ブロッコリーも豆苗にように再び収穫できる!? キッチンでできる「日本一カンタンな家庭菜園」がすごすぎ

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『キッチンからはじめる! 日本一カンタンな家庭菜園の入門本 おうち野菜づくり』宮崎大輔著

 リボベジという言葉をこの本で知った。

 リボーンベジタブル、野菜の再生栽培のことだそうな。「スーパーで買った野菜の切れ端から、その野菜が再生」できる、と前書きにある。

 なるほど、つまり私もリボベジは何度も体験していたのだ。豆苗である。豆苗は発芽した豆と根っこがそのままセットでパッケージされて売られている。食べる部分を切り取ったあと、トレーにのせて水に浸けておくと数日でまた成長し、再び食べられるのだ。実際にやったことのある人も多いはず。

 本書でも豆苗は紹介されている。見てみると(134ページ)、難易度は☆4つのうち、最も簡単な☆1つ。最初に食べるとき刻むべきところや、トレーにはる水の適量などなど、今まで特に気にもせずやっていたポイントを教えてくれるのがうれしい。

 庭がなくとも、タネを買わなくても野菜づくりはできる。日頃食べる野菜の一部を使うからお金がかからない……と、リボベジの魅力を説くのは農業コンサルタントの宮崎大輔さん。日本や海外を相手に農業経営のコンサルティングをする一方、家庭菜園のコツを伝えるYoutuberとしても活動。チャンネル登録者は約13万人という人気者だ。

 数は決して多くないが、本書にもQRコードがあり、動画解説とリンクする項もある。宮崎さんは語り口がおだやかで、変に浮かれたところがなく、聞いていてとても安心感があって分かりやすい。

 そんな語り口が、本書の構成でも再現されている。各野菜の特徴や育て方が無駄なくシンプルに示され、読んでいて頭にスッと入ってきた(一度でも宮崎さんの動画を見ていると、さらに読みやすさはグンと上がると思う)。

 食べる分にはなじみのある野菜の、知らなかった一面を知れるのも楽しい。なんだかその野菜の「性格」を知れたような、そんな面白さ。「クレソンはとにかく生命力が強い」「モロヘイヤのサヤやタネ、老化した枝葉には毒がある」「モロヘイヤは花も食べられる」「ブロッコリーは再生栽培野菜としては最高レベルの難しさ」なんてくだりには、へええと声を出してしまった。

 しっかり読んでおきたいのは「基本アイテム」のところ。このへんをおざなりにして適当に買いそろえてしまうと、後で結局不便を感じ、買い直すことは多いのだ。

 園芸シートや日付を書き込めるタグの重要性、やってみると分かるが大事なんだよなあ。スコップやジョウロといった超基本アイテムの選び方もさらりと書き込まれていて、本の信頼性を増している。

 身のまわりにある日用品を野菜づくりに応用しよう、というコーナーも楽しい。ペットボトルや牛乳パックはおなじみかもしれないが、内側にプチプチのついた封筒や調味料のプラ容器も向いているとは知らなかった。詳細はぜひ本書で。

 バジルやミントは本当に増やしやすいので、興味のある方はぜひ試してみてほしい。ビギナーからちょっと腕に覚えのある人まで、広く使える本だと思う。

 また野菜作りを経験すると、その野菜が苦手なお子さんも積極的に食べるようになるという話は実によく聞かれる。お子さんがいる方は、春から一緒に試してみてはどうだろう。

 私は大好きなクウシンサイをもう少し温かくなったら試してみるつもりだ。しかしクウシンサイが水浸けから増やせるなんて、思いもよらなかった。ちなみに宮崎さん判定による生育難易度は☆2つ、どうか成功しますように。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

2021年、心に残る「食の本」をフードライター・白央篤司が選出! レシピ集やエッセイなど4冊

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター・白央篤司が選んでご紹介!

2021年、「心に残る食の本」4冊

 さて師走に入り、2021年もじきにおしまい。今年も食関係の本が数多く出版された。コロナの影響でレシピ本を求めた人は昨年に続いて多かったよう。レシピ以外のものも含めて、心に残る食の本を今回は4冊ご紹介したい。

絵本:『えきべんとふうけい』マメイケダ著

 絵本っていいなあ。そんな気持ちを久しぶりに思い出した。

 おいしそうな表紙に惹かれて本を開けば、しょうゆさしが空を飛ぶ。駅弁を買うひとを見かけて「ぼくも のりたくなった」と始まる電車の旅。東京から島根あたりまで、楽しい旅が続いていく。

 車窓いっぱいに広がる大河に海原、そして富士山。知らないまちの家並みをぼんやり眺めるのも、列車旅の好きな時間だ。何より見開きで描かれる弁当の数々がなんとも魅惑的で。駅弁を開けるときの期待やウキウキする気持ちがよみがえる。

 著者のマメイケダさんは1992年生まれ、高校卒業後に総菜調理の仕事をされてから画業に進まれたとプロフィールにある。旅が好き、食べることが大好きだけど、やっぱりまだ遠出は控えたい……という方にもおすすめしたい一冊。

フォトエッセイ:『おいしいレシピができたから』藤井恵 著

 あまたいる料理研究家の中でも、藤井恵さんはトップクラスの人気を誇るひとりだ。私は彼女の人気の理由をその「堅実さ」にあるとみている。地に足の着いた日本の家庭料理を軸とし、ごく普通の食材と調味料と道具で作れるレシピを常とされ、テクニック的にもある程度の料理経験があれば作れる「ほどよい範疇」をかたくなに守る。それでいて、どこか料理に華がある。

