からし蓮根がたどり着いた熊本弁漫才「背伸びするのをやめて、素の感じでできるようになろうと」

2画面左からボケの伊織とツッコミの杉本青空(撮影=荒熊流星)

 ついに明日、今年のNo.1漫才師が決まる。2019年『M-1』グランプリ決勝、なんと9組中7組が初の決勝進出というフレッシュな顔ぶれがそろう。中でも「優勝候補」と の呼び声が高いのが、熊本出身の同級生コンビ、からし蓮根。190センチの長身ボケが舞台狭しと動き回れば、独特のワードセンスを熊本弁にくるんだ小気味良いツッコミがそれをコントロールする。新しいのに懐かしいのは、その確かな技術ゆえ。霜降り明星がくさびを打ち込んだ「お笑い年功序列」に、今再び「第7世代」が襲いかかる。

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――決勝を目前に控えた今のお気持ちは?

杉本青空(そら/以下、青空) まぁ、そうですね……怖いですね。まぁまぁ、楽しいですけど、決勝までのこの期間がね(※インタビューは12月17日)。

――今年の『M-1』の決勝は、出場者も年齢層もガラッと変わって……その象徴がからし蓮根さんなのかなと思い、インタビューをお願いしました。お2人も、そういう流れの変化みたいなものを感じていますか?

伊織 やっぱり去年、霜降り(明星)さんが優勝してからですね。若手が注目されるようになった。

青空 追い風ですね。ありがたいですね。

――第7世代……提唱者といわれている(霜降り明星の)せいやさんは、すごいその言葉を嫌がっていますが(笑)。

青空 確かに。こんな大変なことになるとは思ってなかったでしょうから。

伊織 ラジオでたまたま言った言葉がね~。

――からし蓮根さんは、「若さ」ももちろんですが、熊本弁での漫才というのも異色です。

青空 最初は違ったんです。標準語と関西弁が入り混じった、どこの言葉ともつかないものでやってたんですけど、たまたま方言をちょろっと入れてみてたら、お客さんの反応が良かったので。そっちのほうが僕らも楽だった。地元の言葉でやるほうが。

――最初からではなかったんですね。

青空 そうですね。なんか、熊本弁は受け入れられないと思ってたんで。

――テンポとか、言葉の意味が伝わらないとか?

青空 それもあるし、ネタの邪魔になると思ってて。

――でも、実際やってみたら、熊本弁のほうがしっくりきたんですね。

2人 そうですね、はい。

青空 上手にね……なりたいなと思ってたんです、漫才を。大阪弁とか標準語のほうが、高等なテクニックを使ってるような感じするじゃないですか。でも、もうそれをあきらめて。上手になるのは無理がある。

――おっしゃる感じはわかります。なんというか、方言の「あざとさ」みたいなものも、最初躊躇されていた要因なのかなって。

青空 そうなんですよ。ただちょっと背伸びするのをやめて、素の感じでできるようになろうと思って。やったらまぁ、自然と方言になった感じです。

――お2人は高校時代の同級生ですよね?

2人 そうです。

――青空さんは「高校生活があまり楽しくなかった」と、以前インタビューでおっしゃっていましたが。

青空 そうそうそう。入学して、僕ホームシックになったんです。高校は市内にあって、でも僕は田舎の中学校から入ってきて、ほんと友達も誰もいなかった。すぐに辞めようと思ってました。

――青空さんは内向的なタイプ……?

青空 めっちゃそうですね。

――そのインタビューによると、青空さんが辞めようと思ってるからなんとかしてくれと、先生が伊織さんに頼んだと。

伊織 そうですね。でも何もしてないです。ただしゃべっただけです。

――お互い気が合うなと思いましたか?

青空 気が合う……? うーん、そうですね、僕は小さい頃からお笑いがめっちゃ好きやって、中学の時に『M-1』でサンドウィッチマンさんやキングコングさんを見て、格好いいなと思って。一緒にお笑いやる人おったらなって探してたら、伊織がね、そんなんやらされてたんで、周りの友達に。

――一発ギャグ的なものを?

青空 それ見てたので、ちょっと誘いやすかったというか。

――内向的なタイプとおっしゃいましたが、人前に出てネタをやることに戸惑いはなかったですか?

青空 まぁそうですね。でも、テレビで見たギャグとかをぱっと覚えてて、親戚の集まりとかでちょっとふざけてやるみたいなのの、その快感はあったんですよ。この感覚すごいなぁって。

――勝手なイメージなんですけど、やっぱり熊本の、九州の男の人は無口で、どんと構えてという……

2人 そうです。基本はそうです。

青空 もちろん漫才はやりますけど、ほかのところでは本当にその通りですね。

――もともとは同級生だった友達が、一緒に仕事する仲間になって。関係性に変化はありますか?

