インフルエンザの季節到来、子どもが咳やくしゃみをしていたら受けないほうがいい? 小児科医からのアドバイス

 空気がひんやりしてくると、小児科外来にはとたんに咳と鼻水の子が増えます。10月のはじめから中旬までには、多くの医療機関でインフルエンザワクチンが始まります。そんなふうに風邪で咳や鼻水があるときに、ワクチンは受けないほうがいいでしょうか?

 厚生労働省の「予防接種法施行規則」というものがあって、予防接種に関しての注意事項が書いてあります。下記の項目にあてはまると絶対に受けてはいけない、というわけではないのですが、知っておいてください。

受けるべきか、やめておくべきか。
①以前にそのワクチンを受けていて、さらに受ける必要がない人
②明らかに発熱している人(37.5℃以上)
③重い急性疾患にかかっている人
④そのワクチンでアナフィラキシーショックを起こしたことのある人
⑤BCGを受ける場合は、以前に受けたBCGや外傷などによってケロイドになった人

 まず、①の「以前にそのワクチンを受けていて、さらに受ける必要がない人」というのは、受けるべきか受けないほうがいいかは微妙なところです。

 以前、生ワクチンは1回のみの接種でいいとされていました。麻疹風疹(MR)ワクチンや水痘ワクチンは2回、定期接種として受けられます。早ければ来年度から定期接種になるロタウイルスワクチンも生ワクチンですが、もとから2~3回受けるものです。生ワクチン以外の不活化ワクチン、トキソイドも複数回受けないと効果が十分でないものが多く、以前にそのワクチンを受けていても、抗体が上がらなかったり効果が下がってきたりしている場合は、受ける必要性が出てきます。

 だからこの項目は、以前にそのワクチンを受けていても、1回だけだったらさらに受ける必要がある人のほうが多いでしょう。

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 とくに現在、風疹第5期として昭和47年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性に風疹抗体検査と予防接種のクーポンが送られています。風疹抗体価がHI法で16倍未満、EIA法で6~15未満だとクーポンで風疹ワクチンかMRワクチンを無料で受けることができます。ところが微妙な値、たとえば16倍、8.0だったりすると安心してしまい、ワクチンを受けて帰る人はまずいません。私のクリニックでは、
「風疹抗体価が16倍というのは、5年後もその抗体価である保証はないし、そもそも妊婦さんは16倍以上あることを推奨しているんです。自費でもMRワクチンを受けたほうがいいですよ」
と勧めますが、実際に受ける人はゼロです。

子どもが発熱、判断に迷ったら
 ただ、MRワクチンに関しては2回接種を受けたあとに抗体が上がらない人がいて、そういう人は3回、4回と受けても抗体価は上昇しにくいのです。3回で麻疹風疹の予防効果はあるといわれていますから、それ以上受けなくていいでしょう。でも、受けたことが不確かだったり、1回しか受けていないという人だったりした場合は、2回目のMRワクチンを受けましょう。

 ②の明らかに発熱している場合は、たとえ元気でも予防接種をお勧めしません。だいたい、子どもは急に発熱するものです。37.5℃であまり熱が高くないからとワクチンをしてしまったあとに高熱が出たら、ワクチンのせいなのかなんらかの病気の初期だったのかがわからなくなります。

 でも、子どもははしゃいだり、周囲が暑かったりすると体温が上がりやすいので、薄着にして涼しいところで体温を測りなおし、熱が下がったら一時的な体温上昇だったと判断し、予防接種を受けるのが実際のところです。高熱でなければ、医師に相談してみましょう。

 ③の重い急性疾患にかかっている人も受けられません。急性疾患の「急性」というのは一般的に2週間以内です。ひどい喘息発作を起こしているとか、嘔吐と下痢が1日に何回もあるという体調の悪いときには熱がなくても予防接種は控えたほうがいいでしょう。1~2週間待って調子がいいときに受けたほうがいいです。

 ④と⑤のアナフィラキシーショック、ケロイドはあまりよくあることではありませんが、ワクチンを受ける利点とデメリットを考慮して、受けないと判断することがあります。

やめておいたほうがいい場合
 上記の5つに当てはまるかどうかよくわからないという人もいますね。鼻水が出ているとか、たまに咳をするくらいだったら予防接種を受けてほしいです。風邪かもしれないけど熱がない、あるいは急性疾患でも重いものでないという場合も、同様です。ワクチンを受けずにもっと重症の感染症になってしまうことのほうが心配です。

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 風邪症状がまったくなくなるまで打てないと思っている人がいる一方、逆に「昨日熱が出たけど今日はないから」と受けに来る人もいます。前述の「予防接種法施行規則」に入っていませんが、病気の始まりは熱が上下したり、なんだかはっきりしないけれど調子が悪かったりすることがありますね。時間的に余裕があれば、数日様子を見てからにしましょう。

 なかなか受けに来る時間が取れないとか、定期接種の期限が切れてしまうとかいうときには、医師に相談してください。それもリスクとベネフィットを考慮しての判断になると思います。

Information
森戸やすみさんが、同じく小児科医の宮原篤さんと共著でリリースした『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』、発売記念トークショーが開催されます。

ワクチンについてさらに知りたい人、ワクチンをちょっと不安に思っている人、お待ちしています! 詳細は▼こちら▼から。

【日 時】2019年11月24日(日) OPEN 12:30 / START 13:30
【場 所】ネイキッドロフト(東京・新宿)

【出 演】著者:森戸やすみ/小児科専門医・さくらが丘小児科クリニック、宮原篤/小児科専門医・かるがもクリニック
【ゲスト】堀成美/感染症対策コンサルタント
【司 会】鈴木エイト/ジャーナリスト

【料 金】前売¥1500 / 当日¥2000(要1オーダー¥500以上)

 

『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)

インフルエンザの季節到来、子どもが咳やくしゃみをしていたら受けないほうがいい? 小児科医からのアドバイス

 空気がひんやりしてくると、小児科外来にはとたんに咳と鼻水の子が増えます。10月のはじめから中旬までには、多くの医療機関でインフルエンザワクチンが始まります。そんなふうに風邪で咳や鼻水があるときに、ワクチンは受けないほうがいいでしょうか?