 そんな藤井さんは料理研究家になって22年。「このへんで一度、ひと区切りしようかと」思われて、フォトエッセイを作られたようだ。こういう本は正直、「素敵なわたしの素敵ライフ」をごく浅く、軽く紹介して終わるものもなくはない。しかし藤井さんはそんなことはしなかった。

「数年前から、50代という年齢をどうとらえたらいいのか迷っていた」

 いつまで、好きなことができるだろう。残りの人生、何がしたいのだろう。

「ここ13年、体のあちこちが順番にトラブルを起こしている」

 老いを感じるが、それは誰にでも平等に来るもの。淡々と今すべきこと、したいことを考え、選択していくさまが飾り気のない筆致で描かれていく。

 これまでの振り返りも実に率直でおもしろい。ネットであるとき「セレブ料理研究家」と書かれたのを見つけ、「セレブだってさ、笑っちゃう。私の極貧時代を知らないな?」とつぶやくように書く。そこからどうやって現在の「場所」を築いてきたのか。

 仕事に没頭したいが子育てもある。夫婦間には「氷河期」もあったと。料理誌編集者とのやり取りで自分の仕事が磨かれていったくだりなども実に興味深い。ともかく率直に、ひたむきにつづられた自分史だった。

 料理にある程度慣れて、いろいろ作ってみたい、もっと料理を覚えたいと思う人におすすめしたい一冊。

 「塩加減」を知ることが、すなわち料理上手への道だと私は思っている。素材に対してどの程度の塩をして、どの程度調味上の塩気を加えたら、完成の際にちょうどよくなるのか……というのをいかにつかんでいくか。

 計量するのではなく、自分なりの「ひとつまみ」を体で覚えていきましょう、というのが本著の狙いだと私は見た。最低限の塩分で、存分においしさを引き出す、演出する。そのための格好のドリルである。

 著者の荻野恭子さんは世界65カ国以上を訪ねて現地の方々に料理を習い、研究を続けてきたベテランの料理研究家。書内でも各国の料理が紹介されている。

 「料理は、子育てに少し似ていると思います。子育ては見守ることがいちばんたいせつで、へたに手を出しちゃいけない。料理も同じで、なにかを焼くときはあんまりさわらないほうがいい。じっと見守って。でも、じっと見てばかりもいられないから、目を離す勇気も必要」という言葉は至言だ。

マンガ:『しあわせは食べて寝て待て2』水凪トリ 著

 今年の7月に紹介した作品の続巻。

 病を抱え、フルタイムの仕事が難しくなった主人公・麦巻さとこ。転居して知り合った周囲の人々から良い刺激を受け、薬膳に興味をもっていく。第2巻では生きる強さを少しずつ取り戻し、年下の人間を気遣う大きさも見せる。

「(昼に食べた)カレー、少し重かったかな。夕飯はお粥にしとこか」
なんてセリフがサラッと入ってくるところに、この漫画の価値を思う。自分の体の声に耳を傾けられ、日々の食事のバランスを考えられる。これこそが養生の基本、人生で早いうちに身に着けたいスキルだ。

 さとこはこの後お粥を作って、自分なりに良いと思う野菜をトッピングする。まずは無塩で味わい、次に塩気のあるおかずと共に楽しむ。彼女が大事にしたい「食の豊かさ」があざやかに描かれていた。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

男性社会で「主人」として生きる女の姿に引き込まれる! 『女将さん酒場』が伝える13人の悩みと決断

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『女将さん酒場』山田真由美著 

 よくある本だろうと思った。

 日本各地の名物女将さんを紹介する、食べある記かグルメレポート。軽い気持ちで書店の棚から手に取り、数ページ読んでグイグイと引き込まれた。即買い。いわゆる酒場の女将さんたちも紹介されるが、中には食堂やラーメン店の店主、オーガニック料理店やイタリアンのオーナーシェフも含まれる。

 このイタリアンのシェフ・渡邊マリコさんなる人のくだり、ちょっと長いが引用したい。

 「女性を厨房で雇うわけにはいかない」

 求人情報を頼りに、調理スタッフを募集しているイタリア料理店の門をたたくと、ことごとく断られた。時は一九九六年、男女雇用機会均等法が施行されて十年。性別を応募条件にすることはできないため、現場で男性が欲しいと思っていても、表向きは「性別問わず」と示さなければならなかった。渡邊さんは「男女問わず未経験可」の条件で、都内じゅうを探したが、いざ面接となると「ハードな仕事だから女性は無理」と返されてしまう。(中略)「そんなにやる気があるんだったら、ホールで雇いたい」と言われた。

 著者の山田真由美さんは、この調子で実につぶさに、丹念に、飲食に従事する女性13人の人生を追っていく。年齢も飲食形態も様々な人々が、どうやって食の道に入り、店経営を志して、達成させたのか。そして今、自分の空間で何を生み出しているのかが描かれていく。

 ただレポートするのではない。山田さんはそれぞれの女将さんの仕事を眺めつつ、いろいろな思いを膨らませ、ユニークな表現でそれらを伝えてくる。鎌倉の人気居酒屋「おおはま」の大濱幸恵さんの仕事ぶりは、

「カウンター越しにつぎつぎと料理を仕上げていく大濱さんを見ていると、マイルス・デイヴィスの『フォア・アンド・モア』というアルバムを思い出す。(中略)マイルスは、疾走感あふれるスリリングなセッションを繰り広げている。我が道に敵なし、とリズムを刻み続けるジャズの帝王と、目指す場所がクリアで、そこに向かって迷いなく前進しているように見える大濱さんとが重なるのだ」

