突然の大地震、その時あなたはどうする? 実践的震災サバイバルマンガ『彼女を守る51の方法』

 6月18日に発生した「大阪府北部地震」では4名の方が亡くなり、建物や交通網などに多くの被害を出しました。

 さらに、7月初旬に西日本を襲った記録的豪雨は、広島、岡山、愛媛など12府県にまたがり、甚大な被害を拡大しています。日本のどこにいようとも、地震、火山、豪雨など、自然災害の危機からは逃れられる絶対安全な場所はないということをあらためて痛感させられますね。

 自然災害についての意識が高まっている今だからこそ、ぜひ読んでもらいたいマンガが『彼女を守る51の方法』です。東京・お台場にマグニチュード8の直下型地震が起こったら、東京はどうなってしまうのか――そんな震災サバイバルマンガです。

「週刊コミックバンチ」(新潮社)にて2006~07年まで連載されていた作品で、作者は『ライチ☆光クラブ』『帝一の國』の古屋兎丸先生です。

 以前、本コラムでご紹介した『ドラゴンヘッド』(参照記事)は、正体不明の巨大災害後の人間の絶望と恐怖を描いたサバイバルホラーでしたが、この『彼女を守る51の方法』は、震災後に帰宅難民となってしまった人々がどういう行動を取るべきか、という部分に主眼が置かれた実践的なものです。

 主人公・三島ジンはお台場にある、フジテレビもとい、アルプステレビの就職説明会にきていた大学生。そしてヒロイン・岡野なな子は、ゴスロリメイドの格好で「死の時、魂は完全に聖化される」とか「聖デストピアが、ソドム様が…」とかブツブツつぶやいている、病み系女子です。

 ジンは、お台場にビジュアル系バンド「サリン・ヘルヴァイン」のライブ追っかけで来ていた高校時代の同級生・なな子を偶然見つけ、話しかけますが、彼女は「私はロルコです、昔のことは覚えてません」などと意味のわからないことを話しだして、過去を否定。高校時代、ジンはなな子のことが好きだったのですが、変わり果てた彼女にドン引き。この娘を守る方法が本当に51も存在するのでしょうか……。

 実は、なな子は高校時代にいじめに遭い、人間不信になってしまっていたのです。なな子の背負っていたつらい過去を思い出したジンは、彼女を放っておけず、めげずに話しかけるのですが、そんなジンをよそに、自暴自棄になって滅びの呪文「バルス」を唱え続けるなな子。やっぱり、こいつヤバイ……とその時、ものすごい轟音とともに激しい揺れが発生。そう、マグニチュード8の東京直下型地震が発生したのです。2人のいるお台場は震度7。揺れが収まると、目の前には地獄絵図が広がっていました。

 人が乗ったままの観覧車は折れ曲がり、建設中のマンションは倒壊、液状化でマンホールがせり上がり、地面は水浸しです。ゆりかもめは脱線・炎上し、ショッピングセンター内も死者だらけ、アルプステレビはケガ人だらけで野戦病院のようです。恐るべし東京直下型地震……。

 ジンとなな子はお台場を脱出し、2人の家がある新宿・早稲田を目指します。しかし、そのためには余震で揺れが続く恐怖のレインボーブリッジを渡り、震災後のアウトローが徘徊する六本木や、ギャングの巣窟となっている渋谷を抜けて歩いていくことになります。未曾有の崩壊に陥った東京には、多くの危険と困難が待ち受けていたのです。

 そんな流れで2人の目を通して、震災直後にパニックを起こした人々の心理状態や、一体どう行動するのが正解なのかなどが描かれている作品ですが、その中でも特に知っておいたほうがよさそうな内容を一部ご紹介します。

■ケガの止血にはナプキンを使え!

 太ももにガラスが突き刺さり、大量出血している女の子を助けるため、ジンはネクタイで太ももを縛り、さらに女の子の持っていたナプキンを利用して止血します。ナプキン! そういう手もあるのか!! 考えてみれば、血を吸収するためのテクノロジーの粋が集まっているわけですから、絶好の止血帯というわけです。

 大ケガしたらナプキン。いざという時のためにナプキン。特に女性はぜひ覚えておきたいですね。

■災害時はハイヒールの足を折れ!

 震災後は路面状態が悪く、亀裂が入っていたり陥没していたり、浸水していることもあります。そんな時、歩きにくい靴ではとてもサバイバルできません。ハイヒールを履いているのなら、思い切ってハイヒールの足を折って動きやすくしてしまいましょう。

 ちなみになな子は、ゴスロリスタイルの厚底パンプスを履いていたため、倒壊して無人となったショッピングセンターのマネキンが履いていたスニーカーを拝借。盗むんじゃないよ、借りるだけ! 

■パニックが発生したらとりあえず、しゃがんで大声を出す!

 お台場脱出のためにレインボーブリッジを渡るジンとなな子。しかし、レインボーブリッジを渡っている最中に巨大な余震が発生して橋が大きく傾いてしまい、橋が崩れるかもとパニックになった人の波が発生。このままでは、橋を渡る前に人の波にのまれてしまいます。その時ジンはすさかず、なな子に向かって大声で「しゃがめ!」「身を固めろ」「頭を守れ」と叫ぶことで偶然にもパニックが収まりました。

 誰かが突然しゃがむと周囲の人も反射的にしゃがんでしまう、という群集心理が偶然にも発生したのです。平常時にやると変な人扱いされそうですが、非常時にパニックが起こったら、冷静になってまず「しゃがむ」というのが有効そうです。 

■震災後はレイプマンがいっぱい! ミニスカ・お色気は厳禁!!

 メディアではほとんど報道されませんが、実は震災後、治安が不安定な状態につけ込んだ犯罪、特に強姦などが起こることもあるみたいです。酒を飲んだ男性がその勢いで……というケースが多いそうで、女性は要注意です。

 作品中盤で登場し、ジンやなな子と行動を共にするリカという少女は、ミニスカートにギャルメイクで、震災後も男に色目を使って食料を分けてもらいながら賢く生き抜いていましたが、調子に乗りすぎて六本木のアウトローたちに囲まれて襲われてしまいました。

 ミニスカートや露出の多い服装をしている場合は、できるだけ着替えたほうがよさそうです。

 さらに作品後半の舞台となる渋谷は、政府からの救援が1週間近く来ない状況で、ギャングたちによるレイプなどの犯罪の巣窟となっており、109ならぬ009(マルキュー)はギャングたちから逃れた女性だけで籠城する女の城と化していましたが、精神的ストレスの限界となった帰宅難民たちが暴動を起こし、マルキューに一斉に襲いかかるシーンがあります。

 しかし、マルキューにいた女性陣は、洋服を極限まで重ね着して、目の下にクマ、顔にニキビやソバカス、鼻の穴も大きく描いて、眉毛は太く眉尻は下げるという究極のブサメイクにより、男たちに襲われるのを逃れたのです。震災時は女であることを捨てる。究極の選択といえますが、これで身を守れるなら簡単なもんです。

■骨折ぐらいでは治療してもらえない! 災害医療トリアージ

 男たちにレイプされ、心身ともに傷ついたリカの体を医者に見せるため、病院へ向かうジン一行。

 しかし、そこで行われていたのはトリアージという、救命医療の方法。命を救える可能性がある人を最優先で治療するためのもので、けが人が赤、黃、緑、黒などのタグで色分けされており、赤以外のタグの人は治療をしてもらえない状況でした。

 たとえ骨折していたり、眼球が飛び出ていても、命には別状がないということで治療をしてもらえないのです。当然リカも診てもらうことができず、病院を後にします。

■富士山が爆発する! 怪しげな宗教団体による震災時のデマ

 震災が起きると、弱った人々の心に忍び込むように、怪しげな宗教団体が勢力を伸ばしてきます。本作品では食糧難が続く渋谷の帰宅難民に、食料とセットで「21世紀箱舟学会」なる、うさん臭い名前の宗教が会報を渡すシーンがあります。おなかが減っていてそこに食べ物があれば、宗教の会報だろうとなんだろうともらってしまうというのが人のさがですよね。

 しかも、「間もなく富士山が噴火する」「北朝鮮が侵略してくる」なんてもっともらしいデマ情報をセットで刷り込まれたら、不安になって入信してしまうかもしれません。デマがはやりやすい、というのも震災後の特徴のようです。ちなみに主人公のジンも、まんまと宗教にハメられ、大ピンチに陥ってしまいます。

*** 

 というわけで、大学生とゴスロリ女子による震災後の7日間を描いた『彼女を守る51の方法』を紹介しました。コメディっぽいシーンやラブストーリー要素もあり、堅苦しくなく読めますが、万が一の時には、意外とこういうマンガで得た知識というのが役に立ったりするものです。読んでおいて損はない作品といえるでしょう。

 

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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兄貴と舎弟が、ただただイチャイチャ! 『おっさんずラブ』を超える特濃BL漫画『なかよし番外地』

 先日、惜しまれつつも最終回を迎えたドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)。おじさんが年の離れた女子に恋するストーリーなのかと思いきや、モテない33歳の主人公・春田創一(田中圭)が、その上司である55歳の部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)やイケメンの後輩・牧凌太(林遣都)らに迫られるという、メンズだらけの胸キュンラブコメディでした。

 つまり恋愛ドラマだけど、上司(♂)×部下(♂)、先輩(♂)×後輩(♂)みたいなカップリングがメイン。深夜帯とはいえ、地上波で乙女チックなハートを持つおじさんが部下を全力で口説くシーンは、かなりのインパクトがありました。

 そんな中、もっともっと、鳥肌が立つほどに濃厚なおっさん同士のピュア・ラブが読めるマンガが発売されましたよ。その名も『なかよし番外地』(KADOKAWA)。真のおっさんずラブは、このマンガを読まずして語れない!

