こんにちは、保安員の澄江です
最近は、仕事でホームセンターに行く機会が増えてきており、捕捉数は少ないものの、高額事案にあたる確率が高まっています。つい先日は、仲間が資材館における軽ワゴン車を利用した大量盗難を見逃してしまったそうで、十分に注意して勤務にあたるよう指示されました。巡回の基本は店内ですが、値段が高騰している材木や高価な観葉植物の転売事例が増えてきていることから、資材館や屋外売場にも気を配る必要があるのです。
また、福岡県内のホームセンターでは、ペットコーナーで販売されていた小型犬(生体)のポメラニアン(59万円相当)を盗んだとして、無職の男(64歳)と女(50歳)が逮捕される事案が発生しました。盗んだポメラニアンは逃げてしまったと供述しているようですが、同店では3月に豆柴も盗まれている事実があることから、転売目的による犯行と疑われており、引き続き捜査されています。
数年前、ホームセンターのペットコーナーにおける触れ合い体験中にトイプードルを持ち去った高校生のカップルが逮捕されたこともありましたが、命をモノのように扱う所業は愛犬家として許せず憤怒した次第です。今回は、過去に捕らえた“生体泥棒”について、お話ししたいと思います。
当日の現場は、東京の端に位置する巨大ホームセンターS。生活館、工具館、資材館、植物館、ペット館など、複数棟の広大な売場が連なる巨大施設です。同じ敷地内に、書店や衣料品店、ドラッグストアなども併設されておりますが、巡回するのはホームセンターのみ。現場指示書の片隅にある特任事項欄に、マークしている人物の行動確認を希望されていると記載があるので、どことなく俳優の六角精児さんに似ている黒縁メガネの店長に尋ねると、デスク上に並ぶファイルを手に取って広げ、対象人物の写真を見せてくださいました。
「この男の人なんだけどね。毎日のようにペットコーナーでみかける常連さんなんだけど、来るたびにおかしな動きをしていてさ。今日も来ると思うから、もし来たら見てもらえますか?」
「ペットですか?」
「そう。熱帯魚を飼っている人みたい」
開店に合わせて現場に入ると、平日の午前中であるため客足は寂しく、来店者の確認は容易な状態にありました。広い店内を右往左往して不審者を探し回るも、大過なく時間だけが過ぎていきます。夕方になって客足が徐々に伸びてくると、少し慌てた様子の店長が駆け寄ってこられて言いました。
「熱帯魚の人、いま駐車場にいたから、もうすぐ入ってくるよ」
ペット館から一番近い出入口を見ていると、写真で見た男性が、大きなトートバッグを右肩にかけて入ってきました。おそらくは30代、どことなくくりぃむしちゅーの上田晋也さんに似ている日焼け顔で筋肉質の男性です。事前の情報通り、ペットコーナーに直行した男性は、高価な熱帯魚のディスプレイの前で足を止めました。
アジアアロワナ(高背金龍) ¥78,000(税別)
悠々と泳ぐアジアアロワナを、しばらく見つめた後に店員さんを呼んだ男は、いくつか質問を重ねています。どうやら購入を決めたようで、一旦その場を離れた店員が、大きな網とバケツを手に戻ってきました。売場のカウンターで登録関係に必要な書類と、酸素注入されパンパンになったビニール袋(マジックで値段が書かれている)に入れられたアジアアロワナを受け取った男性は、それをカゴに入れて買い物を続ける様相です。
(そんなにおかしな人には見えないし、店員さんも付いているから大丈夫かな)
ろ過槽用のウールや活性炭、エサ用のコオロギが入った虫かごなどの商品をカゴに入れて間もなく、同行していた店員が別の客に声をかけられて足を止めると、それに合わせて男性も売場を離れて行きます。
レジに向かうだろうと思いつつ、ペットコーナーをあとにした男性を追尾すると、不必要なくらいの早足で人気のない通路に入っていきました。慌ててあとを追うと、ちらりと後方を確認してから柱の陰にしゃがみこんだ男性は、アジアアロワナの入ったビニール袋と登録書類をトートバッグに隠しています。
生体をバッグに隠す人を見るのは、これが初めてのこと。予想外の展開に動揺しながら努めて冷静に動向を見守ると、そのままレジに入った男は、ろ過槽用のウールと活性炭、コオロギが入った虫かごだけの精算を済ませるようです。ひとりで声をかけるのが心細く、サポートを求めるべく周囲を見回すも、店長や従業員の姿は見当たりません。仕方なく自分ひとりで声をかけることに決めた私は、駐車場に出た男が青いスポーツカーの扉を開いたところで声をかけました。
「お兄さん、すみません」
「へ?」
「お店の保安ですけど、精算されていないものがあるので、お声かけしました」
「いや、払ったけど……」
平然と言いきるので、盗んだものを具体的に指摘して、事務所への同行を求めます。
「そのバッグに入れたアロワナのことですよ。お話聞きたいので、事務所までご足労いただけますか?」
「…………」
「防犯カメラの映像もあるし、車のナンバーもわかっていますから、きちんとされたほうがいいですよ」
「うん、すみません」
完全に降参した様子で同行に応じてくれたので、事務所に到着するまでの場をつなぐため、犯行理由を聞いてみました。
「どうして隠しちゃったんですか?」
「ちゃんと払おうと思っていたんだけど、途中でカードが止まっていることを思い出してさ。戻すに戻せなくて、いいやって……」
あっけらかんと話しているところをみれば、こうした場面に慣れているように感じられ、今後の展開が気になります。事務所の応接室に座ってもらい、免許証の提示を求めると、この店の近くでひとり暮らししているという男は35歳。被害品を出してもらうと、袋詰めにされたアジアアロワナと登録書類のほかに、いつ隠したのかデジタル水温計(980円・税別)も出てきました。被害は、計2点、合計7万8,980円(税別)になりますが、男の所持金は2万円足らず。カードも止められていると話しているので、商品の買い取りはできそうにありません。
店長を呼び出して事情を説明すると、被害品のアジアアロワナを見ながら平然と座る男に、どこか白々しく声をかけました。
「よく見るお客さんでショックだなあ。熱帯魚好きに悪い人はいないと思っていたけど、今日は、どうしたんですか?」
「途中でクレジットカードが止まっていることを思い出して……。戻せばよかったんですけど、すみません」
「へえ。実は、2カ月くらい前にもさ、アジアアロワナ持っていかれているんだけど、まさかあんたじゃないよな? マイクロチップ入っているから、家で飼っているならすぐにバレると思うけど、大丈夫?」
「…………」
まもなく警察に引き渡された男は、いくつかの前科があったらしく、その場で逮捕されることとなりました。その後の調べで、男の自宅で飼育されていた別のアジアアロワナも、同店で盗んだ生体と判明。どうやら男は水槽に囲まれた部屋で暮らすほどの熱帯魚マニアで、違う餌を与えることによる発色の違いを知りたかったのだと、担当刑事に話していたそうです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)


続きを読む