 厚生労働省の「予防接種法施行規則」というものがあって、予防接種に関しての注意事項が書いてあります。下記の項目にあてはまると絶対に受けてはいけない、というわけではないのですが、知っておいてください。

受けるべきか、やめておくべきか。
①以前にそのワクチンを受けていて、さらに受ける必要がない人
②明らかに発熱している人(37.5℃以上)
③重い急性疾患にかかっている人
④そのワクチンでアナフィラキシーショックを起こしたことのある人
⑤BCGを受ける場合は、以前に受けたBCGや外傷などによってケロイドになった人

 まず、①の「以前にそのワクチンを受けていて、さらに受ける必要がない人」というのは、受けるべきか受けないほうがいいかは微妙なところです。

 以前、生ワクチンは1回のみの接種でいいとされていました。麻疹風疹(MR)ワクチンや水痘ワクチンは2回、定期接種として受けられます。早ければ来年度から定期接種になるロタウイルスワクチンも生ワクチンですが、もとから2~3回受けるものです。生ワクチン以外の不活化ワクチン、トキソイドも複数回受けないと効果が十分でないものが多く、以前にそのワクチンを受けていても、抗体が上がらなかったり効果が下がってきたりしている場合は、受ける必要性が出てきます。

 だからこの項目は、以前にそのワクチンを受けていても、1回だけだったらさらに受ける必要がある人のほうが多いでしょう。

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 とくに現在、風疹第5期として昭和47年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性に風疹抗体検査と予防接種のクーポンが送られています。風疹抗体価がHI法で16倍未満、EIA法で6~15未満だとクーポンで風疹ワクチンかMRワクチンを無料で受けることができます。ところが微妙な値、たとえば16倍、8.0だったりすると安心してしまい、ワクチンを受けて帰る人はまずいません。私のクリニックでは、
「風疹抗体価が16倍というのは、5年後もその抗体価である保証はないし、そもそも妊婦さんは16倍以上あることを推奨しているんです。自費でもMRワクチンを受けたほうがいいですよ」
と勧めますが、実際に受ける人はゼロです。

子どもが発熱、判断に迷ったら
 ただ、MRワクチンに関しては2回接種を受けたあとに抗体が上がらない人がいて、そういう人は3回、4回と受けても抗体価は上昇しにくいのです。3回で麻疹風疹の予防効果はあるといわれていますから、それ以上受けなくていいでしょう。でも、受けたことが不確かだったり、1回しか受けていないという人だったりした場合は、2回目のMRワクチンを受けましょう。

 ②の明らかに発熱している場合は、たとえ元気でも予防接種をお勧めしません。だいたい、子どもは急に発熱するものです。37.5℃であまり熱が高くないからとワクチンをしてしまったあとに高熱が出たら、ワクチンのせいなのかなんらかの病気の初期だったのかがわからなくなります。

 でも、子どもははしゃいだり、周囲が暑かったりすると体温が上がりやすいので、薄着にして涼しいところで体温を測りなおし、熱が下がったら一時的な体温上昇だったと判断し、予防接種を受けるのが実際のところです。高熱でなければ、医師に相談してみましょう。

 ③の重い急性疾患にかかっている人も受けられません。急性疾患の「急性」というのは一般的に2週間以内です。ひどい喘息発作を起こしているとか、嘔吐と下痢が1日に何回もあるという体調の悪いときには熱がなくても予防接種は控えたほうがいいでしょう。1~2週間待って調子がいいときに受けたほうがいいです。

 ④と⑤のアナフィラキシーショック、ケロイドはあまりよくあることではありませんが、ワクチンを受ける利点とデメリットを考慮して、受けないと判断することがあります。

やめておいたほうがいい場合
 上記の5つに当てはまるかどうかよくわからないという人もいますね。鼻水が出ているとか、たまに咳をするくらいだったら予防接種を受けてほしいです。風邪かもしれないけど熱がない、あるいは急性疾患でも重いものでないという場合も、同様です。ワクチンを受けずにもっと重症の感染症になってしまうことのほうが心配です。

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 風邪症状がまったくなくなるまで打てないと思っている人がいる一方、逆に「昨日熱が出たけど今日はないから」と受けに来る人もいます。前述の「予防接種法施行規則」に入っていませんが、病気の始まりは熱が上下したり、なんだかはっきりしないけれど調子が悪かったりすることがありますね。時間的に余裕があれば、数日様子を見てからにしましょう。

 なかなか受けに来る時間が取れないとか、定期接種の期限が切れてしまうとかいうときには、医師に相談してください。それもリスクとベネフィットを考慮しての判断になると思います。

Information
森戸やすみさんが、同じく小児科医の宮原篤さんと共著でリリースした『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』、発売記念トークショーが開催されます。

ワクチンについてさらに知りたい人、ワクチンをちょっと不安に思っている人、お待ちしています! 詳細は▼こちら▼から。

【日 時】2019年11月24日(日) OPEN 12:30 / START 13:30
【場 所】ネイキッドロフト(東京・新宿)

【出 演】著者:森戸やすみ/小児科専門医・さくらが丘小児科クリニック、宮原篤/小児科専門医・かるがもクリニック
【ゲスト】堀成美/感染症対策コンサルタント
【司 会】鈴木エイト/ジャーナリスト

【料 金】前売¥1500 / 当日¥2000(要1オーダー¥500以上)

 

『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)

日本が直面する排外主義、格差社会。絶望せず未来へ進むためのヒント/ブレイディみかこさんインタビュー

 イギリスで保育士として働きながら、労働者としての「地べた」からの視点で英国社会における「格差」「貧困」「差別」の有り様を書き続けてきたブレイディみかこ氏。彼女の新刊『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は大きな反響を呼んだ。

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の主人公は、中学校に入学したブレイディみかこ氏の長男。裕福な家の子どもたちが通う公立カトリック校の小学校に通っていたのだが、中学校に進学するにあたり同じように恵まれたカトリック校ではなく、近所の学校を選択する。音楽やダンスなどを推奨する自由な校風に惹かれたからだ。

 しかし、そこは主に白人労働者階級の子どもが通い、かつては荒れていることで知られた「元底辺校」。現在は学校改革が成功して真ん中ぐらいのランキングまで上がっているが、裕福な家の子どもたちが集まるカトリック校では起きない問題が次々と噴出する。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、母と息子の視点から、英国社会における排外主義や格差の状況をルポしている。

 そこに書かれているイギリスでの生活の「リアル」は、日本との共通点、そして、日本がこれから先に歩むであろう道を示唆しているのではないか。ブレイディみかこ氏に話を聞いた。

 

【ブレイディみかこ】
1965年福岡生まれ。イギリスのパンクロックに惹かれて渡英を繰り返し、1996年からブライトン在住。出産を機に保育士資格を取得し、貧困層の家庭の多い地域の保育所で働きながらライター活動を行う。『子どもたちの階級闘争──ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)は、2017年に新潮ドキュメント賞を受賞、翌年には大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補になる。