 作者は中川ホメオパシー先生。『抱かれたい道場』(秋田書店)、『干支天使チアラット』(リイド社)などなど、一見かわいらしくもちょっと頭がイカれてる作品ばかり繰り出すことでおなじみの中川先生による新境地は、ヤ◯ザなルックスの、コワモテおじさん同士のBLです。

 登場人物は、いったいどこのドン・ファンだよ! みたいな、明らかにカタギじゃない雰囲気を持つ「兄貴」と、頭がパッパラパーな舎弟分「辰」。本作品で描かれるのは完全に2人だけのラブラブな世界であり、そこにはラブコメにありがちな三角関係などは存在しません。

■顔とセリフのギャップがとにかくスゴイ

 本作は、そのとろけそうにスウィートなセリフだけを見れば、少女マンガとなんら変わらないのですが、決定的に違うのは2人のビジュアル。常にスーツ、サングラス、傷だらけの顔にオールバックという、控えめに言っても「組長」クラス(たぶん50代?)の兄貴と、ものすごいチンピラ臭を漂わせつつ、ヤバいクスリやっているかのように目がブッ飛んでる、舎弟分の辰(40代?)、この2人のおっさんが……

「やめてよ兄貴…ゲレンデが溶けちゃうよ…」

「辰は本当にフルーティーなコだね」

みたいな愛のセレナーデの応酬を見せつけてくれます。ゲレンデが溶けるまで恋したいのは広瀬香美だけではなかったんですね……。

 そんなわけで、素人が興味本位で手を出したら間違いなく「オエェーッ!」となる、でも慣れてくると抜け出せなくなる、まるで1週間寝かせたドリアンのような特濃の世界観が繰り広げられているのです。

■ヘタな乙女よりもピュアな2人の愛

 まるで殺人鬼のような邪悪なマスクを持った兄貴と辰の♂×♂カップルですが、そこには暴力もエロもない、ひたすらピュアで善良なラブ空間があるのみです。作品に漂うほっこりムードは、癒やしすら感じさせてくれます。

 ゲーセンのモグラたたきの台の前で何もせず佇む兄貴を見て、辰が「どしたの兄貴? 早くたたかなきゃ」と尋ねます。

 すると兄貴は、

「俺はたたかないよ… だってこのコ(モグラ)たちをたたく理由がないもの…」

 モグラたたきのモグラすら思いやる兄貴の優しさに惚れ直してしまう辰なのでした。

 ね!? 実にほっこりエピソードでしょう? でも実際は、2人の顔が極悪すぎるのでそんなにほっこりしないんですが。このギャップ、言葉だけでは説明が難しい……。

 ほかにも、節分のエピソードでは、鬼をやろうとする兄貴に対して

「えーーーッ、兄貴に豆をぶつけられないよォ!」

と、代わりに鬼をやろうとする辰に対して

「辰に豆をぶつけるぐらいなら死んだほうがマシさ…」

などと、お互いを思いやる気持ちが爆発! 結局、2人仲良く鬼をやることになるのです。なんなのこの展開……。

 とにかくどのシーンも、ゲレンデだけじゃなく脳まで溶けそうなのです。でも2人の顔を見ると我に返ります。このギャップ、伝わりますかね……。

■画に慣れたら後は、ひたすら甘くとろけるようなセリフを浴びるだけ!

 実は作中、兄貴と辰はヤ◯ザであるとは一度も明示されていません。それどころか、この2人は一体どんな職業で、何歳で、どんな関係性なのかも説明されてないのです。あんな顔してるけど、もしかしたら2人は心優しき妖精さんなのかもしれません。そう、ティンカーベル的な。

 そんな2人のビジュアルに慣れたら、あとはとろけるようなセリフのやりとりを浴び続けるだけです。

「なんでこんなイタズラするの兄貴…?」

「辰の困った顔が急に見たくなったから…」

「辰の怒った顔もすごくイイね…」

「…なんだよソレ… チェッ…調子狂っちゃうなァ」

「辰もよく見たらまつ毛がすっごく長いんだね…」

「ちょ…どこ見てんの兄貴ィ…(ハート)」

 うーん、キモカワ! しかも、キモとカワの比率が9.8:0.2くらいです。というわけで、『おっさんずラブ』とは次元が違う、おっさん同士の特濃BL『なかよし番外地』を紹介しました。

『おっさんずラブ』、そして『なかよし番外地』……今まで、世間的にはほぼタブーだったおじさん同士のラブストーリーが解禁され始めているこの流れ、サイゾー読者の皆さんも「もしかしたら俺もそっち系なのかも」と、新しい扉を開くタイミングがついに到来したのかもしれません。大丈夫! 本作の魅力がわかるなら、あなたもその素質ありです!

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

こんな時代もあった! 「働き方改革」の真逆を行く、お仕事大好きマンガ『働きマン』

 最近よく「働き方改革」という言葉を耳にするようになりましたね。フレックスタイム、時短勤務、モバイルワーク、高度プロフェッショナルにワークライフバランスなどなど……。ワークライフバランスなんて言葉は最高に憧れます! 一度でいいからバランス取ってみたい。そういえば、仕事が増えると過食になって体重も増える自分は、ある意味バランスが取れてるのかも!(そういうことではない)

 ……とまあ、そんなご時世ですが、2000年代には「働き方改革」とは真逆なコンセプトのマンガがもてはやされていました。それが、働く女子のバイブルともいわれた『働きマン』です。

『働きマン』の作者は安野モヨコ先生。「モーニング」(講談社)に2004~08年まで連載され、菅野美穂主演で07年10月期にテレビドラマ化もされました。同年1月期にはには『ハケンの品格』(いずれも日本テレビ系)なんてドラマもありましたし、とにかくデキる女性が社会に進出してバリバリ働く、というのが世の中の風潮だったのです。皮肉にも、その後すぐにリーマンショックがあり、派遣切りがあり……と、一気に不況ムードになってしまったわけですが。

 スピンアウト本もいくつか出ており、当時の勢いを感じさせます。『働きマン 明日をつくる言葉』(講談社)という名言集や、主人公・松方弘子(まつかた ひろこ)のライフスタイルをテーマにした『働きマン 松方弘子のMake It Beauty!』『働きマン 松方弘子のMake It Healthy!』(同)など。つまり弘子をお手本に、仕事ができて美しく、しかも健康的に生きる、かなり意識高めな女性像が理想とされていました。

 28歳独身、週刊「JIDAI」編集部の女性編集者である弘子は、人一倍熱い編集魂を持っており、一度仕事モードのスイッチが入ると、男勝りな「働きマン」となります。その間は通常の3倍のスピードで仕事をし、寝食恋愛衣飾衛生の観念は消失する……そう、仕事に命を削る性分なのです。そのため、彼氏とはたびたび険悪になり、セックスレス気味。お肌も体もボロボロ。負けん気の強さから同僚とも喧喧囂囂のバトルを繰り広げるなど、超絶ワーカホリック体質といえます。でも、当時はこれがカッコよかったんです。ブラック企業なんて言葉もありませんでしたし。

 作品中にちりばめられた名言の数々もグッときます。

「あたしは仕事したなーって思って死にたい」

「仕事で失ったもの、それを想い泣いた夜、でも仕事に救われる朝もあるから…」

「やれない理由を聞いてるんじゃなくて、どうやるか聞いてるんだ」

「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ」

などなど。実に熱いセリフですよね。でも今のご時世、本当にこんなこと言ったら、ブラック企業だとかパワハラだとか批判されかねません。時の移り変わりは価値観をここまで変えてしまうのです。

 主人公の弘子がこんなキャラクターなので、全体的にさぞかしブラック企業体質なマンガなのかと思いきや意外とそうでもなく、周囲のキャラクターはむしろ自分流を貫く、あんまり「仕事しない」人が結構出てきます。当時、率先して「働き方改革」を実践していたヤツらといえます。ではこれから、『働きマン』作品中で最高に「働かないマン」のベスト3を発表しましょう。

 

■田中邦夫(たなか くにお)

 編集部の新人類。趣味はファッション。できるだけ要領よく仕事をこなして、プライベートを大事するというスタンスなため、弘子には目の敵にされています。

「仕事終わってみんなで…みたいのが苦手。飲み行ってまで説教されたくねーっつーか。」

「オレは『仕事しかない人生だった』そんな風に思うのはごめんですね。」

 うん、わかるわかる! 仕事の時間を1秒でも少なくして帰社したい僕のような人間には、こういう考えのほうが共感できます。「働き方改革」な今こそ、彼みたいなスタンスは評価されるのかもしれません。

 

■梅宮龍彦(うめみや たつひこ)

 週刊「JIDAI」の編集長。かつて、大ニュースになった記事をいくつも生み出した凄腕編集者でしたが、「JIDAI」の全盛期が終わり、発行部数が半分になったところで編集長に据えられ、プライベートでは妻子と別居中。勤務時間中に他の社員に黙ってフラッと外出し、姿をくらましたり。やる気があるのかないのか、よくわからない感じです。

「オレは忙しーんだよ!! 鳥のエサ買いに行ったり、クリーニング屋行ったり、ゴミ出ししたり……」

「勢いだけがこの世で必要とされてるわけじゃない。侘びしい夜も侘びしい人もあっての世の中だ」

などなど、元凄腕編集者とは思えない、だいぶ枯れた感じになっています。しかし、いざ仕事モードになると弘子に対し、

「例の記事、お前好きなように書け、責任とってやっから」

 みたいな編集長らしいセリフも。仕事はしないが、責任は取る男――人望のある上司とは、案外そういうものかもしれません。

■梶舞子(かじ まいこ)

 編集部最強の「働かないマン」が、この舞子。独特のお姐さんな雰囲気を醸し出し、仕事をしなくても、定時上がりで連絡が一切つかなくなっても怒られない、治外法権ポジションにいます。

