映画『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』が7月2日に公開される。謎のウイルスによって感染爆発が起こったホテルを舞台にした“パンデミック・ホラー”で、まるでコロナ禍を予言したかのような映画として、ネット上で早くも話題になっている。
また、本作は女優・釈由美子さんの海外進出作第1弾で、夫のDVから逃れ、異国に逃げてきた臨月間近の妊婦・ナオミを演じている。ウイルス感染者が続出するホテルに運悪く泊まってしまったナオミは、やがて体に異変が現れ始め、逃げ場のない状況でうめき、叫び、のたうち回る……そんな体当たりの熱演を見せた釈さんに、世界各国の映画祭では絶賛の声が飛んでいた。
今回は、映画公開に先立って、映画への思いや私生活について釈さんにインタビュー。海外作品に出演した経緯や、40代から新しいことに挑戦する理由、そして意外な“ハマっていること”も教えてもらった。
床を這いつくばり、目をひん剥いた3週間の撮影
――劇中のセリフはほとんど英語でしたが、とても流暢な釈さんに驚きました。
釈由美子氏(以下、釈) いえいえ……そこ、一番恥ずかしいところなんですけど(笑)。昔は『英語でしゃべらナイト』(NHK)に出演させていただいてたんですけど、番組を卒業して10年以上たっているので、この映画の話をいただいた当時は、英語がまったくできなくて、ゼロからのスタートでした。
撮影は2019年1月にカナダ・モントリオールで行いましたが、マネジャーも伴わずに単身で向かったので、「英語、どうしよう……」というのが一番の問題に。出演が決まり、撮影が始まる3カ月前くらいから英語のコーチングスクールに行ったり、オンライン英会話とかをやってました。
――初の海外作品ですが、単身で撮影に臨まれたのですね。撮影はどのくらいの期間でしたか?
釈 1人で3週間くらい行ってました。今回の映画はウイルスの感染爆発がテーマなのですが、撮影時期は19年1月。まさか、撮影後に新型コロナウイルスが蔓延する世の中になるなんて……本当にビックリしています。
――釈さんは16年6月に長男を出産されていますが、英語の勉強と子育ての両立は大変だったのでは?
釈 子どもは小さいし、ほかの仕事もあったので、英語の勉強にかけられる時間は少なかったです。どこで時間を捻出できるだろうと考えたら、朝しかなかったので、早朝4時にフィリピンの先生とレッスンをしたり。そうやって、最低でも1日3時間くらいは英語を勉強してました。それでも全然追いつけなくて、「付け焼き刃の英語って本当にダメだな」って、反省。日々ちゃんと英語を使わないと、仕事では通用しないと後悔しています。
――映画の脚本を読んだときの印象を教えてください。
釈 脚本が全部英語だったので、まずこの仕事をやるかやらないかの判断をする前に、自分で翻訳しなきゃいけなかったんです。もともと学生時代から英語は苦手でしたが、たとえば「床を這いつくばる」とか、学校で習わないような単語も出てきて。「これはなんだ?」と思ったものを逐一、辞書で調べながら読みましたね。
とはいえ、たとえ日本語で書いてあっても、過去と現在の回想シーンなど時系列が複雑なので、脚本を理解するのには時間がかかったと思います。それでも台本からゾクゾクする感じが伝わってきたので、すごく撮影が楽しみでしたね。フランチェスコ・ジャンニーニ監督はまだ若手ですが、彼が今まで手がけた作品はとても映像がきれい。色遣いが日本の作品とは違うので、自分がその絵の中に入れるのはうれしかったです。
――釈さん演じるナオミは重要な役でしたが、撮影で苦労したことはありますか?
釈 撮影の際は「ステージ」を意識する必要がありました。ウイルスに感染したあと、「第1ステージ」は体がちょっとおかしくなる違和感。そこから次第に体が痛くなるとか、呼吸が浅くなるステージに進んで、最終的に筋肉が硬直して動かなくなるのが「第4ステージ」といった段階を表現するんです。でも、撮影はこの順番通りには進まないので、いきなり床を這うところからスタート(笑)。また別のシーンを撮るときに逆算して、「最初のステージはどのくらいの症状かな?」と考えていましたね。
今作はホラー映画ですが、私の中ではアクション映画みたいな感じでした。1日中、床を這いつくばるシーンを撮った日もあったのですが、妊婦役なのでおなかに重しをつけていたので大変で。特殊メイクも2時間くらいかかりましたね。また、監督が手や脚の表情、足裏のアップなど、細かい部分を撮影している間、何度も足がつってしまって……。撮影が終わると満身創痍で、筋肉痛になって部屋に帰る日々でした。
――相当過酷な現場だったと思いますが、撮影を終えた現在の心境は?
釈 作品をご覧になった方はわかると思いますが、私の“最終形態”とか、もう、ゾンビじゃないですか? 特殊メイクだけではなく、目をひん剥いたりして、とても「美しい」とは言えない表情で、体当たりの演技をしています。今まで築いてきたキャリアに鑑みて、「顔面が崩れまくって崩壊してるけど、これをお客様に見せていいんだろうか? 女優として大丈夫かな?」って不安がよぎるほど(笑)。
でも、たった一人でカナダに行って、ホラー作品に挑戦すると思ったら、捨て身で挑めました。武者修行の旅に出たみたいな、吹っ切れた感覚はありましたね。やはり、日本の撮影スタイルとは全然違いましたし、映像もカッコよかったですよ。
――釈さん演じるナオミは、支配的な男性から逃げる役でした。共感できる部分はありましたか?