2人 関係性……?

伊織 逆に高1の時しかクラス一緒じゃなかったんで、それも相まって、ちょうどいい関係性、ちょうどいい距離感でやってますね。

青空 そうじゃないと、やっていけないですよ。仲悪かったらやっていけない。良すぎても……ですけど(笑)。

――楽屋では、どんな感じなんですか?

青空 仲良い、しゃべりやすい人とはしゃべりますけど、新しく誰かに話しかけて……みたいなのは自分からはしないですね。話しかけてもらって、やっとです。

――伊織さんは?

伊織 僕は逆にいろんな人と仲良くなりたいんで、いろんな人としゃべってます。幅を広げていく感じです。

――同世代で、仲のいい芸人さんはいらっしゃいますか?

青空 先輩だと吉田たちさん。同期は、紅しょうがの熊元プロレスというマイナーな芸人がいるんですけど、そいつと仲いいです。

――吉田たちさんも準々決勝に進出していました。

青空 正直言うと、もう戦いたくないんですよ、本当に。(吉田さんたち)おったら、たぶん勝てない。だからよかったといえばよかったのかもしれないけど、悔しい気持ちもある。メチャクチャ面白いのに、なんであそこで落とされるんだ……って。でも、これが勝負の世界なんですね。

伊織 僕も、吉田たちさんは仲いいですね。同期だったら、レインボーの実方(孝生/現・ジャンボたかお)とか。あとはEXITの兼近(大樹)とか、四千頭身の都築(拓紀)とか、たくろうのきむらバンドとか。そんな感じです。

――今をときめく方々が!

伊織 今どきの人と。なんか広く(笑)。

――伊織さんとジャンボさんが一緒に歩いてるところ、ちょっと面白そう(笑)。

伊織 いつも東京来たら連絡するし、向こうが大阪来たら一緒に遊んでますね。

――青空さんが「出待ちに冷たい」というウワサを聞きましたが、それについてはいかがですか?

青空 そうですね。よく言われます(笑)。うれしいのは、うれしいんですよ!「キャー!」ってしてくれるのも。でも「この人たちも、いつかいなくなるもんや ……」と思って接しないと、たぶんやっていけないかなと。

――伊織さんは……?

伊織 僕は全然。どんどん来てくれ! っていう。全力でお相手します(笑)。

――本当に真逆ですね(笑)。伊織さんは現在、オール巨人師匠のところでアルバイトをしてらっしゃるんですよね。

伊織 たまたま師匠のスナックがあるエリアに僕が住んでて、「バイト来いよ」って誘われて、それからです。サイズが合うっていうのもあって、衣装のお下がり頂いたり、よくしてもらってます。

――ネタについて、アドバイスもらったりとかは?

伊織 ネタは……個人的に見てもらったりとかはしてないですね。アドバイスも「やめるな」って言われたぐらい。

――究極ですね。

伊織 最初の頃に「やめたらあかん」って。「続けといたらいつかチャンス来るから、やめずにおれ」と。全然「やめたい」とか言ってないんですけど(笑)。なんか基本、根っこの部分で、そこが大事やでってことだと思います。

――最初から、何かを見抜いてらっしゃったのかもしれないですね。

伊織 テレビでネタにできるエピソードが増えたり、先輩や師匠に「あ、お前スナックでバイトしてたな」って声かけてもらったり。ありがたいです!

青空 伊織が広げてくれた人脈に僕が入れてもらうという、そういう感じです。僕は、なんもしてないです……。

――なんもしないってことは……。

青空 いや、でもそうですね。僕は漫才考えるだけですね。

――かっこいい……。

青空 あぁ、まぁそうですね(照)。

――ネタは、どうやって作ってるんですか?

青空 いろいろですね。ツッコミから思いつくこともあるし、ボケから広げてくことも。

――からし蓮根さんの漫才は、見たことないけど懐かしい感じもあって、不思議な感覚です。

青空 設定自体は、だいたいみんなが漫才でやってるようなやつですし。でも、その中でも誰もやってないことを探す、みたいな感じですね。

――入り口は普通だけど、入ってみたら見たことのない世界。

青空 そうそうそう。それって、逆に誰も手を出さない気がする。みんなもっと新しいほう新しいほうへ行くんで。

――キーになるのはやはり伊織さんのキャラだと思うのですが、青空さんはどういう戦略でネタを作られているのですか?

