ヒリヒリと痛みを伴う“性”と“暴力” 大人向けヒューマンストーリー『君と歩く世界』

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 春は別れと出会いの季節。当コーナーの4月第1回は、「喪失」と「再生」を描く邦画と洋画の最新作2本を取り上げよう(いずれも4月6日公開)。  『桜、ふたたびの加奈子』は、新津きよみの小説を原作とし、スピリチュアルな要素を織り交ぜて描いたヒューマンドラマ。娘の加奈子を小学校入学式の日に事故で亡くした容子(広末涼子)は、自責の念に駆られて自殺を図るが、それを境に「加奈子が見える」と主張し、娘の世話をするようになる。夫の信樹(稲垣吾郎)は、かたくなな妻を立ち直らせたいと願いながらも、いら立ちを募らせていく。そんなある日、飼い犬に導かれるように出会った女子高生(福田麻由子)が出産間近と知った容子は、その赤ん坊が娘の生まれ変わりだと確信する。  メガホンを取ったのは、デビュー作『飯と乙女』(11)でモスクワ国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した栗村実監督。大切な人を失った時どう乗り越えるのかという主題に、魂や輪廻といった現代科学では説明のつかない要素をカウンターパート的に配して、ひとの命と生の意味を改めて問い直す稀有なタッチのドラマに仕上げた。象徴的に使われる桜や卵の映像、佐村河内守のエモーショナルな音楽により、重いテーマでありながら不思議な軽やかさと清々しさが残る。広末涼子は『秘密』(99)、『おくりびと』(08)など「死」に近い役どころで好演が多いのも興味深い傾向だ。本作のスピリチュアルな部分に関しては、豪田トモ監督のドキュメンタリー映画『うまれる』(10)を見るとひと味違う印象になるので、合わせて紹介しておきたい。  2本目の『君と歩く世界』(R15+)は、オスカー女優マリオン・コティヤールが両脚を失った女性という難役に挑戦した衝撃的な人生と愛のドラマ。南仏アンティーブの観光名所マリンランドで働くシャチの調教師ステファニー(コティヤール)は、ショーの最中に起きた事故で両脚を失い、気遣う家族らにも心を閉ざしてしまう。退院したステファニーは、事故に遭う前に出会ったナイトクラブの用心棒アリ(マティアス・スーナールツ)に電話をかける。5歳の息子をひとりで育て、貧しい暮らしから抜け出そうと非合法の賭博ファイトに体を張るアリ。不器用だが真っ直ぐなアリの優しさに触れ、ステファニーは次第に生きる喜びを取り戻していく。  『真夜中のピアニスト』(05)、『預言者』(09)の名匠ジャック・オーディアール監督が、カナダ出身の作家クレイグ・デビッドソンの短編集から「素手の非合法ファイトに挑む元格闘家」と「シャチに脚を引きちぎられる調教師」という2つのプロットを得て創作したストーリー。海でサメに片腕を奪われた少女がプロサーファーとして再起を賭ける『ソウル・サーファー』(12)や、障がい者と健常者の本音の交流がお互いに希望をもたらす『最強のふたり』(12)に通じるテーマを取り上げるが、これら2作品と違い、「性」と「暴力」をヒリヒリと痛みを伴うほど切実に描くことで大人向けの傑作に仕上がった。コティヤールが熱演するヒロインが、絶望の淵から再び世界と向き合い前へ進もうとする過程が、海、風、光の映像と音楽により効果的に描写される。現代社会のさまざまな問題も提示しながら、それでも生きること、愛することへの賛歌となっている本作が、人生に迷い悩む多くの観客に届くことを願いたい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『桜、ふたたびの加奈子』作品情報 <http://eiga.com/movie/77649/> 『君と歩く世界』作品情報 <http://eiga.com/movie/77842/>