釈 対人間で「逃げたい」と思うことはないですが、自分の置かれている状況がストレスフルで、「今すぐこの場所から逃げたい!」「異国の地に行きたい!」と感じることはありましたね。この作品でナオミは、夫のDVから逃げて、異国の地で女性1人。とても不安な状況のはずですが、おなかに命が宿っている母親なので、強くて逞しいです。私が演じたナオミだけでなく、主人公も“子どもを守って戦う女性”として、印象的に描かれています。
題材的にはホラーですが、ナオミは見てくださるお客様、特に女性の方に応援してもらえるようなキャラクターになっているのでは。撮影時は私も単身でカナダに来て、英語も通じず、いわば戦っている感覚だったので、ナオミの気持ちにシンクロしながら演じていましたね。
――海外進出という戦いに挑戦された経緯を教えてください。
釈 「これをきっかけに海外進出!」とか「ハリウッド女優になるぞ!」とか、恐れ多いことはまったく思っていないですが、海外の作品には興味がありました。海外のスタッフと、どんな作品作りができるのか知りたかったんです。今回の作品は撮影期間も長くなかったので、自分の中のチャレンジとして「やりたい」と家族に伝えましたね。
――釈さんと同じ40代の女性で、外国語を習ったり、大学に通い始めたりと、新しいチャレンジをする人も増えています。この世代は、何かに衝き動かされるのでしょうか?
釈 私は30代もずっと仕事をしていて、結婚も出産も遅かった。高齢出産で息子を産んだ後は、体力のあるうちに育児を頑張ることが目標になり、仕事もセーブして“母親業”に専念していました。もちろんそれは、自分が好きでやっていたことです。子育てはすっごく楽しいし、それが生きがいだと胸を張って言える。責任持って子どもを育て、早い段階で自立させたいと思ってるんです。
でも、いざ息子が自立した時に、「自分の心にぽっかり穴が開くんじゃないか?」って、最近ふと感じて。私の生きがいとなっている子育てがなくなってしまったら、将来、私には何が残るのかと不安でした。折り返し地点を過ぎた残りの人生、最期の時に空虚感を味わいたくないと思ってから、セカンドキャリアに対していろんなアンテナを張って考えるようになりましたね。
――新しいことにチャレンジする際、自分の中で葛藤はなかったですか?
釈 「私はこんなことするキャラクターじゃない」といった固定概念にとらわれてブレーキをかけたり、最初から無理だと思って挑戦しないことって、やっぱりあると思います。でも、世界中がコロナ禍になるなんて誰も想像できなかったように、明日の自分がどうなってるかもわからない。あとで後悔するくらいなら、今やるだけやって、ダメだったらあとで軌道修正しようとは、常に思っています。
――母親業と女優業で忙しい毎日だと思いますが、“ガス抜き”はされていますか?
釈 最近、劇団四季にハマりました(笑)。子どもが4歳になって、一緒に『ライオンキング』にを見に行ったら、2人ともすごくハマっちゃって! 親子で夢中になれる趣味というか、私と息子の熱量がまったく一緒なんです(笑)。「次、いつ見に行く?」とか、「劇団四季を見に行くために、ママは仕事を頑張る」「じゃあ、僕は習い事を頑張る」みたいな会話もありますよ。息子は習い事でスイミングをやっているので、「難しい級に合格したらそのお祝いに観劇に行こう」と約束したり。
ちなみに、今まで『ライオンキング』が6回と、『リトルマーメイド』『アラジン』に2回ずつ、『キャッツ』 にも行ってるんですけど、本当に元気をもらえるんですよね。「なんで私、こんな大人になってデビューしちゃったんだろ? もっと早く見たかった!」って思うくらい、すごくハマッてます。
――同じ舞台を何度も見るなんて、相当ハマってますね(笑)。
釈 みなさんも、ぜひ行ってください! 私としては、まず『アラジン』を見るのがおすすめ。元気がない時に『アラジン』を見ると、本当に元気になれますよ。作品主義で有名な劇団四季ですが、毎週月曜午後10時、劇団四季のホームページにて「週間予定キャスト」が発表されるので、“推し役者さん”の名前があった時にチケットを取るんです。そんな感じで、毎週チェックしてます! ……って、いいんですか、こんな話しても(笑)。
――釈さんの“劇団四季愛”が痛いほど伝わってきます!
釈 本当にミュージカルって素敵ですよね。私、ミュージカルだけは絶対できないので……。100%自信がないというか、歌と踊りができないんですよ。だから、歌って踊ってお芝居もする方々に、尊敬の念を抱くんです。でも、生まれ変わったら劇団四季に入りたい……来世で頑張ろうと思います!
映画『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』

蔓延する殺人ウィルス、襲いかかる亡霊たち、 逃げ場のない地獄で何が起こったのか? 仕事も兼ねて日本からやってきた臨月間近の妊婦ナオミ(釈)は運悪く、そのホテルに宿泊していた。やがて、彼女の身体に異変が現われ始める...。 逃げ場のない地獄と化したホテルでは、想像を絶する心霊現象までが多発する。果たして宿泊客たちは、生き残ることができるのか?
7月2日(金) 公開 ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ 他
公式サイト:https://lockdown-hotel.com/