おじさんがああだこうだ考えながら飯食うのを鑑賞するドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)。説明するとバカみたいだが、事実といえば事実だけに申し訳ない。第2話となる今回は、Season7にして初となるメニュー「バイキング」。これは「ああだこうだ」冥利につきそう。
視聴率は初回が5.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、深夜にしては異様に高い。今回は3.2%とダウンしたものの、それでもテレ東の他の深夜に比べたら十分高く、あいかわらず好調だ。
■第2話「世田谷区経堂の一人バイキング」
商談前に顧客(大和田獏)がテニスに興じるのを見学するも、やったことないのにノリでラケットを握らされ、あげく無茶振りされた「エア・ケイ」(錦織圭のやつ)の意味がわからなくて理不尽にもがっかりされてしまう、かわいそうなな我らが井之頭五郎(松重豊)。実はテニスは、大和田獏の本当の趣味。その昔、かの野沢直子(雅子じゃない方)が「ばくばくばくばく、おーわだばく!」と名前を連呼するだけの歌を歌っていたのを思い出す。
一瞬期待したが、そんな曲がかかるわけもなく無事商談も終わり、最寄りの経堂駅までの道を尋ねるも、大和田獏が説明下手なタイプの人だったため、五郎は四苦八苦。道順の説明途中に「なんだかんだあって」を使われたら、戸惑うのも当然だが、実際、世田谷は農道を基にした、細く入り組んだ道が極めて多い。特に住宅街はランドマークとなる建物が少なく、筆者も豪徳寺付近から抜け出せず深夜に小一時間ばかり「遭難」したことがある迷宮だ。
まだ雪の残る小道を行く五郎は途中、一軒家から出てきた女性が食事の感想を言ってるのを聞き逃さない。見た目、完全にただの個人住居だが、ポツンと「マッシーナメッシーナ」と看板が置かれている。
映画『トップガン』のあの曲を歌っていたケニー・ロギンスが在籍したグループ「ロギンス&メッシーナ」に由来するのか、それともさらにそこから名前をとった『ジョジョの奇妙な冒険』のロギンズとメッシーナという登場人物(波紋の師範)に由来するのかはわからないが、とにかく駄洒落なのは間違いない。
こんな場所に店があるのもすごいが、メニューが90分1,500円のバイキング一択なのもすごい。
■かつて「一人」の付いた放送回は3回
そもそも今回のタイトルに「一人バイキング」とあるが、元来、この番組は「一人飯」であることが大前提。かつてタイトルメニューに「一人」が付いたのは、Season1の「神奈川県川崎市 八丁畷の一人焼肉」、Season2の「墨田区両国の一人ちゃんこ鍋」、Season5の「東京都豊島区 西巣鴨の一人すき焼き」の3回。
つまり、鍋など通常「一人では行かないはず」というものに「一人」を付けているのだが、しかし大人数でつつく前提の鍋や焼肉はともかく(2012年の放送時より一人焼肉は市民権を得たが)、バイキングはむしろ一人向きなメニューな気もする。言ってしまえば、結局食べる側の気持ち次第なのだが「空腹の好奇心が(店に)入っちまえと騒いでいる」という五郎は、当然入店。
引き戸を開けて入店するも、中は完全に「ひとんち」のリビングダイニングで、苦手な人は、この空気だけで頓挫してしまうかもしれない。だが五郎は「いきなり友達の実家に呼ばれた気分」と、この状況を楽しんでる。さすが。
原作コミックの五郎は、この手の一癖ありそうな空気の店(西荻窪のおまかせ定食の回など)を当初苦手としていた気もするが、ドラマの松重五郎はたくましい。
■バイキンガー五郎
並べられたメニューを次々皿に乗せて行く五郎。個人の貿易商という仕事柄、ビジネスホテルで朝食バイキングなど食べる機会も多いのだろう。洋食を一つのプレートに、和食を小皿に分ける取り方もこなれている。「五郎’Sバイキング第一弾」として持ってきたのは、
・サバの塩焼き
・なす味噌
・がんも煮
・マカロニグラタン
・白菜の浅漬け
・豚しゃぶ
・サラダ風のヘルシー冷やし中華
・タラモサラダ
・アスパラガスの塩焼き(一本丸ごと)
・きんぴらごぼう(カレー風味)