 担当する小説家センセイたちをとりこにする美貌で、しっかり遅れることなく原稿を取ってきます。もちろん、編集部内で「彼女が仕事してるの見たことないわよ、色目使ってんのは何度も見たけど」とか「担当の作家とはほとんど関係してるんじゃないの?」などと陰口を叩かれたりもしているのですが、

「弁解もしない、確かに私は男たちに特別扱いを受けているから」

などと、本人はいたって余裕です。実際、先生の趣味に付き合ってヌードモデルをやったりして、愛人同然の関係性なので、あながち陰口もはずれてはいないのですが。

「仕事…だと思ってないのかな。天才に奉仕するのは喜びだから」

と、持論を展開。さらに、社会人の基本「ほうれんそう」についても「抱擁、恋愛、創作」という独自解釈。誰にも真似できない高度なワークスタイルを実践しており、これこそまさに、究極の「働き方改革」といえるでしょう。

 というわけで、時短ムード漂う今だからこそ、胸に響くモノがあるかもしれない、ザ・お仕事マンガ『働きマン』を紹介してみました。実は作品としては完結しておらず、単行本4巻を最後に休載という形になっています。昨今の出版不況や働き方改革の風潮など、連載当時と今ではあまりにも状況が変わっているので、まったく同じ設定での再開は難しそうですが、復活するのであれば、今の時代をうまく取り入れつつ、出版不況をひっくり返すような熱さを持った新しい『働きマン』を読んでみたいな、なんて思ってしまいました。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

こんな時代もあった! 「働き方改革」の真逆を行く、お仕事大好きマンガ『働きマン』

 最近よく「働き方改革」という言葉を耳にするようになりましたね。フレックスタイム、時短勤務、モバイルワーク、高度プロフェッショナルにワークライフバランスなどなど……。ワークライフバランスなんて言葉は最高に憧れます! 一度でいいからバランス取ってみたい。そういえば、仕事が増えると過食になって体重も増える自分は、ある意味バランスが取れてるのかも!(そういうことではない)

 ……とまあ、そんなご時世ですが、2000年代には「働き方改革」とは真逆なコンセプトのマンガがもてはやされていました。それが、働く女子のバイブルともいわれた『働きマン』です。

『働きマン』の作者は安野モヨコ先生。「モーニング」(講談社)に2004~08年まで連載され、菅野美穂主演で07年10月期にテレビドラマ化もされました。同年1月期にはには『ハケンの品格』(いずれも日本テレビ系)なんてドラマもありましたし、とにかくデキる女性が社会に進出してバリバリ働く、というのが世の中の風潮だったのです。皮肉にも、その後すぐにリーマンショックがあり、派遣切りがあり……と、一気に不況ムードになってしまったわけですが。

 スピンアウト本もいくつか出ており、当時の勢いを感じさせます。『働きマン 明日をつくる言葉』(講談社)という名言集や、主人公・松方弘子(まつかた ひろこ)のライフスタイルをテーマにした『働きマン 松方弘子のMake It Beauty!』『働きマン 松方弘子のMake It Healthy!』(同)など。つまり弘子をお手本に、仕事ができて美しく、しかも健康的に生きる、かなり意識高めな女性像が理想とされていました。

 28歳独身、週刊「JIDAI」編集部の女性編集者である弘子は、人一倍熱い編集魂を持っており、一度仕事モードのスイッチが入ると、男勝りな「働きマン」となります。その間は通常の3倍のスピードで仕事をし、寝食恋愛衣飾衛生の観念は消失する……そう、仕事に命を削る性分なのです。そのため、彼氏とはたびたび険悪になり、セックスレス気味。お肌も体もボロボロ。負けん気の強さから同僚とも喧喧囂囂のバトルを繰り広げるなど、超絶ワーカホリック体質といえます。でも、当時はこれがカッコよかったんです。ブラック企業なんて言葉もありませんでしたし。

 作品中にちりばめられた名言の数々もグッときます。

「あたしは仕事したなーって思って死にたい」

「仕事で失ったもの、それを想い泣いた夜、でも仕事に救われる朝もあるから…」

「やれない理由を聞いてるんじゃなくて、どうやるか聞いてるんだ」

「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ」

などなど。実に熱いセリフですよね。でも今のご時世、本当にこんなこと言ったら、ブラック企業だとかパワハラだとか批判されかねません。時の移り変わりは価値観をここまで変えてしまうのです。

 主人公の弘子がこんなキャラクターなので、全体的にさぞかしブラック企業体質なマンガなのかと思いきや意外とそうでもなく、周囲のキャラクターはむしろ自分流を貫く、あんまり「仕事しない」人が結構出てきます。当時、率先して「働き方改革」を実践していたヤツらといえます。ではこれから、『働きマン』作品中で最高に「働かないマン」のベスト3を発表しましょう。

 

■田中邦夫(たなか くにお)

 編集部の新人類。趣味はファッション。できるだけ要領よく仕事をこなして、プライベートを大事するというスタンスなため、弘子には目の敵にされています。

「仕事終わってみんなで…みたいのが苦手。飲み行ってまで説教されたくねーっつーか。」

「オレは『仕事しかない人生だった』そんな風に思うのはごめんですね。」

 うん、わかるわかる! 仕事の時間を1秒でも少なくして帰社したい僕のような人間には、こういう考えのほうが共感できます。「働き方改革」な今こそ、彼みたいなスタンスは評価されるのかもしれません。

 

■梅宮龍彦(うめみや たつひこ)

 週刊「JIDAI」の編集長。かつて、大ニュースになった記事をいくつも生み出した凄腕編集者でしたが、「JIDAI」の全盛期が終わり、発行部数が半分になったところで編集長に据えられ、プライベートでは妻子と別居中。勤務時間中に他の社員に黙ってフラッと外出し、姿をくらましたり。やる気があるのかないのか、よくわからない感じです。

「オレは忙しーんだよ!! 鳥のエサ買いに行ったり、クリーニング屋行ったり、ゴミ出ししたり……」

「勢いだけがこの世で必要とされてるわけじゃない。侘びしい夜も侘びしい人もあっての世の中だ」

などなど、元凄腕編集者とは思えない、だいぶ枯れた感じになっています。しかし、いざ仕事モードになると弘子に対し、

「例の記事、お前好きなように書け、責任とってやっから」

 みたいな編集長らしいセリフも。仕事はしないが、責任は取る男――人望のある上司とは、案外そういうものかもしれません。

■梶舞子(かじ まいこ)

 編集部最強の「働かないマン」が、この舞子。独特のお姐さんな雰囲気を醸し出し、仕事をしなくても、定時上がりで連絡が一切つかなくなっても怒られない、治外法権ポジションにいます。

 担当する小説家センセイたちをとりこにする美貌で、しっかり遅れることなく原稿を取ってきます。もちろん、編集部内で「彼女が仕事してるの見たことないわよ、色目使ってんのは何度も見たけど」とか「担当の作家とはほとんど関係してるんじゃないの?」などと陰口を叩かれたりもしているのですが、

「弁解もしない、確かに私は男たちに特別扱いを受けているから」

などと、本人はいたって余裕です。実際、先生の趣味に付き合ってヌードモデルをやったりして、愛人同然の関係性なので、あながち陰口もはずれてはいないのですが。

「仕事…だと思ってないのかな。天才に奉仕するのは喜びだから」

と、持論を展開。さらに、社会人の基本「ほうれんそう」についても「抱擁、恋愛、創作」という独自解釈。誰にも真似できない高度なワークスタイルを実践しており、これこそまさに、究極の「働き方改革」といえるでしょう。

 というわけで、時短ムード漂う今だからこそ、胸に響くモノがあるかもしれない、ザ・お仕事マンガ『働きマン』を紹介してみました。実は作品としては完結しておらず、単行本4巻を最後に休載という形になっています。昨今の出版不況や働き方改革の風潮など、連載当時と今ではあまりにも状況が変わっているので、まったく同じ設定での再開は難しそうですが、復活するのであれば、今の時代をうまく取り入れつつ、出版不況をひっくり返すような熱さを持った新しい『働きマン』を読んでみたいな、なんて思ってしまいました。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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少女マンガの仮面をかぶった昼ドラ!? 夫婦交換マンガ『ママレード・ボーイ』は男子には刺激が強すぎる!

 少女マンガに縁がなかった男子たちに、突発的に少女マンガの名作をご紹介しがちな本コラム。今回は現在、実写版映画公開中の『ママレード・ボーイ』をご紹介します。

『きまぐれオレンジ☆ロード』と共に“柑橘系ラブコメ”の2大巨頭といわれる『ママレード・ボーイ』は「りぼん」(集英社)で1992~95年まで連載され、ほぼ同時期にアニメ化もされていました。

 アニメ主題歌の歌詞にも象徴される「甘くて苦いママレード」なイケメン男子・松浦遊と女子高生・小石川光希の恋物語で、一見すると超さわやかな正統派少女マンガですが、家族構成がかなり特殊で、そこいらの昼ドラでは太刀打ちできないレベルのドロドロ設定になっています。 

 ごく普通の女子高生が、超イケメン男子とひょんなことから同居するようになる……これだけだと少女マンガでよくあるパターンのように思えますが、その同居の理由にインパクトがありすぎるのです。

 

■小学生向けのマンガで、まさかのスワッ◯ング

 なんの予兆もなくある日突然、光希の両親と遊の両親が、それぞれ離婚。そして夫婦の組み合わせをそっくりそのまま交換して再婚するという、「え? そんなの日本の法律で許されるの?」ぐらいすさまじい展開です。

 しかも、小石川夫妻と松浦夫妻は仲良し、家族ぐるみのお付き合いということで、光希と遊を含む、2ファミリー計6人が、一つ屋根の下で同居することになります。これは相当な異常事態といえるでしょう。

