『いつか中華屋でチャーハンを』『バー オクトパス』フードライターが“猛烈にオススメ”する3冊

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の3冊:『食べることと出すこと』『バー オクトパス』『いつか中華屋でチャーハンを』

 今回、担当編集さんから嬉しい提案をいただいた。「毎月1冊だと、紹介したくてもできなかった候補がいろいろあるんじゃないですか。そういうのをまとめて紹介する回があってもいいのでは」。

 ああ、まさに! ということで2021年の初回は、4冊ほどまとめておススメを挙げてみたい。

食事に味わいが消えると人はどうなる?『食べることと出すこと』

 まず『食べることと出すこと』(医学書院)から。言うまでもなく、食べたら人間“出す”わけだが、著者は大学生のとき潰瘍性大腸炎という難病にかかり、ひどい下痢が頻発、食べるものが徹底的に制限されてしまう。そう、「食べること・出すこと」に大きな困難を抱えたわけである。そんな闘病生活は実に13年にもおよんだ。

 入院して始まったのが1カ月以上もの絶食。点滴で栄養補給はされるものの、口からものを食べない生活が続くと人間どうなるのか? 味わいというものが絶えると人は何を思うのか?

 発症からここに至るくだりでものすごく引き込まれる。絶食明け、最初に食べたものはヨーグルト。「口の中で爆発が起きた!」という描写に、私は『奇跡の人』の「ウォーター!」のシーンが思われてならなかった。

 潰瘍性大腸炎という病気は人によって程度にかなり差があり、著者の頭木さんは相当重病だったよう。食べられるものといえば、13年間ほぼ「豆腐と半熟卵とササミ」だったというのも想像を絶する。ほかのものを口にするとまた下血を伴うようなひどい下痢が起こるかもしれない……。そんな事情を、なかなか他人は理解してくれない。病気によって、社会的な食コミュニケーション(会食やパーティ、お見舞いの差し入れ、ちょっとした打ち合わせのお茶でさえも!)に加われなくなってしまった彼。これもまたひとつの「闘病」なのだ。

 とにかく多くの気づきを与えてくれる本だった。私たちが無意識に病人の方々へやっているかもしれないハラスメントを、本書は教えてくれる。そして闘病記ではあるが、徹頭徹尾そこはかとないユーモアと淡々とした距離感があり、つらい内容でも悲壮感はごく薄い。また頭木さんは比喩引用の名手で、体験したつらさや悩みを何かに例えるのが実にうまいんである。316ページと厚い本で2,000円(以下、すべて税別)するが、熱烈に薦めたい一冊。

 あと2冊はコミックを。

 以前にも紹介した漫画家でイラストレーター・スケラッコさんの『バー・オクトパス』(竹書房、750円)は、なんとも気持ちを穏やかにしてくれる本で、病禍の世が続く現在、ひとときの清涼剤としてありがたかった。

 海の中のバー「オクトパス」はその名のとおり、タコのマスターが営んでいる。主人公の人魚(OLさんという設定)が、だんだんと店のなじみになっていくさまがいい。

「理由はうまく言えないけど、ここでぼんやり過ごす時間が好き」

 そんな思い、飲み好きの人は誰しも体験していると思う。“ぼんやりと何をするでもなく、好きな店にたゆたう愉(たの)しさ”がとてもうまく描写されている。

 ほのぼのとした世界がひねもすのたりと続く中、最後に海中に嵐がおとずれ、物語が大きく動く展開が感動的。全然違う内容だが、映画『フィツカラルド』で船が山を行くような壮大なファンタジーを私は感じた。

続編、熱烈希望『いつか中華屋でチャーハンを』

 『いつか中華屋でチャーハンを』(スタンド・ブックス、1,600円)は、読み終えて猛烈に腹がへる1冊! 著者は「何かのネタになるかと思って」と、中華料理店で「カレーかオムライスがあったら絶対食べる」というルールを自分に課していた人。

 大阪のあんかけカツ丼、長崎のバンメンなどローカル進化系のもの、各店で独自改造されているオムライスや麺ものなど、ただ食べ歩いて紹介するだけではなく、なぜそれらが生まれたのかを真摯に、そしてほどよい軽さをもって推察していく。

 その加減がとーってもいい。なにより、絵柄に妙なのどかさと「おかしみ」があって、たまらなくホガラカな気持ちを与えてくれる。本作が初の漫画作品とは信じられない。続編、熱烈希望。

 あ、カバーを取った表紙も雰囲気があって素敵なので、ぜひ見てみてほしい。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

私たちの「食」は、豊かなのだろうか? グルメブーム、日本食礼賛の内側をえぐる『メイド・イン・ジャパンの食文化史』

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『メイド・イン・ジャパンの食文化史』畑中三応子 著

 タイトルだけ見ると非常にカタい本のようだが、実に面白く、読みやすく書かれたノンフィクションなんである。コラム集を読むような軽い気持ちで手に取ってみてほしい。本書のテーマは「なぜ日本人はかくも国産をありがたがるようになったのか?」なんだけれども、著者は同時に「そもそも日本人って食を大事にしてきたのだろうか?」という視点でクロニクルを編んでいる。

