ついに神木隆之介が「童貞」を認めた『刑事ゆがみ』小林隆が“老人”を演じるという恐怖

 泥臭い浪花節と本格推理が同居した井浦秀夫の原作コミックを、スタイリッシュに映像化して好評を集めつつ、視聴率はあんまりよくないドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第8話。今回の数字も6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、この良作には似合わない感じでした。

 ともあれ、いつものように振り返ってみましょう。

前回までのレビューはこちらから

 さて、毎回アバンタイトルで「今回はこういうお話ですよ~」と丁寧に教えてくれるこのドラマ。第8話は「高齢化社会」「身寄りのない独居老人」「お年寄りを狙った詐欺事件」といったあたりがテーマです。新米刑事・羽生くん(神木隆之介)にはまだ早い話題のようですが、独身アラフォー美魔女係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)は、リアルに頭を抱えるしかありません。そして菅能ちゃんと同い年の弓神(浅野忠信)は、相変わらず何を考えてるのかわからない。お気に入りの競走馬が引退したとかで、悲嘆に暮れています。

 

■神木隆之介、ついに童貞を認める

 

 そんな弓神と羽生くんは、2人でキャバクラに。羽生くんはかわいいので、嬢たちにチヤホヤされて浮かれ気分です。その席に「ハタチどえーす!」とか言いながらやってきたのが、猿渡(市川由衣)というアラサー美人でした。

 どうやら弓神と猿渡は旧知の仲。猿渡は人懐っこい笑顔を浮かべながら、「施設にいる息子を迎えにいくためにお金をためている」「昼間の仕事を探している」と、実にポジティブな様子。帰り際には、羽生が童貞であることを知ると「かわいいんだけど!」と大喜び。

 これまで、ずっと「童貞じゃねえし!」と言い続けてきた羽生くんでしたが、ふにゃふにゃになってしまい「キスもしたことない」と、ついに自白。ごほうびなのか、猿渡からホッペにちゅーをいただきました。羽生くん、顔が真っ赤です。楽しい楽しい夜でした。

 その猿渡が、死にました。

 高級マンションの敷地内で転落死。手には180万円の現金が握られています。状況から見て、猿渡は前夜、4階の部屋に盗みに入り、ベランダから逃亡しようとして転落した可能性が高いんだそうです。

 

■今回は弓神が捜査に私情を挟む

 

 実は猿渡という女性は、かつて弓神が逮捕した窃盗犯でした。「透明人間」という異名を取るほどの凄腕の泥棒で、あちこちから奪った金は5年で1,000万円。それは、16歳で家族を失った少女に残された、唯一の生きる術だったのだそうです。

 しかし、そんな猿渡も子どもを産んでからは改心して足を洗い、シングルマザーとして真面目に生きていました。しかし弓神が猿渡の泥棒時代の証拠をつかんでしまい、投獄されたことで母子は離れ離れになってしまったのです。

 弓神は息子とも交流があり、猿渡との関係も前述の通り。どうしても猿渡が再び盗みに手を染めたとは思えない弓神は「事故死、事件性なし」の報告書提出を拒否し、単独捜査を続けます。羽生くんに「目を覚ましてくださいよ」とたしなめられて、「目を覚ますのはおまえの方だろ、前科持ちじゃなかったら、もっとまともに捜査してるだろ」と声を荒らげる弓神の表情は、これまでには見られないものでした。いよいよ刑事・弓神が本格化してきたということです。

 このドラマでは、「客観的な捜査と刑事個人の私情」というテーマが繰り返し語られています。1~4話までは主に羽生くんがその板挟みになって苦悩し、前回は菅能ちゃんが親友の死に心を揺さぶられる様が描かれました。佳境に入った第8話で、いよいよ真打ち登場というわけです。ドラマがクライマックスに向かって動き出したというドライブ感を覚える、計算された設計です。

 

■加害者と被害者は、巧みに入れ替わる

 

 一方、盗みに入られたのは、このマンションの住人・沼田(小林隆)。銀行を定年退職した沼田は、身寄りこそないものの、高級マンションに暮らす、お金持ちのおじいちゃん。今回の件では180万円のお金も戻ったことから被害届を出さないと言います。見るからに善人ですが(何しろ小林隆だし)、金庫に2,000万円もの現金を入れているなど怪しい点も。

 ちなみにこの2,000万円は弓神が金庫を覗き込んで発覚したものですが、当然、ピッキングか何かして勝手に開けたのでしょう。もう弓神がそういうことを勝手にやってるという段取りすら映さない。視聴者を信用した、潔い省略です。

 ところで、アバンによれば今回は「独居老人が詐欺に遭う話」でした。泥棒に遭う話じゃなかったよなーと思っているところで、「近所で老人狙いの振り込め詐欺が頻発しています」という情報が放り込まれ、この猿渡の死と振り込め詐欺事件が複雑に絡まり合い、加害者と被害者を巧みに入れ替えながら事件の解決に至ります。例によって、面白いのでFODとかTVerでどうぞ。

 

■「犯人の掘り下げ」には、今回も力が入っています

 

 このドラマの最大の魅力は、なんといっても犯人が犯行に至った背景や犯行動機の掘り下げにあります。

 今回も、子どものために真面目に生きようとした元窃盗犯、そして、仕事のために真面目に生きてきただけだった元銀行員の悲しみが切々と、大真面目に語られました。

 ホントに、真面目に脚本作ってるなーと毎度思うんです。以前にもこのレビューで書きましたが、事件の謎と解決は今回もゆるい部分はあります。でも、「これを言うんだ」「今だから、この話なんだ」という強い意思、創作意識はびんびんに伝わってくる。『刑事ゆがみ』のスタッフは、実に気持ちのいい仕事をしていると思います。

 

■羽生くんの成長、もしくは“弓神化”について

 

 今回、もっとも印象的だったのは、羽生くんが取り調べで犯人に自白を迫る場面でした。

 羽生くんの取り調べシーンは、特にドラマ前半で繰り返し登場しています。先入観にとらわれ、目の前の人間を犯人と決め付け、まるで刑事ドラマのモノマネみたいに机をバンバン叩きながら言質を取ろうとし、ヒマがあれば「自白 誘引方法 心理戦」でググったりもしていました。幼稚であり、その幼稚さがチャームポイントでもあったのが羽生くんという刑事だったのです。

 今回、キャバクラで警察バッジを見せびらかすなどの幼稚さを残しながらも、捜査や取り調べでは弓神の影響を受けて明らかに成長している様を見せつけました。県警の指示に背いて弓神の違法捜査に協力することも、もう厭わなくなっています。回を重ねるにつれて“バディ”の関係性にも変化が表れている。残り2話、正直、楽しみでしょうがないといったところです。

 

■余談

 

 ところで、今回の“仕事人間”沼田の告白には、まったく共感できませんでした。定年退職した独居老人の苦悩は、よく練られたものだったとは思うんですが、やっぱり頭で考えたお話だな、という印象だったんです。第2話の喪女や前回のインスタ映え女のような、作家自身の当事者性が反映されている(ように見える)物語に比べると、迫ってくるものが少し弱かったかなと。

 そう思ったんですが、この文章を書きながら、もしかしたらあんまり素直に受け取りたくなかったのかもしれないと思い直したんです。何しろ私自身も独居老人まっしぐらですし、まだまだ“頼りない中年”くらいの役が似合うと思っていた小林隆が「お爺ちゃん」に配役されている。その分だけ、私にも年月が流れている。そういう現実、迫りくる老後が、直視できなかったのかもしれません。えーと、何この余談。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

ついに神木隆之介が「童貞」を認めた『刑事ゆがみ』小林隆が“老人”を演じるという恐怖

 泥臭い浪花節と本格推理が同居した井浦秀夫の原作コミックを、スタイリッシュに映像化して好評を集めつつ、視聴率はあんまりよくないドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第8話。今回の数字も6.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、この良作には似合わない感じでした。

 ともあれ、いつものように振り返ってみましょう。

前回までのレビューはこちらから

 さて、毎回アバンタイトルで「今回はこういうお話ですよ~」と丁寧に教えてくれるこのドラマ。第8話は「高齢化社会」「身寄りのない独居老人」「お年寄りを狙った詐欺事件」といったあたりがテーマです。新米刑事・羽生くん(神木隆之介)にはまだ早い話題のようですが、独身アラフォー美魔女係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)は、リアルに頭を抱えるしかありません。そして菅能ちゃんと同い年の弓神(浅野忠信)は、相変わらず何を考えてるのかわからない。お気に入りの競走馬が引退したとかで、悲嘆に暮れています。