 ちょっ、りぼん読者にス◯ッピングの話はまだ早すぎるだろ……と心配してしまうところですが、そこは「りぼん」ですから心配はご無用。当然のことながら、ス◯ッピングのスの字も出てきません。

 大人だと、どうしても背徳的な目線で見てしまうパートナー交換の設定も、少女マンガの中では単なるヒロインとイケメンが同居するためのこじつけ理由にすぎません。理由はどうあれ、とにかくイケメンと同居しなければ始まらない、細かいことはどうでもいいのです。

■ムチャクチャな状況でも明るく生きるヒロイン・光希

 当然ながら、光希は自分の置かれた異常な境遇に大混乱。自分を産んだ母親がある日突然、初対面の男子の義理の母になるという……気持ちの持って行き場がわかりません。

 光希の唯一の救いは、超絶イケメン男子の遊と同居できることです。イケメンと一つ屋根の下、しかも同じ学校に通う同級生です。ワクワクせざるを得ませんね。ただ、これはあくまで遊がイケメンだったからです。同居するのがフツメン、ブサメンだったら、まったくワクワクすることはないでしょう。少女マンガの掟です。

 しかしそんな光希は、母親に「遊くんに恋しちゃダメよ」と、くぎを刺されます。これ以上、家族関係をややこしくしたくない、という理由からなのですが……お前ら大人はいけしゃあしゃあとスワッ◯ングしといて、どの口が言うのか! ひどい、ひどすぎる。これは間違いなくグレるパターンですよね(グレないけど)。

 

■イケメン男子・遊の境遇が悲惨すぎる

 イケメンでテニスがうまく、学校でもモテモテの遊。見た目はスウィートですが、ちょっとクールで意地悪なところがある「ママレード・ボーイ」。「ツンデレ男子」よりもオシャレでファッショナブルな言い回しは、さすが少女マンガです。

 光希と同様、異常な家庭環境で動揺しているはずの遊ですが、常にクールで、そんなそぶりをまったく見せません。しかし、遊には誰にも話していない、ある秘密を抱えていました。

 実は、自分の父親・松浦要士は本当の父親ではなく、母親が昔付き合っていた別の男が本当の父親だということを偶然知ってしまい、誰にも告げずに一人思い悩んでいるのでした。周りを心配させないよう、両親にも光希にも内緒で、一人孤独に本当の父親探しをする遊。大変な境遇ですよね。

 そんな息子の悩みも知らず、パートナー交換をして浮かれてる両親’s(ズ)。これはグレても仕方ありません(グレないけど)。

 

■今のご時世なら絶対アウトなロリコン教師「なっちゃん」

 光希と遊の担任である名村先生は生徒からの信望が厚く、「なっちゃん」と呼ばれて慕われている教師ですが、実は光希の親友・茗子とこっそり付き合っていたことが発覚してしまいます。

 未成年の、しかも卒業前の教え子とのリアルタイム交際、これは完全アウトですよね。今のご時世なら「名村メンバー」と呼ばれて、同僚に「正直あなたは病気です」とか「野菜の味は変わりません」などと言われてもおかしくない事案です。

 結局、なっちゃんは学校を去ることになり、茗子は自宅謹慎となるのですが、その後、茗子が駆け落ち同然でなっちゃんの元へ行き、結婚することになります。倫理的にはアウトですが、少女マンガ的には素敵な純愛ストーリーといえましょう。

■子どもたちの人生を無意識にもてあそぶ両親’s

 本作品では、夫婦交換の結果、人間関係がややこしくなりすぎたため、小石川夫妻・松浦夫妻をひとまとめで両親’sと呼んでいます。この両親’s、一見するといい人たちに見えますが、やってることは随分と身勝手です。

 両親’sの手前、ずっとお互いの気持を抑えていた光希と遊は、作品後半でとうとう正式なカップルとなるのですが、幸せムードの絶頂の中で、両親’sの隠されていた衝撃の過去が発覚し、2人の愛が引き裂かれる事態に陥ります。

 隠しごとが多すぎて、子どもの人生をメチャクチャに狂わせてくれる、毒親ならぬ毒両親’s。子どもたちがこれでグレていないのは奇跡といえるでしょう。

 

■続編『ママレード・ボーイ little』で、さらに状況は複雑に

 現在、集英社の少女マンガ誌「Cocohana」で連載中の「ママレード・ボーイ little」という続編があります。これは、『ママレード・ボーイ』の13年後が舞台で、タイトルからも想像できる通り、夫婦交換後の小石川家・松浦家にそれぞれ生まれた、朔(♂)と立夏(♀)という子どもたちの話。一つ屋根の下、きょうだい同然に育った男女が中学生になり、お互いに恋を意識し始める……という、血は争えない展開に。

 さらに、名村と茗子の間に生まれた息子・名村碧も恋のライバルとして参戦してきて……という、もはや何がなんだか、それキンシン◯ーカンじゃないの? え、ギリギリセーフなの? みたいな、ややこしすぎる人間模様が繰り広げられます。

 というわけで、「さわやかコーティングが施された昼ドラ」ともいえる少女マンガ『ママレード・ボーイ』をご紹介しました。少女マンガに免疫のない男子諸君は、あまりのあり得ない設定に打ちのめされるかもしれませんが、大ヒットする作品っていうのは、こういう他の追従を許さない突き抜けた部分があるものですよね。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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少女マンガの仮面をかぶった昼ドラ!? 夫婦交換マンガ『ママレード・ボーイ』は男子には刺激が強すぎる!

 少女マンガに縁がなかった男子たちに、突発的に少女マンガの名作をご紹介しがちな本コラム。今回は現在、実写版映画公開中の『ママレード・ボーイ』をご紹介します。

『きまぐれオレンジ☆ロード』と共に“柑橘系ラブコメ”の2大巨頭といわれる『ママレード・ボーイ』は「りぼん」(集英社)で1992~95年まで連載され、ほぼ同時期にアニメ化もされていました。

 アニメ主題歌の歌詞にも象徴される「甘くて苦いママレード」なイケメン男子・松浦遊と女子高生・小石川光希の恋物語で、一見すると超さわやかな正統派少女マンガですが、家族構成がかなり特殊で、そこいらの昼ドラでは太刀打ちできないレベルのドロドロ設定になっています。 

 ごく普通の女子高生が、超イケメン男子とひょんなことから同居するようになる……これだけだと少女マンガでよくあるパターンのように思えますが、その同居の理由にインパクトがありすぎるのです。

 

■小学生向けのマンガで、まさかのスワッ◯ング

 なんの予兆もなくある日突然、光希の両親と遊の両親が、それぞれ離婚。そして夫婦の組み合わせをそっくりそのまま交換して再婚するという、「え? そんなの日本の法律で許されるの?」ぐらいすさまじい展開です。

 しかも、小石川夫妻と松浦夫妻は仲良し、家族ぐるみのお付き合いということで、光希と遊を含む、2ファミリー計6人が、一つ屋根の下で同居することになります。これは相当な異常事態といえるでしょう。

 ちょっ、りぼん読者にス◯ッピングの話はまだ早すぎるだろ……と心配してしまうところですが、そこは「りぼん」ですから心配はご無用。当然のことながら、ス◯ッピングのスの字も出てきません。

 大人だと、どうしても背徳的な目線で見てしまうパートナー交換の設定も、少女マンガの中では単なるヒロインとイケメンが同居するためのこじつけ理由にすぎません。理由はどうあれ、とにかくイケメンと同居しなければ始まらない、細かいことはどうでもいいのです。

■ムチャクチャな状況でも明るく生きるヒロイン・光希

 当然ながら、光希は自分の置かれた異常な境遇に大混乱。自分を産んだ母親がある日突然、初対面の男子の義理の母になるという……気持ちの持って行き場がわかりません。

 光希の唯一の救いは、超絶イケメン男子の遊と同居できることです。イケメンと一つ屋根の下、しかも同じ学校に通う同級生です。ワクワクせざるを得ませんね。ただ、これはあくまで遊がイケメンだったからです。同居するのがフツメン、ブサメンだったら、まったくワクワクすることはないでしょう。少女マンガの掟です。

 しかしそんな光希は、母親に「遊くんに恋しちゃダメよ」と、くぎを刺されます。これ以上、家族関係をややこしくしたくない、という理由からなのですが……お前ら大人はいけしゃあしゃあとスワッ◯ングしといて、どの口が言うのか! ひどい、ひどすぎる。これは間違いなくグレるパターンですよね(グレないけど)。

 

■イケメン男子・遊の境遇が悲惨すぎる

 イケメンでテニスがうまく、学校でもモテモテの遊。見た目はスウィートですが、ちょっとクールで意地悪なところがある「ママレード・ボーイ」。「ツンデレ男子」よりもオシャレでファッショナブルな言い回しは、さすが少女マンガです。

 光希と同様、異常な家庭環境で動揺しているはずの遊ですが、常にクールで、そんなそぶりをまったく見せません。しかし、遊には誰にも話していない、ある秘密を抱えていました。

 実は、自分の父親・松浦要士は本当の父親ではなく、母親が昔付き合っていた別の男が本当の父親だということを偶然知ってしまい、誰にも告げずに一人思い悩んでいるのでした。周りを心配させないよう、両親にも光希にも内緒で、一人孤独に本当の父親探しをする遊。大変な境遇ですよね。

 そんな息子の悩みも知らず、パートナー交換をして浮かれてる両親’s(ズ)。これはグレても仕方ありません(グレないけど)。

 

■今のご時世なら絶対アウトなロリコン教師「なっちゃん」

 光希と遊の担任である名村先生は生徒からの信望が厚く、「なっちゃん」と呼ばれて慕われている教師ですが、実は光希の親友・茗子とこっそり付き合っていたことが発覚してしまいます。

 未成年の、しかも卒業前の教え子とのリアルタイム交際、これは完全アウトですよね。今のご時世なら「名村メンバー」と呼ばれて、同僚に「正直あなたは病気です」とか「野菜の味は変わりません」などと言われてもおかしくない事案です。