「経済」の問題が、移民に押し付けられている
──本書では息子さんの中学生活を通して、英国、特にブレイディみかこさんの住んでいるブライトンにおける差別や格差の有り様が書かれていますが、日本でも排外主義的な空気がどんどん強まってきています。
本のなかでは、夏休みに日本に帰省した際、英語で会話する息子さんを見て見知らぬ中年男性が「日本に誇りをもつ日本人ならそれじゃいかん。あんたも日本人なんやけん、日本語を教えて、日本人の心を教えんと、日本の母とは呼べんな」と話しかけてきたエピソードが出てきますね。

ブレイディみかこ いまの日本には、どこかを刺したらそういうレイシズム的なものがプシュっと噴き上がる人が多いのではないかと感じます。もしかしたら、あのオジさんは酔っ払っていたからあんなことを言っただけで、普段はそんなひどいことを言う人ではないかもしれない。でも、なにかのきっかけがあったら躊躇なくそういう発言が飛び出す空気は感じます。

──日本では外国人労働者がどんどん増えていますし、多文化が入り交じる状況に困惑する人が多くいるのかもしれません。

ブレイディみかこ 日本に住んでいる人と話していると、よく「日本は海外で起きたいろんな悪いことを見てきたわけだから、その失敗から学ぶことで、うまくやることができる」といったことをおっしゃるんだけど、人間ってそこまで賢くないから、そういう人種的なこととか、人と人のぶつかり合いは自分で体験しないと本当のことはわからないと思うんですね。

──そういう点では、イギリスは遥か先を歩いていますよね。

ブレイディみかこ イギリスでも排外主義に対する状況は右肩上がりでよくなってきたわけではなく、落ち込んではまた上がってを繰り返しています。三歩進んで二歩下がる、みたいな。そして、現在はまたEU離脱をめぐってレイシズムが噴き上がっている。

──ここに来てイギリスで排外主義が再び力をつけたのはどうしてだと思われますか?

ブレイディみかこ イギリスが新自由主義と緊縮財政を押し進めた政治をやってきて、その結果として起きているのがEU離脱ですから、突き詰めれば経済の問題なんですよ。

──排外主義の高まりと経済の問題は密接にリンクしていると。

ブレイディみかこ 中間層は将来に不安をもち、下層は福祉を切られて生活がギリギリのところまで追い込まれている。そういった状況になると、人は不安や苦しさの理由を求めます。理由があると安心するじゃないですか、人間って。
 そうなると、「自分が苦しいのは、移民が入ってきたからだ」となるわけです。「移民がたくさん入ってきて賃金が下がったからこんな状況になっている」と言って煽る政治勢力が現れると、「じゃあ、移民を排除すればいい」となる。
それは仕事の問題だけではありません。イギリスでは公共サービスも非常に劣化していますが、その理由も「移民が入ってきたから病院でこんなに待たされるんだ」とうまく煽られると、みんなそちらに流れてしまう。
緊縮(緊縮財政政策)って英語でAusterityというんですけど、普通の人はそんな言葉知らないし、経済の仕組みもよくわからないから、「移民のせいだ!」って言われた方が簡単。だから、緊縮財政が終わらない限りは、排外主義もなくならない。このリンクは、近年、欧州ではよく識者に語られていますよね。

──新自由主義や緊縮財政が人々の生活を苦しめているのは、日本もまったく同じ状況だと思います。

ブレイディみかこ 福祉とか教育とか、市民の生活に必要な財政支出が満足に行われずに経済が緊縮すると、人心がギスギスしてくる。日本で排外主義が噴き出しているのも、経済に原因があるからだと思いますよ。
経済的不安があって、みんな明日の暮らしがどうなるか分からないから、近隣諸国の人たちや外国人労働者をスケープゴートにして差別する。
日本もイギリスの後を追って新自由主義的な政策をやってきているので、このままイギリスと同じような道を進みかねない感じはあると思います。
でも、イギリスに来たら、中国人も韓国人も日本人も等しくチンキー(編集部注:Chinky。基本的には中国人を蔑視する言葉)と呼ばれるんですけどね。イギリス人から見たら、同じ東アジアの人。どこの国かなんて分かりませんから。それで東アジアの人同士は国が違っても同胞意識をもったりするんですけど。

 

国際空港に「嫌韓本」がある日本の状況
──日本の場合、メディアにも非常に問題があると思います。ここ最近の嫌韓報道が典型ですが、メディアが排外主義を煽るような役割を果たしている状況があります。

ブレイディみかこ 昔、イギリスの新聞社の駐在員事務所でアシスタントをしていたとき、同僚に日本好きでしょっちゅう日本に旅行しているような男性がいたんです。
彼とはいまもつきあいがあって、数年前に話したとき、「日本に行ったら空港に中国や韓国のことを悪く書いたタイトルの本が置いてあった」と言ってたのであまりにシュールで不謹慎ながらつい笑ってしまったことがあります。「日本はまた鎖国すんのか!?」って。

──やっぱり、イギリスにはないんですか? フランスをバカにした本とか。

ブレイディみかこ だって国際空港にそんなものあるわけないじゃないですか。「フランスいらない」とか表紙にあったら大変なことになります(笑)。いくらイギリスでも、さすがにそんなものはないですよ。イギリス的な感覚でいったら、他国を貶す本が国際空港に置かれている状況は、ナンセンスコメディの舞台設定のようにすら映ります。

──そうであれば、当然、テレビが排外主義を煽ることもないんでしょうね。

ブレイディみかこ BBCなんか顕著ですけど、イギリスのメディアはポリティカル・コレクトネスにうるさいですよ。それは昔からずっとそうです。
日本のメディアって、報道でもなんでも画一的ですよね。特にテレビ。どのチャンネルも同じことしか言っていない。もっといろいろな報道の切り口や多様性があっていいと思いますよね。その方が楽しいし、盛り上がりそうなものですけど。
みんなが一斉に安全な方・売れる方に行って、その結果、視聴者に飽きられて、視聴率も落ちて、テレビ局はますます安全な方・売れる方の企画しか出せなくなっている、というのが現状なんじゃないでしょうか。多様性がなくなった結果、全部が面白くなくなって、ダメになっていく。テレビだけじゃないかもしれないけど。