といった表現で。オープンキッチンで料理人の動きを見ていると、たしかに音楽が心に再生されることがある。ある人は優雅なストリングスだったり、ある人はゆったりしたレゲエだったり。ああ、マイルスを感じに鎌倉に行ってみたくなる。

 山田さんはライターであり編集者でありつつ、月に10日だけ酒場で女将さんとしても働いているという。つまりは同業者によるレポートなのだ。大根の皮や昆布(おそらく出汁用)を使ったお通しを「始末の料理」と表現し、最後まできれいに使い切らんとする料理人の姿勢を読み取る。彼女が紹介する女将さんたちの店や味に共通することとして「ほどよく箸がすすみ、酒がうまく、疲れない」というのを挙げているが、きっとこれは山田さんも目指していることなのだろう。

 そういう場所を提供したいと願い、実践している人たちに「もうひとりの自分」を見い出し、激しく共感するのではないか。彼女たちの人生や矜持を知りたい、書き残しておきたいという熱いものを何度もこの本から感じた。

 女将というと「女房役」という印象を持つ方もいるだろう。

 「しかし、令和の時代、女将という職業、もっといえば生き方の幅は広がって」おり、「女房役でない新しい女将が誕生している。現代の女将は、自ら庖丁を握り、客をもてなす。どこかに所属するのではなく、自分の身銭を切って店を切り盛りする」のだ。冒頭で引用したイタリアンの渡邊さんがしたような就職の苦労は確かに減ったかもしれない。しかし、料理界は依然として男性のほうが多い。

 「キャリアを積んでも、妊娠、出産、育児という大事業」があると両立はやはり難しい。渋谷で小料理店「こしの」を営む越野美喜子さんは、子どもが大きくなった時点で仕事をしたいと望んだが「会社員経験のない主婦に門戸は開かれ」ず、自分で商売をやるしかないと思い至る。伊豆下田の居酒屋「賀楽太」の土屋佳代子さんは45歳のとき、子どもが独立した後「宿題を忘れたような何か物足りない気持ち」になって店を始めた。清澄白河で「酒と肴 ぼたん」を営む金岡由美さんは店を始めるとき「子どもを育てる人生か、子のいない人生か」をずいぶん悩まれたそう。「でも、私はこっち(店)を選んだんです」と。

 いろんな決断を経て、自分の場所を持った13人の女将たち。彼女たちの哲学、覚悟、そして「これだけは譲れない」といったものが店の核となっているのを読んでいてまざまざと感じた。良い客がついて離れないのは、核のある店だ。真核あればこそ、店はブレない。主人の確固たる価値観があればこそ、客はくつろぐことができる。そんな良店の姿を、歴史を、たっぷり味わうことのできる妙(たえ)なる本だった。

 あ、最後に! それぞれのお店のおいしい料理についても本著はしっかり触れられている。私は読んでいてもうたまらなくなり、清澄白河のお店に電話して、まだ読み終えていない『女将さん酒場』を片手に駆けつけてしまった。結果は大満足だったことを書き添えておく。これから残りの店をじっくり訪ねていこうと思う。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

「551HORAI」「ぎょうざの満洲」は、なぜローカルチェーンのまま? 地元で愛され続ける“生き残り戦略”がすごい!

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今月の1冊:『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』辰井裕紀著 

 「その土地ならではの食べもの」というと、郷土料理をイメージされる方が多いだろう。しかし実際に各地を旅してみると、郷土料理は祭りや正月などの特別な日のものであるか、観光用のことが多くなっている。地元の人に「この地域ならではの食べものといえば?」なんて聞き込みをすると、ローカル飲食チェーンの定番メニューを挙げる人は少なくない。

 各地で愛されるローカルチェーンは数多くあるが、その中から特に繁盛し、ビジネス上の工夫が見られるチェーンを取材したのがこの本だ。「ローカルチェーンならではの生き残り戦略に注目した」とまえがきにある。著者は『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ系、放映当時のタイトル)で7年ほどリサーチャーを務めた辰井裕紀さん。

 「チェーン店というと、どうしても没個性のイメージがある。しかしチェーン店は個性の塊だ」と辰井さんは説く。独自の着眼点をもって商品開発をし、その土地にふさわしい味わいとサービスを考えるローカルチェーン。本書のあちこちから、その魅力に迫りたいという熱い思いが伝わってきた。

 「個人商店よりうまいチェーン店はいくらでも存在する。『チェーン店だから』と(レビューサイトに)5を付けるのを躊躇する人は、いますぐ心のブレーキを外そう」なんてくだりには「そうだそうだ!」と喝采を送りたくなった。本書で取り上げられるチェーンのうち、岩手県の「福田パン」、大阪府の「551HORAI」、埼玉県の「ぎょうざの満州」、熊本県の「おべんとうのヒライ」は私も実際に食べたことがあるけれど、近所の人がうらやましくなるクオリティと価格帯だったことを思い出す。

 そんな各社の味と経営上の工夫点が本書には詰まっているのだが、私は「ローカルであり続ける理由」を興味深く読んだ。「551HORAI」の「本部としてあらゆる要素をくまなく管理できる上限は60店舗程度」とする潔さ、「おにぎりの桃太郎」が新鮮さを第一に考え商圏を拡大をせず「食べ物屋とおできはおっきくなったらつぶれるぞ」と祖母がよく言っていた、なんて現社長が語るくだり、「そこに行かなきゃ味わえないほうが価値はある」という「福田パン」社長の考えなど、読んでいてとても引き込まれる。留まる勇気、広げない英断というのもあるのだ。