 結局、なっちゃんは学校を去ることになり、茗子は自宅謹慎となるのですが、その後、茗子が駆け落ち同然でなっちゃんの元へ行き、結婚することになります。倫理的にはアウトですが、少女マンガ的には素敵な純愛ストーリーといえましょう。

■子どもたちの人生を無意識にもてあそぶ両親’s

 本作品では、夫婦交換の結果、人間関係がややこしくなりすぎたため、小石川夫妻・松浦夫妻をひとまとめで両親’sと呼んでいます。この両親’s、一見するといい人たちに見えますが、やってることは随分と身勝手です。

 両親’sの手前、ずっとお互いの気持を抑えていた光希と遊は、作品後半でとうとう正式なカップルとなるのですが、幸せムードの絶頂の中で、両親’sの隠されていた衝撃の過去が発覚し、2人の愛が引き裂かれる事態に陥ります。

 隠しごとが多すぎて、子どもの人生をメチャクチャに狂わせてくれる、毒親ならぬ毒両親’s。子どもたちがこれでグレていないのは奇跡といえるでしょう。

 

■続編『ママレード・ボーイ little』で、さらに状況は複雑に

 現在、集英社の少女マンガ誌「Cocohana」で連載中の「ママレード・ボーイ little」という続編があります。これは、『ママレード・ボーイ』の13年後が舞台で、タイトルからも想像できる通り、夫婦交換後の小石川家・松浦家にそれぞれ生まれた、朔(♂)と立夏(♀)という子どもたちの話。一つ屋根の下、きょうだい同然に育った男女が中学生になり、お互いに恋を意識し始める……という、血は争えない展開に。

 さらに、名村と茗子の間に生まれた息子・名村碧も恋のライバルとして参戦してきて……という、もはや何がなんだか、それキンシン◯ーカンじゃないの? え、ギリギリセーフなの? みたいな、ややこしすぎる人間模様が繰り広げられます。

 というわけで、「さわやかコーティングが施された昼ドラ」ともいえる少女マンガ『ママレード・ボーイ』をご紹介しました。少女マンガに免疫のない男子諸君は、あまりのあり得ない設定に打ちのめされるかもしれませんが、大ヒットする作品っていうのは、こういう他の追従を許さない突き抜けた部分があるものですよね。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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伏線多すぎなのに、結局何もわからない! パニックホラーの最高峰『ドラゴンヘッド』とは?

 名作といわれるマンガの重要な要素、それは「伏線」ではないでしょうか。いかに作品中に多くの伏線をちりばめ、ラストまでに美しく回収するか、そして伏線が張られれば張られるほど作品は壮大になり、面白くなっていくともいえます。

 もちろん、伏線を張りまくり、大風呂敷を広げまくった挙げ句にまったく回収されないまま打ち切られてしまったマンガもあり、これは世間的にはガッカリ作品の評価を与えられてしまいます。

 ところで、世の中にはさんざん張りまくった伏線をほとんど回収することなく、むしろ「伏線? 張ってたっけ?」ぐらい開き直ったラストシーンを描いてるにもかかわらず、傑作と評される突然変異的作品も存在します。それが、今回ご紹介する『ドラゴンヘッド』です。

『ドラゴンヘッド』は望月峯太郎(現・望月ミネタロウ)先生による作品で、1994~99年の期間、「週刊ヤングマガジン」(講談社)誌上で連載されていました。

 修学旅行中に突如として大地震が発生、主人公の中学生、青木輝(テル)たちの乗っていた新幹線は大事故を起こし、崩落したトンネルの中に閉じ込められてしまいます。血みどろの惨劇となった新幹線の中の生き残りは、テル、アコ、ノブオの3人のみ。外界との連絡手段が完全に遮断されたトンネルという暗闇の中で、どうやって生き残るのか……。いわゆる、パニックマンガやサバイバルマンガに分類されるようなストーリーなのですが、かつてないインパクトのある描写がちりばめられており、さらに連載開始の翌年に阪神淡路大震災が発生したこともあり、パニックマンガの代表的な存在として語られるようになります。

 パニックマンガ・サバイバルマンガは実に多種多様ですが、地震や火山の噴火が原因の自然災害もの、放射能汚染や戦争が原因の人災もの、感染してゾンビになったりするアウトブレイクものなどがあります。では、『ドラゴンヘッド』はどれに属するのか? 地震や火山噴火のシーンが出てくるので自然災害もの……であるかのように語られがちですが、実は本当の原因がよくわからないのです。とにかく誰もハッキリしたことを教えてくれない。携帯電話もなく、ラジオもテレビも役に立たない。情報がなさすぎることによる「恐怖」が、本作品の特徴です。スマホ依存症の皆さんは、スマホをなくすと不安になりますよね? あれの1万倍ぐらい怖い状況だと思ってください(違うかも……)。

■前半の超ヤバい奴、ノブオ

『ドラゴンヘッド』では、要所要所に「超絶ヤバい奴」が登場して、ストーリーを盛り上げてくれます。作品前半、崩落したトンネル内で生き残った3人のうち、ノブオが超ヤバい奴でした。

 もともといじめられっ子でオドオドしている割に、神経質でキレやすいタイプのノブオ。周りは死体だらけ、トンネル内での暗闇と異常な暑さ、助けが来るあてはなく、食料もいつ底をつくかわからないという極限状況で、幻覚が見え始め、狂いだします。

 そしてたぶん、一度本作品を見たらインパクトがありすぎて脳裏にこびりついて忘れられなくなるのが、狂ってしまったノブオの全身ペインティング。落ちていた化粧道具を使って、口や目の周りには口裂け女みたいな隈取りを描き、全身には爬虫類のような斑点をペイントするという、常人には考えつかないセンス。とにかくキモい!

 さらに、眠っているアコの服を脱がせて同様のペイントをして、その場でマスターベーションをしてアコの体に射精するという変態行為をしたり、嫌いだった生活指導教師の死体を包丁で解体し、いけにえの儀式を始めるなど、エクストリームな狂いっぷり発揮してくれます。ただでさえ極限状態なのに、生き残りの1人が狂ってるとか、もう地獄絵図ですよね。

 結局、テルとアコだけがこのトンネルを脱出。ノブオはトンネルの中に残り、生死不明の状態となります。悪魔の化身となったノブオがラスボスとなって、再び現れるなんて展開もありそうでしたが……結果として再登場はありませんでした。これだけ強烈なキャラなのに、伏線でもなんでもないんかーい!!

 

■中盤の超ヤバいやつ、リュウズ

 トンネルを脱出し、東京に向かうテルとアコを待ち受ける外の世界も、まさしく地獄絵図。降り注ぐ灰で昼間なのに夜のように暗く、あらゆる建物は地震で倒壊し、がれきの山。人の気配もほとんどなく、いまだにこの世界にどんな災害が起こったのかまったくわかりません。とにかく核心に迫る情報は一切描かれない、超もったいぶる系マンガなのです。

 そんな中、自衛隊を逃げ出した仁村・岩田という2人の自衛隊の生き残りと行動を共にするようになったテルとアコ。破傷風になってしまったテルの薬の調達のために廃病院に向かったアコは、傷だらけの頭を持つ謎の人物と出会います。自分のことを「竜頭(リュウズ)」と名乗るこの男は、全身がげっそりと痩せこけ、感情がなく目がうつろで、たまにたどたどしく意味のわからない内容をしゃべるだけという、ノブオに匹敵するヤバいビジュアルのキャラクターですが、実は脳の手術により扁桃体や海馬を取り除き、恐怖など一切の感情をなくしてしまった人物なのです。

「竜頭」=『ドラゴンヘッド』という、作品タイトルといかにも関連がありそうなキャラクターで、実際、この大災害に関する秘密を何か知っていることは間違いないのですが、とにかくコイツ、何言ってるんだか全然わかりません。

「ホ…ク…サイ…の…エ…だ…よ…あれ…と…そっ…く…り…の…み…んな…見た…東…京…で…」

「そ…れ…で…い…つ…から…か…だ…誰か…が…た…たとえ…て…りゅ…りゅうず…て…」

 すごく意味深なのに、何もわからないセリフ。はあ? なんで急に北斎? ていうか、なんで倒置法? みたいな。読者のモヤモヤ感だけが、着実に募っていきます。本作は、とにかく作品中のあらゆるところに、こんな感じの意味ありげな描写が張り巡らされているのです。

■原因は富士山の噴火なのか、そうでないのか? どっちなんだコノヤロー!

 度重なる大地震、そして津波、倒壊する建物、降り注ぐ灰と泥流、空に立ち込める黒雲、落雷、火災旋風など、災害という災害が次から次へと襲いかかってくる『ドラゴンヘッド』ですが、どうやら富士山の噴火が原因らしい、という描写がチラホラ出てきます。

 しかし、富士山自体も噴火の威力で丸ごと消し飛んでしまっており、日本列島の半分近くが海に沈み、壊滅状態……などなど、明らかに富士山の噴火だけが原因ではないレベルの大災害で、核兵器の使用か、はたまた巨大隕石の影響なのか、もしくはそれ以外の人為的な何かが原因なのか、といろいろなことを想像させます。「放射性物質マーク」「葛飾北斎の絵」「木花咲耶姫命」「SSRI-EX」みたいな意味深なキーワードの伏線がたくさん出てくるのですが、まともな説明は一切なし。やはり徹底的に核心には触れてくれない作品です。

 

■結局、何が言いたかったのか?