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 春は別れと出会いの季節。当コーナーの4月第1回は、「喪失」と「再生」を描く邦画と洋画の最新作2本を取り上げよう(いずれも4月6日公開)。  『桜、ふたたびの加奈子』は、新津きよみの小説を原作とし、スピリチュアルな要素を織り交ぜて描いたヒューマンドラマ。娘の加奈子を小学校入学式の日に事故で亡くした容子(広末涼子)は、自責の念に駆られて自殺を図るが、それを境に「加奈子が見える」と主張し、娘の世話をするようになる。夫の信樹(稲垣吾郎)は、かたくなな妻を立ち直らせたいと願いながらも、いら立ちを募らせていく。そんなある日、飼い犬に導かれるように出会った女子高生(福田麻由子)が出産間近と知った容子は、その赤ん坊が娘の生まれ変わりだと確信する。  メガホンを取ったのは、デビュー作『飯と乙女』(11)でモスクワ国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞した栗村実監督。大切な人を失った時どう乗り越えるのかという主題に、魂や輪廻といった現代科学では説明のつかない要素をカウンターパート的に配して、ひとの命と生の意味を改めて問い直す稀有なタッチのドラマに仕上げた。象徴的に使われる桜や卵の映像、佐村河内守のエモーショナルな音楽により、重いテーマでありながら不思議な軽やかさと清々しさが残る。広末涼子は『秘密』(99)、『おくりびと』(08)など「死」に近い役どころで好演が多いのも興味深い傾向だ。本作のスピリチュアルな部分に関しては、豪田トモ監督のドキュメンタリー映画『うまれる』(10)を見るとひと味違う印象になるので、合わせて紹介しておきたい。  2本目の『君と歩く世界』(R15+)は、オスカー女優マリオン・コティヤールが両脚を失った女性という難役に挑戦した衝撃的な人生と愛のドラマ。南仏アンティーブの観光名所マリンランドで働くシャチの調教師ステファニー(コティヤール)は、ショーの最中に起きた事故で両脚を失い、気遣う家族らにも心を閉ざしてしまう。退院したステファニーは、事故に遭う前に出会ったナイトクラブの用心棒アリ(マティアス・スーナールツ)に電話をかける。5歳の息子をひとりで育て、貧しい暮らしから抜け出そうと非合法の賭博ファイトに体を張るアリ。不器用だが真っ直ぐなアリの優しさに触れ、ステファニーは次第に生きる喜びを取り戻していく。  『真夜中のピアニスト』(05)、『預言者』(09)の名匠ジャック・オーディアール監督が、カナダ出身の作家クレイグ・デビッドソンの短編集から「素手の非合法ファイトに挑む元格闘家」と「シャチに脚を引きちぎられる調教師」という2つのプロットを得て創作したストーリー。海でサメに片腕を奪われた少女がプロサーファーとして再起を賭ける『ソウル・サーファー』(12)や、障がい者と健常者の本音の交流がお互いに希望をもたらす『最強のふたり』(12)に通じるテーマを取り上げるが、これら2作品と違い、「性」と「暴力」をヒリヒリと痛みを伴うほど切実に描くことで大人向けの傑作に仕上がった。コティヤールが熱演するヒロインが、絶望の淵から再び世界と向き合い前へ進もうとする過程が、海、風、光の映像と音楽により効果的に描写される。現代社会のさまざまな問題も提示しながら、それでも生きること、愛することへの賛歌となっている本作が、人生に迷い悩む多くの観客に届くことを願いたい。 (文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉) 『桜、ふたたびの加奈子』作品情報 <http://eiga.com/movie/77649/> 『君と歩く世界』作品情報 <http://eiga.com/movie/77842/>

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えっ! 缶コーヒーが300円!? 「アニメコンテンツエキスポ」コラボ食品の価格はボッタクリか?