──画一的という面でいうと、日本国内では「内向き志向」「ガラパゴス化」が強まり、音楽・映画・文学などの海外の文化がどんどん受容されなくなっている傾向も感じます。

ブレイディみかこ それは私もすごい感じます。海外から入ってくるものを聴いたり、見たり、読んだりして影響を受けることって大事じゃないですか。それは、海外にかぶれろって意味ではなく。
「ここじゃない世界がある」っていうことは、すごくいろんな人を勇気づける。特に、いまがつらい人。生きていると、ここじゃない世界がどこかにあると思うからやっていける瞬間ってありますよね。
私も昔は、海外の音楽に励まされて、それが高じて「いま我慢して高校を卒業をしてお金さえ貯めればイギリスに行けるんだ」みたいな気持ちも生まれて、それが原動力になっていましたから。

──すごく分かります。

ブレイディみかこ そのためにも外からの情報って大事だと思うんです。でも、外からの情報がなくなったり、興味がない人が増えたりすると、そもそも翻訳がなかなか出なくなったりする。
1980年代とかだと海外の本もすぐ翻訳されましたよね。でも、いまは違う。多分、「貧困化する」ってそういうことなんですよ。いまの日本を見ていると、国が衰退していっているのを見ている気がします。

──なるほど。

ブレイディみかこ そういうのがどんどん社会を苦しくしていっているんだろうなって気がします。「オルタナティブはない」とか、「この道しかない」と思い込まされることはつらい。本当はそんなわけないのに。
特に若い人なんかは本当にお金がないじゃないですか。『THIS IS JAPAN──英国保育士が見た日本』(太田出版)の取材をしたときに驚きましたもん。こんなにたくさん希望を抱く余裕すら奪われた若者がいるのかって。
それで若い人たちは「道を踏み外してはいけない」「道を踏み外したら人生が終わってしまう」とギチギチになっているように感じます。
そういったつらさから脱するためには、「こことは違う国には、全然違う人たちが住んでいて、全然違う考え方をしている」ということを紹介していかないとダメなんですよ。
私がこういう本を書いているのも、そういう活動の一環と言えるのかもしれない。「なかなか海外の本が翻訳されないんだったら、私がはじめから日本語で書いてやるよ!」っていう。

未来は子どもたちの手の中にある
──本書を読んでいて驚いたのは、英国の中学校では「シティズンシップ・エデュケーション」という、政治や社会を批評的な眼差しで見ることを教える授業があることです。

ブレイディみかこ 息子の学校で実際に試験に出たものなんですけど、「ある教授が語った『いま、学校でレイシズムについて教え過ぎている』という意見について、賛成か? 反対か? 理由をつけて説明しなさい」という問題がありました。
これってけっこうすごい問題じゃないですか? 「先生を疑え」と教えているわけですし、それを先生自身が採点するというのもすごい。採点する側にもそれなりの度量がないとできないし、先生たちもそういう問題を出して生徒に答えさせることを楽しんでいる部分があると思うんですよね。

──そういう教育があると、日本社会ももう少し自由で生きやすいものになるのになと思います。

ブレイディみかこ 教育は大事ですよ。本当に社会を変えるには教育が大事です。
 子どもたちをあまり見くびってはいけないですよ。いまの社会のダメなところを直していくのは、いまの子どもたちかもしれないし。
そもそも、大人が絶望ばかりしているのは、未来のある子どもたちに失礼です。

──それがこの本のテーマでもありますよね。

ブレイディみかこ この本だって書き方ひとつでいくらでもドロドロさせることもできたけれど、それをいま書いてどうするよっていう。私はもう絶望には飽きているので。
子どもって呆れるほど鮮やかに成長するんですよ。そこが大人と違うところですよね。ひとつの考えに凝り固まっている大人こそが子どもたちから学ばなければならない。私も子どもたちから学んでいますから。だから、子どもたちから学んだことを伝えたくてこの本を書いたんです。
イギリスは特にそうですけど、いまってものすごい時代の分岐点じゃないですか。そういうときって人間も変わっていかないと。どれだけ長く信じ込んできたことでも、時代に合わなくなった常識は捨てて、柔軟に対応していかなくてはいけない。
そうなると、子どもたちが持つ、あのしなやかさから学ばないといけないことはたくさんあるはずなんですよね。

(取材、構成:編集部)

神戸の教師4人による暴行事件を「教師いじめ」「嫌がらせ」と報じていいのか

 兵庫県神戸市内の市立東須磨小学校で去年から今年にかけ、20代の男性教師が同僚の先輩教師4人から暴行や暴言を受けていたことが明らかになった。加害教師は30代の男性教諭3人と40代の女性教諭1人だ。

 加害教師らは男性教師を“ポンコツ”を意味する「ポンちゃん」と呼び、羽交い締めにして激辛カレーを無理やり食べさせたり、LINEで別の女性教師に卑わいなメッセージを送ることを強要したりなどした。その他にも、激辛ラーメンの汁を目や唇に塗りつける、コピー用紙の芯で尻を叩く、「ボケ」「カス」などの暴言を浴びせるなど、暴虐の限りを尽くしていたことが明らかになっている。

 そのうえ、加害側の教師たちは激辛カレーを食べさせる様子を動画に撮影し、生徒らに対して「面白かった」などと発言していたという。とても教師とは思えない悪質な所業の全貌が徐々に明らかになってきた。

 問題が発覚したのは、これらの暴行や暴言について、9月上旬に被害者の家族から市教育委員会に連絡が入り、調査に乗り出したため。被害者の男性教師は精神的苦痛のために9月から休んでおり、学校側は加害者教師の4人に対して有給休暇を取得させているという。

 本来は子供たちの暴行や暴言を指導する立場である加害者教師たちの愚行に、「恥ずかしくないのか」と批判の声が相次いでいる。加害者教員が他の学校に移り再び教鞭を振るうことに否定的な意見も見られ、氏名を公表するよう求める声も少なくない。報道によれば、加害教師のひとりはベテランで、保護者からの信頼も厚かったようだ。

 また、市教育委員会が10月4日に開いた会見では、他にも3人の教師が加害者教師4人から暴言やセクハラなどを受けていたことが新たにわかり、今後の対応が注目される。

「いじめ」「嫌がらせ」と報じていいのか
 この加害者教師4人の蛮行を多くのメディアで発信されたが、その報じ方には違和感を覚えるものだった。以下は事件を取り上げたネットニュースの見出しだ。