 本作品はリアルタイムでは途中から隔週連載になったり休載が多かったこともあり、なかなかストーリーを追うことができず、単行本で初めてラストを知った人も多いのではないかと思います。実際、僕もその一人です。終始ハラハラドキドキで、あっという間に読み進められる作品なのですが、全10巻のうち9巻まで読んで、実はなんにも謎が判明していないことに気づき、読んでいるこっちが焦り始めます。そういう意味でも、ホラーです。

「あと残り1巻で、これどうやって収拾つけるの?」と思っていたら、9巻の半分ぐらいを過ぎてから、たたみ込むような説明セリフで文字数が激増。あれよあれよという間にラストシーンへ、えーこういうラストなの! なんかわかったような、わかんないような……こんなんアリ!? という感じの終わり方をします。

 ドラゴンヘッドとは結局なんだったのか……に関する考察はネットでも諸説あり、筋の通った考察も多数出ておりますが、本当の答えは望月先生のみぞ知るといったところでしょうか。

 人間の心に宿る「恐怖」という感情の深層に迫る大傑作なのか、単にオチを放り出しただけの問題作なのか、賛否両論の『ドラゴンヘッド』ですが、伏線を回収しようが回収しまいが、面白いものは面白いということを証明した作品でもあります。世の中にはマンガがあふれてるから、こういうマンガがひとつぐらいあってもいいかもしれませんね。

(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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現代の男は宮本成分が足りない! サラリーマンのバイブル『宮本から君へ』で仕事と恋愛を学ぶ!!

 今日もお仕事ご苦労さまです!! 日刊サイゾー読者の皆様の中には、ビジネスマンの方も多数いらっしゃると推察されます。近年のデキるビジネスマンと言えば、スマホ片手にノートPCを携え、スマートに仕事をこなすITサラリーマンのイメージですよね。しかし、スマートなだけがビジネスじゃありません。今時のビジネスマンがもう一皮むけるために、ぜひ読んでもらいたい作品があります。この4月からテレビ東京でドラマ化もされた『宮本から君へ』というマンガです。

 バブル時代の浮かれきった風潮に、冷水を浴びせるような衝撃的なシーンで、当時の読者をドン引きさせた悪名高い作品である一方、後年はサラリーマンのバイブルとして評価されたマンガでもあります。今回は読む人によって評価が真っ二つに割れてしまう伝説のマンガ、『宮本から君へ』で、現代のビジネスマンが知らない、仕事と恋の成功の秘訣を学んでみたいと思います。

 主人公・宮本浩は、マルキタという文具メーカーの新人営業マン。営業成績は決していい方とはいえず、取引先との人間関係もうまくいかず、同僚たちと居酒屋で愚痴を言い合う日々。スマートじゃないし、非モテだし、出世とも無縁で、おまけに自己中で頑固という、島耕作の対局のような生き様のサラリーマンです。

 そんな宮本は、通勤電車でいつも見かけるトヨサン自動車のOL・甲田美沙子にひと目惚れしてしまいます。それからというもの、毎日同僚に恋の相談してはイジイジしていて、仕事もままならない状況でしたが、ついに勇気を出して声をかけ、それがキッカケで次第に美沙子と親密な中に……そんな出だしのストーリー。ずいぶんとヌルい展開で、なんてことのない普通のダメサラリーマンマンガじゃないか……という印象を持ってしまうかもしれません。しかし、この前半で読むのをやめてしまうと、この後に待っている熱い超展開を見逃してしまうことになります。

 というわけで、『宮本から君へ』の何がスゴいのか? その名シーン・衝撃シーンをご紹介していきましょう。

 

■女に振られてパンツ一丁で極寒の海に入水、そして絶叫

 

 ひと目惚れした甲田美沙子との距離が次第に縮まったある日、会社をサボって2人で海を見に行くという、もうこれ完全に付き合えるだろという雰囲気のデート。美沙子の肩を抱き寄せて、ついに告白するぞ……というその瞬間、美沙子は付き合っていた男に捨てられたばかりだという告白をし始めます。なんでそのタイミングで! ワザとか? ワザとなのか?

 美沙子に男がいたとは知らず、告白する気マンマンだった宮本は、不意をつかれて気が動転。突然服を脱ぎ出してパンツ一丁になり、極寒の海の中に入って波に打たれながら絶叫を始めます。

「甲田美沙子が普通のやつなんかに捨てられちゃだめだろ!!」

「こういう時!! 側にいて!! 優しくするのが俺は!! 許せないから」

 傍から見るとマジ異常行動。彼氏にフラれたって言ってるんだから、別に告白してもいいと思うんですが、そこは男としてのプライドが許さない宮本。わかる、それはわかるが、突然パンツ一丁になるのは、よくわかりません。しかし、この後ぐらいから宮本は急激にモテはじめます。本当の愛には狂気が宿るもの……時には行動が異常なぐらいのほうが逆にモテる、そういうことじゃないでしょうか?(異論は認めます)

 

■謝っているはずなのに、いつのまにか相手を威嚇している攻撃的土下座

 

 宮本が働いている文具業界は、新規取引先には仲卸業者を仲介してクライアントに納品するため、仲卸業者には頭が上がりません。しかし、その仲卸の担当者・島貫部長がスゲー嫌なヤツなのです。常に全力で常に真っ直ぐな男・宮本は、露骨に賄賂を要求してくる島貫部長の要求を頑として呑まず、正攻法で営業をしてくるため、徹底的に嫌われます。

 自分の提案内容をなんとかクライアントにプレゼンしたい宮本、しかし島貫部長が見積書を書いてくれない限り、プレゼンができない……嫌がらせで見積書を書いてくれない島貫部長に対して取った、宮本の行動は……なんのひねりもない怒涛の土下座攻撃。

 オフィス街の路上のアスファルトに頭を擦り付けた土下座スタイルで、逃げようとする綿貫部長の行く手を阻みます。避けようとすると、四つん這いのまま高速移動して、再び行く手を塞ぎ土下座。最終的には道路のど真ん中で土下座をして渋滞まで引き起こし周囲の大注目を浴び、ついに島貫部長が根負けするのです。

 どうせ土下座するなら相手が嫌がる「攻めの土下座」をするべし、そんなビジネス土下座道を宮本から学ばされるシーンです。(周囲はすごい迷惑ですが)

 

■付き合う女をイイ女にしてしまう究極能力

 

 甲田美沙子にフラれた後、職場の先輩・神保の紹介で出会った年上の女、中野靖子は宮本にとって人生を左右する重要なパートナーになります。

 靖子の初登場シーンは、どう考えても二軍以下のルックスで、ツリ目のおせっかいババア。性格は気が強くてかわいげがないサバサバ系。いくらなんでも、これはヒロインにはなりえない、ただの脇役だろう、という存在でした。しかし、登場シーンを重ねるごとに、靖子のババ臭さが少しずつ減衰されていき、魅力的になっていくのです。しかも、ちょっと見ただけでは変化がわからないところがポイント。ほんの少しずつジワジワとイイ女になっていき、気がついたら作品中で最もカワイイ女に変貌を遂げていました。

 付き合う女をいつの間にか美人にしてしまう、この宮本の持つ謎のフェロモンこそ、最高の男である証明ではないでしょうか。

■サラリーマンにあるまじき異常なケンカっ早さ

 

 宮本は、新人営業マンでありながら、まっとうな社会人とは思えないほどのケンカっ早さで、そんじょそこらの任侠マンガのヤクザよりも、よっぽどキレやすい性格かもしれません。

 ライバルの文具メーカー・コクヨンの営業マン、益戸の挑発に乗って、客先で取っ組み合いになったり、カラオケスナックで酔った勢いでボクシング経験者と殴り合ったり、しかもケンカが強いかというと、別にそうでもなく、ほぼ全敗。作品中盤以降は、スーツ姿なのに頭に包帯を巻いていたり、腕にギプスをはめていたり、前歯が折れていたり、いつも満身創痍の状態で、どう考えても堅気のサラリーマンとは思えません。

 しかし、そのケンカっ早さにより仕事も恋愛も結果として好転してしまうのが宮本のすごいところです。もしかしたらサラリーマンが不利な状況を打開ために、時には後先考えずケンカをしてみるというのも一つの手なのかもしれません。(逆に会社クビになるかもしれませんが)

 

■作品後半の地獄のような鬱展開にドン引きする読者が続出

 

 本作品最大の問題シーンは、作品後半、宮本と靖子がラブラブで幸せモード全開、おまけに仕事も絶好調、という状況の中、突如として靖子が屈強なラガーマンにレイプされてしまうシーンがやってくるところです。しかも恋人であるはずの宮本が酔いつぶれているその横でのレイプ、という二重の意味での衝撃。

 以前ご紹介した『愛しのアイリーン』同様、幸せの絶頂から不幸のドン底に叩き落して読者をビビらせる、新井英樹イズムの真骨頂とも呼べるシーンですが、連載当時はあまりに凄惨なこのレイプシーンが原因で、連載終了が早まったともいわれています。

 本作品では何かとこのシーンが取りざたされがちなのですが、その後に宮本が、肉体的にも人格的にも別キャラクターとして進化し、壮絶な闘いの末に因縁のラガーマンに復讐を果たすシーンまでをセットで読むことで、作品の印象がだいぶ変わってきます。

 

■相手のことを一切考えない、超自己中なプロポーズ

 

 レイプシーン以降、誰の子かわからない子どもを身ごもった靖子。宮本は、誰の子であっても受け入れると、靖子へプロポーズするつもりでした。一方で靖子は誰とも結婚せず、シングルマザーとして生きることを決意していました。

 ラガーマンへの復讐を果たした後、それまでの人格とは全く変わって豪快なキャラになった宮本は、”俺が幸せになれば結婚相手も幸せになる理論”で、恐ろしいほど自己中なプロポーズを繰り返します。

