「おばあちゃんに捕まえられるの?」意地悪なクライアントに見せた、ベテラン万引きGメン熟練の技

 こんにちは、保安員の澄江です。

 来年開催される東京五輪に向けて、繁華街に高性能な防犯カメラを設置するなど、国の防犯対策も激しくなってきました。商業施設においても同様で、改装などに合わせて顔認証機器や動作認証機器を導入する店舗が増えてきています。数年前までは、防犯カメラから不審者の写真を取り出し、事務所に貼り出すなどして警戒するのが一般的でした。それがいまや顔認証登録されている者が入店すると同時に発報し、不審者の顔写真や位置情報が表示される時代なのです。認証技術が進んだ現在、無人店舗の開発も急速に進んでいるので、これも自然の流れといえるでしょう。

 その効果なのかはわかりませんが、万引き被害は減少傾向にあり、以前に比べると私の関わる捕捉件数も少なくなってきました。それでも、現場によっては被害が頻発しており、いつも気の抜けない状況にいることに違いはありません。今回は、最新の防犯機器を導入している店舗で捕捉した常習犯について、お話したいと思います。

 当日の現場は、東京近郊のベッドタウンにあるショッピングセンターX。真新しいモニターに囲まれた防災センターで、新装開店に合わせて昇進異動してきたという30代前半に見える若いマネージャーに勤務開始の挨拶を済ませると、「最新の顔認証システムを導入したから」と専用の受信端末を持たされました。不審者の顔登録は、各クライアントの判断によるもので、私たちが携わることはありません。

「運用を始めたばかりで、まだ数人しか登録できていませんが、発報したら必ずチェックしてください。毎日同じ時間に来て、たくさん持っていく人もいるので、お願いします」

 昇進したばかりだからなのか、やる気に満ちあふれ、自分の査定に直結する商品ロスを少しでも減らしたい気持ちで一杯らしいマネージャーは、値踏みするような表情で1枚のプリントを差し出しました。

(こんなおばあちゃんに、万引き犯が捕まえられるのか?)

 きっとそう思っているだろうマネージャーの眼差しを無視してプリントを受け取り、その内容を確認すると、50代くらいに見える女性が正面口から入店してくる様子や、食品売場でカゴから自分のバッグに商品を移し替えている瞬間など複数枚の写真が掲載されていました。入退店時刻を確認すれば、そのほとんどが午前11時台に集中しています。本日の業務は、午前11時から。マネージャーによれば、毎日来店して、その都度犯行に及んでいるようで、なんとなく縁があるような気がしてきます。

(このマネージャーを、見返してやりたい)

 写真に写る女の顔と、犯行に用いたバッグの形状を覚えた私は、使い慣れない端末を持って現場に入りました。

 まずは、ランチ目当ての買物客であふれる地下の食品売場を中心に、ゆるりと巡回を始めます。気持ちに左右されて頑張りすぎてしまうと、思い込みなどから誤認事故発生のリスクが高まるので、気楽に巡回するくらいがちょうどいいのです。するとまもなく、持たされている顔認証端末が発報。情報の確認をするべく、パスワードを入力してみましたが、どうにもうまく開けません。エスカレーターに近い売場の陰で、それを何度か繰り返していると、11時の女が一階から降りてくるのが見えました。いつものバッグも手にしており、今日もやる気を感じさせます。

 追尾すると、果実や総菜、菓子、 消臭剤などをバッグに隠した彼女は、売場の死角に空になったカゴを放置すると、なにも買うことなくエスカレーターに乗り込みました。在店時間は、ほんの3分ほどで、なにも買っていないので、ただ盗みに来たといえる状況です。後ろ向きに乗車して後方を警戒しているところを見れば、悪いことをしている自覚はあるようですが、捕まりたくないという気持ちも強いのでしょう。素知らぬふりをしてエスカレーターに乗り込んだ私は、そそくさと外に出ていく彼女に声をかけます。

「あの、お客さ………」

 捕捉時の口上を言い終える前に走り出した彼女は、出口脇に停められた自転車のカゴに隠した商品を詰めたバッグを放り込むと、自転車に跨って逃走を図りました。

「待ちなさい!」

 走り出そうとする自転車を制止するべく、叫びながら咄嗟にリアキャリアを掴みます。すると、バランスを崩した彼女は転倒して、自転車の下敷きになりました。

「危ないから逃げないで! 大丈夫ですか?」
「すみません、びっくりしちゃって……」

 彼女は正気を取り戻したのか、逃走を断念したらしく、自転車を起こしてあげると、腰をさすりながら防災センターへの同行に応じました。身分確認をさせてもらうと彼女は56歳で、ここから自転車で10分くらいのところにあるアパートに、旦那さんと二人で暮らしていると言いました。この日の被害は、計8点、合計2,800円ほど。女の所持金は、2,000円に満たないので、被害品の全てを買い取るには少し足りない状況です。

「盗っちゃった理由、なにかありますか?」
「主人が糖尿病で足を失ってしまって……働けなくなったので、お金がないんです」
「ご自身は、お仕事されてないの?」
「はい。この歳ですし、主人の看病もあるので、なかなか見つからなくて……」

 館内放送で防災センターに呼び出されたマネージャーは、応接室で涙を流す彼女の顔を見るなり、話をしようともせずにスマホを取り出して警察に通報しました。臨場した警察官に、今までの経緯を説明したマネージャーは、被害届を出すと息巻いています。

 実況見分を終えて、警察署に向かうことをマネージャーに報告すると、意地悪気な顔をしたマネージャーがいいました。

「このシステムがあれば、捕まえるの、簡単でしょう?」
「実は、パスワードを入れても見れなかったので、ちょっとわからないです」
「はあ? じゃあ、なんでわかったの?」
「タイミングさえあえば、写真だけでも十分でございますよ」

 そんなシステムなどなくても、十分に仕事はできるのです。

 その後、微罪処分とされた女は、両足がないはずの旦那さんが歩いて現れ、その日のうちに帰宅を許されました。どんよりとした気持ちで家路についたのは、言うまでもありません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

資産家の万引き老人は、万札を放り投げた! 「地位の高い人ほど謝罪しない」現場のリアル

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、東京都豊島区東池袋4丁目の都道にて、87歳の男性が運転する暴走車が通行人を次々とはね、3歳の女の子と31歳の母娘2人が死亡、8人の方が重軽傷を負うという痛ましい事故が発生しました。加害車両を運転していた人物は、国から勲章まで授与されている元高級官僚の方。これほどの事故を起こしておきながら、身柄を拘束されなかったことから、「上級国民だから逮捕されないのではないか?」などと疑問を覚えた人も多いようです。

 それよりも私が驚いたのは、事故後まもなく息子に電話をかけて、自身のホームページやSNSアカウントを削除するよう指示していたというネット上のウワサです。自宅の電話まで解約させていたという話もあり、耳にしたときは、随分と手際のいいおじいさんだなと感心しつつも、その素早い対応には嫌悪感を覚えました。しかし、この情報は現状、真偽不明とのこと。加害者が、事故原因を車両故障によるものだと訴えていたという報道があり、「事故直後から保身に走った」と感じた人が多かったことから、こうしたウワサが爆発的に広まったのではないかと思われます。被害者やご遺族の心情を思えば、やはり「自分が悪いのではなく、車が悪い」とする加害者の姿勢は、許容できるものではないでしょう。

 万引きの現場では、地位の高い人ほど犯行を否認し、謝罪することなく居直る人が目立ちます。今回は、悪質な手口を用いて犯行に及んでおきながら否認に徹する資産家万引き老人の末路について、お話ししていきたいと思います。

 あれは、2年ほど前の、冬の日のことでした。当日の現場は、東京の中でも1、2を争うと揶揄されるほど治安の悪い街にある生鮮食品スーパーS。店内に大きな生簀を有し、月に一度はマグロの解体ショーを実施するようなタイプのお店で、生鮮食品のほかにも、さまざまな食品を扱う地元の人気店です。ここは、私たちでいう「固い現場」(必ず結果が出せる現場)の一つなので、残業を避けるべく、早目の捕捉を目指して巡回を始めます。

 店内の警戒を始めてまもなく、冷蔵棚の脇にフックで下げられた無料のビニール袋を、必要以上にむしり取る70代と思しき男性が目につきました。男性の着衣は小奇麗ながらも全身がグレー系で統一されており、その顔つきを含めて、どことなくネズミを彷彿させる雰囲気です。「ネズミ男」と、勝手にあだ名を付けて行動を見守ると、ネズミ男は複数のビニール袋をカート上のカゴに入れて歩き出し、刺身コーナーで中トロ刺のパックを手に取りました。それをビニール袋に詰めてカゴの中に放り込むと、続けてホタテのパックを手に取って、同様の動作を繰り返します。客を装いながら、冷蔵棚に並ぶ刺身の値札を確認すれば、ネズミ男が手にした「クロマグロ(天然物)」の中トロ刺は1,600円ほどで、国産のシールが貼られた大粒の生ホタテは1,280円でした。高額な刺身は、どこの商店においても頻繁に万引きされています。そのなかでもマグロは、一番盗られているだろう人気商品と言え、俄然目の離せない状況になりました。

(ちゃんと買うのかしら?)

