消耗品ではない、アニメーションの豊かな可能性 新作『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

  異例のロングランヒットを記録し、現在も地方での上映が続いている片渕須直監督の劇場アニメ『この世界の片隅に』の公開スタートから3年。2時間9分あった上映時間が2時間48分に増え、再構成されたのが『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』だ。新シーンが加わったことで、すでに『この世界の片隅に』を観ている人も新しい解釈が楽しめる、新作映画となっている。上映時間は長くなったが、決して冗漫さは感じさせない。

 広島市出身の漫画家・こうの史代が2007年から09年にかけて「漫画アクション」(双葉社)で連載した『この世界の片隅に』は、広島市の海苔農家で育った平凡な女の子・すずが軍港として栄えた呉市へと嫁入りし、戦争のさなかに自分の居場所を築いていく過程を描いたもの。片渕監督は時代考証に徹底的にこだわり、戦時下におけるリアルな日常アニメという特異なジャンルに仕立ててみせた。高畑勲監督の薫陶を受けた片渕監督ならではの労作だった。

 情報量の多い原作コミックをぎゅっと凝縮したようだったオリジナル版『この世界の片隅に』だったが、カット数が増えたことで、絵を描くこと以外は何の取り柄もない新妻・すず(声:のん)の慎ましい日常生活が、より穏やかでユーモラスなものとなった。原作のダイジェストではなく、劇場アニメとしての独自のリズム、独特のコクのようなものが生じているように感じられる。

 オリジナル版とのいちばん大きな違いは、白木リン(声:岩井七世)をめぐるエピソードが大幅に増えた点だ。オリジナル版では割愛されていたが、遊郭に勤めるリンとすずの夫・周作(声:細谷佳正)との間には、かつて男女の関係があったことが明かされる。すずとリン、すずと周作との関係性は、オリジナル版に比べて大きく変わることになる。周作はリンとの結婚を考えていたことをすずは知ることになり、自分はリンの代用品なのかと周作への怒りの感情をたぎらせる。おっとりした印象が強かったすずだが、内面では激しい感情の起伏があったことが分かる。

 周作をめぐって三角関係にあるものの、すずは幼年期を一緒に過ごしたような懐かしさを感じさせるリンのことは憎めずにいる。嫁ぎ先での自分の居場所、役割を探し続けるすずに対し、リンは「子どもでも、売られてもそれなりに生きとる。この世界に居場所はそうそうのうなりゃせんよ」という言葉を投げ掛ける。貧しい家に生まれ、体ひとつで生き延びてきたリンだからこその台詞だ。すずとリンだけでなく、リンと同じ遊郭で働くテルちゃん(声:花澤香菜)とも、すずは束の間のガールズトークを咲かせることになる。

 ガールズトークのシーンは、どれも秀逸だ。リンやテルちゃんとのガールズトークが加わったことで、すでに描かれていた周作の母・サン(声:新谷真弓)、周作の姉・径子(声:尾身美詞)、すずの妹・すみ(声:潘めぐみ)たちとのガールズトークもより際立つものとなった。戦時下の女性たちは不自由を強いられていたが、その分だけ彼女たちは土地にしっかりと根を下ろして生きようとする。女たちのたくましさが、とても愛おしい。

 だが、すずがようやく見つけた居場所は、米軍が投下した爆弾によって、簡単に吹き飛ばされてしまう。すずが最初に仲良くなった径子の娘・晴美(声:稲葉菜月)は、すずの右手と一緒にこの世界から消えてしまう。「この世界に居場所はそうそうのうなりゃせんよ」と話していたリンさえ、花見で出会ったのが最期となった。そして、8月6日。すずの故郷・広島市に新型爆弾が投下される。戦争は、爆弾は無慈悲に、すずが愛したものたちを奪い去ってしまう。

 物語の終盤、右手を失い、得意の絵を描くことも、家事を果たすこともできなくなったすずの頭を、“白い手”が空中からにゅっと現れて、優しくなでる。原作コミックやオリジナル版にも登場した“白い手”は、どうやらすずが空襲で失った右手らしい。でも、オリジナル版の劇場公開、テレビ放送、そして『さらにいくつもの片隅に』と何度も観ているうちに、この“白い手”はもっと深い意味を持つもののように思えてきた。宙に浮かんだ“白い手”は、すずが右手を失わずに済んだ、もうひとつの世界を示唆するものではないだろうか。