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 4月から放送予定の新番組をはじめ、最新アニメを扱ったブースが並ぶ「アニメコンテンツエキスポ(ACE)」が3月30日、31日の2日間にわたって千葉県の幕張メッセで開催された。  ACEは、2010年に「東京都青少年健全育成条例」改正問題をめぐって、マンガの表現規制につながると反発した出版社が「東京国際アニメフェア(TAF)」をボイコットしたことを契機に始まった。11年3月に予定された第1回は震災の影響で中止となったが、翌12年には2日間で約4万人を集めた。ビジネス色が強まるTAFに対して、ACEは、いわゆるオタク層に向けた作品紹介と物販、声優のコンサートなどを主体とした祭典の色彩の濃いものだ。今回は、昨年の人気を受けて会場規模も拡大、両日共に閉会時間まで大勢の人で賑わった。  さて、祭りといえば食べ物が欠かせない。昨年、ACEではアニメ作品やキャラクターとコラボした会場限定の食品は大行列となった。中でも『アイドルマスター』のヒロインの一人を使った「高槻やよい家のもやしパーティー」は「やよいの家は貧乏」という設定に合わせて、肉も何も入っていない単なるもやし炒め、それが会場では300円で販売されたのである。もやしの原価を考えると、けっこうな“よいお値段”。だが、ネットではネタ的に話題になることはあっても、「ボッタクリではないか」と批判するような意見はほとんど見られなかった。夏や秋の神社の祭りで香具師の売るたこ焼きやわたあめの価格に文句をつける人なんていない。つまり、来場者の多くは「お祭りなんだから」と、価格すら楽しみの材料にしていたというわけだ。  というわけで、今年はいったいどんなコラボ食品が並ぶのか? もやし炒めを超える、価格と材料の釣り合いの取れなさで笑わせてくれるものがあるかと、期待してフードコーナーに乗り込んだ。
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 結論から言うと、コラボ食品はいたって真面目なものばかりだった。今年の食品は、劇中に登場するものを再現した「AURA特製 竜天そば」(700円)、無理やり感が漂う「“俺の妹”ならぬ“俺の芋”ポテトフライ」、こじつけの挙げ句に、なんでこんな組み合わせになったのかわからない「ホットケーキとキリストースト」(600円/『聖おにいさん』のコラボ商品)とネタ度はアップしつつも、昨年のもやし炒めほどの衝撃は感じられなかった。 R0036762.jpg  唯一、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の主人公が愛飲しているということで持ち込まれた「マックスコーヒー」が300円なのは、単なる缶コーヒーなのに富士山の山小屋か? みたいな気もしないでもないが、ヒロイン・雪ノ下雪乃のコースターがオマケでついてくるので、ファンにとっては、高くはない様子(筆者も!)。  なお、最も値段が高かったのは『ジョジョの奇妙な冒険』のコラボ食品である「イカスミスパゲッティ」と、『ソードアート・オンライン』のコラボ食品「アスナの愛情たっぷりサンドイッチ」の800円。特に前者は、作り置きでパッケージされているし、温め直す電子レンジもないけれど、よく売れている様子だった。みんな、ジョジョと共感を得たかったのか……? ■ネタ度ではTAFを完全に凌駕  多くのコラボ食品が並んだACEに対して、TAF会場でも各種のコラボ食品の出店は並んだが、ACEに比べてネタ要素は少なめ。TAF会場で販売されていたコラボ食品は『タイムボカン』シリーズとコラボした「おだて豚まん」(400円)、『クリィミーマミ』とコラボした「クリィミークレープ」(480円)など、なんとなく名前をこじつけたスタイルのものが中心であった。会場内のフードコーナーは、コラボ食品よりも、カレー(600円)、フランクフルト(300円)のようにフツーの食品が主体であった。  唯一、異色だったのは1,000円で売られていた「横川駅の釜飯」だ。この釜飯は全国のデパートなどで開催される駅弁大会にもよく出店される、全国的にメジャーな駅弁。そんなにメジャーなのに、意表を突かれたのか買い求める客は多かった(筆者も!)。  しかし、「横川駅の釜飯」をもってしても、ACEのネタ重視なコラボ食品には満足度の点でかなわない。コラボ食品は、祭りという非日常の空間で食すこと自体に意味がある。それに、ウマかろうがマズかろうが「ACEに行って、こんなもの食べちゃったよ……」と、しばらくはネタとして使える。  こうして見ると、ツッコミを入れたくなるような無理やりなこじつけも目立つACEのコラボ食品は、かなり高度に計算しているのではなかろうか。行列に疲れた来場者が小腹を満たす食べ物までをも祭典のギミックに取り込んだACEの企画力は、賞賛に値する。 (取材・文=昼間たかし)