「目にカレー、小学校教員が同僚から嫌がらせ」共同通信社

「教員4人が同僚にいじめ 『羽交い締めされ激辛カレー』」朝日新聞

「サイテー先生4人組、同僚いじめ尽くし 神戸・須磨の小学校で“子供以下レベル”のあの手この手」サンケイスポーツ

 テレビ報道でも、「嫌がらせ」「いじめ」という言葉を使用するものが散見された。

 しかし暴言を浴びせたり激辛カレーを無理矢理食べさせたりといった行為は、「侮辱罪」や「傷害罪」が適応される可能性も高く、犯罪行為といえるのではないか。学校内・職場内で起きた事件だからといって、明らかな犯罪行為を「嫌がらせ」「いじめ」といった軽い言葉で報じることは、問題の矮小化につながらないだろうか。

 こういったケースは枚挙に暇がない。2018年に芸能プロダクションの社長が忘年会の際に従業員の頭をしゃぶしゃぶの鍋に頭を突っ込ませた行為が話題になったが、各メディアはこの明らかな傷害行為を「パワハラ」という言葉を使って報じていた。

 2018年に放送された『スッキリ』(日本テレビ系)で、当時小学5年生だった女子生徒の身体を男性教師に触られた事件を「スクールセクハラ」という言葉を使い取り上げた際も、ネット上では「言葉が軽すぎる」と批判の声が寄せられた。

 犯罪行為が社内で起きたら「ハラスメント」、学校内で起きたら「いじめ」。こうした言葉を敢えて使ってしまうと、問題の本質を捉えられなくなる恐れがある。今回の神戸の事件も、「いじめ」というより学校内で起きた暴行事件だ。しかも何カ月にもわたり暴力が続いた、深刻な事件である。

 「ハラスメント」の概念が広く知られるようになったことで、内々に処理されてしまうことなく適切な対処がされたケースも中にはあるかもしれない。しかし、こうしたフレーズを便利に使いすぎることは考え直さなければいけない。

1日8時間は「働きすぎ」? 日本の労働時間に海外からは「健康に悪い」

YouTubeに投稿された「【密着シリーズ】日本のサラリーマンの1日に完全密着!」という動画が海外の人々の間で話題になっている。一体どんな動画なのだろうか。

 動画を投稿したのはフィリピン系アメリカ人であり、15年以上前から東京に住んでいるというPaolo氏。彼のYouTubeチャンネル「Paolo fromTOKYO」では、日本における観光の楽しみ方やマナーなどが紹介されており、登録者数は56.8万人に上る。

マコトの1日は日本人の平均的な労働
 「【密着シリーズ】日本のサラリーマンの1日に完全密着!」は、東京のオフィスで働く日本人のサラリーマン・27歳のマコトの1日に密着し、11分強の動画にまとめたもの。

 東京で家族と暮らすマコトは、7時に起床して身支度を整え、7時15分に家を出発。自転車で駅に向かい、満員電車を乗り継ぎ、コンビニに立ち寄って野菜ジュースを購入し、8時20分にオフィスに到着。マコトは新人のため、一番早く出社するそうだ。

 本社はイギリスにあり、マコトが働くオフィスの従業員数は5人だという。

 8時50分頃に他の従業員が出社してくると、マコトはアイスコーヒーを作って従業員たちに配る。

 9時30分にはオフィスを出て電車に乗り、コーヒー店やコインスペースといった取引先を回る。日本の会社では、メールや電話で済むことでも、直接会うことが“礼儀”とされており、マコトも1日の中で多くの時間を移動に費やしている。

 時間がないため、昼食はスーパーで購入したパンをメールをチェックしながら食べる毎日だ。

 午後は上司と共に商談に出向く。夕方オフィスに戻ると電話対応やメールチェックに追われ、18時5分に退社。出社時間の8時20分から換算すると拘束時間は9時間25分ということになる。

 ようやく仕事が終わったのかと思いきや「これから家に向かいますが、まだ途中で仕事があります」とのことで、コンビニのポストに書類を投函。

 その後、マコトの会社はアフタースクールプログラムのサポートもしているといい、週に2回は子どもたちのメンターとして一緒に夕食を食べる。

 結局、マコトが家に帰宅したのは20時50分。家でもパソコンを開いて仕事のメールチェックを行い、22時半に入浴。入浴後はビールを飲みながら読書をし、1日が終了した。

1日8時間労働は「働きすぎ」
 マコトの1日は、日本のサラリーマンとして平均的なものともいえる。むしろほぼ定時に退勤しており、ホワイト企業勤務とも言えるだろう。

 しかし、この動画に寄せられた海外勢のコメントは、「働きすぎだ」と不評の嵐だった。

<人口が減っているのも納得いく>
<治安が良いのはこいつら働きすぎてて犯罪を犯す暇すらないんだな>
<働き過ぎで、見ていて疲れた>
<これならヤクザになったほうがマシだ>
<私の日本人の友人が、なぜ日本の労働者を辞めてバンコクの教師になったのかがわかりました。 1日11時間働くことは不健康です>
<なぜ日本のアニメで高校を舞台にした作品が多いかわかった。彼らにとって最後の自由時間なんだ>
<仕事量が多く、プライベートな時間が短く、健康に悪い>
<音楽とナレーションを変えれば、この映像は完全にホラークリップになる>
<見ているだけで憂鬱になりました>
<労働時間は1日6時間でよい。人生は短いのだから>

 日本の労働者たちが「働き過ぎ」であることは随分と前から指摘されており、行政は近年になってようやく「働き方改革」に乗り出し、ノー残業や有休消化を推進するようになった。

 日本ではほとんどの企業が1日の所定労働時間を8時間や7時間半と定めており、多くの人に「最低でも8時間は働くのが社会人の常識」として沁みついてしまっている。だが労働法が定めているのは「8時間まで働かせていい」という規定であって、「必ず8時間は働かなければいけない」という決まりではない。

 私たち日本人は、本当に1日8時間働かなければ社会が立ち行かないのだろうか?

