ノンフィクション作家・小松成美氏が、浜崎あゆみへの取材を基に書き上げた小説『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎)。同作は、駆け出しの頃の浜崎とエイベックス会長・松浦勝人氏(当時は専務)の恋愛模様、そして浜崎がスターダムにのし上がっていく姿が描かれており、発売当初から大きな話題を呼んだ。「オリコン週間 BOOKランキング 2019年08月12日付(19年07月29日~19年08月04日)」では、初登場2位(3万8,155部)を記録し、その後も売り上げを伸ばしているようで、来春にはテレビ朝日で連続ドラマ化されることが決定した。
昨今、CD売り上げの低迷やコンサート会場の規模が縮小傾向にあることが取り沙汰され、すっかり「オワコン」扱いになっている浜崎にとって、『M』のヒットは久々に明るいニュースとなったが、常日頃から、浜崎を熱心にチェックしている「あゆウォッチャー」は、『M』をどのように読んだのだろうか。今回、昨年1月、サイゾーウーマンに掲載した記事「浜崎あゆみは、なぜ“オワコン”なのに注目を集め続けるのか? ウォッチャーが激論!!」に集ったあゆウォッチャーたちが再集結。『M』を語り尽くしてもらった。
A……20代半ば女性。あゆの全盛期はあまりよく知らないが、ネット炎上を目にするうち、興味を持つように。「最初はちょっとアンチ目線だったが、一周回ってファンになった」とのこと。
B……30代前半女性。小学校高学年の頃にあゆがデビューし、青春の思い出は全て当時のヒット曲とリンクしている。しかし「全盛期より今の方があゆに夢中です」。
C……30代後半女性。今回のウォッチャー3人中で唯一のコアなファン。ブーム衰退とともに一度ファンを離れたが、5年ほど前から再びドハマり。あゆの生き方についても考察を繰り広げる。
A お久しぶりですね! 今日はここに来るまで、ずっとあゆのCDを聞いて気持ちを高めてきたよ(笑)。『M』が告知されたのが7月31日、突然「8月1日に発売されます!」という内容で、「え! 明日?」と驚いたなぁ。
B 去年の5月、松浦会長がTwitterで、一般ユーザーの「浜崎あゆみどうにかしてください」というリプに対して「本人とちゃんと話します。」と返してたんだよね。本が出るって聞いた時、真っ先に「あ! 本人とちゃんと話して、暴露本を出すことになったのか」と思った。まぁ暴露本ではなく、あくまで「小説」の体だけどね。
C ここ最近のあゆはメディア露出もなかったし、ネット上で「ネタ」にされることも一時期に比べると落ち着いてたから、『M』発売の一報は単純にうれしかった。ちょっと前に、週刊誌に20歳年下のダンサーと熱愛が報じられていたけど、それも『M』の“フリ”なのかなって。「いまはもう新しい恋人がいますよ」というのを、発売前に世間に知らしめておきたかったというか。
A でも、正直あの熱愛記事はそこまで話題にならなかったかも(笑)。あと『M』発売は、いまやってる全国ツアー『ayumi hamasaki TROUBLE TOUR 2019‐2020 A(ロゴ)‐misunderstood‐』のための話題作りもあるのかなぁと思った。
C なぜいまこの本を出したのかは、確かに興味深い。去年、あゆはデビュー20周年だったわけだけど、すごくかわいそうな1年だったと思うの。安室奈美恵が引退したから、世間は「アムロ一色」で、「なんであゆは引退しないんだ」ってかなり言われて……。私はこの『M』って、安室に対抗するために生まれた企画だったのではないかって思ってる。松浦会長との恋愛の話ばかりが取り沙汰されてるけど、内容をちゃんと読むと、「なぜ私は歌い続けるのか」という説明をしているんだよね。
B 安室を意識しているであろうことは、私も感じた。冒頭で、現在の松浦会長があゆに「自らの美学を貫き、この世界を去っていくアーティストもいるよ。でも、あゆはそうしない。ステージに立ち続ける。年齢なんかにとらわれない。それがアーティストの姿だから」って。もうこれが全てのような気がしてしまう。
C そうそう。だから『M』って、「こんなにあの人のことを愛しました」というのはフリで、「こんなに好きな人が歌い続けろと言うので、私は歌い続けます」という内容の本なのかなって。こんなに好きな人っていうのは、もちろん松浦会長のこと。