 同時に「地元の人々により近く、より親しみやすく」を研究・実践してきた企業の安定感を思う。茨城県の「ばんどう太郎」など県産米を全店で使用し、仕入れ値は相場より高くするというのに恐れ入った。「地域一丸となった成長を考えている」という理想を追求している。こういう取り組みは口コミで住民の間に広がるもの。有事のときに日頃の行いが返ってくる。

 本書はコロナ禍における各社の状況と対応も描かれ、その点でも貴重だが、やはり地元客の「好きな店を守りたい」という買い支えをうかがえるケースが多かった。また従業員の勤務体制のホワイト化に取り組む社も書内では紹介されている。おいしさと値段に加えて「どんな企業であるか」ということも、飲食店を選ぶ上での参考にしたいと私は思っている。

 さて読み終えて北海道・十勝の「カレーショップ インデアン」のカレーを食べてみたくて仕方ない。そして「551HORAI」の甘酢団子は、食いしん坊なら大阪に行った際はぜひとも試してみてほしい。私はどんなに荷物がいっぱいでも必ず買って帰る。

間違いなくおいしいと断言できる1冊『このひと皿で五感がめざめる、パワースープ』

 今回はもう1冊、料理が大好きでたまらない人におすすめしたいレシピ本をご紹介。『このひと皿で五感がめざめる、パワースープ』(坂田阿希子著、文化出版局/21年2月22日発行、税込み1,760円)はその名のとおり、35のスープレシピと、チキンスープストックの作り方、あまり野菜を使った簡単なスープレシピが3つほどまとめられた本。料理研究家は数多くいるけれど、どれも間違いなくおいしいと私が断言できるひとりが坂田阿希子さんだ。坂田さんのレシピはいつも料理好きの心をくすぐってくる。

 「とてつもなく疲れていて、とてつもなくおなかが空いたときも、わたしは迷わずにスープを作る」と前書きにある。良いスープは食材のおいしさが濃縮されて、消化によく、食べやすい。作ってしまえば、パンひとつで食事が成立するのもありがたい。これからの寒い時期に“元気のもと”として、坂田さんのスープを試してみてほしい。まずは基本のチキンスープから。そこからきっとあなたの料理の幅は広がっていく。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

カレーの存在意義は「辛さ」にあらず? 目玉焼きは卵2つがデフォルト!? 食べ物を説明する『国語辞典を食べ歩く』が面白い

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『国語辞典を食べ歩く』サンキュータツオ著

「無人島に1冊持っていくとしたら、何を選ぶ?」

 よくある話だが、私ならまよわず辞書と答える。辞書を読むのが小さい頃から好きだった。「こんな言葉があるのか」「この言葉には、私が知っているのと別の意味もあるのか」と、ただ読むのが好きだったのだ。知らない言葉でも、漢字の組み合わせで大体の意味が分かるものあり、まったく想像もつかないものあり。知っている言葉でも、意味を説明されると「なるほど」と思うことは多く、頭の中にぼんやりとあった語義が濃く上書きされるような感覚は、妙に快かった。

 休み時間に辞書を読む小学生。学校では思いっきり浮いていたが、長じて大学の文学部に入り、また出版業界に関わるようになると、同類がまあまあいることを知る。

 そんな同類さんたちが、このような書評ページを読んでくれているのかもしれない……という期待をもって今回は『国語辞典を食べ歩く』を選んだ。簡単にいえば、料理や調理道具、食材の名前を複数の辞書で引いて、その説明や解釈を読み比べる本である。

 辞書とは、言葉の意味を示すもの。語義の核となっていることをどう表現・説明するのか。辞書それぞれに工夫と苦心があり、読み比べると辞書の個性差や編者たちの思いが見えてくる――著者はここを読み解いていく。

 まず例にとられるのがハンバーグだが、その形ひとつでも辞書によって記述が違う。「楕円形」「平たく丸い形」「小判形」とある中、岩波国語辞典は形に触れず「フライパンで焼いた」という条件をつける。冒頭では代表的な辞書の特徴が説明されるのだが、岩波は「主観的な記述を控えた洗練された語釈」がウリとある。うーん、なんだか納得。

 カレーの項など、各辞書に「辛いという情報があまり載っていない」という点から「日本では『甘口』というカレーがあるように、辛いことがカレーの存在意義ではないことが明らかであり、それをもとに『辛い』とあえて書かないという配慮が見てとれる」と著者は推察する。なるほどなあ。

 目玉焼きの項では「卵二つ(で作るもの)」がデフォルトの記述になっており、日常的に私は片目玉焼きを作っていたのだと気づかされた。雑炊は増水の変化だとか、包丁には「料理する人」の意もあるなどのトリビアも楽しい。丁という字には召し使い男の意があるという。そうか、丁稚(でっち)という言葉がストンと来た。辞書を読んでいるとこういう豆知識がどんどん繋がっていくのも面白いのだ。

 同じ辞書でも版によっての違いがあり、そこへの切り込み方も深い。冷奴の項では、岩波国語辞典の第八版にある「豆腐を冷水でひやし」という箇所に著者は注目する。前の版では「なまの豆腐を冷水でひやし」とあり、「なまの」が削られたわけだ。

“高野豆腐などを想定していたのかもしれない。けれど、むしろそっちのほうが豆腐の亜種なのだから、普通の豆腐は「豆腐」でいいだろうという判断か。こういった数文字の言葉の削りっぷりに、「なぜ?」と考えるのが私の楽しみなのです”