1日8時間は「働きすぎ」? 日本の労働時間に海外からは「健康に悪い」

YouTubeに投稿された「【密着シリーズ】日本のサラリーマンの1日に完全密着!」という動画が海外の人々の間で話題になっている。一体どんな動画なのだろうか。

 動画を投稿したのはフィリピン系アメリカ人であり、15年以上前から東京に住んでいるというPaolo氏。彼のYouTubeチャンネル「Paolo fromTOKYO」では、日本における観光の楽しみ方やマナーなどが紹介されており、登録者数は56.8万人に上る。

マコトの1日は日本人の平均的な労働
 「【密着シリーズ】日本のサラリーマンの1日に完全密着!」は、東京のオフィスで働く日本人のサラリーマン・27歳のマコトの1日に密着し、11分強の動画にまとめたもの。

 東京で家族と暮らすマコトは、7時に起床して身支度を整え、7時15分に家を出発。自転車で駅に向かい、満員電車を乗り継ぎ、コンビニに立ち寄って野菜ジュースを購入し、8時20分にオフィスに到着。マコトは新人のため、一番早く出社するそうだ。

 本社はイギリスにあり、マコトが働くオフィスの従業員数は5人だという。

 8時50分頃に他の従業員が出社してくると、マコトはアイスコーヒーを作って従業員たちに配る。

 9時30分にはオフィスを出て電車に乗り、コーヒー店やコインスペースといった取引先を回る。日本の会社では、メールや電話で済むことでも、直接会うことが“礼儀”とされており、マコトも1日の中で多くの時間を移動に費やしている。

 時間がないため、昼食はスーパーで購入したパンをメールをチェックしながら食べる毎日だ。

 午後は上司と共に商談に出向く。夕方オフィスに戻ると電話対応やメールチェックに追われ、18時5分に退社。出社時間の8時20分から換算すると拘束時間は9時間25分ということになる。

 ようやく仕事が終わったのかと思いきや「これから家に向かいますが、まだ途中で仕事があります」とのことで、コンビニのポストに書類を投函。

 その後、マコトの会社はアフタースクールプログラムのサポートもしているといい、週に2回は子どもたちのメンターとして一緒に夕食を食べる。

 結局、マコトが家に帰宅したのは20時50分。家でもパソコンを開いて仕事のメールチェックを行い、22時半に入浴。入浴後はビールを飲みながら読書をし、1日が終了した。

1日8時間労働は「働きすぎ」
 マコトの1日は、日本のサラリーマンとして平均的なものともいえる。むしろほぼ定時に退勤しており、ホワイト企業勤務とも言えるだろう。

 しかし、この動画に寄せられた海外勢のコメントは、「働きすぎだ」と不評の嵐だった。

<人口が減っているのも納得いく>
<治安が良いのはこいつら働きすぎてて犯罪を犯す暇すらないんだな>
<働き過ぎで、見ていて疲れた>
<これならヤクザになったほうがマシだ>
<私の日本人の友人が、なぜ日本の労働者を辞めてバンコクの教師になったのかがわかりました。 1日11時間働くことは不健康です>
<なぜ日本のアニメで高校を舞台にした作品が多いかわかった。彼らにとって最後の自由時間なんだ>
<仕事量が多く、プライベートな時間が短く、健康に悪い>
<音楽とナレーションを変えれば、この映像は完全にホラークリップになる>
<見ているだけで憂鬱になりました>
<労働時間は1日6時間でよい。人生は短いのだから>

 日本の労働者たちが「働き過ぎ」であることは随分と前から指摘されており、行政は近年になってようやく「働き方改革」に乗り出し、ノー残業や有休消化を推進するようになった。

 日本ではほとんどの企業が1日の所定労働時間を8時間や7時間半と定めており、多くの人に「最低でも8時間は働くのが社会人の常識」として沁みついてしまっている。だが労働法が定めているのは「8時間まで働かせていい」という規定であって、「必ず8時間は働かなければいけない」という決まりではない。

 私たち日本人は、本当に1日8時間働かなければ社会が立ち行かないのだろうか?

子どもの目線で児童虐待を体験するVR動画「辛くて最後まで見られない」ほどのリアル

 子どもの目線から児童虐待の模様を再現した「児童虐待体験VR」のパイロット版がYouTube上で公開され、大きな反響を呼んでいる。

 制作を手がけたのは、映像制作会社・WESTE & Co.(ウェスト アンド カンパニー)。映像による疑似体験を通じて児童虐待の惨さを身近に感じ取ってもらうことによって児童虐待への意識や注意を高め、児童虐待の早期発見につなげることが目的だという。

 6分54秒に及ぶ「児童虐待体験VR」は、2018年に横浜市で実際に起きた児童虐待事件を再現したものだ。

 幼稚園に通っているらしい子どもの目線に合わせたアングルで撮影されており、視聴者が「子ども」の立場で虐待を受ける恐怖をリアルに感じる仕上がりになっている。

 まず冒頭のシーンでは、食卓でスマホをいじる男性が、キッチンで食事の用意をしている女性に対して威圧的な態度を取り続ける。女性は、男性と向き合って食卓に着いている子どもに、朝食としてコンビニ弁当とペットボトルのミネラルウォーターを差し出す。

 絶えず不機嫌な男性は「俺の飯は?」「早く持って来いっつってんの」と声を荒げ、母親が「早く幼稚園行かなきゃいけないから食べさせて」と言うと、「知らねえよ、こいつの予定なんか」「早く食えよ」と子どもに暴言を吐く。暴力こそないものの、この時点で心理的虐待と言えるだろう。

 男性からの「早く連れてけ」「邪魔なんだよ、お前もこいつも」といった暴言を受けた女性は、子どもに苛立ちを向ける。

 「早く食べて、ね」「いいから早く食べなさい! そうしなきゃ幼稚園遅れるでしょ!」「ねぇ、ねぇお願いだから、何で泣くの、私が悪いみたいじゃないのよ」「もういいわよ、出てって。外で立ってなさいよ」と女性は怒りを増長させ、激高していく。

 イライラを募らせた男性は「お前もうるさい」「こっちにこい」と女性を引っ張っていく。2人の姿は子どもの視界から消えるが、女性の悲鳴や鈍い音、男性の「ぶっ殺すぞ!」という怒鳴り声が聞こえ、女性が別室でDVを受けている様子が想像できる。

 次のシーンはベランダ。煙草を吸っているらしい男性の「お前さあ母ちゃんのこと好き? 嫌いなの? 俺がそのうち殺してやるから」と言う声。男性は「2人だけの約束。内緒だぞ。手貸してみ」と笑みを浮かべながら、子どもに煙草の火を差し向ける。

 煙草をふかしながら「逃げんなよ。熱くないだろ?」と男性は笑っていたが、子どもの反応が気に入らなかったのか表情を変え、「そういう目で見んなよ」「口で言ってもわかんないだろ」「母ちゃんと一緒に殺すぞ」と威嚇し、殴るようなポーズをする。

 それから「とりあえずお前ずっといろ」と言い残し、男性の姿が映像から消えると、ドアを施錠する音が聞こえる。子どもはベランダに閉じ込められたのだ。

 その次のシーンでは、冒頭と同じ食卓で、男性と女性が向き合っている。男性は泣いている女性の頭を撫で「俺が悪かった」「さっきはごめん」と謝り、首を振る女性に「前みたい仲良くやろう」と言う。子どもはその光景を少し離れたところから見ているのだろう。

