
昨年末に安倍晋三氏が首相に返り咲いて以来、株価は上昇の一途をたどり、ニュースや新聞、週刊誌には連日「アベノミクス」の文字が躍る。まだ庶民にまでその恩恵は行き届いていないが、好景気の息吹は、3年にわたる民主党政権時に不遇をかこっていた建設業や証券業界などに吹きはじめているようだ。
民主党政権時に、“冬の時代”を迎えていたひとつが、荒川区に本社を置く「大藤」という観光土産問屋。これまで「純ちゃんまんじゅう」「太郎ちゃんまんじゅう」といった、自民党の歴代首相をモチーフにした土産菓子を販売してきた同社。やはり、政権交代で、ウハウハなのだろうか? 社長の大久保俊男氏を直撃した!
「いや~どうも!」
下町の社長らしく、人懐っこい笑顔で会議室に現れた大久保社長。その手には、この2月に発売されたばかりの「アベノミックス 新しい晋ちゃんまんじゅう」が握られている。
「アベノミックス 新しい晋ちゃんまんじゅう」は、夏の参院選に向けて開発された商品。「アベノミクス」にかけて、ミルク餡まんじゅうとチョコ餡まんじゅうの2種類がミックスされている。パッケージには「金融政策」「財政政策」「成長戦略」の3本の矢が描かれており、インフレ目標と同様に2%増量中の大サービスだ!
さらに、経済政策ばかりでなく、外交政策もチクり。パッケージの左側の孤島で“魚釣り”をしているのは、大久保社長自身と昨年夏に尖閣諸島に上陸した荒川区議会議員の小坂英二氏。そして、右側の島にはかぐや姫の姿で描かれた安倍首相夫人の昭恵さん。かぐや姫が登場する昔話といえば“竹取”物語……。パッケージの隅に隠されたメッセージにも油断がならない。

12月に安倍政権が発足して以来、大藤でも「帰って来た~晋ちゃんまんじゅう」「日本をトリ戻す!日出ずる国、日本・トリ型まんじゅう」「日はまた昇る/晋ちゃんまんじゅう」「アベノミックス 新しい晋ちゃんまんじゅう」と、立て続けに4種類のまんじゅうを発売した。
2006年の「誕生! 晋ちゃんまんじゅう」を発売した際には55万箱の大ヒットを記録。このヒットの実績に加え、世間にはアベノミクスの好景気の波。きっと儲かって儲かって笑いが止まらないのではないか!?
「いや、実はそれほどでもないんです。日本人は飽きやすいですから『また、安倍総理のまんじゅうか』と思われているんでしょうね……」
う~ん、自民党と昵懇の関係を築く大藤ですら、アベノミクスの恩恵にあずかるのはまだ早いようだ。
大藤と自民党の関係は、2001年に遡る。時は、ライオン丸ヘアーで、小泉純一郎首相がお茶の間の話題をかっさらった時代。その人気にあやかろうと、大藤では「純ちゃんまんじゅう」を企画した。そして、自民党本部に話を持って行ったところ……「『ダメだ!』と一蹴されました」と大久保社長。
「けれども、あきらめがつかずに、こっそりと作って販売しちゃった(笑)」
大胆にも、“非公認候補”として、お土産市場に立候補してしまったのだ!
しかし、メディアを通してその存在が世に知られるようになっても、自民党からのクレームは一切来ない。
「様子を見ていたのですが、連絡がなかったので、調子に乗っておせんべいやクッキーなども開発して販売しました(笑)」
そして4年後の2005年11月、大久保社長は一本の電話を受ける。
「飯島勲秘書官から『首相官邸に遊びにこないか?』と連絡をいただいたんです。いざ面会に赴くと、小泉総理自ら『よく作ってくれた!』と、光栄なお言葉を頂きました」
郵政民営化などの規制緩和を推し進めた小泉氏だが、その新自由主義政策がお菓子にまで及んだ瞬間。「自民党をぶっ壊す」と息巻いていた総理も、まんじゅうを壊すことはなかったのだ!
さらに、小泉首相が首相を辞任し、2006年には安倍首相が誕生。“美しい国”を標榜し「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権を応援するため、大藤でも、“純ちゃんレジーム”から脱却した「誕生! 晋ちゃんまんじゅう」を発売。前述のとおり、55万箱を売り上げる空前の大ヒットを記録した。さらに、体調不良の報道がなされると、ほうれん草パウダー入りの「負けるな!! 晋ちゃんまんじゅう」を発売し、陰ながらまんじゅうで総理を元気づけていた。

