以外は、相手にしたくないと言われます。裏を返せば、少しならば盗まれてもかまわないと言っているに等しく、耳を疑う思いがしました。そのような姿勢こそが常習者をはびこらせ、商品ロスを蓄積させる要因になるのです。しかしながら、末端の保安員である私が、クライアントの意向に逆らえるわけもありません。

 ひとこと言ってやりたい気持ちを堪えて、気持ちを落ち着かせるべく行列を見渡せる位置にある喫煙所で一服しながら開店を待っていると、色褪せたグリーンのブルゾンを着た70代と思しき老女が目に留まりました。

「ねえ、お兄さん。タバコ1本、あたしに恵んでくれない? ここの灰皿、水が張ってあるから、拾えないのよ」

 おそらくは、ホームレスの人でしょうか。寒い中、足先の開いたサンダルを素足のまま履いているため、足全体が乾燥して粉を吹いたように白濁しています。1本のタバコを差し出して、吸っていた自分のタバコを消した男性は、関わりたくない様子で列に戻っていきました。

(この人と一緒に入ろう)

 開店まもなく、タバコを吸い終えて店に入る老女の後に続くと、多くの人が集まる福袋の特設売場で足を止めました。人混みをかきわけ、手提げの福袋(5,000円)をふたつ手にした老女は、食品売場に向かって歩いていきます。

 歩きながら開口部を留めたホチキスを外したので、犯行に至ることを確信して注視すれば、柵に入った本マグロとカズノコ、それに箱詰めのいくらを手にした老女は、それらを堂々と福袋の中に隠して売り場を離れました。人混みを上手に利用して、なんらの挙動も出さずに素早く隠す手口は、かなり鮮やかで熟練した技術のようなものが感じられます。

(払うつもり、まるでないわね)

 店内が混雑しているので、見失わないよう慎重に追尾すると、次は年賀状の陳列スタンド前で足を止めました。商品を選ぶことなく複数のハガキをつまみ取って、それも迷うことなく袋の中に隠した老女が、レジに立ち寄らないまま店の外に出たところで声をかけます。

「お店の保安です。それ、持っていったらダメですよ。お金払ってもらえますか?」
「え? お金は、ないよ」
「それは、困りましたね。ちょっと事務所まで来てもらっていいですか?」
「はい、はい。ごめん、ごめん」

 すべての言葉が不明瞭なので発言を読み取るべく口元に目をやると、ほとんどの歯が欠損しており、その顔を見てかつてテレビに出ていた“クシャおじさん”のことを思い出しました。

 事務所に向かう道中、代金を立て替えてくれる人がいるか尋ねると、妙に人懐こい顔で答えます。

「妹と一緒に暮らしているんだけど、精神病なの。こないだなんかさ、裸で買い物に行っちゃって、あたしが警察まで迎えに行ったのよ」

 事務所に連れて行き、テーブルの上に福袋を置かせて、さきほど隠した商品を取り出させます。念のため、ほかにないか尋ねてみると、いつの間に隠していたのか、上衣のポケットからラッピングされた毛ガニが出てきました。被害は計13点、合計で2万5,000円ほど。

 お金はもちろん身分を証明するものも持っていないので、チラシの裏紙に人定事項を書いてもらうことにして、その間に店長を呼び出します。

「え? もう捕まえたの?」

 声をかけた時間は、9時11分。驚いた様子で事務所に現れた店長に、これまでの経緯を伝えると、最後まで話を聞くことなく警察に通報しました。何かあったら呼んでくれと、事務所を出ていく店長の背中を見送り、警察が到着するまでのあいだ雑談をして場を繋ぎます。

「今までに、同じことで捕まったことありますか?」
「うん。5回目くらいかな」
「年賀状、足りなかったの?」
「ううん、郵便局に持っていくとお金になるから」

 その後、駆け付けた警察官に老女を引き渡すと、途端に嫌な顔をした警察官が言いました。

「おばあちゃん、もうしないって、年末に約束したばかりだよね。なんで、またやったの?」
「ああ、またあんたか。お正月だから、妹とおいしいものを食べたくてね」
「またあんたかって、こっちのセリフだよ。こんなに盗って、全然反省してないじゃない?」
「もうしないよお」

 担当の警察官によれば、前回の扱い時に簡易の精神鑑定をしているらしく、その時の診断(詳細は不明)があるからと被害届は受理されませんでした。

 被害回復の見込みはないので、生鮮食品は廃棄処分となり、その分が実害になります。一方、警察官に連行された老女は、居住確認のみで帰宅を許されることになりました。結果だけを見れば、泥棒をして捕まったのに、パトカーで自宅まで送ってもらって済まされた様相です。

「こいつらは、娑婆のほうがツライから」

 その後、夕方になってカップ酒を盗んだホームレス男性の捕捉もありましたが、店長と警察に煙たがられるだけで終わり、新年早々から嫌な思いをすることになりました。いくら結果を出しても、捕まえた被疑者によっては、評価されないこともあるのです。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

本コラムを監修している伊東ゆうさんが新連載を開始しました。ぜひご覧ください。
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