 すずが右手を失っていなければ、幼い晴美も無事に生きていたかもしれない。だが、逆に晴美は生き残り、すずが吹き飛んでいた可能性もある。どちらが幸か不幸か、秤で比べることはできない。結局のところ、人間はいくつかの偶然が重なって見つけた居場所で生きていくことしかできない。タイトルバックで描かれた白いタンポポの綿毛のように。

 日本政府が「クールジャパン」として後押しするアニメ産業は、近年ますます華やかなものとなっている。今の日本の映画界は、アニメ作品によって支えられているといってもいいだろう。だが、どんなに企画開発やアニメーションづくりに手間暇を費やしても、劇場公開が終わり、ソフト化された後は、忘れ去られてしまう作品がほとんだ。二次元の世界にアニメーターたちが汗水流して命を吹き込んだアニメーションが、単なる消耗品となってしまっている現状がある。

 今回の『さらにいくつもの片隅に』の試みは、常に新しい情報、新しい刺激を求め続ける消費社会への、片渕監督なりの闘いのように思えてならない。すずの失った右手が、片渕監督を『さらにいくつもの片隅に』へと導いたのではないだろうか。

 この世界には、さまざまな片隅が存在し、それぞれの片隅がお互いを認め合うことで、この世界は成り立っている。そのことに気づいた瞬間、自分のいる世界はとても豊かなものになる。それぞれの世界が豊かなら、戦争をする必要もない。片渕監督の作品は、そんな当たり前のことに気づかせてくれる。

 ひとつの物語を、違った視点を交えて繰り返し味わうことで、新しい発見が生まれ、より豊かな物語へと熟成されていく。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の劇場公開は、そんな贅沢な楽しみ方を観客が体験する場となっている。

(文=長野辰次)

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』
原作/こうの史代 監督・脚本/片渕須直 音楽/コトリンゴ
声の出演/のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、花澤香菜、澁谷天外配給/東京テアトル 12月20日(金)よりテアトル新宿、渋谷ユーロスペースほか全国公開
(c)2019 こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
公式サイト<https://ikutsumono-katasumini.jp

原作&アニメ版とは別人のすずだが、これはあり!? 戦艦大和の入港に歓喜『この世界の片隅に』第2話

 こうの史代のベストセラーコミックを原作にした実写ドラマ版『この世界の片隅に』(TBS系)。第1話の25分拡大に続き、第2話も15分拡大とTBSが若手女優・松本穂香を主演に大抜擢した今回の日曜劇場に相当の力を注いでいることが分かります。戦艦大和や巡洋艦青葉も登場し、ミリタリーマニアを歓喜させた第2話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 昭和19年(1944)3月。広島市江波から呉市の北條家へ嫁入りしたすず(松本穂香)は初夜を終え、北條家の嫁としての新しい生活が始まります。婿の周作(松坂桃李)の寝顔を眺めて、にやにやしている場合ではありません。丘の上にある北條家には水道が通っておらず、朝イチで井戸の水をご近所まで汲みに行かなくてはならないのです。義母のサン(伊藤蘭)は足が不自由なため、がんばってすずが働かなくてはいけません。かまどでのご飯炊き、洗濯、掃除縫い物、また水汲み……と励みます。かっぽう着姿のすずの日常風景に、ジブリ映画を思わせる久石譲の音楽が優しく流れます。

 片渕須直監督の劇場アニメ版が上映時間126分に凝縮されていたのに対し、実写ドラマ版は日常生活の中で周作をはじめとする北條家の人々や隣組の刈谷タキ(木野花)、幸子(伊藤沙莉)親子らと交流していく姿をじっくりと描いていきます。片渕監督のアニメ版も、企画当初は原作エピソードを余すことなく活かすため、テレビシリーズ化することも検討されていたそうです。戦時下を生きるすずの何気ない日常風景を映し出すことは、『この世界の片隅に』のいちばんのキモでもあります。すず役に選ばれた松本穂香が、実写版『この世界の片隅に』の実力派アンサンブルの中に次第に溶け込んでいく過程を、時間を掛けて描いていけるのは、連続ドラマならではのメリットでしょう。

 