歴代首相の中で、大久保社長が特にお気に入りなのが、麻生太郎総理。べらんめえ調、毒舌、しかもマンガ好きというキャラクターは、まんじゅうにするネタの宝庫。「俺達の太郎」「秘密の太郎ちゃん」など5種類の商品を発売し、いずれも好評を博した。一方、残念な結果だったのが福田康夫総理。
「(福田氏の地元の)高崎に行っても『誰も買わないよ』と言われました。真面目な人なんですが、いつも不貞腐れているような顔つきでしたからね……」
世論と同様に“まんじゅう支持率”も惨憺たる結果に終わったようだ。
2009年には民主党が政権を獲得し、野党に下った自民党。メディアの露出は減り、話題性にも乏しい。もちろん、議席と同様にお菓子の売上も下降線をたどる……。だが、大久保さんは民主党に乗り換えることはしなかった。
「これまで、自民党のお菓子を勝手に作らせてもらっていたのに、政権が代わったからパッケージを変えて民主党に……とはいかない。やっぱり、商売は義理と人情です!」
情に厚い下町イズムを発揮する大久保社長。野党時代にも、谷垣禎一総裁をモチーフに、“カン”蹴りを行う「みんなで行こうZE!! 自民闘」「よみがえれ! 自民闘」などの商品を発売し、政権奪回をサポートする。

「谷垣さんからは、『まんじゅうで盛り上げてください』というお墨付きを頂きました。けれども、公認されたというわけではありません。僕らは公認を受けず、あくまでも“勝手に応援する”というスタンスでやっていきたいんです」
この10年間で、50種類あまりの商品を作っているものの、それらはすべて許可を受けないゲリラ戦法。しかし、これまで一度もクレームが入ったことはないという。「政治家としても、たかがまんじゅうにケチをつけて評判を落としたくないんでしょう。黙認状態ですね」
現在、安倍首相のほかに、同社が応援に力を入れているのが、自民党幹事長の石破茂氏と、小泉進次郎氏。

「進次郎氏はキャラが強烈で、並々ならぬオーラを感じます。自分の信念を曲げない人ですね。横須賀出身ということで、海軍カレーなど3種類の商品を発売中です」
一方の石破氏も「情熱的で誠実な人」と、大久保社長は高く評価する。あの大人気アニメにかけて「ISHIDAM」というモビルスーツのキャラを創作してまんじゅうを販売。もちろん、石破氏および富野由悠季氏の許可は得ていない。

また、2006年から隠岐島で販売している「竹島ものがたり」も、領土問題が本格化してきた昨年から売上が急上昇! 竹島を模した形のまんじゅうには、ご丁寧に「日の丸楊枝」付き。「せめてまんじゅうだけでも、竹島に日の丸を掲げよう」というメッセージだ。ならば、もう一つの領土問題、尖閣諸島もまんじゅう化されているのか? 「竹島は韓国が実効支配していますが、尖閣諸島はまだ情勢が安定していない。非常に危ういバランスなので、ネタでは済まない可能性がありますから……」せめて、まんじゅうが発売できるくらいに、政情の安定を願うばかりだ。
世知辛い世の中の話題を甘いまんじゅうに変えるべく、日々ニュースをチェックしながらネタを探しているという大久保社長。ぜひ政治家のお歴々も、まんじゅうを見習って、中身の詰まった議論をしていただきたいものだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●大藤HP <
http://www.omiyage-daito.com>