 プロローグ、書き出しから「もう10年近くになるだろうか、日本食礼賛が巷にあふれてきたのが気になりだした」とくる。日本の文化、歴史、技術はすごいもの、と喧伝するテレビ番組や書籍が定番コンテンツとなってきた頃だろう。そんな風潮に拍車をかけたものとして、著者は2013年の和食のユネスコ無形文化遺産登録をあげる。その理由が以下の4点。

・多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
・栄養バランスに優れた健康的な食生活
・自然の美しさや季節のうつろいの表現
・年中行事との密接なかかわり

 理由を読まれてみて、どうだろう。著者の「私たちが捨て去ってきたものばかり」という書きように、大きく頷いてしまった。どれも絵に描いた餅というか、「そうあれたらいいよね」「本来はそうなんだろうね」と多くの人が感じるのではないだろうか。たしかに、高級和食店で出てくる料理は先の4点を大事にしているだろう。しかし平均的な日本人の普段の食卓は、残念ながらほど遠い。いや、だからこそ「遺産」なのか……などと、私もユネスコが発表した当時に思っていた。

 とかく日本人は「私たちの食文化はすごい」と言い切りすぎじゃないだろうか。「じゃあ、どうすごいの?」と訊かれて説明できる人はどのくらいいるだろう。「日本には四季があって、折々の食材が豊かで」四季のある国は世界中くらでもある。確たる根拠や生活実感もなしに、日本食礼賛ムードが進みすぎてしまっているのはどういうことなのか――そこを畑中氏は歴史から探っていく。

 輸入穀物への依存が始まった明治時代。人口は増加し、食料自給もままならないまま戦争の時代へと突入していく。太平洋戦争後の窮乏と経済的復活、そして高度成長期へ。食生活が豊かになっていく一方で、インスタント化や欧米化が進み、日本的な伝統食はすたれはじめる。

 また戦後から昭和の時代というのは、危険な食品添加物の時代でもあった。この時代があったからこそ現代の食品安全基準が形成されたともいえるが、払った犠牲は大きかった。やがて時代はバブル好景気となり、貪欲なまでに海外の食文化を輸入し、消費していく。そして、崩壊。失墜の中で広まった「粗食
」のすすめ、平成の大凶作、O157など食中毒の発生、狂牛病パニック。有名企業や飲食店の産地や製造年月日、原材料など一連の偽装発覚の連続。食の安全と信頼が揺れに揺れた90年代と2000年代を経て、今へと続く。

 個々にすばらしいものを作り、育てている人はいる。高品質な食材も多いし、高度な調理技術と洗練されたもてなしのスタイルの融合を楽しめるお店もある。だが、誇らしきそれぞれのものを現在、日本人のうち何%が享受できているのだろう。日本食を礼賛する人々は、日常的にどんな食生活をおくっているだろうか。私たちは、豊かなのだろうか――痛切に考えさせられる一冊である。

 著者の畑中三応子(はたなか・みおこ)氏はもともと編集者で食文化研究家、奥付のプロフィール欄に1958年生まれとある。「情報誌とグルメガイド誌が食のトレンドを引っ張ってめまぐるしく流行が入れ替わるグルメブームの真っ最中」に、編集者として働きはじめ、シェフへのインタビューを中心としたムック制作を長年やられていたようだ。

 ほかにも食に関するクロニクルを数冊書かれているが、この手の本はとかく「たくさん調べました、年代順のポイントまとめました、終わり!」的な味気ないものになりがち。しかし畑中氏の場合はそうならない。事実描写の積み重ねとその客観的な歴史評価、プラス主観としての印象批評のバランスが絶妙で、読み飽きないんである。時代の変遷を食流行を軸に描いた『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル1970-2010』(ちくま文庫)もおすすめ。こちらは畑中氏のユーモアや、ときにシニカルな目線がより濃く表されている。

 

コウケンテツだって、ごはん作りはしんどい!? 料理研究家が「手料理=愛情のバロメーター」説をバッサリ、「家事の理不尽」を説く意味

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ』コウケンテツ 著

 コウケンテツさんといえば、日本の料理研究家では知名度トップクラスのひとり。その彼が、初の書き下ろしエッセイとしてテーマに選んだのは、家事としての料理(以下、家事料理と記す)がしんどい人たちへの応援や励ましであり、また自身が家事料理に感じているつらさ、わずらわしさの率直な告白だった。

 そもそも職業にするぐらいだから、コウさんは大の料理好き。彼にとって料理はずっと楽しみであり、レシピを考えることは喜びだった。それが結婚して、子どもができたことで変わってゆく。彼のお子さんは3人。

「自分が食べたいものは二の次にして子どもの好き嫌いや栄養バランスを考えなければいけない。家事や育児の時間が増えて、自分の時間はもちろん、楽しく料理する余裕さえうばわれてしまう」

 と、冒頭で振り返っている。

「料理研究家だから(料理の)見た目も」よくして「品数もできるだけ多くしなければ」と考え、「自分を勝手に追い詰めて」いたと。

「子どもの心と成長を培うのは、あなたの手料理」

 そんなふうに、以前は講演会などで訴えていた。それを聞いた参加者のひとりが、料理は苦手だけれど頑張ろう、と決意する。しかし数年後に再びコウさんのもとへ訪れて、彼女は言った。

「(もう)限界がきました。私はどうすればいいのでしょうか……」

 毎日の料理づくりがつらくてつらくて仕方ない、と。自分の言葉がひとを追い詰めていた――料理家としてコウさんは大きなショックを受ける。そしてその衝撃が、本著を書くきっかけにもなった。

 日本における家事料理はなぜ大変になりがちなのか?