■幼少期の記憶を甦らせたキャラメルの味

 北條家での生活にすずがようやく慣れ始めて1カ月。周作の姉・径子(尾野真千子)が娘の晴美(稲垣来泉)の手を引いて現れます。気が強い径子は、亡くなった夫の実家との折り合いが悪く、呉で一緒に暮らすと言い出します。小姑・径子はすずがそれまで任されていた家事をすべてやることで、すずの居場所を奪おうとします。でも、のんびりしたすずは径子の悪意には気づかず、径子の「実家に帰れば」という言葉を真に受けて、「ありがとう、義姉さん」と喜んで広島に里帰りするのでした。すずのこの鈍感力は、厳しい時代を生きていく上で重要なものです。

 日々の家事と周囲への気遣いのために疲れて眠り込んでしまったすず。ふと目を覚ますと、そこは実母・キセノ(仙道敦子)たちのいる懐かしい我が家でした。呉で過ごした1カ月がまるで夢の中の出来事のように、まだ子ども気分の抜けないすずには思えます。実家に帰ってきて寝てばかりいるすずをたしなめるキセノでしたが、すずの頭に十円ハゲができていることに気づいてしまいます。のほほんとしているようで、娘もそれなりに苦労しているようです。自分の嫁入り時代を思い出し、あまりうるさくは言わないキセノでした。

 ぼーとした性格のすずは、母親似ではなく、どうも父親の十郎(ドロンズ石本)似のようです。十郎からお小遣いを手渡されたすずは、久しぶりに広島市の繁華街へと向かいます。大好きなキャラメルの甘さに悶え喜びながら、すずは太田川沿いに建つ産業奨励館を眺めるのでした。昔もここでスケッチしたっけなぁ……と幼年期のことを思い出したすずは、人さらいに拉致された際に一緒にキャラメルを食べ、人さらいから救ってくれた男の子が周作だったことに気づきます。キャラメルはすずと周作を結びつけた運命の味だったのです。いつもはマイペースなすずですが、このときばかりは涙を浮かべながら猛ダッシュで周作のいる呉へと帰還するのでした。

 すずが呉へ走って帰るエピソードは、原作にはない岡田惠和脚本のオリジナルシーンですが、第2話でいちばんの盛り上がりを見せました。はっきり言って、松本穂香演じるすずは、原作のすずとは別人です。もちろん、のんが声優として演じた劇場アニメ版のすずともまったく異なります。でも、自分が置かれた状況の中で、自分を必要としてくれる人のために一途になれる実写版すずの姿を視聴者は嫌いにはなれません。原作&劇場アニメ版をリスペクトしながらも、岡田惠和脚本は連ドラ版としての独自の世界を目指していることが伺えます。

 呉へ戻ったすずですが、径子がいる北條家にはなかなか入ることができず、海が見渡せる丘の斜面で時間を潰すのでした。職場から帰ってきた周作がすずを見つけ、2人で海と空が広がる美しいパノラマを眺めます。そのとき、巨大な軍艦が呉港に姿を現わします。呉海軍工厰で建造された世界最大の戦艦大和です。周作は海に向かって大きな声で叫びます。「おかえり~、大和! おかえり~、すずさん!!」。周作の優しさに包まれ、きっとすずの十円ハゲもそのうち治ることでしょう。

■機会あれば観ておきたい片渕監督の『マイマイ新子』

 周作とすずのラブラブな様子に続いて、第2話のエンディングは賛否両論を呼んでいる現代編に。周作とすずが夫婦愛を確かめ合った丘で、榮倉奈々と古舘佑太郎が並んで同じ景観を眺めています。榮倉演じる佳代は、無人化してしまった北條家を最近流行の古民家カフェか民宿にしたいと言い出します。思い付きで行動するタイプの佳代は、都会では自分の居場所を見つけることができずに悩んでいるようです。『この世界の片隅に』は絵を描くこと以外に何の取り柄もない平凡な女の子だったすずさんが、厳しい時代を懸命に生き、ようやく自分の居場所を手に入れる物語です。連ドラ版は現代を生きる佳代の居場所さがしの物語を、すずの成長譚と重ね合わせながら同時進行していくことになりそうです。

 73~74年前の物語ではなく、現代とリンクするドラマにしたいというTBS側の思惑は分からないではありませんが、戦時中の北條家やそのご近所、広島の街並みが大規模なオープンセットによってリアルに再現されているのに比べると、現代パートは逆に薄っぺらい印象を与えてしまうのが心配です。でも、脚本家の岡田惠和は『いま、会いにゆきます』(04)といったファンタジーものも得意としているので、片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』(09)のように過去と現代がイマジネーションの世界でシンクロするミラクルな展開が待っていることに期待しましょう。