 

■神木隆之介、ついに童貞を認める

 

 そんな弓神と羽生くんは、2人でキャバクラに。羽生くんはかわいいので、嬢たちにチヤホヤされて浮かれ気分です。その席に「ハタチどえーす!」とか言いながらやってきたのが、猿渡(市川由衣)というアラサー美人でした。

 どうやら弓神と猿渡は旧知の仲。猿渡は人懐っこい笑顔を浮かべながら、「施設にいる息子を迎えにいくためにお金をためている」「昼間の仕事を探している」と、実にポジティブな様子。帰り際には、羽生が童貞であることを知ると「かわいいんだけど!」と大喜び。

 これまで、ずっと「童貞じゃねえし!」と言い続けてきた羽生くんでしたが、ふにゃふにゃになってしまい「キスもしたことない」と、ついに自白。ごほうびなのか、猿渡からホッペにちゅーをいただきました。羽生くん、顔が真っ赤です。楽しい楽しい夜でした。

 その猿渡が、死にました。

 高級マンションの敷地内で転落死。手には180万円の現金が握られています。状況から見て、猿渡は前夜、4階の部屋に盗みに入り、ベランダから逃亡しようとして転落した可能性が高いんだそうです。

 

■今回は弓神が捜査に私情を挟む

 

 実は猿渡という女性は、かつて弓神が逮捕した窃盗犯でした。「透明人間」という異名を取るほどの凄腕の泥棒で、あちこちから奪った金は5年で1,000万円。それは、16歳で家族を失った少女に残された、唯一の生きる術だったのだそうです。

 しかし、そんな猿渡も子どもを産んでからは改心して足を洗い、シングルマザーとして真面目に生きていました。しかし弓神が猿渡の泥棒時代の証拠をつかんでしまい、投獄されたことで母子は離れ離れになってしまったのです。

 弓神は息子とも交流があり、猿渡との関係も前述の通り。どうしても猿渡が再び盗みに手を染めたとは思えない弓神は「事故死、事件性なし」の報告書提出を拒否し、単独捜査を続けます。羽生くんに「目を覚ましてくださいよ」とたしなめられて、「目を覚ますのはおまえの方だろ、前科持ちじゃなかったら、もっとまともに捜査してるだろ」と声を荒らげる弓神の表情は、これまでには見られないものでした。いよいよ刑事・弓神が本格化してきたということです。

 このドラマでは、「客観的な捜査と刑事個人の私情」というテーマが繰り返し語られています。1~4話までは主に羽生くんがその板挟みになって苦悩し、前回は菅能ちゃんが親友の死に心を揺さぶられる様が描かれました。佳境に入った第8話で、いよいよ真打ち登場というわけです。ドラマがクライマックスに向かって動き出したというドライブ感を覚える、計算された設計です。

 

■加害者と被害者は、巧みに入れ替わる

 

 一方、盗みに入られたのは、このマンションの住人・沼田(小林隆)。銀行を定年退職した沼田は、身寄りこそないものの、高級マンションに暮らす、お金持ちのおじいちゃん。今回の件では180万円のお金も戻ったことから被害届を出さないと言います。見るからに善人ですが(何しろ小林隆だし)、金庫に2,000万円もの現金を入れているなど怪しい点も。

 ちなみにこの2,000万円は弓神が金庫を覗き込んで発覚したものですが、当然、ピッキングか何かして勝手に開けたのでしょう。もう弓神がそういうことを勝手にやってるという段取りすら映さない。視聴者を信用した、潔い省略です。

 ところで、アバンによれば今回は「独居老人が詐欺に遭う話」でした。泥棒に遭う話じゃなかったよなーと思っているところで、「近所で老人狙いの振り込め詐欺が頻発しています」という情報が放り込まれ、この猿渡の死と振り込め詐欺事件が複雑に絡まり合い、加害者と被害者を巧みに入れ替えながら事件の解決に至ります。例によって、面白いのでFODとかTVerでどうぞ。

 

■「犯人の掘り下げ」には、今回も力が入っています

 

 このドラマの最大の魅力は、なんといっても犯人が犯行に至った背景や犯行動機の掘り下げにあります。

 今回も、子どものために真面目に生きようとした元窃盗犯、そして、仕事のために真面目に生きてきただけだった元銀行員の悲しみが切々と、大真面目に語られました。

 ホントに、真面目に脚本作ってるなーと毎度思うんです。以前にもこのレビューで書きましたが、事件の謎と解決は今回もゆるい部分はあります。でも、「これを言うんだ」「今だから、この話なんだ」という強い意思、創作意識はびんびんに伝わってくる。『刑事ゆがみ』のスタッフは、実に気持ちのいい仕事をしていると思います。

 

■羽生くんの成長、もしくは“弓神化”について

 

 今回、もっとも印象的だったのは、羽生くんが取り調べで犯人に自白を迫る場面でした。

 羽生くんの取り調べシーンは、特にドラマ前半で繰り返し登場しています。先入観にとらわれ、目の前の人間を犯人と決め付け、まるで刑事ドラマのモノマネみたいに机をバンバン叩きながら言質を取ろうとし、ヒマがあれば「自白 誘引方法 心理戦」でググったりもしていました。幼稚であり、その幼稚さがチャームポイントでもあったのが羽生くんという刑事だったのです。

 今回、キャバクラで警察バッジを見せびらかすなどの幼稚さを残しながらも、捜査や取り調べでは弓神の影響を受けて明らかに成長している様を見せつけました。県警の指示に背いて弓神の違法捜査に協力することも、もう厭わなくなっています。回を重ねるにつれて“バディ”の関係性にも変化が表れている。残り2話、正直、楽しみでしょうがないといったところです。

 

■余談

 

 ところで、今回の“仕事人間”沼田の告白には、まったく共感できませんでした。定年退職した独居老人の苦悩は、よく練られたものだったとは思うんですが、やっぱり頭で考えたお話だな、という印象だったんです。第2話の喪女や前回のインスタ映え女のような、作家自身の当事者性が反映されている(ように見える)物語に比べると、迫ってくるものが少し弱かったかなと。

 そう思ったんですが、この文章を書きながら、もしかしたらあんまり素直に受け取りたくなかったのかもしれないと思い直したんです。何しろ私自身も独居老人まっしぐらですし、まだまだ“頼りない中年”くらいの役が似合うと思っていた小林隆が「お爺ちゃん」に配役されている。その分だけ、私にも年月が流れている。そういう現実、迫りくる老後が、直視できなかったのかもしれません。えーと、何この余談。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

『陸王』が持つドラマとしての強さ──和田正人と吉木りさの結婚発表も“計算済み”か!?

 日曜劇場『陸王』(TBS系)は第6話も視聴率16.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調キープ。というわけで、さっさと振り返りましょうね。泣いてしまいましたよ。

前回までのレビューはこちらから

 前回、第5話の90分拡大版には数多くのエピソードが含まれていましたが、今回は大筋で2つ。はっきりと前後半に分かれる構成でした。

 前半では、ついに「陸王」を履いてレースに臨むことになった茂木くん(竹内涼真)が出場する「ニューイヤー駅伝」の様子が描かれます。茂木くんにとってこのレースはケガで途中リタイアした豊橋国際マラソン以来の復帰戦となります。茂木くんにとっても、茂木くんのケガを目の当たりにしたことで「陸王」の開発を決意した主人公・宮沢社長(役所広司)が率いる足袋業者・こはぜ屋にとっても、ひとつの“到達点”となるレースです。

 なので、ここまで登場してきた人物たちが「ニューイヤー駅伝」が行われた群馬に、一堂に会しています。まさに『陸王』オールスター状態。さらに、大観衆として7,000人のエキストラも。

 宮沢社長と息子・大地(山崎賢人)は、大手メーカー・アトランティスとケンカ別れしたカリスマシューフィッター・村野さん(市川右團次)とともに巨大モニター前に陣取ります。事あるごとに助言してくれるスポーツショップの有村さん(光石研)が、陸王のソール材「シルクレイ」開発者で先週暴漢にボコられたばかりの飯山さん(寺尾聰)を連れてやってきました。