 そんな思いを抱きながら遠巻きに追尾を続けると、食パン、牛乳、ヨーグルト、チーズなど複数の商品を棚取りしたネズミ男は、刺身のパックと同じように、その一つひとつをビニール袋に詰めてからカゴに入れていきます。カゴの中を覗くと、精算が済んでいるように見え、このままサッカー台に持ち込まれてしまえば、簡単に持ち去られてしまう状況と言えるでしょう。

 すると、売場の片隅にカートを放置したネズミ男は、誰もいないレジ列を抜けて、サッカー台の傍らにあるワゴンに積まれた梱包用のダンボールを手に取りました。そして、先ほど放置したカートのところまで引き返すと、手にあるダンボールをカゴの上に被せて歩き始めます。その足先は出口の方に向いており、もはや精算する気配はありません。

(外に出たら声をかけなきゃ……)

 何度経験しても必ず感じる緊張感を胸に、ネズミ男の後を追った私は、彼が自転車の脇にカートをつけたところで声をかけました。

「あのお客様、お刺身などのお支払、お忘れじゃないですか?」
「ああん? あんた、なに言ってんだ? 全部払ったよ! これ、見てみろ」

 怯むことなく堂々と否認してみせたネズミ男は、鬼の首を取ったような顔つきでカゴに被せた段ボールを除けると、ビニール袋にくるまれた商品群を私に見せつけました。

「これ、全部払ってないですよね? 事務所に同行いただけないなら、今すぐ警察を呼びますけど、どうされます?」
「なんだとお? 呼べよ、呼べばいいじゃないか! おれが払っていたら、あんた、どう責任取ってくれるんだ? それを教えてくれ」

 大声で喚き散らすネズミ男に、周囲の視線が集まります。なるべく早く通報したいところですが、逃げられぬよう袖口を掴んでいるため、うまく通報できません。押し問答を繰り返しながら右往左往していると、たまたま通りかかった警察官が間に入ってくれました。どうやら、この店の近くで交通違反の取り締まりをしていたようで、その帰りに見かけてくれたようです。臨場した警察官による聴取で77歳だったことが判明したネズミ男は、不動産管理業で、この店の近くにあるビルの最上階にフィリピン人の恋人と住んでいると、どこか自慢気に話していました。所持品検査の結果、20万円以上の現金が出てきたので、お金に困っての犯行ではなさそうです。

 警察を呼ばれても動じずに、否認を続けたネズミ男でしたが、防犯カメラの映像を検証されて証拠があがると一転して犯行を認めます。

「映っているなら仕方がない。余計に金を払うから勘弁してくれ」

 ブランド物の派手な財布から数万円の紙幣を取り出したネズミ男は、それをテーブルに放り投げるようにして居直りました。

「お金あるのに、どうして払わなかったんですか?」
「そんなこと、わかんないよ。なんとなく、やってみたかったんだ」

 ビニールやダンボールを使ったのは精算したと見せかけるため、犯行をごまかす目的で長ネギを買ったのだと、苦笑いしながらも少し偉そうに話すネズミ男の姿を見て、ひどくイラついたことを覚えています。

 つい先日、生鮮食品スーパーSで、久しぶりに勤務を担当しました。すると、前半の終了間際に、薄汚れたグレーのジャンバーを着た高齢男性が、手に取ったサバ缶(128円)をズボンのポケットに入れるのを現認。声をかけて事務所に連れて行き、身分を確認させてもらうと、差し出された医療証に書かれた名前に見覚えがありました。

「旦那さん、前に、お会いしたことありましたっけ?」
「ああ、前にここで、あんたに捕まったことあるよ」

 顔をよく見てみれば、かなり痩せてはいるものの、あのネズミ男に違いありません。犯行を素直に認めて、おとなしくしている姿を見ると、前回の時とは別人のようです。

「ずいぶんお痩せになられたから、わからなかったですよ。お病気でもされたんですか?」
「ああ、あれからガンが見つかって、胃を取ったりしたんだ。悪いことはするもんじゃねえよ……」

 その後、サバの缶詰を一つ盗んでしまったばかりに基本送致されることになったネズミ男は、フィリピン人の彼女がガラ受けすることを条件に帰宅を許されました。時計を見れば、すでに午後9時を回っており、声をかけてから6時間以上が経過しています。たった128円の缶詰を一つ盗んだ男のために、ここまで時間をかけなければならない現状に、疑問を抱いているのは私だけではないでしょう。

 帰り際、警察署のロビーで調書の出来上がりを待っていた私に気付いたネズミ男が、警察官の制止を無視して近づいてきました。軽く身構えると、その雰囲気を察したらしいネズミ男が、ひどく申し訳なさそうな顔で言います。

「こんなに遅くまで付き合わせて申し訳ない。もうやらないから勘弁してな」

 この人は、もうやらないだろう。ガラ受けにきたフィリピン人の彼女のお尻が、異様なほど大きかったためなのか、以前と比べて明らかに小さくなったように見えるネズミ男の背中……。それを少し晴れやかな気分で見送った私は、駅前の牛丼屋で遅めの夕食を取ってから帰宅しました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

女はうまい棒を天にかざし、太ももに叩きつけた! たった「9円」で捕まった万引き犯の顛末

 こんにちは、保安員の澄江です。

 私たち保安員が一番恐れるのは、誤認事故を引き起こすこと。その原因は、主に思い込みや現認不足によるもので、なかでも1点現認(1点だけしか盗む瞬間を確認できないこと)による声かけは、誤認事故の発生リスクが非常に高いと言われています。そのため、2点以上の現認を検挙条件とするクライアントも存在しており、「1点だけなら盗んでもいい」という理屈が成立してしまうような状況に、自分の存在意義を疑ったこともありました。しかし、私の仕事は、万引き犯を摘発すること。たとえ1点であっても窃盗ですし、棚取り、隠匿、未精算という犯行の一部始終を見てしまえば、どうしても声をかけたくなってしまうのです。今回は、一点検挙禁止の店舗で遭遇したセコイ万引き犯の思い出を語りたいと思います。

 当日の勤務は、アジア系外国人が多く居住する関東郊外の地域に位置するディスカウントストアA。開店時間である午前9時に出勤して、事務所に上番(勤務開始の報告をすること)の連絡を入れると、電話口に出た部長さんが重く疲れ果てた様子で言いました。

「先週、Aさんの別店舗で誤認事故が連続発生してしまい、現在、契約存続の危機にあります。今日からしばらくの間、一点検挙は厳禁です。なるべく抑止に励んでください」
「はあ?」

 不思議なことに、誤認事故は連鎖するもので、一度起きると過剰なほどに警戒されます。指令が出てしまえば従うほかなく、それに反して誤認事故を引き起こすような事態を招けば、この上ない窮地に陥ることは言うまでもありません。本末転倒の指令を受けた私は、謝罪に尽くす部長さんの姿を思い浮かべながら、少し嫌な気分で巡回を始めました。

 大過なく前半の勤務を終えて、昼食休憩から現場に戻ると、首元がよれよれになったピンクのトレーナーに、ヘップサンダルを履いた20代後半に見える女が、お店に入ってくるのが見えました。ホームレスには見えないものの、どこか貧しげで、飢えたような雰囲気が気になります。何をしにきたのか確認するために、その行動を注視すると、女は菓子売場に設置されたチョコレートの試食コーナーの前で立ち止まりました。この店は、自社ブランドの商品を販売しているために試食提供が多く、それを目当てに来店する人たちが数多く存在しています。当日は、チョコレートを始め、ハム、チーズ、ウインナー、さつま揚げ、おせんべい、オレンジなどの試食が提供されており、お昼時にもたくさんの人たちが試食をするだけのために来店していました。各コーナーに、一人一つと明記してあるにもかかわらず大量に頬張る人も散見され、その厚かましさに呆れてしまうことも多いです。

(また、試食ちゃんかしら?)

 そう思いつつ行動を見守っていると、黒いスウェットパンツのポケットからレジ袋を取り出した女は、持ち手の片方だけを持つかたちで開口部を広げました。そして、試食のチョコレートが載せられたトレーを持ち上げると、そこにある全てをレジ袋の中に吸い込ませてしまいます。悔しいことに、無償提供される試食品を隠匿しただけでは、捕捉することはできません。しかし、このようにマナーやモラルのない人は、何をするかわからないのも事実です。そのまま目を離さないでいると、全ての試食品コーナーに立ち寄った女は、店内に設置されたビニールを駆使して試食品を隠して回りました。途中、品出しをしていた大地康雄さんに似た強面の副店長さんも、女の行動に気付いたようで、“なんとかしろよ”という感じの視線を私に送ってきています。試食巡りを終えて、菓子売場に戻ってきた女の様子を棚の陰から見守っていると、向こう側の棚の陰から同じように女の様子を覗き見ている副店長さんの姿が見えました。

(どうやって追い出してやろう)

 棚の隙間から垣間見える副店長さんの目からは、そんな気持ちが強く伝わってきます。それからまもなく、おもむろに後方を振り返った女は、1本のうまい棒を右手に取りました。そのフレーバーは、めんたい味。個人的に好きな味の一つなので、紫色のパッケージをみて、すぐにわかったのです。すると、警戒の目で周囲の様子を窺い、それを掲げるような形で天にかざした女は、それを太ももに叩きつけるようにして開封しました。

 パン!