 世の中にはいろんな愉悦があるものだと思うが、辞書編纂者の推敲の軌跡をたどる楽しみというのはかなりレアな部類だろう。けれど……分かるなあ、そういうの。

 著者のサンキュータツオ氏は漫才師として活動する一方、日本語学を専門にして一橋大学や早稲田大学で非常勤講師も務めている。また広辞苑の第七版ではサブカルチャー分野の執筆を担当されてもいるそう。

 身近な食べ物を切り口にして、辞書の深さ豊かさを存分に教えてくれる一冊。私は新明解ユーザーだったけれど、「種類や製法に関しては抜群にくわしい」「おしゃれなグルメ」である明鏡国語辞典を併用しようと、早速注文した。

どうしても紹介したい1冊『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』

 さて、今回はもう1冊。基本的に食本書評では1年以内に発売されたものを紹介しているのだけれど、先日たまたま手に取ったエッセイがあまりにも素晴らしかったので、どうしても紹介したくなった。

 『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』(くどうれいん著 BOOKNERD 2018年 1,000円税込)は78ページ、手のひらサイズのエッセイ集。書店で見かけてなぜかどうにも気になり、素通りできなくてジャケ買いした。勘は当たった。

「菜箸を握ろう。わたしがわたしを空腹にしないように。うれしくても、寂しくても、楽しくても、悲しくても。たとえば、ながい恋を終わらせても。」

 日々の生活の中で作者がつかんだ「描くべきもの」、その詩情がなんとも見事に言葉となって文章の中で結実していく。すべてが最小限にそぎ落とされて、あざやかで。それらは詩のようでもあり、コラムのようでも、映像のようでもあり。

 なんというのか……食べものを入口として、自分の心の中の鍾乳洞を歩いていくような文章だった。いや暗いという意味じゃなくて、夜空だからこそ花火は美しいというか、地下だからこそ響きも澄んで普段聞こえないものも聞こえてくるというか。

 しかしこんなにみずみずしい言葉のつらなりは久しぶり。文章のタイトルがそれぞれ俳句になっていて(著者は作家であり、歌人・俳人でもある)、「年下の水鉄砲に打たれてやる」というのが特に好きだった。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

料理研究家だって、料理はつらかった!? 賢人が明かす「飽きずにラクに」続けていくための台所術がすごい

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『料理がしんどいあなたへ ラクしておいしい台所術』

 今回紹介する本は、7人の料理研究家の考えをまとめたもの。まずメンバーを紹介したい。

瀬尾幸子
小田真規子
武蔵裕子
脇雅世
石原洋子
渡辺麻紀
前田量子

 の各氏である(登場順)。多くの料理編集者から長年信頼を集める、そうそうたる面々だ。彼女たちによる「日々の料理を効率よく省力していくには、こうするといいよ」的アドバイスが詰まった本なのである。

 帯には「賢い手抜き法」とあるが、手抜きというよりも、毎日続く家庭料理をどう合理的に考えるか、無理や無駄をどう省いてシンプルにしていくか、といったそれぞれの哲学が、とても分かりやすくまとめられている。

 料理が面倒な人に向けられた本だが、年齢を重ねて体力や気力が落ちてしまい、キッチンに立つのがつらくなってきたシニア世代へのアドバイスが豊富に含まれるのも本書の特徴だ。

 料理研究家とは基本的に皆、かなりの食いしん坊である。当然、料理が大好きだ。そんな人たちも年齢と共に量は食べられなくなり、嗜好も変わる。重たい鍋や食器はつらくなる。そんなもろもろの変化にどう対処・対応してきたか。それぞれのシーンで得た様々な知恵が語られていく。

 トップバッターの瀬尾幸子さんの言葉では、「飽きないごはんとは、繰り返し作れるもの」というのがまず響いた。材料がいろいろ必要なものは、結局作らなくなってしまうことが多いと。凝った料理は「作るのにも食べるのにも体力がいる」だから家庭料理には向かない、という喝破。

 そう、繰り返し作れるもの、無理なく作れるものこそが家庭料理だ。家庭料理というのは家の数だけその形があるけれど、「担い手にとって無理にならない料理」ということだけが共通項じゃないだろうか。日々の自炊は連続するもの。飽きずにラクに続けていくためには、「その人が作りやすいもの」を主体にするしかない。冒頭に瀬尾さんの言葉を持ってきた構成は正しいと思う。

 続いての小田真規子さんは、栄養面から使い勝手までを総合的に評価した「パフォーマンスがいい食材」を選ぼうという提案をされる。「栄養価・調理のラクさ・見栄え・買い物のラクさ・日持ち」の5項目から、小田さんがすすめる食材や活用法が紹介される。具体的な指標がほしい人にありがたい内容だろう。中でも油と水で蒸し煮にする調理法は私も毎週のように実践している。素材の味がしっかり感じられつつラクなので、おすすめ。

 高齢の親御さんの料理を作り続けてきた武蔵裕子さんは、大事なこととして食材を「やわらかくすること」を挙げている。これは、本当に大事なこと。高齢になる前から知っておいてほしい。歯が弱ってくるのは意外と早いから。

 実際にシニア年代にさしかかる前に、食に関することで人間はどう弱っていくのか、どう対応ケアしていけばいいのかを予習すると、大きな「転ばぬ先の杖」になると思う。料理の賢人たちによる「私はこんなふうに体の変化に対応した」というエピソードの数々は、知っておいて損はない。

 各氏の印象的な言葉を紹介していったらキリがない。石原洋子さんの和食の基本の味つけ、そして薄いときは「均等に増やす」という考え方には唸った。渡辺麻紀さんのすすめる「半調理の作りおき」は、同様のことを瀬尾さんもすすめており、私も同意見。食材を味つけせず加熱して保存しておくことだが、いろいろな料理にすぐ加えられて便利だし、なんならポン酢でもかけてそのまま食べられる。