・日本の家庭料理に求められるレベル&スキルが高すぎる
・栄養も、彩りも、品数もというプレッシャー
・ワンオペの多さ
・家事料理はマルチタスクであること
・デリやお惣菜、冷食などに頼ってはいけないという思い込み

 といった分析が、実にわかりやすく、語りかけるようにつづられていく。このあたりを読むだけでも、家事にしんどさを抱えている人はきっと気持ちが軽くなると思う。料理研究家でもそう思うんだ、と。

 私がうなったのは、手料理は愛情のバロメーターではなく、「手料理=余裕のバロメーター」ではないか、という表現。また「家事は『やっても褒められないけど、やらないと文句を言われる』という理不尽な作業」というくだりには、首がもげるほどうなずく人が多いと思う。

 家事としての料理って、やり始めの頃はバランスよく、できるだけ手作りして、見た目もきれいに、副菜もしっかり……と、とかく理想を追い求めがちなもの。理想的な食事作りを毎日毎日、休みもなく、家族の協力や理解もなしに続けていけるわけもない。そんな現実とどう折り合いをつけていくか、本書はコウさんなりの実践記録でもある。

 洗い物をどう減らすか。1日3食ちゃんと食べなければいけないのか。栄養は毎食必ず整えなければいけないのか。そもそも手料理でなくては、ならないのか? “我が家なりの在り方”というものを、コウさんが探していく。

 プロの料理研究家だって、料理がしんどいこともある。したくないこともある。そうハッキリと物言えるのは、なかなかいい時代だと私は思う。

 自己表現としての料理から、「料理がしんどい」という人の気持ちに寄りそうようなレシピを作ることに、現在コウさんはやりがいと意義を感じているようだ。彼がこれから発信していく料理が、楽しみ。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

買ってよかった『決定版 感動の冷凍術』! 自炊の手間が省ける、“凄テクニック”レシピをやってみた

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今月の1冊:『ぐぐっと時短&もっと絶品 決定版 感動の冷凍術』著者:西川剛史

 買ってよかった。そしてこの内容で900円は……安いッ!

 自炊をある程度されている方であれば、「この食材、冷凍できるのかな、できないのかな?」と疑問に思ったことは一度ならずあると思う。同時に、この冷凍方法でいいのか、いつまでに食べ切ればいいか、解凍の仕方は適しているのか等々、冷凍に関する疑問を抱えているんじゃないだろうか。

 そして結局のところ、よくわからないまま“なんとなく”冷凍して、解凍して、「まあ……まだ大丈夫だろ」と食べている。私がまさにそうだった。冷凍に関する本はたくさんあれど、コンパクトにギュッと情報が詰まって、見やすく、値段も千円以下という理想的なものにようやく出会えた。

 著者の西川剛史さんは大学で食品栄養学を専攻、冷凍食品メーカーに就職して商品開発にたずさわったのち、独立して「冷凍生活アドバイザー」となった方。定期的にテレビも出演し、食品の冷凍利用に関するさまざまなテクニックを紹介されている。

 「冷凍の最大のメリットは、食材のおいしさや食感、栄養を『キープ』すること」とまず言い切る西川さん。そう、ここなんだよね。野菜や肉などを必要な分使い、その後に放置。「あ、そろそろ使わないと。でもきょう自炊はできない……」となって、とりあえず冷凍してしまう。鮮度の落ちた状態で冷凍しているのだから、解凍して再利用したときに「冷凍したものって、やっぱりおいしくないな」となってしまいがち。使わない分は買ってすぐ冷凍する、がおいしく食べるコツというのはひとつ真理なので、早めに習慣にするの本当におすすめ。

 冒頭で詳解される、冷凍・解凍する上での基本ルールと包み方や下処理のポイント。このあたり、ぜひ熟読してほしい。一般的な解凍法として6つものやり方があること、私も知らなかった。食材によっては、下処理を施す「グレージング」や「ブランチング」という冷凍方法が適していることも。13ページにある「冷凍前・後の約束」というコラムは耳が痛いけど、とても大事なのでぜひ覚えてほしい。

 実践的なノウハウを教える前に、「整理して冷凍」「食べる期限を決める」「冷凍庫の温度を上げないために」をまず考えてほしい、と掲げるところに私は著者の誠実さを思う。

 もちろんレシピもたくさん。冷凍食材を乾燥と酸化から守り、調理の時短にもなる「下味をつけての冷凍」は、休日作りおき派の人なら覚えればさらに便利になるだろう。私が面白いと思ったのは、冷凍した野菜をそのまま調味液に漬けて解凍し、一品完成となるレシピ。上の写真のピーマン、小松菜のおひたしがそれなんだが、“アリ”ですねえ。弁当の副菜づくりにもいいな。

