日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。10月4日は「あの日 妹を殺されて 後編 ~15年後の涙と誓い~」というテーマで放送された。
あらすじ
新大阪駅のほど近くにあるカンサイ建装工業。社長の草刈健太郎は犯罪加害者支援として企業7社と日本財団が2013年に開始した「職親プロジェクト」に関わっており、草刈自ら、面接のため全国の刑務所や少年院を月に一度訪ねる日々を送る。「雇ってみなわからへん」と基本、断らずに全員採用。ただし、身元を引き受けたあとすぐ姿を消されてしまうことも多いという。早く出所するために利用されるのだ。
裏切られることも多い加害者更生支援を草刈が続けるのには理由がある。2005年、草刈は7歳下の妹の福子さんをアメリカで殺害され喪った。犯人は福子さんが現地で結婚した夫だ。犯罪被害者を減らすには、まず加害者を減らすことが大事であり、「妹に『やれ』って言われてる気がする」と草刈は加害者支援を続ける。同社では7年間で18人の犯罪加害者を雇い、今3人が働いている。
刑務所では受刑者の社会復帰のため企業が協力した社会復帰準備訓練を行っており、草刈もそれに携わっている。しかし新型コロナウイルスの影響で3月に行うはずだった会議は延期に次ぐ延期で8月まで伸び、また、実技訓練などによるクラスタ発生を警戒し実技を外すなどの規模の縮小が会議の席では検討されていた。草刈は「また犯罪増えますよ。このコロナで」と話す。
100回以上の窃盗を繰り返し少年院に入っていた19歳のワタルは職親プロジェクトで草刈と出会い、現在は別の建設会社で働いている。ワタルを雇っている社長、山田秀音も窃盗で少年院に入った経験がある。山田は当時を「(母親に対し)自分で産んでるんだから責任とれよと思って悪いことをしていた」と「ただのクズです」と振り返る。山田は少年院で家族から届いた段ボール一杯もの手紙を受け取り改心し、現在は、ワタルを雇うなど、加害者の支援を続けると同時に、胃がんの母親を支えている。
23歳のカズキは幼少期に母親が父親を殺害するという壮絶な経験をし、19歳で障害や暴走行為で逮捕される。草刈がカズキを引き取り、就職し職人として独立、結婚もして娘もでき、将来的には人を救うため理学療法士になるという目標もできて、順調に更生しているように見えた。しかし育児の方針をめぐり妻と不仲になり、妻に手を上げ逮捕される。妻とは離婚となり再度カズキは草刈の会社の寮に入ることになる。
異色なのが31歳のシングルマザー、エリだ。草刈の会社で事務として働くエリは逮捕されるようなことはしていないのだが、離婚後、荒れた生活を送るエリに業を煮やした父親から草刈のもとに預けられ、現在は娘と離れて寮で生活している。カラオケで娘を思う歌を歌い涙していた。
そんな中、草刈のもとには妹・福子さんと福子さんを殺害した夫の上司だった人物が訪ねてくる。夫は、福子さんが男性同僚数人とカラオケに行ったことに抗議するような嫉妬深い人物で、カッとなったら手が上がるような人だった、と伝えた。なお、福子さんの夫は逮捕された当初は精神鑑定を求めたり、その後は福子さんに好きな男ができたと言われカッとなった、と話している。草刈は犯人に対し「『許す』という言葉も言えないし」「恨み続けるのもしんどい」「結論はでぇへんちゃいますか。周りの人間が、最後まで」と心境を吐露した。
カズキは幼少期に母親が父親を殺害するという悲惨な経験をしている。将来はリハビリなどを支える理学療法士を目指しているが、その理由も「人を支えたい」というものだった。
結婚して子どもが生まれ、順調そうに見えたカズキの生活は、妻への暴力で崩壊する。離婚され娘には会えない中、草刈はカズキに「(カズキは過去に理学療法士になりたい理由を)人助けのような仕事がやりたい」って言ってたけどお前が患者や」と的確に指摘していた。
それこそ草刈のような強い信念に基づき、実績を残す「人を救う」人もいるが、カズキのような「本当は自分が救われたがっているのに、人を救いたがる人」も、少なくないように思える。カズキはまず自分自身を救った方がいいのではないだろうか。
また、カズキは家庭願望が強かったというのも切ない。自身の不幸な経験から、幸せな家庭を築くことで救われたかったのかもしれない。だが「幸せな家庭を築きたい」と「幸せな家庭を築くことで救われたい」は違う。後者の場合、本当の目的は「救われたい」であり、別にそれは「幸せな家庭を築く」以外にも方法があるだろう。家庭以外にも自分を救う手段はあるはずなのに、家庭という単位に固執してしまう人は、カズキ以外にもいるように思える。
31歳で親から「矯正」を依頼されるエリ
不思議だったのはエリだ。エリは逮捕されるようなことはしていないのだが、荒んだ生活を送っていることにを両親から相談された草刈は「更生させるのは誰でも一緒」と受け入れた。この状況だけ見ると10代の不良少女をイメージするかもしれないが、エリは小学生の娘がいる31歳のシングルマザーだ。
番組内でのエリは、関西ノリで軽口を叩く明るい女性という感じで、エリの「荒れた生活」が果たしてどのような荒れ方だったのかは見えてこなかった。エリは親から「あんたが育て方間違えたから、今娘を(代わりに)育ててんで」とまで言われたという。
一方でエリも、親に言われっぱなしで娘まで取り上げられ、かつ31歳と大人なのだから、娘を奪還し二人で暮らす選択肢だって取れるはずだ。それをしないあたりは、「荒んだ生活」の自覚がエリにもあったのかもしれない。いったい、エリは何をしでかしてしまったのだろう。
10代の荒れる少年少女に対しては支援の手はあるが、30代の荒れる大人に差し伸べられる手の数は少ない。「大人なんだから自分でなんとかしろ」はもっともなのだが、自分でなんとかできないから荒れているのだ。荒れた大人はどうすればいいのだろう。
次回のザ・ノンフィクションは『禍の中でこの街は 前編 ~新宿二丁目 コンチママの苦悩~』。LGBTが集う新宿二丁目で、50年以上のもっとも長い歴史を持つショーパブ「白い部屋」。72歳のコンチママが新型コロナウイルスの猛威に立ち向かう。