 場にそぐわぬ破裂音を店内に鳴り響かせた女は、その場でうまい棒を一口齧ると、出口に向かって歩き始めます。目を三角にした副店長さんも、それに合わせて動きだしました。このまま店外まで出られてしまえば、声をかけるほかない状況ですが、一点検挙禁止の指令が脳裏によぎります。副店長さんに見守られる中、逃げ場を失くした私は、店の外に出た女を呼び止めました。

「あの、お客様? お店の者ですが、そちらの代金を……」
「アナタ、ナニ!? ワタシ、カンケイナイヨ!」

 口の周りをめんたい味と同じオレンジ色に染めた女は、外国人らしいイントネーションの日本語で答えると、証拠を隠滅するようにうまい棒に齧りつき、追いすがる私の制止を振り切るように歩き続けます。見かねた副店長が、うまい棒を握る女の手を取ると、大声で怒鳴りました。

「これは、タダじゃない! お金、払ってください!」
「チガウ! ヤメテ!」

 もがく女の袖口を、二手に分かれて引っ張る形で事務所に連行したものの、言葉の壁もあって意思の疎通はかないません。被害品は、売価9円のうまい棒のみですが、警察に引き渡すほかない状況です。通報を受けて駆けつけた駅前交番の警察官は、被害品である食べかけのうまい棒を見て呆れた顔をして見せましたが、女の身分確認を終えると表情を変えました。

「この女、偽造した外国人登録証を持っていたので、そっちで現行犯逮捕します」
「警察署には行かなくて大丈夫ですか?」
「ええ、逮捕しても、すぐ入管に送られて、強制退去になるでしょう。今日は、これで大丈夫です。ほら、行くよ!」

 たった9円のうまい棒(めんたい味)を食べてしまったことで不法滞在が発覚し、国外退去となるだろう彼女は、その場で手錠を嵌められ、腰縄も巻かれて連行されていきました。連行時、この上なく恨めしそうな顔で私たちを睨んでいましたが、しばらくは日本に入ってこれないと警察官に聞き、安堵したことを覚えています。

 翌日、司令に反して一点検挙に至った事実を部長に報告すると、すでに興奮した様子の副店長さんから話を聞いていたらしく、今回ばかりは目を瞑ると言われました。この仕事は、結果が全てなのかもしれません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

片乳を出して「痴漢です、助けて」と大暴れ! 強烈な万引き犯「銀座のJUJU」の思い出

 こんにちは、保安員の澄江です。

 我々保安員の仕事は、いろいろな街のさまざまな店舗に派遣されるため、行く先々の土地柄にも敏感になります。街の雰囲気が殺伐としていると、それに合わせて万引きの発生率も高くなるため、現場経験を積むほど敏感になってしまうのです。土地柄が悪い現場での勤務になると、その町で有名な不良や犯罪常習者、そこを根城とするホームレスとの遭遇も避けられません。そうした人たちのほとんどは、誰が名づけたのか「あだ名」で呼ばれていることが多く、どこか親しまれているような気がするのが不思議です。スリや空き巣を追う刑事さんたちも、容疑者たちにあだ名をつけておられますよね。この記事を監修されている伊東ゆうさんも、年末に出演された『ジョブチューン ~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS)のGメンSPで、不審者を見失わないように「あだ名」をつけて追尾していると話しておられました。人物の特定は、被疑者の逮捕にあたって一番重要なことなので、それも当たり前のことかもしれません。今回は、とあるショッピングセンターの高級食品街で捕らえた女性被疑者「銀座のJUJU」について、お話ししていきたいと思います。

 あれは、4年前の秋の日のことでした。当日の現場は、都内でも有数のおしゃれな街にあるショッピングセンターの地下にある高級食品街。生鮮食品の専門店をはじめ、菓子や酒、お茶など、さまざまな高級店で形成されるデパ地下のような雰囲気の商業施設です。契約初日の勤務であるため、営業担当の社員さんと最寄駅の改札口で待ち合わせて、現場の店内把握(店の構造や状況を把握すること)を一緒にしながら総合事務所に向かいました。

「ここ、たくさんいるみたいだから、間違いのないように頑張ってくださいね」
「はい。いたらわかるし、見たらいきます」
そんな会話をしながら事務所に入ると、扉脇の掲示板に貼られたオリジナルの手配写真が目に入りました。
「万引きの常習犯です。来たら警察に通報してください」

 そう大きく書かれたA3サイズのポスターには、この時に盗んだと思われる酒瓶を手にした水商売風女性の全身写真が貼られており、写真の脇には彼女の氏名と生年月日、職業、この時の被害品、犯行態様、それに所轄警察署の電話番号と駅前交番の内線番号までもが記載されています。それを読めば30代前半だった女は飲食業で、お酒や菓子、果実などの商品を持参のバッグに隠して出ていく常習犯とのこと。少し神経質な感じがするマネージャーさんに挨拶を済ませて、最近の被害状況を尋ねると、女のポスターを指差しながら苦々しい顔で言いました。

「毎日、結構やられていると思いますよ。そのなかでも一番頭にきているのが、この女なんです。半年くらい前に一度捕まえたんですけど、大暴れしましてね。逃げようとするので掴んだら、いきなり自分から服を破いて片乳を出して『痴漢です! 助けて!』って、大声で叫ばれたんですよ」
「そんなことがあったのに、いまも来ているんですか?」
「しばらくは、見かけてなかったんですけどね。最近、また、やりにきているみたいなんですよ。前に捕まえた時には『夫と一緒に銀座で飲み屋をやっているけど、経営が苦しくて店で必要なものを盗んだ』と話していました。なので、ウチでは『銀座のJUJU』と呼ばれていて、各店でも警戒してもらっています」
「銀座のJUJU、ですか?」

 存じ上げない方だったので困惑していると、隣にいた営業さんがスマホでJUJUさんの画像を検索して、私に見せてくれました。写真に写る女と見比べてみると、確かに雰囲気は似ていますが、似ているとされるJUJUさんには申し訳なく感じてしまうレベルです。

「もし来たら、売場から連絡が入るので、心配しなくて大丈夫ですよ。そこのボードに携帯の番号だけ書いておいてください」

 頭の片隅に「銀座のJUJU」の姿をおきながら店内の巡回を始めると、勤務半ばに、ネギトロ巻(598円)といくらのパック(798円)を懐に隠して盗んだ中年男性を捕捉することができました。身寄りもなく、ネットカフェで暮らしているという男性を連れて事務所の扉を開くと、ひどく慌てた様子のマネージャーが私に言います。

「ちょうどよかった。いま例の女が来たので、お酒売場に戻ってください」

 警送処理をしている間は、堂々と座って休める貴重な時間です。しかし、初対面のマネージャーが、そんな私の気持ちを知る由はありません。中年男性の身柄をマネージャーに預けて、少し重い足取りで酒売場に向かうと、ラメ入りの黒いニットにタイトスカートという、まさに水商売の女性といった服装で、ウイスキーボトルを手にする「銀座のJUJU」の姿がありました。

 それからまもなく、重く腫れぼったい目で周囲の気配を窺い始めた彼女は、肩にかけた大きめのエコバッグにウイスキーボトルを隠すと、続けて2本の焼酎ボトルも同様に隠しました。さらに、おつまみコーナーに移動して、サラミ、ビーフジャーキー、ミックスナッツ、酢いかなど、飲み屋で使うような商品ばかりを、次々とエコバッグの中に隠していきます。数分後、なに一つ買うことなく出口に向かった彼女は、一度も後ろを振り返ることなく外に出て行きました。しかし、エコバッグの開口部を閉じるように押さえているところを見れば、悪いことをしている認識は十分にあるようです。過去に暴れたことがあるというので、多少人通りの多いところまで彼女を歩かせた私は、逃走されぬようエコバッグの持ち手を掴んでから、優しく丁寧に声をかけました。

「お店の者です。そのバッグに入れたもの、お支払いしていただかないと……」
「はあ? なんですか? どれですか?」
こちらの現認状況を探るためなのか、万引き犯特有のセリフを吐いた彼女は、私の手を振りほどくべく、自分の体でエコバッグを引っ張っています。
「○×さん(「銀座のJUJU」の本名)、ここに隠したお酒とかおつまみのことですよ。逃げてもいいけど、カメラにも映っているし、前のこともあるんだから、あとで面倒なことになりますよ」
「……ごめんなさい」