 実際に「陸王」を縫っていた縫製おばちゃんたちは、3時間も前から茂木くんが走る6区のスタート地点で、横断幕を用意して待っています。リーダー・あけみさん(阿川佐和子)は今日も元気でかわゆいです。

 憎まれ役がすっかり板についてきたアトランティスの小原(ピエール瀧)と佐山(小籔千豊)も、ご自慢の最新鋭シューズ「RII(アール・ツー)」を携えて憎たらしい顔をしています。今レースでRIIを履く主な選手は、茂木くんの同僚で「ダイワ食品」のエース格・立原(宇野けんたろう)と、茂木くんと同じ6区を走る永遠のライバル・毛塚(佐野岳)です。茂木くんがケガをしている間に、毛塚はすっかり日本中の注目を集めるランナーに成長。レース前、茂木くんが陸王を履いているのを見つけると、「ふっふふふっ、勝つ気あんの?」と小バカにしてくるなど、レースへの機運は自ずと高まってきました。

 

■茂木くん、チーターになる

 

 6区。8位でタスキを受け取る瞬間までの茂木くんの様子が、まずは丹念に描かれます。テンションを上げるでもなく、真摯で、覚悟を決めた男の顔。静かに燃えるアスリートの闘志。毛塚の挑発にも、心を乱されることはありません。その心中を、倒産経験者の飯山さんが代弁します。

「緊張もしてるだろうが、今のアイツには、それ以上に感じるものがあるはずだ。また走れる喜びだ。俺がそうだった──」

 この飯山さんのセリフによって、茂木くんとこはぜ屋一同の思いがひとつになります。こういうとこなんだろうなーと思うんですよね。視聴者が何に感動すればいいかを、ちゃんと丁寧にセリフで説明してくれるから、万人にとって見やすいドラマになってる。その丁寧さの際たるものがリトグリちゃんの「Jupiter」を流すタイミングで、「はい、今週はここですよ!」と教えてくれるわけです。まあ、この歌については賛否両論のようですけど、間口を広げようという作り手側の意図は、すごく理解できるところで。

 で、8位でタスキを受けた茂木くんは、快走を見せます。解説者も「神がかってますね」「魔法にかかった走りです」「チーターですよ」と興奮を隠せない走りで次々に先行ランナーをかわすと、いよいよ3位を走る毛塚との一騎打ちとなります。

 エキストラに囲まれたコーナーから、まずは毛塚が姿を見せます。その瞬間、映像はスローモーションに、アウトフォーカスの向こうに茂木が姿を見せる。毛塚も思わず振り返る。BGMがかき鳴らされ、7,000人のエキストラがエキサイトする中、強い風が吹いている。茂木は毛塚のスリップストリームに入り、毛塚が突風にバランスを失ったスキに、一気に抜き去っていきます。

 結果、茂木は6区の区間賞を獲得。完全復活を果たすとともに、陸王が優れたシューズであることを証明して見せました。こはぜ屋一同も、もちろん大喜び。でも、ここで「Jupiter」は鳴らないんです。

 

■オールスター戦なのに、主役は番手の低い2人でした

 

 ここまでの総決算となるニューイヤー駅伝で、中盤のクライマックスで、主役となったのは、陸王もアトランティスも履いていない、主人公たちにまったく関係のない2人の男でした。

 ダイワ食品のアンカーは、このレースでの引退を決めている平瀬(和田正人)。平瀬が、泣きながら激走を見せます。

 その様子を見ていたのが、ダイワの城戸監督(音尾琢真)でした。この人、登場からずっと必要以上に怖い、物わかりのよくない人物として描かれてきました。宮沢社長も、何度冷たくあしらわれたかわからない。

 その城戸が、平瀬の走りを見てブチ切れているんです。

「あんなオーバーペースで、バテるに決まっとろうが!」

 そして、涙を流しているのです。このギャップ! 一気に、城戸監督という人物の心の中が、爆発的に表現される瞬間。ここぞとばかりに「Jupiter」。泣いちゃうよねえ~。泣いちゃうよ。『水曜どうでしょう』(HTB)では、ろくに顔も出さず釣りだけしていた音尾くんの顔面に泣かされることになるとは……。

 それにしても、ここまで平瀬のエピソードに比重が置かれたことには意表を突かれました。「ひとりのランナーの引退レース」という設定が内包する訴求力を、加工せず生のまま投げつけられたような、筋を追うだけではない「ドラマとしての強さ」を意識した作劇だったと思います。

 和田正人と吉木りさの結婚発表も、おそらくは展開に配慮した(もしくはドラマが求めた)タイミングだったのではないでしょうか。第6話で最大の見せ場を和田さんに設定しておいて、その直前に芸能ニュースで和田さんの顔をお茶の間に浸透させた……というのは、ちょっとうがちすぎかな。

 

■後半ではアトランティスの逆襲が

 

 長くなったので後半はさくっといきましょう。

 茂木くんの快走で調子に乗った宮沢社長は「陸王」を製品化しますが、しょせんはマイナーブランドですので、売れ行きはよくありません。

 そんな中、いよいよ陸王がホンモノだと判断したアトランティス・小原は、そのアッパー素材の調達先であるベンチャー企業「タチバナラッセル」の橘社長(木村祐一)に大量ロットの発注をかけ、こはぜ屋との取引中止を迫りました。橘社長も、背に腹はかえられず、アトランティスと契約することに。

 こはぜ屋はアッパー素材の供給元を失い、またまたピンチです。来週から登場するという松岡修造は、果たして敵か味方か。というか、松岡さんが演じる御園って、けっこう難役だと思うんですが、大丈夫なのか。うーん、目が離せません。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

女性心理の分厚い描写が映える『刑事ゆがみ』一方、デブでブスの風俗嬢は“笑いもの”にしていいのか問題

 視聴率は超低空飛行にもかかわらず、各方面から絶賛の声しか聞こえない『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)も第7話。今回は、前回より0.8ポイントダウンの5.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)でした。2話目からじりじり上げてきてたんですが、べっこり下がりましたね。裏のNHKで安室奈美恵の特番をやってたので、その影響かもしれません。このドラマはけっこう伏線を丁寧に張るので、録画向きですしね。と、まあ適当に擁護しつつ今回も振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 今回は、弓神(浅野忠信)と羽生くん(神木隆之介)の上司である係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)の回でした。前回まで、捜査に私情を挟みまくる羽生くんに、捜査中は「事件関係者への恋心と同情」を持ってはいけないと説教していた菅能ちゃんでしたが、今回は大学時代の親友・絵里子さん(りょう)が亡くなってしまったので、その説教が盛大にブーメランしてしまいます。

 何しろ菅能ちゃんと絵里子さんは、お互い定年したら老後を一緒に過ごそうと誓い合っていたほどの仲。しかも、絵里子さんの死亡推定時刻は同窓会で久しぶりに再会した直後だったのですから、心穏やかに捜査できるはずがありません。

 状況としては、青酸カリを飲んでの服毒自殺に見えます。しかし、菅能ちゃんは絵里子さんが自殺するなんて、どうしても思えない。

 絵里子さんはデザイン会社で部下をたくさん抱えてブイブイ仕事をしていたはずだし、10歳下のイケメン実業家との結婚も決まっていると言いました。何より、同窓会の後、2人で飲んだときに再会の約束だってしている。そんな絵里子さんが自殺なんてするわけない! と、周りの刑事がドン引きするほど私情入れまくりで捜査に当たります。

 

■絵里子さん、つらすぎる……。

 

 しかし、実際には絵里子さんに結婚の予定はありませんでした。同窓会で見せられた婚約者とのツーショットインスタも、月に一度は必ず飲み会を開いていると語っていた部下との写真も、すべて「リア充代行サービス」を利用して撮ったものだったのです。

 現実の絵里子さんは、とっくに会社を辞めていました。線維筋痛症が悪化して休職、そのまま復職できなかったそうです。線維筋痛症って、最近レディー・ガガが患者であることを告白して話題になりましたが、むちゃくちゃつらいんだそうです。原因不明なので対症療法しかできないし、血管の中を割れたガラスが通過するような疼痛が続くし……と、ちょっと資料を読んでいるだけでも顔をゆがめたくなるような難病です。

 そんな難病に苦しみながら、せっせとインスタにリア充写真を載せ続けた絵里子さん。貯金を切り崩しながら、偽りの笑顔に囲まれて、現実を盛りまくっていた45歳の独身女性。なぜそこまで“リア充”を着飾るとこに固執するのか、まるで理解できませんし、理解できないからこそ、その苦痛も想像を超えたものなのでしょう。つらいよ、つらすぎるよ……。