A もしその「安室対抗」説が正しいとすると、出版のタイミングがズレちゃってる気がする(笑)。だって引退したの、1年前じゃん。安室が引退する年、そしてあゆが20周年を迎える年――つまり2018年中に出すべきだったんじゃない? そしたらもっと盛り上がってたと思う。あゆがいろいろ注文をつけて、スケジュールが押しに押したのかな(笑)。情報解禁も発売前日だったし、ドタバタだったかもしれないね。
B 『M』って、9月のシーンから始まるんだよ。もしかしたら、当初は、安室が引退した去年の9月に出版予定だったのでは……という妄想(笑)。
C だとしたら、1年もズレちゃって小松さんかわいそう! でも、「なぜいまなのか」を妄想するのって楽しいよね。
B 内容の話もしていこうと思うんだけど……前の座談会で、Cさんが「あゆ、騙されやすそうだもんね」「自作の歌詞を見ていると、もともとは根暗な女だろうなぁって思う」って言ってたの覚えてる? もう『M』を読みながら、そのことを何度も思い出しちゃった! 本の中で繰り返し繰り返し、「自分には何もない」「私なんて……」みたいなことを言ってる。あゆはもともとアイドル女優だったんだけど、将来が見えずに事務所を辞め、そんな時、松浦会長に「あゆ、うちに来い。そして歌えよ」と言われて歌手を目指すようになったんだよね。でも、当初は「……歌なんて、あゆ、歌えませんよ」「でも、あゆ、きっと歌えない。無理です」という感じだった。
A そうなの、本を読むと、かなり後ろ向きな感じだよね。でも、松浦会長の「俺を信じろ」という言葉に心をつかまれて、ニューヨークに飛び、ボイストレーニングとダンスレッスンを受け始めるっていう。自信がなくて根暗な女が、自分を認めてくれた権力者の男に、洗脳され、服従していくような雰囲気があった……。「俺を信じろ」の言葉は、作中何度も登場してる。まるで呪文のように。
B だいたい、サブタイトルの「愛すべき人がいて」っていうのがなぁ。「すべき」って強いられている感じがする。「愛する」「愛したい」とはニュアンスが違う。
C だからね、このタイトルの『M』ってのは、SMの「M」説もあると思うの(笑)。あゆは松浦会長に「歌え」と言われたら歌うし、「ニューヨークへ行け」と言われたら行くし……奴隷感が漂ってる。私は、松浦会長から離れて、ロサンゼルスで好き放題していた頃のあゆが好きだから、正直言って『M』で描かれている時代のあゆには、そこまでピンと来ないんだよね。あゆは15年に帰国してから、また松浦会長と一緒に仕事を始めたわけだけど、それ以降、ずいぶんおとなしくなった印象もある。最近、あゆって痩せたじゃん。それも、松浦会長の指示なのかなと思ったり。
A 痩せたよね。散々「激太り」って叩かれてたけど、私はそれでも堂々としてステージに立っているあゆが好きだった。何だか物足りないよ。あ! そうだ!! 『M』の中で、あゆの体形について触れてるところあったよね? びっくりしちゃった。
B あった!! 冒頭の現在パートのところで、松浦会長があゆに「あのさ、メイクやファッションや体調や体型まで心配して、ファンは俺に直接ツイートしてくるんだよ」って。
C 小松さん、体形の話もちゃんと入れるなんて、素晴らしいよね。絶対あゆに見せるときにドキドキしたはずだよ(笑)。ちょっと話ズレるけどさ、序章の情景描写がやたらしつこくなかった? 「日向の匂いのするオーガニックコットンのバスタオルで髪のしずくを拭いながら、ミネラルウォーターを飲み干す」とか。「オーガニックコットン」まで書く必要ある(笑)? なんていうか、小松さんが緊張していることがひしひしと伝わってきたよ。もしくは、あゆのインタビューを録った後、「この内容で、果たして1冊分書けるのか?」という戸惑いがあって、文章を伸ばそうとしたのかも? 妄想だけどね(笑)。でも中盤からは筆が乗ってきてた。
B みんな、ほかにどのシーンにグッときた? 私は、松浦会長がニューヨークで武者修行中のあゆを訪ね、プラダに連れて行って、コートをプレゼントしたシーン。そして松浦会長が帰った後、プラダのコートを抱きしめるあゆ……。ベッタベタ! こんな古めかしいシーンなかなかないよ!