 自分の名前を言われて観念したらしい彼女を事務所に連れて行くと、先に捕まえた中年男性の処理がなされており、被疑者席のある応接室は警察官で埋め尽くされていました。

「この女の分だけは、被害届を出します」

 ひどくイラついた顔で彼女をひと睨みしたマネージャーさんは、私に状況を確認することもなく、警察官に被害申告の意思を伝えました。それを聞いた彼女はガックリと項垂れ、重い悲壮感を醸し出しています。絶対に柔道をやっているだろう安藤なつさんのような体躯を持つ女性警察官が、彼女の身分確認と身体捜検を済ませて、エコバッグに隠したブツを確認すると、計10点、合計1万8,000円ほどの商品が出てきました。彼女の所持金は3,000円程度ですが、クレジットカードでなら払えると、買い取りによる解放を望んでいます。

「あなた、あそこに写真貼られてるの、知ってるよね? なんで、やっちゃうの?」
「銀座でお店やっているんですけど、売上が足りないから……」
「お店って、何よ? あなたが経営してるの?」
「夫と二人でやってるんですけど、なにもかもうまくいかなくて……。うわーん!」

 すると、突然に立ち上がった彼女は、マネージャーのデスク上にあったボールペンを掴んで、自分の首に突き立てました。

「こら、やめなさい!」
「自傷! 自傷!」

 警察官たちの怒号が飛び交う中、安藤なつさん似の女性警察官に制圧された彼女は、執拗にボールペンを握りしめて抵抗していましたが敵うはずもありません。落ち着いたところで傷口を確認すると、蚊に刺されたような痕しか見当たらず、その中心にあるインクが落ちるか気になったことを覚えています。

 その後、取り調べの場において容疑を否認した彼女は逮捕となり、私も証人として裁判所に出廷する展開になりました。判決は、懲役1年、執行猶予3年(保護観察処分付き)の有罪判決。この時を最後に彼女の姿を見ることはありませんが、お店の場所はわかっているので、今度銀座に立ち寄ることがあったら、彼女の店がどうなっているか確認してみたいと思っています。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

万引きGメンが語る「悪い女」! 柳原加奈子似の25歳専業主婦が、微笑みながら明かした逮捕歴

 こんにちは、保安員の澄江です。毎月のお給料が少なすぎて、たいした貯金もしていない私ですが、都内各地の現場では数多くの“貯金”を持っています。我々の世界でいう貯金とは、限りなく被疑者に近い不審者のこと。例えば、商品の棚取り(棚から商品を手に取ること)を見ていない状況で、不自然に周囲を警戒しながら手にある商品をバッグに隠す場面を見ただけだと、犯意が成立させられず、捕まえることはできません。そんな時には、イラつく気持ちを抑えながら、顔やバッグ、隠した商品、服装などを記憶に刻んで見送り、後日につなげるほかなく、そうした人物のデータが貯金となっていくわけです。

 日常の業務で、そのような場面に遭遇することは意外に多くて、タイミングが合わずに何度も見送っている不審者も数多く存在しています。同じ現場に入るほかの職員との情報交換も欠かせず、いただいた情報と特徴の似た人の行動を確認した結果、犯行を現認するケースも少なくありません。万引きする人たちは、同じような行動を繰り返すので、人着(人相や特徴、着衣など)や手口の判明は有力な情報となるのです。先日、20年以上にわたってお世話になっている都内の古臭いショッピングモールで捕らえた女性被疑者も、そんな貯金のうちの1人でした。

(あ! やってる!)

 出勤の挨拶を終えてモール内の食品売場に入った瞬間、先日ご結婚された柳原加奈子さんを不良少女にしたような雰囲気の若い女性が、私の目の前で、妙に慌てたようにカゴの中にある商品を大きなボストンバッグに詰め込み始めました。詰め込んでいる商品は、ステーキ肉やイチゴ、チーズなど、どれも比較的高価なモノばかりで、彼女の示す挙動からすれば商品を盗んでいるに違いない状況といえるでしょう。しかし、犯意成立要件である棚取りは一つも見ていないので、このまま店外に出られても捕捉することはできません。

(あと一つだけ、盗ってくれないかしら……)

 すでに隠した商品の精算状況を確認したい。その一心で、さらなる犯行を期待しましたが、全ての商品を詰め終えた彼女は、私の望みを叶えることなく売場を離れていきました。盗んだと思われる商品を詰めたボストンバッグには、子どもの写真を使って作られたキーホルダーがついており、それを目印にしてあとを追うと、食品売場の脇にあるフードコートに入っていきます。

 しきりに後方を振り返る彼女の視線に注意しながら、彼女のあとに続く形でフードコートに入ると、3~4歳くらいに見える子どもが、悦びに満ちあふれた無邪気な表情で彼女の方に駆け寄ってきました。その子が座っていた席には、父親らしき体格のいい強面の男性も座っており、彼女の後方周囲を見回すようにしています。子どもたちに手を引かれるようにして座席に向かう彼女も、キョロキョロと周囲を警戒していて、お互いが承知の上で犯行に及んでいるような雰囲気です。それから小一時間ほどフードコートに滞在した一家は、売場に戻ることなく駐輪場に向かうと、2台の自転車に分乗して帰っていきました。ただ見送るしかできない自分の不甲斐なさに、地団駄を踏む思いで一杯になったことを覚えています。

それから2カ月ほど経過した、ある日。件のショッピングモールにおける勤務を開始した直後に、以前見送った彼女が一人で入店してくるのが見えました。前回同様、子どもの写真を使って作られたキーホルダーがついたボストンバッグも持ってきているので、おそらくは今日もやる気なのでしょう。不審者の行動を入店から確認できるのは、私にとって、この上なく有利なこと。しかし、鋭い視線で周囲を警戒しながら、広い食品売場を素早く動きまわる彼女の犯行を現認するのは至難で、なかなかうまくいきません。近付けないまま右往左往しているうちに、いくつかの商品を隠されてしまう始末です。なんとかしなければと、変な汗をかきながら必死に追尾していると、不意にエスカレーターに乗り込んだ彼女は、上階にある人気洋服店に入っていきました。

(ハシゴするつもりかしら……)

この洋服店は、同じモール内にあっても、契約先ではありません。でも、使用する休憩室は一緒なので、この店の女性店長さんとは顔見知りの関係で、万引き犯を捕捉することも許されています。

「ちょっと、お邪魔しますね……」

無断で店内に入るのは気まずいので、入口近くで品出しをしていた女性店長に小さく声をかけると、全てを察した様子で微笑んでくれました。それからまもなく、婦人用のパンツとインナー、それにディスプレイされているハンドバッグを自分のボストンバッグに隠した彼女は、支払いを済ませることなく洋服店を出ました。明確な現認がとれたので、遠巻きに彼女を追うと、隣接する100円ショップに入っていきます。

そこで複数の化粧水や詰替用ボトルなどを、次々とボストンバッグに隠した彼女は、レジのない方の出入口を使って店を出ました。警戒しているのか、人気のない階段を使って1階に降りる周到さです。少し距離を置いて、足音を立てないように階段を駆け下りた私は、店の前にある駐輪場で彼女に追いつきました。見覚えのある自転車の子ども席に、ボストンバッグを載せたところで声をかけます。

「お店の者です。そのバッグの中に、お金払ってないものあるでしょう?」
「あ、はい。すみません……」

こちらが拍子抜けするほど、犯行を素直に認めた彼女を事務所に連れて行き、盗んだ商品を出させると、洋服店と100円ショップで現認した商品のほかに、食品売場で盗んだお酒やフルーツ、高級和牛肉など10点(およそ6,000円相当)の被害品が出てきました。3店の被害合計は、計29点、合計1万3,000円ほどになり、ブツ量からすれば逮捕されてもおかしくない状況です。

「たくさん入れちゃったわねえ」
「やっているうちに、贅沢になっちゃったみたいで……」

 身分を確認すると、この店の近くに住む25歳の専業主婦だった彼女は、動揺する様子を見せることもなく、微笑みながら他人事のように話しました。盗んだ商品を買い取るだけのお金は持っているようですが、「お金を払うから許してほしい」というような発言はなく、警察を呼ぶなら呼べといった感じの開き直った態度です。テーブルの上に投げ出された彼女の手を見れば、指にリングの入れ墨が入っており、彼女が持つ犯罪傾向の強さみたいなものも垣間見えました。ぽっちゃりとした体形だからかもしれませんが、とてもふてぶてしい態度で、こうした場面に慣れている様子が伝わってきます。

 化粧水や詰替用ボトルの使途を尋ねると、ネット通販で買った高級化粧水の中身を入れ替えて返品していると、少し自慢気に告白されました。それも犯罪だと思うのですが、悪気ない様子で話しているところを見ると、罪の意識はなさそうです。