 

■代行アイドル・優里ちゃんも、まあまあつらい

 

 そんな絵里子さんが特にお気に入りにして、たびたび指名していたのが、優里ちゃん(早見あかり)という女の子でした。代行業者のリピート率ナンバーワンで、とびきりのカワイコちゃんです。優里ちゃんは「うぜえうぜえ」と思いながら絵里子さんに話を合わせていました。

 優里ちゃん、過去にアイドル活動をしていたんだそうです。一般的には売れませんでしたが、代行サービスではトップアイドルです。こちらもいろいろ苦悩が描かれるわけですが、何しろガチモンのトップアイドルだった早見あかりが演じているだけに、説得力が違います。事件の顛末は、例によってFODとかで見てください。面白いよ。

 

■アラフォー女優2人の美しさたるや

 

『刑事ゆがみ』というドラマは、事件の謎解きについては緩い回も少なくないんですが、描きたいことがハッキリしているので毎回見応えがあります。それと、犯人像・被害者像についてしっかり作り込んでいるので、原作既読でも問題なく楽しめるのも特徴でしょう。

 ドラマ自体に語りたい人物がいて、原作の事件の配置をヒントにしながら、その人物を表現している。主題の軸足はあくまでドラマですよ、という主張を怠らないのも、高評価の要因だと思います。

 以前から、特に事件まわりの女性心理の描き方が個性的で秀逸ですねという話をしてきましたが、今回の絵里子さんの痛みは、特に重みを持って伝わってきました。線維筋痛症というパワーワードの強さよ。そして、りょうと稲森いずみ、2人のアラフォー女優の美しさよ。

 

■神木くんの“童貞イジリ”も健在ですが……

 

 今回も羽生くんの“童貞イジリ”は健在で、筆おろしのためにソープランドに赴くものの、壮絶なパネマジに遭って走って逃げ出したというくだりが、いかにもコミカルに描かれました。

 まあスルーしてもいいんですが、これね、あんまりよろしくないと思ったんです。

 片方で美しい女性の悲劇を切々と描いておきながら、美しくない女性(羽生くんいわく「ジャバ・ザ・ハット」)を笑いものにするというのは、いかがなものかしらと。あの風俗嬢にだって、菅能ちゃんや絵里子さんと同じように人生があるのに、そこは笑い飛ばしていいのかと。

 女性心理の表現に長けた作品だからこそ、「デブでブスの風俗嬢は、神木きゅんに走って逃げられても当然だろギャハハ!」という差別意識が、作品から浮いて見えたんですよねえ。まあ、ジャバ側の人間には、そう感じる向きもあったという些末な話です。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

16.8%で過去最高の日曜劇場『陸王』感動の“手数”で攻める「まるでナイツの漫才みたい」!?

 マラソンシューズ開発に挑む老舗の足袋製造業者「こはぜ屋」の奮闘を描いた日曜劇場『陸王』(TBS系)も第5話。今回は30分拡大版でしたが、視聴率は16.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と過去最高を記録しました。これまで、プロ野球の日本シリーズやら『シン・ゴジラ』(テレビ朝日系)やら裏が強かったこともあって伸び悩んできましたが、いよいよ20%の大台が見えてきましたね。というわけで、今回も振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 今回は、いつにも増して「手数をまとめてきたなー」という印象です。感動シーンのオンパレード、テンコ盛りのお涙デコレーションケーキでした。

 

■茂木くんが満足するシューズを作れるのか

 

 こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)は、ようやく開発中のマラソンシューズ「陸王」の試作品をダイワ食品の実業団ランナー・茂木くん(竹内涼真)に履いてもらうところまでこぎつけました。基本的には好感触なんですが、茂木くんいわく「アッパーが不安定で、フラつく感じがある」のが不満とのこと。軽くて丈夫なソール材「シルクレイ」こそ完成したものの、まだまだ課題は山積みです。

 シルクレイの開発者である飯山さん(寺尾聰)は「陸王はRII(アール・ツー=大手メーカー・アトランティスの製品)に勝てるのか」と不安気ですが、アトランティスを退職して「陸王」チームに加わったカリスマシューフィッター・村野さん(市川右團次)は「それでも、私はここにいる!」と断言。自信満々ですが、問題のアッパー素材については、まったくめどが立っていません。これが、今回のメーンの課題。この解決までに、さまざまな「困難と解決」が挟み込まれます。

 

■出てきたそばから解決される問題たち

 

 まず、例によって、こはぜ屋にはお金がありません。銀行の担当者・大橋さん(馬場徹)も、全然融資してくれません。何しろ、陸王の開発ばかりで足袋の利益も怪しくなってきたのです。もとより「陸王」開発に乗り気じゃない経理のゲンさん(志賀廣太郎)の渋い顔も、ますます渋くなってきました。

 この問題提起から数分後、宮沢社長は新たな商品開発を思いつきました。マラソンシューズ用に開発した軽くて丈夫なソール材「シルクレイ」を、これまで天然ゴムを使用していた地下足袋に転用することにしたのです。

 このアイディアに、こはぜ屋のみんなは大喜び。ゲンさんも「ウチは足袋屋ですよ……やるべきです!」とドアップで賛成し、すぐに作ることに。

 こはぜ屋の新たな地下足袋「足軽大将」は、ゲンさんの進言で値段を高めに設定したにもかかわらず、大ヒットを飛ばします。

 しかし大量発注を受けてウキウキしていると、ハードワークが祟って、縫製部門のベテラン・冨久子さん(正司照枝)が病院送りに。しかし、冨久子さんの愛弟子で最年少の美咲ちゃん(吉谷彩子)が「あたし!やってみます!」と代役を買って出ます。

 すると今度は、飯山さんが暴漢に襲われて骨折&全身打撲で病院送りに。これには、飯山さんのアシスタントを務めていた宮沢社長の息子・大地(山崎賢人)が「オレがやるよ、やるしかないだろ!」と熱烈に立候補。直後に製造機がエラーを吐いて製造不能になりますが、今度は飯山さんが「俺の魂」だから「他人に見せるわけにはいかねえ」と語っていた設計図を大地に御開帳し、事なきを得ます。

 なんとか足軽大将の納品に間に合ったかと思えば、今度は100足くらいのソールに問題が。あわてて作り直そうとするものの、唯一製造機を動かせる大地は就職の面接に……。大ピンチですが、その大地が面接を放り出して駆けつけ、すべての納品を間に合わせました。

 もう、まるで振り子です。ピンチ→解決、ピンチ→解決、ピンチ→解決というシークエンスが、ほとんど間を置かずに次々と現れ、登場人物の顔面のアップと「~~!」という圧のかかったセリフによってクリアになっていく。これまで『陸王』というドラマは比較的、複数の問題をクロスカッティングを用いて並列で解決していくことが多かったような気がしますが、今回はフリからオチまでの時間がとにかく短かった。快感(=感動)が、矢継ぎ早で押し寄せてくる。何かに似てるなーと思ったんですが、アレですね。2010年くらいのナイツの“手数漫才”ですね。

 

■最大の見せ場は銀行員・大橋さんの“デレ化”

 

 これまで厳しいことばかり言って、こはぜ屋経営陣を困らせてきた銀行員・大橋さんの“デレ化”が今回最大の見せ場となりました。

 こはぜ屋の仕事ぶりを初めて目の当たりにし、100年続くプライドに感化された大橋さんは、「陸王」のアッパー素材を開発する上で、めぼしい業者を探してきてくれました。

 相変わらず融資に厳しい条件を出すものの、今回は「私の力不足です。本当に、申し訳ありませんでした」と頭を下げて社長たちを驚かせると、いかにもクールに「タチバナラッセル」という新興織物業者のサンプルを手渡し、こう言うのです。

「新しい陸王、完成したら、私、買います」

 かあー! なんたるツンデレ! 推せる!!