A 20代の私には、新鮮に映る(笑)。
C 私にとっての『M』のハイライトは……あゆのおばあちゃんが死んじゃうところかな。仕事が忙しくて死に目に会えず、デビューも見せられなかったという。一番の盛り上がりポイントだと思うし、ちゃんとグッときた。
A それもまたベタな感じがしちゃうけど、ある意味、“駆け出しの芸能人”が主人公の作品の様式美? 私はあゆと松浦会長が付き合うことになるシーンが好きだった。あゆが松浦会長に思いを募らせるんだけど、デビュー直前、一方的に「私は、あなたから愛されることはないでしょう。だから、今日限り、あなたを諦めます」とFAXを送るんだよね。で、それを受け取った松浦会長が「俺にとってお前が必要なんだ」と返信し、翌日、突然あゆの母親に「あゆみさんと付き合っています。真剣です」と挨拶に訪れる……。正式にあゆに「付き合おう」と伝える前に、親に言うっていう(笑)。私、こういう少女漫画読んだことある! と思った。
B 多田かおるさんの少女漫画『イタズラなKiss』(集英社)にも、そういうシーンあったよ! しかし、「私は、あなたから愛されることはないでしょう。だから、今日限り、あなたを諦めます」っていうFAXを送るのも、本当に根暗というか、暴走しているというか(笑)。
C 私ちょっと、一部のあゆファンに物申したいことがあるんだけど。楽曲の方の「M」がリリースされた2000年12月って、ちょうどあゆがTOKIOの長瀬智也と付き合いだした頃なのではないかと言われていて、ずっと「『M』の歌詞は長瀬のことを歌っている説」があったみたいなの。でも今回、「M」は松浦会長だということがわかって、一部のファンが「幻滅した」みたいなこと言ってて……本当に、勝手なこと言いやがって! と思ったよ。あゆのこと本当に好きなの!?
A あぁ、確かにいるね。「歌詞の意味を知りたくなかった」とか言ってるファン。私は当時のことをあんまり知らないけど、松浦会長と付き合っていたのは、広く知られた話だったんでしょ?
B そうだよ。うわさはずっとあったし、確か08年には、過去の2人のキス写真が「フラッシュ」(光文社)に載ったはず。
C なんで一部のあゆファンが『M』に怒ってるのかって、「松浦会長というよくわからない人に、大好きなあゆが入れ込んでるのが嫌」ってことなのかもしれない。松浦会長は、プロデューサー・Max Matsuuraとしても有名だけど、それ以上に「エイベックス社長/会長」のイメージが強いと思うの。みんなそこまで、松浦会長のこと知らないんじゃないかな。あと、元も子もないけど、あゆと松浦会長が並んでいても、あんまり絵にならないというか……。もし松浦会長が芸能人みたいなルックスだったら、あゆの奴隷感も出ないし、ファンもみんな『M』を大絶賛したと思っちゃう!
B わかるよ、言いたいことは。長瀬とあゆのツーショット写真、どれもすごく絵になってて素敵だし、2人にあこがれてた友達はいっぱいいた。それと比べ、松浦会長とあゆは、カップルとしての「あこがれ」にはなりにくいかもね……。確かに私もMax Matsuuraがどれだけ偉大なのかって、あんまりよく知らないなぁ。
A 松浦会長のことをあまり知らないファンからすると、『M』で「マサ(※松浦勝人)のために歌っていた」なんて書かれちゃうと、やっぱり「どうして?」と思っちゃうのかも。本を読むと、最初から最後まで「マサ」「マサ」「マサ」「マサ」! あゆは、自分が歌いたいから歌っているわけじゃないんだなぁと思った。
C 私は、あゆって歌うこと自体に、もはや興味を失っているのではないかと思ってる。むしろ、「歌っている私」という存在によって、誰かに影響を与えたい……みたいなことを考えている気がするよ。『M』の中で、あゆは、お母さんとおばあちゃんとの生活を支えるために、女優の仕事を頑張っていたという描写が出てくるけど、それと同じ。
B あゆの一般的なイメージって「自分のやりたいことをやっている意志の強い歌姫」かもしれないけど、『M』を読んで、あらためて全然違うなと思った。Cさんの解釈も踏まえると、よりそう感じるよ。
A 私もあゆのこともっと好きになった(笑)! ちなみにあゆ、『M』の中で、あと20年歌い続けると言ってるよね。
C 「懐メロ歌手なんかにはならない」ともね。いや実際問題、もう懐メロ歌手になってると思うんだけど(笑)、60歳のあゆがどんなステージを見せてくれるか楽しみ!