 舞台となっている広島では初回の視聴率が20.4%だったそうですが、第2話の視聴率が気になるところです。関東地区の第2話の視聴率は10.5%(ビデオリサーチ調べ)。まだ実績のない新人女優の初主演ドラマとしては、前週の10.9%に続いての2ケタキープは及第点を上げていいでしょう。第1~2話は顔見せだけだった遊女・白木リン(二階堂ふみ)と周作の関係が次週では明かされ、また劇場アニメ版でもざわめきが起きた巡洋艦青葉に乗る水原哲(村上虹郎)が入湯上陸で北條家を訪ねるエピソードも描かれるようです。大人の色恋沙汰に赤面するすずさんを、しっかりと見守りたいと思います。
(文=長野辰次)

賛否呼ぶ、原作にも劇場版にもない現代パート!! 柿の木問答に興奮『この世界の片隅に』第1話

 こうの史代のベストセラーコミックを実写ドラマ化した日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS系)が7月15日よりスタートしました。のんが声優として主演した劇場アニメ『この世界の片隅に』(2016)が単館系公開ながら興収27億円突破の異例のロングランヒットを記録しているだけに、話題性は充分。でもその分、実写版に抜擢されたキャスト陣に課せられたハードルの高さは相当なものがあります。3,000人を越える応募者の中からオーディションで選ばれた松本穂香演じる主人公すずは、果たして視聴者に受け入れられるのでしょうか? さっそく第1話を振り返ってみましょう。

 脚本の岡田惠和は、NHK朝ドラ『ちゅらさん』や『ひよっこ』などのハートウォーミングなヒロインもので知られています。また、主演の松本穂香は『あまちゃん』を見て女優を目指すようになり、『ひよっこ』のメガネ女子・澄子役で注目されました。共演にも『わろてんか』の松坂桃李、『カーネーション』の尾野真千子、『あまちゃん』『ひよっこ』の宮本信子……と朝ドラ経験者がそろっています。昭和初期の広島を舞台にした連ドラ版『この世界の片隅に』は日曜の夜9時ながら、朝ドラムードが濃厚に漂います。

 冒頭、榮倉奈々と古舘佑太郎(古舘伊知郎の息子)が現代の広島に現れ、原作&劇場アニメ版のファンを驚かせます。劇場アニメ版が原作原理主義だったのに対し、連ドラ版は思い切ったアレンジを加えますよというTBSサイドからの宣言のようです。この現代編については後述することにして、とりあえず本編に入っていきたいと思います。

 

■際立った個性のない松本穂香が見せたものとは……?

 まずはすずの少女時代のエピソードから。昭和9年(1934)、浦野家は広島市の海沿いの町・江波で海苔づくりをしており、すず(幼少期:新井美羽)は市の中心街にある得意先に海苔を届けに行くことになります。海苔は無事に届けたものの、絵を描くことが大好きなすずは広島市のランドマークである「産業奨励館」(後の原爆ドーム)の写生に夢中になり、人さらいに拉致されてしまいます。幼女にとっての超恐怖体験ですが、このときすずは運命の出逢いを果たします。もう一人、男の子(浅川大治)も拉致されており、すずは海苔を届けた駄賃で買ったキャラメルを男の子と分け合って味わうのでした。すずは、かなり呑気な女の子です。キャラメルに勇気づけられた男の子は人さらいのの隙を突いて、すずの手を引いて脱出に成功します。この男の子が、後にすずの婿になる周作です。キャラメルはすずと周作にとっての思い出の味として、今後も重要なツールとして使われることになりそうです。ここらへんの小道具の使い方は、岡田惠和の脚本と土井裕泰チーフディレクター(広島出身)の演出はなかなかです。

 その後、祖母・イト(宮本信子)の家で座敷わらしにスイカをあげたり、兄を海難事故で亡くした幼なじみの水原哲(村上虹郎)の代わりに海辺の景色を絵にしたりと、周囲の人たちをほんわかさせるすずの温かい人柄が描かれていきます。そして太平洋戦争真っただ中の昭和18年(1943)、すずは18歳に。祖母の家で海苔づくりを手伝っていたすずに、縁談話が舞い込んできます。すずが慌てて自宅に戻ると、呉から来た北條周作(松坂桃李)とその父(田口トモロヲ)がキャラメルをお土産にすずの帰宅を待っていました。すずは周作のことを覚えておらず、見ず知らずの男性から結婚を申し込まれたことに戸惑い、周作の前に顔を出せず仕舞いでした。でも、ガラス戸越しに覗き見した周作がイケメンだったので、まんざらでもないようです。戦時下で高価になったキャラメルを手に、にんまりするすずでした。