 本の後半、常的に使われる主な食材や、よく作られる料理の計83種類を、どう冷凍し、どう解凍して、どんな料理に使うといいのか、カタログ的にまとめられている箇所がやっぱりとてもありがたい。特に冷凍した野菜は、冷凍後においしく活かせるか、そうでないかは調理法によって激しく分かれるところなので、ぜひとも個々の向いてる料理パターンを覚えてほしいところだ。

 冷凍できないとされてきた豆腐やこんにゃくなどの食材を、「変化した食感を楽しんでしまおう」というスタンスで紹介されているのもよかった。一度凍らせたコンニャクのキュッキュッとした食感は、それはそれでいいもの。市販の冷凍品を活用したレシピも紹介されて、これがまた楽しい。上の写真は、冷凍の皮つきポテトを使った肉じゃが。手間がかからず、味もしみやすくて、ハマってしまった。冷凍術を活用して「調理にかかる手間と時間を効率化して減らすことを、私は『手抜き』ではなく『手間抜き』と」呼んでいます、と西川さん。

 いいなあ、この考え方!

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

「韓国風なすごはん」はぜひ試して! 人気の料理研究家、重信初江のレシピ『味付けご飯とおみおつけ』

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今月の1冊:『味つけご飯とおみおつけ』著者・重信初江

 日本のごはんと味噌汁って、自由だなあ………!

 本書を手に取って、まずそう思った。炊き込みごはんや混ぜごはんなどの「味つけご飯」と、味噌汁が45品ずつ、計90品が春夏秋冬のうつろいに応じて紹介されていく。定番のものあり、意外性に富むものあり、なんとも奥行きのあるレシピ集なんである。

 トップバッター、春のごはんとして紹介されるのは「豆ごはん」、旬のグリーンピースの炊き込み。それと対になるのは、やはり旬のあさりの味噌汁だが、著者の重信初江さんはここに豆苗を組み合わせる。やってみればアサリのコクと豆苗の香りが好相性、初体験の味わいとなった。同じく春野菜のアスパラはハムとカマンベールチーズと一緒に混ぜ込まれ、黒コショウをパラリで完成。「チーズをごはんに!?」と思ったが、やってみると……あら、うまいじゃないの。ピラフ的というか、ごちそう感あふれる一杯になる。

 著者の重信さんは、現在最も活躍している料理研究家のひとり。服部栄養専門学校を卒業、織田調理師専門学校で助手として勤務の後、料理研究家のアシスタントを経て独立。テレビ、雑誌、イベントと各方面からオファーが絶えない人だ。その人気の理由として私は、

・レシピの明快さ、作りやすさ
・ちょっとした意外性

の2点を思う。重信さんのレシピというのはいつも潔い。「この料理に必要なものはこれ。これだけです」と言い切られる気持ちよさがある。「塩コショウ 適量」「醤油 大さじ1弱」といった幅のある表記が少なく、すっきりしてて実に作りよい。

 もちろん全然ないわけではない。今回の本でも「七味唐辛子(好みで)」「昆布 4~5cm長さ」「塩、黒コショウ 各適量」といった表記はあるけれど、頻出はしない。料理慣れしていない人は、選択の幅があるほど迷いも生じて、作りにくくなるもの。なるべくしっかりと道筋を示してあげたい、という思いを感じるのだ。

 突然だが、漫画家の藤子・F・不二雄さんはSFのことをサイエンス・フィクションの略ではなく、「すこし・ふしぎ」のことだと言われていた。私は漫画にとって大事なのはちょっとした不思議感である、という意味も言われていたのではないかと考えているのだが、料理にもそのことを思う。独創的すぎず、さりとて当たり前すぎず、ほどよい意外性が大事ではないかと。「すこし・意外」が作ってみたいと思わせ、作って食べて楽しいのではないだろうか。

 そういったセンスが、重信さんのレシピ集にはあふれている。本書におさめられた味噌汁から例に挙げると、セロリと油揚げ、レタスとハム、モロヘイヤと豆腐、さつまいもとバター……食材それぞれはおなじみのものだが、味噌汁の実としての組み合わせを体験されたこと、あるだろうか。

 上の写真はたたきえびとオクラの味噌汁。「とうもろこしを加えてもおいしい」とあり、やってみたら彩り豊かで、夏がきらめくようなひと椀となった。えびのほんのりした塩気とコーンの甘み、そしてオクラのぬめりのトリオの良さといったら、なかった。

 著者まえがきにある、この言葉を読んでほしい。

 具だくさんのごはんと汁ものの良さは、まず「おかず要らず」ということだろうか。「忙しいけれど、自炊もしたい」と願う人は少なくない。余裕のないときは、具たっぷりの汁をひとつ作って、主食はおにぎりを買ってくるのもいい。手間や洗い物も減る。「こんな組み合わせもアリなのか」という体験を重ねていくと、「これを入れてみてもOKじゃない?」なんて思いつくようになり、食材を使い切るスキルも伸びていくと私は思う。