 女性が「前は良かったもんね」「なんであいつがここにいるの」と言って立ち上がり、洗剤らしきボトルを手にして「ねえ、これであいつきれいにしようよ」と提案する。男性は「いいかも」と応じ、2人は「ねえほら、いい匂いだよ」「おいしいよ」「おいしいから飲んでみ」「口開けて」「そうだよ」「おいしいでしょ」「きれいになろうね」と笑みを浮かべながら、子どもに洗剤を飲ませる……。そこで動画は終了する。

 視聴しているだけでも、相当苦しくなる。ネット上には「辛すぎる」「最後まで見れなかった」という声が多い。しかし実際にこのような惨い状況に置かれた子どもがいるのだ。今もおそらく、日本中にいる。

 なんとかその環境から抜け出すことができたとしても、被虐待児が受けて来たダメージの大きさは計り知れない。どれだけケアしてもし足りないほどで、それこそ国を挙げて取り組まねばならない責務だろう。

JR新宿駅人身事故で「スマホでの撮影はご遠慮ください」事件現場を撮影するモラル

 10月2日午後7時過ぎ、JR新宿駅で発生した人身事故。帰宅ラッシュで混雑する駅構内で起きた悲惨な事故だが、事故現場をスマートフォンで撮影する野次馬が複数おり、「お客さまのモラルに問います」という“異例”のアナウンスが現場に響いたという。

 事故現場は救出作業のためブルーシートで覆われたが、その中にスマホを差し込んで撮影に及ぼうとした利用者が複数いたそうだ。見かねた駅員が「お客さまのモラルに問います。スマホでの撮影はご遠慮ください」とアナウンス放送。ブルーシートの内側を撮った人々は、その写真をどうするつもりなのだろうか。

 人身事故現場における人々の撮影行為を制止するホーム上のアナウンスは、昨年にも報告されていた。

 昨年9月10日の朝7時、JR八王子駅の中央線快速のホームで人身事故が起こり、上下線ともに1時間近く運転を見合わせた。2018年9月11日付「J-CASTニュース」の記事が伝えたところによると、この事件発生時にも駅構内で「事故現場の撮影はやめてください」と注意喚起のアナウンスが複数回流れたという。同記事には現場に居合わせた男性の証言が寄せられ、SNS上ではアナウンス内容に驚く声が続出した。

10年前の「秋葉原通り魔事件」でも問題に
 事故現場を撮影する“異常行為”が相次いでいることについて、一部ネットでは「スマホが普及したからだ」「昔に比べて日本人のモラルが低下している」などと批判する声もあるが、こうした現象は少なくとも10年前から報告されており、人々のモラルが問題視されてきた。

 2008年6月8日、東京・秋葉原で発生した「秋葉原通り魔事件」。凶行に及んだ加藤智大(当時25歳)はトラックで歩行者天国に突入し、ダガーナイフで通行人を次々と襲った。7人が死亡、10人が負傷(重軽傷)している。

 この時も、事件発生直後の様子、救急隊が被害者に駆け寄り応急処置をする様子を携帯電話やデジカメで撮影する野次馬が続出していた。

 当時の「週刊新潮」(新潮社)で、犠牲者の友人学生が直後の様子を証言している。目の前でトラックに轢かれて倒れ、ひと目に重傷と分かる状態の友人には、複数の携帯電話のカメラやデジカメのレンズがたちまち向けられたという。学生は野次馬に対して「不謹慎だから止めて下さい!」と訴えたが、周囲は撮影を止めてはくれなかったそうだ。

 同じく当時の「女性セブン」(小学館)によれば、現場には「写真なんか撮るな!」と怒鳴る警察官もいたそうだが、群衆は無視。野次馬のなかにはマスコミの姿もあった。目撃者によって撮影された写真や動画は友人間で共有されたほか、ネット掲示板などに投稿されていたという。

事件現場写真を「エモい」と拡散するオーディエンス
 一部の人々の暴走による事件現場の異様な光景と、その後のネット投稿・拡散までの流れは、今なお縮小するどころか拡大しているといえるかもしれない。今年5月、神奈川県の登戸駅付近で発生し、学園法人カリタス学園のカリタス小学校に通う児童やその保護者16人が襲われて2名がなくなった事件。その凄惨な殺傷事件の際も、現場の混乱をカメラに収めようとする一般の人々が複数存在していた。

 ほかにも、5月23日、東京都新宿区のマンションでホストクラブにつとめる知人男性を刃物で刺し重傷を負わせた殺人未遂の現行犯で女が逮捕された事件。女は知人男性に好意を抱いており、「相手を殺して自分も死のうと思った」などと供述していた。この時は、事件発生直後とみられる女が血まみれで横たわる男性の傍でタバコをふかす姿が収められた写真がネットに流出。現場に居合わせた何者かが撮った写真と見られるが、ネットでは「なんかドラマティック」「エモい」などとコメントがついて拡散された。

 さらに5月25日、愛知県名古屋市・栄で元暴力団組員の男が刃物とバールで男性を襲撃、殺害する事件が起こったが、この時も恐ろしい犯行の一部始終が収められた動画がネットに流出、拡散。SNSなどで話題になった。

 事件や事故現場の写真や動画を撮影してネットに投下する行為それ自体も問題だが、それに食いついて騒ぎ立てるオーディエンスがいるからこそ後を絶たないともいえる。事件や事故は非日常のエンターテインメントではなく、現実に起こり人命に関わるものということを忘れてはならない。

生徒が「自分はありのままでいい」と思えるようになる、麹町中学校の教育

 定期テストや宿題を廃止するといった、従来の学校教育とは一線を画する取り組みをいくつも実施してきた東京都千代田区立麹町中学校。この先進的な学校づくりを指揮した同校の校長を務める工藤勇一氏が、9月26日に放送された『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に出演し、教育観などを語った。

 麹町中学では、中間・期末テストといった定期テストの代わりに、1つ1つの単元の終わりに“単元テスト”実施する。一般的な中学校で行われる中間・期末テストは出題範囲が広く短期間で実施されるため、一夜漬けで臨む生徒も出るが、単元テストであれば出題範囲は狭く、実施時期も不定期。ゆえに生徒の負担も少なく、教わった内容も定着しやすくなるという狙いがある。