 すずの北條家への嫁入りが決まりました。父親・十郎(ドロンズ石本)からは庭のツゲの木で作った櫛を手渡されます。絵が描くことが大好きで、それまで無邪気な子どものように過ごしていたのに、明日からは姓も変わり、大人の女性として生きることになるのです。晩婚化が進む現代と、10代での嫁入りが珍しくなかった戦時中との価値観の大きな違いを感じさせます。「せんでもいい我慢はせんでもいいからね」と励ます母親・キセノ(仙道敦子)に、すずは「お母ちゃん、怖いよ。呉は遠いよ」と泣きすがります。お見合い結婚が普通で、見ず知らずの家に嫁ぐことが当たり前とされていた当時の女の子たちの揺れる心情が伝わってきます。久石譲の音楽も効果的に流れます。のんのような際立った個性は感じさせない松本穂香ですが、普通の女の子の気持ちを丁寧に演じたこのシーンあたりから、視聴者もすんなりと彼女を受け入れたのではないでしょうか。

■面識のない相手といきなり初夜を迎えるドキドキ感!

 呉への嫁入り日です。周作の家では、周作の姉・径子(尾野真千子)と隣りに住む幸子(伊藤沙莉)がすずに向かってガンを飛ばしてきます。周作を愛する彼女たちにしてみれば、まだ子どもっぽく色気もないすずに周作を奪われることは我慢なりません。尾野真千子の演技力は誰もが認めるところですし、連ドラ版のオリジナルキャラ・幸子役の伊藤沙莉は『ひよっこ』で演じた米子役で強烈なインパクトを残した若手実力派です。伊藤沙莉が主演した『獣道』(17)はインディーズ映画の大傑作です。これに遊女・白木リン(二階堂ふみ)を加えた女たちの周作をめぐるバトルが、連ドラ版『この世界の片隅に』の大きな見どころとなりそうです。

 仏前での祝言が終わり、すずは実の家族と別れ、いよいよ初夜を迎えることになります。周作からお風呂に入るようにいわれ、湯舟につかり身体を清めるすず。部屋にはすでに布団が並べてあります。ここで周作とすずの間に交わされるのが、「柿の木問答」と呼ばれるものです。明治時代や大正時代の農村部で、知り合ったばかりで会話もままならない新婚夫婦の間で行われた一種の通過儀礼です。「あんたの実家の庭には柿の木はあるか?」「はい、あります」「じゃあ、木に登って柿の実をもいでええか?」「はい、どうぞ」というやり取りが、かつての日本の新婚家庭では行われたそうです。柿の実をもぐ=セックス、という婉曲な言い回しにクラシカルなエロスを感じさせますね。広島県の一部では「柿の木問答」ではなく、「傘問答」が行われていたそうです。ドキドキしながらも、すずは祖母に習った「傘問答」の口上どおりに「新しい傘を持ってきました」と周作に告げるのでした。

 ところが、周作は「傘をさしてもええか」と問答どおりには返しません。すずが持ってきた傘を手にとって、縁側に吊るしてあった干し柿をたぐり寄せ、すずと一緒に干し柿を食べるのでした。すずは思わず拍子抜けしてしまいます。劇場アニメ版『この世界の片隅に』の片渕須直監督を公開時にインタビューする機会があったのですが、このときの周作のボケを、片渕監督は「嫁入りしたすずの緊張をほぐしてやろうという、普段は軽口を叩かない周作なりの優しさでしょう」と解説してくれました。なるほどねぇ。ちなみに周作役の松坂桃李は、今年公開された『孤狼の血』ですでに広島弁をマスターしており、R18映画『娼年』ではさまざまな女性たちの欲望を満たす高級男娼役を大熱演しています。そんな松坂桃李から「あんたと一緒に生きていきたいんじゃ」と耳元で囁かれて優しく唇を重ねられたら、どんな女性も昇天してしまうことでしょう。家の灯りが消えました。どうやら、すずは無事に初夜の営みを終えることができたようです。