 蛇足になるが、いろいろ作ってみた中で最も気に入ったのが、「韓国風なすご飯」。ゴマ油が香り、豚ひき肉のコクがしみて思わず食べすぎてしまった。本著を手に取られたらぜひ試してみてほしい。

ツナマヨに、のりの佃煮とキムチ!? 「一体、どんな味?」と話が弾むサンドイッチ&トースト本『ぱんぱかパン図鑑』

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『ぱんぱかパン図鑑』“つむぎや”金子健一 著(扶桑社)

 見ているだけでも楽しくなれる料理本と、出会えた。その名も『ぱんぱかパン図鑑』、タイトルの響きからして、いいですねえ。口に出して言ってみてほしい。ぱんぱか・ぱんずかん。なんだか、ホガラカーな気持ちになってきませんか。

 トーストやサンドイッチの食べ方142種類が紹介されるレシピ本なのだけれど、「大人だけでなく、子どもたちにも楽しんで興味を持ってもらいたい、という想いを込め」て図鑑とした、と(著者まえがきより)。そう、小さい頃に図鑑を眺めてワクワクしたような、あんな気持ちがよみがえってくる本なのだ。

 冒頭に紹介されるのは、18種類ものバタートーストのアレンジ。まずはバターがしみ込みやすいよう、厚切りの食パンに十字に切り込みを入れる工夫から始まる。その切り込みをだんだん増やしてみよう、側面に切り込みを入れてみよう、切り込みではなく太い棒で凸凹をつけたらどうなるか……と、バタートーストが自在に、どんどん変化していく。「食パンにバターをぬるだけのもの」という固定概念がコロコロと転がされ、新しいバタートーストの世界が広がっていくのが実に楽しい。

 次はピザトースト、その次はチーズトースト。王道の作り方もちゃんと紹介されて、これがかなり勉強になる。ピザトーストもチーズトーストも、生まれてからこのかた適当に作ってきた。専門家のレシピをきちんとなぞったことなど、なかった。指示される分量と焼き時間を守って作ってみたら、おお……変わるものだなあ、やっぱり。第1章の序文、著者の言葉で「(トーストは)単純だからこそ奥深く」とあるが、まさにまさに。

 著者の金子健一さんはもともとパン職人で、マツーラユタカ氏とのフードユニット『つむぎや』として、ケータリングや料理雑誌へのレシピ提供で人気を博し、現在は長野県松本市で料理店を営みつつ、料理家としても活動されている。一度松本のお店を訪ねて、お昼をいただいた。食材の良さを生かした、朴実でやさしい味わいの料理が忘れられない。

 「『これ、おいしそう!』とか『どんな味がするんだろう?』『今度これつくって!』と、この一冊が親子の会話のきっかけになりますように」
とは、まえがきにある金子さんの言葉。

 たしかに、「一体、どんな味?」と好奇心が刺激されるメニューがいっぱい。個人的に特に気になったのが、ツナのりキムチサンド。のりはなんと、のりの佃煮。刻んだキムチとツナ、マヨネーズ、のりの佃煮にキュウリの粗みじん切りを一緒にして、パンにはさむ。味の想像がまるでつかない……! やってみれば、クセになる、奥深いおいしさだった。親子にかぎらず、食いしん坊同士で手に取れば、きっと話が弾む本だと思う。

 「パンに何かをのせる、はさむって、こんなにも自由なんだ」と思わせてくれる、金子さんのパン図鑑。「この組み合わせがパンと合うなら、きょうのおかずの残りもはさんでOKかも?」なんてひらめきを、きっと与えてくれるはず。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

ツナマヨに、のりの佃煮とキムチ!? 「一体、どんな味?」と話が弾むサンドイッチ&トースト本『ぱんぱかパン図鑑』

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『ぱんぱかパン図鑑』“つむぎや”金子健一 著(扶桑社)

 見ているだけでも楽しくなれる料理本と、出会えた。その名も『ぱんぱかパン図鑑』、タイトルの響きからして、いいですねえ。口に出して言ってみてほしい。ぱんぱか・ぱんずかん。なんだか、ホガラカーな気持ちになってきませんか。

 トーストやサンドイッチの食べ方142種類が紹介されるレシピ本なのだけれど、「大人だけでなく、子どもたちにも楽しんで興味を持ってもらいたい、という想いを込め」て図鑑とした、と(著者まえがきより)。そう、小さい頃に図鑑を眺めてワクワクしたような、あんな気持ちがよみがえってくる本なのだ。

 冒頭に紹介されるのは、18種類ものバタートーストのアレンジ。まずはバターがしみ込みやすいよう、厚切りの食パンに十字に切り込みを入れる工夫から始まる。その切り込みをだんだん増やしてみよう、側面に切り込みを入れてみよう、切り込みではなく太い棒で凸凹をつけたらどうなるか……と、バタートーストが自在に、どんどん変化していく。「食パンにバターをぬるだけのもの」という固定概念がコロコロと転がされ、新しいバタートーストの世界が広がっていくのが実に楽しい。