「いいじゃねえか結婚、してちょうだいよ靖子ちゃん、チマチマ考えてねえでさっさと返事しやがれこのクソったれ」

 なんという斬新なプロポーズ。このセリフでどうやったら相手がOKすると思えるんでしょうか。しかし、その後の自己中プロポーズは、もっとすさまじいものでした。

「あきれようが嫌おうが、そんなこと屁でもねえ、お前がどんなに思おうと知ったこっちゃねえ、でも俺がこの先一生ずっと死ぬまで側にいてやる」

「子供は俺の子、俺こそがすげえ父親ら、大盤ぶるまい、お前らまとめて幸せにしてやる、俺の人生バラ色だからよお」

 あくまで根拠のない自信で押し切る宮本。そして、ついに受け入れる靖子。本作品で最も泣けるシーンですが、やはりここまで自信たっぷりに押されると、女性も思わずOKしちゃうものなんでしょうか。宮本流、最高にロックなプロポーズ。結婚する予定のある方はぜひ使ってください!(無責任)

 というわけで、賛否両論ありまくり、破天荒すぎるサラリーマンを描いたマンガ『宮本から君へ』をご紹介してみました。結局のところ、本作品のテーマはほぼ仕事と恋愛のみ。今回ご紹介したシーンにかかわらず、ほぼすべてのシーンで常に全力、常に熱くて、常に自己中という宮本の姿を見ると、良くも悪くも、心の中に強烈な何かが残ることは間違いありません。サラリーマンなら一度は読んでみて損はない作品です。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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女子力のない男子は読んではいけない!? 未完の大ヒット少女マンガ『NANA』

 皆さんにとって、名前が「ナナ」の芸能人といったら誰でしょうか? 小松菜奈、水樹奈々、片瀬那奈、榮倉奈々、鈴木奈々、夏目ナナ、木の実ナナなどなど……いずれ劣らぬ大物ナナばかりですが(最後は別格)、今回ご紹介したいのは、ある意味日本一有名な「ナナ」、大ヒット少女マンガの『NANA』(集英社)であります。

 少女マンガの単行本発行部数では歴代3位、アニメ化、ゲーム化、映画化もされました。映画でヒロインを演じた中島美嘉や宮崎あおいは、この映画がきっかけでブレイク。作品の影響でルームシェアをする女子が続出……などなど、社会現象にまでなったカリスマ少女マンガ『NANA』ですが、それ故に男子にはとっつきづらく、敬遠したくなるような、少女マンガ色が特に濃い作品でもあります。今回はそんな『NANA』を、名前は知っているけど読んだことがない男子向けにご紹介したいと思います。

『NANA』は集英社の少女マンガ雑誌「Cookie」で2000年から連載中のマンガです。え? 連載中だったの!? ……そうなんです、実は『NANA』はまだ完結していません。作者・矢沢あい先生の急病により09年から休載となっており、単行本の最新刊となる21巻も同年に発売されたままです。当時『NANA』を愛読していた少女たちは、かれこれ9年間も22巻の発売を待ち続けているわけですが、いまだに発売のめどは立っていません。

 そんな『NANA』のストーリーをざっくり紹介すると、恋に生きる女・小松奈々と、男勝りなヴォーカリスト・大崎ナナという性格もルックスも真逆の2人のNANAの友情を中心に、「ブラスト」と「トラネス」という人気バンドのメンバー&関係者の泥沼な恋愛模様を描いた作品です。

 これだけだと、あまりに紹介が薄っぺらすぎて、『NANA』の魅力が全く伝わらないと思うので、多くの女子たちを虜にしてきた『NANA』のスゴい部分を詳しくご紹介していきたいと思います。

 

■斬新なプロローグ

 

『NANA』は単行本第1巻をまるまるプロローグに使う大胆な構成となっており、これから起こる物語の壮大さを予感させます。1巻の前半が小松奈々、後半は大崎ナナ、2人がそれぞれ上京することになるまでのエピソードが別々に描かれており、2巻になって初めて2人のNANAが出会います。

 奈々とナナは、たまたま東京行きの新幹線で隣同士となり、年齢も名前も同じということで意気投合。東京駅で連絡先も聞かずにそのまま別れたはずだったのに、部屋探しをしている時に再会。たまたま同じ物件を内覧に来ていたのです。そして運命の再会を果たした2人は、そのままルームシェアをすることに。しかも、その部屋番号は偶然にも707号室! ベタなぐらいにドラマティックな奇跡のオンパレードです。

 

■小松奈々の尻軽さがスゴい

 

 Wヒロインの片割れ、小松奈々は、常に男と付き合っていないと生きていけない恋愛依存体質。サラリーマンと不倫していたかと思えば、上京してからも立て続けに彼氏を3回乗り換えるなど、とにかくイケメンに目がありません。

 しかし作品の「陽」の部分を支えるムードメーカーでもあります。とにかく明るくてポジティブ。彼氏に二股かけられても、前彼との間に子どもができたのが発覚して彼氏と修羅場になっても、ポジティブポジティブ! 客観的に見て、かなりの地雷女なのですが、彼女こそが作品を盛り上げる最重要人物と言えます。

 ちなみに作品中での奈々のあだ名は「ハチ」です。大崎ナナと区別するために「ハチ(8)」と呼ばれるようになるのですが、「ハチ」が転じて「ハチ子」「ハチ公」そして「犬」などと呼ばれるようになったりして、なかなか酷い主役の扱いです。でもポジティブ!

■大崎ナナの心の闇がスゴい

 

 もう一人のヒロイン、大崎ナナは言うなれば本作品の「陰」の存在。パンクロックバンド「ブラックストーンズ(通称:ブラスト)」のカリスマ女性ヴォーカリストとして、常にパンキッシュでクールなファッションに身を包んでおり、男勝りな性格で、いわゆるサバサバ系なのですが、幼少期に母親に捨てられたことや、学生時代は友達が全然いなかったことなど、複雑で謎の多い生い立ちが、常に暗い影を落としています。

 男関係では、もともとブラストのメンバーで、メジャーバンド「トラップネスト(通称:トラネス)」に移籍した本城蓮(レン)と恋人関係にあります。レンに一途なナナは、レンの首に南京錠のネックレスをつけ、その鍵はナナが持っているという「シド&ナンシー」を彷彿とさせるエピソードがあったり、蓮(レン)の名前からとった蓮(はす)のタトゥーを腕に入れていたりなど、浮気でもしようもんなら後ろから刺しそうな勢いです。

 ナナは作品中盤までは、とにかくクールでカッコいいキャラクターなのですが、親友だった奈々がトラネスのリーダー・タクミとデキちゃった婚をして距離ができたことや、レンとの関係性が悪くなってきたことで、次第に情緒不安定な鬱っぽいキャラクターになっていきます。

 

■サークルクラッシャーの歌姫・レイラ

 

 天使のような歌声を持つハーフの歌姫、「トラネス」のヴォーカリスト・レイラは、作品中で圧倒的な歌唱力を持つ聖なる存在として描かれていますが、芸能人として常に周りから注目されているが故に、自由に恋愛ができず欲求不満に陥ります。結果として、ナナの恋人(のちに夫)・レン、奈々の夫・タクミ、ブラストの未成年ベーシスト・シンなどの身近な男子たちにちょっかいを出し、いろんなトラブルを巻き起こします。

 特に、作品後半ではレイラに関わった男たちは、逮捕されて留置所に行ったり、写真週刊誌にスキャンダルを報じられたり、交通事故に遭ったり……と、ことごとく不幸になるという、疫病神的存在になります。『NANA』の地雷女といえば小松奈々だったはずなのですが、それ以上の逸材が現れたのです。これこそまさにサークルクラッシャー。

 

■イケメンだからクズでも許されるバンドマンたち

 

 本作品に出てくる男性キャラクターは、ナナの所属する「ブラスト」やレンの所属する「トラネス」のメンバーが中心で、当然のことながら9割方イケメンです。

 ブラストのリーダー「ヤス」は弁護士の資格も持っており、困っている人がいたら放っておけない心優しきナイスガイ。スキンヘッドにサングラスで見た目はかなりイカツいけど、頼れるいいやつです。

 ブラストのギター「ノブ」は実家が旅館をやっているお坊ちゃま育ち。学生時代に孤立していたナナをバンドに誘ったのがノブでした。とても優しい性格の持ち主で、奈々に振られた後は、未練タラタラでAV女優と付き合っているナイスガイです。

 ブラストのベース「シン」は未成年でありながら、お金を持ってるお姉さんたちにウリをして、生計を立てている小悪魔的イケメンですが、どこか憎めない、いいやつです。

 トラネスのリーダーで奈々とデキ婚した「タクミ」は、女癖が悪く、暴君とあだ名されるほど暴力的な部分もありますが、機嫌のいい時はとても優しい。トラネスをメジャーバンドに押し上げるほどの才能を持つナイスガイです。

 トラネスのギター「レン」は、ナナと出会う前は女を取っ替え引っかえしていましたが、ナナに会ってからは、すっかり一途な男です。ヤク中だけどナイスガイです(ダメじゃん)。

 そんな感じで『NANA』の世界では男たちはみんな女子に優しい王子様。ちょっとばっかりクズもいるけど、女子を虜にする魅力に溢れているのです。

 

■不穏なポエムが心をかき乱す

 

『NANA』は、さすが大ヒット少女マンガだけあって、不倫、妊娠、リスカ、ドラッグ、恋人の死などなど……少女マンガで盛り上がりがちなドロッドロ要素が余すところなくストーリーに盛り込まれています。

 さらに、作品をドラマティックに盛り上げているのが、毎回ストーリーの冒頭に挿入される不吉な将来を暗示させるモノローグ。

あれだけいつも一緒にいたのに

少しもナナの事

分かってなんかいなかった

傷つけている事にさえ

気づかなかった

あたしを許して

ねえ ナナ

今も恋する乙女達は

ナナの歌を聴きながら

ナナとレンの物語を

語り継いでいるよ

だけど あたしが見たかったのは

あんな悲しい結末じゃなかったのに

……などなど、ええっ、将来いったい何があるのー!? ってなりますよね。どう考えてもバッドエンドに向かっている感じが不穏過ぎます。しかもこれだけ将来に向けて伏線を張っていながら、連載が止まっていて結末がわからないもどかしさ。