青空 そうですね。生かすって感じでもない。伊織ができるかどうか、です。これ言えるかとか、ちゃんと思った通りに笑いにつなげられるかとか。

――なるほど……。

青空 伊織が無理してたら、全然おもんないですよ。

――伊織さんは「こういう表情や動きで笑わせよう」みたいな欲が、ものすごく薄いように思います。

青空 たぶんそれが見えると、本当に寒くなるというか。

――その押し付けがましくなさが、からし蓮根のすごいところだと。

伊織 僕はもう、やるだけなんで。

――正直、今年の『M-1』はいけるのではないかという、手応えみたいなものはあったのでしょうか?

2人 手ごたえ……?

青空 手ごたえ……いや、ないですね。

――そ、そうなんですね!

青空 去年は準決勝で、3回目ですね、準決は。(手ごたえのなさは)それもあるかもしれないです。最初に準決行けた時は、確実に手ごたえあったんですよ。まぁ初めてやったんで。そっからはもうなんか「大丈夫? これで」みたいな。だんだん自信なくなってきて、通過したら「よかった……よかった……」ってホッとする感じになってきました。

――『M-1』で準決勝に残ることがまずすごいわけですが、そこからさらに高い壁が「決勝」にはある。

2人 ありました。

――どんな壁なのでしょうか?

青空 なんでしょうね、あれは。

伊織 わかんないです(笑)。

青空 でもなんかもう……無理でした。1回目の(準決勝の)時は、本当にもうそんな感じ。1言目、2言目ぐらいで、2人ともたぶん「無理だ」ってわかってた。

――空気のような?

青空 空気ですね。やり始めた感じで、もうなんかわかる。

伊織 これはちょっとレベルが違うわ、みたいな。

――『M-1』決勝進出が決まった後の記者会見で、インディアンスさんが「漫才中に『「これいったな』」って思った」みたいなことをおっしゃってましたが、その逆もまたわかるんですね。

青空 そうですね。

伊織 でも、今年も、やってる時は正直わかんなかったです。ただ落ち着いてやってこうと。

青空 (準決勝の)映像を見返しましたけど、みんな「よっしゃ」みたいな感じで袖に戻ってくるんですけど、僕ら2人とも腕組んで歩いてて。

伊織 うーん、どうだろうって(笑)。

青空 「どうだろう?」だった。ただ、ウケてりゃいいなと思って。

――無心ということですね。

青空 そうですね。ちゃんと見ごたえのあるものになってるかなっていう、そのことしか考えてないです。

――今年は確実視されていた方が準決勝で姿を消したり、始まる前から波乱含みです。

青空 そうなんですよ、本当に。

――俺たちの時代がきてる……みたいな感覚は?

青空 時代ですか……。

伊織 時代はまったく……確かに若い世代が注目されてるなって感じはするんですけど、別に大阪はそんな感じでもないんですよ。第7世代がきてる感じはあまりしない。

――ああ、この異様な「第7世代」ムーブメントは、割と関東特有のものなのか!

伊織 そうだと思うんですよね。関西は、そんなに気にしてない感じで。

――それって、関西のお笑い界のほうが、うまいこと新陳代謝がなされているということでもあるんでしょうね。今、それが東京にも起こりつつあると。

青空 そうかもしれないです。若い……僕らぐらいにも仕事が来るように、やっとなってるのかもしれないですね。

――決勝に出たら、認知度もまたグーンと上がると思われますが、これからやってみたい仕事などありますか?

青空 なんやろう。レギュラーが欲しいですね、番組の。『ワンナイR&R』(フジテレビ系)とか好きやったんで、ああいう。『笑う犬』(同)もめっちゃ見てたな。でもとにかく、『M-1』で目に見える結果を出してからですかね。

――以前(霜降り明星)粗品さんが「『M-1』で優勝してから、やっと自由に漫才ができるようになった 」ということをおっしゃってましたが。

青空 あぁ、そうやと思います。

――アドリブを効かせてネタをするとか。

青空 確かに。今はメチャクチャ避けますね。まぁね、簡単ですもん。お客さんの目線に合わせようと思えば、たぶんいくらでも合わせてできる。そういうのなしで、普通にちゃんと漫才をしないと、今は。

伊織 とにかく、たくさんの方々に笑ってもらえるように頑張ります!

――なんか、でもドキドキしますね……。決勝組で、ライバル視してるコンビはいますか?

青空 決勝で? 誰やろう? ちょっとどんな感じになるのかわからない。

伊織 最近……思うんです。やっぱりネタの最初のほう、まだまだ緊張してるなって。やっていったら徐々に落ち着いてはいくんですけど。だからライバルは……自分自身。

――なんか……イチローみたい。優勝後に、またインタビューをさせてください。その時は……もうちょっと心を開いていただけるように、私も精進します(笑)。

伊織 なかなか開かないんで。(青空は)開かないタイプなんで。

青空 いや、そんなことは、いや。またよろしくお願いします。

――(開いてない……)
(取材・文=西澤千央)