 

■かくして、最強「陸王」は完成しました

 

 昨今、ますます人相の悪くなってきたアトランティスの佐山(小藪千豊)の謀略によって、一時は「陸王」から「RII」に心が動きかけていた茂木くんでしたが、大一番となるニューイヤー駅伝では、やっぱり「陸王」を履いてくれることに。こはぜ屋一同、大喜びで、今回もリトグリちゃんの「Jupiter」が鳴り響き、大団円です。

 まあ、ホントにゴージャスでボリューミーで、見どころ満載の回だったと思います。30分拡大でも、山場続きで全然飽きさせない。今回のように徹底的に手数を繰り出す作戦は、明らかに拡大版だから選択された手法だと思いますし、実に成功していたと思います。

 1時間枠ならこうすればいい、拡大枠ならこの方がいい──ドラマを作る上での「楽しませ方」「数字の取り方」を熟知している感がビシビシ感じられて、大変気持ちのいい鑑賞体験でした。なんかいろいろ書いてきましたけど、『陸王』は、やっぱり今期ドラマの中では最強だと思います。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

神木隆之介の“愛らしさ”が戻った『刑事ゆがみ』視聴率低迷が「実にもったいない!」

 16日に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)第6話の視聴率は6.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)でした。第2話で5%台まで落ち込んだものの、各方面からの絶賛の声に後押しされるように、じりじりと数字を伸ばしています。とはいえ、やっぱり6%とか7%しか見ていないというのは、実にもったいない。もっともっと多くの人に見られるべき良作と思います。主題歌を担当するWANIMAが『紅白』初出場を決めたことも、追い風になるといいね。

 そんなわけで、今回も振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 今回の事件の被害者は、25歳にして300億円の資産を築いたホリエモンみたいな男・貝取勝平(新田真剣佑)。自らが運営するオープン直前のプラネタリウムで何者かに刺され、病院に運ばれています。貝取くんは、かつてのホリエモンみたいに企業買収を繰り返して会社を大きくしている人なので、たくさんの人の恨みを買っているようです。とはいえ、本人の意識ははっきりしているし、正面から刺されているので犯人の顔を見ているはずなのですが、「見てない」と言ったり「思い出した、星月亘(辻萬長)だ」と言ったり、なぜか証言が曖昧です。

 星月とは、現場となったプラネタリウムにも参画していた「スタームーン」という望遠鏡メーカーの創業者。会社の社長は息子に代替わりしていましたが、その息子は貝取の策略によって多額の借金を抱えて自殺。今は孫娘・光希ちゃん(新井美羽)と2人で暮らしています。

 ところで、前回のレビューでは「コレジャナイ感が漂ってきた」などとケチを付けているわけですが、今回はとりあえず「コレダ」でした。羽生くん(神木隆之介)の愛らしさが帰ってきました。

 同じ25歳で大金持ちの貝取に対して、嫉妬を隠さない羽生くん。孫娘に必要以上に肩入れして、捜査に支障をきたす羽生くん。『モンコレ』という『ポケモンGO』みたいなスマホアプリに夢中になっちゃう羽生くん。うーん、実に愛せる。かわゆい。

 そういう羽生くんの愛らしさと、企業買収とか『ポケモンGO』とかの今っぽい要素をモリモリ取り込もうという意欲。そして、その両方を事件解決のプロセスにガッツリ噛ませてくるので、事件に“他人事感”がない。他人事感がないので、泣けちゃう。そういう感じが『刑事ゆがみ』の特長だと思うんですが、今回もしっかり泣けちゃいました。さ、未見の方はFODとかで見ましょうね。面白いよ。

 

■ところでドラマの縦軸「ロイコ事件」が放置なんですが

 

 第4話まで1話完結で進んできた『刑事ゆがみ』でしたが、前回第5話では縦軸となる「ロイコ事件」について説明されました。

 7年前に、ある夫婦が『ロイコクロリディウム』という小説を模した方法で惨殺された事件。容疑者として浮上したのは、当の小説の作者である小説家・横島不二実でした。しかし横島は捜査の手が及ぶ前に焼身自殺してしまったというのが、「ロイコ事件」の顛末です。この事件の捜査に当たっていた弓神(浅野忠信)は、犯人が本当に横島だったのか、そして横島が本当に自殺したのか、疑問を持っています。

 被害者夫婦の娘・ヒズミ(山本美月)は事件のショックで失語症に。事件後、7年もたつわけですが、弓神はヒズミのハッカーとしての腕を見込んで捜査に協力させつつ、生活の面倒を見ています。

 そのように、せっかく時間をかけて説明した「ロイコ事件」を、ドラマは今回、ほとんど放置しました。前回の最後に自殺したはずの横島らしき男(オダギリジョー)が思わせぶりに登場しましたが、これも放置。ヒズミも普通にハッカーとして役に立ちましたが、前回示唆されたロイコ事件のトラウマについては、特に進展していません。この放置の仕方が、今回もっとも感心した部分でした。

■別の事件によって「ロイコ」を語るという離れ業

 

 今後、『刑事ゆがみ』が「ロイコ事件」の解決を中心に進行していくことは間違いないでしょう。ドラマのオリジナルキャラであるヒズミの謎、ヒズミと弓神の過去などを明かしながら、最終回に向かっていくことになります。前回、「ロイコ事件」について語り始めてしまったわけですから、もう1話だって無駄にしたくないはずです。

 そこで『刑事ゆがみ』が採用したのは、ヒズミと弓神の関係性を、今回の事件で父親を亡くしている光希ちゃんと羽生くんに、そのまま投影するという方法でした。

 上司である係長・菅能ちゃん(稲森いずみ)が、羽生くんに言います。刑事が捜査中に持っちゃいけないものは「事件関係者への恋心と同情」だと。つまり、「私情」だと。

 羽生くんは、いつも口では「法治国家ですから、法がすべてです」などと言っていますが、私情に振り回されて心をグラグラに揺さぶられながら捜査に苦労するのがチャームポイントとなっております。今回も光希ちゃんに、とことん同情してしまったため、とっても苦しそうでした。

 一方の弓神はいつも冷静でドライに見えますが、結局、事件の解決だけでなく被害者へのフォローも万全で、ドラマ的においしいところは全部持っていってしまいます。

 事件が終わった後、菅能ちゃんは羽生くんに、こうも言いました。

「もうあたしたちにできることはない、刑事としてはね」

 刑事としては──。

 つまり、人としては、まだできることがある。羽生くんは事件後、児童相談所にいる光希ちゃんの元を訪ねることにします。自分が関わった事件で、親を亡くした子と個人的なつながりを持とうとすること。これはきっと、7年前の「ロイコ事件」で、弓神がヒズミにしたことと同じなのです。

 羽生くんの立場を通して、羽生くんの心の動きを追わせることで、7年前の「ロイコ事件」で弓神が何を思い、どう行動したのかを語っている。そのプロセスで羽生くんの心理が描けているからこそ、つかみどころのなかった弓神という人物の輪郭が浮かび上がってくる。弓神とヒズミの関係性も見えてくる。「別の事件で縦軸を語る」という『刑事ゆがみ』第6話における意図的なシナリオは、まさしく連続ドラマならではの醍醐味だったと思います。最初から見ててよかった。

 さらに、刑事の生き方として、図らずも羽生くんが弓神と同じ道を歩もうとしていることが示されて、普段は反発し合っている2人の“バディ”としての関係にも深みが増しました。今後、さらに面白くなりそうな気配です。あーあ、もっとみんな、見ればいいのに。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

『シン・ゴジラ』の裏で14.5%の『陸王』リトグリの「Jupiter」は、うるさい? 効果的?

