日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月26日は「父と息子とはぐれた心 ~引きこもった僕の1年~」というテーマで放送された。
あらすじ
キタノ家の長男、ヨウヘイ(24歳)は大学卒業間近に突然、自宅に引きこもりだす。真っ白な顔でゲームに没頭し、昼夜逆転の生活を繰り返すヨウヘイを前に困り果てた両親は、富山市にある自立支援施設「はぐれ雲」に息子を預ける。
「はぐれ雲」では引きこもりや不登校を経験した10〜40代の男女が、ひとつ屋根の下で暮らし、就労訓練などを受けながら自立を目指している。最初の頃、ヨウヘイは、はぐれ雲でも無気力や不機嫌さを隠さなかったが、徐々に集団生活に慣れていく。1年後、両親との面談において、ヨウヘイの顔はまだこわばっており、親子仲は「大改善」とまではいかないが、当初は無視を続けていた親からのLINEにも返信するようになる。はぐれ雲の仲間内では笑顔を見せたり、ヨウヘイは大きく変化していた。
父と息子だけの問題だろうか?
ヨウヘイの両親は、子どもの進路や教育に強く介入する過干渉な父親と、子どもに過保護な母親という「両親そろって過剰」なタイプに見えた。今回のタイトルは「父と息子とはぐれた心」であり、父親と子の葛藤をメインに扱っていたが、私には母親にも、ヨウヘイを引きこもらせた要因があるように思えた。
この父親と母親は方向性は違えど、ヨウヘイから「考える機会」を奪っている点では共通しているようにみえたのだ。父親は、ヨウヘイが自ら進路を考える機会を奪い、母親はかいがいしく面倒を「見すぎる」ことで、ヨウヘイが考えて動く機会を奪っているように思える。
ヨウヘイははぐれ雲で過ごした1年間で、無気力でまっすぐ立てずいつも上体がフラフラとしていて、24歳なのに精神年齢が12歳くらいに見える若者から、30kgの木を抱えて運ぶほどの体力と、仲間の前では快活に笑い、地元の人とも交流する若者にまで変貌を遂げる。はぐれ雲での集団生活や、農作業の手伝い、地元の人とのふれあいなども大きかったと思うが、はぐれ雲で行った毎日の「家事」が果たした役割が特に大きかったのではないだろうか。
ヨウヘイはそれまで家で家事をしたことなどまったくなかったという。母親が家事を一切させず、朝は大学の授業に合わせて起こすなど、かいがいしく世話を焼いていた。それだけに、はぐれ雲に入所した当初は、やる気もなくもたついた手つきで配膳をし、皿洗いもふてくされながら乱暴にやっていたが、1年後は、手際よくおかずの味付けまでしていた。
家事は「できないことができるようになった」という達成感を味わいやすい。毎日のことなので、今日は卵がうまく焼けなかったから、明日は味付けや火加減をこうしてみよう、と試行錯誤もできる。清掃の家事は爽やかな気分にもなれる。それに学校の勉強は受験以降は役に立たないものも多いが、家事は生きていく上で避けられない行為だ。ヨウヘイが、家事をもっと早くやっていたら、状況は違っていたのではないだろうかと思った。
はぐれ雲を夫婦で運営し、家事を担当する川又佳子は、ヨウヘイの問題点を指摘するが、手は出さず、ヨウヘイに最後までやらせていた。自分でやったほうがよっぽど早く、ストレスもたまらないとわかった上で、あえて「見守り、やらせる」ことを選ぶ。
一方の母親は、父親が高圧的な分、私が優しくしてあげないと、と思っているように見えた。しかし、「過保護」も子どもから考える機会を奪う行為だ。両親ともヨウヘイを「見守る」ことができず手を出してしまっているのだ。
「親がやってくれるだろう」という子どもと「その通りやってしまう」親
番組後半、ヨウヘイと両親が面談したときに、父親は「(大学の復学について)親に言われたからやったといわれるのは嫌、自己責任で決めてほしい」と話していた。それまで両親は、ヨウヘイに手取り足取り介入して、「考えるな」とでもいうような教育をしてきたのに、ここで急に「自分で考えろ」と突き放す。
一方でヨウヘイは、面談に来た親を前に顔を露骨にこわばらせていたが、いざ就活を行うことになると、親にLINEで「スーツほしい そろそろ就活しようかな」と送っていた。両親の「自己責任で決めてほしい」という言葉と、それを受けたヨウヘイの「スーツほしい」という自発的な言葉は、家族全員のそれぞれの成長を感じさせるようにも見える。だが、自分で自発的にスーツを買うのではなく、「スーツほしい」とさえ言えば親が用意してくれるだろう、といまだヨウヘイが信じて疑いもしていないようにも見えた。
また親も、その連絡を受けたらスーツをヨウヘイのもとに即座に送る。ここは「自分で買ったら」、せめて「金は出すから自分で選んでみたら」ではないだろうか。「親がやってくれるだろう」と自分から動こうとしない子どもと、進んで「やってしまう」親。結局、親子の関係は根本ではあまり変わっていないようにも見えた。
ヨウヘイの引きこもりはキタノ家の父、母、ヨウヘイの三者それぞれに課題を突き付けていると思う。
来週は「おなかも心もいっぱいに ~はっちゃんの幸せ食堂~」。500円食べ放題の食堂を一人で営む85歳のはっちゃん。そんなはっちゃんと新型コロナウイルスの戦いの日々。