・雑穀米ご飯
・豆腐と油揚げの味噌汁(いりこ出汁)
大きな図体で背中を丸め、品目を選ぶ五郎がかわいい。サバの塩焼きが小ぶりなのを「バイキング者、バイキンガーの気持ちがわかってる」と喜んでいるが、確かに朝食バイキングのサバ塩は小さい。「サバの塩焼き定食欲が、とりあえず満足させられた」と、ちょっとずつたくさん食べたい考え方は、まさに「バイキンガー」。
白菜浅漬け、きんぴら、なす味噌、がんも煮を横長の皿にちょっとずつ並べて「どうだ、この付け合わせの組み合わせ。なかなかセンスいいと思うなぁ」と配列に酔いしれる感じも、バイキンガーあるあるかもしれない。
少量のマカロニグラタンを食べ「子どもの頃に初めて食べた時、逆上がりができた時くらい感動したっけ」と幼少時を懐かしんだかと思いきや、「そっから白菜漬けに飛ぶ自由」と、定番の2品だけで精神を開放するルーク・スカイウォーカーのような五郎。
スパゲティサラダかと思いきや、冷やし中華だった! という驚きも、バイキングならでは。店によっては料理名が添えてある場合もあるが、視覚で認識してたものを口に入れた時、味覚で訂正するのもバイキングの醍醐味。
タラモサラダはギリシャ料理。タラモ(魚卵)をパンやジャガイモに練りこんだ料理で、日本ではタラコが多く使われるのでタラコ+じゃがいもサラダだと思われているらしい。「美味さで堕落しそうだ」というこのメニューを、五郎は「隠して持って帰りたい」と、密輸を企てるほど気に入っていた。
冷めたアスパラを食べつつ「バイキングは時の運、諦めが肝心」と自分に言い聞かせていたのに、すぐさま到着した焼きたてを食べ、「バイキングは運じゃない。諦めずに自ら道を切り開く強い心が大切なんだ」と持論をリライトする五郎。そもそも、なぜ一回我慢したのかは謎だが、ドラマ版五郎は柔軟さが魅力だ。
■アフリカ料理「マフェ」とは?
「五郎’Sバイキング第二弾」
・マフェ
・甘めの卵焼き
・ブロッコリーサラダ
「よーし、ギニアいってみよー!」と、今回もいかりや口調の掛け声で食べだしたのは、ピーナッツソースとトマトを使った煮込み料理・マフェ。西アフリカでは有名な料理らしく、番組でもギニア版のカレーとして紹介。この今回のメインディッシュを、大盛りご飯にかけて貪る五郎。「しっかり辛さがありながら優しい味」とのこと。
途中で客が入ってきて五郎と相席になるが「普通の店での相席とは、相席感のレベルが全然違う」と慄く。なんたって「ひとんち」だから。他の客は全員女性なのだが、「全品制覇したくなるのがバイキンガーの性(さが)!」と、意にも介さずおかわりし続ける五郎の豪胆さ。
「五郎’Sバイキング第三弾」
・枝豆豆腐(わさび塩で)
・キュウリとトマトの塩麹和え
・おくらとみょうがの和え物
・がんも煮
・雑穀米
・味噌汁
正直、マフェで終わりかと思った。いいとこ最後に出てきた枝豆豆腐を味見するだけ思ったら、雑穀米と味噌汁まで。もう胃が完全に開いているのだろう、五郎は「小ライス」と言っていたが、結構な量を追加していた。
「美味い家庭の味が恋しくなったら、この家に帰ってこよう。ここはまるで、俺の胃袋の実家だ」と、万感の思いで食事を締め、お会計しかけた直後「ドリア出来上がりましたー」と言われ、取り乱す五郎。
てっきり食べ直すかと思ったが「また来る口実ができたから、よしとしよう」と前向きに店をあとにする。
「バイキングは100パーセント食べ過ぎちまうな、でも満足感は200パーセントだから『勝ち』ってことで」
筆者のようなさもしい貧乏人は「元を取れたかどうか」を基準に「勝ち負け」を考えてしまうが、昼飯に数千円使うこともある小金持ちの五郎の言う「勝ち負け」とは、もっと精神的なものだろう。
今回は店主役のいしのようこに五郎が軽くときめく様子も見られたが、かつてあったような恋バナ展開は特になく、どちらかというと、変なおじさんが出現しやしないかと勝手にドキドキしてしまいました。
原作者・久住昌之がロケ店を訪ねる「ふらっとQUSUMI」では、3年かかってやっと辿りつけた客もいることが明かされた秘境・世田谷に潜む一軒家バイキング。冒険心溢れる方は是非。
(文=柿田太郎)