 さて、冒頭に続いて第1話のエンディングは、再び現代編に。呉市の丘の上にすずさんが嫁いだ北條家を見つけ、無人化していたのをいいことに榮倉奈々は「私、決めた。ここで暮らす!」と宣言します。果たして榮倉奈々演じる佳代は、すずとはどんな関係なのでしょうか? 原作コミックにも劇場アニメ版にも現代編はないため、ネット上では「現代編はいらない」という声が上がっています。確かに戦時中のすずたちの暮らしに没入できた原作や劇場アニメ版に比べると、連ドラ版は現代編が挿入されることで感情移入度は下がってしまいます。ただし、原作や劇場アニメ版では終戦直後までのすずの姿しか描かれていなかったので、戦後の混乱期をすずがどう生き抜いたのか、すずのその後が知りたいという気持ちもあります。連ドラ版は、少しずつすずの足取りを追っていくことになりそうです。連ドラ版が成功するかどうかは、この現代編での「すずのその後」の描き方次第ということになるのではないでしょうか。

 広島をはじめ、西日本各地で多大な被害を出している集中豪雨直後の第1回放送でしたが、気になる視聴率は10.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)でした。高視聴率ドラマを次々と生み出している日曜劇場の枠としては若干の物足りなさも感じさせますが、原作&劇場アニメ版のファンの期待は裏切っていない出来なので、しばらくはすずと嫁ぎ先の北條家との交流を楽しんで観ることができそうです。でも、物語の後半には高畑勲監督の名作アニメ『火垂るの墓』(1988)級の大惨事が待っています。劇場アニメ版同様に口コミで人気が広まっていくのか、そして視聴者は衝撃の展開に耐えられるのか。じっくり見守りたいと思います。
(文=長野辰次)

のんに完敗か? ドラマ『この世界の片隅に』地味キャストで爆死フラグ

 こんな地味なメンツで、のんに勝てるの?

 1990年代に活躍した女優の仙道敦子が7月スタートのTBS日曜劇場『この世界の片隅に』に出演すると発表された。しかし、25年ぶりの連ドラ復帰とあって30代以下の世代からは「どなた?」「千堂あきほ?」「そんなに有名なの?」と戸惑いの声が聞かれている。

 同作は16年にアニメ映画化され、主演のすずの声をのんが務め話題に。初週の63館から300館を超える規模に拡大し、興行収入は20億円を突破。各映画賞を総なめするなど、能年玲奈から改名した、のんの最大のヒット作となっている。

「2015年に彼女が主演した映画『海月姫』は興行成績が振るわなかったにもかかわらず、今年1月期のフジテレビ月9枠でドラマ化して、案の定、史上最低視聴率を記録しています。しかし、数字は振るわなかったものの、主演の芳根京子や瀬戸康史ら俳優陣が若年層から強い支持を集めていました。今回、またもやのんの出演作がドラマ化されたことで、ネット上では“同作=のん”のイメージを潰すためだけに、業界が嫌がらせ的に企画したのではないか、といぶかる声も聞かれます」(芸能記者)

 ドラマの脚本はNHK朝ドラ『ひよっこ』の岡田惠和氏、演出は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の土井裕泰氏、音楽は作曲家・久石譲氏と豪華だが、肝心のキャストについては「パッとしない」と辛辣な声が上がっている。

「オーディションで選ばれた主人公の松本穂香は、新人で知名度はほぼゼロ。脇を固めるのも仙道に加えて、『進め!電波少年』(日本テレビ系)のヒッチハイクで一世を風靡したドロンズ石本の名前もあり、“あの人はいま”感が漂ってきます。また、宮本信子、木野花、塩見三省は、のんの代表作であるNHK朝ドラ『あまちゃん』メンバーですから、SNSでは『だったら主演はのんがよかった』という声が連打されています。高視聴率ドラマの多い日曜劇場枠とはいえ、目玉が仙道では、『海月姫』以上の爆死となる可能性もありそうです」(テレビ誌ライター)

 ドラマが始まればまたぞろ、のんのドラマ復帰待望論が巻き起こるかもしれない。

ドラマ『この世界の片隅に』に寄せられる“心配”の声「あのアニメーションを見た後で……」

 果たして、あのアニメーションを見た後で感動できるのか?