「あなた、随分慣れているみたいね。こういうことで警察に行ったこともあるの?」
「慣れているわけじゃないけど、3回くらい捕まったことあります。最後の時には、30万円の罰金も払わされました」
「前に、ご家族と一緒に来ていた時も、同じことしていたでしょう? 旦那さんは、このこと知ってるの?」
「…………」

 これまで饒舌だった彼女でしたが、都合の悪いことはしゃべらないと決めているらしく、固く口を閉ざしました。その後、警察に引き渡された彼女は、幼い子どもがいることを考慮されて基本送致処分となり、夫が身柄を引き受けることで、その日のうちに帰宅を許されました。共犯者と思しき夫が被疑者の身柄を引き受けにくる現実に、世の中には悪い人がたくさんいると、あらためて痛感させられた次第です。

(貯金、使っちゃったな。次回からは、あの旦那に気をつけないと……)

 この店における大きな貯金をおろした私は、大好きなビールを片手に溜飲を下げながら、新たな貯金を始めていたことに気付きました。この仕事に、終わりはないのです。

風俗嬢万引き犯と連絡先を交換……! 万引きGメンの「タブー」犯した後輩の思い出

 こんにちは、保安員の澄江です。先日、帰宅途中の電車内で、数年前にうちの事務所を退職したSちゃんと偶然に再会しました。

「澄江ねえさん、ご無沙汰しています」
「あら、Sちゃん! あなた、心配してたのよ。お元気だった? すっかり大人っぽくなって……」
「私、来年で40歳になるんです。さすがに、落ち着きましたよ」

 いまから、およそ15年前。入社したてだったSちゃんのインターン研修を担当したのは、私でした。当時、まだ24歳だったSちゃんは、ギャル系のメイクで、髪も金髪。初現場となる小さな町のショッピングモールに、猫のキャラクターがプリントされた黒のスウェット上下という軽快すぎる服装で出勤してきた時には、まさに度胆を抜かれたような気分にさせられたものです。どう見ても、保安員には見えない。そう表現すれば聞こえはいいかもしれませんが、どちらかといえば万引き犯に近い雰囲気になっているので、そこを褒めるわけにもいきません。

「あなた、その髪の色、研修の時に注意されなかった? そんなに目立っていたら、仕事にならないわよ」
「すみません。部長に言われているんですけど、帽子で隠せばいいかなと思って……」
「いいわけないでしょう。それに服装も少し派手。キャラクターのついた服は目印になるから、現場では着ない方がいいわよ」
「店内で浮かないように、近所のスーパーに行く時の恰好で来たんですけどね……」

 そう話してはいますが、場違いな感じが強く、存在自体がうるさい感じで、とても目立ってしまっています。

「メイクも、ちょっと考えなさいよ。目の周り、そんなに黒くしていたら、すぐに顔を覚えられちゃうじゃない。奇抜なメイクは、お店にも嫌がられるから、挨拶の前に落としてきなさい」
「え? スッピンは、マジでツラいんですけど……」

 いわゆるギャル系である彼女は、社会経験が少ないようで、目上の人に対する言葉づかいも知らないようでした。こんな派手な子に、保安員が務まるのだろうか。きっと、すぐに辞めてしまうことだろう。事務所の採用基準や教育効果を疑問に思いつつ、不貞腐れる彼女を一喝して半ば強制的にメイクを落とさせた私は、なるべくSちゃんの姿を見られないようにして、店長に挨拶を済ませたことを覚えています。

 その後、周囲の予想に反して長期にわたって勤務を続けたSちゃんは、めきめきと腕を上げて、いつしかベテランの保安員になっていました。パンダのようなメイクと金髪といったスタイルを貫き通した結果、彼女を気に入って指名する店長も現れ、ある時期においては事務所のマスコット的な存在にまでなっていたように思います。私自身、Sちゃんとは何度も一緒に現場に入り、仕事上のパートナーとして多くの捕捉事案を共有してきました。なかでも、同年代の女性常習者に対する扱いは特に熱心で、親身に寄り添う姉御肌な感じの説諭が記憶に残っています。そんな彼女が退職したのは、とある女性常習者の供述がきっかけでした。

「ねえさん、ちょっと相談があるんですけど……」

 出勤時、待ち合わせ場所である駅の改札にノーメイクで現れたSちゃんは、いつになく深刻な顔で言いました。なにかあったなと、嫌な予感を抱きながら話を聞きます。

「担当しているAで、何度か捕まえたことがある常習の女の子がいるんですけど、話を聞いたら、子どもの頃から身寄りがなくて、ずっと風俗で働いてきたって言うんです。寂しいから万引きしてるって泣くし、話しているうちに仲良くなっちゃったので、万引きしたくなったら止めてあげるから連絡してって感じで、前回、捕まえた時に連絡先を交換しちゃったんですよ。そしたら、さっき警察から電話がかかってきて……」

 捕まえた被疑者と連絡先を交換するのは、服務規程に反する行為で、懲戒事由に相当します。報復はもちろん、さまざまな観点から見てリスクが高いため、どんな事情があっても交換しないのが鉄則なのです。

「逮捕された女の子が、私が休みだということをメールで知ったことで万引きがしたくなったと供述しているらしくて……。できれば、ガラウケも私に頼みたいと話しているみたいなんです。私、どうしたらいいですかね?」
「あなた、それ大変なことよ。事務所に報告して、すぐ警察に行ってきなさい」

 事務所に報告させると、その場で出勤停止となったSちゃんは、ここから直接警察署に出向いて事情聴取を受けることになりました。電話口の部長さんから、随分と厳しいことを言われたようで、気の強いSちゃんの目に涙が溜まっているのがわかります。

「ねえさん、あたし、もうダメかもしれないです」
「ちゃんと話せば、大丈夫よ。悪いのは、その女なんだから」

 目に見えるほどの絶望感に包まれたSちゃんの姿は、見ていて痛々しいほどでしたが、末端職員の私にできることもありません。出勤前で時間もないことから、大丈夫と励まして、警察署に送り出すほかないのです。その日の勤務は、Sちゃんのことが気になってしまったためか集中できずに、なにひとつ成果を出せないまま終了してしまいました。

 顔馴染みの刑事さんから共犯扱いの取り調べを受けたというSちゃんでしたが、被疑者とやりとりしていたメールの内容から疑いが晴れると、当たり前のことですが何らの処分を受けることなく解放されました。しかし、被疑者と連絡先を交換したうえ、共犯の嫌疑をかけられたことを重くみた事務所は、クライアントへの面目を保つためなのかSちゃんを解雇してしまったのです。

 Sちゃんと会うのは、それ以来のこと。ずっと気にかけていたので、顔を見ているだけで、さまざまな思いが溢れ出てきます。

「仕事帰り?」
「はい。いまはデパートで、レジ打ちやっているんです」
「保安は、もうやらないの?」
「怖い思いもしたし、どうしても情が入ってしまうので、もうやりたくないですね。ねえさん、ケガしないように気をつけてくださいね。近いうちに、ゆっくり飲みましょう」

 別れ際に、あらためて連絡先を交換した私たちは、それぞれに到着した別方向の電車に乗り込むと、手を振り合ってお互いを見送りました。離れ行く電車を目で追いつつ、直接言えなかった言葉を心の中で呟きます。

(あの時、助けてあげられなくて、ごめんね……)

 少し混雑する車内で、そっと涙した私は、二人で過ごした現場の日々を思い出しながら家路につきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

“夢の国”では万引きしても捕まらない――保安員があ然とした、都市伝説を信じる高校生の言い分

 こんにちは、保安員の澄江です。

 先日、しばらくご無沙汰していた学生時代からの親友に呼び出されて、久しぶりに街でランチをしてきました。他愛のない話をしながら食事を済ませて、食後のコーヒーをいただいていると、どことなく不安気な表情の彼女が言います。

「ねえ、すみちゃん。あなた、万引き犯を捕まえる仕事、まだやっているの?」
「うん、続けているわよ」
「恥ずかしい話なんだけどね、実はあたしの孫娘が、ちょっと前に遊園地で万引きして捕まっちゃって……」

 苦笑する彼女の話を聞けば、現在17歳の女子高生である孫娘が、友人と二人で、“夢の国”とされる遊園地内にあるキャラクターショップで万引き行為に及んでしまい、私服保安員に捕まったということでした。

 あまり大きな声では言えないですけれども、私自身、そのキャラクターショップで勤務した経験があります。意外に思われるかもしれませんが、遊園地内にあるショップなどで扱うオフィシャル商品は割高で魅力的なモノが多いために万引き被害が頻発しており、常に数人の私服保安員が仕込まれているのです。この現場での警戒対象は、主に中高生と外国人。実際に捕捉した事例を挙げれば、修学旅行中の高校生たちによる集団万引きと、お土産用にと大量のチョコレートを持ち出した外国人カップルを摘発したことが記憶にあります。夢の国だから万引きをしても捕まらないという都市伝説的な話を確認したくて、実際に万引き行為に及んでしまったという地方在住の高校生を捕捉したこともありました。この言い訳を聞いた時には、わが耳を疑う思いがしたものです。また、「園内のショップで万引きをしても、夢の国だから退場するまでは声をかけられない」というウワサもあるようですが、実際にはスーパーなどにおける捕捉と同じく、未精算の商品を店外に持ち出したところで声をかけて捕捉します。そもそも万引きやスリ、置き引きなどの逮捕は現行犯が基本なので、犯意が成立した時点で捕捉するしかないのです。