 次はピザトースト、その次はチーズトースト。王道の作り方もちゃんと紹介されて、これがかなり勉強になる。ピザトーストもチーズトーストも、生まれてからこのかた適当に作ってきた。専門家のレシピをきちんとなぞったことなど、なかった。指示される分量と焼き時間を守って作ってみたら、おお……変わるものだなあ、やっぱり。第1章の序文、著者の言葉で「(トーストは)単純だからこそ奥深く」とあるが、まさにまさに。

 著者の金子健一さんはもともとパン職人で、マツーラユタカ氏とのフードユニット『つむぎや』として、ケータリングや料理雑誌へのレシピ提供で人気を博し、現在は長野県松本市で料理店を営みつつ、料理家としても活動されている。一度松本のお店を訪ねて、お昼をいただいた。食材の良さを生かした、朴実でやさしい味わいの料理が忘れられない。

 「『これ、おいしそう!』とか『どんな味がするんだろう?』『今度これつくって!』と、この一冊が親子の会話のきっかけになりますように」
とは、まえがきにある金子さんの言葉。

 たしかに、「一体、どんな味?」と好奇心が刺激されるメニューがいっぱい。個人的に特に気になったのが、ツナのりキムチサンド。のりはなんと、のりの佃煮。刻んだキムチとツナ、マヨネーズ、のりの佃煮にキュウリの粗みじん切りを一緒にして、パンにはさむ。味の想像がまるでつかない……! やってみれば、クセになる、奥深いおいしさだった。親子にかぎらず、食いしん坊同士で手に取れば、きっと話が弾む本だと思う。

 「パンに何かをのせる、はさむって、こんなにも自由なんだ」と思わせてくれる、金子さんのパン図鑑。「この組み合わせがパンと合うなら、きょうのおかずの残りもはさんでOKかも?」なんてひらめきを、きっと与えてくれるはず。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

アク抜きしない、ぎゅうぎゅう絞らない、レンチンでOK! “昔の常識”を打ち破る、瀬尾幸子『素材がわかる料理帖』レシピ

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『素材がわかる料理帖 瀬尾幸子の簡単レシピ全114品』瀬尾幸子 著、暮しの手帖社

 なんて役に立つ本だろう。

 仕事柄料理本はたくさん読むけれど、ここ1年で買った料理本の中で、最も手に取る回数の多い本なんである。ひとことで言えば、調理に関して自分を思いっきりアップデートしてくれる本。料理慣れしている人、そしてこれから料理を始めようというビギナーの方々、どちらにも強くおすすめしたい。

 著者の瀬尾幸子さんは、テレビや雑誌で名前を見ない日はないほどの人気料理研究家だ。わかりやすく、誰からも愛される家庭的な味わいに定評がある。本書は前半が「野菜を生かすコツとレシピ」、後半が「肉・玉子・魚・大豆製品を生かすコツとレシピ」という2部構成になっている。

 “この本は、「この素材はこう調理するとおいしい」というコツをまず頭に入れてもらったうえで、料理に取りかかれるような作りにしました”(はじめに)

 まず各素材に関する基本的な説明が語りかけるようになされるが、この口調が実に親しみやすい。トップバッターはほうれんそう草と小松菜。あえて青菜2種を一緒に紹介することで、似たようなものでも、同じように扱っていいところ、違うところ、その差がよくわかる。

「(ほうれん草は)品種改良によって、めっきりアクが少なくなりました。だから昔は常識だったアク抜きが、今はいらなくなっているの。野菜の変化に合わせて、常識も見直さなくちゃいけないんです」

 多くの「見直し提案」が本書ではなされる。料理しながら「昔はこう習ったけど、本当に必要かな?」と思ってしまうこと、ありませんか。青菜のページは印象的な提案が特に多く、ゆで塩は不要であること、ゆでた後はギュウギュウしぼらないことなど、驚かれる人も多いはず。その理由も明確で、読んでいてストンと腑に落ちる。その感覚がとても、気持ちいい。古い垢がどんどん落とされていくようで。

 青菜のページから1品作ってみた。

 「小松菜と豚肉の梅酢みそ和え」、さっぱりした梅みそダレがなんともさわやかで、豚しゃぶと小松菜がいくらでも食べられる感じ。夏にぴったりだ。ギュウッとしぼらない小松菜、水っぽくなるのではと正直心配だったが、ふくよかな食感に驚く。今まで、無駄に菜っ葉の味を損ねていたのだな。また、ゆで青菜の冷凍保存のコツもぜひ知ってほしいポイント。

 最後に鍋レシピが紹介されるのは、なかなか食材を使い切れない人にとってありがたい構成だと思う。そう、所々でよく練られた構成の妙を感じる。そして先も書いたが、瀬尾さんの口調が終始とっつきやすい。教えられているんだけど、口うるさくない(笑)。そこが、ありがたい。

 季節の野菜を手に取るたび、この本を開く。「ああ、そうすればいいのか」「あらら、古いやり方を引きずったままだったか」と教えられ、更新マイセルフ。先日はぷりっと張りのあるナスが安かったので、「ナスの甘酢漬け」を試してみた。レンジでチンしてから甘酢に漬けるシンプルなレシピ。うーん……知らなかったなあ、レンジ加熱してもナスっておいしいのか! もっと色合い悪くなると思い込んでいた。「うま味が凝縮して、程よく食感も残り」「なす本来の甘みと香りが引き立ちます」とあるが、まさにまさに。