 管理栄養士でもある前田量子さんの具体的な「栄養バランスのいい食べ方」は大変分かりやすく具体的。栄養意識があり、「自分を整える」ことに興味のある人なら引き込まれると思う。前田さんは電子レンジの活用も提案されており、火を使いたくない派が増えている現在強く求められるものだと感じる。

 料理において何を便利でラクと感じるかは人それぞれ。「これならできそう」「試してみたい!」 と思えるアドバイスが何かしらきっとあるはずだ。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

38歳、いろんな不安で冷えた心が息を吹き返す『しあわせは食べて寝て待て』――ショウガ紅茶のように体が温まる一冊

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『しあわせは食べて寝て待て』水凪トリ 著 

 こういう本が読みたかった。

 一気に読んでなんだか……おなかが温かくなったような気がした。ショウガ紅茶を飲んだ後のような、おいしいお粥をいただいた後のような。もう一度じっくり味わって読んで、肩の力が抜けて、自分が少し楽になっているのを感じた。

 主人公の麦巻さとこは38歳、「一生つきあう病気」を抱えてしまい、会社を退職。実家も頼れず、週4のパートでギリギリの生活を続けている。日常生活は一応おくれるが、無理するとすぐに体が弱る。だから、仕事を増やすのは難しい。もっと安いところに越そうか……と考えていたとき、築45年の団地物件に案内された。そのとき居合わせたのが、大家であるおばあさん。

 彼女はさとこの不調に気づき、ある食べものをすすめる。半信半疑で試すさとこ……と、ここから広がるのが薬膳の話。「あんずはノドを潤す」「梅雨のときは黄色い食材が良い」などなど、食と体の関係が描かれる。作者の水凪トリさんは主人公同様に持病があり、体調を整えるため薬膳を意識し始めたそう。いろいろ実践されて、効果を感じたものを作中に描いていると「あとがき」にある。

 私が「信頼できるなあ……」と感じたのは、物語の早々で「(薬膳は)薬じゃない」と提示されること。食べもので症状が改善しても、それはいろいろ良い条件が重なったからかもしれないと、いたずらに効能をうたわない描き方に好感を抱いた。さとこは次第にのめり込み、薬膳に詳しい大家さんの「息子」なる人物に「いろいろ教えてください」と頭を下げるのだが、「病人には責任が持てないので」ときっぱり拒絶される。ここも誠意ある展開だなと感じ入った。

 そう、繰り返すが食べものは決して「薬」にはならない。健康な状態で、好調をキープするためには大事なことだけれど、病を治す力は食物にはないのだ。

 物語は薬膳を小道具にしつつ、さとこの生き方を軸に進んでいく。以前の勤め先で受けた中傷、思い切り働けない負い目、何より将来への不安……もろもろで心はすっかり冷えて、萎縮している。そんな彼女が、人生を達観している大家さん、その「息子」、新しい会社で関わる人々から、ささやかな善意を受け、ちょっとずつ心の息を吹き返していく。その描かれ方がなんとも穏やかで、やさしくて、ほのかな希望を感じさせてくれて。

 今はいいことないかもしれない、つらいかもしれない。でも「運が巡ってきたときのために、少しでも元気になっておきなさいよ」と、大家さんはさとこにアドバイスする。果報は寝て待て、タイトルに関わってくるメッセージだ。人間なかなか毎日「本調子!」というわけにはいかない。食欲が湧かない日だってある。けれどまあ、調子が良くなったきたとき、運が向いてきたとき、きちんとその運を受け止めるためにも、何かしら食べておこう。日々食べることをおざなりにしないようにしよう。体が求めているものを考えて、自分に滋養を与えよう――といった作者の思いを、私は『しあわせは食べて寝て待て』から感じた。

 コロナ禍が長引き、「非日常」がどんどん日常化してしまっている。つらいニュース、やりきれないニュースも多い昨今、心に温かみを求めている人に強くおすすめしたい一冊。そして第1巻の最終話、なかなかに気になる終わり方なんである。さとこの身にいいことが起こりそうで、次巻の展開が楽しみ。新刊が待ち遠しい。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

『直売所、行ってきます』『めんどうなことしない うまさ極みレシピ』ほか、フードライター・白央篤司が選ぶ上半期のオススメ3冊

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

さて6月になり、今年も半分が過ぎようとしています。この半年間で印象的だったけれど紹介できずにいたものを、今回は3冊まとめてご紹介。コミックエッセイ、レシピ集、そして料理論的なものの3つを選びました。

旅好きのあなたに『直売所、行ってきます』松本英子 著

 人間はふと非日常を求める。

 通常の生活進行から時折ちょっと逸脱して、いつもと違う場所に、いつもと違う時間の流れに自分を置いてみたくなるものだ。漫画家の松本英子さんによるコミックエッセイ『直売所、行ってきます』を読んで、ちょっとした非日常に自分をゆだねる快さを存分に思い出した。

 昔から「ひそやかに在るもの」で「そこならではのもの、土地のエキスが感じられるもの」に心ときめかせてきたという松本さん。実家の近くにできた直売所では、「こんな野菜も作られていたのか」と、なじみのある土地の知らない一面を知る。別の直売所ではハチミツを見つけ、東京23区内に養蜂場があることを知り、実際に訪ねてもみる。直売所をめぐるごく小さな「旅」の中で、いろんな出会いを楽しむ松本さんの気持ちの増幅が豊かで深く、読んでいて引き込まれる。