 エーブリデーアイリッスントゥーマイハー♪

 というわけで、毎度クライマックスに大音量で流れ出すLittle Glee Monsterの「Jupiter」にもだいぶ慣れてきた日曜劇場『陸王』(TBS系)は第4話。視聴率は14.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と安定水準です。しかも、裏ではテレビ朝日が『シン・ゴジラ』のテレビ初放送をぶつけてきてましたので、なおさら『陸王』の強さが際立ちます。

 というわけで、今回も振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 マラソン足袋のソールとして、前代未聞の最適素材「シルクール」の開発に成功した「こはぜ屋」の宮沢社長(役所広司)は、超ゴキゲン。開発チームを飲み会に集め「陸王を世界一のシューズにする」と夢を語ります。当然、みんなも大賛成。まずは、シューズを作るきっかけを与えてくれたダイワ食品の実業団ランナー・茂木くん(竹内涼真)に陸王を履いてもらうことを目標に掲げます。

 今回はそんな茂木くんが、陸王に足を入れてくれるまでのお話。

「半腱様筋の損傷」という、ランナーとしては致命的な故障を抱えている茂木くん。一流メーカー「アトランティス」とのサポート契約も打ち切られ、意気消沈しています。

 なんとか故障を克服し、チームドクターから“完治”のお墨付きをもらった茂木くんでしたが、アトランティスに「治ったらサポート再開」の約束を反故にされてしまいます。いわく「半腱様筋の損傷からトップランナーに復帰した例は、過去に0人」だからだそうです。所属する実業団から「若いうちに陸上部を辞めとけ」と迫られていたこともあって、心を痛めるばかりです。

 ある意味で、そんな茂木くん以上に心を痛めていたのが、アトランティスの社員シューフィッター・村野さん(市川右團次)でした。選手のことを第一に考え、長距離界では“カリスマ”とも呼ばれるほど選手たちの信頼も厚い村野さんは、「必ずアトランティスで茂木のシューズを作ってやる」と約束していたのです。しかし、しょせんは大企業の一社員ですので、上司・小原(ピエール瀧)の「サポート打ち切り」の指示に逆らうことはできません。そこで、信念の男・村野さんは、アトランティスを辞めることにしました。

 無職となったカリスマは、「大企業はもういい」と言います。そして、夢を語る宮沢社長にほだされ、こはぜ屋とアドバイザリー契約を結ぶことに。こはぜ屋にとっては、これ以上ない強力な味方となります。

 

■仕事は「人」であるという作品哲学の象徴

 

 宮沢社長は、何度もダイワ食品陸上部を訪れ、監督・城戸(音尾琢真)や茂木くん本人に「陸王を履いてくれ」「足型を採らせてくれ」とお願いしてきましたが、なしのつぶてでした。しかし、ここで村野さんの“村野力”が爆発。茂木くんの足型なんてとっくに持っていますし、宮沢社長と一緒に陸王の茂木モデルを抱えてダイワに乗りこめば、監督も顔パスでグラウンドに通すしかありません。茂木くんも茂木くんで、村野さんが持ってきたシューズなら履いてみたくなっちゃう。

 この作品で再三語られてきたのは、仕事とは「人」であるという哲学です。

 シューズメーカーの経営者として、宮沢社長は何も持っていません。資金もないし、ノウハウもないし、技術も実績も経験ない。あるのは夢と情熱だけ。その夢と情熱が、まずは縫製のエキスパートである足袋屋のおばちゃんたちを動かし、シルクレイの特許を持っていた飯山(寺尾聰)を動かし、カリスマシューフィッターも動かす。銀行員・坂本(風間俊介)は、次から次へとキーパーソンを呼び寄せる。みんながみんな、損得抜きで宮沢社長の力になろうと駆けずり回る。

 プロジェクトを前に進めるのは、いつだって宮沢社長以外の人物が持っている「ノウハウと技術と実績と経験」です。宮沢社長が、ものすごい顔面で夢を語ると、みんなが「ノウハウと技術と実績と経験」によって物事を解決していく。それは「人」を見つめ、「人」を大切に思う宮沢社長の性根のよさによるものでもありますが、そんなに都合よくみんながみんな足りないパーツを持ち寄って奇跡を起こすことなんてあるんかいな、と斜めに見てしまいそうになる。

 毎回、後半になって「そんな都合のいいことあるんかいなー」と思い始めたタイミングで、リトグリちゃんが大音量で歌い上げるわけですよ。

 エーブリデーアイリッスントゥーマイハー、ひとりじゃぁなぁーいー♪

 ここまでバッチリと歌詞を聞かせる劇伴には、当初から賛否があったようです。

 深いぃー胸の奥でぇえー、つながってぇるぅー♪

 補強してるな、と感じるんです。歌詞を聞かせることで、物語の哲学を補強してる。歌声によって、私たちの雑念(?)を、力ずくでねじ伏せようとするのが、このリトグリちゃんの歌に任された役割なのでしょう。だからこそ、物語にすんなり感動できている視聴者に対しては、うるさく感じられてしまうのかもしれません。

 

■“怖い人たち”が怖すぎた件について

 

 このドラマで、原作以上に怖い人として登場しているのが、アトランティスの小原と、ダイワの城戸監督です。特に城戸監督のエキセントリックともいえる激情芝居は、ちょっと過剰なんじゃないのかと思っていました。

 今回、この城戸監督の怖さが、村野がこはぜ屋を伴って現れたときに、非常に効果的に作用したと思いました。あんなにめっちゃ怖い城戸監督がすんなり道を開けてしまう、敬意を表してしまうほど、村野という人間の陸上界における実績が偉大なのだ、という意図が、より明確に伝わってきました。

 もうひとつ、陸王を履いて記録会に参加し、最後は脚がつって倒れてしまったものの快走を見せた茂木くんに対し「サポートを取り戻せ」と部下に命じた小原。常に会社の利益優先、効率優先な“悪役”として登場していましたが、選手の走りを見る能力は本物であることが示されました。これも、小原を悪役一辺倒に描いてきただけにギャップが利いて人物像が一気に広がったように思います。

 このへんは原作には描きこまれていない演出の妙で、上手いよなぁと素直に感じ入るところです。

 それと、第2話で城戸監督が茂木くんに「お前は終わりだ! ──ミッドフット着地を身につけなければ」と倒置で言ったり、今回、茂木くんが記録会の後、宮沢社長に「この靴のせいです。──走っていて、こんなに気持ちのいいシューズは初めてです」と倒置で言ったりするところは、原作には描きこまれていない脚本の妙で、上手いよなぁと素直に感じ入るところでした。

 あと、宮沢社長が息子・大地(山崎賢人)に「茂木選手のファンなんだべ?」と尋ねたシーンがありましたが、私は埼玉北部の出身なので、この「だべ?」には素直に感じ入りました。

 まだ4話で、ずいぶん原作を消化しているので後半のダレが心配ではありますが、次回以降も楽しみたいと思います。はい。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

6.4%停滞の『刑事ゆがみ』に漂い出した“コレジャナイ”感……「本格」路線化の功罪とは

 9日に放送されたドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)の視聴率は6.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。各方面から絶賛の声が聞こえてきていますが、数字的には、だいたいここらへんで推移する感じでしょうか。このレビューでも初回から「面白い面白い」と書いてきました。今回も面白いっちゃ面白いんですが、ちょっと感触が違いました。

「連ドラはニコパチが重要」と、よくいわれます。2話、5話、8話で展開が訪れ、それが充実したものであれば良作ですよ、という話です。『刑事ゆがみ』も、今回が第5話。これまで完全な1話完結でつづられてきましたが、今回は、初回から登場している謎のハッカー少女・ヒズミ(山本美月)の過去が明かされ始めます。ちなみにこのヒズミ、原作コミックには登場しないドラマオリジナルキャラなので、この人物の処理がドラマの出来そのものを左右しそうです。

 では、まずはお話から軽く振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 7年前、弓神(浅野忠信)は「ロイコ事件」という殺人事件の捜査に関わっていました。ロイコ(=ロイコクロリディウム)というのは、カタツムリに寄生して宿主を支配し、思いのままに操ってしまうという寄生虫だそうです。

 かつて、そのロイコをモチーフにした小説があって、その小説に書かれていた通りの殺人事件が起きました。事件では夫婦が殺され、現場には被害者の血で描かれたカタツムリのイラストが残されていた。このイラストが、小説の表紙に描かれているものと同じだったのです。弓神らの捜査によると、事件の犯人は小説の作者らしい。どうやら、実際に事件を起こすことで話題を呼び、小説をたくさん売るのが目的だったようです。しかし、容疑が固まる前に作者は焼身自殺。真相は闇の中。

 その事件では、12歳になる夫婦の娘が生き残りました。しかし、現場を目撃してしまったために、少女はショックで記憶障害と失声症を患ってしまったそうです。

 弓神は今でも、焼身自殺をした作者が本当に犯人だったかどうか、疑っています。そして、なんらかの理由で、生き残った失語症の少女の面倒を見ています。その娘こそが、ヒズミなのでした。

 というのが、次回以降に続くオリジナルの部分。

 もうひとつ今回起こったのが、市議会議員の娘がさらわれた誘拐事件。この現場にもロイコのイラストがあったことから弓神たちも捜査に加わるわけですが、こっちはまあ、結論としては母親による狂言誘拐でした。夫に不倫されて悔しかったとか、そういう理由だそうです。そういう理由であることが、実に熱っぽく、迫力の演出でもって語られました。