 また、別のページではジャガイモやキャベツのレンチン加熱法とその利点も紹介される。「レンジを使うのは手抜きな気がして……」「あっためなおしでしか使っていない」という人に、ぜひ読んでもらいたいポイントだ。

 後半もまた「そうだったのか」がたくさん。「鶏肉に『余分な脂』なんてあるのかしら」や「油揚げの油抜き」などの指摘は読んでいて「ですよねえ!」と口に出してしまった。豚肉の部位別の特徴や、ひき肉についての解説はぜひ知っておいてほしい。買い物するとき、料理するときにかなり役立つから。なお、挽き肉のパートで紹介されるオムレツは玉ねぎや椎茸が入った懐かしい味わいで本当にうまいので、ぜひお試しを。

 本書のラストを飾るのは厚揚げ、「お肉の代わりに使うと、いつものメニューも目先が変わります」とある。おお、我が意を得たり。私はカレーに厚揚げいれるの好きなんだ。たっぷり夏野菜と厚揚げのカレー、さっぱりしていいもんですよ。

 そうそう、欄外にもマメ知識がちりばめられているんだが、厚揚げの煮もののページには「(干し椎茸は)手で砕けば、水でもどさなくても、すぐに煮始められます」とある。知らなかったなあ。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

“私の料理”の幸せに包まれる! 『しょうゆさしの食いしん本スペシャル』食べる楽しみと喜びがあふれるレシピ

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

 食べる楽しみと喜びがこんなにも満ちあふれたやさしい本を、久々に読んだ。スケラッコさんという方のフード・コミックエッセイ、食いしん坊のライター仲間がSNSにアップしていて、気になったのだった。

 まずカバーに並ぶ食べものの絵に、やられた。なんてまあ、おいしそうな。チャーハン、オムライス、フルーツサンド、エビチリ………おいしそうに描かれているだけでなく、著者が向かいあったときに感じたであろう興奮が伝わってくる。「は、早く食べたい……!」ってきっと思ったんだろうな。即、注文してしまった。

 はい、買ってよかったです。

 ざっくり言うと、前半は日々の家ごはんが紹介され、後半は食べ歩きの記録という構成。読んでいる間、もうなんとも「ホガラカー」な気持ちでいっぱいに。人が心から料理を楽しみ、自分の好きな味に満たされているのって、いいもんですねえ。そばで見ていて、こっちも幸せな気持ちになる。

「私の料理は『なんとなく』
調味料はだいたい目分量
この本で記載されている分量も目安ですので
お好みの加減にしてもらえたら嬉しいです!」

 と、最初にことわりがある。このゆるさがうれしい。

 けれど、お米を炊くときは「きちんとはかります」とスケラッコさん。調味料についても、醤油・塩は一般的なもの(きっと値段の手ごろなもので、特別なものを使ってるわけじゃないという意味だと思う)だけど、みりんは本みりん、料理酒はパックの日本酒、そして油は「九鬼 太白胡麻油」を使っているというところに、大事にしているポイントが見えてくる。

 みりんのまろやかさ、甘みは「みりん風」調味料では物足りない。実際スーパーで安く売られているものは「みりん風」が多いのだ。「料理酒」として売られているものは塩が添加されているものも多い。太白の胡麻油はさらっと仕上がるのがいい。

 スケラッコさんの言葉は実に正直で、何のてらいもない。タイカレーはレッドカレー、グリーンカレー、イエローカレーの3種類が有名だが、「私は味の違いがあまりわかっていません」と書き切るところに唸った。なかなかこんなふうに素直に告白できるものじゃない。そしてワカモレのページでは、チリやパクチーを入れるところを「家にないので省略します」「ワカモレじゃなくワカモレ風ですね~♪」とくる。

 これ、これですよ! そう、家の料理だもの、「私」の料理だもの、「~風」でじゅうぶんだ。

 自分がOKならそれでいい。マルちゃん焼きそば1パックが108円で「特売してる!」と反応してしまうところとか、100g298円の牛肉を買う際に「ぜいたくかな……」とためらうところなど、地に足のついた生活人としての感覚にもすごく共感。

 ああ、書きたい感想が多すぎる……! 本の中で紹介される料理もいろいろ作ってみたけど、特に気に入ったもののひとつが、マルタイラーメンを使った「れいめん」(30ページ)。麺の食感とつけダレ、冷やし麺としても実にいい。知らなかったなあ。

 何より好きだったのが、中国の極太春雨「大拉皮(ダイラーピー)」を使った甘辛煮込み(24ページ)。これはね、ぜひやってみてほしい。豚肉とニラが入ってて、食べごたえも味も抜群。うちのツレがすぐさま「また作って」と言ったほど。私の料理ではなかなか言ってくれないのだけれど(笑)。

 後半の「ああ旅情」編、「京都で食べて、飲んで」編(スケラッコさんは京都在住)では、コロナで抑えられている旅欲がもう刺激されてならなかった。この本を片手に広島や徳島でお好み焼きを食べ歩きたい。京都をふらつきたい。