 今もなお上映が続く劇場アニメーション『この世界の片隅に』。そのヒットの余波を受けてか、TBSが今年7月の「日曜劇場」枠で実写ドラマ化することが発表され、話題になっている。

『この世界の片隅に』の実写化は、これが初めてではない。2011年に日本テレビが「終戦記念スペシャルドラマ」として、すずさん役を北川景子が演じたものを放送したことがある。

「あれは、一度は見る価値がありますよ……いろんな意味で……」

 そう苦虫をかみつぶしたような顔で語るのは、呉出身のアニメファン。アニメーションに感動した彼は「そこまではヒドくないだろうと」実写ドラマ版にも手を出したのだが……。

「地上波だから、わかりやすくないとチャンネルを変えられてしまうのは理解できます。でも、あまりにもわかりやすくさせすぎ……」(同)

 実際に見てもらうとよくわかるのだが(DVDのほか各サイトで配信中)、とにかく説明ゼリフが多い。いちいち北川景子のすずさんが泣きながら、今の気持ちを語り始めるシーンが、とにかく鼻につくのだ。

「ただ、今回のドラマはアニメーションのヒットを受けてのもの。決して手抜きはできないでしょうね」(同)

 今回の、すずさん役に選ばれたのは、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』や、auのCMで注目される松本穂香。周作役は松坂桃李が演じる。

「中には『すずさんは(アニメ版声優の)のんに演じてもらえばいいのではないか』という声もありましたが、まだ、事務所の独立騒動が影響しているのか、困難だったようで……」(テレビ局関係者)

 ただ松本の演技に期待する関係者も多いという。

「裁縫の練習や、普段から洋菓子を食べないなど撮影に向けて、役作りに余念がないと聞いています。失敗すれば非難を浴びる作品。プレッシャーも大きいと思いますが……」

 人気作品の実写化といえば、まず非難囂々なのだが、今回はテンプレ的な非難は少ない。誰もが「この名作の実写化が成功するのか否か」ドキドキしながら見守っているという状況だろう。

 できるものなら、成功してくれることを祈りたい。
(文=是枝了以)

ドラマ『この世界の片隅に』に寄せられる“心配”の声「あのアニメーションを見た後で……」

 果たして、あのアニメーションを見た後で感動できるのか?

 今もなお上映が続く劇場アニメーション『この世界の片隅に』。そのヒットの余波を受けてか、TBSが今年7月の「日曜劇場」枠で実写ドラマ化することが発表され、話題になっている。

『この世界の片隅に』の実写化は、これが初めてではない。2011年に日本テレビが「終戦記念スペシャルドラマ」として、すずさん役を北川景子が演じたものを放送したことがある。

「あれは、一度は見る価値がありますよ……いろんな意味で……」

 そう苦虫をかみつぶしたような顔で語るのは、呉出身のアニメファン。アニメーションに感動した彼は「そこまではヒドくないだろうと」実写ドラマ版にも手を出したのだが……。

「地上波だから、わかりやすくないとチャンネルを変えられてしまうのは理解できます。でも、あまりにもわかりやすくさせすぎ……」(同)

 実際に見てもらうとよくわかるのだが(DVDのほか各サイトで配信中)、とにかく説明ゼリフが多い。いちいち北川景子のすずさんが泣きながら、今の気持ちを語り始めるシーンが、とにかく鼻につくのだ。

「ただ、今回のドラマはアニメーションのヒットを受けてのもの。決して手抜きはできないでしょうね」(同)

 今回の、すずさん役に選ばれたのは、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』や、auのCMで注目される松本穂香。周作役は松坂桃李が演じる。

「中には『すずさんは(アニメ版声優の)のんに演じてもらえばいいのではないか』という声もありましたが、まだ、事務所の独立騒動が影響しているのか、困難だったようで……」(テレビ局関係者)

 ただ松本の演技に期待する関係者も多いという。

「裁縫の練習や、普段から洋菓子を食べないなど撮影に向けて、役作りに余念がないと聞いています。失敗すれば非難を浴びる作品。プレッシャーも大きいと思いますが……」

 人気作品の実写化といえば、まず非難囂々なのだが、今回はテンプレ的な非難は少ない。誰もが「この名作の実写化が成功するのか否か」ドキドキしながら見守っているという状況だろう。

 できるものなら、成功してくれることを祈りたい。
(文=是枝了以)