 さらに詳しく話を聞いてみると、彼女の孫娘たちが盗んだモノは、キャラクターものの被り物やタオル、菓子など6点ほどで、合計被害額は1万円を超えていたといいます。盗んだ商品は、アヒルのキャラクター物で統一されており、孫娘が青の方、その友達がピンクの方を選んで盗んでいたと聞きました。共犯での犯行は計画性が高く、悪質と判断されるため、被害届を出されてしまえば、たとえ未成年者であっても逮捕事案となりえる状況といえるでしょう。ちなみに、ここで私が関わった被疑者のほとんどは高校生でしたが、そのほとんどが被害届を出されていました。それによって学校から退学処分を受けた被疑者もおり、見知らぬ人の人生を左右する自分の仕事の影響力を、あらためて実感させられたことを覚えています。

「捕まって、どうなったのよ。もしかして逮捕された?」
「本来なら逮捕するところだけど、お店が被害届を出さないでくれたからって、今回だけという約束で家に帰してくれたのよ」

恐らくは、微罪処分として扱われたのでしょう。写真や指紋などは採取されたそうですが、基本調書を取られることはなく、盗んだ商品を返品するだけで済まされたというので、捕まった側からすれば非常にラッキーな展開といえます。

「運がよかったって、言っていいかわからないけど、これを最後にさせないとダメよ。お孫さん、ちゃんと反省してる?」
「誰も歩いていない従業員専用の道を通って、園内の華やかさがまったく感じられない殺風景な事務所に案内されたらしいんだけど、その時、すごく悲しかったんだって。たまたまステージ裏を通った時に、自分の好きなアヒルのキャラクターが歩いているのを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになったって」

自分も知っているルートなので、その情景が目に浮かびます。捕捉された被疑者の心境を知ることは、なかなかないことなので、とても興味深い話に思えました。友人関係にさえ気をつけてくれれば、きっと大丈夫。追加で頼んだケーキを前に、そんな話をしていると、彼女のスマホにLINEがきました。スマホに目を落としてメッセージを確認した彼女が、眉間にしわを寄せながら上目づかいに言います。

「出入禁止になっていないか、孫が心配しているんだけど、また遊びに行っても大丈夫なのかしら?」

「夢の国で悪さをすると、出入禁止になる」という話もよく耳にしますが、私の知る限り、そのような処置が取られることはありませんでした。もちろん、その日は退場していただくことになりますが、以後の入場を拒否される場面を見たことはなかったです。しかし、これも数年前までの話。いまは顔認証システムなど、最新の防犯機器を設置している施設が多いので、その扱いは変わっているかもしれません。

「悪さをしなければ、大丈夫。そう伝えてあげて」
「ありがとう。ほんと、恥ずかしくて仕方ないわよ……」

 少しイラつきながらも拙い手つきでメッセージを送る彼女の姿を見た私は、家族って大変だなと、独り身の気楽さを実感しました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう

「あの人、見覚えがある……」万引きGメンが捕まえた熟年女性、その正体にスーパーの社長も絶句

 こんにちは、保安員の澄江です。

 以前、急な欠員が出たということで、本来であればあり得ない、自宅からほど近いところにある生鮮スーパーで勤務することになりました。長く同じ街に暮らしているために顔見知りも多く、たまに行く店でもあるので、何度かお断りしたのですが、今回限りということで部長様に拝み倒されてしまい、やむなくお受けしたのです。ましてや、私の年齢(60代)は、万引きする人が非常に多い世代。もし、自分の同世代の知り合いが万引きしているところを現認してしまったら、いつも通りに声をかけて、警察に引き渡すことができるでしょうか。そう考えると、全ての場面において躊躇する自分しか想像できず、かといって犯行を現認してしまえば、それを見逃すわけにもいきません。結局は、そのような場面に遭遇しないことを祈るほかなく、重く憂鬱な気持ちで現場に向かった次第です。

 当日の現場は、関東近郊の住宅街にポツンと位置する激安生鮮スーパーM。この店は個人店主が経営する地域密着型の店舗で、妙に気合の入った職人気質の社長兼店長が、全てを取り仕切っているようなお店です。コンビニを少し大きくしたくらいの規模の店内は、棚が低く、見通しもよいので被害は少なそうですが、店外売場はいつも無人で、店内外を自由に行き来できる構造が来るたびに気になっていました。設置されている防犯機器といえば、出入口とレジ上に古いタイプのカメラが付けられているくらいで、従業員の数も少なく、制服警備員の配置もないので、お客さんの良心に支えられているタイプの店舗といえるでしょう。狙ったモノを、店外売場に持ち出してしまえば、いくらでも盗めてしまう。そんな造りのお店なのです。

 事務所に向かい、特売の値札を作成中だった社長に声をかけて挨拶を済ませると、初対面にもかかわらず少し乱暴な口調で指示されました。

「中はいいから、外を中心にみてくれるか? 米、油、洗剤、缶詰なんかがやられてるみたいで、毎月、全然数が合わねえんだ」

 正直な話、寒い冬の日に外の売場を巡回するほどツラい仕事はありませんが、断るわけにもいきません。当日の業務は、午前10時から午後6時まで。勤務開始前に、近くのドラッグストアでいくつかのホッカイロを購入した私は、それをおなかにあててから、勤務を開始しました。寒い日には、これが一番なのです。

 顔見知りを見かけることもなく無難に前半の業務を終えて、閑散とした店内を見ながら休憩に入ろうか考えていると、どこか見覚えのある熟年女性が売場に入ってきました。

(あれ、あの人……、誰だっけ?)

 絶対に見たことがある人なのに、年齢のせいなのか、どうにも思い出せません。遠目から気付かれぬように、顔を見ながら記憶を辿ってみても、まったく思い出せないのです。すると、持ち手つきのサラダ油(198円・税抜)の前で足を止めた熟年女性は、片手に3本ずつ、合計6本のサラダ油を手にすると、嫌な目付きで後方を振り返りました。万引きを特集するテレビ番組的にいえば、まさに「ちょバリ(超バリバリに挙動が怪しい)」といった様子で、この人が誰なのかということは、もはやどうでもよいことになりました。

(きっと、やる)

 そう確信した私は、絶対に気付かれない位置から、熟年女性の行動を見守ります。出口付近ですれ違った女性店員と、軽く挨拶を交わしたところをみると、恐らくは常連客なのでしょう。なに食わぬ顔で、女性店員が店内に戻るのを見届けた熟年女性は、少しだけ顔をひきつらせながら後方を振り返ると、6本のサラダ油を持ったまま店の外に出ていってしまいました。できる限りの早足で追いかけ、道路を横断しようとする熟年女性に追いついた私は、その背後からそっと声をかけます。

「こんにちは、店内保安です。お客様、なにかお忘れじゃないですか?」
「ひっつ……、な、な、なんですか?」
「なんですか、じゃないでしょう? そのサラダ油、お支払されてないですよね?」
「はあ? あっ、そうだ! ごめんなさい、うっかり忘れていました……」

 どこか芝居染みた口調で、意外と素直に犯行を認めた熟年女性は、その場を取り繕うように踵を返すと店内に向かって歩き始めました。

「ちょっと、待って。事務所は、こちらですよ」
「ちょっと忘れていただけなんですよ。お金払ってきますから、勘弁してください」
「なにも買わずに、それだけ持ち出しているんだから、そんなの通用しませんよ。事務所に来てもらえないなら、いますぐ警察を呼ぶことになりますけど、いいですか?」
「…………」

 携帯電話を手に通告すると、どうやら降参したらしい熟年女性は、ガックリとした面持ちで事務所への動向に応じました。手錠をはめられたような格好で、6本ものサラダ油を持ち歩く姿は異様で、どこか滑稽に見えるほどです。

「万引きです……」

 事務所に到着して、被疑者である熟年女性を社長に引き渡すと、社長の口から思わぬ言葉が飛び出しました。

「あれ、おかみさんじゃねえか。おいおい、ウソだろ? 冗談だよな?」
「お知り合いなんですか?」
「この人、目の前にある中華屋の奥さんだよ」
「ああ、あそこの……」

 どこかで見かけた理由が判明して、少しスッキリしましたが、社長の怒りは徐々に大きくなっていきます。

「おかみさん、一体どういうつもりなんだよ。いままでに、何度もやってんだろう? 毎日のように通って、毎年の新年会と忘年会でも使っているのに、これはあんまりじゃねえか?」
「社長さん、ごめんなさい! もうしないし、これも買わせてもらいますから、勘弁してもらえませんか?」
「そんな簡単に許せるわけねえだろ。この油、店で使うんだろ? 親父さんも知ってるのか?」
「はい。でも、私が勝手にやったことです。お願いですから、主人には言わないでください! 離婚されちゃう……」