 この単元テストは、納得できる点数が獲得できなければ、もう一度受けることができる。その内容も1回目とほぼ同じで、1回目の反省点を見直せば点数を上げることが可能だ。

 番組で紹介された、単元テストを生徒に返却するシーンは非常に印象的だった。芳しくない点数を取った時、友達に見られないように答案用紙の端を折って点数を隠す中学生は少なくない……少なくとも筆者の学生時代はそうだった記憶がある。しかし、麹町中学校ではそういった生徒はほとんどいない。

 工藤氏は胸を張り、次のように語った。

<(麹町中学の生徒は)人と点数を比べない。麹町中には受験に失敗して入ってくる生徒が多く、入学時は『自分なんてダメだ』と思っている子が多くいます。それでも、それがだんだん変わってきて『自分はありのままでいい』と感じてきて、誰も周囲を否定しなくなります。そうすると、自己開示ができるようになって、挑戦ができるようになる。その環境を作るのが学校の中では一番大事です>

 テストの点数は他人と比較するものではなく、本来は授業の定着度を測るものだ。入学直前、受験の失敗で傷ついていた生徒の自尊心も、学びによって自信を回復していく。

 また、麹町中学では服装髪型検査も行なっておらず、生徒がありのままの自分を受け入れてもらえる空気感が醸成されている。非合理なルールで支配せず、生徒にとって本当にためになる三年間を送らせてあげたい、という「生徒ファースト」の姿勢が伺える。

 麹町中学には宿題もない。番組内で工藤氏は、「宿題って極端な言い方をすれば何の役にも立ちません。すでにわかっている漢字を30回書くことに意味はなくて、時間の無駄ですよね」と言い切った。「無駄なこと」であっても疑問を持たず実直にこなすことが仕事だと学生生活で教え込んでしまえば、子供たちを短い時間で成果を出せる大人に成長させることを困難にする、との考えがそこにある。

 詰め込み式の受験勉強にも否定的で、「今の日本の受験制度は、『記憶力の良い子が大学に行ける』仕組み」と一刀両断する。

<大人になればわかりますが、記憶力をベースにした学力はそんなに重要ではない。学力を上げることは、『分かるもの』と『分からないもの』を明確にして、『分からないものを分かるようにする』ということ。子供たちに必要なことは、『テストの点数を上げる』ではなく、学力を上げるためのスキルを身につけさせることですね>

 番組司会の村上龍氏も、「子供は『自分は学年で4番だった』という喜びよりも、分からないことが分かった時の達成感のほうが大きいと思う」と腑に落ちたようだった。確かにその通りで、成績は他者による評価でしかない。それは学生時代に限らず、大人になってから続く長い人生でも同様だろう。

 

選択肢を「捨てる」ことが、子供のためになる
 番組の最後に工藤氏は、子供の進路に悩む親に対してメッセージを送った。卒業生の親から子供の進路について相談されることが多々あるが、その際は「親が言ったことで進路を変えたら、子供は一生後悔します。子供が後悔しない生き方を支援するのが大事」と助言するのだという。

<職業を選ぶということは、自分の道から選択肢を捨てていくことですよね。勇気を持って捨てることが大事な作業になる。進んだ道が上手くいかずに違う道を選び直す時、その能力は必ず生きる。道を狭めたほうが可能性が広がるのに、大人は『狭めて良いのか?』と逆のことを言ってしまう。そういった親が子供を後押しするようになるのが麹町中の良さだと思います>

 現在、麹町中のやり方を取り入れる学校は増えている。画一的でない「生徒ファースト」の指導が、全国に広がってほしい。

「どうしたらそんな貧乏になれるの?」「貧乏自慢しないで」アナウンサーの笑えない発言

 今月1日放送の『踊る! さんま御殿!!』(日本テレビ系)に、フリーアナウンサーの菊池良子が出演。友人に対して「どうしたらそんな貧乏になれるの?」と質問したと明かし、物議を醸している。

 菊池アナがその発言をしたのは「みんな平気でも私の前ではやめてほしい」というテーマでトークをしている時。男友達の恋人女性が貧乏な家庭で育ち、「焼肉屋さんの前で香りを嗅ぎ、家に帰って白ごはんを食べた」こともあったという話を聞いて、菊池アナは「そんな貧乏な人がいるんだ」と驚き、男友達に向かって「どうしたらそんな貧乏になれるの?」と疑問を投げかけたそうだ。

 このエピソードに他の番組出演者らは啞然とした表情で、司会の明石家さんまも「それはアカン」とツッコむ。しかし菊池アナは貧乏になる理由がわからないようで「でも働いたらお金はある」と反論。これに対しさんまが「親の借金を引き継がなきゃアカンとか……。働いたら食べられるとは限らない」と説明すると、菊池アナは素直に「すみません」と謝罪した。

 話をきくと、菊池アナはお年玉で100万円をもらうほど裕福な家庭に育ち、35歳の今でも親からは会うたびにお小遣いを受け取っているという。アナウンサーとして働いてはいるものの、自分の給与は全て貯金にまわし、親からのお小遣いで生活しているそうだ。性格が悪いと思われたくないため「私の前で貧乏自慢はしないでほしい」とのことであった。

 お金で苦労したことがなく「どうして貧乏なの?」と本気でわからなかったのかもしれないが、彼女はテレビ長崎のリポーター、NHK山口放送局の契約アナウンサー、サガテレビの契約アナウンサーなどを経てフリーになっている(現在は芸能プロダクションに所属)。社会問題に疎いとしたら今までどんな仕事をしてきたのか不思議な話だ。

 

 働いても豊かにならない……これは、日本社会が抱える深刻な課題のひとつと言える。今年5月、ある番組が月22万円の生活保護を受け取っている家庭に密着した。生活保護は「健康で文化的な最低限の生活」を保証する額を支給するとされているが、この22万円という額にさえ「ずるい」「働いていても22万円ももらえない」という声が続出した。最近も「#手取り15万」というハッシュタグがTwitterでバズり、真面目に働いても低所得から抜け出せない人々の存在が可視化されている。

 厚生労働省が発表した「平成30年国民生活基礎調査」によると、生活意識の状況で、生活が「やや苦しい」「大変苦しいと答えた人の割合は、57.7%と過半数を超えた。

 番組が放送された10月1日は、消費税が8%から10%に上がったタイミングでもあり、ネット上では菊池アナに対し「人のことを馬鹿にしている」「世の中のことをもっと知って欲しい」といった怒りや、「今の日本は貧乏人だらけだよ」「こんなに働いてもお金が全然貯まらない」などの嘆きなど、批判的な声も多くある。バラエティではわざと非常識なキャラクターで売り出そうという戦略なのかもしれないが、金持ちキャラ自体が目新しいものでもなく、失策だろう。