 西多摩の茶畑を訪ねたページなどは、こちらの心の中にもパノラマが広がり、深呼吸したくなるような爽快感があった。そして長野県・上田市を訪ねておやきの直売所をめぐるくだりは、旅先の自然と自分がリンクして溶け合うような一瞬までもが描かれて、まことすばらしい。なかなか旅に出られない今、旅好きのあなたに。

 正直、火を使わずレンジだけで作る料理というのに私は抵抗があった。あまりおいしそうに思えなかったのである。しかしTwitterで流れてきた料理研究家・ジョーさん。の「お肉ゴロゴロボロネーゼ」には何か惹かれるものを感じ、やってみたらこれが……おいしい。ありきたりな表現だが、目からウロコが久々に落ちた。手間が格段に少なく、失敗もしにくい。

 ちょっと種明かしすると、ミートソースは市販のミートボールやハンバーグを使うのだが、それでいてちゃんと料理した気持ちにもなれるし、失敗する可能性はかぎりなく低い。料理ビギナーが自信をつけるためにも、料理慣れしている人がラクに一食済ませるにも、実にすばらしいレシピだと感じ入ったのである。

 本書は、その「お肉ゴロゴロボロネーゼ」が収録されているというので買ってみた。火を使わないほか、計量いらず、包丁いらず、食材があまらないように考えられたレシピなどが計103品ほど掲載されている。序章には基本調味料から常備しておくと便利な食材、持っておくとよい調理器具の説明などもあり、著者ならではの視点も入って、親切きわまりない構成と感じ入った次第。ビギナーはもちろん、日々の料理に疲れている家事担当者にも強くおすすめしたい。

 こちらは料理することが大好きな人向け。自らの料理をブラッシュアップしたい、進歩させたいと願う人におすすめしたい一冊。

 料理研究家、ウー・ウェン氏は中国・北京生まれで1990年に来日。料理雑誌の編集者や料理家といったプロからも長年支持を集めている。彼女がたどりついた料理論を分かりやすくまとめたものが本著だ。「料理の仕組みを知る」と題して、まず塩と油を使う意味から説かれていく。「たぶん、みなさんが思っているより、少ない塩分で料理の味は決まります」「油は料理の味を左右するもの」で「うま味を出すための大事な素材」だから「油を買うときはケチらないで」等々、興味深い教えが続く。

 そして次に基本的な調理法の解説。「炒めるとは決して手軽な調理方法ではない」、だから忙しいときにしてはならない、炒めるとは「加熱したボウルで素材を和える」感覚――といった表現は、思わず蛍光ペンでアンダーラインを引きたくなった。また、ウーさんならではの中国と日本の比較調理論も随所に書かれ、それが実に面白い。

 料理は手慣れれば手慣れるほど、その手順や調理法の意味するところを忘れがちなもの。自分をアップデートするのための発見が必ずやあると思う。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

東京育ちが「酒」を軸として大阪を知っていく、『関西酒場のろのろ日記』の豊かな世界

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『関西酒場のろのろ日記』スズキナオ 著

 酒場の楽しみ方も人によってさまざまだろうが、私は常連らしき人たちが楽しそうに飲んでいるのを感じつつ、一杯やるのが好きだ。ああ、この店が好きなんだな、飲む、食べるだけじゃなく「ここにいたい」から来てるんだな、というのが感じられると妙にうれしくなる。

 そういう客が付いてる店には独特の空気がある。「ごく普通のウーロンハイだけど、ここで飲むとなんかいいんだ」とか、「ここのカウンターでひと息ついてからじゃないと、一日を終えられない」なんて客それぞれ思いや念のようなものが、店の壁や床に染み込んで、何かを醸しているのかもしれない。

 『関西酒場のろのろ日記』という本は、私には一軒の酒場のように思えた。著者が店主であり同時にお客で、自分の好きな店でいつもニコニコと飲んでいるかのような。読んでいる私もその近くで黙って飲みつつ、店の雰囲気を味わって幸せな気持ちになる――そんな本だった。

 著者のスズキナオさんは、2014年の夏に東京から大阪に越されたとまえがきにある。30代半ばまでずっと東京で育ち、「土地勘もなく、知り合いもほとんどいなかった」彼が、「おそるおそる(関西の酒場文化に)近づいていく過程がそのままあらわれたようなもの」が本書だ。

 「割と暇な本屋の店番」という仕事を得て、そこの店長さんに飲みに連れていってもらうのが第1章のはじまり(このロケーションが中津というのがまた絶妙!)。そしてライターとして、週刊誌で関西の居酒屋を紹介するようになる。酒を軸として、だんだんと大阪というまちを肌で知っていくスズキさん。

 天満や京橋の飲み屋街に圧倒されるくだりはひたすらに共感した。スズキさんの言い方を借りれば「酒めぐりに終わりが見えない」「気になる店が多すぎて手に負えない」あの密集した深い感じ。

 関西の酒場というと、ノリが良くて強烈なキャラクターの主人やお客さんを想像されるかもしれない。実際そういう人も出てくる。サソリのから揚げを出すお店もあれば、「歩くのにちょっと緊張する」エリアも登場する。けれどスズキさんは、決してそれらを好奇の目で見つめない。淡々と「こんなことがあった」と綴っていく。ことさらに非日常を煽って見せるようなことは決してしない。それが、とてもよかった。