 これまでこのレビューでは事件の真犯人を書いてきませんでしたが、今回は大した伏線がないので謎解きの快感は薄いですし、逆に犯人が母親であることがわかっていても、クライマックスに訪れる浅野忠信と板谷由夏の演技合戦は必見ですので、ぜひFODでご覧ください。

 

■スケール感が増した反面、“バディ”羽生の存在感が消えた

 

 今回、前回までと比べて、だいぶスケール感のある事件が語られました。情報量も格段に多いし、テレビのワイドショーまで巻き込んだ、いわゆる“劇場型”犯罪。本格的な刑事ドラマっぽさをビシビシ感じます。犯人からの脅迫電話を開口部の大きなリビングで受けたり、ヘンテコな変装をした刑事が「どっちにしろ刑事に見えねえ」と言われたり、小児誘拐映画の金字塔である黒澤明『天国と地獄』(1963)へのオマージュも抜かりありません。

 その反面、弓神の“バディ”である新人刑事・羽生くん(神木隆之介)の存在感が非常に希薄なものとなりました。

 私は、第2話(http://www.cyzo.com/2017/10/post_34983.html)、第3話(http://www.cyzo.com/2017/10/post_141162.html)のレビューにも書いた通り、このドラマは神木隆之介を愛でるために見ていると言っても過言ではないくらい羽生くんのキャラ付けが重要な要素だと思っていて、だからこそ今回は、とりわけ「感触が違う」と感じたのです。

 これまで、どの事件も羽生くんは「単に所轄で起こったから」以上のモチベーションで捜査に当たってきました。事件発生の段階で羽生くんの心が揺さぶられていたからこそ、右往左往しながら捜査を通して成長していく彼に共感を抱いてきたのです。

 今回は、「ロイコ事件」にしろ「狂言誘拐」にしろ、羽生くんに全然関係がない。「羽生くんこそ主人公」という見方をしてきた私からすると、すごく出来はいいけど、主人公のいない話だなぁ、という印象だったのです。無論、これまで通りゲスト犯人(今回は板谷由夏)に対しても主人公並みの掘り下げが行われていることは変わりないのですが、これまではゲストへの掘り下げに加えて羽生くんの成長があったので、分厚い作品として感じられてきたということです。

 

■初めてとなる男性脚本家の起用

 

 もうひとつ、このドラマの魅力として感じていたのが、女性犯罪者に対する描き込みの個性です。『刑事ゆがみ』はこれまで、すべての脚本を女性脚本家が手掛けてきました。

 第2話では「作家の当事者性が投影された作品」に見えると書きましたし、第4話(http://www.cyzo.com/2017/11/post_141861.html)では「彼女たちを、決して“被害者”や“弱者”として一面的に扱うことをしない」「『私たちは同情されるために登場したわけではない』という、悲劇を抱えた女性キャラクターたちの強い主張が感じられます」と書いています。

 しかし、今回の犯人である母親も、夫の不倫相手である秘書の女性も、わりと一面的に自分勝手で、欲望に忠実で、「女って怖いな」みたいなステレオタイプに見えました。結果、すべてを自白した時に犯人の女は「許しを乞う側」になり、夫は「妻を許す側」になっている。こうした結末のニュアンスは、これまでの『刑事ゆがみ』には見られなかった、おそらくは注意深く取り除かれてきた視点ではなかったかと思うんです。

 第5話で脚本を担当したのは池上純哉さん。男性です。1時間弱の中に、この華やかな誘拐劇と次回以降への伏線を手際よく詰め込んだ手腕は経験豊富なベテラン脚本家ならではだと思いますし、そもそも作品に対して「作り手が男だから」「女だから」みたいな物言いを付けるのもフェアじゃないんですが、「なんか今回、女性心理の描き込みが浅いなー」と思いながら見ていて、最後のクレジットで池上さんの名前が出てきて少し腑に落ちたので、正直にそれは記しておきます。

 具体的なことを言うと、第4話で私は「彼女たちが守るべきものをドラマの中でしっかりと定め、それを彼女たちが能動的に守ろうとしたがために、事件が起こる」とも書いているんですが、今回の母親にとって「守るべきもの」ってなんだったんだろうという話なんです。家族だ、夫婦生活だ、子どものためだ、みたいな話になっていましたが、その考え方が自分勝手すぎやしないかと。

 先に「狂言誘拐」と書きましたが、今回の事件、母親の狂言ではあっても、娘への誘拐は実際に行われている。娘が電話口で「パパー! パパー!」と悲痛な叫び声を上げているシーンもある。

 弓神に自白を迫られた母親は「そんなことするわけない、そんなことしたら、娘との関係が……」とか言って否認するんですが、関係とかそういう問題じゃないだろと。後に解放されるとしても、娘の中に「誘拐された」という体験は傷となって残るだろと。絶望的な恐怖を伴って残るだろと。そこに想像力が及ばないなら、「あなたは何を守ろうとしてたの?」と思ってしまうんです。無事に帰ってきて元気だったからいいようなものの。

 というか、うーん、女性心理の描き方とか、そういうことでもないかな。なんというか、ヒズミは犯罪被害によるPTSDによって記憶障害と失語症になっているわけで、ひとつのドラマの中で、犯罪被害に遭った小児に対して「こっちは深刻なPTSD被害」「こっちは大丈夫」というダブルスタンダードが発生していることが気持ち悪かったのかもしれません。

 と、いろいろ書いてきましたが、あのー、面白いのでみんな見たほうがいいです、という感じは変わらないです。はい。また次回。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

ガバガバSFを“圧”で飲み込ませるTBS日曜劇場『陸王』15.0%で過去最高視聴率を記録!

 5日に放送された日曜劇場『陸王』(TBS系)第3話の視聴率は、15.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と過去最高でした。内容的にも、まあ、文句のつけようがないです。説得力のあるセリフを説得力のある俳優が圧をかけてしゃべる、序盤からジャンジャンBGMを鳴らして盛り上げる、挫折と苦悩と反発をイヤというほど織り込んで、成功のカタルシスに導く。まさに盤石。振り返るまでもありませんが、そうもいかないので今回も振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 今回は、こはぜ屋のランニングシューズに必要不可欠な素材「シルクレイ」の生成についてのお話です。

 そもそも、こはぜ屋のランニングシューズ「陸王」には、欠点がありました。地下足袋の技術を応用した天然ゴムのソールでは耐久性に乏しく、シューズとして売り出すのは難しい。そこで、ゴムに代わる素材を探していた宮沢社長(役所広司)の前に、天啓のように現れたのが、飯山という男(寺尾聰)が開発したまま死蔵特許となっていたシルクレイでした。

 なんだかんだ駄々をこねる飯山を開発チームに引き入れることに成功した宮沢でしたが、シルクレイはそのままソールに使える素材ではありませんでした。軽くて丈夫なのはいいけど、硬すぎたのです。飯山はこれまで、シルクレイを硬くて丈夫な素材にすることしか考えていませんでしたが、シューズのソールに使用するためには、硬さをコントロールしなければならなくなりました。

 今回は、飯山と宮沢の息子・大地(山崎賢人)が、ソールに最適な硬度のシルクレイを生み出すまでが描かれました。

 

■架空の素材をドラマの中心に置くリスク

 

 ちなみに、この「シルクレイ」という素材は、現実には存在しない架空の素材です。繭を煮詰めたものを液体にして濾過し、それに圧縮冷却をかけて作るのだそうで、軽くて丈夫で、硬度がコントロールできればソールに“最適”である“奇跡の素材”。あの『下町ロケット』(同)でも、バルブシステムの開発に四苦八苦していましたが、シルクレイはドラマに登場する小道具として、バルブシステムよりずっと自由度が高いものです。

 まったく架空なので、シルクレイについてのルールは、すべてドラマ側が決めることになります。その設定に根拠がないんです。実録風企業ドラマの中に、ここだけSFが混入しているという構図です。

 SFであるからして、『陸王』は丁寧にその条件設定を積み重ねていきます。

 まずは、シルクレイが目指す硬度の基準を決めます。シューズのソールの資料を取り寄せ、「平均的な硬度は55~60の間」としました。この数値も架空なので、単位は特にありません。「硬度55~60」。そして、最初の実験では冷却温度-28℃で「73.2」という硬度が出ました。つまり、失敗です。