 というわけで、モテ系バンドでチャラついた美男美女がキャッキャウフフするラブコメだと思って読むと、実は重~い裏テーマが潜んでおり、大ヤケドしかねない少女マンガ『NANA』をご紹介してみました。男子も、己の中に持つ女子力を全力で開放して読まないとメンタルがやられてしまうかもしれません。そのぐらいパワーをもった作品といえるでしょう。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

女子力のない男子は読んではいけない!? 未完の大ヒット少女マンガ『NANA』

 皆さんにとって、名前が「ナナ」の芸能人といったら誰でしょうか? 小松菜奈、水樹奈々、片瀬那奈、榮倉奈々、鈴木奈々、夏目ナナ、木の実ナナなどなど……いずれ劣らぬ大物ナナばかりですが(最後は別格)、今回ご紹介したいのは、ある意味日本一有名な「ナナ」、大ヒット少女マンガの『NANA』(集英社)であります。

 少女マンガの単行本発行部数では歴代3位、アニメ化、ゲーム化、映画化もされました。映画でヒロインを演じた中島美嘉や宮崎あおいは、この映画がきっかけでブレイク。作品の影響でルームシェアをする女子が続出……などなど、社会現象にまでなったカリスマ少女マンガ『NANA』ですが、それ故に男子にはとっつきづらく、敬遠したくなるような、少女マンガ色が特に濃い作品でもあります。今回はそんな『NANA』を、名前は知っているけど読んだことがない男子向けにご紹介したいと思います。

『NANA』は集英社の少女マンガ雑誌「Cookie」で2000年から連載中のマンガです。え? 連載中だったの!? ……そうなんです、実は『NANA』はまだ完結していません。作者・矢沢あい先生の急病により09年から休載となっており、単行本の最新刊となる21巻も同年に発売されたままです。当時『NANA』を愛読していた少女たちは、かれこれ9年間も22巻の発売を待ち続けているわけですが、いまだに発売のめどは立っていません。

 そんな『NANA』のストーリーをざっくり紹介すると、恋に生きる女・小松奈々と、男勝りなヴォーカリスト・大崎ナナという性格もルックスも真逆の2人のNANAの友情を中心に、「ブラスト」と「トラネス」という人気バンドのメンバー&関係者の泥沼な恋愛模様を描いた作品です。

 これだけだと、あまりに紹介が薄っぺらすぎて、『NANA』の魅力が全く伝わらないと思うので、多くの女子たちを虜にしてきた『NANA』のスゴい部分を詳しくご紹介していきたいと思います。

 

■斬新なプロローグ

 

『NANA』は単行本第1巻をまるまるプロローグに使う大胆な構成となっており、これから起こる物語の壮大さを予感させます。1巻の前半が小松奈々、後半は大崎ナナ、2人がそれぞれ上京することになるまでのエピソードが別々に描かれており、2巻になって初めて2人のNANAが出会います。

 奈々とナナは、たまたま東京行きの新幹線で隣同士となり、年齢も名前も同じということで意気投合。東京駅で連絡先も聞かずにそのまま別れたはずだったのに、部屋探しをしている時に再会。たまたま同じ物件を内覧に来ていたのです。そして運命の再会を果たした2人は、そのままルームシェアをすることに。しかも、その部屋番号は偶然にも707号室! ベタなぐらいにドラマティックな奇跡のオンパレードです。

 

■小松奈々の尻軽さがスゴい

 

 Wヒロインの片割れ、小松奈々は、常に男と付き合っていないと生きていけない恋愛依存体質。サラリーマンと不倫していたかと思えば、上京してからも立て続けに彼氏を3回乗り換えるなど、とにかくイケメンに目がありません。

 しかし作品の「陽」の部分を支えるムードメーカーでもあります。とにかく明るくてポジティブ。彼氏に二股かけられても、前彼との間に子どもができたのが発覚して彼氏と修羅場になっても、ポジティブポジティブ! 客観的に見て、かなりの地雷女なのですが、彼女こそが作品を盛り上げる最重要人物と言えます。

 ちなみに作品中での奈々のあだ名は「ハチ」です。大崎ナナと区別するために「ハチ(8)」と呼ばれるようになるのですが、「ハチ」が転じて「ハチ子」「ハチ公」そして「犬」などと呼ばれるようになったりして、なかなか酷い主役の扱いです。でもポジティブ!

■大崎ナナの心の闇がスゴい

 

 もう一人のヒロイン、大崎ナナは言うなれば本作品の「陰」の存在。パンクロックバンド「ブラックストーンズ(通称:ブラスト)」のカリスマ女性ヴォーカリストとして、常にパンキッシュでクールなファッションに身を包んでおり、男勝りな性格で、いわゆるサバサバ系なのですが、幼少期に母親に捨てられたことや、学生時代は友達が全然いなかったことなど、複雑で謎の多い生い立ちが、常に暗い影を落としています。

 男関係では、もともとブラストのメンバーで、メジャーバンド「トラップネスト(通称:トラネス)」に移籍した本城蓮(レン)と恋人関係にあります。レンに一途なナナは、レンの首に南京錠のネックレスをつけ、その鍵はナナが持っているという「シド&ナンシー」を彷彿とさせるエピソードがあったり、蓮(レン)の名前からとった蓮(はす)のタトゥーを腕に入れていたりなど、浮気でもしようもんなら後ろから刺しそうな勢いです。

 ナナは作品中盤までは、とにかくクールでカッコいいキャラクターなのですが、親友だった奈々がトラネスのリーダー・タクミとデキちゃった婚をして距離ができたことや、レンとの関係性が悪くなってきたことで、次第に情緒不安定な鬱っぽいキャラクターになっていきます。

 

■サークルクラッシャーの歌姫・レイラ

 

 天使のような歌声を持つハーフの歌姫、「トラネス」のヴォーカリスト・レイラは、作品中で圧倒的な歌唱力を持つ聖なる存在として描かれていますが、芸能人として常に周りから注目されているが故に、自由に恋愛ができず欲求不満に陥ります。結果として、ナナの恋人(のちに夫)・レン、奈々の夫・タクミ、ブラストの未成年ベーシスト・シンなどの身近な男子たちにちょっかいを出し、いろんなトラブルを巻き起こします。

 特に、作品後半ではレイラに関わった男たちは、逮捕されて留置所に行ったり、写真週刊誌にスキャンダルを報じられたり、交通事故に遭ったり……と、ことごとく不幸になるという、疫病神的存在になります。『NANA』の地雷女といえば小松奈々だったはずなのですが、それ以上の逸材が現れたのです。これこそまさにサークルクラッシャー。

 

■イケメンだからクズでも許されるバンドマンたち

 

 本作品に出てくる男性キャラクターは、ナナの所属する「ブラスト」やレンの所属する「トラネス」のメンバーが中心で、当然のことながら9割方イケメンです。

 ブラストのリーダー「ヤス」は弁護士の資格も持っており、困っている人がいたら放っておけない心優しきナイスガイ。スキンヘッドにサングラスで見た目はかなりイカツいけど、頼れるいいやつです。

 ブラストのギター「ノブ」は実家が旅館をやっているお坊ちゃま育ち。学生時代に孤立していたナナをバンドに誘ったのがノブでした。とても優しい性格の持ち主で、奈々に振られた後は、未練タラタラでAV女優と付き合っているナイスガイです。

 ブラストのベース「シン」は未成年でありながら、お金を持ってるお姉さんたちにウリをして、生計を立てている小悪魔的イケメンですが、どこか憎めない、いいやつです。

 トラネスのリーダーで奈々とデキ婚した「タクミ」は、女癖が悪く、暴君とあだ名されるほど暴力的な部分もありますが、機嫌のいい時はとても優しい。トラネスをメジャーバンドに押し上げるほどの才能を持つナイスガイです。

 トラネスのギター「レン」は、ナナと出会う前は女を取っ替え引っかえしていましたが、ナナに会ってからは、すっかり一途な男です。ヤク中だけどナイスガイです(ダメじゃん)。

 そんな感じで『NANA』の世界では男たちはみんな女子に優しい王子様。ちょっとばっかりクズもいるけど、女子を虜にする魅力に溢れているのです。

 

■不穏なポエムが心をかき乱す

 

『NANA』は、さすが大ヒット少女マンガだけあって、不倫、妊娠、リスカ、ドラッグ、恋人の死などなど……少女マンガで盛り上がりがちなドロッドロ要素が余すところなくストーリーに盛り込まれています。

 さらに、作品をドラマティックに盛り上げているのが、毎回ストーリーの冒頭に挿入される不吉な将来を暗示させるモノローグ。

あれだけいつも一緒にいたのに

少しもナナの事

分かってなんかいなかった

傷つけている事にさえ

気づかなかった

あたしを許して

ねえ ナナ

今も恋する乙女達は

ナナの歌を聴きながら

ナナとレンの物語を

語り継いでいるよ

だけど あたしが見たかったのは

あんな悲しい結末じゃなかったのに

……などなど、ええっ、将来いったい何があるのー!? ってなりますよね。どう考えてもバッドエンドに向かっている感じが不穏過ぎます。しかもこれだけ将来に向けて伏線を張っていながら、連載が止まっていて結末がわからないもどかしさ。

 というわけで、モテ系バンドでチャラついた美男美女がキャッキャウフフするラブコメだと思って読むと、実は重~い裏テーマが潜んでおり、大ヤケドしかねない少女マンガ『NANA』をご紹介してみました。男子も、己の中に持つ女子力を全力で開放して読まないとメンタルがやられてしまうかもしれません。そのぐらいパワーをもった作品といえるでしょう。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん <http://ablackleaf.com/>)

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