ファンも困惑……Hey!Say!JUMP「バーモントカレー」CMの放送頻度と、テレビ局の台所事情

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涼ちゃんもバーモンド育ち!
 4月1日から放送されている、Hey!Say!JUMP出演の「ハウス バーモントカレー」の発売50周年キャンペーン「ボクたち、バーモント育ち!」CM。  「まだ1回も見ていない」という人もいれば、「かなりの頻度で見る」という人もいて、ネット上では「バーモントカレーのCMを見られる番組教えて」などの声も多数出ている。  これって地域差なのかと思ったが、実は別の理由があるらしい。テレビ関係者はこう説明をする。 「ハウス食品や興和などは、局とフリースポット契約をしているから、大量にCMが流れることがあるんですよ」  テレビCMの契約には、主に「タイムCM」と「スポットCM」の2つがある。前者は番組枠で決まっている番組提供スポンサーのCMで、特に21時台などの始まりの枠は人気があり、料金も高いそう。  一方、後者は番組や時間帯の指定なしに流れるものだという。 「スポットCMは、局とスポンサーで定めたCM時間枠に流れるものですが、『フリースポットCM』の場合は、特に時間帯を指定せずに、一定期間に指定された本数を流すという契約になっています。ハウス食品などはそうした契約をしている例で、特定の広告主だけが、スポットCM枠が空いたときにCMを入れることができるようになっているんです」  特定のスポンサーのCMを何度も繰り返し見たり、一時的に大量に見る気がするのは、そのせいだという。  前述のように、CMを楽しみにしているファンにとっては、「大量に見られる」のはうれしいことだが、実はこれ、放送局にとっては台所事情が見えてしまうものだそう。 「フリースポット契約のCMが大量に流れるってことは、それだけスポットCM枠の空きがたくさんあるということですからね。フリースポットCMがたくさん流れるかどうかで、スポンサーがついているか、枠が余ってしまっているかが見えるんですよ」  つまり、地方局などで「頻繁に見る」ところは、それだけCM枠が売れていないということのよう。  ちなみに、この「フリースポットCM」、そんな事情から、かつては視聴率が低い早朝や深夜の時間帯に多く流れていたそうだが、「最近は、ゴールデンタイムなどでも頻繁に見られることがある」という。  頻繁に流れるCMの裏には、テレビ業界の厳しさがあるようだ。

大誤算! オセロ中島知子を“強行出演”させた『ワイド!スクランブル』が同時間帯でダントツ最下位!

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松竹芸能公式サイトより
 先月末から一気に動きだした「オセロ」中島知子。2月に写真週刊誌「フライデー」(講談社)がスクープした近影を見る限り「とても復帰はできない……」と思われたが、あれよあれよという間にテレビ出演まで果たしてしまった。  インタビューを放映したのはテレビ朝日系『ワイド!スクランブル』で、先月29日に第1弾をオンエア、今月1日に未公開部分を含めた第2弾を放送する気合の入れようだった。だが、視聴率は期待を大きく裏切る結果に……。  29日の第1弾は5.8%で、前4週の同番組平均視聴率4.9%から“微増”したものの、『NHKニュース』の6.1%、フジテレビ系『笑っていいとも!』の7%には及ばず。TBS系『ひるおび!』の5.7%に0.1ポイント勝っただけだった。  今月1日の第2弾はもっと悲惨だ。『NHKニュース』が6.8%、『笑っていいとも!』が6.5%、日本テレビ系『ヒルナンデス!』が6.5%を記録する中、同番組はTBS系『ひるおび!』の5.4%を下回る4.8%に終わった。これには番組スタッフもガックシ。 「所属事務所の松竹芸能と揉めてまで中島さんの出演を強行したのに、この数字では……。スタッフルームはお通夜状態です」(番組関係者)  開局以来初となる視聴率2冠を達成するなど、イケイケのテレ朝にあって、鬼門は昼番組。先月26日には同社の早河洋社長が定例会見で「早朝と昼間の改善が必要。『やじうまテレビ!』と『ワイド!スクランブル』が大事になる」と名指しで注文をつけた。  そうした中、番組側は中島の独占インタビューを“起爆剤”として投入したのだが……。 「結果的に、自分で自分の首を絞めることになってしまった。早くも秋の改編で番組リニューアルがウワサされています」(同)  視聴者の目は、想像以上にシビアだったようだ。