 お店で使うために万引きしたと白状したおかみさんは、その場に土下座すると、床に顔つけるようにして体を丸めて泣き始めました。それを見た社長は、フンと鼻で笑うと、その場で電話をかけ始めます。

「毎度、スーパーMです。親父さん、ランチ終わったろ? おかみさんのことで、ちょっと大事な話があるんだ。いますぐ店の事務所に顔出してくれねえかな……」
すぐに駆け付けてきた親父さんは、床にうずくまるおかみさんの姿を見て狼狽すると、まるで状況が呑み込めていない様子で言いました。
「おまえ、どうした?」
「あんた、ごめんなさい! 許して!」

 その後、警察を呼ばないことを条件に、過去の犯行も告白したおかみさんは、いままでに何度も、油や米、調味料などを盗み出していたことを認めました。その理由は、お店の経費を浮かすため。おかみさんの犯歴を聞く親父さんの顔は、この上なく痛々しく、見ていてとてもつらかったです。結局、いままでの分を含めた形で被害弁償することで示談した社長は、警察を呼ぶことなく2人を解放しました。示談金の額は、15万円。この額面が多いか少ないかはわかりませんが、利害関係人が納得しているので、きっと妥当な額なのでしょう。

 それからだいぶ後ですが、件の夫婦が営む例の中華料理屋でランチをとってきました。お世辞にもはやっているとはいえないものの、その様子に特別な変化はなく、いまもご夫婦で営業されておられましたよ。チャーハンをいただきながら、以前と変わらないおかみさんを見て、離婚されなくてよかったねと、心の中でつぶやきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

女子小学生の常習犯を捕捉! 万引きGメンがいまだかつて聞いたことのない「盗みの理由」

 こんにちは、保安員の澄江です。

 みなさん、年末年始のお休みはいかがでしたか。帰る実家もなければ会える家族もいない私は、亡夫のお墓参りに行ったほかは、部屋でごろごろして過ごしました。毎年一番寂しくなる時期なので現場に出たい気持ちもあるのですが、大みそかから三が日を過ぎるまでは依頼が少なく、たとえ依頼があったとしても、人であふれる特売の催事場などが主な現場となります。新年早々、あの人混みに揉まれるよりは……と、体を休めることにしたのです。おかげさまで足腰の疲れは取れ、今年初日の現場では、たくさんの商品を盗んでしまった小学生の常習犯を捕捉することができました。今回は、その時の話をしたいと思います。

 今年の仕事始めは、関東近郊にある小さな駅の駅前に位置する総合スーパーA。古臭く複雑な構造を有する3階建てのビル内にある売場は、食品のほかにも衣類や文具、書籍、玩具、化粧品などを扱っています。各フロアとも面積が広く、死角の多いレイアウトであるうえに品数も豊富なので、万引き被害が絶えるわけもなく、長年にわたってお世話になっている店舗の1つです。この現場に入ると、いつも何かが起きる。そんな印象が強い店といえるでしょう。当日の業務は、午前11時から。いつも通り満員電車に揉まれて現場に辿りついた私は、事務所で店長や事務職の皆様に新年の挨拶を済ませると、いつもより強い緊張感を持って店内の巡回を始めました。

 ランチを求める人で混雑する昼のピークは、地下1階にある食品売場の総菜コーナーを中心に警戒します。万引きの現場を知らない方は意外に思われることかもしれませんが、お弁当や総菜を盗む人は意外に多く、ポケットにおにぎりを隠したり、お弁当をそのまま持ち去る手口が横行しているのです。中には毎日のように犯行を繰り返して、毎月の食費を浮かせる常習者も存在しており、お店の場所によってはホームレス系の方々による犯行が横行してしまう場合も珍しくありません。そうした事情から、食事時の混雑時には、惣菜売場を中心に警戒することにしているのです。

 お弁当を選ぶお客さんに紛れて惣菜売場を警戒していると、まもなくして小学生らしい女の子が店に入ってきました。周囲を見渡しても家族らしき人の姿は見当たらないので、どうやら1人で来たようです。女の子の腰元には、男の子用と思しき色合いの大きなエナメル製スポーツバッグがかけられており、よく見ればチャックが全開になっています。大きく口の開いたスポーツバッグに、自然と目を奪われた私は、この女の子の行動を見守ることにしました。

 まもなくしてパック入りのフライドポテトを2つ重ねて手にした女の子は、その上にたらことツナマヨのおにぎりを1つずつ載せると、人気のない菓子売場に早足で移動していきます。そして、腰元のスポーツバッグを前方に持ってきた女の子は、警戒の目で周囲を窺うと、その中に商品を隠しました。その顔を見れば、『名探偵コナン』(小学館)に出てくる黒い人のような目になっており、“悪いことをしています”と顔に書いてあるように見えるほどです。

 それから、周囲に人がいないことを再度確認した女の子は、目の前に陳列されるお菓子を選ぶこともなく棚からむしり取るようにして、次々とスポーツバッグの中に隠していきました。お目当ての商品は、少し高価なチョコレートやビスケット、ボトルガムなどで、いくつかの駄菓子までスポーツバッグに放り込んでいます。たくさんのお菓子を詰め終えて満足したのか、スポーツバッグのチャックを閉めた女の子は、それを腰の位置に戻すとエスカレーターに乗り込みました。

 後を追う私の存在には少しも気付かないまま、玩具や文房具、電化製品を扱う3階で降りた女の子は、ファンシー文具や色ペンセット、シール、ぬいぐるみなどといった商品を、フロアのいたるところで堂々とスポーツバッグに吸い込ませていきます。現認した商品の数が多いほど誤認の不安なく声をかけられるため、犯行の全てを目撃したいところですが、あまりに品数が多くて覚えきれそうになく、注視に気付かれる可能性もあるので無理はしません。もちろん、現認した数が多いほど、被疑者の犯意は明確になるものの、その分だけ調書作成にかかる時間は長くなるので、あまりに多くを見過ぎてしまい後悔したこともありました。万引き犯を逮捕するのに、盗まれたものを全て覚える必要はなく、然るべき場所で声をかけたときに、お金を払っていない商品が1つでも出てくればいいのです。

 3階での犯行を終えた女の子は、階段を使って化粧品売場のある1階まで降りると、そこでもいくつかの商品をスポーツバッグに隠し入れました。どうやら口紅やネイルグッズなどに手をつけているようですが、すでに十分な現認があるので遠巻きに女の子の位置だけを把握していると、ようやくに出口に向かって歩き始めました。不自然なほどに後方を振り返る女の子の様子が、その犯行を裏付けているように思えます。

「お嬢ちゃん、こんにちは。おばちゃん、このお店の人なんだけど、なんで声かけられたかわかるよね?」
「なんですか? 私、関係ありません」
「お菓子とか文房具とかのこと、おばちゃん、みんな知ってるわよ」
「……ううっっ、ごめんなさい」

 すぐにあきらめて泣き始めた女の子を事務所に連れて行き、スポーツバッグに隠したモノを出してもらうと、ありとあらゆる商品が複数ずつ出てきました。盗んだ商品以外のモノは、なに1つ出てこなかったので、盗みにきたとしか思えない状況です。駆けつけた店長と一緒に人定事項と所持金を尋ねると、この店の近くにある団地に住む小学5年生だった女の子は、230円しか持っていませんでした。

「今日は、どうしたの? こんなにたくさん……」
「みんなお年玉で好きなモノ買っているのに、私はもらえなかったから……」

 目の前のデスクに並べきれず、山積みにされたブツを前に泣き咽ぶ女の子を宥めながら事情を聞くと、今までに聞いたことのない言い訳を耳にすることになりました。お年玉をもらえなかったから万引きしたというのは、一体どういうことなのでしょうか。

「お年玉もらえなかったんだ?」
「ウチは8人きょうだいだから、そんなお金はないって……」

 聞けば、8人きょうだいの7番目だという女の子は、兄弟が多すぎるためにお年玉がもらえないらしく、そのストレスから万引きしたようです。通報要件の聴取を終えたので、店長に事後の判断を仰ぐと、どこか悲しげな表情をした店長が、山積みにされたブツを見ながら言いました。

「これ全部、自分で使うつもりだったのかな?」
「ううん。ウチのみんなにも、分けてあげるつもりで……」
「もしかして、誰かに頼まれたの?」
「お兄ちゃんが、バッグを貸してくれたけど……」

 同じ商品を複数ずつ盗んだのは、家族に分け与えるためだと話した女の子は、デスクに顔を伏せると派手に泣き始めました。少し可哀想な気もしますが、今回の被害は、計59点、被害額合計は1万8000円相当に上っています。たとえ、お兄ちゃんの指示があったにせよ、自分の好きなモノもたくさん盗んでいるので、さほど同情できない状況といえるでしょう。その後、警察に引き渡された女の子は、触法少年扱いとなり、厳重注意の上で保護者に引き渡されることになりました。