 最後に説明するのもなんだが、この本では主人公が「しょうゆさし」という名前で、醤油さしの形をしたキャラクターとして描かれる。なんで醤油さしなのかはわからないけれど、醤油さしがうまさにビックリしたり、しみじみしたり、「ご満悦……!」といった風情でウットリする様がなんとも、いいんだ。表情豊かで、ほのぼのとして。

 寝る前に読むと心があったかくなって、よく眠れる。そんな本です。

料理がグッと気楽になる! 簡単・うまい・栄養◎、『70歳からのらくらく家ごはん』レシピがスゴイ

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

 この本は「70歳からの」とタイトルにあるけれど、広い世代に役立つ食の知恵がつまっていることをまず書いておきたい。特に「きちんと料理しなきゃと思いつつ、できてない……」と罪悪感を抱えている人、できあいを買ってくることが多く栄養バランスが心配な人などは、「そんなことでもいいのか!」と気が楽になると思う。もちろん高齢の方、そして高齢の親御さんがいる人なら、ぜひ一読をおすすめしたい。

 筆者の中村育子さんは在宅訪問管理栄養士。在宅診療を受けている患者さんの家を訪ね、栄養指導を行われている。

「20年以上、いろいろな家庭を訪問し、食事面や栄養に問題を抱えている人が大勢いることを知りました。最近は老老介護や男性介護者も増えており、特に、料理をしてこなかった男性がメインの介護者になると家事が負担になり、追い詰められてしまうケースも見てきました」(まえがきより)

 ずっと料理は誰かに頼りっぱなしだった人が、介護せざるを得なくなり、料理ができず途方に暮れる……という話はよく聞かれる。

 栄養バランスだけではなく、どうしたら調理のハードルを下げられるか、という思いから、中村さんは「市販品をフル活用した簡単料理」を考えた。冷凍食品、缶詰、できあいのおそうざい、そしてレトルト介護食品に「ほんの少しだけ手を加えた」料理の数々。下ごしらえの手間が省け、味つけの失敗もなく、すべて手作りするより安価であると中村さんは説く。

 うーん、大賛成! これはご高齢の方のごはんでなくとも言えること。調理経験がない人でもとっつきやすく、保存期間の長いものが多いので、食材を無駄にする可能性も低い。料理に時間はあまりかけられない、手間は少ないほうがいい、でも栄養も考えたいという人にも、中村さんの考える料理を知ってほしい。

 レシピの最初に紹介される「ギョーザのスープ」は、冷凍餃子と冷凍ホウレンソウに白菜と椎茸、卵を加えてつくるもの。味つけは顆粒だしと醤油のみ、一つの鍋だけでできる。実際作ってみると、手軽さと料理的達成感のバランスがとてもよくとれたレシピであることがわかる。作りやすいけれど、それなりに料理した気持ちになり、野菜もしっかりとれる。今まで料理をしてこなかった人にぜひ作ってみてもらいたい。

 本書には46のレシピが紹介されるが、個人的にヒットだったのが「魚の缶詰でごちそうポテトサラダ」(59ページ)。おそうざいでポテサラを買ってきて、キュウリとサンマのかば焼き缶を混ぜていただくもの。野菜の副菜に手軽かつおいしくたんぱく質をプラスする、お手本のようなアイディアだな、と。

 味つけはもう決まっている、失敗しようがない。「骨ごと食べられ、カルシウムも補給」できる。これをパンではさめば、もう一食が完成だ。

 写真は、たまたま家にあったイワシのかば焼き缶とたっぷりの青ネギを混ぜてアレンジしてみたもの。うん、これもおいしいぞ。サラダチキンでやってもいいだろうな。

 さて、みなさんは親御さんが現在どんな食生活をしているか、ご存じだろうか。年をとるとだんだんと硬いものがつらくなり、のみこむ力も弱くなる。知識としては知っていても、実際自分の親が今どうなのかは確認しにくいもの。また「老いを認める」というのも嫌なものだろうと思う。食べること、作ることに難しさを抱えていても、肉親には言いにくい……ということは多いのではないだろうか。

 本書内では、高齢の方々の食に関するリアルな悩みも紹介される。若い頃では考えられないようなことが、できなくなる。体や歯が丈夫なうちは、どういうものが「食べにくい」「噛みにくい」のか想像もつかない。あらかじめ知っておけば、対応ができる。以前より小さく切ってみる、以前より10分長く煮てみる、というアドバイスは些細なようでいて、経験のある人だからこそできることだ。

 「昔のようにせん切りがきれいにできなくなってしまい、自信を失った」(大意)という悩みには胸をつかれた。日々料理することで自身の老いを如実に突きつけられるというのは、どれほどしんどいことだろう。それぞれの悩みに対して中村さんは常に「がんばりすぎないで」「完璧にこなそうとしすぎないで」とエールを送る。その視線が実に、あたたかい。

 「自粛」期間が続き、帰省がはばかられる日々が続く。70代半ばに近づくうちの親はしっかり食べてくれているだろうか。この本を送ってみようと思う。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に 自炊力にっぽんのおにぎりジャパめしなど。