 この本は第1章、第2章と大阪が舞台となり、第3章は京都と神戸の酒場が紹介される。

 以前、ラジオで上沼恵美子さんがこんな話をしていた。「大阪の未来を考える」的なシンポジウムに呼ばれたとき、司会者から「大阪の魅力とはなんだと思いますか」と真面目に訊かれて、「京都と神戸が近いことちゃいます?」と答えたというのだが、冗談抜きでそれは大きい。大阪だけでも魅力的な酒場文化がありすぎるというのに、ちょっと足を伸ばせばまた全然性格の違う京都・神戸の酒場街を楽しめるのだ。空気感、人のノリ、言葉の違いからくる耳への響き、そして用意されるつまみの感じ……あらゆることが違って楽しいが、関西的という何か共通したものは通底している。

 スズキさんは神戸について、こんなふうに書く。

「『気がつけばいつだって山や海まで歩ける』という思いが心の中に持てることがすでに贅沢なことだ。『ちょっと思い切って出かければ神戸の山茶屋で旨いビールが飲めるぞ』と考えられることは、大阪に住んでいる私にとっても、風通しのよさをもたらしてくれているのである」

 関西に暮らして自分の「飲み場」を広げているひとしか書けない、なんとも豊かな世界。首都圏に住んで「ちょっと出かければ鎌倉で飲める」のも素敵なことだが、「大阪→神戸」という距離感と変貌する感じの特殊さは、やっぱり無比のものだ。

 読み進めるうち、スズキさんの関西酒場案内も手慣れた感じになってくる。それこそ最初は亀が「のろのろ」と歩むように、おっかなびっくりだった目線が次第に住人のそれとなってゆく。だが彼は「未知の世界に出会えそうで鼓動が速くなるこの気持ちが消えてしまうのが、なんだかもったいないようにも思う」なんて書かれる。この穏やかな目線とてらいの無さが、本書の何よりの魅力に私は思うのだ。

 ともかくも私は今、京都・八条口に近いという角打ちで、大根と壬生菜の甘酢和えとおぼしき「大根きざみ」を食べてみたくてたまらない。気持ちはもう向かっている。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。

豆苗を植えて育て、豆にして……もはや大河ロマン! 日常の「食」の“ふしぎ”を追った『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』

時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!

今月の1冊:『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。』玉置標本 著

 あったかくて、楽しくて。

 読んでいる間、ずっと心地よかった。お気に入りのラジオ番組を流しているときのような、あるいはごひいきの落語家の録音をかけているときのような、ゆるりホガラカな愉しさが、この本にはずっと流れている。

 副題に「実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる」とあるとおり、ゴマ、ザーサイ、カンピョウ、コンニャクなどを筆者が育てて食べてみる。あるいは河原に生えてるカラシナの種やドングリから粒マスタードや麺を作る、その記録的エッセイ。

 著者の玉置標本さんは1976年生まれ、「釣りや料理が好きなフリーライター」で、趣味は「自然の中や家庭菜園からの食材調達全般」だが、あくまでもそれらは趣味。本著も「素人目線の体験レポート」とまえがきで最初に書かれる。

 ゴマやコンニャクがもともと植物であることは、多くの人が知っている。けれどどんな姿で生えているのか、どのように実るかを知っている人はごくまれだろう。コンニャクなど収穫できるまでには何年もかかる。ほかに効率のよい作物がいくらでもあるのに、なぜずっと作り続けられているのか。そこで玉置さんは畑で実際に育ててみたくなる。

「すると単純においしいからだけではない、自分なりに納得できる答えを見つけることができたのだ。これが最高に気持ちいい」
「知識として知ることだけが目的なら、ネットで調べれば一瞬で答えにたどり着けるかもしれない。それでも種や芋を植えるといった解決方法を選び、ゆっくりと順を追って確認したいのである」

 子どもの頃は自由研究のテーマなんて全然浮かんでこなかったのに、大人になったら試行錯誤をいとわず調べたいことがたくさん出てきた、と続く。なんて書くと、すごーく硬い研究本と思われそうだが、いやいやとんでもない。

 小さい頃、NHK教育(現在のEテレ)の番組を見るの、好きじゃなかっただろうか。植物がグングンと生長したり、種の中でどんな変化があって発芽に至るのかが見られたり。さほど高くない熱で休んだときなど、布団に入りながらぼんやりそれらの番組を見るのが私は楽しかった。その楽しさと、本書の楽しさは似ている。日常世界に転がっているたくさんの“ふしぎとひみつ”をわかりやすく示して、見せてくれる面白さ。

 観察内容と同時に、玉置さんの語り口が大きな魅力だ。そう、筆致というよりは語り口。先にもラジオとか落語にたとえたが(上質な落語のマクラっぽいんだ)、すごく面白い独り言を聞かせてもらってるような感じ。淡々、軽妙、落ち着いたユーモア。そしてほどほどにクール。例を挙げたいのだが、一部を抜粋したところでこの面白さは伝わらない。

 食に興味のある人ならきっと楽しめると思う。個人的に好きだったのは未熟のクルミを使っての果実酒づくりの回(イタリアにそういうものがあるのだそう)。そして食べた豆苗を植えて育て、生ったサヤエンドウを食べ、実った豆でみつ豆を作り(寒天と蜜も自作)、その豆をまた育てて豆苗を再収穫するという回。もはや大河ロマンであり、一大プロジェクトと呼んでもいいだろう。読んでいるとき、中島みゆきの「地上の星」がなぜか心に流れてきた。

白央篤司(はくおう・あつし)
フードライター。郷土料理やローカルフードを取材しつつ、 料理に苦手意識を持っている人やがんばりすぎる人に向けて、 より気軽に身近に楽しめるレシピや料理法を紹介。著書に『 自炊力』『にっぽんのおにぎり』『ジャパめし』など。