 次に具体的な数字が出てきたのは「73.0」。その次は「72.1」。その後、「飯山と大地は55~60に近づけるどころか、コントロールすることすらできずにいた」とナレーションで語られます。

 ここまで、冷却温度を変更して実験を繰り返していますが、飯山がある気付きを得て、冷却温度ではなく煮繭(しゃけん)温度、つまり繭を煮る温度を変えてみてはどうかと思いつき、85℃で煮てみると、硬度は「45.2」。柔らかすぎますが、冷却温度を変更するより、ずっと大きな変化が見られます。それならばと87℃で煮てみて、失敗。そして、95℃で煮てみることに。これで失敗すれば、また初めから別のアプローチを考えないといけませんが、見事「55.1」という硬度を達成することができました。ここまで、1カ月くらいかかったそうです。

 この過程だけ抽出してみると、SFとしては全然説得力がありません。ガバガバです。「95℃で55.1」という数値だって、ドラマが勝手に言ってるだけで、こっちは飲み込むしかない。そもそも「55~60」という基準値だって、知ったこっちゃないし、なんの根拠もない。恐るべき、いい加減さです。

 

■でも、泣けちゃうの

 

 でも、泣けちゃうんです。「55.1」が出た瞬間の山崎賢人と寺尾聰の芝居。喜ぶ、みんなの顔。ロジックを超えて、人間の顔面に感動してしまう。

 情報の出し入れの順番が上手いんです。

 実験が始まったとき、こはぜ屋は銀行に融資を断られて、金がない金がないと騒いでいます。

 また、宮沢の「ダイワ食品の茂木(竹内涼真)に陸王を履いてもらう」という願いも、叶えられずにいます。

 就活中の息子・大地も、実験にかまけていたせいで大切な面接をすっ飛ばしてしまいます。

 そうした紆余曲折を実験の間に手際よく挟み込み、すべてを「実験の成功」までの間に解決してしまう。そうしてボルテージを高めていくことで、このアンロジカルなSF実験について、「ホントに成功するのかよ?」と思っている視聴者の気持ちを「ここで成功してほしい!」という期待感に変えてしまう。

「成功してほしい」と思わせてしまえば、もうそれはドラマの勝ちですからね。「55.1」の数字を、胸のすく思いで眺めることができるわけです。

 前回のレビュー(http://www.cyzo.com/2017/10/post_141358.html)で、こうした決まり事に満ちた『陸王』を「物足りない」と書きましたし、そういう部分のおぼろげな不満は今回もあるにはあるんですが、ここまで圧をかけられると「乗っかっちゃったほうが楽しいな」と思えたことも事実なので、今後はどんなご都合主義が登場しても「よっ! こはぜ屋!」「待ってました!」という感じで追いかけていければと思います。なんか中途半端なアレですみません。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

ガバガバSFを“圧”で飲み込ませるTBS日曜劇場『陸王』15.0%で過去最高視聴率を記録!

 5日に放送された日曜劇場『陸王』(TBS系)第3話の視聴率は、15.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と過去最高でした。内容的にも、まあ、文句のつけようがないです。説得力のあるセリフを説得力のある俳優が圧をかけてしゃべる、序盤からジャンジャンBGMを鳴らして盛り上げる、挫折と苦悩と反発をイヤというほど織り込んで、成功のカタルシスに導く。まさに盤石。振り返るまでもありませんが、そうもいかないので今回も振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 今回は、こはぜ屋のランニングシューズに必要不可欠な素材「シルクレイ」の生成についてのお話です。

 そもそも、こはぜ屋のランニングシューズ「陸王」には、欠点がありました。地下足袋の技術を応用した天然ゴムのソールでは耐久性に乏しく、シューズとして売り出すのは難しい。そこで、ゴムに代わる素材を探していた宮沢社長(役所広司)の前に、天啓のように現れたのが、飯山という男(寺尾聰)が開発したまま死蔵特許となっていたシルクレイでした。

 なんだかんだ駄々をこねる飯山を開発チームに引き入れることに成功した宮沢でしたが、シルクレイはそのままソールに使える素材ではありませんでした。軽くて丈夫なのはいいけど、硬すぎたのです。飯山はこれまで、シルクレイを硬くて丈夫な素材にすることしか考えていませんでしたが、シューズのソールに使用するためには、硬さをコントロールしなければならなくなりました。

 今回は、飯山と宮沢の息子・大地(山崎賢人)が、ソールに最適な硬度のシルクレイを生み出すまでが描かれました。

 

■架空の素材をドラマの中心に置くリスク

 

 ちなみに、この「シルクレイ」という素材は、現実には存在しない架空の素材です。繭を煮詰めたものを液体にして濾過し、それに圧縮冷却をかけて作るのだそうで、軽くて丈夫で、硬度がコントロールできればソールに“最適”である“奇跡の素材”。あの『下町ロケット』(同)でも、バルブシステムの開発に四苦八苦していましたが、シルクレイはドラマに登場する小道具として、バルブシステムよりずっと自由度が高いものです。

 まったく架空なので、シルクレイについてのルールは、すべてドラマ側が決めることになります。その設定に根拠がないんです。実録風企業ドラマの中に、ここだけSFが混入しているという構図です。

 SFであるからして、『陸王』は丁寧にその条件設定を積み重ねていきます。

 まずは、シルクレイが目指す硬度の基準を決めます。シューズのソールの資料を取り寄せ、「平均的な硬度は55~60の間」としました。この数値も架空なので、単位は特にありません。「硬度55~60」。そして、最初の実験では冷却温度-28℃で「73.2」という硬度が出ました。つまり、失敗です。

 次に具体的な数字が出てきたのは「73.0」。その次は「72.1」。その後、「飯山と大地は55~60に近づけるどころか、コントロールすることすらできずにいた」とナレーションで語られます。

 ここまで、冷却温度を変更して実験を繰り返していますが、飯山がある気付きを得て、冷却温度ではなく煮繭(しゃけん)温度、つまり繭を煮る温度を変えてみてはどうかと思いつき、85℃で煮てみると、硬度は「45.2」。柔らかすぎますが、冷却温度を変更するより、ずっと大きな変化が見られます。それならばと87℃で煮てみて、失敗。そして、95℃で煮てみることに。これで失敗すれば、また初めから別のアプローチを考えないといけませんが、見事「55.1」という硬度を達成することができました。ここまで、1カ月くらいかかったそうです。

 この過程だけ抽出してみると、SFとしては全然説得力がありません。ガバガバです。「95℃で55.1」という数値だって、ドラマが勝手に言ってるだけで、こっちは飲み込むしかない。そもそも「55~60」という基準値だって、知ったこっちゃないし、なんの根拠もない。恐るべき、いい加減さです。

 

■でも、泣けちゃうの

 

 でも、泣けちゃうんです。「55.1」が出た瞬間の山崎賢人と寺尾聰の芝居。喜ぶ、みんなの顔。ロジックを超えて、人間の顔面に感動してしまう。

 情報の出し入れの順番が上手いんです。

 実験が始まったとき、こはぜ屋は銀行に融資を断られて、金がない金がないと騒いでいます。

 また、宮沢の「ダイワ食品の茂木(竹内涼真)に陸王を履いてもらう」という願いも、叶えられずにいます。

 就活中の息子・大地も、実験にかまけていたせいで大切な面接をすっ飛ばしてしまいます。

 そうした紆余曲折を実験の間に手際よく挟み込み、すべてを「実験の成功」までの間に解決してしまう。そうしてボルテージを高めていくことで、このアンロジカルなSF実験について、「ホントに成功するのかよ?」と思っている視聴者の気持ちを「ここで成功してほしい!」という期待感に変えてしまう。

「成功してほしい」と思わせてしまえば、もうそれはドラマの勝ちですからね。「55.1」の数字を、胸のすく思いで眺めることができるわけです。

 前回のレビュー(http://www.cyzo.com/2017/10/post_141358.html)で、こうした決まり事に満ちた『陸王』を「物足りない」と書きましたし、そういう部分のおぼろげな不満は今回もあるにはあるんですが、ここまで圧をかけられると「乗っかっちゃったほうが楽しいな」と思えたことも事実なので、今後はどんなご都合主義が登場しても「よっ! こはぜ屋!」「待ってました!」という感じで追いかけていければと思います。なんか中途半端なアレですみません。
(文=どらまっ子AKIちゃん)