 その日の下番時。業務終了の挨拶のため事務所に顔を出すと、女の子と母親らしき女性が、少年課の女性刑事に付き添われて謝罪に来ている場面に遭遇しました。刑事さんが謝罪に同行することは珍しく、何かあったのかと、報告書を用意しながら聞き耳を立てます。

「この度は、ウチの娘が申し訳ありませんでした。恥ずかしながら、商品を買い取るお金は用意できないんですけど、お許しいただけますでしょうか?」

 恐らくは、金がなく謝罪に来たがらない母親に、保護者としてのけじめをつけさせるために、お目受け役として刑事さんが同行してきたのでしょう。下唇を噛んで、居心地悪そうに俯く女の子の顔が痛々しくて、お年玉をあげたい気分になりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

女子小学生の常習犯を捕捉! 万引きGメンがいまだかつて聞いたことのない「盗みの理由」

 こんにちは、保安員の澄江です。

 みなさん、年末年始のお休みはいかがでしたか。帰る実家もなければ会える家族もいない私は、亡夫のお墓参りに行ったほかは、部屋でごろごろして過ごしました。毎年一番寂しくなる時期なので現場に出たい気持ちもあるのですが、大みそかから三が日を過ぎるまでは依頼が少なく、たとえ依頼があったとしても、人であふれる特売の催事場などが主な現場となります。新年早々、あの人混みに揉まれるよりは……と、体を休めることにしたのです。おかげさまで足腰の疲れは取れ、今年初日の現場では、たくさんの商品を盗んでしまった小学生の常習犯を捕捉することができました。今回は、その時の話をしたいと思います。

 今年の仕事始めは、関東近郊にある小さな駅の駅前に位置する総合スーパーA。古臭く複雑な構造を有する3階建てのビル内にある売場は、食品のほかにも衣類や文具、書籍、玩具、化粧品などを扱っています。各フロアとも面積が広く、死角の多いレイアウトであるうえに品数も豊富なので、万引き被害が絶えるわけもなく、長年にわたってお世話になっている店舗の1つです。この現場に入ると、いつも何かが起きる。そんな印象が強い店といえるでしょう。当日の業務は、午前11時から。いつも通り満員電車に揉まれて現場に辿りついた私は、事務所で店長や事務職の皆様に新年の挨拶を済ませると、いつもより強い緊張感を持って店内の巡回を始めました。

 ランチを求める人で混雑する昼のピークは、地下1階にある食品売場の総菜コーナーを中心に警戒します。万引きの現場を知らない方は意外に思われることかもしれませんが、お弁当や総菜を盗む人は意外に多く、ポケットにおにぎりを隠したり、お弁当をそのまま持ち去る手口が横行しているのです。中には毎日のように犯行を繰り返して、毎月の食費を浮かせる常習者も存在しており、お店の場所によってはホームレス系の方々による犯行が横行してしまう場合も珍しくありません。そうした事情から、食事時の混雑時には、惣菜売場を中心に警戒することにしているのです。

 お弁当を選ぶお客さんに紛れて惣菜売場を警戒していると、まもなくして小学生らしい女の子が店に入ってきました。周囲を見渡しても家族らしき人の姿は見当たらないので、どうやら1人で来たようです。女の子の腰元には、男の子用と思しき色合いの大きなエナメル製スポーツバッグがかけられており、よく見ればチャックが全開になっています。大きく口の開いたスポーツバッグに、自然と目を奪われた私は、この女の子の行動を見守ることにしました。

 まもなくしてパック入りのフライドポテトを2つ重ねて手にした女の子は、その上にたらことツナマヨのおにぎりを1つずつ載せると、人気のない菓子売場に早足で移動していきます。そして、腰元のスポーツバッグを前方に持ってきた女の子は、警戒の目で周囲を窺うと、その中に商品を隠しました。その顔を見れば、『名探偵コナン』(小学館)に出てくる黒い人のような目になっており、“悪いことをしています”と顔に書いてあるように見えるほどです。

 それから、周囲に人がいないことを再度確認した女の子は、目の前に陳列されるお菓子を選ぶこともなく棚からむしり取るようにして、次々とスポーツバッグの中に隠していきました。お目当ての商品は、少し高価なチョコレートやビスケット、ボトルガムなどで、いくつかの駄菓子までスポーツバッグに放り込んでいます。たくさんのお菓子を詰め終えて満足したのか、スポーツバッグのチャックを閉めた女の子は、それを腰の位置に戻すとエスカレーターに乗り込みました。

 後を追う私の存在には少しも気付かないまま、玩具や文房具、電化製品を扱う3階で降りた女の子は、ファンシー文具や色ペンセット、シール、ぬいぐるみなどといった商品を、フロアのいたるところで堂々とスポーツバッグに吸い込ませていきます。現認した商品の数が多いほど誤認の不安なく声をかけられるため、犯行の全てを目撃したいところですが、あまりに品数が多くて覚えきれそうになく、注視に気付かれる可能性もあるので無理はしません。もちろん、現認した数が多いほど、被疑者の犯意は明確になるものの、その分だけ調書作成にかかる時間は長くなるので、あまりに多くを見過ぎてしまい後悔したこともありました。万引き犯を逮捕するのに、盗まれたものを全て覚える必要はなく、然るべき場所で声をかけたときに、お金を払っていない商品が1つでも出てくればいいのです。

 3階での犯行を終えた女の子は、階段を使って化粧品売場のある1階まで降りると、そこでもいくつかの商品をスポーツバッグに隠し入れました。どうやら口紅やネイルグッズなどに手をつけているようですが、すでに十分な現認があるので遠巻きに女の子の位置だけを把握していると、ようやくに出口に向かって歩き始めました。不自然なほどに後方を振り返る女の子の様子が、その犯行を裏付けているように思えます。

「お嬢ちゃん、こんにちは。おばちゃん、このお店の人なんだけど、なんで声かけられたかわかるよね?」
「なんですか? 私、関係ありません」
「お菓子とか文房具とかのこと、おばちゃん、みんな知ってるわよ」
「……ううっっ、ごめんなさい」

 すぐにあきらめて泣き始めた女の子を事務所に連れて行き、スポーツバッグに隠したモノを出してもらうと、ありとあらゆる商品が複数ずつ出てきました。盗んだ商品以外のモノは、なに1つ出てこなかったので、盗みにきたとしか思えない状況です。駆けつけた店長と一緒に人定事項と所持金を尋ねると、この店の近くにある団地に住む小学5年生だった女の子は、230円しか持っていませんでした。

「今日は、どうしたの? こんなにたくさん……」
「みんなお年玉で好きなモノ買っているのに、私はもらえなかったから……」

 目の前のデスクに並べきれず、山積みにされたブツを前に泣き咽ぶ女の子を宥めながら事情を聞くと、今までに聞いたことのない言い訳を耳にすることになりました。お年玉をもらえなかったから万引きしたというのは、一体どういうことなのでしょうか。

「お年玉もらえなかったんだ?」
「ウチは8人きょうだいだから、そんなお金はないって……」

 聞けば、8人きょうだいの7番目だという女の子は、兄弟が多すぎるためにお年玉がもらえないらしく、そのストレスから万引きしたようです。通報要件の聴取を終えたので、店長に事後の判断を仰ぐと、どこか悲しげな表情をした店長が、山積みにされたブツを見ながら言いました。

「これ全部、自分で使うつもりだったのかな?」
「ううん。ウチのみんなにも、分けてあげるつもりで……」
「もしかして、誰かに頼まれたの?」
「お兄ちゃんが、バッグを貸してくれたけど……」

 同じ商品を複数ずつ盗んだのは、家族に分け与えるためだと話した女の子は、デスクに顔を伏せると派手に泣き始めました。少し可哀想な気もしますが、今回の被害は、計59点、被害額合計は1万8000円相当に上っています。たとえ、お兄ちゃんの指示があったにせよ、自分の好きなモノもたくさん盗んでいるので、さほど同情できない状況といえるでしょう。その後、警察に引き渡された女の子は、触法少年扱いとなり、厳重注意の上で保護者に引き渡されることになりました。

 その日の下番時。業務終了の挨拶のため事務所に顔を出すと、女の子と母親らしき女性が、少年課の女性刑事に付き添われて謝罪に来ている場面に遭遇しました。刑事さんが謝罪に同行することは珍しく、何かあったのかと、報告書を用意しながら聞き耳を立てます。

「この度は、ウチの娘が申し訳ありませんでした。恥ずかしながら、商品を買い取るお金は用意できないんですけど、お許しいただけますでしょうか?」

 恐らくは、金がなく謝罪に来たがらない母親に、保護者としてのけじめをつけさせるために、お目受け役として刑事さんが同行してきたのでしょう。下唇を噛んで、居心地悪そうに俯く女の子の顔が痛々しくて、お年玉をあげたい気分になりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)